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〜真奈の中の慎吾〜

慎吾から真奈へ

作: Ayame




島村真奈:
小学校六年生(12)の時に自殺。体には慎吾の精神が宿る。
今は私立の名門女子校の中等部に通う。
木村慎吾:
バイトに励む大学生だったが事故死。当時21歳
嶋 怜子:真奈の同級生





[怜子]

「慎吾」が「真奈」になってから二年の年月が流れた。「真奈」は中等部二年生、14歳の少女になっていた。
「慎吾」は真奈の両親と約束を交わした夜から、島村家の娘として両親に尽してきた。それが、自分に体をくれた真奈に対する供養になると信じて....

「真奈!早くしなさいよ、早く着替えないと授業始まっちゃうよ!」
「あ...うん。わたし、後から行くから...」
「早くしなよ。遅刻扱いにされても知らないからね。」

 真奈をせかしているのはクラスメイトの怜子。入学式の時に話し掛けてきて以来の付き合いである。世話好きで、明るく、話好きな性格の彼女は、女の子の話題に今一つついていけない「真奈」に対して、「内気な女の子」と見ているらしく、いろいろな面で「真奈」に女の子の何たるかを教えてくれていた。そんな怜子を「真奈」が気に入っていたのは、いまの「真奈」が持ち合わせていない生粋の「女の子」としての彼女に対する憧れもあったが、なにより彼女は「慎吾」の好みのタイプでもあったのだ。
 すっかり女の子としての言葉づかい、行動が板に付いた「真奈」だったが、20年の歳月を男としてすごした経験が薄らぐには、まだ時間がかかった。

「真奈」は怜子と同じ部屋で着替えることが出来なかった。

 実際中学生くらいの少女が同世代の少女に憧れるのは良くあることである。そこから、女性としての意識、そして女性としての男性に対する意識と発展していくわけだが、そういう意味で言ったら「真奈」は健全な精神的成長の過程にあるといえるのだが、男性としての経験を有する「真奈」にとってそれは、「危ない道」に入りかけているんじゃないかという心配の種であった。「真奈」は友人の怜子を「そういう目」で見たくなかったのだ。



[命日]

「どうしたの真奈?ボーッとして?」
「えっ、別に何でもない...」

真奈は怜子といる時は、「真奈」だったが、女子校の生活にある程度慣れ、余裕が出てきたせいか、一人でいる時は「慎吾」だった時のことを思い出すことも少なくなかった。

...あれからちょうど2年たったんだな。

「...なんか真奈って時々大人っぽい表情するのね。」
「えっ、そうかな?」
「なに考えていたの?」
「えっ、えっと....」
「好きな人のことかな?」
「ちがう。『好きな』人のことじゃない。」
「じゃあだれのこと?」
「えっ、怜子は知らないひと...」
「...やっぱり誰かのこと考えていたのね?」
「あっ!怜子、ずるーい!引っかけたのね!?」
「どんな人?男の子?」
真奈は少し考えてから答えた。
「...男の人。」
「『男の人』って...年上なんだ。」
「うん。...生きていれば23かな...」
「えっ『生きていれば』?....」
「....」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったの。」
「いいの、もう...もうすぐ命日だから思い出していたの。」
「命日?...お墓参りいくの?」

「真奈」は「自分」のお墓参りに行く気などはなかったが、「慎吾」の命日は「本当の真奈ちゃん」の命日でもあるわけだから、行ってみようかという気になった。「慎吾」の墓が「本当の真奈ちゃん」の唯一の墓標だから....

そのあと怜子は真奈が急ごしらえで作ったシナリオ ――真奈が2年前に慎吾に命を助けられ、その時、慎吾は死んでしまったという―― を、いたく気に入ってしまい、墓参りに付いてきたいと言った。

真奈にとって怜子が付いてくるのは問題がなかったが、ほかに一つ問題があった。真奈は「慎吾」のお墓のありかを知らないのだ。

真奈は「慎吾」の実家に電話をした。
「もしもし?」
「はい木村です。」
「あ、あの、わたし、島村真奈といいます、慎吾くんの知りあいで...」
真奈は2年ぶりの「母」の声を聞いて緊張した。
「慎吾は...2年前に亡くなりました。」
「母」の声は寂しそうだった。
「...知っています。明日、慎吾くんのお墓参りに行きたいのですが...」
「そう。慎吾の命日に。」
「場所がわからないので教えて頂きたいのですが...」
「いいわ、案内してあげる。まちあわせしましょう。」

「真奈」は「慎吾」の母と会うことになった。

最初、内緒にするつもりでいたが、「ママ」の顔をみて、黙っているのは悪いことのような気がして、夕食の時間に打ち明けた。

「ママ、明日は『お母さん』にあってきます。」
「なんの話?真奈。」
「明日は『木村慎吾』の命日なんです。」
「真奈、あなたまだ...」
「違うんです、ほんとうの「真奈」の命日だから...」
「ほんとうの?...あっ!」
『本当の真奈』といわれてはっとした真奈の母は、少し考えてから言った。
「...『お母さん』には本当のことを言うの?」
真奈は首を横に振った。
「信じてくれないと思うから。」
真奈の母は真奈のそばに来て、真奈に顔を近づけて言った。
「もし、信じてもらえたら...お母さんの所へ行きたい?」
「ママ。「慎吾」は21歳だったのよ、もうお母さんと一緒にいなくても大丈夫。」
「そう...」
困ったような悲しいような顔をして真奈の母は言った。真奈の母にしてみれば、息子に死なれた「慎吾」の母の心境を考えたのだろう。考えてみれば、「本当の真奈」の供養に「真吾」の墓に参るのはおかしな話である。真奈の母が真奈を止めなかったのは、慎吾の母から慎吾を奪ったようなものだと思ったからである。
「わかったわ。話してくれてありがとう。」
二人はそれ以上の話はしなかった。



[墓参り]

良く晴れた日だった。

「真奈!遅れてごめん。」
「いいのよわたしも少し遅れてきたから。」
その日は駅で怜子と待ちあわせた。
「でもほんとにいいの?私なんか付いて行って?」
「いいのよ。わたし一人じゃちょっと不安だったから。」
これは真奈にとって本音であった。真奈は「真奈」の姿で「お母さん」に会って平静でいられるか自信がなかったのだ。





とある町のバス停の待合所で、中学の制服に身を包んだ少女が二人。
一人は中学生にしては割と長身で、すこしウェーブのかかった髪を後ろで束ねている。もう1人は、まあふつうの身長で、髪はストレートでいわゆるおかっぱ頭をした、可愛い感じの少女。

真奈と怜子は「慎吾の母」を待っていた。

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら。」
「いいえ、私たちも今来たばかりです。」
「えっと、島村真奈ちゃんだっけ..」
「あっ、わたし島村です。こちらは怜子。わたしの友達で...」
「そう、はじめまして「慎吾」の母です。」
「あ、こちらこそ...」
2年ぶり、いや、「慎吾」が大学に通うようになってからあまり会っていなかったので、2年半ぶりの「お母さん」はずいぶん歳老いて見えた。
「知らなかったわ、慎吾にこんな可愛らしいお友達がいたなんて。」
「慎吾さんには生前とてもお世話になって...」
真奈は不自然に思われないように、慎吾には家庭教師をしてもらったという嘘を付いた。



慎吾の母はお墓にお供え物をして線香をあげたあと言った。
「あの子、小さいころはこれが好きだったの。」
見ると「慎吾」が小さいころよく買ってもらったお菓子が並べてあった。
...真奈は「お母さん」に今はそんなに執着しているつもりはなかった。
しかし、「慎吾」に笑いかけていたあのころの「お母さん」を思い出して泣けてきた。今まで塞き止めていた想いが溢れ出すようにいつまでも、いつまでも涙が止まらなかった。

慎吾の母は、真奈の涙の本当の意味を知らなかったが、在りし日の慎吾を思い出して一緒に涙を流していた。



一通りのお墓参りを済ませて、三人は近くの飲食店で休んでいた。
「あの...寂しくはないのですか?」
真奈は「お母さん」に聞いた。「島村真奈」として。
「うふふ、今日はあなたにつられて泣いちゃったけど、もう、大丈夫なのよ。」
慎吾の母は言った。
「あなたも、こんなこと言ったらつらいかもしれないけど、慎吾にいつまでもとらわれていちゃだめよ。」
「えっ....そんなこと、ないけど...」
「あなたがいつまでも悲しんでいたら、慎吾も浮かばれないわ。」

真奈は自分の中にこんなに母への愛着があるとは思っていなかった。
おそらく、真奈の体に宿ったためであろう、21歳の「慎吾」が心の奥に宿していた、懐かしさ、寂しさ、母への想いがいま、14歳の少女の感性そのままに真奈の心を満たしていた。
慎吾との思い出をしみじみと語る母に対して、真奈は「お母さん!」と叫びたい衝動を押さえるので必死だった。
真奈は怜子の手を握り、震えていた。



「じゃあさようなら、今日はどうもありがとう。慎吾のためにわざわざ来てくれて。」
バス停で真奈は慎吾の母と別れた。
真奈はバスの中から遠ざかって小さくなっていく母を見ながら泣いた。
「...っく、ひっく、...お母さん...」
怜子はそんな真奈の「お母さん」という言葉の意味がわからず、首をかしげた。



「...ごめんね、わたしお邪魔だったみたい。」
「ううん、そんなことないよ、いてくれた助かった。」
この時怜子はあの時なぜ真奈が『お母さん』と呟いたのか聞きたかったが、真奈の辛そうな表情をみて、言い出せなかった。



「ただいま。」
真奈が家に帰ると真奈の母は言った。
「どうだった?『お母さん』の様子は。」
「うん。元気そうだった。」
「そう...」
「『慎吾にいつまでもとらわれていちゃだめよ。』っていわれちゃった。その通りよね。」
真奈は笑ってみせた。しかし、その表情に曇りがあるのを隠すことは出来なかった。



「...っく、ひっく、お母さん、お母さん。...」
真奈はその晩ベッドの中で泣いた。真奈の母はそれを聞いていた。



[秘密]

お墓参り以来、真奈は元気がなかった。というよりもかなり重傷だった。授業も上の空で、先生に指されてもずれた返答をしてクラスの失笑を招くような状態だった。
怜子は思い切って聞いてみた。
「ねえ真奈。あなたなんであのとき「お母さん」って言ったの?」
怜子は真奈が落ち込んでいる秘密がそこにあると感じていた。
「えっ...」
「わたしにはどうしても納得いかないの。あの時の真奈の言葉が。あなた真吾君のお母さんを見て泣きながら「お母さん」っていったわよね?」
「それは.....」
怜子は攻めるような強い口調で言った。
「いえないの?」
真奈は黙って肯いた。
「....わたし、真奈が苦しんでるとき、真奈の力になりたいって思っているのに...真奈すごく辛そうにしているから...」
怜子は涙ぐんでそう言った。
「ごめん。」
真奈はそんな怜子の肩を抱き寄せた。こんなに自分のことを親身に思ってくれる怜子をいとおしいと思った。
「これじゃ逆じゃない。わたし、真奈のこと元気づけてあげようと思っていたのに....」
真奈は怜子が泣き止むまでそうしていた。



...真奈は怜子に本当のことを打ち明けた。

怜子は意外とあっさりと納得した。おそらく心当たりが多くあったためであろう。
「そうなんだ。『真吾くん』なんだ。」
「でも、今更『真吾君』なんて呼ばれても困るんだけど。だってもうわたし、『真奈』なんだから。ママとも約束してるし...」
「真奈のママは知っているんだ。」
「うん。パパも知ってる。」
「そうなんだ....」

その翌日から怜子の態度がおかしかった。

トイレで真奈と顔を合わせた怜子は悲鳴をあげた。
「きゃあぁぁ!!」
「怜子?」
「...あ、ごめん、つ、つい...」
「???」
真奈の中に必要以上に『真吾』を意識していたためであったが、真奈はそのことはわからなかった。





[お母さん]


真奈の母は言った。
「真奈。この次の連休は『木村家』へ行ってきなさい。」
「え?」
真奈は一瞬、何のことかわからなかった。
「もう先方には手紙で伝えてあるから。パパも承認済みよ。」
「えっ木村ってそれじゃあ...」
「『お父さん』と『お母さん』に会ってきなさい。あなたにはその権利があるわ。」

真奈は木村家へ行った。真奈はうれしかった反面不安でもあった。そんな異常な話を母が信じるだろうかと。
とにかく、悩んでいても始まらない。会ってそれからだと考えて、真奈は「慎吾」にとって何年かぶりの実家の呼び鈴を鳴らした。
『はい。』
母の声が聞こえた。
「島村です。」
そう答えた
『あ、真奈ちゃんね』
その後廊下を歩く足音が聞こえ、ドアが開いた。
「ようこそ、『いらっしゃい』って言うのかしら?」
「あの...」
「それとも『お帰りなさい』って言っていいのかしら?」
真奈は泣いた。気がつくと母の胸にしがみついて泣いていた。慎吾の母はそんな真奈を優しく抱きしめた。

慎吾の母は、真奈の母の話を信じた。だが、父は信じなかった、というより、信じたくなかったようだ。慎吾の父は真奈が来る日は休日だったが朝からどこかへ出かけていた。
真奈は、今までのことを残らず母に話した。真奈の両親のこと、女子校を受験したこと、友達が出来たことなどを...
「また会いに来てくれる?」
「えっ...うん。」
「パパとママによろしくね。」
「うん。...お母さんはいいの?」
「だってあなたはもう真奈ちゃんなんでしょう?一度決めたんだからちゃんとつらぬき通しなさい。」
「.....」
「わたしは大丈夫よ。あなたがそうやって生きているって分かったから。だからこうして時々会いに来てくれればそれでいいわ。だって慎吾だった時は正月くらいしか帰って来なかったじゃない。」
「...お盆にも帰ってたと思うけど。」
真奈がそういうと母は少し真奈を見つめた後、笑った。
真奈もそれを見て笑顔を見せた。



真奈がまだ男性への恋に目覚める以前の話であった。




<終わり>




[あとがき]
はじめまして、Ayameです。
みたまさんの真奈の中の慎吾の続きということで書きました
(Marieさんの続編には続きにくいかもしれませんが)
内容はTSからすると邪道と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
yaysさんも『日本の文壇に性転換文学を定着させるためにも(笑)』と
おしゃっていることですし、こんなテーマもTS文学(?)に加わったら、
その表現が広がることと思い、拙作ながら、投稿させて頂きました。

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