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パラレルTSストーリー「切望」シリーズ
CASE1.伊藤真由美の場合
作:KCA




仕方なく、俺はリストにもう一度目を通す。
なにせ文字どおり「人生の転機」だ。慎重にいくにこしたことはない。

−−ふむふむ、女子高生が多いな。高校生活をもう一度というのも、
捨て難いが……。

あとはOLに看護婦、アイドルとそのマネージャー……。

「おおっ、スゴい! メイドさんだ!!」

うーむ、現代の日本にそんな古風な職業が残っていたとわ。

「ハーイ、リストナンバー5番の伊藤真由美さん、19歳、
職業メイドさんですね〜!」

−−い!?

「ちょ、ちょっと待った!」

「だーいじょーぶですぅ、痛くありませんし、すぐすみます
からぁ」

−−そういうワケぢゃないって!!

と、抗議するまでもなく、俺の意識は光の渦に飲み込まれていった。


× × ×


「どうしたの!? 真由美さんっ!」

え……?

意識を取り戻した俺の身体を誰かが強く揺さぶっている。

30歳ぐらいの、なかなか美人だがちょっとキツそうな女性が
俺の顔を覗き込んでいた。

「私が誰だかわかる?」

須藤、というその女性の名前が頭に浮かんでくる。

「−須藤さん……」

見れば、どうやら俺は赤い絨毯の敷かれた床に倒れたのを抱き
起こされたところらしい。

「よかった。意識はしっかりしているようね」

ようやく身体に力が戻って来たようなので、俺は須藤さんの手を
借りて立ち上がる。

白くて細い須藤さんの手に負けないくらい華奢な自分の手を見て、
俺は現在の事情をようやく悟った。

「はい、ご迷惑おかけしました、メイド長」

そう、俺は今、曽根田家に仕えるメイドの伊藤真由美になって
いるはずなのだ。俺の呟きを誤解したファジィの手によって……。

「いいのよ。それにいつも言ってるでしょう? そんな堅苦しい
呼び方じゃなく、"朱美"でいいって」

ホッとしたのか、厳しく見えた女性−須藤朱美の表情が緩やかに
ほころんだ。

真由美の記憶をたどる限り、確か彼女はこの屋敷でもいちばん古株
のメイドで、その他のメイドを統括する立場にあるはずだ。

確かに仕事に厳しい面はあるが、本質的には後輩を気遣う、性根の
優しい女性だ……と記憶している。

「それより、一体どうしたの?」

「あの…ちょっと立ち眩みが……」

とっさに上手い言い訳が思いつかず、適当に誤魔化す。

「さては寝不足ね? また、みちるお嬢様の我が侭に付き合った
のでしょう?」

よく事情が飲み込めず、曖昧な笑みを浮かべる。

「もうっ! 貴女とお嬢様が仲が良いのは承知しているけど、
あまり夜更かししては駄目よ。私たちの仕事は朝が早いのだから」

「ハイ…」

「それじゃあ、後はお嬢様の部屋の掃除だけね。任せたわよ」

「はい、わかりました」

傍らにあった掃除道具一式を持って、俺は二階の廊下の端にある
曽根田みちるの部屋に入ると、ドアに背にズルズルと崩れ落ちた。

「フゥッ……き、緊張したぁ…………」

なにせ、いきなり伊藤真由美になってすぐに、彼女をよく知る者
と会話をせねばならなかったのだ。さすがに神経がすり減った。

そのままぼんやりと視線を床にやると、自分の−つまり伊藤真由美
の−脚が目に入った。

だらしなく投げ出された両足が大股開きになっており、丈の長いス
カートの裾から赤い革のローヒールを履いた足先と、白いタイツに包
まれたくるぶしが見えている。

そういえば……。

「俺、いまメイドさんになってるんだっけ……」

ゴクリ、と唾を飲んだあと、俺は立ち上がって、みちるの部屋の
隅にあるドレッサーの前に立った。

鏡の中には、青い半袖ワンピースと白いエプロンという絵に描い
たようなメイドさんルックの少女の姿が写ってた。

幅の広い赤いリボンでウェストを締め上げているせいか、ヤケに
胸が強調されて豊かに見える。

微かにウェーブした長い栗色の髪は、首の後ろで同じく赤いリボ
ンでまとめられている。額のやや上には、メイドの象徴とも言うべ
きヘアタイが止められていた。

多少ふくよか目で優しい顔立ちは、服装ともあいまって、いかに
も"理想のメイドさん"といった雰囲気を醸し出していた。

しばらく今の自分の姿に見とれたあと、ふと我に返った俺は、掃除
セットからハタキを取り出して、みちるお嬢様の部屋の掃除を始めた。

フンフンフ〜ン……。

知らず知らずに鼻歌が漏れる。

元の身体にいたころは掃除なんて滅多にやらなかったのに、この
身体が手順を覚えているせいか、妙に楽しい。

「あのぅ、お取り込み中失礼ですが……」

「きゃあ!?」

突然、すぐ背後から声をかけられて、俺はびっくりして飛び
上がった。

うむうむ、悲鳴は「きゃあ」に限るな……などとバカなことを考え
ながら振り向けば、事の元凶たる見習い天使ファジィが、ふよふよ
と宙に浮かんでいる。

「あ、ファジィ、テメェ……」

「先ほどから見てましたけど、じゅーぶん満足していただけたよう
ですね〜」

ファジィの勘違いを責めるつもりだった俺は、その言葉を聞いて、
ピタリと動きを止めた。

「…ずっと、見てた?」

「はい〜、ですから、メイド長さんとの会話も、この部屋で自分の
姿に見とれてらっしゃる所も、楽しげにお掃除してらっしゃる様子も、
しっかり確認しましたぁ」

…………。
顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

これでは、とても「メイドになんかなるつもりは無かった」なんて
言い出せる雰囲気じゃないし、言っても説得力がない。

「では、今日のところは、私はこれで失礼させていただきますぅ」

ん? 「今日のところは」?

「それってどういう意味?」

「えっと、何でも3日以内なら、"くーりんぐおふ"がきくわよ、って
ベル様がおっしゃってました」

クーリングオフ?

「……それって、この身体から出られるってこと?」

「はい! で、2日たったら、また私がここに来ますので、その時に
このままでいいかどうか、お聞かせ下さぃ〜……」

語尾の途中で、消えていくファジィ。

そうか、もういっぺんチャンスはあるのか。
だったら、せいぜいこの状況を楽しまないとな。

風呂場でみちるの背中を流したり、メイド部屋で2歳年上の
同室のメイドとふざけあったりしている、真由美の記憶の断片
が頭の中に浮かんでくる。

なかなか楽しい、3日間になりそうね……。

俺−いや、私はニッコリと微笑んだ。

<END or Continue?>

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(後書き)

はい、自ら提唱した「切望」シリーズの第1弾はいかがだったでしょう
か? ……って、終わっとらんやんけ! まあ、続きは皆さんの反応
次第ってことで。

「切望」の基本コンセプトは、「他人の人生をそっくり奪い取る、そこは
かとなひ悪のかほり」なワケですが、今回はその部分の描写があまり出
てこなくて、ちょっと失敗かも。

次回は、テニス少女敦賀唯か、ファミレス少女の仲田妃香里で書く予
定。とはいえ、突発的に鈴代美代子あたりの看護婦さんに走る可能性
もありますが……。まあ、期待せずに待ってて下さい。


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