第四話 いさみの長い一日

暗闇の中で声がする。そこにいるのは人なのか、そうでないのか?しかし、そんなことはどうでもいいことだ。必要なのは、彼らの意志。
「トランス・ギャルズとは何者だ?」
「我々の計画の邪魔だ。まずは彼女たちの抹殺を図らねば」
「待て、まずは敵を知る事だ。」
一人が制した。
「出でよ!オクトパスノーマ」
足は4本。腕も4本。しかし、その風貌はタコ。というより、「宇宙戦争」にでてくる火星人を思わせる。しかし、腕の先にはきちんと指がある。しかし、この怪人に骨格はない。軟体動物特有の動きを見せている。
「オクトパスノーマ、ただいま参上致しました」
タコの怪人はひざをかがめて、頭を垂れた。
「貴様の使命は、トランスギャルズの能力を測る事だ。奴等の力を見切れ!」
「ははっ!」
4本の手で敬礼をして、オクトパスノーマは去っていった。

4月も終わりに近づいた。春が花の季節ならば、夏は緑の季節だろう。色とりどりに飾られた木々は、緑一色に染まっていく。この頃なら、普通の高校生ならば新しいクラスに慣れる頃だ。新しい学年になった興奮はもう静まる。新しいクラスメイトとの会話が弾みだすかわりに、、去年のクラスメイトとはなんとなく疎遠になる。ところが、座間いさみはその流れから全く離れて、ぽつん、と一人マンションにいた。
「たっだいま〜」
制服姿の少女が大きな白い箱を抱えて帰ってきた。最近よく見る制服である。ブレザーは紺。チェックのスカートに、スカートと同じチェックのベスト。その下は白い綿のブラウスに、やや薄い赤いリボン。髪の毛は少し短い。急いで帰ってきたのだろう。ちょっと息を荒くしている。彼女、更科亜紀はドアの前で一息つき、大きく呼吸をして、荒れた息を整える。
ピンポーン。インターフォンをならした。亜紀がノブを回そうとする前に、ガチャ、とノブは回転し、ドアが開く。
「おかえり、亜紀」
中からポニーテールの少女がぬっを顔を出した。その顔を見て、制服を着た少女の顔はぱっと明るくなった。
「いっちゃん、いたんだ。良かった」
出てきた少女は、亜紀の様子を見て何事かと思った。息を切らして、自分に何の用なのだろう?そう思いはしたが、何事もなかったように、亜紀を置いて、居間へてくてくと歩いていく。
「あ〜ん、いっちゃん、待ってよ〜」
やや駆け足で、亜紀は少女の後ろを追いかけた。

マンションで亜紀を出迎えた少女の名前は座間いさみ。事情があって、彼女は転校の手続きがが遅れているのだ。本来ならば、高校二年生として亜紀や真琴と同じく高校へ登校しているはずなのだが、彼女はこの2週間ほどずっと学校と名のつくところへ行っていない。新学期早々国家の手によって拉致されれば、仕方があるまい。
「真琴は一緒じゃないのか?」
背後に足音が聞こえたので、振り返らずにいさみは亜紀に聞いた。
「真行寺博士に用があるとか言ってラボの方へ行ったよ」
亜紀はそう返答した。
 海野真琴は一学年上の高校三年生だ。この四月で十八になった。調製工程が早期に完了したので、昨年の三学期から私立生智学園に編入している。ところで、更科亜紀の関心事は先の質問に答えることよりも彼女の持つ白い箱の方にあったようだ。よほど大事なものだのだろう。大事そうに両手で抱えている。
「ふうん」
それを見て取ったのか、いさみはそれ以上は何も聞かずリビングへと向かった。
「はいこれ」
二人がリビングに入った後、ソファーに座り込んだいさみに、亜紀は大事そうに抱えていた白い箱を手渡した。
「これなに?」
いさみは亜紀から受け取った白い箱を怪訝そうに受け取った。
「いっちゃんの制服だよ。これ渡したいから私、急いで帰ってきたんだよお」
そう。いさみの転校手続きもようやく完了したのだ。
生智学園は河原崎総理の母校で、河原崎から個人的にかなりの援助を受けている。彼女たちの転校はほとんど二つ返事だった。政界の大物、しかも財政的に大きな援助を受けている人物から頼まれてノーと言える学校経営者はふつういない。
 転校の手続きに際して、もっとも問題だったのは戸籍の問題である。調製工程に家族の同意を受けている真琴と亜紀の両名は、「生まれつき」女の子であったことにした。大変だったのはいさみだ。誘拐同然に連れてきたので、新規に戸籍を作り直す事になった。もっとも、彼女たちには国家がバックについている。新しい戸籍を作る事など造作もないが、時間は必要だった。「座間勇一」という人間がいなくなり、あらたに「座間いさみ」という人間が現れると、それなりに綻びが生じる。
 彼女も明日から私立生智学園へ通う事になる。何とか無事に転校初日までに制服が仕上がったので亜紀は急いでマンションまで戻ってきたのだ。
「え〜、俺がそれ着るのかあ〜?」
いさみは亜紀の制服を指差した。
「いっちゃんなら絶対似合うと思うけどなあ」
「そうかなあ。でもやっぱり俺は恥ずかしいぞ」
いさみはソファーに座ったまま、あごに手を当てて、首をかしげた。元から少女趣味の亜紀や、ほとんど開き直っている真琴と違って、まだいさみには女の子の格好をする事に抵抗がある。
「いっそ私服の学校だったらよかったのに」
「あのね。カムフラージュの意味もあるんだからね。いっちゃんもちゃんとかわいいかっこをするの」
両手を腰に当てて、いさみを見下ろしながら亜紀が言った。だから、不本意ながらもいさみはいつもミニスカートをはいているのだ。
「さあさあ、着てみてよ。それ」
「え?今着るの?」
「着るの」
「やだ」
「だめ、今着るの。いさみちゃんの制服姿が見たくて急いで帰ってきたんだもん」
「やだ恥ずかしい」
「だめ、着るの」
しばらく彼女たちは押し問答を続けていた。

 「わーい、似合う似合う」
亜紀がソファーに座ったままで軽く手を叩いている。制服を着たポニーテールの少女の頬はやや赤い。制服を着ている恥ずかしさと、誉められてうれしい感情が同居していた。しかし、後者の感情を悟られないように、いさみはわざとぶっきらぼうに亜紀をたしなめた。
「あんまりはしゃぐなよ。恥ずかしいじゃん」
「いさみちゃん、照れてるう。ホントは似合うっていわれてうれしいんでしょ。このこのっ」
自分でも認めたくない本心を見透かされていさみはさらに真っ赤になった。亜紀はソファーから立ちあがっていさみの手を引っ張っていった。
「お、おい、どこ連れて行くんだよ」
「いつもいっちゃんがトレーニングに使っている公園。写真撮ろ、写真」
いつのまにか、亜紀の手にはコンパクトカメラが握られていた。
「えーっ、それは絶対にいやだ」
いさみはソ床の上に座り込んだ。
「いやっいくのー」
なおも手を引っ張る亜紀。しかし、根競べに終止符を打ったのは、インターフォンの音だった。
「あ、真琴ちゃんが帰ってきた」
玄関のドアが開く音がして、廊下から足音がする。
リビングのドアが開き、真琴はリビングに入ってくるなり言った。
「あら、いさみちゃん、制服届いたのね。よく似合ってるじゃない」
亜紀はドアの側に立つ真琴の方に駆け寄った。
「真琴ちゃん、真琴ちゃん」
「なあに?亜紀ちゃん」
「折角だから写真撮ろ、って言ってるのに、いっちゃんいやだって言うの」
「いいじゃないの、いさみちゃん。私も制服だし、3人で一緒に撮りましょ」
真琴にそう言われると、いさみはもう何も言えなかった。
「分かったよ、行くよ。行けばいいんだろ!」
「いっちゃん、また照れてる。ホント、かわいいっ」
いさみを指差しながら、亜紀はけらけらと笑い転げた。いさみは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。そのほほえましい光景に、真琴はやわらかな微笑をうかべていた。

 明朝、真琴はいさみの部屋のドアを叩いた。
「いさみちゃん、用意は出来た?」
真琴がドアを少し開けて部屋の中を覗くと、いさみはいなかった。あれ、と思いながらドアを閉めようとしたときに、真琴はあるものに気がついた。それは、机の上に飾られた、昨日3人で撮った写真だった。真琴は、クスっと少し笑みを浮かべた。
 真琴たちは今日はいつもより早く登校することにした。いさみを担任の中屋に会わせるためだ。いさみたちは、すいている各駅停車に乗っていた。早く出たからといって、電車がすいているわけではない。むしろ、通勤ラッシュとぶつかるので電車は混んでいる。しかし、この時間帯の急行電車の混雑は殺人的とも言えるが、各駅停車であればそんなことはない。三人がじっくり話すぐらいの余裕はある。
「あ、あのさ」
いさみが口を開いた。
「ずっとこっちを見られているような気がするんだけど」
電車の混み具合は、全員が座れるか、座れないか、という程度。真琴は座って本を読み、亜紀といさみは、その前に立っていたのだが、いさみには周りの男子生徒の視線がこっちに集まっているような気がした。
真琴は本から目を離し、顔を上げた。
「気のせいではなくてよ。いさみちゃん」
亜紀もいさみに向かって言う。
「そりゃそうだよ、こんなかわいい女の子が、3人も集まっているんだもん。男の子の視線を釘付けにしても当然だよ」
真琴も亜紀も涼しい顔をしている。表情を歪めているのは、いさみだけだ。それを見て取ってか、再び彼女は顔を上げた。
「あなたがそれだけ、魅力的な女の子だってことよ。素直に喜びなさい」
しかし、いさみの顔はまだ引きつったままた。
「そんなこと言われてもなあ。真琴だって男にじろじろ見られて、あんまりいい気はしないだろ?」
「ま、そうだけど…」
そこで、亜紀が意外な発言をした。
「世の中にはね、魅力的な男の子にも、魅力的な女の子にもなれない人がいるんだよ。魅力的な女の子になれただけ、真琴ちゃんやいっちゃんは幸せだと思うな」
いつもの彼女らしくなく、亜紀の口調は強かった。
「できれば、魅力的な男の子になりたかったなあ」
「わがまま言わないの」
何が気に触わったのか、亜紀はプイと横を向いたままだった。それから電車が目的地に到着するまで3人とも口を開くことはなかった。

「座間いさみです。よろしくお願いします」
朝のホームルームでいさみは深々とお辞儀をした。そういう彼女はただの女の子に見えたに違いない。クラスメイトからは、男子生徒からは好奇と驚喜が、女子生徒からは嫉妬と軽蔑が感じられる。熱い視線を一身に浴びながら、いさみはどう行動しようか迷っていた。
「できたら、なるべく、女の子らしくしててね」
と真琴から一応言われてはいたが、真琴の目は「どうせ無理でしょうけれども」と正直に語っていた。それが彼女には少し悔しくてならない。
「趣味はスポーツです。勉強はちょっと苦手です」
顔を上げてから、彼女はそう言って、ためらい勝ちに担任の教師の方を見た。
「えっ、とみなさん。何か座間さんに聞きたいことはあるかしら?」
担任はクラスの生徒に聞いた。待ってましたといわんばかりに、矢継ぎ早に男子生徒からの質問が飛んだ。
「彼氏はいるの?」
「スリーサイズは?」
「今日暇?」
「こんどの日曜会える?」
硬派ないさみには、こういうナンパな男の子の存在は気に入らない。そういう男子生徒の反応を見て、女子生徒はコソコソとなにか会話を始めていた。どうせ、「ちょっとカワイイと思っていい気になって」とかしゃべっているのだろう。
 騒然となったクラスの生徒たちを見て、いさみは、キレた。
バキッ!バキバキバキッ!
黒板の前で、大きな音がした。
「あっちゃー。あのバカ」
隣の教室で、亜紀が額を手で押さえていた。
手刀一閃、教卓は真っ二つに分断された。
「そこっ!女のこと考えている暇があったら、己を鍛えろっ己をっ!」
「そっち、コソコソせずにはっきり言えはっきりっ!」
叫んでしまってから一息ついて、いさみは少し冷静になった。
しまった、という考えが表情にありありと浮かんでいたが、もう遅かった。すでに廊下には他の教室からやってきた野次馬たちが教室を覗き込み、各クラスの担任達がクラスに戻るように促す。しかし、生徒はもちろん、言うことを聞かない。頭を抱えていたのは、亜紀だけではない。どのクラスの担任も「厄介な奴が来た」と心のうちでは苦々しく思っていた。
「座間さん、席はそっちですから」
担任の声が震えていた。いさみは引きつった顔で笑みを浮かべながら、自分の席へと向かっていった。
 朝のホームルームの一件があったから、いさみに近づこうとする生徒は一人もいなかった。
「いっちゃん、いっちゃん」
休憩時間になって亜紀が息せき切ってやってきた。
「なんてことするのよっ!もう!」
机を強く叩く。
「ま、いっちゃんに女の子らしくしてろ、なんて無理だとは思ってたけど」
目を細くしていさみをじろじろ見る。
「で、何の用だよ。そんなことをわざわざ言いに来たのか?」
「あ、そうだ。忘れるとこだった」
亜紀は自分の頭をコツン、と叩いた。
「今日の5時間目体育なの。いさみちゃん、体操服とか買ってなかったでしょ。買いに行かなくちゃ、と思って」
と言ってから亜紀は時計を見た。
「あ、もうチャイムなっちゃう!じゃ、また後でね」
亜紀は教室から去っていった。

 お昼休みになって、いさみはカバンから弁当箱を出した。
「いっちゃん、いっちゃん、お弁当一緒に食べよ」
手に弁当の包みを持って、亜紀がいさみの元へやってきた。
「お天気もいいし、中庭へ行かない?」
「中庭?」
生智学園の校舎はコの字型になっていて、その内側が庭園になっている。芝生が植えられ、ベンチなどが置かれてある。南側が校舎がない部分になっているので、採光もいい。桜が植えられていて、春ならは花見をしながら弁当を食べることが出来る。
二人が中庭にたどり着くと、すでに何人かの生徒がお弁当箱を広げていた。シートを敷いてねっ転がっている男子生徒もいる。その中に、真琴の姿もあった。元々亜紀と待ち合わせをしていたのだろう。
「どう、いさみちゃん。女子高生としての一日は?」
「ど、どうって言われても」
いさみは、返答を詰まらせた。しどろもどろになっているいさみに、真琴はさらにつっこんだ。
「亜紀ちゃんから聞いたわよ。いきなり教卓を叩き壊したんですってね」
くすくすと真琴は笑いながら、お弁当の包みを開けた。
「い、いや、あんなことした後、男子生徒は誰も寄り付かないし、女子生徒は俺を見るとこそこそと何かしゃべるだけだし、先生まで俺に近づこうとしないし……」
「そうだよねー。うちのクラスの男の子なんて、狂暴な女が来たー、って」
「ふん、だ」
体は女の子なのだから女の子として見て欲しい、という気持ちがないといえば嘘になる。でも、美少女としてじろじろ見られるのも嫌だ。少女座間いさみの心中は結構複雑であった。

購買部で体操服を買った後、亜紀といさみは、更衣室へと向かった。「女子更衣室」と書かれた部屋の前で、いさみは立ち止まった。何事もないように入っていく亜紀のそでをいさみは引っ張った。
「まさか、ここで着替えるわけ?」
「当たり前だよ。いっちゃん、ここ以外のどこで着替える気?」
「いや、そうはいっても、心の準備が」
「女の子の着替えなんて、もう自分ので慣れてるっしょ。他の人も見てるんだから、早く入る入る」
亜紀にうながされて、ようやくいさみは、真っ赤になりながら、女子更衣室の中に入った。
ブレザーの袖から両腕を抜き、丁寧にハンガーにかける。胸のリボンを外して、奇麗にたたむ。買ってきた体操服も、くしゃくしゃにするのではなくて、丁寧にだす。入っていたビニール袋はたたんで自分のかばんの中に入れた。ショートパンツをスカートの下にはき、ジャージをはき、スカートをするすると下ろす。
周りが女の子ばかりなのが幸いしたのか、恥じらいが、彼女を女の子らしく見せていた。その姿は豪快に教卓を叩き割った人間と同一人物には見えなかった。ふーん、あの子も女の子なんだ、カワイイとこあるじゃん、と思う人間が何人かいてもおかしくはない。
「座間いさみさん、だよね」
着替えながら、そう、話し掛ける少女がいた。
「う、うん」
上半身が下着姿のその子を真っ直ぐ見つめることが出来ず、うつむきながら、いさみは答えた。
「あたし、清家智佳。よろしくね」
真っ赤になって下を向いたまま制服のボタンを外すいさみを見て智佳はちょっと呆れていた。
「女の子同士で何はずかしがってんの?」
「ごめんねっ。この子ちょっと特別なの。」
助け船を出したのは亜紀だった。真っ赤になりながらいさみは必死になって着替えていた。
「ホント、変な子。」
女子更衣室の中で真っ赤になっているいさみを智佳はじっと見ていた。
 智佳と亜紀といさみの三人は体操服に着替え終わると、そのまま一緒に更衣室からグラウンドへ向かっていた。更衣室は校舎の二階にあって、すぐ降りると下足室があって、すぐ外に出られる。
「ふーん、亜紀ちゃんといさみちゃん、一緒に住んでるんだ。」
もともとは一階にあったのだが、盗難と覗きが多発したので二階に女子更衣室は新設された。
「三年の海野真琴ちゃんもいっしょだよ」
亜紀は歩きながら智佳に話した。
「海野先輩も?去年も冬に転校してきた人よね。物静かで優しいいい人だよね。」
智佳がそういうのを聞いて、いさみはぽつりとつぶやいた。
「あいつの本性知らないもんなあ……」
いさみは、彼女が自分の腕を砕いたときのことを思い出していた。確かにいつもの真琴は物静かで優しい。しかし、それはあくまでも演技である。取り繕った演技で自分を隠しているのが分かるだけに、いさみは彼女がキレた時のことが怖かった。
グラウンドにはすでに何人か女の子たちが集まっていた。。もっとも、男子生徒たちとは違い、女の子はグラウンドのすみっこに固まっておしゃべりをしているだけ。筆者としては、勝手に準備運動をしたり、ウォームアップをしている女の子がいてもいいと思うのだが、あまり見たことはない。なぜなのだろう?
「きぃーーーー!」
グラウンドの平和な光景を無粋な声が砕いた。思わずひらがなで書いてしまったが、黒い集団が奇声を発しながら女生徒たちに襲い掛かるいさみにとっては忘れるはずはない。
「ダノーマとかいったか」
考えるより早く、体が動いていた。ほかの女の子たちに彼らは襲い掛かっている。体操服姿の女の子に襲い掛かる、というと筆者は「へんたい」の四文字が頭に浮かぶが、それが浮かんだのは筆者だけではない。女子高生たちはき悲鳴を上げている。ダノーマたちの目的はわからない。せいぜいが、抱き着いたり、胸を触ったり、お尻を触ったり、と正直なところ痴漢行為が関の山だ。柔道部にでも所属しているのか、ダノーマたちを投げ飛ばしている子もいる。しかし、その程度では彼らはめげない。再びターゲットを女子高生に捉え、再び活動を開始するまでのことだ。しかし、その行為が「女の子が悲鳴をあげる」程度で止まっているのが不可解だ。彼らの目的はなんなのだろう?
「やめんかっ、きさまら。見ているだけではずかしいっ!」
クラスメートの一人に抱き着いたままはなれないダノーマの一体に、いさみが後ろから蹴りを入れた。鈍い音がして、そのままダノーマは崩れ落ちた。亜紀はといえばいつのまにか右手に銃を持ち。的確にダノーマに命中させていく。動いている敵だというのに、見事な腕前、というべきだろう。次々に気絶したのか倒れていくダノーマたち。彼らは劣勢になったのを見て、倒れた仲間と共に去っていった。
いさみは、グラウンドの隅っこにいる白衣の青年に気がついた。
「真行寺、きさま一体そこで何をしている」
いつのまにやら真行寺がカメラをまわしている。
「え、あまりにも萌える構図だったからビデオにとっていたんじゃないか。謎の怪人が体操服姿の女子高生を襲う図。くうっ、萌えるぜっ」
「やめんかっ!」
頭をなぐる。
「博士へんたいっ」
「へんたいで悪いかっ!」
「悪いわっ」
本当に緊張感がない奴である。
 そのときだっ。
「宇宙戦争」にでてきた火星人のような風貌の怪人が現れた。
「ええいっ、小娘どもに簡単に蹴散らされよってからに情けないっ。トランスギャルズはどこだっ!」
「また変なのが出てきたなあ。とりあえず、タコだから、オクトパスノーマっていうところか?」
「なぜ俺の名前が分かった?」
いさみは思いっきりずっこけた。亜紀の頭の後ろには大きく汗のマークが浮かんでいる。
「安直」
「作者のやつ思い切り手を抜いているな」
そんなことはない。ちゃんとした命名規則に従っているのだっ!
「そっちから来ないならこちらから行くぞ!」
オクトパスノーマがいさみのそばにやってきた。その8本の手足でいさみの手足をおさえ、余った手足が体操服の隙間から服と肌の間に侵入する。
「なにすんだよ。このすけべっ。わ、どこ触わってんだやめろってば!」
なんとか、オクトパスノーマに反撃を加えようとするが、軟体動物のその体は肘で叩いても手足をばたばたさせても反応がない。オクトパスノーマの手足がいさみのどこをどう触わっているかはご想像にお任せしよう。その動きがいさみの戦闘能力を急速にうばっていることは間違いがない。
 亜紀と真行寺はごくり、とじっと行く末を見つめているだけである。顔は紅潮し、息はかなり荒くなっている。真行寺がじっと見て動かないのは分かるとしても、亜紀までが魔法にかけられたように動かない。
 そこに青い影がオクトパスノーマのそばに現れ、8本の手足が切り落とされた。
「真琴!」
ほっと安堵のため息を漏らすいさみ。そして、ちっと舌打ちをする真行寺と亜紀。
「何やってるのかしらね。全く」
「すまん」
息を整えながら、謝るいさみを真琴に首を振った。
「いさみちゃんのことじゃないわよ。そこでじっと見物してた二人のこと」
目を細くしてジロっと真行寺達二名の方を向く。小さくなる真行寺。
「でもそんなこと言っている場合じゃなさそうね。」
そうこうしているうちに、オクトパスノーマは自力で立ち上がり、見れば、オクトパスノーマの手足が切れたところから、にゅるっと生えてきている。
「真行寺と亜紀へのおしおきは後だ!先にあいつにさっきのお返しをしてやる。乙女の怒りを思い知れっ!生成!バイオアーマー!」
いさみが叫んだ。
いさみの皮膚の表面に赤い細胞の塊が数個現れた。あるものは、額、あるものは手、あるものは足。それは一瞬彼女の全身を多い、そして、形作っていく。亜紀も叫んだ。
「生成!バイオアーマー!」
赤、青、白と三種類の生きた甲冑を身に纏った三人が、ここに集結した。

「さっきのお返しだっ」
いさみは間合いを詰め、突きを繰り出した。エネルギーフィールドに包まれた右腕は見事にオクトパスノーマの体を貫通するが、手応えがない。
「そんなものきかんわ」
貫通した傷口がふさがっていき、いさみの右腕を固定した。
「ぬ、ぬけない。」
「くらえっ!」
電撃がいさみの全身を走った。
「うわあああああ!!!」
もだえるいさみ。生体兵器と言えども、直接の電撃にはもろい。もともと、設計思想としては通常兵器への戦闘を想定して作られているのだ。
「いさみちゃんっ!」
光る剣でいさみが捕まっている部分を切除し、いさみは自由になった。
「何度攻撃しても再生するばっかりだ。しかも接近したらあの電撃が来る。」
「博士、あの怪人に弱点はないの?」
真琴は意外な人物に助けを求めた。
「頭部には脳がある。そして、奴の体の中央部にポンプのようなものの存在が確認できる。映像を送るぞ!」
真行寺からの怒号が飛ぶ。あのカメラはただの隠し撮り用のカメラではなく、透視スキャンも兼ねていたようだ。彼も別に遊びに来ていたわけではないらしい。バイオアーマーにはバイオチップが装備されていて、頭部ヘルメット部の画面ビューワーには映像を表示することができる。いまは画像ビューワーはオクトパスノーマの映像の上に2つの十字マークが現れていた。一つは、脳の位置、一つはポンプの位置だ。
 亜紀が両手を組み合わせ、精神を集中させた。無数の光球が亜紀の周囲に現れる。
「こしゃくな、何をするつもりだ!」
「あら、あなたの相手は私よ!」
背後から真琴が切りかかった。
「ふん、甘いわ」
オクトパスノーマは難なくよけた。その瞬間体の位置が入れ替わる。亜紀の位置がオクトパスノーマの背後になる。
「いっけ〜〜〜」
亜紀の放つエネルギーフィールド。今回は散弾銃のように無数の弾丸がオクトパスノーマの頭部を襲った。
「くわっ」
隙を突かれて声を上げるオクトパスノーマ。脳に直接打撃を食らったために、軽い脳震盪を起こしたようだ。オクトパスノーマはくらくらと揺れているが、完全に戦闘能力を奪えたわけではなかった。しかし、いさみが接近するぐらいのすきはできた。
「くらえっ」
いさみの鉄拳が頭部に飛ぶ。ただし、今回はエネルギーフィールドを故意に張らなかった。直接打撃を与えることを目的としているのである。いくら軟体動物とはいえ、脳に直接衝撃をくらっては、ひとたまりもない。オクトパスノーマの動きは完全にストップした。
「真琴、今だ!」
真琴はエネルギーフィールドを槍の形に変え、オクトパスノーマのポンプの部分を突き刺した。赤い体液がどくどくとあふれてきた。そしてそのまま、オクトパスノーマは静止した。
 戦闘が終わった後、真行寺はいさみと亜紀の姿を見て言った。
「体操服の上のアーマー着用も、なかなか萌えるなあ」
じろじろと、真行寺は亜紀といさみを見る。
「でもやっぱり、ぶるまぁと半袖体操服の方が一番だろうな。夏を楽しみにしておこう」
いさみがあることに気が付いた。
 真行寺の手下達がオクトパスノーマの遺体を校舎の方へ運んでいる。そう言えば、今日は車の姿が見えない。いさみは、スタッフたちに尋ねた。
「おい、そっちは学校の校舎だぞ、いいのか?」
亜紀と真琴が大きな声で笑い始めた。
「何がおかしいっ」
真っ赤になって真琴に詰め寄る。
「だっていさみちゃん、真行寺博士のラボってここの地下よ」
「え?」
呆然とするいさみ。今まで車で連れてこられていたから全く気が付かなかった。
「じゃあ、真行寺がここにいるのって」
「彼は表向きはここの生物の教員なの。スタッフ一同そうよ。何らかの形でこの学校のスタッフを兼任しているわ」
いさみは頭を抱えた。
「あんな変態どもに、俺は授業をうけなきゃならんのか?」
「大丈夫だよ〜。みんないいひとだから」
亜紀がからからと笑いながら言った。いさみの頭の後ろには大きな冷や汗が浮かんでいた。

 チャイムが鳴った。
「起立、礼」
礼をした後、学生たちはめいめいの方向に歩き出した。その中で一人、自分の座席に座り込み、「ふみ〜〜」とため息をついている少女がいる。いさみである。無理もない。なれない女子高生としての一日にノーマの怪人まで現れたのである。精神的にも肉体的にも疲労はピークに来ていた。
「どうしたの?ため息なんかついちゃって」
智佳がいさみの前に立っていた。
「いさみちゃん、今日これから暇?」
「ごめん、今日もう疲れてて……」
といさみが言おうとしたとき、今度は亜紀が邪魔をした。
「いっちゃ〜ん。あ、智佳ちゃん」
「亜紀ちゃん、いさみちゃんをお茶に誘おうと思ったんだけど、亜紀ちゃんも一緒にどう?」
智佳が亜紀を誘い出そうとすると、今度は真琴まで現れた。
「あれ真琴ちゃん、どうしたの?」
「いさみちゃんの様子を見に来たの?どう?」
「智佳ちゃんとおちゃするんだけど、真琴ちゃんも来ない?」
「それだったら、うちに智佳さんを呼んだら?」
「え?いいんですか?」
目を輝かせる智佳。
「遅くなったら私が送るわ。いらっしゃい。歓迎するわよ」
わいのわいのと会話を弾ませる3人を横目に、いさみはつぶやいた。
「も、勝手にしてくれ」
いさみの心情とは別に、空は抜けるように青かった。

次回予告 真琴です。私たちの街で変な事件が起こってるの。あちこちで飛び降り自殺者が増えてるし、妙な交通事故が増えているの。真行寺博士は「ノーマの仕業だ」っていうんだけど。どうなのかしら?
え、いさみちゃんのお友達が屋上から飛び降りた?

次回、生命戦隊トランスギャルズ5話「恐怖のイリュージョン」

今度の敵はちょっとやっかいね。
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