『 ハロウィンパーティー 』

 西日差し込む店内の止まった空気を、天井に付けられた古い扇風機がゆっくりとかき混ぜる。
「すっげぇ店だな」
 男子高校生の一行が訪れたのは、細い裏路地を抜けて、都会の喧騒から隠れるように存在する一軒の小さな小物屋だった。
 所狭しと並ぶ海外直輸入のグッズの数々は、表通りのファンシーショップにある分にはおかしくも何ともないのだが、店の古い佇まいと相俟ってそれらは魔法の道具にも思えてくる。
 悪魔でも封じ込められていそうな妖しげな輝きを持つ瓶詰めの宝石――コルク栓の上に置かれた正札を信じるなら、それは大粒のキャンディーなんだろう。
「雰囲気は不気味だけど、結構品揃えが良いんだぜ」
 高校生の一人が言う。
 彼らは、文化祭でやるお化け屋敷の扮装用の道具を求めて、ここに訪れたのだ。
「確かに、表通りの店よりも、こっちの方が雰囲気に合いそうなモノばかりだな」
 見渡せば、オブジェとして置かれた髑髏と目が合う。
 本物の人骨を目の当たりにしたことのないが、それはとてもイミテーションとは思えないほどのできだ。
「それで、何を探すんだ?」
「えぇ〜っと、まずは俺達の変装用の衣装や着ぐるみだな。後は、余った金で調度用の小道具の類を適当に物色すればいい」
「おーい。衣装なら、ここら辺のが良いんじゃないか?」
 そこには、パーティーグッズの変装用の衣装が置かれていた。
 狼男のマスクやら宇宙人のお面に――少し異質さを感じさせるちょんまげのヅラまで、各種取りそろっている。
 さらには、衣装も一通り揃っている。
「へぇ〜、ここって試着しても良いんだ」
 高校生の一人が見ていたのは、壁に貼られた小さな張り紙だった。
『試着可』
 それはいい。ただ、その後に続く言葉に彼らは首を傾げた。
『ただし、最後に着た商品を買い取って貰います』
「なぁ、これってどういう意味なんだ?」
「さぁ……。とにかく試着してもいいなんて珍しいから、自分にあった衣装を探そうぜ」
 一人が身近な棚に置かれた狼のマスクを手に取り、それを被ってみた。
 まるでオーダーメイドであつらえたようにそれはピッタリと彼の頭にはまり、しかもこの手のモノには付き物の臭さは感じられなかった。
「すっげぇ、まるで本物みたいじゃないか」
 一人がマスクを触れてみる。
「ひゃっは☆」
 変な声を上げるマスクの高校生。
「おい、止めろよな。くすぐったいだろ」
「くすぐったいって…………マスクの上から触れたんだぜ。そんなモノを感じるのか!?」
「感じるからしかたないだろ」
 そう言って、マスクを脱ごうとするが、脱げない。
「えっ? マスクが脱げない――」
「はん? 俺達を脅かそうとしてるんだろ」
 マスクを脱がそうとマスクと身体の隙間に指をかけようとするが――
「隙間が無いぞ!!」
 ボサボサに生えている毛を掻き分けてマスクの端を見てみると、そこは完全に身体と一体化していた。
「おい、何なんだよ、これ!? 完全に同化してるぞ!!」
 驚く男子高校生達。
 一番錯乱しているのは、マスクを被った少年だった。
「誰か、何とかしてくれよ。俺、一生狼なんて嫌だぜ!!!!」
「ちょっと待ってろ。今店員に――」
 カウンターの奥に居る店員に顔を向けると、彼はマスクと一緒に置かれた取扱説明書を見るように告げた。
「説明書?」
 それには、
『商品名 変装用狼男マスク(魔法付加)
 注意事項 一度の装着で、30分間の間を完全な狼男になることができます』
 と、小さな文字で書かれていた。
「魔法付加って……?」
 カウンターを見ると、店員は奥に行っているのかそこにはいなかった。
「とにかく30分待ってみようぜ」
 一人の提案に、彼らは30分間待ってみることにした。


「後、何分だ?」
「もう30分にな――」
 言葉言い終わらずに、マスクを被って狼男になった高校生の頭から狼のマスクが消えた。
 まるで、魔法を見ているかのように……
 否、説明書が正しければそれは実際に魔法なんだろう。
 消えた狼男のマスクは、いつの間にか先程あった棚の上に戻っていた。
「…………」
 摩訶不思議な出来事に言葉を失う高校生達。
「これって、決められた時間の間だけ『本物』になれるわけ……ってことか?」
「だろうな」
「魔法ってのがよく分からないが……面白いな」
「ああ。本物になれるなら、お化け屋敷を完璧なモノにできるな」
 心の中では、コトの不思議さよりもコトの面白さが勝り、彼らは色々と物色し始めた。
 ある者はフランケンシュタインになり、またある者は河童になっていた。
「おい、似合うか?」
 背後から掛けられた声に振り返ると、そこにはUFO特集に出てくる『リトルグレー』が立っていた。
「何だよ、それ? それに背も縮んでいないか!?」
「まぁな。そこに試着室があったから、マスク以外にタイツを着てみたんだが……」
 目の前にかざした三本の細長い指で指さす先には、試着室が存在していた。
「完全にリトルグレーになってる」
 とても着れそうになかった全身タイツだが、それに足を通した瞬間から、彼の身体はそれをやすやすと着れるように変化していた。そして、三本指の手袋まで指を伸ばした時には、完全に彼の指は三本に変形していた。
 それからも、彼らは色々と変装を楽しんでみる。
 面白いことに、変装している上から新たに別の衣装を着込めば、姿はそちらに変わっていた。
「最後に着込んだ衣装って――このコトなのかな?」
「さぁ……」
 天狗に問われてドラキュラが答える。
「別に時間が経てば脱げるんだから……関係ないと思うけどな?」
 あらかた殆どのモンスターの変装を楽しんだ高校生達。
 彼らの視線は一つの棚に注がれていた。
「なぁ――」
「――ああ」
「これ、着たら――」
「――――多分な」
 そこにあったのは、バニーガールとか看護婦の制服とかのいった、女性用のコスプレ衣装だった。探せば、制服だけにあきたらずゲームやアニメの衣装まで各種取りそろえられている。
「お前……着てみろよ」
「そう言うお前が先に着ろよ」


「みんなでそれぞれ着てみるか?」
「そうだな」
 それぞれが好きな衣装を手に取る。そして、試着室に向かった。
 狭い店内の割には、奥の壁一面に設置されている試着室は、彼らの人数分があり、同時に入ることができた。
 試着室の奥に設置された鏡には自分の姿が映り込む。最後の変装の期限が過ぎたのか、鏡に映るのは学生服のいつもの姿だ。
 ただ、違和感があるのは、彼の手に握られている女性用の衣装――
 少し心臓が逸るのを感じながら、まじまじと衣装を見つめる少年。
 それは、お遊びのパーティグッズとは思えないほど、しっかりとした生地に縫製も完璧な出来であった。
 ゴクッ――
 生唾を飲み込み、それを着やすい様に広げる。


 レオタードの先に網タイツに通した脚は、いつものすね毛が生えた筋肉質の脚ではなく、細く柔らかく滑らかな質感を持った艶めかしいものと変わっていた。
 レオタードを着込むと身体の変化は如実に現れる。
 真っ平らだった胸はふくよかに膨らみ、腰は見事にくびれ、尻尾付きのお尻はぽっちゃりと丸みを帯びている。
 ウサギ耳を付けようと髪の毛に触れると、短かったそれは腰まで届く長さに伸びていた。


 羽織を羽織ったときにはさしたる変化は感じられなかった。そして袴を履くと、少し苦労しながら腰帯を縛る。
 いつの間にか伸びた髪は、黒く綺麗なストレートで流れていた。
 微かな胸の圧迫を感じ、きっちりと併せた襟元に指を突っ込んで隙間を作り中を覗いてみると、そこには滑らかで柔らかそうな膨らみが見える。下着など付けていない。
 更に言えば、下半身には頼りない涼しさが感じられる。
 それは当たり前だ。着物に下着は無いのだから――


 その白さは、彼に不思議な倒錯を感じさせた。
 全てを着込んだ今、身体は完全に変わっていたが、まだ鏡は見ていない。少し恐いのだ。
 白いタイツに白いタイトスカート。全身が白一色に統一された清潔さは、普通なら触れがたい、侵してはならない憧れの存在だ。
 最後に、アップにまとめられた髪の毛の上に、小さな帽子をかぶり、鏡に向かって振り返った。


 それはグランドの片隅でよく見ていた。丈の短いスカート。
 ズボンを脱いでスカートを履いてみると、短い丈のため下のトランクスが見える――がそれも、どう考えても閉じれそうにないホックを留め、ジッパーを上げると、消えて無くなっていた。
 少し灼けた健康そうな脚。腰を振ってみると、めくり上がった裾の下から白いショーツが見える。
 スカートと同じように丈の短めのシャツを着る。
 後、足下に転がっているのは小道具の二つのボンボンだった――


 試着室から出てきた彼らは、各々の変化に驚き、そして羨望の眼差しを向ける。
 ある者はバニーガールで、別の者は大正浪漫の女学生。またある者がナースなら、チアリーダーに鳴っている者もいる。
 ただ一つだけ言えることは、皆が皆、モンスター時と同じように完璧な美女になっていたのだ。
 一通り自分達の姿を見つめ合った後、彼らは更なる衣装を片手に、試着室へと入っていく。
 そして、
 説明書の『持続時間 永久』にの一文に気付くのは、店頭に並ぶ一通りの服に袖を通し、最後にお気に入りの衣装を選びだした後のことであった……




□あとがき□

 …………(ノーコメント)
 ――――って訳にもいかないので一言。
 収拾付かなくなるので、ここで止めときます(爆)


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