戻る


もう一度あなたと・・・

作:kagerou6

 

 

・・・・わたしは・・・・

幸(ゆき)は飛び起きた。

また・・・あの夢だ・・・・

窓からは朝焼けがさし込んでいた。

「おはよう」「おはよう」あちこちでそんな会話を聞きながら川村幸は机に着いた。

「・・・おはよう・・・・」川崎隆が声をかけてきた。

「どした・・・寝不足か幸?」

「・・・・・またアレを見ちゃって・・・・」幸はため息をついた。

「またか!・・・・やっぱり医者に行ったほうがいいぞ?」隆は恋人の幸を心配そうに見つめた。

「・・・・何か引っかかるのよ、あの夢・・・・」幸の父親は医者だが、幸は医者が嫌いだ。”まして、家族になどいえない”幸は思っていた。

「親父さんでも・・・」隆はしつこい

「・・・・別に実害があるわけでもないし・・・・」

「おまえねー・・・”・・・・たかし・・・変な夢みたの”て、言ってたのいったい何処のだれでしたっけ、ねえ幸?」

「あたしがいいんだからいいの!」幸はそう隆に言いきり顔をそむけた。

でも気になるなー・・・・あの夢なんだろ・・・偽りの無い幸の気持ちだった。

川村幸24歳昨年大手電気会社に入社した。配属された部署で同期入社の川崎隆のアシスタントをする事になり(隆は営業、幸は事務)二人は仕事のうえでの信頼がいつしか甘い恋人へと変わったのは言うまでもない。

「何でかなー・・・・・」幸は食事をしながらふとつぶやいた。

「結局気になってるんじゃないか」隆も実は気になっていた。

「やっぱり・・・あれと関係があるのかなー」幸はつぶやいた。

「おまえ,その話はもうしない約束だぞ!」隆は幸の手を取りいった。

「・・・ごめん、そうだったね」幸は目をふせ隆につぶやいた。

 

幸は子供の記憶がなかった。

夏の暑い日に倒れているのを今の母親に見つけられたのだ。

子供のいない両親は記憶の無い幸を引き取り”幸せになるように”と幸と、名前をつけたのだと。

幸が隆に秘密をうちあけたのは去年の夏,海に行った帰りに”付き合ってくれないか”隆に告白されて3日目のことだった。

幸は隆が好きだったので、隆に付き合ってくれと言われたとき幸せな気分だった。

その日家に帰り落ち着いた幸は隆のことばかり考えていた。

・・・・川崎さんががあたしのことを、でも・・・・・

・・・・・あたしのことをいうべきか・・・・・

翌日、幸は隆を避けていた。気持ちがまだ落ち着かないのだ。

3日目、隆は幸を食事に誘ってきた、返事を聞かせてもらうために

「川村さん、昨日から僕を避けているみたいだが・・・・僕の事嫌いかい?」隆はコーヒーを飲みながら幸に言った。

幸はうつむいたまま何も返答しない。できなかった。

・・・・あたしの事を知ったら・・・・幸は思っていたのだ。普通でない自分は隆に合わないと、

二人は店を出て駅に向かい歩いていた。

「・・・・川村さん・・・・」隆はもう一度声をかけてきた。

いつもの明るい幸に見えず振られたと感じていた。

「今日は着き合わせて悪かったね・・・」隆の言葉に幸は顔を向けた。

「・・・・嫌われたみたいだけど、会社ではいままで・・・」隆は言葉を止めた。幸が急に抱きついて来たから。

「・・・・違うの、川崎さん・・・」幸は隆にそう言って顔を見つめてきた。

「?」理由がわからない隆は”ここでは”と近くに喫茶店へ幸と入っていった。

「・・・・・川村さんの気持ちとても嬉しかったの、でもあたしは・・・・」ポツリポツリ話し出した幸を隆は見つめていた。

「・・・・でも、なんだい?」隆はやさしく聞き返した。

幸は心を決めたかの様に隆を見つめ言い出した。

いつしか1時間が経ち空は薄闇に包まれていた。

涙を浮かべたまま語る幸の手を取り隆は「そうだったのか」と、小さくつぶやいた。

「でも、幸はどうなんだい?」隆はいきなり”幸”と言い、話しかけてきた。

いきなり言い方を変えてきた隆に幸は驚いていたが幸は隆の顔を見るだけで何も言わなかった。

「・・・・僕達は会社で知り合ったんだよ?僕が好きになったのは今の明るい君なんだ。」隆ははっきりと幸にそう言った。

「・・・・それとも幸は今のままじゃ不満か?」隆はわざと幸を困らせるかのように言った。

「そんな事ない!」幸も隆にそう答えた。

「だったらいいじゃないか」

「・・・・ほんとにいいの?・・・・」幸は隆の顔を、涙の溜まった瞳で見ながらつぶやいた。

「?」

「・・・・こんなあたしで・・・・」幸は隆の手を握りながらつぶやいた。

「今の幸が僕の幸さ」隆も握り返す。

「でも変だよな、幸の親父さん医者だよな、割と有名な・・・・」隆はふと思い出しながらいった。

「そう・・・・よ、でも父はあまりあたしの事を詮索しないみたいなの」

「何故」

「もしつらい事があったらって言って今のままが一番じゃないのかって」

「・・・・親父さんはそんな事を、幸はどうしたいんだい」

「今隆と一緒で幸せだし今のままが一番かなって」

「そーだよな、今が一番だよな」隆も幸に頷いた。

「僕は今の幸が好きだ、だから今の話はもうおしまいだ。いいな?」

「うん」幸は今日一番の笑顔を隆に向けた。

幸と隆、二人のはじめての約束だった。

 

「でも、最近ふと思う事があるんだ」店を出て幸は隆に告げた。

「もしかしたらあの夢、あたしの記憶に係わる事じゃないかって?。」

「何でだ。何故幸はそう思う?」隆は幸が何を言い出したか不満げだ。

「父さんに聞いてみたの。そしたら”もしかしたら幸の記憶が”って・・・」

「もしそれで過去がわかっても親父さん幸にきちんと話をしてくれるだろ。」

「・・・・多分・・・・」幸は小声でつぶやく。

「だったら大丈夫、幸は心配する必要なんてないよ」隆は幸の肩をたたきながらそう告げた。

隆はそう幸に言ったものの実は心配でならなかった。

幸の過去が楽しいものなら、いや悲しくなければいいが・・・・

隆は幸が過去を知り傷つく事を恐れていた。

 

夢をはじめてみたのは、付き合い始めて二人で旅行に出かけた時の事だった。

”紅葉が見たい”と幸が言い出したのだ。

・・・・紅葉ねー・・・・幸が行きたいならいいか、二人で出かけた事もないし、隆はそう思い幸と共に計画を考えた。

二人は車で山道を走り,昼は幸の作ったお弁当を広げそのまま小さな旅館に着いた。

実は、隆がこの旅行を決めたのは”幸と・・・”との思いからであった。

昼間の運転に疲れていたが隆は初めての夜に張りきっていた。

しかし、幸は初めての二人きりのドライブに疲れ、直ぐに寝てしまったのだ。

・・・・あーァ・・・・隆はあきらめ寝入ったが、しばらくして幸が抱き付いてきた。

翌朝幸はそのことを覚えてなかった。・・・・ただ変な夢を見たのとしか・・・

・・・・変な夢・・・・隆はそんな(寝相の悪い)幸を笑うだけだった。

何日かが過ぎ、幸は暗い顔で隆に”相談したい事がある”と喫茶店へ呼び出した。

「・・・ねえ,隆・・・旅行行ったのいつだっけ・・・・」幸は変なことを聞き出した。

「そーだな、3週間くらい前か・・・・」

「・・・やっぱそうだよね。・・・・隆あのね実は・・・・」幸はあの後も変な夢を見ているというのだ。

”偶然さ,気のせい”隆は幸に対してそう笑いながら答えた。

”そっかなー”納得のいかない幸だったが隆のいうことももっともと思い笑った。

しばらく夢を見ない日があり、幸はすっかり夢を忘れていた。

季節は移り新入社員が各職場に配属になる頃、二人はまた旅行に出かけた。

今度は隆が”静かなところに行こう”と誘ったのだ。

「じゃあ,桜が見たい」幸はそう切り返し,桜の名所を調べ出した。

今度は桜かー・・・隆は季節イベント好きの幸に気後れしそうになった。

しかし、今度こそと隆はガイドを見ながらそう心に決めていた。

名所めぐりを済ませ,旅館に戻った二人は山々の坂、階段の昇り降りにヘトヘトになり食事が終わりまた直ぐに寝てしまった。

翌朝・・・・しまった・・・隆は目が覚めたとき思った。・・・・あーァ・・・またか,隆の本音であった。

が,また幸が抱き付いてきた,変な夢を見たと

隆はにやけながら考えたいた。前の旅行の事を

隆は幸に”もしかして・・・前に見たアレか”と聞くと幸は頷き”おとこのこが・・・”とつぶやくだけであった。

それから幸は夢を見続けていた,旅行で見たあの夢を

「親父さんに相談してみろよ」隆は幸が心配になってそう幸に話した。

「・・・・でも・・・・」幸は言いよどみ歯切れが悪かった。

「このままだとお前が参ってしまうだろ?」隆は「親父さんが恥ずかしいなら違う所いけば・・・」そう続けた。

「判ったわ・・・父に聞いてみる。」幸は隆にそう言って別れた。

翌日,隆は幸に話を聞いた。

「父は疲れて気になる事が夢で見たんじゃないかって・・・・」幸はそう隆に話た。

・・・・それならいいが・・・隆は何か気になっていた。

 

夏の暑い日、納涼祭が会社で行われた。

隆と幸は2年目という事もありイベントに雑用にと引っ張りダコである。(新入社員は使い物にならない)

「うちの会社イベント好きだよなー,なァ幸?」やっと時間の空いた隆はベンチに座り幸にりんご飴を手渡しながら言った。、

「わたし,祭りとかは見てるほうがいいのに・・・陰謀だー」幸もつぶやく

「・・・・・ねえ隆、ほら懐かしいおもちゃ売ってるよ」幸は出店の方を向き隆に話し掛けた。

「・・・・どれどれへーまだこんなのが・・・・」あれっと隆は幸を見つめた。

「お前、今なんて・・・・」

「・・・・だから懐かしいおもちゃだって・・・・」幸は自分の言っている事が理解していなかった。

「なぜ懐かしいおもちゃだと言った・・・・幸?」

「・・・なんでだろ・・・でもあの」幸は急に隆にすがりつくように意識をなくした。

隆は幸の家に連絡し幸を抱きしめたまま迎えを待った。「娘は?」と言う父親に「急に・・・」と隆が説明しながら、そのまま家まで幸に付き添っていった。

翌日から幸は様子がおかしかった。会社に来て「昨日はありがと」と幸は隆に昨日の礼を言ってきたから。。

隆は”?”と,感じながら「どういたしまして」と答え幸の後ろ姿を見つめていた。

”幸の奴,なんか変だな。いつもはあんな事言わないのに”隆は仕事を始めるまで幸を見ていた。

隆は”なんとなく幸がよそよそしかった”事を電話で会社で感じ取っていた。

「幸,今度の日曜日なんだけど・・・」誘い掛ける隆に幸は「ごめん,ちょっと用事があって」と避けてしまう。

「幸の好きなコンサート、チケット取れたんだ」「その日はちょっと」

 

 

そんなことが続いたある日,隆は幸をお茶に誘った。

「・・・・なァ幸?、この頃俺の事避けてないか」隆は幸にそう切り出した。幸がこの頃隆に仕事のこと以外話さなくなっていたから

「・・・・・・・・・」幸はそれに対してうつむいたまま何も答えてはくれなかった。

「幸,俺の事嫌いになったのか?」隆は思い切って聞いてみた。

「違う。そんなんじゃ・・・・」幸は隆から目をそらしたままつぶやく。

「・・・・俺達、別れよう・・・・」隆はそんな幸を見てそう言った。

急に顔を上げた幸は、それでも何も隆に言わずにいた,言ってくれなかった。隆はそんな幸に”サヨナラ”とだけつぶやき店を出た。

店を出た隆は窓から幸を見たが幸はうつむいたままであった。

翌日、幸は会社を休んだ。病気で寝込んだと親から連絡があったのだ。

終わり間際、「隆、見舞いに行かなくていいのか?」同僚が隆を冷やかしてきた。

「幸、かわいそうよ、恋人が見舞いにも来てくれないなんて・・・」

「川崎は幸に嫌われたのさ・・」

廻りの声を聞き流しながら隆は考え込んでいた。

・・・・幸、昨日の事か・・・・と

隆は仕事を片付けタクシーで幸の家へと向かいながら考えていた。このままでいいはずが無いと。

「こんにちわー・・・」呼び鈴を押し誰かが出てくるのを待った。

しばらくして白衣を着た父親が出てきた。

「・・・会社の川崎と言います。川村さんの容態は・・・」隆はそう訊ねた。

しばらく隆の顔を見いたが、幸の父は「もしかして君が隆くんか?、・・・・君に話がある」といって隆を中へと招きいれた。

父親は隆を座らせて”何から話せば・・・”とつぶやいた。

「君は娘の事は、幸が養女という事は知っているか?」まず隆に聞いてきた。

「ええ、付き合いはじめた頃に・・・・」隆は顔を上げ父親に答えた。

「・・・・なんて言ってた・・・・」

「・・・・今の親は記憶をなくしたわたしを養女にしたと・・・・」

「・・・・そうか・・・・」ぼそり呟く父親を見て隆は問い掛けた。

「そのことが何か」隆は幸の父親の質問に困惑していた。・・・その事と幸の病気と・・・・

「幸は君の事をそれほど・・・・だから幸は自分の事を・・・・・きっと記憶が戻ってしまったんだ・・・・」辛そうな父親の呟きに”あれっ”と、隆は聞き返した。

「戻ってしまったとはどういうことです。」隆の問いかけに一瞬顔をしかめたが、

「・・・・ここでの話はだれにも言わないで欲しい・・・」父親は辛そうに口を開いた。

・・・・私達夫婦には息子がいた。祐樹という男の子だ。しかし数年前病気になり女になってしまった。女になった息子が不憫に思い,男の記憶を封印した。

そして、その子を養女として育てる事にした,幸と名前をかえて。幸は明るく好い子に育ってくれた。

私達は幸がこのまま幸せになって欲しいと願っていたから、記憶の事はだれにも言わないつもりだった・・・・と,

「それでは幸は・・・・」隆は話を信じられなかった。

父親は一度頷き部屋から出ていった。

・・・・それじゃ幸の見ていた夢は,男の子は・・・・・隆は幸が見た夢が閉ざされた記憶の一部だと知った。

父親はアルバムを抱え戻り、中から一枚の写真抜き出し隆に渡した。

そこには男の子を挟んで3人が仲良く写っていた。

「私のアルバムの中に有った最後の祐樹の写真だ。忘れられなくて取っておいたものだが、・・・・・」

「この間、幸はこの写真を見て泣いていたんだ・・・・そのとき気付くべきだった」父親はそう言って隆に顔を向けた。

「それは何時の事ですか?」隆は尋ねた。

「幸が倒れたあの日だ}父親はため息をつきながら隆に答える。

・・・・じゃあ、あの時の幸はもう・・・・

「幸は知ってしまったんだ、自分の事を」父親は悲しそうにつぶやいた。

「・・・・今、幸は部屋に?、合わせてもらえますか・・・・」隆は幸が気がかりだった。隆は幸がまだ好きだったから。

「・・・・幸は今朝からいないんだ・・・・」苦悩する父親は隆に一枚の手紙を見せた。そこには”お父さん、お母さん、隆、ごめんね、”とだけ書かれていた。

「・・・・それは・・・・いつの手紙ですか・・・・」隆も幸の変化に”おかしい”と思っていたので声が途切れ途切れになってしまう。

「昨夜,幸がどうも泣きながら帰って来たらしくてな、うちのが聞いても”ほっといて”とそのまま部屋に閉じこもってしまって,今朝起こしにいったら鏡台の上に・・

・・」

「まさか幸は・・・・」隆は最悪の事が思い浮かんだ。しかし父親は首を振った。

「あの子はもう帰って来ないかもしれないがそんなに弱い子じゃない」

「・・・・今まではそうかもしれないけど,今度は違うんです」隆は父親の態度に腹を立て席を起った。

「待ちたまえ、これを見てからにしないか」父親はそう言って幸の日記を持ち出してきた。

そこには、隆と知り合ってからの幸の思い出があった。

告白したあの日、けんかした事,旅行した事、そして・・・・

隆は幸の心に触れた気がしていた。

「・・・・ここ何日かだけでいいだろ・・・」父親は催促してきた,余り見て欲しくないのだろう。

隆は目的のページを開いて読み出した。

・・・・もう,隆に合えない、隆が好きなのに・・・・

いきなりの言葉に隆は日付を見た。それは幸が倒れたあの日だっのだ。

こんな私なんて隆に愛される資格なんてないんだ。でも・・・・

・・・・隆に別れようといわれてしまった。私はもうどうしていいか判らない・・・・

・・・・隆を忘れたくない,でも顔を見るのが辛い・・・・

・・・・こんな記憶消してしまいたい・・・・

日記はそこで終わっていた。

ため息をつき父親を見つめた隆は椅子に座りなおした。

・・・・これほど思いつめていたのか・・・・

隆を見つめていた父親は「・・・・判ってくれたか・・・・」そう隆につぶやいた。

「・・・・しかし,このままじゃ・・・・」隆と父親は同じ声を上げた。そう二人は気付いていたのだ,このままでは幸の為にならないと

「・・・・そんな事したら今の幸が・・・・」”消えてしまう”・・・・言葉にならなかった。

二人はうつむいたまま、それだけは避けたいと思っていた。もう二度と幸に辛い思いをさせたくないのだ。

「・・・・幸はかわって無いのにな・・・・」隆は日記を見たままつぶやいた。

「?記憶が戻ったのにか、何か思い当たる事があるのか隆くん?」

「・・・・日記に・・・・ほら・・・・」隆は自分の考えが正しいと思っていた。・・・・幸は女の子のままなんだ・・・・

「女の幸の行きそうな所か?・・・・もしそうなら」言いながら父親は顔を隆に向け

「・・・・君との思い出の場所か・・・・」と。隆は父親に頷いた。

「・・・・幸は恐らく、初めて二人で行った海にいると思います・・・・」隆もそう父親に向かいつぶやき席を立った。

「待ってくれ」父親は隆を追いかけてきた。

隆は父親と二人電車に乗りこんだ、目的地は隆が幸に告白したあの海。

「・・・・もし幸がこのまま・・・・」父親は隆にぼそぼそつぶやく。

「・・・・このままでも、いや今のままが・・・・」隆は景色を見つめつぶやく。

二人にはそれ以上の言葉は要らなかった。

隆は悔やんでいた、あの時幸がおかしいと気付きながら何もしなかった自分に。

駅に着いたが父親は隆に「・・・・娘をたのむ・・・」そう言い残しそのまま電車を降りずにいってしまった。隆に財布を渡して

隆はそれから二人で来たときを思い出しながら海岸を歩いていた。

・・・・あの時海岸で花火大会があったんだよな・・・・

・・・・幸はそのときに・・・・

・・・・花火大会昨日だったのか・・・・

隆は幸を探しながら、海岸で髪の短い女の子を見つけた。

・・・・何処かで・・・・

隆が声をかけようとして近づくとその子は遠ざかっていく。・・・なぜだ・・・

隆はますます気になりその子を追いかけるように走り出した。

しばらく追いかけて岬のほうに来た隆はそこにうつむいたままの幸とさっきの女の子を見つけた。

・・・・この子は幸の事を・・・・”幸”・・・・後ろから声を掛けると幸は振り向きそして一瞬

「・・・・・きみ・・・・・」声を掛けたが子供はいなかった。不思議に思いながら幸を背中におんぶして隆はそのまま岬へと歩いた。

・・・・もう悩まなくていいから・・・・幸を見ながら隆は思っていた

タクシーを拾い旅館に着いた隆はそっと幸を寝かせ傍らで幸の顔を見ていた。ただ幸が目覚めたとき起きていてやりたかったのだ。

だが隆はそのまま、ついうとうとしてしまった。

気が付くと部屋にはあの子が幸の枕元にいた。

・・・・君はいったい・・・・隆は声を掛けようとしたが声が出なかった。

その子は幸の顔に手を当てそして消えた。

・・・・アレはいったい・・・・隆は幸を見つめたまま不思議な出来事にただ呆然としていた。

隆の見つめるまま幸は不意に目を開けた。

「隆?,なんで・・・ここに」幸は隆がいるわけが判らなかった。

「誰かさんがいなくなったから・・・」隆はさりげなく幸を追いかけてきたことをにおわした。

「・・・・・・・・」幸は布団を握り絞めたまま何も答えなかったが,しばらくして

「・・・・夢で祐樹が・・・・」幸はポツリつぶやいた。

「・・・・祐樹・・・・」隆は昨日の事を思い出していた。・・・もしかしたらあの子は・・・・

「もう、いいから帰りなさいって」幸は涙を溜め隆に夢を語った。

 

・・・・幸、きみは女の子だ僕じゃないんだ・・・・

・・・・幸の大切な人が迎えに来てるよ・・・・

・・・・幸に幸せになって欲しい・・・・

・・・・幸さよなら・・・・

隆は泣きながら語る幸の言葉に祐樹が二人を合わせたのだと確信した。そして祐樹はもう・・・

「君は一人きりじゃない、両親も僕もそして祐樹も君を大切に思っている・・・」隆は幸にあったときの事を聞かせた。

「祐樹は君が心配で僕の前に現れたんだ、そう僕が気づきやすいように」その言葉に幸は隆を見つめた。

「・・・・見たことある筈さ,いつも見てたんだから・・・・」隆はつぶやきながら幸を抱きしめ髪を撫でていた。

幸は何も言えずただ隆に抱かれたまま涙を流していた。

 

「もう幸には合えないかと思ってたんだ。」隆は旅館を出てそうつぶやいた。

「でも、幸が忘れても僕は覚えているからもう一度出会えると信じていた」

隆の言葉に「あたしが変わっても・・・・隆?もう一度・・・」幸は言葉を詰まらせながら「・・・・もう一度私と・・・・」つぶやいた。

「あァ・・・もう一度君と・・・・」隆はつぶやきふと足を止めた。

「・・・・・・・」幸は立ち止まり泣き出していた、隆の気持ちに。

「・・・・幸・・・・」隆は振り向き幸に口付けをした。

 

 


戻る


□ 感想はこちらに □