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――萌え燃えっ! 白塁学園高校女子ロボTRY部 EX――
湯けむり美少女混浴騒動っ
           
CREATED BY MONDO      


「――と、いうわけで私たち白塁学園高校女子ロボTRY部は、ここ蔵灘(ぐらなだ)温泉へ合宿に来ていますう」
「ちょっと舞香、……あんたいったい何処の誰に向かって話しかけてんのよ?」 「…………」
「……ったくもう、バカやってないでさっさと行くわよ。舞香、かなめっ」
 ふたりの唐突な前口上(?)を尻目に、ほのかは風情あふれる街並みを旅館の方へと歩きだした。
「…………何も好きこのんで、そんなお約束なマネしなくってもいいでしょうに……」
 眼鏡に手をやりながらため息をつく祥子。ツッコミを入れたかなめと、人差し指を立てたまま固まっていた舞香も、あわててその後ろを追いかける。そして、そんな四人の後ろを全員のバッグやナップサックを押しつけられた甲介が、なんで温泉入りに来ただけでこんなに荷物があるんだ……などと、ぶーたれながらついていく。
 ここ蔵灘温泉は、甲介たちの住む甘水(あます)市から電車で四時間ほどの山あいにある温泉郷だ。
 JRの駅から街の中心を流れる川沿いに、いくつもの土産物屋や遊興場、そして 「外湯」 と呼ばれる浴場(お風呂屋さん)が軒を並べている。川の両側には柳と桜、梅の木なんかが植えられており、いくつかある橋のたもとには灯籠や石碑が立てられている。
 時節は初秋。そもそものコトの起こりは、ほのかがテレビの懸賞で温泉旅行の共通ファミリー宿泊券を当てたことに始まる。
 高校生にもなって家族旅行もなんだし、親の方も店やっているからそうそう休みも取れないし。……ちょうど三人娘の練習用にレンタルしたセコハン(中古)のメガパペットが、思った以上に安上がりに借りられたこともあって、余った部費の一部を宿泊券に付け足し 、彼女たち女子ロボTRY部の面々は蔵灘温泉への一泊二日の合宿を計画したのである。
 もちろん、「合宿」 なんてのはあくまでも建前。だから当然、《キャロット》 も 《スカーレットプリンセス》 も持ってきちゃいない。目的はあくまでも温泉、温泉、温泉っ! ……で、女の子だけだと何かと物騒だということで男の甲介が呼ばれたわけなのだが、はっきりいって扱いは、ご覧の通り “荷物持ち” だったりする。
 ――う〜っ、沙織のときとずいぶん待遇が違う……っ。
 そう心の中でつぶやきながら、甲介は荷物をよいしょっと持ち直す。そのとき、右の手首にはまったままになってる銀色の腕輪が、キラッと光った。
 白塁学園高校女子ロボTRY部五人目の部員、謎の美少女(……)文月沙織の正体が、実はその腕輪に秘められた力によって女の子に変身した飯綱甲介だということを知っているのは、甲介本人と彼の母親だけである。
「……それにしても、さおりん一緒に来れなくて残念だったよね」
 甲介の心を見透かしたかのように、かなめがぽつりと言った。
「仕方ないわよ。家の方で、どうしても抜けられない用事があるっていうんだから」 と、祥子。
 甲介と沙織が同時に存在できないので、そういうことにしてあるのだ。
「あーあ、でもまた沙織ちゃんと一緒にお風呂入りたかったな……………………って、甲介、なんであんたが赤くなってんのよ?」
「きっ……気のせいだ気のせいっ」
「あ〜っ、飯綱先輩、……もしかしてほのかお姉さまと一緒に温泉入りたいとか〜っ」
「い、いや、そーぢゃなくて……」 「うわ〜っ、や〜らし〜んだっ」
 かなめと舞香に茶々を入れられ、どぎまぎする甲介。
 沙織――女の子に変身できるようになってからこっち、男に戻っても顔が赤くなりやすくなってしまったようだ。
「もおっ、ほらっ、さっさと歩くっ。……甲介、あんたも赤面しながらニヤけるんじゃないわよっ!」
「じ、自分だって顔赤いぞ……」 「なんか言った?」 「……べ、別にっ」
 などと痴話喧嘩(?)する先輩ふたりを見て、くすくす笑うかなめと舞香。
「…………全く、後輩の目の前で恥ずいことさせないでよ……」 「だったら逐一ツッこむなよほのか。それとも……マジでそーゆーこと……考えてた?」
 視線をそらし、照れながらそんなことを言う甲介。さらっと冗談めかして言えないところが彼の限界である。
「ば…………バカっ……」
 ほのかにしても、どうやらここらへんが精一杯のようだ。
「あの〜っほのかお姉さま、蔵灘温泉って…………その、えーっと……こ、混浴、なんですか?」
「……んなこと真顔できかないでよ、祥子」



 蔵灘温泉の名物といえば、かの文豪志賀直哉の愛した湯の里――兵庫県の城崎(きのさき)と同様、温泉街の公衆浴場を利用してまわる 「外湯めぐり」 である。
 宿泊先の旅館 『轟天閣』 に着いたほのかたちも、さっそく浴衣と丹前に着替え、フロントにあった宿泊客用入浴割引券をわしづかみにして、陽の高いうちから温泉街へと繰り出したのであった。
「さあっ、あとは 『桜湯』 と 『初の湯』、それから 『河童湯』 で完全制覇よっ!」
 旅館組合発行の入浴記念スタンプ帳を片手に、元気よく気勢を上げるほのか。すでに五つの箇所にはスタンプがしっかりゲットされている。
「……お、おい、それよりちょっとひと休みしよーぜっ」
 温泉入りに来て疲れてちゃ意味ないぢゃないか……と、思いながらつぶやく甲介。確かに十分間隔で風呂に浸かって速攻で上がって着替えて次の 「外湯」 に下駄で走って行って(また結構距離がある)――しかもそれを立て続けに五回も繰り返しているのだからさもありなん。
 おまけに女湯の方から 「こーすけっ、次行くわよ次っ!」 なんて大声で呼ばれたりしたら、他の男性客の視線が突き刺さるのなんのって……。
「何のんきなこと言ってるのよ。今日一日しかないんだから、駆け足になっちゃうのは仕方ないでしょ」
 浴衣姿で腰に手を当て、ほのかが偉そうに言う。「……それに外湯の中には、朝風呂やってないところもあるんだから、明日まわしにするわけにはいかないのよっ」
 ゆっくりお風呂につかっていたら、全部回りきる前にのぼせてしまうだろうし。
 ――どーせ明日は昼近くまで寝てるつもりなんだろ……ほのかっ。
 もちろんそんな思いを口に出すほど考えなしではない。だが、カンのいいほのかはそれに気付いたのか、じとーっと甲介を睨みつけた。ちなみに甲介だけは浴衣ではなく、ゆったりしたTシャツに綿パン姿である。
「でも、こーゆーのも結構楽しいですう」
 舞香がニコニコしながら口をはさんだ。「お風呂屋さんのハシゴなんて、めったにできないコトですう」
「そーそー、温泉来たんだから、いろんなお風呂に入りに行くのは当たり前ですよ、飯綱先輩っ」
 したり顔で甲介を諭す(?)かなめ。なんでそんなに元気なんだ、お前らっ……と、呆れる甲介。
 なんといっても朝からずーっと荷物持ちさせられていたのだから、そう思ってしまうのも仕方がない。
「でも、温泉の楽しみってほかにもいろいろあるわよ。例えばレトロゲーム台の発掘とか……怪しいお土産さがすとか……」
「祥子…………あんたそれってちょっと濃いわよ……」
 呆れた口調でほのかがつぶやく。そのとき、彼女の抱えていたポーチからぴろぴろぴろっ、と携帯電話のコール音が鳴り響いた。「は……はい、もしもし。……はい、ほのかです」
 それを見ながら甲介たちは、目の前の自販機でジュースを買ってしばし休憩。
「……あら、甲介のおばさま。どうかしたんですか? ……はい、…………は、はい……………………って、ちょっと甲介っ、……なんか、町屋の叔母さんが階段から落ちてケガしたから、すぐに戻ってきて欲しいってっ」
 送話口を手で押さえて声をかけてくるほのか。そんな親戚いたっけか? と、甲介は首をひねる。そして……
「……………………はい、それで? ………………………………え〜っ、沙織ちゃんがこっち向かってるって!?
 ぶぶ――――っ!!

 思わず飲んでた抹茶サイダー(なんだそりゃ?)を吹き出してしまう甲介。
「…………はい、はいっ。分かりました。じゃあ旅館の方で待ってます。それじゃ……」
 ぴっ、と音をさせて携帯電話を切ると、ほのかはニコニコしながら三人娘の方を振り返る。「みんなっ、沙織ちゃんが家の用事早く片づいたから、夕方までにこっちに来るって!」
 きいてねーぞおおおおおっ!! と心の中で絶叫する甲介。母親の無邪気(??)な笑顔が頭をかすめる。
「ほ、ほんと? ほのかお姉さま」 と、かなめ。横で頭抱えてのけぞってる甲介は目に入っていない。
「やったあっ!」 と、浴衣のままとび跳ねる舞香。「ふふふっ、さっおりんとおっ風呂、おっ風呂、おっ風呂っ♪」
 よっぽどうれしいらしい。
「でもよかったあ、さおりんも旅行に参加できて……」
 祥子が口元で手を合わせて微笑んだ。「五人しかいないんだし、ひとりでも欠けてたらやっぱり淋しいもの」
「じゃあ、飯綱先輩と入れ代わりですね」
 あっさりとかなめがそう言って(おいおい、女の子だけだと何かと物騒じゃなかったのか?)甲介にとどめを刺す。
「…………そうね、それじゃとにかく一度旅館に戻ろうか。続きは沙織ちゃんと合流してから、いいわね?」
「「はーい」」
 ほのかの提案に三人娘が声をそろえて返事した。そしてぞろぞろと旅館へ引き上げようとするが、「……ちょっと甲介っ! いくら日帰りになっちゃったからって、そんなところで惚けてたって仕方ないでしょ。服着替えて帰る用意しなきゃ……って、おいこらっ、聞いてるのっ!?
 抹茶サイダーの缶持ったままぽけ〜っと突っ立っている甲介の目前で、手をヒラヒラさせるほのか。だが、母親にきっちりはめられてしまった彼(もちろん 「町屋の叔母さん」 なんて大嘘である)は、それに全く反応しない。
 ――ああ…………………………………………大平原の彼方からホーミーが聞こえるううう…………。

 ホーミー [khoomei] 1.西モンゴルのアルタイ地方で発生した、独特の発声法でハミングする神秘的な旋律。喉歌。2.某 『ヒゲガ〇ダム』 のヒデキ感激な主題歌の出だしで 「うみょいょいいいいいいん」 と唸っているアレ。

 結局ほのかに頭をスリッパで思いっきりはたかれるまで、甲介は 「戻って」 これなかったらしい。



 甲介がる〜るるるっと現実逃避していた頃、旅館 『轟天閣』 の正面玄関に幌付きのトラックが一台、急ブレーキの音とともに横付けになった。
 オリーブドラブ(濃黄緑色)で塗られたその車体は一昔前の兵員輸送車を思わせ、およそ温泉には似つかわしくない。加えて車体のボンネットとドアには、でかでかとアルファベットのMと歯車を組み合わせたマーク――女美川重工のエンブレム(社章)が描かれている。……またそれがかえって妙にうさん臭い。
「総員っ、降車あああっ!!」 「「いえっ、さー!!」」

 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ――。「はりあっぷはりあっぷはりあっぷはりあ〜っぷっ!」
 映画 『エイリアン2』 にでてきた惑星海兵隊のノリで荷台からとび降りて、そしてトラックの横にびしっと整列した連中は、揃いの迷彩柄アーミーパンツに、ごついジャングルブーツ、モスグリーンのランニングをぴちっと上半身にはりつかせ、頭には真っ赤なベレー帽、首からドック・タグ(認識表)を下げたマッチョな野郎どもであった。
 そう、おなじみ(?)白塁学園高校 “元祖” ロボTRY部である。
「いゃあやあやあっ、わったしが白塁学園高校ロボTRY部部長、女美川武尊でああああ〜るっっ。
 階級は大佐、コールサインはバスター10、認識番号−4649っ! おっぼえてお〜きたまえええっ!

 あいかわらずクドい奴だ。

「……あ〜ってんしょんっ!!
 マッチョ野郎たちの前に仁王立ちになった筋肉ダルマ――女美川部長は、首をぎにっ……と動かし彼らを見渡すと、腰に手を当て大声を張り上げた。「本日ヒトロクマルマル時よりっ、我々白塁学園高校ロボTRY部は〜っ、この地において特別強化訓練をおこなうものでああああ〜るっ!!」 「「いえっ、さーっ」」
 相も変わらぬバカのひとつおぼえ的な返事に、それでも女美川部長は大きくうなずくと、再びぐぐっと胸をはり、訓示(おいおい)を続ける。
「精鋭諸君っ、……諸君らも最近学内で我々ロボTRY部に対して、い〜ろいろと風当たりがつよ〜くなっていることを認識し〜ているはずであ〜るっ」 「「いえっ、さーっ」」
「……それはずば〜りっ、あ〜の女子ロボTRY部を僣称する女たちを、野放しにし〜ていることに起因す〜るのであ〜るっ」 「「いえっ、さーっ」」
 風当たり(……)が強くなったのは今に始まったことではないが……
「今回の特別強化訓練を経て、我々は男女同権、男女平等、男女雇用機会きんっ・と〜の精神にの〜っとり、必ずやっ、あ〜の女子どもを我々 “元祖” ロボTRY部に統合しなければならないのでああああ〜るっ!!
「「いえっ、さーっ!!」」 「うむっ!」
 びしいいっ! と互いに敬礼し合う筋肉ダルマたち。…………どうやらそれには全く気付いていないようだ。
 そのままの姿勢でしばし直立。そしてカッ――と一斉に踵を鳴らして背筋を伸ばし、
「各員っ、一意誠心の気構えでこ〜とに望むのだっ! ガン・ホーっ、ガン・ホーっ!」
「「ガン・ホーっ、ガン・ホーっ!」」
 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……と、一糸乱れぬ駆け足で旅館の中に入っていく女美川部長と “元祖” ロボTRY部の部員たち。他の泊まり客があわてて道をあけ、あるいはかかわり合いを恐れて遠ざかったり見て見ぬふりをしたりする。
 で、ちょうどその場に居合わせた旅館の従業員(男性)は、条件反射的にこう思ったという……。
 ――営業妨害ですっ、……姉さん。

 ……………………ホテル・プ〇トンの系列だったのか、ここ?


 駅の男子トイレの個室に入って扉を閉めると、甲介はへあ〜っ……と、何度目かのため息をついた。
 さすがに観光地だけあって、中は結構キレイにしてある。
 ……ったく、なんの因果でっ、とつぶやきながら肩からかついでいたスポーツバッグをその床に置き、中をごそごそとかきまわしてファンシーな紙袋を取り出す。母親が内緒で忍ばせておいた(気付けよ、おい……)、『沙織ちゃん変身セット(笑)』 だったりする。
 中身は女の子の服ひと揃えと下着、靴、ペルトポーチに髪止め、リボン。
 ――ああ……なんかいまいち気が進まない…………。
 頭では、こうなってしまった以上『沙織』 に変身していかないとあとあとややこしくなる――と分かってはいるのだ。それに女の子たちの中に男がひとりでぽつんといるより、“女の子同士” になった方が余計な気をつかわなくていいと、唯一秘密を知っている母親がお膳立てしてくれたことも、納得……
「――できんっ!」
 …………好意的に解釈しても、あの母親の場合それはまずありえない。
 ぜ〜えったいおもしろがってるに決まってるっ、絶対っ! と、拳を握りしめる甲介。
 しかし、トイレの中であーだこーだとうだうだしてても仕方がない。覚悟を決めた甲介は、目を閉じて右手を前に伸ばし、手首に意識を集中させた。
 右腕にはまった銀色の腕輪が、キュン――と縮んで皮膚と密着、そして甲介の身体の中にある未知のナノマシンに信号を送る。それらは入力されているプログラムに従ってDNAレベルで肉体を組み換え、彼の姿を劇的に変容させる……。
 胸が膨らみ、ふっくらとした形のよい乳房が生まれる。
 股間にある男のモノがあっという間に縮小し、デリケートな女の子のそれに置き換わる。
 体内に形成された子宮や卵巣が急速に活動し始め、ホルモン等のバランスが女性のそれに変わる。
 肩幅が細くなり、体つきが柔らかく丸みを帯び、ウエストが引き締まって腰とお尻がキュッと持ち上がる。
 手足が小さく華奢になり、身長がそれに合わせて少しずつ縮んでいく。
 ムダ毛が抜け落ち、肌のきめが細やかになり、顔つきが少年から少女のそれへと移り変わっていく。
「んっ…………んんっ、ん……っ、んっ、んあ……んふぁっ……あ、んんっ……………………んっ…………」
 押し殺した声が、甘く、甲高くなり、短かった髪の毛がばさっと腰の辺りまで伸びた……。


 個室の扉がゆっくりと開いて、顔を真っ赤にした少女が口元に手を当ててそーっと左右をうかがう。ずらりと並んだアサガオ(小用便器)の前に誰もいないことを確認した彼女は、あわててその場をとび出し、隣の女子トイレにダッシュで駆け込んだ。
 洗面所に両手をつき、乱れた息を整えながら、なんでこんなにこそこそしなきゃならないんだっ……と、つぶやく。女の子になったらなったで、男子トイレの中にいることが妙に気恥ずかしくなる甲介――もとい、沙織であった。
「……ふうっ」
 少し落ち着きを取り戻し、顔を上げる。洗面所の鏡の中から頬をほんのり赤らめた美少女が、上目づかいで見返してきた。
 二、三歩後ろに下がって、自分の全身を映してみる。――うっ、…………ま、また膝上かよ……。
 胸元にフリルをたっぷりあしらった、襟の大きな白いブラウス、そして赤いチェック柄のプリーツミニとボレロ。
 いささか子どもっぽいその装いが、今の沙織(甲介)には何故か凶悪に似合っていた。もちろん胸の膨らみはBカップのブラジャーが、丸くなったお尻は純白の可愛らしいショーツが包んでいる。

「沙織ちゃんは脚がキレイだから、スカートはミニでないとダメなのっ」

 母親のその言葉が、思わず脳裏をよぎる。
 だあああもー開き直っちゃるっ。…………女の子になりきって女湯入ってうまいもん食べて……などと思いながら、沙織(甲介)は腰のポーチからトラベル用のヘアブラシを取り出し、せかせかと髪を整え始めた。
 アップテールの根元にリボンを結び、改めて服装のあちこちを見る。
 スカートの裾や肩、襟元を直し、それから首をひねって背筋を伸ばし、後ろ姿を確認。
「――よし、…………こんなもんかな……」
 肩の力を抜き、目をつぶって三回大きく深呼吸。そして彼女は鏡に向かってにこっ――と微笑み、
「……アハッ、あたしは沙織。……………………女の子よっ♪」
 すっかりソプラノに変調した声でそう言って、首を軽くかしげて可愛くポーズ。……しかし次の瞬間、うすら寒いものが背中をぞぞぞっとはい上がり、沙織(甲介)はそのまま固まってしまう。
 ――ううっ……なっ、何やってんだ…………オレって……。



 沙織に変身した甲介が、自分のその姿とアイデンティティに折り合いをつけようと悪戦苦闘していたその頃――
「……あれ? 降りる階間違えちゃったかな?」
「え〜っ! あ…………えーっと、エレベーターどっちだったっけ……?」
 祥子とかなめば旅館の中で迷子になっていた。
「うーん、とりあえず後ろに戻ってみようか……」 「そうね……」
 もと来た廊下を引き返すふたり。ちなみにほのかと舞香はロビーで沙織を待っている。
「ねえ、カナ……」 「何?」
 歩きながら祥子がかなめに声をかけた。「ほのかお姉さま……飯綱先輩が帰っちゃったとき、ちょっと淋しそうだったね……」
「そうねー。荷物持ちと “虫よけ” に呼んだんだ〜っていってても、お姉さま、本当は飯綱先輩と一緒に温泉旅行したかったんじゃないかな……」
「…………でも、男の人がひとりでもいてたら……あたしやっぱり気をつかっちゃう……」
「うんうん。それに部屋もひとつだし、いくら仕切りがあっても寝るときなんかちょっと嫌かも」
 などと言い合いながら、あてもなく廊下をうろうろする。その時、祥子は何かに気付いて立ち止まった。
「……どしたの? 祥子」
 かなめのその問いかけに答えず、祥子は何故か顔を引きつらせて斜め後ろを指さす。その先を目で追ったかなめは、今通り過ぎた客室の扉にでかでかとこう書かれた張り紙がしてあるのを見てしまった。

 白塁学園高校 “元祖” ロボTRY部臨時駐屯所――

 思わずくるっ、とまわれ右するふたり。「な…………何、今の……?」 「ま、まさか…………」
 そのまましばし硬直。やがて祥子とかなめはぎくしゃくと動きだし、その場からできるだけ離れようとする。
「…………………………………………み、見なかった…………あ、あたしは何も見なかった……」
「そ、そそそそうね。……………………げ、幻覚よね幻覚……っ」
「…………わ、忘れましょ。……せ、せっかく温泉来たんだからヤなこと忘れてぱーっと……」 「そ、そうそう……」
 そして、はははははっ――と、乾いた笑い声が旅館の廊下にこだました……。


 玄関の自動ドアが左右に開き、紙袋を両手に抱えた小柄な少女がおずおずとロビーに入ってきた。
「あっ、さおりんだ。……さおり〜んっ、こっちこっち〜っ!」
 舞香がその姿に気付いて、手を振って声をかける。そして、近づいてきた彼女にとびつくように抱きついた。
「う〜んさおり〜ん会いたかったよおっ、す〜りすりっ」 「やんっ! ち、ちょっとま、舞香……ったら……」
 いきなりの抱擁に、思わず可愛らしく悲鳴をあげてしまう沙織。
「いらっしゃい、沙織ちゃん」 「あっ、ほ、ほのかっ…………さん。……す、すいません、と……途中から押しかけちゃって……」
「気にしなくてもいいって。こっちもひとり用事で帰っちゃったし……」
 申し訳なさそうにする沙織に、ほのかはぱたぱたと手を振って答えた。当の本人としては苦笑するしかない。
「あっ、さおりん、もう来てたんだ」「やほーっ、さおりん。早かったじゃん」
 祥子とかなめが口々にそう言いながら、旅館の奥から駆け寄ってくる。
「へへへ、今来たとこだよね〜さおりんっ♪」 「う……うん」
 沙織が口を開く前に、くっついたままの舞香がそう言った。
「あれっ? 祥子、かなめ、何かあったの?」
 ふたりの先程とは違う様子に気付いたほのかが口をはさむ。
「う、ううん、別に…………ねーっ」「そ、そうそう、別に何も……」 と、顔を見合せる祥子、そしてかなめ。
「ふーん。ま、いいわ。……じゃあ、沙織ちゃんも早く着替えておいでよ」 「みんなで外にある温泉に行くんだよ。すっご〜くおもしろいよっ」
 ほのかの言葉を受けて、舞香がニコニコしながらそう沙織にささやいた。祥子が荷物を持ち、かなめが沙織の背中を押す。
 やっぱり行くのか……そう思いながらも沙織(甲介)は、ほのかたちに引っぱられるように部屋へ連れて行かれ、あっという間に浴衣姿に。
「やーん、さおりん似合うーっ」
 祥子に帯を締めてもらい、かなめにそう誉められてちょっと嬉しい。
「あと三つ、…………今度こそ完全制覇よっ!!」 と、その横で握り拳を固めて燃えるほのか。
「「おーっ!」」
 三人娘につられて、つい一緒に歓声を上げてしまう沙織であった。


 『桜湯』 『初の湯』 と立て続けに入り、そして最後の 『河童湯』 に着いた頃には日が暮れかかっていた。
 しかし、夕食までにはまだ時間がある。沙織の提案で、ほのかたちはここで少しゆっくりしていくことにした。
「ふーっ。いいお湯っ」
 やっと落ち着いて風呂に入れるうううっ……と、だだっぴろい湯船の中で沙織(甲介)は指を組み、うーんと四肢を伸ばした。
 お湯の中で自分の胸がぷるるんっ、と揺れて、思わず 「きゃはっ♪」 ……なんて小声で言ってみたりする。
 すっかり気分は女の子――でも、ちょっぴり混浴気分。
 ほのかと祥子はサウナの方に、そして舞香とかなめは沙織の横で、
「泉質は?」 「アルカリ・イオン泉で〜す」 「効能は?」 「神経痛、血行不良によろしいようで〜すっ」 などと古臭いギャグをやっている。
 何処にそんなものがあったのか、『河童湯』 と書かれた看板かかえているのが芸コマであった。
 だが、五人の貸し切り状態も、そうそう長くは続かない。OL風のおねーさんが何人か入ってきたため、沙織(甲介)は真っ赤な顔であわてて壁の方を向き身を縮ませた。
「どーしたのっ、さおりんってばっ。……なに恥ずかしがってんのっ」
 温泉レポーターごっこに飽きたのか、舞香がそばにすりよってきた。そして、
「…………いいな〜、さおりん胸あって」
 むにむにっ――。「きっ、きゃああああああっ!!」
 いきなり彼女に胸を揉まれて、沙織はつい黄色い悲鳴を上げてしまう。……そして、そんな自分に赤面して湯船に顔の半分をぶくぶくと沈めてしまった。
「ねえ、さおりん、どーしたらさおりんみたくおっぱい大きくなれるかな……?」
 意外と神妙な表情で、舞香がそう尋ねてくる。しかし “中身” が男の甲介である沙織に、ちゃんと答えられるワケがない。「え、えーっと、…………ま……マッサージ…………かな……」
「う〜ん、やっぱりそうなのかな〜っ」 と言いながら、自分のわずかに膨らんだ胸をさする舞香。「…………じゃあさ、……あたしの胸揉んでみてよ、さおりん」
「え…………ええっ!? お……あ、ああああたしがっ??」
 舞香に手首をつかまれ、しどろもどろになる沙織。だが、救いの女神(?)は意外なところから文字通り手を差し伸べた。
「……だ〜ったらあたしが揉んであげるっ」 「きゃーっ、いやーっん! カナちゃんのえっちーっ!」
 舞香の背中にいきなりへばりつき、かなめがお姉様笑いを浮かべてもみもみする。悲鳴を上げて身をよじる舞香に、これはこれで “くる” ものがあるのか、沙織(甲介)は目前の光景に頭の中がホワイトアウトしかける。
「あんたたちっ、いーかげんにしなさいっ」
 サウナから出てきた祥子がふたりを一喝した。「もうっ、ほかのお客さんに迷惑じゃないのっ。……ねえ、さおりん」 「…………あ、あの〜、祥子っ。あ……あたしこっち……」
 眼鏡をはずしているため、湯船の中の河童の石像に話しかけてる祥子だったりする……。



 夕食が終わって自分たちの部屋に引き上げてきたほのかたちは、バッグの中からポッキーやらアーモンドチョコやらポテトチップスやらを取り出し、座卓の上に並べ始めた。
 部屋に備えつけられた冷蔵庫の隙間に詰めておいたジュースの缶やペットボトルも、紙コップと一緒に机にどんどん置かれていく。……旅館で買うと割高になるので、内緒で持ち込んだのである。
 ――どーりで荷物が重たかったわけだ……。
 ほのかを手伝いながらそう思う沙織の中の甲介。用意が終わり、女の子同士のナイト・パーティが始まった。
「「かんぱ〜いっ!」」
 しかし食事したばかりだというのに、よくジュースやお菓子がおなかに入るものだ。
 そしていつしか場が盛り上がり、ハメをはずした彼女たちがジュースにアルコールを混ぜ始めた(こらこらっ!)頃から、なし崩し的に事態が怪しくなる。
 まず、いつもならストッパー役になるはずの祥子が、真っ先にデキ上がってしまう。
 続いて、体質的にアルコールに弱いかなめがあっさり爆睡する。
 実家が酒屋である舞香はなんともないようだが、この娘の場合、しらふでもハイテンションだ。
「三番っ、加納祥子〜っ、うったいま〜すっ!
 …………きーいせえっきっしーいんっぴっしいんじいいっつうゆう〜ううめっ♪」
 いきなりサビからアニソンを歌いだす祥子に、「ごお、ごーっ」 とベタベタな合いの手を入れる舞香。
 その横で紙コップ片手に、ほのかが沙織に絡んでいた。「ねっえ〜っ沙織ちゃああんっ、飲んでる〜っ?」
 目が完全にすわっている。
「えっ、……ええ、は……はい」 「うそーっ、ぜんぜん飲んでなあーいっ!」
 へたに酔っぱらって正体が露見するようなまねをしたらヤバい、と、セーブしていたのが裏目にでた。こういった状況下では、はっきりいって “酔っぱらったもの勝ち” なのである。
「ほらっ……飲みやすいようにおねーさんが味付けしたげるっ」 「…………」
 どぼどぼどぼっ――と沙織のコップに飲み物を継ぎ足すほのか。混ぜているつもりなんだろうが、どう見てもジュースより酒の割合の方が多い。
「…………にしたってもさっ、こーすけの奴もこーすけよっ。
 せ〜っかく呼んでやったのにっ、何よっ、なんでっ叔母さんがケガしたくらいで帰んなきゃいけないのよっ! ……そー思うでしょ沙織ちゃんっっ」
 お前が帰れっつったんだろーがっ、お前がっ……と思いながらも沙織(甲介)は、ずいっと顔を近づけてくるほのかに圧されて相槌を打ってしまう。「で…………でも、こ……甲介、くんも、その…………やっぱり残りたかったんじゃ……」
「だったら遠慮しないでそーすりゃいいのよっ。す〜ぐお母さんの言うことばっかきいてっ。…………マザコンかあいつはあああっ!!
 手酌でぐいぐいいきながら文句を垂れる。「う〜っ、あたしだって……あたしだってこーすけとしっぽり一泊したかったよおおおお…………っ」
 真っ赤な顔していきなり沙織に抱きつくほのか。沙織の顔も赤くなるが、もちろんアルコールのせいではない。
 ほのかはそのままじっと黙り込む。横から聞こえてくる舞香と祥子の歌声(?)が、すーっと遠のいていくのを沙織の中の甲介は感じた。「ほっ、…………ほのかっ、……さ…………っ」
 そうつぶやきつつ、その頭に優しく手を回そうとする沙織(甲介)。しかしほのかは突然がばっ、と顔を上げ、
「……沙織ちゃん、飲んでないわねっ!」
 脈絡のないその言動に、沙織は抱きしめようとした手のやり場に困ってしまう。
「……………………あ、あの……………………で、でも…………あ、あたしたち……まだ未成年――」
「いいのよ “味付け” なんだからっ。……それとも何っ、未成年はクッキングワイン使った料理食べちゃいけないって言うのっ!?
 酔っぱらいの論理に、勝てるものなし。「それにワインはっ、身体にいいのよおおおっ!!
 そう言いながら酒瓶片手ににじり寄ってくるほのかに、沙織は本気で身の危険(?)を感じる。……言っておくが混ぜているのはワインではなくリキュールだ。
 ――だああああっにっ…………逃げられないっっ!!
 心の中でそう叫ぶと、沙織(甲介)は目をつむり、紙コップの中身におそるおそる口をつけた……。


 …………………………………………………………………………
「……あ…………あれ?」
 いつの間にかねむっていたらしい。むっくりと身体を起こし、しばしぼーっとしていた沙織(甲介)は、半ぼけの目でまわりをぐるりと見回した。
 ほのかだけでなく、舞香と祥子にもはがい締めにされて無理矢理立て続けに飲まされ、前後不覚になったあげくに 「ああ〜ん、沙織もう飲めない〜っ」 と、甘えた声をだした(赤面……)ところまではおぼえているのだが。
 隣ではそのほのかが大きな口を開け、高いびきをかいている。舞香たちも部屋の真ん中でだらしなく重なり合って爆睡している…………だが、そんな沙織も脚が広がり肩が脱げ、浴衣の裾からショーツが見えていたりする。
「!!」
 誰も見ていないのにあわてて裾と襟元を直す。しどけない幼なじみの寝姿に沙織(甲介)はため息をつき、押し入れから毛布を出してその身体にそっとかけてあげた。
「……う……んっ、…………こ〜すけ〜っ……」
 三人娘にも毛布をかけていた沙織は、ほのかのその寝言にどきっ――となる。
 次の一瞬、彼女の顔に内にある甲介の優しげな表情が浮かんだ。
 そーっと近づき、意味もなく辺りを見回し…………ほっぺに軽くキス。
「…………んっ」
 首を動かし寝返りをうつほのかに、あわててとび離れる。そして沙織(甲介)は急に照れくさくなって、頭の後ろをぽりぽりとかいた。
「…………………………………………酔いざましに風呂入ってこよっと…………」



「ふーっ、極楽極楽っ」
 大浴場の奥にある展望パノラマ大露天風呂で、沙織はそうつぶやきながらお湯の中で大きく伸びをした。
 見上げると、都会と違って秋の星空がくっきりと見える。……やっぱり温泉といえば露天風呂である。
 しばらく黙ってその夜空を眺めていた彼女は、やがて視線を落とすと、お湯の中をすくい上げるように両手をゆっくりと持ち上げた。
 しずくが指の間をこぼれて、細い腕を伝って流れていく。ライトに照らされその柔らかな肌がキラキラと光った。
「…………あ……」 沙織の口から声がもれる。思わず湯船の中で身をくねらせてみる。
 丸く、華奢な肩。ふたつの膨らみのある胸。豊かな腰の曲線。
 本当の自分じゃない、でも間違いなく自分自身であるもうひとつの姿……。
 普通、露天風呂では女性はバスタオルを巻いたり、水着姿で入浴するものなのだが、当然というかなんというか、沙織(甲介)はそんなこと全く知らない。
 だから早い話がすっぽんぽん。……でも、さすがに真夜中近くだけあって、風呂に入りにくる者は誰もいない。
 ――なんで女の子になって入るお風呂の方が、男の時より気持ちがいいんだろう……?
 そんなことを考えながら、沙織は両の手を自分の乳房の上にそっとあてがう。顔を赤らめつつ、最初は優しく、そして少しずつ指先に力を加えていき……
「……………………んっ、…………んんっ…………んあっ……あっ………………あっ、ああんんっ…………」
 しかし、脱衣場でヒトの気配がして、彼女はあわてて手をばたばたさせ、
 …………………………………………そしてその瞬間、恐るべき事実に気付いて慄然とする!
 ――し…………しまったあああああっ!! こ、ここって男湯だあああっ!!

 どうやら寝ぼけた頭で間違えてしまったらしい。思わず立ち上がりあわててあたりを見回すが、……もちろん露天風呂に隠れる場所などない。
 さらに追い打ちをかけるかのように、聞き慣れた――否、聞きたくもない大声が沙織の鼓膜を直撃したっ。
「総員っ、入浴――――っ!!」 「「いえっ、さー!!」」

 がらがらがらっ! とすりガラスの引き戸がいきおいよく開け放たれ、不必要にパンプアップされた体つきの、とことん汗くっさい男どもが前も隠さずいっせいになだれ込んでくる。そして、

「を
!?」 「いっ!?

 立ったまま硬直した沙織と、先頭きってとび込んできた女美川部長の目が合ってしまう。
「ををっ
!?
「い……っ
!?
 …………………………………………………………………………
「「んををををををををををををををををっっ!!」」
「いっ……いやあああああああああああああああああああああっっ!!

 瞬間、沙織(甲介)の視界が赤く染まった。


 絶叫(?)に気付いてあわてて駆けつけた旅館の従業員たちが見たものは、鮮血で真っ赤になった洗い場と、そこに魚河岸のマグロのごとく横たわり、虚ろな目をして鼻血をだくだくと流しつつ股間を屹立させたマッチョマンたちの、阿鼻叫喚な姿であった。
 口の端から泡をふきながら時々痙攣している奴は、おそらく失血状態になっているのだろう。そのある種おぞましい光景に、最初に見た従業員は恐怖で思わず失禁しかけたという。
 そう、軍隊バカ一直線に日々訓練を重ねて(?)きた “元祖” ロボTRY部の野郎どもには、それゆえに美少女のオールヌードに対する免疫が全くといっていいほどなかった……らしい。そうでなくとも血の気の多い――もとい、“濃い” 連中である。一気に上昇した心拍数に全身の筋肉が心臓と化し、微細な鼻の粘膜を突き破り大量の出血を誘発したことは想像にかたくない(?)。
 …………そしてその原因となった当人は、自分の鼻血で滑って盛大にずっこけた女美川部長の、後頭部を強打する音にはっと我に返って、従業員が来る前にそそくさとその場からトンズラこいていたのであった。

 ずっこい奴……。


 そして翌日
――
「う〜っ。……………………頭痛い…………っ」
 帰りの電車の中で唸るようにそうつぶやくと、ほのかは力なく座席にもたれかかった。「…………沙織ちゃ〜ん、…………だ、大丈夫う〜っ……」
 しかしそう声をかけられた隣の席の沙織は、窓の外を見つめたままほのかに背を向けどよーんと暗〜い雰囲気を漂わせている。かなめはさっきから青白い顔して座席とトイレを行ったり来たりし、前の席に寝そべっている祥子は、眼鏡とって濡れタオルを目元にかぶせ、ぴくりとも動かない。
 唯一舞香だけは太平楽な表情でくーすか熟睡しており、時々 「う〜ん、さおり〜ん……」 と、のんきに寝言をつぶやいていたりする。
 全員きっちり二日酔い。……いや、沙織(甲介)だけは事情が違っていた。
 
――う…………うううっ。……………………見られた…………よりにもよって…………あの筋肉ダルマにっ。
 ……………………オレの…………………………………………あたしのはだかあああああ……っ!!

 顔面総涙目状態の沙織をのせ、列車はあと一時間ほどで甘水市に到着する……。


 なお、のちに判明したことであるが、女美川部長たちはこの大量失血のために頭に血が回らなくなり、その前後の記憶を一切合切喪失していたという。
 その後、『轟天閣』 の展望パノラマ大露天風呂が再開されたという噂を聞くことは、なかった。


                                                    おしまい。


 「生理中は美少女っ(仮)」 を期待していた皆様、……申し訳ありませんっ。
 実は突然、「おおおっ、温泉ネタが書きたいっ」 という欲望がむくむくと沸き起こり、そしてデンパ(煩悩)の命じるままに勢いだけで一気に書き上げたのがこのお話です。
 “EX” と銘打ってある通り、伏線は全く絡んでいませんし、メガパペットもでてきません。
 でも、episode 3ではほとんど出番のない三人娘や、ごぶさたしていた女美川軍団を登場させることができて、個人的には満足しています。
(甲介: 「オレは納得してないぞおおおおおっ!!」)
 う〜ん、ちょっと最後の方は駆け足でしめてしまったかな?

 次は、ちゃんと 「生理中は美少女っ(仮)」 書きますんで……………………お願い、見捨てないで(笑)。

                   1999.5.22 七時台になった 『暴れん坊将軍』 に違和感……の、
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