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―― 華代ちゃんシリーズ ――

「体育の時間」
作:OLSON

※「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html


 こんにちは、初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申しつけ下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申しつけ下さいませ。

 報酬ですか? いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は――

 今日はあの高校に行ってみましょう。

 沢山の男子生徒がグラウンドに向かう中、少年はただ一人、体育館に隣接する用具置き場へと向かった。
 彼は体育委員らしい。
 Tシャツの前後にはゼッケンがボタンで留めてある。洗濯しやすくするため着脱式にしているようだ。
 ゼッケンには青字でクラスと名前、『相原 誠』と書かれていた。

 誠は体育館の開きっぱなしの扉から中を覗いた。

 体育館の中では女子がバレーボールをする予定であり、これから整列して柔軟体操を始めるところだった。
 だが、その女子のうちの一人は隅っこで座り、見学していた。

 その少女は所々に茶色の染みができた体操服を着ていた。

 誠は彼女をやりきれない表情でしばらく見つめていたが、Tシャツの裾を誰かに引っ張られて我に帰った。

「おにーちゃん、覗きしてるの?」
「なっ……」

 いきなり失礼な質問をぶつけてきたのは小柄な少女だった。

「はいコレ」

 少女は反論する暇も与えずにそう言って小さなカードのような物を差し出した。

 そのカードにはこう書かれていた。


「ココロとカラダの悩み、お受け致します。

               真城 華代」


 名刺らしいが、Tシャツ短パン故にポケットの無いこの格好で渡されても困るだろう。

「困ってる事があったら何でも言って。力になるから」
「サラリーマンごっこかい?」
「セールスレディよ!」

 誠はしゃがんで少女と目線を合わせた。

「はぁ……えっと……華代ちゃん? 君、小学生だろ? 見たところ健康そうだけど、何か自分の学校行けない理由でもあるの?」

 誠は
『イジメか何かの理由で登校拒否してるのかな? だとしたら、ロクに事情も知らない赤の他人が学校行けなんて言うのは残酷な事だよな……』
 と、考えていたが……。

「小学生じゃなくってセールスレディ! だから、何か依頼を言ってよ」
「依頼?」

 改めて名刺を見た。

「『ココロとカラダの悩み』……か。だったらあの子の所に行きなよ」

 そう言って、さっきまで見ていた一人きりの少女を見やる。

「あの子、体育は大好きなんだけど授業に出られないんだ」
「……! デリカシーないわね! 女の子は仕方ないの! 変に気を使われてもそれはそれで恥ずかしいんだから!」

 華代は赤面してそう言った。
 誠は、始めは何の事か判らなかったが、やがて理解し負けじと赤面した。

「そ、そういう事じゃなくって!」

 その時、見学している少女を見ていた華代はある事に気付いた。

「あれ? あのお姉ちゃん、何であんな汚い服着てるの? 面倒臭くて洗濯してないの?」

「……子供って残酷だな」

 誠はやりきれない表情で呟いた。

「子供じゃないわよ!」
「いいから聞けよ、あの子、アトピーなんだ」
「アトピー?」
「そういう病気。アレルギーか何かで発生した痒みがどんなに掻きむしっても収まらなくって、皮膚がボロボロになってしまうんだ。それで血が出てあんなふうになっちゃうんだ」
「……そうだったんだ、汚いなんて酷い事言っちゃった」

 落ち込む華代にフォローを入れる。

「華代ちゃんは優しいね、みんなそうだったらよかったんだけど」
「みんなは違うの?」
「ああ、ほら、柔軟体操で背中合わせになったりするだろ? 別に伝染る病気じゃないんだけど、皮膚が剥がれ落ちたり血が付いて汚いって言って他の子は嫌がって組みたがらないし、あの子が触ったボールは誰も触れようとしないんだ」
「それってイジメじゃない! 先生は何やってるの!?」

 華代は憤慨して言った。

「今は……何もしてないよ。初めは嫌がらずに組むように言ってたんだけど、命令された子はイジメの為の演技ではなく、本心から嫌がって泣き出してしまったんだ。だからあの子は、あくまでも自分の意思で休む事にした……事になってるんだ」
「かわいそう……誰も、味方してくれないの?」
「ああ、俺は汚れるのは気にしないんだけど、そういう子は女の子にはあまりいないからね。でも、本心では味方したいって思ってる子もいる。だけど、そうすれば自分がイジメられるって考えてしまって何もできないんだ。誰かが勇気を出して、率先して組むようになれば変わってくるんだろうけど」

「そうなんだ。だったら話は早いよ。お兄ちゃんが組んであげればいいじゃない」

 華代はそう言ってTシャツの裾を掴み、誠を体育館の中に引っ張っていった。

「お、俺は無理だ! 男なんだか……ら!?」

 誠は全身に電流のような刺激が走ると共に股間と胸に芽生えた違和感に当惑した。

 胸が膨らみ始め、ゼッケンを止めていた上の2つのボタンが外れてゼッケンは下にぶら下がる。
 腰が膨らみ、男物の短パンではきつくなって尻が締め付けられるが、生地が伸縮性に富んだ物に変わって優しく腰部を包み込むブルマーになる。
 顔そのものはさほど変化はなかったが、髪が伸びて腰まで届くポニーテールになるととたんに女性的に見えるようになった。

「わ、な、何だ……え? あ?」

 変化した自分自身の声に当惑しているうちに、見学していたアトピーの少女の前にいつの間にか立っていた。

 その少女も、周りの女子も、突如現れたクラスの男子と同じ顔の女生徒の出現に戸惑っていた。

 誠はどうすればいいかわからず、取りあえず外れかけたゼッケンをとめ直した。

 裏返っていたゼッケンには赤字でクラスと名前、『相原真琴』と書かれていた。

 ゼッケンをとめる時に胸に走った未知の感覚と掌に伝わる柔らかい感触、そしてぴっちりとした下半身の感触から、取りあえず自分がどうなったのかを理解した。

 そして、誠……いや、真琴は咳払いを一つした後、アトピーの少女に手を差し伸べこう言った。

「柔軟、一緒にやろうよ」













 これで、一件落着ですね。
 あの子に味方ができればイジメも無くなっていくでしょう。
 こういう事は、言い出しっぺが率先して行動するのが筋ですもんね♪

 それに、あんなにあの子の事を思いやっていたのですから、とても仲の良い友達になれるでしょう。

 では、もし何か困ったことがありましたら、何なりとお申しつけ下さいませ。
 今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

 それではまた。








おまけ1

 かさぶたに覆われた彼女の両肩を嫌悪感を抱く事もなく押しながら、誠……いや、真琴はこう考えていた。

『俺を女に変えてしまう事ができるんなら、この子のアトピーくらい治せるんじゃないか?』


おまけ2

 男子達は待っていた。

 今日の授業で使うサッカーボールの到着を。


おまけ3

 アトピーの少女は、嫌がる事もなく組んでくれるクラスメイトの出現に喜びつつも、今日は本当に『女の子』故の理由で休んでいた事を言い出せないでいた。






あとがき

 おまけの2と3、このシリーズは理不尽な理由で登場人物は不幸にならねばならないようなのでこうしました。

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