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この素晴らしき世界
作:那華田キュロパン



「もう、全く槇チャンってえっちよね」
セックスの後、下腹部がうづいている有加がベッドの傍らで
槇に向かってウインクを送っていた。僕はベッドの横で燻らせていたら、
有加がタバコとライターを取り上げた。
「ちょっとぉ、私の前で吸ったら駄目って」
彼女はふぐが怒ったような膨れた面を見せて
「健康が一番大事なの」
僕の好きなバージニアライトを取り上げられてしまった。
「何でえっちの後にタバコなんか吸うのよ」
「いや、それはな・・・」
喋ろうとして思わず口をつぐんでしまった。セックスの後の一服が気持ちいいなんて
そんな事言ってしまったら
「私とタバコどっちが好きなの?」
なんて半場冗談に怒って帰るだろう。


 有加は同じ郷里の小学校時代からの同級生だった。正確に言えば、高校で別々の道に進学したのでそれ以降面識がなかったわけだが、あれは確か去年の夏だったろうか、会社の同期とカラオケしているところにボックスを間違えて入ってきたのが有加だった。

「ういぃーっす、ただいまぁぁゥ」
野郎ばかりのカラオケで変な曲ばっか歌うぜモードに突入していた折に昔懐かしのアニメ大会みたいな状況の中、面識のない酔っ払った女が突然ドアを開けて発した言葉がそれだった。女性に取っては異様なノリの中、彼女は自分が部屋を間違っていることに気づき恥ずかしながら部屋を出て行こうとしたところ、野郎の一人が声を掛けた。

「あれ? もしかして宮田さんじゃない?」
「え? 誰だっけぇ?」
「いや、俺だよ。小学生の時のマキヤンだよ」
彼女はちょっと合間をおいて思い出し、
「あぁ、もしかして松本くんじゃないの?」
「久しぶりだなぁ。元気してるか?」
「松本くんも元気そうだね!!」
「宮田さんってこっちにいたんだね」
「ええ、就職の時に上京して」

そう、ありがちな話だが僕が社会人一年生の時に付き合い出したのが彼女だった。

 久々会ったのがキッカケで、食事をして懐かしい話とか世間話なんかをしている内にある晩酔った勢いでフラフラと入ってしまったホテルで関係に陥った。そして何時の間にかお互いに軽い恋愛感情を抱いていた。
 突然、世間一般で言われている恋愛関係に発展したものだから、有加と恋人同士で付き合うという感覚はほとんどなく、むしろ友達の延長線上にセックスをプラスしたような関係だった。彼女とは週1回は会ってかならず一夜で3回は楽しむ関係になっている。僕のセックスはソコソコだと思うが、それ以外にマス(いわゆる、右手の上下往復運動というヤツだ。)でも適当に抜いている。オカズは毎月購入しているキャンディマガジンだが・・・。おっとそんな野郎のマスなんか書いてもおもしろいわけないか。男のマスで興奮するヤツなどモーホーを除けばいないだろ。

まぁ、そういう事で付き合って半年、僕は週末金曜の夜に彼女の家に転びこみオールナイトバトルを繰り広げるのがここ最近の週課となっている。今日は特に仕事先でストレスが貯まってしまった為に、フラストレーションをエネルギーに変換して有加にぶつけてしまったのだろうか?
有加はいつもより激しく体をくねらせて、まるでエッチビデオの女性と寸分も変わらない高音域の歌声を上げて果てた。

ふっ、可愛いヤツだ。

 宴の後、有加はいつもより強かった快楽の余韻を楽しんでいた。女というものはセックスの余韻を楽しむらしいが、どうも僕にとってはそれはいまいち理解できないでいた。

翌朝

「ゆうちゃん。僕ちょっと帰るよ」
「あら、朝ご飯食べていけばいいのに」
「いや、午後から友達と会う予定なんだ。今帰って準備しておかないと」
「そうなの? 残念ね」
「じゃぁ」

昨夜の激しいバトルの為に消耗しきっていた体を休ませるため自分のアパートに戻った。毎週やっているとはいえ、一晩に3回もやるのはちょっとしんどかった。
僕は帰ってきてシャツとトランクスのまま万年床のふとんに入った。
今日の予定は午後からなので3時間くらいは寝ることができる。
時計を1時にセットして寝た。疲れが激しいためか布団に入って3分もしないうちに僕は寝息をたてていた。



目が覚めた。

僕が起きた時、外は既に日が暮れていたのだ。
確か目覚ましをちゃんとセットしたはずなんだが・・・。

起き掛けにテレビをつけると夕方のニュースがちょうど始まるところだった。
そのニュースを何気なく見ていると、僕はテレビの日付を見て驚いてしまった。

「うそっ? 今日は日曜だと?」

 帰ってきたのが土曜日の朝で、仮眠のつもりで布団に入っていたのだ。それが、TVを付けたらニュースが始まり・・、そこまではただの寝坊だと思った。日曜だと気づき最初はテレビ局が日付を間違えたんじゃないのか? と疑ったが、郵便受けに投げ込まれていた新聞にも日曜版がはさんであった。

「あー、斎藤怒っているよなぁ絶対に」
僕は申し訳なく、とりあえず本体がメッセージで光っている留守電の再生をボタンを押してメッセージを聞いた。
斎藤からのメッセージが8件録音されていた。かなり怒っていた。臨界点ギリギリというところか。しかし、幾らなんでも電話の音で起きないとは僕もどうしたものか?
「とりあえず、後で謝っとかねばならないなぁ」
9件目のメッセージは有加からだった。30分前のメッセージみたいだ。

「もしもしぃ、今ご飯作っているけど量が多めになったからよかったらこれから食べにこない? 電話してね」ガチャン。ツーツー・・・。

「あー、そういえば腹減ったなぁ。有加のところで飯食わせてもらうか」
有加にこれから来る事を電話で告げた後、斎藤のところに電話した。

「え? おまえ24時間以上も寝てたわけ?」
「マジで悪いなぁ。実はそうなんだよ。今度おごるからさぁまた近々顔合わせないか?」「まぁな、ちょっと頭来たけどさ、そんなに寝てたの聞いて怒る気力も失せたよ。まぁ、俺も話したいことがあるから。しかし来週は予定入っているから近々こっちから電話するから又飲もうぜ」
「悪いなぁ、斎藤。今度おごるよ。それじゃそういう事で」
ガチャン、ツーツー。

電話を切った後、有加の家へ行くための準備を始めた。そうしながらも何故こんな長時間も寝てたのだろうか? かと軽い疑問を持っていた。

24時間寝るというのは簡単なようで誰にでもできるようでできない芸当だ。昔、友達がそれをやって皆に自慢していたが起床後の寝疲れが激しかったそうで、体の節々が痛いと言っていた記憶がある。僕もご多分に漏れず、そういう状態だった。とりあえず、体の節々の痛さを我慢しながら、ジーンズに着替え、有加のアパートに向かおうとした。心なしかジーンズのウエストにゆとりがある。24時間以上だから体力を消耗したのだろうか?
ベルトをいつもより2穴内側に締めて外出した。
途中町並みを横目で見ながら彼女のアパートに到着した。僕と有加の家は近くでいわゆる世間一般で言うところのスープの冷めない距離というヤツだが、僕はそんなにホットな関係だとはこれっぽっちも思ってない。彼女のアパートに2階に到着してドアをノックした
コンコン。

僕は有加が何も言わない内に家の中へお邪魔した。勝手知ったる隣人の家という感覚だ。
「槇ちゃん、いらっしゃい。今作っているところだからTVでも見て待ってて」
「邪魔するよ」

僕は部屋の中に入って台所で料理を作る有加を横目に見ながら2Kの部屋の居間にあるテレビを見ながら寛いだ。

「槇チャン、今日は残り物を適当に作ったけど、こんなんでいい」
「ああ、食えれば何でもいいよ」
「ちょっとぅ、そのいい方ってひどくない。せっかく、私が愛情込めて作ったのにぃ」「いや、愛情じゃなくて、多く作りすぎたからだろ?」
「そりゃ、そうだけどぉ・・」

有加自身は実は彼に対する愛情も多少あったが、真実のところ作りすぎたから呼んだのもあった。でも、彼女は一応それも愛情だと思っている。僕自身そういうお互いに片肘を張らない関係というのが好きだった。それに他人の飯に御呼ばれするのは悪くない。実際気楽だし、今日何を食べるか考える必要がないからだ。独身の一人暮らしというものは、いつも食事の事を考えておかなくてはいけない。僕は小さい頃から料理が好きな方だったので物心ついた時から包丁を握っていた。3歳の時にはサンドイッチを作り両親を驚かせたくらいだ。そのおかげで母が作る料理のほとんどはマスターしてしまった。味についてはこれまで食べさせた相手はうまいうまいと言って喜んでくれるので料理上手なのだろう。自分でこんな事いっちゃなんだが自分で食ってもうまい。
しかし、一人で作って一人で食うというのは味気がない。ご飯というものは皆で食うからうまいのだ。ちなみに今日の食事はサトイモの煮付け、アジのフライ、ほうれん草のおひたしと、味噌汁、ごはんだった。

「ゆうちゃん。だいぶ料理上達したよ」
ちなみに僕は彼女のことをゆうちゃんと呼んでいる。
「あら、ありがとう。そりゃ、まだ槇チャンには適わないけどね」
「でも、最初の頃はひどかったなぁ。お米研がせたら、水でだーっと流すだけだし、薄口しょうゆの使い方わかんないし。これも僕が教授したおかげかな?」
「うん、それもあるけど、でも応用は自分自身でやったのよ」

実際僕が教えたのは自炊の最低限だった。揚げ物の仕方。煮物の仕方とか、米の研ぎ方。組み合わせのいい素材とか、そんな感じだった。後は基礎を覚えた有加が自分で習得したものだ。半年でここまでうまくなったのだから彼女も相当勘がいい。実際僕はサトイモの煮付けなど教えた記憶がない。

「このサトイモうまいよ。そうだなぁ僕の好みではしょうゆをもっと薄めにして高野豆腐でダシを取るといいと思うよ。」
「槇ちゃんって相変わらず味付けにうるさいわねぇ」
「そりゃ、僕は料理うまい人だからな。やっぱり気づいたらそれなりのアドバイスとかするよ」
「槇ちゃんって、そういうとこ細かいもん。だって普通男なら、そんな細かいポイントまで気にしないって」
「そうか?」
「うん、何だかそういう細かい気の付き方って同性の私から見ても女っぽいところあるよ」
「おいおい、そんな事いうなよ。何だか僕が女にでもなったような物言いだな」
「ごめんごめん、それ冗談よ。第一、あなたが女なら私は百合族の人になっちゃうじゃない、で、男なんてさようなら。そして女だけの薔薇色の世界が来るの!・・・って、なんちゃって!」
「おいおい。それじゃ自分らはおレズぅな関係ってわけか? わははそれもいいかもな!」「ははは。また槇チャンたら変な事言って。全くもう」
有加は笑いながら言った。

「でも、有加の料理がうまくなったのは僕のアドバイスかもしれないぞ。料理に小喧しい男ってそう世の中にはいないぞ。もっとも僕はそんなつもりないけど」
「うん、そうかもね」

彼女は料理が美味くなった喜びを感じていた。

食事の後、僕は有加の風呂を借りた。家を出る前にシャワーを浴びればよかったのだが面倒でボサボサ頭のままこっちに来てしまったのだ。ついでだから風呂に入っていったらと有加がいうのでそうする事にした。僕が服を脱ごうとした時、脱衣所のドアが開いた。

「ねぇ、私も一緒していい?」
「おいおい、ただでさえ狭いのにいっしょするのかい?」
「いいじゃないの。槇ちゃんだって一緒に入るの嫌いじゃないでしょ?」
「まぁね・・」

脱衣所で一緒に服を脱いだ。お互いの裸など週一回のオールナイトバトルで見慣れているから高校生みたいにドキドキしたり、僕の興奮度メーター(俗にいう息子)もそれだけでは反応することはなかった。
服を脱いでいる時、互いの裸について話す事もある。

「有加、最近おなか引き締まったよなぁ」
「そう? やっぱりダイエットのおかげかな?」
なんて具合だ。

僕がシャツを脱いで上半身裸になったところ、意外なことに気づいた有加がこう言った。
「ねぇちょっと? 槇ちゃんって太ってない?」
「何故?」
「だって、だっておかしいよ。胸なんかなんでこんなに膨れているのよ。これじゃ成長が始まった女の子じゃないの」

 確かに自分も驚いた。僕は中肉中背だが、間違っても胸に肉などついてない。肉がついてるっといったら力士やデブくらいだ。

「乳首もほら、ちょっと一回り大きくなってるし・・・・・。え? ・・ちょ、ちょっと全部脱いで見てよ」
 
 僕は驚きつつも半分夢うつつのような感情で服を全部脱ぎ有加の前で一糸纏わぬ・・、男が一糸纏わぬ姿というのも変だな・・。つまり、TVで見る懸賞生活のタレントのような状態になった。

「え? ちょっと槇チャンおかしいよ。だって、足のムダ毛もほとんどないし、腋毛なんかほとんど見えないに近いじゃない?・・。え? え? 一体どうなってるの?」

 僕も自分の姿を見て驚いた。明らかに毛が少なくなってるし、胸は膨らんでいるし、第一息子が一回り小さくなったような・・・。気のせいか少しウエストもくびれてきたような・・・。一体どういう事だ。

「槇ちゃん、一体何があったの? これじゃまるで女の子の体みたいよ」

 僕は思い当たる経過を有加に話した。
週末のオールナイトバトルの後、家へ帰って丸一日も寝てしまった事。
(そういえば、起きてからジーンズを着る時にベルトを2穴余計に締めたよな?)
とりあえず、裸でここにいるのも奇妙なので風呂に入りながら考えることにした。

「槇ちゃん、ホルモン注射とかそんな事・・・・・、やってるわけないよね」
「そりゃ、そうだよ。そんな気一切ないよ」
「でも、このままでは絶対まずいよ。病院で検査してもらった方がいいよ」
「な、なんか恥ずかしいな。それにどこに行ったらいいのか?」
「うーん? そうねぇ、やっぱり普通のお医者さんじゃわからないから大きい大学病院とかの方がいいのかな?」
「そういえば、どっかに性転換の為の治療を行ってる病院ってのがあったな? 何だっけ
多摩医療大病院だっけ?」
「槇ちゃん、そこに行った方がいいんじゃないの」
「心配だな。でもそうしないとまずいよな・・・」

そういうわけで、次の日会社に病気を理由に休みを取り、多摩医療大病院へ行った。

この医療大は東京の郊外のベッドタウンに位置しており、ここ数年で日本での性転換や性同一性障害の治療の権威となっていた。何でも日本で初めて公式な性転換手術をした事がマスコミの間で話題になり、それを聞きつけた全国の悩める患者が殺到するという状況であった。待合室には明らかに2丁目の商売関係のような人達や、女っぽい男性、男っぽい女性とか、わけのわからん変態的な異性装の人、TVに出るミュージシャンみたいに完全に化けてるな!、というような人。いろんな人たちがいた。流石、日本屈指のおかま&おなべちゃん病院だ。そんな妙な雰囲気の待合室で僕は待たなければならなかった。

待合室のイスに座って売店で買った週刊誌を読んでいると隣のおなべらしきお兄ちゃんが話し掛けてきた。ハスキーだが、少々上ずった声で。

「やぁ、兄ちゃんここ何度目かい?」

僕はあまりこういう人たちとはお友達になりたくなかったのでちょっと面倒そうに返事をした。

「いや、今日はじめてきたけど」
「ふーん、そうか。あんたまだこの業界入って短いだろ?」

「へ?」

「いや、だから男に変身してからそんなに日が立ってないだろって聞いてるんだよ」
「は? 変身・・・って?」
おいおい!! コイツ、僕のこと勘違いしているぞ。俺が元女に見えるとでもいいたいのか? 男としての威厳を傷つけられた僕はムカっと来たが、感情を押さえて

「失礼だな。僕は本物の男だよ。ちゃんとモノもついてるし、真っ当な彼女もいるよ」
おなべの兄ちゃんは驚きの表情を隠さずに、
「え? マジ? あんた本物の男か?」
「そうだよ」
「いや、兄ちゃんあんた女顔だよ。どっちかと言うと・・・」
「はぁ?」
「元女の俺が言うから間違いないよ。あんた女顔してるよ」
「おいおい、俺をおなべさんだと思ったのか?」
「なべやってる人間がいうのも何だけど、やっぱり幾ら男になってもさぁどっか女の部分が残るんだよ。顔とか、筋肉とかさぁ」
「そりゃ仕方ないだろぅ。元の体が女性だってのは事実だからね」
「だけどさ、物心ついた時から俺の場合は男だったね。隣の奴と鬼ごっことかするの好きだったし、中学ん時はスカート履きたくなくて登校拒否を起こしたもんだよ」
「へぇ、おなべさんってのも大変だなぁ。まぁ僕なんか真っ当に育った方だったから、そういうの理解できないけどね」

その兄ちゃんは突然悲しそうな表情でつぶやいた。
「俺だってこんな体になりたくなかったよ。出来れば、男として生まれてきたかったな。」
槇は言葉が出なかった。言ってはいけない事をを言ってしまったような罪悪感があったからだ。


しばしの沈黙の後、おなべ兄ちゃんの方から話を切り出した。
「ところで何であんたこんな所に着てるのか?」
「いや、昨日から体の調子がおかしいんだよ。実は、恥ずかしい話だけど胸が膨らんできてるんだ」
「え? ・・・」
「まぁ、こんな事言っても信じないか・・・」
兄ちゃんは驚きながらこう返してきた。
「ちょっと触ってもいいか?」

「えっ?」

突然のその言葉に僕は驚いたが、別に触られるのに困る理由はさほどない。
「構わないよ。手を当ててみればわかると思うけど」
「じゃ、ちょっと・・」
と言って兄ちゃんは右手を軽く僕の心臓の辺りに当てた。

「げっ! 本当だ。うわ、すげぇやわらかいよ。むにむにしてらぁ」
と言って服の上から軽く揉みしだした。

「ぎゃ!!」
快感とも叫びとも言えない声が出てしまった。
何だ、この感触? 何だか気持ちいいぞ。
「うそ? まじモンだよ。うわぁ」
この快感に身を委ねようと一瞬考えたが、ここは公共の場。理性が働いて、僕はハッと我に返った。
「おいおい、ちょっと止めてくれよ」
僕はお兄ちゃんの手を握り胸から手を離させた。
「おいおい、幾ら僕が男でもちょっとこれは失礼じゃないのか?」
「悪りぃ。あまりに柔らかいからびっくりしたよ。何だか俺が思春期に入った時の事思い出したな」
「そんな感じなのか?」
「ああ、少なくとも俺の経験ではこんな感じだったよ」
自分の体に異変が起こっている事を改めて認識してしまった槇だった。

「35番の松本さぁん」
看護婦が僕を呼び出した。僕の診療の番が回ってきたのだ。

「はい。いますぐ」
僕は彼に別れを告げて席を立って診察室へ向かおうとしたとき、なべ兄ちゃんが名刺を渡してくれた。

=== 新宿2丁目MS.ボーイズクラブ「輝き!」 営業担当 タカシ ===

「これ、うちの店の名刺だ。よっかたら今度遊びに来なよ」
「ああ、今度遊びにいかせてもらうよ」
諸々そんなつもりはないが、ここは礼儀作法上OKの返事を出しておいた。
僕はそのタカシに別れを言って診察室へ向かった。

僕が別れて診療室に入った頃、タカシはボソッと一言呟いていた。
「あいつ、女に生まれていれば立派なおなべになったろうな・・・」



僕は呼び出されて診察室に入った。医者の前で症状と理由を話したところ、裸になってほしいと言われたのでとりあえず上半身のシャツを脱いだ。何か服を脱ぐのにちょっと抵抗があった。
その医者はマジマジと僕の乳房を観察した。
「ちょっと触りますよ」
医者が触ったとたんさっきの時と同じ快感が走った。
「あぁ」
思わずこんな声が出てしまい医者は苦笑いした。
そして、触診の後服を着て話をした。

「確かにおかしいですね。松本さんはこれまでに女性ホルモンの注射とかそういう経験はないんですよね」
「はい、少なくとも自分がわかる範囲では? それに僕はそんな趣味もありませんし・・」医者は不思議そうな顔をしながら、看護婦に指示を与えた。
「あの、松本さんの血液と皮膚組織のサンプルをとっておきなさい」
「はい、わかりました」
と言うまでもなく、看護婦は自分の仕事をテキパキとこなした。

血液と皮膚組織の回収の後、医者は僕に言った。

「採取した組織と血液を調べてみますから2週間後に来てください」
「あの? これって一体何なんですか?」
「結果を見ないと医者としては何とも言えません。とりあえず、男性ホルモンの薬を出しておきますから。もっとも急激な女性ホルモンの増加だと、肝臓を疑う必要もありますが・・・」
「私はそんなに酒は飲みませんし。・・それに、この兆候も突然出てきたんですが」

「そうですかぁ。今回のケースの場合、男性乳房という現象ではないかと思ったんですが、普通そういった症状の場合は、胸部は膨らんでも乳首までは膨らみません。ちょっと通常のケースと違うようです。しかし現状では検査の結果を見ないとは何とも言えませんね」
「え? そうなんですか?」
「とりあえず、肝臓も含めて検査しておきますので。また来てください」

そうやって医療室を後にした。医療大の薬局で薬の処方の為に更に2時間ほど待たされた。やっとの事、自分の薬が出来たとのアナウンスがあってそれを受け取った。
今日は、ここで丸一日潰れそうだ。とりあえず、この後はどっかで飯でも食ってかえろうか? と、思いつつ午後の行動を考えながら病院を後にしようとした。

その時だった。

突然何かが僕の体を襲ってきた。医療大病院の玄関のドアを出たと同時に全身に電気ショックのような痛みが走った。

「はがぁぁ!!!」

例えるなら、全身の内側から鈍器で叩かれたような取り去るに取り去れないそういった痛みだった。それと同時に頭がフラフラして、その場で太刀打ちのたまわった。その状況は事情を知らない周囲の人々から見れば猫がマタタビ吸ってフラフラしているのに似ていた。叫びとも悲鳴とも言える声が病院内にこだまして僕はそのまま倒れた。玄関の前にいる守衛さんが異常に気づいた。
「おい、おい大丈夫か」
「アアアうぁぁガガガッ!」
遠くを見ている目をしながら、僕はそのまま意識を失ってしまった。

「おい、田代。緊急治療チームに連絡しろ」
二人いる守衛のうち、もう一人が内線に連絡を入れた。その間、近くを通りかかった看護婦が介抱した。電話するやいなや即座に緊急医療チームの医者がやってきて、その場で緊急処置が施された。そして、僕はそのまま医療大病院へ緊急入院することになってしまった。



ある都内の会社でOLしている有加のところに電話で呼び出しがあった。

「宮田さん、電話だよ」
「あ、すいません、係長。はい、もしもしお電話代わりました。総務課の宮田と申しますが・・・・。え? うそ? 槇ちゃんが倒れたんですか?」

彼女は多摩医療大の関係者と話をしていた。

「はい、はい、わかりました。これからすぐにそちらに伺います。すいませんわざわざありがとうございます」

ガチャン。と電話を置くとおもむろに係長が何かを聞いてきた。

「宮田さん何かあったのか?」
「ええ、槇チャン・・、いえ友人が突然倒れたらしくて・・・。係長、早退の許可を下さい」
「そうした方がいい。君の仕事は何とかするから早く行ってきなさい」

その言葉の最後を聞かぬまもなく、彼女はオフィスを飛び出して、更衣室で規定の制服から通勤用の私服に着替え、玄関前にちょうどこの会社に訪問したビジネスマンの乗っていたタクシーを目に付けビジネスマンが降りると同時に、

「すいません、急いでいるのですが、乗っていいですか?」
「どうぞ、乗ってください」

彼女はビジネスマンが降りたらそのまま乗り込み

「すいません、急いで・・、急いで多摩医療大病院に向かってください」

「わかりました」
長年タクシードライバーをやっているこの運転手に取って彼女の関係者に何か異変があった事はすぐに察知できた。彼はそれまでさっきのビジネスマンと馬鹿話をしていたが即座に頭を切り替えて
「できるだけ、急ぎます。この時間なら首都高が早いけど乗りますか?」
「ええ! 是非そうして下さい」
「ちょっと運転が荒くなりますがよろしいですか?」
「はい、何でもいいからとにかく急いでください」

タクシーは首都高の都心環状を通って中央道に乗りスピードを飛ばして走っていった。



有加が病院に付いた時、僕はICUで昏睡状態に陥っていた。
彼女は昏睡状態に陥った僕の前で、医者が事の経過を説明した。

「それじゃ、槇ちゃ・・、いや、松本さんの病気って?」
「今、私たちがいろいろと検査しているのですが、結果を待たないと何ともいえません。とにかく、どこが悪いのか、それに急激な体の異変も今まで症例がない病気なのです」
「このままじゃ松本さんはどうなるのですか?」
「わかりません。検査の結果を急いで出すように検査部へ指示を出したところですが」その時
「先生。ちょっと」
ICUで作業をしていた看護婦が先生を呼んだ。

「この患者さんの体、さっきから骨のあっちこっちがキシキシ音を立てているのです。それに最初の2時間前に比べて体格が一回り小さくなってます」
「何? そんな事が・・・。あるわけが・・」
「間違いありません。私はさっきから観察してます」
「わかった。ビデオカメラを用意して、それと一定時間おきにクランケの状態をチェック、それとX線も」
「はいただ今準備します」

「宮田さん。どうも原因不明の症状が起きています。これから何が起こるか判りません。しばらくの間経過を見る必要があるのでちょっと退室して頂けませんか?」

「はい、わかりました」
彼女はショックを受けながらも何とか自分自身を保っていた。
ICUの外のソファーに座っていた。2時間ほどだったが彼女にとってはその時間は永遠の時間に匹敵するほどの時の流れを感じていた。
「槇ちゃん・・・。お願いだから・・・無事でいて・・・」

数時間後ICUの扉が開き、担当の医者が出てきた。

医者は外で待っている有加に気づき、状況を話し掛けた。

「昏睡状態に変わりはありませんが、容体はさっきに比べると若干よくなりました」
「はい・・・」
「それと、お話したいことがあるので医務室までいっしょにきて頂けませんか?」

見た感じ30代の医者は、名前を内藤と言った。有加は内藤と一緒に医務室に入って、ソファに腰掛けた。
「コーヒーか紅茶飲まれますか?」
「・・じゃ、紅茶をお願いします」
内藤は慣れた手つきでお湯を備え付けのレンジから出して、パックで紅茶を作り、有加へ差し出した。
「お口に合うかどうかわかりませんが・・」
「どうも、すいません。わざわざ・・」

そういうと内藤は席へ座り話を切り出した。
「宮田さん、実はお伝えしなきゃいけない事があります。信じられないかもしれませんが冷静になって聞いてください」

有加は医者の一言で覚悟を決めた。

「松本さんの体の異変ですが、まずX線で一定時間置きに撮影したら実際に骨格が小さくなっているのがわかりました。それに、本人の組織を検査したところ、性別のホルモン濃度が急激に変化しています。つまり、女性のホルモンであるエストロゲンが増大しているのです。DNAに関してはもうちょっとしないと検査結果がわかりませんが、現在宮本さんから抽出した血液の一部をマウスを使って実験してみようと考えてます。それと、これは私の個人的な意見なんですが・・・」
そう言うと医者は躊躇した。

「先生、私は覚悟できています。言ってください」
「わかりました。あくまで個人的な見解ですが、松本さんの体は急激に女性化しています。骨格の変化に伴い、顔も少しずつ変わっているようです。この症状ですが、私が大学時代に医療史の授業で読んだことを思い出しました。確かあれは16世紀初頭のオランダでの記録がだったと思いますが、残念ながら公式な記録ではありません。しかしながら、このオランダの古文書に書いてある症状に似ているのです」
「え? それっとどう言うことですか?」
「あ、もちろん、私の推察に過ぎないので何ともいえませんが、松本さんの体に起こっている事が現実だとすれば・・・、多分、50%の確立で松本さんはあなたと同じ完全な女性になる可能性があります。残りの50%は体が急激な変化に耐え切れず心臓が停止します。又、松本さんが意識を回復したとしても今後の精神的なケアも含めたリハビリが必要になるかもしれません」

有加は冷静に聞いていたつもりだったが、内藤の説明を聞いてショックを受けた。
「槇ちゃんが女になるなんて・・・。こんな事があっていいの?」
胸中でそう思いつつも悲しみというかやり場のない怒りというか、もはやどう表現していいかわからない感情がこみ上げてきて医者の前で泣き出してしまった。内藤も不治の病の病気告知をしなければいけない時もあって、こういう状況には一応慣れている。
とはいえ、看護婦と一緒に彼女を見守るしか方法がなかった。
「宮田さん・・・しっかりして下さい・・・」




1ヶ月後。


 槇の体はすさまじい変化を遂げていた。
やはり、医者の予想したように体が急激に女性へと移行し、男性自身は組織がほとんど吸い込まれてなくなり、替わりに可愛らしい女性性器と一筋の割れ目に変化していた。まだ多少男性的な形も残ってはいたがそれが無くなるのも時間の問題だとの内藤の弁だった。この特殊な病状の為に特別な医療チームが組まれ、本来高くつくはずの医療費は研究の目的を兼ねるという条件で無料になった。身長は173センチちょっとあったのが160センチにまで落ちて、体重も20キロ以上減少していた。そして、髭が無くなり、顔の毛穴が細かくなり、ウエストがくびれヒップが大きくなり、胸が日に日に大きくなっていた。そのベッドに横たわる本人のベッドには「松本槇」というプレートが貼ってあった。もちろん当人は昏睡状態であった事は言うまでもない。
 
それから数日後。詳しい検査結果がでた。

 内藤が有加に検査結果を説明していた。
「宮田さん。松本さんの病気の検査ですが、やっぱり私の予想通りの結果となりました。まず、DNAですが、組織のかなりの部分が既にXXになってます。つまり女性に代わっているのです。何かのウイルスが影響して次から次に書き換えていっているのです。その為に、松本さんに急激な女性化現象が起こってます。うちの研究チームがマウスで実験を行ってみたところ、オスのマウスに松本さんの体血液から採取したウイルスを注入したら2週間後にはほぼ47%のマウスがメスに変化していました」
「それって一体どういう事ですか?」
「つまり、このウイルスは男性を女性化させる働きがあるらしいのです。そして、これを注入されたマウスの一部は完全なメスへ変化しますが、残りは死んでしまいます。多分、急激な体の変化に拒否反応を起こすのでしょう。このウイルスに犯されたら、女性になるか死ぬかどっちかです」
「そんな・・・・・」
「入院した時から、対処療法で男性ホルモンを多量摂取させましたが駄目でした。このウイルスの作用で効果が見られないのです。そして、現在このウイルスの無害化を研究するように手配を整えましたが、多分少なくともそこまで到達するには数年かかるでしょう」
「・・・じゃ・・・あの?」
「松本さんが女性になるのを阻止する手段は・・・残念ながらありません。松本さんは今後一生を女性として人生を歩まなければならないかもしれません」
「松本は女にならなければいけないのですか?」
「そうです。貴方にとってもそれは辛い事になると思いますが事実です」
有加は落胆して、どう考えていいかわからなかった。
彼氏だった槇が同姓になるという受け入れがたい事実を考えるとそうなるのも無理はないだろう。
そんな落胆していた彼女に内藤がアドバイスした。

「私がこんな事言うのも何ですが、自然界には性別を変える生き物もあります。例えば、クマノミという魚などはメスがいなくなると、オスで体が一番大きい個体がメスに変化して子孫を繁栄します。自然界ではむしろ女性になるという行為はさほど不自然ではないのです。人間の場合は男女の間で体の構造が違いすぎるために肉体的な性別を変更することは簡単にできません。ここの病院で行っている性転換も実際は肉体的な模造品を作ってあげる事しかできないのが現状です。しかし、それでもいいから性別を変えたいと悩む方々は世の中にたくさんいます。多分、あなたもここの病院に通ってそういう悩みを持つ方をたくさん目前にしてきたと思いますが、患者の中には実際松本さんの立場を自分の事のように喜ぶ方もいるのです。世の中そうやって、自分の性に違和感をもつ者がいるわけです。私がこういう事を言って何ですが、多分松本さんは女性に変わっても松本さんでしょう。だから、今までのようにとは言いませんが、せめて仲のいい友達であげていて欲しいのです」

「な、なぜ先生がそういう事をおっしゃるのですか?」
有加は驚きの表情を見せ、その先生の人間的な対応に驚いていた。無理もない。普通このレベルの大病院の医者と言ったら無表情で専門の事しかわからない、という世俗的偏見もあるからだ。
「私もこういう治療を専門として来ましたので、治療後の患者の悩みをよく理解しているつもりですが、一番の悩みは自分が本来の性を取り戻したのに周囲がそれに対して理解をしてくれない。そして、最悪の場合は自分の体を呪って自殺する事もあるのです。私らはそういった人たちをカウンセリングや手術で助ける立場にいますが、やはりうちの患者さんがそういった悩みで自殺するという事もあって、それが一番辛いのです。今後、松本さんが精神的に男でありつづけるか、それとも女性に変化するかわかりませんが、松本さんの面倒を見てくれるのはあなたしかいないと思います」

意外な内藤の言動に驚いた有加は
「先生。何だかそのお話を聞いて、少し気分が和らぎました。幾ら変化しても槇は槇自身なんですね」
「その通りです。だから、松本さんが回復したらしばらくの間いろいろなサポートをして頂けるとよろしいかと思います」
「ありがとうございます。私はこれで決心が付きました」
「いや、医者として当たり前の事を言っただけです」
内藤は少し照れながらそう話した。


3日後。有加は会社を辞めようと決心した。
その話を上司に話したら、上司思いとどまるよう、とりあえず3ヶ月の間は休職扱いということにしてくれた。もちろん、松本が女になるなんて事はいえるわけがなかったので友人が不冶の病の看病という事にしたのだ。
もっとも、それには内藤が機転を利かせて書いた嘘の診断書も一役買った。
医療大の治療チームが一通り落ち着くまで公表を控えたほうが良いとの判断した結果だ。有加はそれを使って僕の会社も同じように休職扱いする手配をしてくれていた。
会社の面々が見舞いに来たら一発で正体がわかってしまうので、面会謝絶扱いにしてもらっていた。有加は槇が回復するまでつきっきりで看病することを決意した。



それから1ヶ月が過ぎ、いつものように看病を続けていた有加が異変に気づいた。
もう、その頃には槇の体は完全な女性へと変わっており、緊急入院した頃の松本の面影を少し残しつつも、その顔の端麗さ、体臭、全身から涌き出るような女性的な艶、どう見ても女であった。まるで眠り姫そのものだ。
あれから、特別医療チームも検査を続けている。
この日、実験担当者がやってきてこれまでに調べてわかったウイルスについて説明してくれた。 

今までにわかった事は、DNA上でも完全なXXになってしまった事。ウイルスは感染した個体が女性になるとほとんどは無力化して死滅すること。マウスの実験ではメス化した個体は交尾すると正常に妊娠することも判明した。
実験担当者は丁寧に説明してくれたが、今の有加にとって、そのような事はもはやどうでもよい事だった。


更に数日後。

この日は冬だというのにまるで春のような 暖かい気温の中、有加は槇を看病していた。その間彼女は眠りつづけている槇に毎日の出来事を話していた。どこかのスーパーが食料品の安売りしてた事。近くの公園を散策していたら梅がほころび始めたこと。どっかで人気女優のすっぴん顔を見たこと。病院近くのたこ焼きやさんはめっちゃうまい事とか・・・。そういった他愛もない事だ。

その後有加はぽかぽかした陽気に誘われてか、槇のベッドに手と顔をついてうたた寝していた。個室内に彼女の寝息と外で遊んでいる子供たちの声が聞こえるそんな穏やかなひとときの事。誰かが有加を呼んでいる。

「有加、ゆうちゃん。起きろ! おきなよ」

誰かが声を掛けている。
有加が夢うつつでありつつも目を覚ますと、ひとりの女性が声を掛けていた。

「あれ? 誰だっけ?」


目を開いた有加は最初誰だかわからなかった。と、いうのも窓から光が差し込み、目を開けたばかりの有加に取ってそれは眩しく感じ彼女を呼ぶ者の顔が見えなかったからだ。写真でいうなら逆光という状況である。しばらくして頭が段々目覚めた後にその声の主が誰であるか、思い出した。
「え? もしかして・・・」

「おい! ゆうちゃん、おきなよ!」
その声はソプラノボイスで伸びのある綺麗な声だった。

「ま、槇ちゃん、目を覚ましたの?」
「ああ、何か長い夢を見ていた気分だ」
「よかった槇ちゃん!」
有加は槇を力強く抱擁した。
旗から見ると、女同士が抱きついたようにしか見えないが・・・。




有加はこれまで起こった事のあらましをすべて説明した。
話のすべてを説明するのに1時間もかかった。
しかし、槇に取って悲しみの表情は一切なかった。

槇はたどたどしく有加に説明をした。
「確かにこういう体になったのも驚いたけど、何か妙な充実感があって、穏やかなんだ・・・。何故かわからないけど・・・なんていうのかわからないけど・・・」
「槇ちゃん・・・」
「ああ、僕自身もこの事実を聞いたときは多分大泣きするだろうと思ったよ。でも何だか、現実感がなくて、フワフワしてて、気持ちよくて、充実してて、泣くどころか妙にうれしくて・・・」
そう言うと槇はグスグスと泣き出した。
「槇ちゃん・・・泣いてるの?・・・」
「・・わからない。何で泣いてるのか・・・。とにかく悲しいとかそんな感じじゃないんだ。何か嬉しさのあまりというか・・・。わからない・・・。こんな感情初めてだ・・・」
有加はこうやって泣いている槇を見てドキッとした。
もはや、ここにいる槇はもう私の知るかつての男だった槇ではない。有加本人よりも色気というか可愛いさというかそういうのがあって、こんなに槇って女らしかったのかと驚いた。そんな槇を見て有加は
「カワイイ!!」
と2度も抱きついた。
「おいおい、一体なんだよ、有加」
「でも、とにかく槇ちゃんが目覚めてよかった」
何故槇にこんな充実感があったのだろうか? 最もそんな事は今の彼女らに取ってはどうでもよかった。
とりあえず、槇は帰ってきたのだ。
女という新しい人生を得て。
それに二人の関係はしばらく続くだろう。
小春日和の暖かい日差しの午後。松本槇が女として再誕生した記念日であった。


第一部 終わり
========================================作者後書き

こんにちわ。
那華田キュロパンという者でございます。
小説が読みたくなって、いろいろネットサーフィンしていたらSF系のサイトからこのTS系のサイトにやってきました。
そして、幾つかここの小説を読んでいると

「なんじゃいや! 女に幻想を抱く変態サイトやんけ!」

思っておりました。しかし、その中でも幾つかの秀作を目にしてしまい、柄にもなく幾つかの作者へ感想のメールを送ってしまい、柄にもなく触発されて、柄にもなくとうとうこんなもんまでを書いてしまった次第です。


元々はと言えば、
「もし現実に性転換現象が起きたら、どんな事態になるか?」
最初はそういったリアリズム重視の発想で考えたのです。だから、ある日真っ当な人生を歩んでいた男が女性にならざる得ない環境に陥ったとき現実にはどういう社会との関わりがあるか? そう考えたのが、この小説のキッカケでした。

 さて、本当は槇が女になってからの社会との関わりをメインに書く短編のつもりだったのですが、気がつけば前半だけでこんなに話が膨れ上がってしまったので、それ以降の話は次回へ持ち越します。

 第一話の最後は当初、槇が落胆するシーンを想定してエンディングを書いたのですが、これではあまりにも当たり前過ぎると考えてしまい、逆に歓喜のシーンで書き直したら、話が綺麗にまとまってしまったのです。だから、ここで一旦ストーリーを切って、第二話以降では主人公の元槇ヤン今槇チャンに、いろいろ苦労してもらおうと考えてます。そういう理由もあって、第一話の前半でタカシというおなべの兄ちゃんを登場させました。彼は第2話に登場してもらうつもりです。


那華田キュロパンというふざけたPNの由来

ことぶき氏のHPを見たら、4姉妹の完全版が公開されていて、それが見たい為入会希望のメールを出してしまいました。登録にハンドルが必要だということがわかりその場でHPの雰囲気に合わせて考えたのがこれでした。

*フィクションです。
元々は中田カフスボタンの弟子に中田短パンというのがいて、ある日彼が性転換病にかかってしまい(ここのサイトらしい現象です。)そして、治療が済んだ時には女になってしまったのです。
その短パンは師匠がこのままではおかしいと言うので改名する事になりました。
「おまえは今日から中田スカートに改名しろ」
「え? そんな? 嫌ですよ。そんな女みたいな名前」
「そうか、でもおまえは一応女なんだから短パンじゃおかしいだろ」
「はぁ確かにそうですね」
「じゃぁ短パンだから中田ブルマーってのはどうか?」
「師匠、やめてくださいよ。そっちの方がもっと変態じゃないですか!」
「うーん困ったなぁ。何かいい方法はないか? おお、そうだ。うちのカミさんに聞いてみるか。おい!」
「はい何か?」
「弟子の短パンをスカートに改名しろって言ったらいやがるんだよ。何かいい名前はないか?」
「そうですねぇ。短パンくんは元男の子だったから・・・。キュロットパンツあたりなんかどうですか?」
「なんだ? それって」
「簡単に言えば女の子の短パンみたいなものですよ。これだったら短パン君も抵抗ないでしょ?」
「そうか、それならいいだろ! 短パン」
「はぁ、それだったらスカートとかブルマーよりもマシですね」
「じゃ、決まりだ。おまえの芸名は・・・中田キュロットパンツ・・・
・・・じゃちょっと長いから、略して・・・中田キュロパンだ」

ハンドル考えるだけでこんなストーリー思いつくんだから、オレって一体・・・。
(もちろん、本物の中田カフスボタンとは関係ありません。)

そんで面倒なんでこのハンドルのまま投稿する事にしました。

小説の名前の由来。

現在、アメリカに留学しているのですが、いつもつけているラジオがオールディーズ専門局なんです。そこでサッチモ(ルイアームストロング)の名曲が流れていたので、そこから拝借しました。それまでは幾つかいろいろタイトル名を考えていたのですが「コンチェルトシリーズ」のように今市的を得たタイトルがつかない。いろいろ考えた挙句、この曲からパクる事にしました。
それでは、何分初めての小説ですがよろしくお願いします。

那華田キュロパン




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