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  「う゛っ〜……緊張するな」
 極度な渇きを喉に感じながら、森井桃太郎は気持ちを落ち着かせるように、エレベーターの狭いボックスの中でネクタイや髪の乱れを整えていた。
 チンッ――
 目的の階に着いたのか、エレベーターのドアが開く。
「ゴクッ――」
 生唾を飲み込み、一歩踏み出した通路には無数の段ボール箱が所狭しと積まれており、その行く先には一つのドアがあった。
 飾り気のない普通の扉。まだそこの会社が新しいのか、『有限会社RHS』と殴り書きされたコピー用紙が扉の中央に張られていた。
 RHSが何の略なのかは知らないが、最後のSがサービスだって言うのは何となく分かる。
 コンコン――
 ノックして開いた扉の向こうには、重そうな段ボール箱を必至に持ち上げようとしている十代半ばの少女と目が合った。
 見つめ合うこと数秒――
 不意に少女の顔が優しげに微笑んだ。
「すいませんが、RHSは只今営業準備中ですので、さしたるご用件がなければ日を改めて――」
「おれ――じゃなかった。私、求人の面接を受けに来た、もり――」
「あっ、もしかして、すみれさんの後輩の森井――金太郎クンだっけ?」
「桃太郎。森井桃太郎です」
 努めて冷静に訂正する桃太郎。その手の間違いはしょっちゅうされているからこなれている。
「ああ、桃太郎クンね。じゃあ、桃クンで良いかな?」
「あ、はぁ……」
 曖昧な返事を返す。初対面、その上年下の少女にここまで馴れ馴れしく呼ばれるのも困るが、下手に言い返して雇ってもらえないと身も蓋もない。
「あのぉ……、引っ越しでもしてるんですか?」
 少女の代わりに段ボール箱を持ち、オフィスの中へと案内される桃太郎。
「段ボールはそこに積んどいて」
 少女が指し示す場所には、書類やら何やらが詰め込まれた段ボールが転がっている。
「研究室からの引っ越しに思いの外手間取ってね。本当は昨日の内に終わるはずだったんだけど……予定が今日まで食い込んじゃって――
 しかし、さすがは男の人ね。助かるわ」
 ていよく荷物運びを手伝わせられる桃太郎。
「社外秘の企業秘密とかがあるから、引っ越し会社に荷物の運び入れまで頼むことができなくてね……難儀していたのよ」
「はぁ……」
 一通り運び終えた桃太郎は、オフィスの一角にあるソファーに腰掛けるように勧められた。
 差し出された缶のオレンジジュースを受け取る桃太郎。
「ゴメンね。まだ冷蔵庫の電源入れてないから、ぬるいのしかなくてさ。
 買い出しに行ってるすみれさんが帰ってくれば、冷たいお茶の一杯でも出せたんだけど――すみれさん、コンビニでさぼっているわね」
 ヤレヤレといった苦笑を浮かべながら、少女は自分の分のオレンジジュースに口を付ける。
「えぇ〜っと、それで社長は?」
 桃太郎は少女に訊ねた。
 そんな彼に、少女は段ボール箱の上に腰掛けながら、
「クスッ」
 小さくほくそ笑む。
「紹介がまだだったわね。私が当社の取締役の楠見さいりよ」
「えっ!? 取締役――って社長!?!?!?!
 す、すいません!!」
 てっきりアルバイトのオペレーターの娘か何かと勘違いしていた桃太郎は、恐縮そうに謝る。
「そう、縮こまらないでよ、桃クン。ウチはアットホームな会社を目指しているんだから」
 苦笑を浮かべるさいりに、桃太郎は履歴書を差し出した。
「あっ、これ、履歴書です」
 履歴書を広げて、素早く一瞥するさいり。
「ねぇ、ウチの会社がどんな所か、すみれさんから聞いている?」
「――割の良い警備会社って聞いてますが」
 思わず答えて、慌てて口を閉ざす桃太郎。割の良いなんて答え、あまり良いモノではない。
「ふぅーん、割の良い警備会社……ね。正確には普通の警備会社じゃないんだけど」
「普通じゃない?」
「おいおいその事は説明するわ。
 それより、すみれさんと同じ大学の出身だから学歴には問題ない――あれ?」
 細く整った眉を顰めるさいり。桃太郎は、何かあったのかと身を竦めた。
「ねぇ、桃クン。キミって、すみれさんの二年後輩よね?」
「はい。そうですが……それが、何か?」
「この学歴――」
 履歴書の学歴の覧を覗き込む。
 見た限りでは、別段おかしな所は何処にも無い。
「大学の卒業の年が一年ずれてない?」
 言われて見て見れば、確かに一年間違っている。
「あっ、すいません。書き間違いです」
「ふーん、書き間違いね。それならいいわ。
 しかし……」
 履歴書と桃太郎本人を見比べるさいり。
「この霊子値はいいわね。最高よ、桃クン」
 マニキュアの光る指先が弾いたのは、『霊子値』の覧だった。
 霊子値――霊力を科学的に証明されるようになって昨今、生まれた時に測定された霊力の強さを現すモノである。
 これが高いと、人は幽霊を見たりと、各種霊体験をする確率が増える。
 逆にコレが低いと、増幅器を使わないと幽体離脱システムにかかることすらできなくなる。
「特A級の除霊師以上の霊子力なんて……すみれさんが強く推薦してくるだけあるわ」
「はぁ……」
 気のない返事を返す桃太郎。いくら霊力が高くても、それを活かすだけの専門的な知識も無く訓練も受けていない彼にとっては、それの何が良いのかよく分からない。
 敢えて考えられることと言えば、
「先程言っていた普通じゃないないって――もしかして、幽霊退治とかを専門に扱っているとか?」
 頭を横に振るさいり。
「うんにゃ。幽霊は専門外よ。相手はあくまで人間ね」
「それがどうして霊力が関係してくるんです?」
「ウチの警備は、生身で警備をするんじゃなく、警備対象及び環境に併せて各種用意されているレンタルボディで行っているのよ」
「レンタルボディで?」
 そこで初めて、霊子力が必要な理由が分かった。
「そっ、レンタルボディよ。
 ウチの会社は、普通の警備会社じゃないって言ったわね。
 有限会社RHS――レンタル・ヒーロー・サービス」
 髪の毛をうざったげに払うさいり。
 不敵な笑みと共に一言――
「民営の正義の味方よ」




















『 Rental Body Ver.5.01 〜なりゆきヒロイン〜 』





















「会社を案内するから、着いてきて」
 すっくと立ち上がると、奥へと歩き出す。慌ててさいりの後を着いていく桃太郎。
「あのぉー、もしかして採用なんですか?」
 恐る恐る訊ねる。
「そのつもりだけど……何か問題でもあるの?」
「あっ、いえ」
 慌てて首を横に振る。
 不況のご時世、簡単に職にあり就けるとは考えていなかっただけに、拍子抜けだ。
「雇用契約書の方には後でサインして貰うけど……」
 さいりは桃太郎を先導してオフィスから出ると、階段を使って下の階へと向かった。他の階もオフィスとして借りているのかと思い訊ねてみれば、ビル一つ丸まるがRHS所有のモノと返事が返ってきた。
「このビルが――ですか?」
「表向きには貸しビルのようにしてあるけどね。正義の味方をするならそれなりの施設は必要だから、ビル一つ買い取ったのよ」
「買い取った!?」
 驚きの声を上げる桃太郎。RHSを紹介してくれた大学の先輩のすみれの話だと、まだできて新しいと聞く。そんな会社が、ビル一つ買えるとは信じがたい。
「どこから、それだけの資金が出てるんです?」
「それは――」
「さいりの特許よ」
 返事は別のトコから聞こえた。
 周りを見渡せば、さらに一つ下の階からコンビニの袋を下げたショートカットの女性がいた。
「すみれ先輩!?」
「やっほ、桃太郎」
 女性――すみれは、手を軽く振って応えた。Tシャツにジーンズ、頭に巻いている赤いバンダナ、その姿はラフな服装だった。
「あんたの歓迎会用の飲み物と食い物、調達してきたわよ」
「相変わらず、宴会好きなところは変わってませんね」
 嫌味のこもった後輩の言葉だが、すみれは聞く耳を持ってないようにあっさりとかわす。
「新入社員からは会費は徴収しないから安心して」
「はい、はい」
 力無く答え、話を続けた。
「それで、特許って言うのは?」
「さいりって、何才に見える?」
「年齢ですか? 初めはオペレーターのバイトでもしている娘かと思ってましたから、17才ぐらいだと考えてましたが……社長をするなら、童顔なだけでもっと上かと――少なくとも二十代前半」
「プッ」
 桃太郎の答えに、小さく吹くすみれ。
「17才ってのが正解よ。あの娘、幾つかの学年をスキップしているから、ああ見えても博士号を持っている天才よ。心霊工学に関しては世界でトップクラス。幾つかの技術で特許を取っているのよ」
「そんな人が、どうしてこんな所で正義の味方なんて――」
「桃クン。女性の過去を探るものじゃないよ」
 年不相応なれど、艶やかな笑みを浮かべて振り返るさいり。人の心を魅惑する微笑の向こうに、桃太郎は自分がやばいところに足を踏み入れようとしている錯覚を覚えた。
「えぇ〜っと、この階は基本的にRBの研究制作しているわ」
 扉を開けて入ったそこは、上の階の事務所のようなオフィスとは違い、大学とかの研究所のようであった。
「彩さん、彩さん、居る? 新人を連れてきたわ」
 さいりの呼びかけに、所狭しと積まれた機材の中から一人のくせ毛の女性が顔を表した。滑稽なまでに大きなメガネ。その向こうにある瞳は、どこか眠そうにとろけている。
「彼女は彩さん――笠原彩。ウチの専属のボディデザイナーでね。警備対象に併せて色々な身体をデザインしてくれてるのよ。
 で、彩さん。こっちが新人の森井桃太郎クン」
 一度そこで言葉を区切るさいり。
 そして、ゆっくりと――
「正義の味方担当よ」
「あら〜、あなたが正義の味方なんですかぁ。
 笠原彩ですの。初めましてですぅ」
 舌足らずなあいさつと共に駆け寄ってくる彩だが――足下を走るケーブルに足を取られ、思いっ切り転けた。
「あちゃ〜……また転んでしまいましたですぅ」
 メガネの奥の目尻に涙を浮かべて立ち上がる彩。スカートに付いた埃を払ってる。
 少なくとも外観からして、さいりは元よりすみれよりも二、三歳は年上のようなのだが……一見してとろそうで、よくよく見ても鈍くさそうに見える彩。
「彼女――彩さんは、ああ見えても、世界でトップクラスのボディデザイナーよ」
 呆然と見ている桃太郎に、苦笑混じりにすみれがそっと耳打ちした。

「すみれさん、鈴ちゃんは?」
「あの娘なら、後三十分ほど街を流してから帰ってくるはずよ」
 一通り、会社内部を巡った一行は、最上階のオフィスに戻ってきた。
「流す?」
 会社案内を凝視していた桃太郎が顔を上げる。
「鈴ちゃんってのは、情報収集担当の社員の娘でね、街での情報収集を担当しているのよ」
「情報収集?」
「一応、ここでも警察無線とかを傍受しているんだけど……正義の味方って受動的な組織じゃない。だから、いち早く事件を見つけるために、街を徘徊しているのよ」
 分かったような、分からないような……
 曖昧な頷きを返す、桃太郎。不意に彼の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
「そう言えば、すみれ先輩の仕事は何ですか?」
「あたし? あたしは正義の味方のサポート兼戦略担当よ」
「すみれさんは桃クンの直属の上司にあたるから、何かあったら彼女に訊いて」
 そう応えると、さいりはクルリと向きを変える。
「彩さん。桃クンとのRBとの相性とかを調べたいから、今動かせるRBってある?」
「飛翔タイプなら、デザインの方が終わってますよぉ〜」
「飛翔タイプね――あれって……」
 今度は桃太郎に顔を向ける。
「まぁいいか」
 キョトンとしている桃太郎を一瞥した後、そう言いのけた。
「ってコトで、キミを試したいんだけど、いいわね?」
「いきなりですか!?」
「コレと言って、説明することはないし……実際に体験して貰った方が分かりやすいと思うの」
 そう言われては、承諾するしかなかった。ここで断れば、採用が取り消される危惧があったからだ。
 桃太郎が頷くと、さいりは積んであった段ボールの中を漁り始め、一つの携帯電話を取り出した。
「はい、この携帯持って」
 言われるままに携帯を受け取る桃太郎。何故、この状況で携帯が必要なのか怪訝に思い訊くと、
「それに、簡易式の幽体分離システムが内蔵されているのよ。それによって、分離した魂は、霊子ネットワークを使ってRBに注入されるわ。
 本当は、物質転送装置と組み合わせて変身するようにしたいんだけど……指向性の転送フィールド発生装置の小型化が思いのほか難航しててね……電話ボックスぐらいならすぐにでも作れるけど、さすがに勝手に電話ボックスを改造するわけにもいかないし……」
 ちんぷんかんぷんな桃太郎。彼が危惧するのはただ一点。
「よく分からないんですけど……大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。大丈夫。この私が開発したんだから。それを電話するみたいに耳にあててみてくれない?」
 いくら頭がいいとは言え、見た目女子高生のさいりに太鼓判を押されても、心配は消えない。
「本当に大丈夫なんですね」
 念を押すように聞き返しながら、携帯に耳をあててみる桃太郎。
「大丈夫よ、大丈夫。……まだ実験はしてないけどね」
 ボソッと洩らした呟きに慌てて携帯を離そうとするが、それよりも速く、
『簡易幽体分離システム作動――』
 そんな言葉が携帯の向こうから届いた――のと同時に、無理矢理、肉体から自分という存在を剥がされる感触を味わいながら、桃太郎は意識を失った。
「霊子ネットワークによる魂の転送は成功したようね」
 崩れるように床に倒れ込む桃太郎。彼の手から取り上げた携帯の液晶に『転送完了』と表示されているのを確認して、さいりは満足そうに微笑んだ。

       

 ――――――――ッ!!
 眩い光をまぶた越しに感じ、桃太郎は目を覚ました。
「う……」
 開いた彼の瞳に入ってきたのは、所狭しと置かれた妖しげな機材だった。先程案内された研究室に似ている気がした。
 手を伸ばそうとする、見えない壁に弾かれた。形を確かめるように撫でると、どうやら円筒形の筒の中にいるのが分かった。
「? 何だ、ここは――
 ――って、えっ、あれ? 何だよ、この声――女の声!?」
 発した自分の声がやけに高いことに戸惑う桃太郎。
 目の間にかざした手は陽に灼けていない白い肌で、筋肉質な腕はそこにはなく、細いが脂肪の付いた丸味のある腕がそこにはあった。
 唖然としながら降ろした視線は、
「のうわぁっ!???! 胸がある???!???」
 桃を連想させる柔らかそうな膨らみとツンッと上を向いている突起――更に下を見れば、あるはずのモノが無かった。
「――――??????」
 いくつもの疑問符が頭の中を踊る中、視界の片隅に自分の動きに併せて動く白い物体が見えた。
「…………羽?」
 そっと手を伸ばし羽に触れてみると――
「¢£%#&*@§☆!?」
 頭を駆け巡る感覚に、桃太郎の思考は一瞬真っ白になった。
 背中に生えている翼には、確かに神経が通っていたのだ。
「…………」
 どうして自分が少女――それも翼まで生やしているのか、理解に苦しむ。
「桃クン――今は桃ちゃんの方か。とにかく、RBの調子はどう?」
「社長!? コレは一体どういうコトなんです!!」
「それが、ウチが開発したレンタルヒーロー――この場合、ヒロインか――の身体よ。
 あっ、コレに着替えてくれない? いくらスタッフが女性ばかりとはいっても、キミも裸じゃまずいでしょ」
 何かの観測器を操作しながら、脇に置いてあった布を手に取り、桃太郎に投げつける。
 慌ててそれを手を伸ばして受け取ろうとする桃太郎。その際、胸が上下に揺れ、元の身体では感じられない抵抗に、思わず受け取るのを失敗してしまった。
 なるべく胸を気にしないように腰を曲げ、床に落ちた衣装に手を伸ばすが、所狭しに置かれた段ボール箱に背中の羽が引っかかり思うようにかがめれない。
 しかたなしに、膝を曲げてしゃがんで取るのだが、
「…………」
 股にあるべきモノがないことに漠然とした不安を感じた。
 それでも、何とか衣装を着込もうと挑戦する桃太郎。そのコスチュームは、胸とかの急所にはプロテクターらしきモノが付いているのだが、大半は伸縮性にとんだ布地でできているため、着る分には困りはしなかった。
 まさかブラジャーとかまで身に付けなければならないのかと後込みを見せた桃太郎だが、幸いにして、レオタード状のアンダースーツが形状記憶繊維でできているためその必要はないらしく、その危惧は免れた。
 コスチュームの調子を確かめながら問いかける。今の桃太郎の姿は、ミニスカートが揺れる短衣をまとったアニメに出てくる女神のようであった。
「どうして少女なんです!?
 普通この手の仕事なら、見る者の心理効果を考量に入れれば、ターミネーターやランボーの様に筋骨隆々のヒーローの方が――」
「可愛いから」
 その言葉は、さいりとは別の位置から届いてきた。
 さいりが声のする方に目を向ければ、声の主である彩とすみれがいつの間にかそこへやってきていた。
 ただ一人、桃太郎だけが、彩の素っ気ない一言が頭に浸透するまでの間、二人の存在に気付きはしなかった。
「まさかと思いますけど……、俺が宿る予定の身体って、全部女性タイプなんですか?」
 嫌な考えが脳裏を過ぎる。
 もし、今現在元の男の身体でいたのなら、間違いなくそこから逃げることを選ぶだろう。
「全部が全部女性って訳でもないんだけど……それが彩さんを雇う時の条件だから」
 ゆっくりとした動作で首を向ければ、その言葉を肯定するように彩はコクリと頷いてみせる。
 彩との雇用契約は、『可愛いRBのデザインしかしない』の一点だけだった。
「それに、少女の身体だってバカにするモノじゃないわよ。助けられる側としたら、むさい男よりも、可憐な美少女の方が絵になるじゃない」
「…………」
 言い訳じみたことを続けるが、頭が麻痺している桃太郎の耳には、それはノイズとしてでしか届いていなかった。

       

 一通りの実験及び訓練が終わった頃、窓の外は陽が落ちて暗かった。
「――辞めさせて貰います!」
 元の身体に戻った桃太郎の第一声はそれだった。
「辞表は後ほど郵送しますので――」
 足早に会社を後にして立ち去ろうとした桃太郎だが、
「困るわよ」
 背後からかけられた声に足が止まった。
 振り返れば、さいりが桃太郎の履歴書をヒラヒラさせていた。
「履歴書……?」
「そう、貴方の履歴書ね」
 クスッとほくそ笑むさいり。
「それも、偽造された履歴書よ」
「偽造?」
「あら、そうじゃなくて? 大学の卒業年度を偽ってますわね……森井桃太郎さん」
 いきなりフルネームで呼ばれ、思わず後ずさる桃太郎。
「けど、それは書き間違い――」
「書き間違いか、意図的なものかを判断するのは相手でしょ」
 微笑を浮かべるさいり。ただし、目は笑っていない。
「この不況のご時世――
 バイト探しもままならないのに、就職なんて簡単にできるかしら?
 まして、公文書偽造するような輩を雇ってくれる会社なんてあると思って?」
「……ぐっ」
 かろうじて出たのは、グゥーの音一つだけだった。
「貴方は知らないかもしれないけど……こう言うご時世だから、ブラックリストなんてモノが存在するのよね――企業間の人事部の間にはネ。ウチがこの事をリストに載せたら……」
 持っていた桃太郎の履歴書を彼の鼻先に突き付ける。
「さぁ、どうする?」
 にっこりと笑顔を浮かべるさいり。項垂れるように頭を下げる桃太郎。
「……宜しくお願いします」

 −end−




 
 

[ RENTAL BODY Ver5 〜なりゆきヒロイン〜 ] ■あとがき■

 何か、長編の出だしみたいな感じだな(笑)
 読んで気付く人もいると思うけど……ノリは月刊アワーズにて連載中の『ジオブリーダーズ』です(自爆)
 まぁ、それは置いといて、
 本当なら、桃太郎の魂がRBに宿るのは、実験じゃなくて事件の連絡が鈴から入り、いきなりRBに入れられて、カタパルトにて射出(自爆)
 背中に生えた翼をはばたかせて事件現場に飛んで向かいます(翼で飛ぶ訳じゃないんですけどね)

 本当は作中で語るはずだったけど、飛翔シーンのカットのため書けなかったので少し補足です
 人の形態では、翼で揚力を得るには、かなりの軽い体と尋常ならざる筋力が必要で、それではデザインが大きく崩れるため、翼は半ば飾りとして存在し、サイコキネシスで身体を浮かせて飛翔します。
 もっとも、翼もただの飾りと言うだけではなく、空気抵抗を考えてデザインされてますので、一度風に乗れば、かなりの速度で滑空することが可能です(この話では)

 RBに対してのESP能力付加は可能ですが、霊子力を転換させますのでそのバランスを調整するのが難しく、普通のレンタル屋で貸し出しているRBでその能力を付けているのはほとんどありません。
 強いて言えば、猫や犬と言った動物の身体に、意志疎通用のテレパスの付加ぐらいです。
 そのため、レンタル屋で羽付きの身体をカスタマイズして借りても、ただの飾りで飛ぶことはできないでしょう(笑)
 天使のように飛びたかったら、それなりの研究機関にでも特注でRB制作を依頼するほかありません。

 何はともあれ、歴代のRBシリーズの中で唯一、元の姿に戻れる桃太郎(笑)
 だがしかし、彼の苦悩は始まったばかりだった!!
 立ち上がれ桃太郎。負けるな桃太郎。
 世界の平和はキミの手に掛かっている!!
 




















 

□おまけ

「桃さん。キミの新しい身体が完成しましたですぅ」
「どうせ下半身を魚にして、首にエラを付けた水中作業用の身体って言うんでしょ」
 先日、彩が人魚をデザインしていたのを思いだして、言う桃太郎。
「あっ、それはまだ未完成ですよ」
「えっ?」
「下半身を魚にするのは良いけど、シミュレーションの結果を見る限りでは思ったほどの速度が出なくて……腕の方にもヒレを付けようと考えているんですけど、そうするといまいちデザインが決まらないし――」
「それで、新しい身体ってのは?」
「それは、魂を移してからの、お・た・の・し・み――です」
 そう言って投げて寄越してきた携帯電話を反射的に受け取ってしまう桃太郎。それが簡易分離システムを内蔵しているヤツだと気付き慌てて手から落とすが、間に合わなかった。
 地面に落ちた携帯。
 それと同じように、桃太郎の身体も崩れるように地面に横たわった。
「うっふっふっふっふ♪」
 めがねを妖しげに光らせながら、彩は携帯を拾い上げる。その液晶ディスプレイには、『転送完了』の文字が点滅していた。

       

「にゃぁ〜」
 RBに宿った桃太郎の口から無意識に呟きが洩れる。 
 RBとのシンクロ誤差が消えるまでしばし……睡眠から覚醒するかのように意識がクリアーになっていくと、桃太郎は自分の目の前にかざした腕を見て唖然とした。
「何だにゃ!? このフサフサの腕は……獣人だにゃぁ!?」
「きゃぁ♪ 可愛いわよ、桃クン」
 さいりの歓喜の言葉がやけに近くで聞こえる。
 慌てて耳を押さえようと手を伸ばすと、『耳は、自己主張するように頭の上でピンッと立っていた。

「嗅覚と聴覚を人間の数万倍に設定してますから、麻薬犬のお仕事もできますぅ。それに、頬から生えている髭で大気中の水分を感知し、天気予報をすることもできますぅ」
 自分の顎の下を撫でようと手を伸ばしてくるさいりの手を押さえながら、彩の説明を聞く桃太郎。
「凄いのは分かりました。
 ――けど、」
 静かに問う。
「なんで、ネコなんですにゃぁ〜 別に猫娘形態にしなくても、普通の人間形態で聴力を上げるぐらい彩さんならできるはずだにゃぁ〜!!」
「う゛っ〜……」
 桃太郎の釣り目の瞳に睨まれて、拗ねたように俯く彩。
「……だって」
「だって、何だにゃぁ〜?」
「……可愛いから」

 チャン、チャン♪

 




















 
□次回予告
























 とある雪の降る寒い夜――
 爆炎がホテルを包んだ。
























 それが全ての始まりだった。
























『死者218名』
『負傷者84名』
『行方不明者75名』

『行方不明者の中には、主賓であるオケアノス国女王ユウ=オケアノス女王を始め――』
 突然の報道が、街を止める。
























 カラーン――
 カウベルの音ともに、女性は現れた。
























「あんたね! 何考えて、そんな身体をモニターしてるのよ!!」
























「ねぇ、この身体って凄いんだよ」
 小悪魔的な微笑みを浮かべると、その小さな身体を粉雪舞う窓の外へとひるがえした。
























「その人の名は?」
 少女の問いに、メイドは静かに答えた。
「――双海葵。かつて、地上最強の傭兵と呼ばれた男です」
























 吹雪に紛れて血飛沫上げる狂気――
「お姉さまに仇なすものは――」
「――TWIN−TAILが相手よ」
 妖しく輝くは二つの双眸。
























 一縷の望みを託して訊ねる。
「彼女?」
「楠見さいり。心霊工学の世界的権威だ」
























「霊子ネットワークって知ってる?」
 それは甘美ある悪魔の囁きだった。
























「いらっしゃいませ。ようこそ、『RHS』レンタル・ヒーロー・サービスへ」
























「ESP付加タイプに身体能力強化タイプね」
 一瞥するだけでレンタルボディの性質を見極める少女。
























 その夜、
 白銀の翼羽ばたかせて、堕天使は舞い降りた。
























『いいから、そのヒトを携帯に出して!』
 今にも死にそうな女性の耳元に携帯をあてがう……
























 覚えているが思い出せない鏡に映るその姿――






























「私は、誰?」






























 2000年春公開予定――
『 RENTAL BODY Re-mix 〜雪の降る時に〜 』

 同時公開は、
[Ver1]と[Ver2]の二つのストーリーを網羅し、
 10個のマルチエンディングを用意したRB初 [Game Book Version]
『 RENTAL BODY GAME-MIX 』

 あなたは、
  ▽レンタル屋に向かう?
  ▽レンタル屋に向かわない?


















 冗談です(自爆)
『 GAME-MIX 』は四分の一までのシナリオはできてますけど……執筆予定がたたない現状。
『 Re-mix 』に至っては、単なる悪ふざけです(スイマセン)
 ですが、掲示板あたりにでもTWO−BITに催促してみれば、その限りではありません。


 
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