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――萌え燃えっ! 白塁学園高校女子ロボTRY部 EX4――

HERO美少女変身騒動っ(後編)

・・・あるいは、「女美川ヤマト 新たなる旅立ち(笑)」

                      CREATED BY MONDO




【前編のあらすじ】

 スーパーメガパペット(競技用有脚マニピュレーター)《バンガイオーRV3》を駆って白塁学園高校の自由と平和を守る女美川ヤマト。

 だが、悪のメガパペット・プレイヤー藤原ほのかの魔の手にかかり、彼は「小早川なでしこ」という名の少女に強制転生させられてしまう。

 小学生の女の子として暮していくうちに、徐々に精神――人格さえも少女化していくヤマト。

 しかし、盟友飯綱甲介との出会いによって再びヒーローとしての自我を取り戻した彼は、愛機とともに今、最後の戦いに挑むっ!!



 …………話がそこはかとなく違っている気がするので(笑)、くわしくはHERO美少女変身騒動っ(前編)を読み直すのだっ。






ボクはなでしこ。小学生の女の子だよっ♪
 玄関のドアを開けて、ひとりの少女が「行ってきま〜す」の声とともに外へと出てきた。
 柔らかな朝日を浴びて、んっ……と伸びをする。
 長いしなやかな髪、愛らしい顔。
 小柄なその身体を包むのは、名門聖アルビオン学園初等部の制服――
「あ……」
 初秋の爽やかな風が、スカートの裾をふわっとなびかせる。
 セーラー襟とリボンの下には、ジュニアブラに覆われた膨らみかけの胸。
 気恥ずかしさと……そして、ほんのちょっぴりの誇らしさ。
 大きくなるかな? うんっ、きっとなるよね……

「おっはよ〜っなでしこっ。今日はずいぶん早いわねっ」
「あっ、み、みゃあちゃん? ……お、おはよう」

 ぱたぱたと走り寄ってきた友だちに、小声でたどたどしく挨拶を返す。
 まだ少し、身構えてしまう……。
 でも、いつの間にか彼女のことを、自然に「みゃあちゃん」と呼べるようになってきた。

「……おはようございます、美也子ちゃん、なでしこちゃん」
「お、おはよう、桜子……ちゃん」
「おはよう桜子。……珍しいわね、こんな時間に」
「たまにはおふたりとご一緒に登校したいと思いまして」

 もうひとりのクラスメイトが、笑みを浮かべて小首をかしげた。
 そのまま三人で肩を並べて、いつもの通学路を学校へと歩いていく……

「……ところでなでしこ、こないだの “先輩” さんとは、あれからどうなったの?」
「え?」

 ……何気ないその一言に、胸が高鳴る。

「そうですわ。わたしもそのことについて、いろいろとおうかがいしたいな……と思っていましたの」
「い、いや……その、べ、別に――」
「またぁ。なんか以前から知ってたみたいだったし……」
「それに取材の時、ふたりっきりでお話されてたみたいですし……」
「あ……あれは…………」
「怪しいなあ」
「怪しいですわ」
「だ……だから、その――」
 思わず顔を赤らめ、口ごもる。……どきどきが止まらない。
 だけど、そんな女の子同士のやりとりが何故かくすぐったく……そして心地よい。
 まるでクリームソーダのふわっとしたクリームを口に含んだまま、甘酸っぱいソーダ水をストローで一気に吸い上げたような――

 して…… 「……?」

 誰かに呼び止められたような気がして、その場に立ち止まる。

「どうしたの? なでしこ」「――なでしこちゃん?」

 怪訝な表情を浮かべて、二人が顔を覗き込んでくる。

 …………して……、…………えして……

 再び耳元でささやかれ、反射的に振り向いたその瞬間――


「・・・返してぇっ! ボクの身体ああぁっ!!」


 裏返った胴間声(どうまごえ)とともに突然現れた人影が、いきなりつかみかかってきたっ!!
 脚がもつれ、あっ――と思う間もなくバランスを崩す。
 そのまま互いにもつれ合いながら、急な石造りの階段を一気に転がり落ちていく……

「き・・・きゃああああああああっ!!」

 ……………………………………………………………………………………どさっ。



「…………ん……っ」
 かすかなうめき声を上げて身じろぎすると、少女は唐突に身を起こした。
 しばしそのまま呆然とたたずみ、やがて両手をしげしげと眺め……おそるおそる自分の顔や身体を触っていく。
 そして――

「……も、元に……元に戻ってるっ! きゃーっ!!」
「あ……ま、待っ――!?!?」

 その背中に呼びかけようとして……口からもれた野太いおっさん声に息を呑む。
 得体の知れないおぞましさをおぼえ、とっさにそばにあったカーブミラーを見上げると……

……!」

 迷彩柄のアーミーパンツに、ジャングルブーツ。
 ごつごつした胸筋にぴちっと張りつく、モスグリーンのランニング――

………………これがっ……

 丸太のような四肢と、盛り上がった肩の肉に埋没する太い首。
 節くれだった指、ごわごわした手の甲、落ちくぼんだ金壺眼に、角張った頬としゃくれたアゴ……

「これがっ……これがっ…………これがあああっ……

 そして股間に屹立(きつりつ)する、漢(おとこ)の拡散波動砲(笑)っ!!

…………これがああっ……ボクううううお゛お゛お゛お゛お゛おおおおおお〜っ!?」


 ちゅどおおおおおおお〜んっ!!


 鏡に映った自分は、さっきまでとは似ても似つかぬ…………生暑苦しいまっするオーラを放つ怪しげな巨漢と化していたっ!

「い、い、い、・・・いぎゃああああああああ〜っ!!!!」

 のけぞるように身をよじり、頭を抱えて血の涙をだくだくと流す。
 精神がゲシュタルト崩壊を引き起し、お脳の神経が四、五十本まとめて断線するっ。
 そしてどこからともなく……あの呪文(笑)が風にのって聞こえてくるっ。

 むき、むき、むきむきむきむきっ……
 女美川むきむき、女美川むきむき、女美川むきむきだっ。

「はぁ〜っはっはっは〜っ!! ・・・ビックリ王っ、演芸たあ〜いむっ!!」



「……あ」
 ベッドの上で上半身を起こし、パジャマ姿でまっするポーズをとって高笑いを上げていた少女は我に返った。
 夢だった……。



「なでしこ……なでしこってばっ!」
「……!!」

 耳元で声をかけられ、教室の窓からぼんやり外を眺めていた彼女はあわてて後ろを振り向いた。
「……どうしたの? 朝っぱらからぼ〜っとして」
「い、いや……な、なん、で、もない…………ない、の、よ――」
 “友だち” に顔を覗き込まれ、しどろもどろに返事する。
 その声は甘く、愛らしいストロベリー・ボイス。
 視線を落とすと、そこにあるのは小柄な身体。
 華奢な肩、細い手首……スカートから伸びたしなやかな両のふともも。
 胸は慎ましげに膨らみかけ、そして下腹部から腰のラインは、子どものそれから思春期の少女のものへと変わりつつある……
「…………」
 制服に包まれたその身は、十一歳になったばかりの “女の子” の姿。

 そう……ヤマトは未だ「なでしこ」なのだった。



 白塁学園高校中等部に通うヒーロー熱血一直線少年女美川ヤマトは、ある日空から落ちてきた謎の光球(笑)に直撃される。
 ……そして気がつくと、彼は「小早川なでしこ」という名の女の子に生まれ変わっていた。
 驚天動地にして摩訶不思議なその出来事に、精神がパニックに陥るかと思いきや……何故か “なでしこ” としての記憶や言葉づかい、立ち振る舞いが身についており――



 かくしてヤマトは恥ずかしさに悶絶しつつ、(……持ち前の生真面目さも手伝って)なし崩し的に彼女の「ふり」をする破目になってしまったのである。



「……なでしこちゃんも、いよいよ “恋するお年頃” になったということですわ♪」
「そっか、そういうこと……」
 横から口を挟んできた桜子に、美也子は納得したかのような表情を浮かべた。
 藤森美也子、そして大豪寺桜子。聖アルビオン学園初等部の五年生で、なでしこと同じ文芸クラブのメンバー。
 もちろんこの二人は、目の前の彼女の「中身」が別人だなどとは露ほども思っていない。
「……じゃあ、相手はやっぱり昨日の “先輩” さんかな?」
「えっ?」
「取材の途中に二人っきりでお話してるんですもの……なでしこちゃんも隅に置けないですわね」
「……ほんと、いつの間に知り合ったのよ? あのメカニックの人と」
 いたずらっぽい笑みを浮かべる美也子と桜子。
「ち……ちちち違うっ。そ……そんなんじゃ、なく……て――」
 奇妙な既視感(笑)をおぼえながらも、無意識に顔を赤らめうろたえる。
 だが、二人は互いに顔を見合わせてくすくす笑うと、そんなヤマト(なでしこ)の方に向き直った。
「え〜っと確か……飯綱、甲介さん――でしたっけ?」
 口元に人差し指を当て、桜子が首をかしげる。
「そ……それは――」
「ふっふっふっ、ネタは完璧に上がってるんだっ。……さっさと白状せ〜い」
 芝居がかった含み笑いとともに、美也子がいきなり首筋にがばっと抱きついてきた。
「うわわっ、や……やめ…………や、やんっ……ち、ちょっと…………み、みゃあ、ちゃんって、ば――」
 いきなりくっつかれたヤマト(なでしこ)はさらに顔を赤らめ、身体をよじってくすぐったそうな悲鳴を上げる。
 まわりにいたクラスの児童たちが、何事かと一斉に彼女たちの方を振り返った……



「……あ……あの、え、……え〜っと――」

 秋風にひらひらすーすーするスカートを意識して、その裾をぎゅっと押さえつける。
 ヤマト(なでしこ)は顔を赤らめながら、駐機しているメガパペットの背中を開いて何やら作業をしていた高校生の背中に、おずおずと問いかけた。
「……ん?」
 彼――飯綱甲介はその声に振り向き、「……確か小早川さん、だったよね? ……取材?」

 どきっ…… 「……あ、え……えっと、そ、その……」

 優しげな笑顔を向けられて、もじもじと言いよどむヤマト(なでしこ)。
 身体の何処かが、きゅっ……と締めつけられるような感覚をおぼえて、思わずその身をすくませる。
 視線を落として胸元をそっと押さえると、どきどきが手のひらから伝わってくる。
 頬がまた、知らず知らずに火照ってくる……

 ――い、飯綱先輩って……あんな顔もするんだ…………

 “ヤマトの” 記憶の中の甲介は、いつも眉根をつり上げて睨み付けてくるか、半眼で呆れたような表情をしているかのどちらかなのだが――
「……どうしたの?」
 その声にあわてて顔を上げると、怪訝な表情を浮かべた甲介と……目が合った。

 ぽっ…… 「……いや、そ、その……」

 あわててまた下を向き、恥ずかしそうに小声で返事する。
「…………」
 目の前の甲介は、笑顔をかすかに引きつらせながら頭を掻く。
 さすがの彼も、目の前で小学生の女の子にこんな態度を取られると、どうしていいのか分からないらしい。

 ――で、でも……でもなんて声をかけたらいいんだっ!? 今のボクは………… “ボク” じゃないのに……っ!!

「……あ、あのさ…………何そんなに気合い入れてポーズとってんの?」
「……!!」

 両脚を肩幅に開き、右手を握りしめて左腕を水平に振った “いつもの” ポーズを無意識のうちにきめていた。
 思わず身を縮め、両腕で自分の身体を覆い隠す。
 長い髪と、小柄な少女の身体――
 膨らみかけの胸とショーツに覆われたフラットな股間を、いやが上にも感じてしまう。
「…………」
 ヤマト(なでしこ)はうつむいたまま指をもじもじさせ、「え、え〜っと、あ、あ――あの……」
「はい?」
「……あ、あの…………ど……どうして、こんなことして、いる……ん、ですかっ?」

 ……前からずっと言い続けていた。そして言い続けるたびに無視されてきた。
 飯綱先輩は、どうしてあんな連中と行動をともにしているのですか……っ!?
 絶対間違っていますっ! 飯綱先輩は…………そうっ! 先輩はっ、正義のために戦うべきなんですっ!!

「どうしてって…………まぁ、見ての通りメカニックだし――」
「そ……そうじゃ、な――なくて……ど、どうして、こんなクラブに、いるん……ですっ?」
「え〜っとそれは、ガキの頃からの腐れ縁……じゃなくて…………つまり、メガパペットの修理とか整備とかができる人間も必要だから、それで――」
「で……ですからそういうことじゃ、なくて…………い、飯綱先輩なら、その――もっと……もっとふさわしい役目が、ある…………はず、だと……」
 話がちっとも噛み合わない。
 思わず身をのりだすように詰めよりかけたヤマト(なでしこ)は、甲介の視線を受けて三たび顔を赤らめ、おずおずと口元に手をやった。
「…………」
 上目づかいに、その表情をうかがう。
 甲介は照れたような苦笑を浮かべ、目をそらせた。「そ……そう言われても…………オレ、そんなすごいプレイヤーじゃないし……」

 きゅんっ…… 「そ、そんなことないですっ!! ……い、飯綱先輩なら…………先輩なら、ボクの――」

「あ、いたいた…………って、あれっ? ……どうかしたの、なでしこ?」
 いぶかしげな口調とともに近寄ってきた美也子は、横にいた桜子に何やらひそひそと耳打ちされる。そして納得したようにうなずくと……
「……え〜っと、よろしかったら写真撮らせてもらえますか? この子と一緒に――」



「……なでしこ、なでしこってばっ。…………お〜い、もどってこ〜いっ」

 目の前で手をひらひらされ、昨日のことをぼんやりと思い出していたヤマト(なでしこ)は、ようやく我に返った。
「早く着替えないと、体育始まっちゃうよ」
「急がないとチャイムが鳴ってしまいますわ」
「……えっ?」
 二人にせかされてキョロキョロとあたりを見回すと、すでにクラスのほとんどが体操服に着替え終わっている。
 あわてて胸元のリボンをほどき、制服のボタンをはずす……

「ち……ちょっとなでしこちゃんっ!? 女子の着替えは隣の教室ですわっ!!」

 桜子の悲鳴じみた声に、きょとんとするヤマト(なでしこ)。
 はっと気づくと、クラス中の視線が何故か自分に集まっている……
「え? ……え…………えっ? あ……」

 次の瞬間スカートが、すとん――と足元に落ちた。

「い・・・いやあああああああ〜っ!!」

 男子たちの前で下着姿をさらしてしまったヤマト(なでしこ)は、甲高い声を上げてその場にしゃがみこんでしまった。



 放課後――

「……ほらっ、いつまでもべそかいてないで、しゃんとしなさいよっ」
「で――でも……」
 まだ、まわりからじろじろ見られているような気がする……
 小柄な身体をさらにちぢこませ、ヤマト(なでしこ)は美也子の背負った通学カバンの影に隠れるようにして下校する。
 今日は一日、ずっとこの調子……というか、今朝の一件で「なでしこ化」が、ぐっと進行したようだ(笑)。
「……なでしこちゃん、やっぱり昨日から少し変ですわ」
「いくら “先輩” のことばかり考えてるから……っても、あれはねぇ……」
「ち――違うっ……よぉぉ…………」
 二人の言葉に顔を赤らめ、もじもじと言いよどむ。

 ――あうあうあう……みんなに恥ずかしい女の子だって思われちゃったよぉぉ……………………って何言ってるんだボクはああっ!!??

 真っ赤になった顔から湯気を吹き上げ、ヤマト(なでしこ)は美也子たちのあとにくっついて校門を出た。
 ……と、背後からクラクションの音が。

「なでしこちゃ〜ん、迎えに来たわよ〜っ」

 運転席側の窓を開けて手招きするなでしこの母親を見やり、美也子と桜子は頷き合った。
「そっかぁ……今日から “お仕事” なんだ……」「がんばってくださいね♪ ……あとで必ずお電話しますわ」
 口々にそう言いながらうなずく二人に、ヤマト(なでしこ)はきょとんとした表情を浮かべて首をかしげた。
「仕事……?」



 母親が運転する車でヤマト(なでしこ)が連れてこられたのは、市内にあるフォトスタジオだった。
「あ……あの、いったい……」
「どうしたのなでしこちゃん? 大好きな『プリティ・レモン』の表紙モデルに合格したこと、あんなに喜んでたのに……」
「え……?」
 大手出版社が刊行しているローティーン向けファッション誌の名前に、ふわっ……と “なでしこ” の記憶が浮かび上がってくる。

「あ……そ、そう……そうそう……そう、だったよ――ね…………って、モデルぅ!?

 すっとんきょうな声を上げたヤマト(なでしこ)に、いぶかしげな表情を浮かべて首をかしげる母親。
 あわてて視線をそらし、目の前のドアを開ける。……そこには数人の女性スタッフが待ちかまえていた。

「……いらっしゃい、なでしこちゃん♪」
「オーディション以来ね。……あたしたちのことおぼえてる?」
「時間がないわ。すぐに着替えてくれるかしら……?」

 着替え――と言われて今朝の一件を思い出したのか、ヤマト(なでしこ)は肩をびくっと震わせた。
 女性スタッフの一人がすばやく背後にまわり、帽子と通学カバンをさっと取り上げてしまう。
「あ……」
 そして残りの女性たちが、制服をてきぱきと脱がせていく。
……きゃっ!? ……ち、ちょっと…………じ、自分で――」
 自分の上げた可愛らしい悲鳴に赤面する間もなく、下着姿にされ、用意されていた白いドレスを着せられていく。
「あ…………あ、あの……」「……はいっ、ここに座って」
 両肩に手を置かれて、スタジオの隅にあったスツールに腰掛けさせられる。
 長い髪をブラッシングされ、レースのチョーカーを首に巻かれると、メイク道具を持った女性が笑みを浮かべて近寄ってきた。
「写真映えするように、ちょっとお化粧してあげるわね♪」
「あ……あの……っ、……ひゃっ!?」
 化粧水のしみ込んだパフを頬に当てられ、冷たさに思わず身を引いてしまう。
「……ほらっ、じっとしててっ」
「…………」
 有無を言わさぬその口調に、思わず身を固くする。
 まつげをビューラーで持ち上げられ、口元にルージュを引かれて…………

「はい、完成。……どう? 可愛いでしょ?」

 スツールごと、くるりっ――と鏡の方に向けられる。
「!!」
 ヤマト(なでしこ)は、そこに映った己が姿に目を見開いた。「……こ、これが…………ボク?」
ディスプレイに向き直り、同じポーズをとってみましょう(笑)。
 ぱっちりとした黒目がちの瞳、つややかな桜色の唇。
 流れるような栗色の髪に、白いドレスがよく似合っていた……

 ――ま、まるで……………………お姫様みたい…………

「そうよなでしこちゃん。……来月号の特集、“魔法のメイクでプリンセスに大変身☆”にぴったりでしょ?」
「……えっ? あ……や、やだっ…………恥ずかしい――」

 知らず知らずのうちに、言葉に出していたようだ。頬をつつかれ、ヤマト(なでしこ)は顔を赤らめ口元に手をやった。

 ――で、でも……な、なんでだろう…………わくわくしてる、ボク…………

「あ……」
 身体の芯をくすぐったいような、甘酸っぱい感覚が駆け上がっていく。
 そしてまた、知らず知らずのうちに “なでしこ” としての「自覚」がむくむくと頭をもたげてくる……

「……それじゃあ、ぼちぼち撮影いこうか」
「「はーい」」

 待機していたカメラマンの一声で、スタッフたちが各々の場所に散っていく。
 ヤマト(なでしこ)も、手を取られてスツールから立ち上がった。
「とっても可愛いわよ。……がんばってね、なでしこちゃん」
「……うん♪」
 ふわっ……と揺れたスカートを、自然な手つきでそっと押さえる。
 母親に向かってはにかむような笑みを浮かべると、ヤマト(なでしこ)はドレスの裾をひるがえし、カメラの前へと進み出た。

 ―― そう、ボクは…………ボクはなでしこ。お姫様ドレスの似合う、可愛い女の子……



 スタジオでの撮影も無事終わり、出版社のスタッフたちと別れたヤマト(なでしこ)となでしこの母親は、その足でレストランへと入った。
 店員の案内で、奥のテーブルに着く。
 フロアの中央にはグランドピアノが置かれており、決まった時間に生演奏を聴かせてくれる。
 コース料理を注文すると焼きたて一口ディナーパンの食べ放題がついてくるというのが、この店の “売り” のひとつだ。

「本日のコースは、スープ、鴨と野菜のサラダ仕立て、白身魚のポッシェ・エストラゴン風味のクリームソース、仔牛肉の赤ワインソース、デザートはキャラメルアイスとなっております。……食後のお飲み物はコーヒーか紅茶、どちらになさいますか?」

 そう説明しながらも、ちらちらとこちらをうかがう男性店員。その視線にヤマト(なでしこ)は、ぽっと顔を赤らめ、恥ずかしそうに首をすくめた。
「…………」
 もちろん今は元の制服に着替えているが、撮影時に施されたメイクが残っており、キャンドルのほのかな間接照明に照らされたその顔に店員たちが見とれてしまうのも無理はない。
「お疲れさま、なでしこちゃん。……今日はほんとに素敵だったわよ」
「えへへっ♪ ……ありがと、ママ」
 向かい側に座った母親に、小首をかしげてにっこり微笑む。「……でも、ちょっと緊張しちゃったかな?」
「……まあ、なでしこちゃんったら」
「うふふ……」
 たわいのない母娘のお喋り。でも、不思議と心が穏やかで……なんだか安らいだ気持ちになってくる。
 と、その時――

「…………だから高校生にもなって、母親と外食するなんて恥ずかしいんだよ……」
「そういう生意気なことは、自分で稼げるようになってから言いなさい♪」

 何処かで聞いたような話し声に、ヤマト(なでしこ)は反射的に入り口の方を振り向いた。
 そして……

「い、飯綱先輩……!?」「……あれ? きみ、確か昨日の――」

 思わず椅子から立ち上がり、驚きに口元へと手をやるヤマト(なでしこ)。
 母親がいぶかしげな口調で、後ろから顔をのぞかせる。「……あらなでしこちゃん、お知り合い…………文月先輩っ!!」
「「へ……っ!?」」
 すっとんきょうなその声に、ヤマト(なでしこ)……そして甲介は、思わず自分たちの母親の顔を見返した。



「……でね、あの時わたし彼女たちに言ってやったの。『そんなことするつもりなら、文月先輩が黙っていないわよ』って…………あ、オニオンパンと胚芽パンひとつずつ」
「あらやだ、そんなことあったの? …………あ、こっちは胡麻パンとプチバケットをお願い――」
「でも、こんなところで文月先輩に会えるなんて、ほんと思ってもみなかったです」
「それはあたしも同じ。……じゃあ、ずっとこの町に?」
「ええ、ずっと……」

「「…………」」

 店員がバスケットに入れて持ってきたパンを選びながら、思い出話に花を咲かせる互いの母親たち……なんでも十何年かぶりの再会なのだとか。
 それを横目で見ながら、ヤマト(なでしこ)と甲介は黙々と料理を口に運ぶ。
 結局二人は一緒に同じテーブルに着き、互いに向かい合って食事をすることになったのだ。

「……え〜うそっ!? だとしたら、あれって――」
「実はそうなのよ。……でね、それからそのあとに――」

 学生時代のノリに戻って話に興じる母親たちはいいが、付き合わされているヤマト(なでしこ)と甲介は、ある種の居心地悪さを感じていた。
 いや、“照れくささ” ……か――

 ――あう〜っ、まさか “ママ” と飯綱先輩のお母さんが知り合いだったなんて…………あ、で……でも、これって、もしかしたら……先輩と親しくなれるチャンス、なのかも…………

 恋に恋する女の子な思考にお脳を侵食(笑)されながら、ちらっ……と甲介の方をうかがうヤマト(なでしこ)。
 その視線に気づいたのか、正面を向く甲介。
 店内に流れるピアノの生演奏は、「Moon River(映画「ティファニーで朝食を」のテーマ曲)」から「Entertainer(映画「スティング」のテーマ曲)」へと移り変わった。……今夜は映画音楽のメドレーらしい。

「……あっ」

 目と目が合い、気恥ずかしさをおぼえて思わず下を向く。
 頬が赤くなっていくのが自分でもわかる……知らず知らずのうちにスカートの裾を、テーブルの下でもじもじと弄ぶ。

 ――そ、そうだ……飯綱先輩には今のボク、どう見えてるのかな?
 お化粧してるから、ちょっとキレイに見えるかな……♪ ……って、うわああ何考えてるんだボクはああ〜っ!! …………あ、このくるみパン、ちょっと香ばしくておいしい……

「……!?」
 ふと顔を上げると、甲介の母親が笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「ふふっ……なでしこちゃんって…………可愛いわね」
「え……っ?」
 またまた、ぽっ……と顔が赤くなり、口元に手をやる。 「か、可愛い……です、か?」
「だってさっきからくるくる表情変わるし、しぐさもとってもキュートだし…………ほんと、やっぱり女の子っていいわね〜っ
 母親のその言葉に、苦虫と正露丸をいっしょくたに噛み潰したような顔をする甲介。だが、ヤマト(なでしこ)はそれに全く気づかなかった。

 ――えっ? も……もしかしたらボク、某少女小説の主人公さんみたく、百面相してたの? …………は、恥ずかしいよぉ……

 両の手のひらを真っ赤になった頬に当て、ふるふると首を振る。
「……でも文月先輩、わたしは逆に、男の子が欲しかったな……って時々思うことありますよ」
「あらそう? ……それじゃあいっそ、この二人結婚させちゃおっか? そしたらお互い “娘” と “息子” ができて、一挙両得一石二鳥♪」

 ぶ・・・っ!! 「かっ……かかかか母さんっ!!」

「冗談よ。……でも女子校時代に約束しなかったっけ? 『あたしたちそれぞれに男の子と女の子が生まれたら、将来結婚させよう』って――」
「そういえばそんなこともありましたね……なつかしいです〜」

 ――んなベタな約束するなよな…………恥ずかしい……

 にこにこと嬉しそうに話す母親たちに、さすがの甲介も毒気を抜かれる。
「……まあ、それはともかく――」
 ぶつぶつ言う息子を軽くいなすと、甲介の母親はヤマト(なでしこ)に向き直った。「……さっきから見てるとなでしこちゃんもまんざらじゃないみたいだし、これを機会に二人が交際するっていうのなら、あたしたちも応援するわよ。……ね?」
 そう言うと、いたずらっぽい表情を浮かべて小首をかしげる。
「あらあらよかったわね〜なでしこちゃん、素敵なボーイフレンドができて。……文月先輩の息子さんなら、ママも安心だわ」
 両の手のひらを胸元でぽんと合わせ、愛娘に優しく微笑むなでしこの母親。
「…………」
 しかし当のヤマト(なでしこ)は、頬を赤らめたまま惚けたような表情を浮かべて、視線を宙にさまよわせていた……

 ――け、結婚…………ボクと、飯綱……先輩が…………結…………婚……………………

 …………いつしか店内には、「A Whole New World(映画「アラジン」のテーマ曲)」のピアノソロが静かに流れていた。



「飯綱甲介、私立白塁学園高校1年――
 健康状態良好、成績は中の中。現在は母親とふたり暮らしで、家はブティック《らびあんろーず》を経営。
 メガパペット・プレイヤー甘水市地区ランクの14位。愛読書は『鬼平犯科帳』『陰陽師』。カラオケの持ち唄は『残酷な天使のテーゼ』と『SUNRISE』。好きな食べ物は石焼きピビンバ。好きなアーチストは国内ではLYNA、海外ではENYAとBOND。最近は女子十二楽房がお気に入り……って、ちょっとなでしこっ、ちゃんと聞いてるのっ!?」
「え……? あ、ああ……う、うん、ち――ちゃんと聞いてる……わ、よ」
 目をぱちくりさせて答えるヤマト(なでしこ)。美也子は手にメモ帳を持ったまま大げさに肩をすくめ、溜め息をついた。
「……ったくどうしたのよ今日は? 朝からずーっとぽや〜っとしてて、響子先生に何度も注意されてたし――」
「もしかして昨日、何かありましたの? なでしこちゃん」
 横にいた桜子が、小首をかしげて顔を覗き込んでくる。
 昼休み――クラスのみんなはグラウンドへ遊びに行き、教室に残っているのはヤマト(なでしこ)たち三人だけだ。
「あ…………え、え〜っと、べ――別に……」
「……やっぱり何かあったんですわね」
「みたいね……」
 赤くなった頬を押さえて視線をそらすヤマト(なでしこ)に、美也子と桜子は互いの顔を見合わせる。
 それにしても、いつの間に甲介のことをこんなに調べたのだろう? この二人……

 ――でも、飯綱先輩の実家がブティックだったなんて知らなかった…………あ、そうだ! 今のボクは女の子なんだから、「洋服を買いに来た」ってことで先輩の家を堂々と訪ねることができるんじゃないかな…………って、

「・・・だああああボクはいったい何を考えているんだあああああ〜っっ!!」

「ほ……ほんとに昨日、何があったのでしょう?」
 いきなり頭抱えて絶叫するヤマト(なでしこ)に、桜子はあとずさりながらもそうつぶやく。
「う、う〜ん…………ずばり、例の飯綱先輩に偶然再会した! とか――」

 どっきいいいいいんっ……!! 「……ち、違うっ! そんなことないっ! 入ったレストランで偶然飯綱先輩と出会ってお母さん同士が女子校の先輩後輩だったから一緒に食事してちょっといい雰囲気になって飯綱先輩のお母さんに妙に気に入られて多分冗談だと思うけどボクと飯綱先輩が結婚したら嬉しいなんて言われたりしたことなんてないっ! 絶対ないからねっ!!」

 冗談めかした美也子の言葉に図星をさされ、ヤマト(なでしこ)はさらに支離滅裂な状態に陥る……
 というか、熱血ヒーロー少年の特性である、自己顕示欲(笑)の発露なのかも……しれない(爆)。 なでしこ(ちゃん)、ファイトっ♪
「なでしこちゃん、キャラが変わっていますわ……」
「恋する乙女だもんね〜。……でも、そこまで進展してるんだったら、照れてないでその場でさっさとコクっちゃえばよかったのに」
「こ……っ」
 ぼんっ! と音を立てて、ヤマト(なでしこ)の顔が真っ赤になった。
「……ということは、あのロボTRY部の部長さんが、なでしこちゃんの恋のライバルになるわけですわね」
「どうかなぁ? あの二人、まだそこまでの関係じゃないような気がするけど……」
 桜子のつぶやきに、美也子はいっぱしの恋愛経験者気取りで、得意気に人差し指を立てて答えた。「……とにかく、なでしこは先輩のお母さんに一応は仲を公認されたんでしょ? つまり、こっちが一歩も二歩もリードしてるってことよ♪」
「うかうかしていたら大好きな先輩を取られちゃいますわよっ。恋愛は常に戦いなのですから……ファイトですわっ!」
「あ……ああ、う、うん、そ――そうだ…………ね……」
 恋に悩む(……笑)友だちを真剣に励まそうとしているのか、それとも単に面白がって無責任に焚きつけているだけなのか……
 そんな二人の迫力(?)に押され、ヤマト(なでしこ)は思わず首を縦に振る。
 次の瞬間――

「がんばってくださいねっ、なでしこちゃん」
「あたしたちはいつだって、なでしこの味方だからねっ」

 お脳の裏側でマカダミア・ナッツみたいな「種」がゆっくりと落ちてきて、きらめきながらぱちんと弾ける。
 左右から美也子と桜子に抱きつかれ、ヤマト(なでしこ)は……………………覚醒した(笑)。

「ぅ・・・うううわぁああああああああ〜っ!!」

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 …………
 …………そうだ……あの女の魔の手から飯綱先輩を救い出せるのは…………ボクだけなんだ……

「負けない…………負けないぞ藤原ほのかっ! ボクが……そうっ! このボクが飯綱先輩をっ、必ず振り向かせてみせるっ!!」

 どどおおお〜んっ!!

 手近な椅子に片足をのせて拳を握りしめ、空いた方の手をびしっと水平に振って虚空をにらみつけるヤマト(なでしこ)。
 目が完全に…………坐っていた(笑)。
「なでしこちゃん、新しい芸風に目覚めたみたいですね……」
「恋する乙女だもんね〜」

 互いに何か根本的なところで巨大に間違っているような気がするのだが、とにかくそういうことになったのであった。
 …………いいのか?



とうとういきつくところまで逝って……もとい、いってしまった(?)ヤマト(なでしこ)。

はたしてこのまま、彼――彼女は身も心も恋する乙女と化してしまうのかっ!?

……というわけで、結末は「完結編」にこうご期待!! ………… してよね、お願いだから(涙)。

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