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―― 華代ちゃんシリーズ ――


「お役所仕事」

作:OLSON

※「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html


 こんにちは、初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申しつけ下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申しつけ下さいませ。

 報酬ですか? いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は――


「面倒くせーなー」

 背広を着たその男はぼやいていた。

 ここは市役所、男はそこの職員であった。

 窓口には昼食や銀行での引き落とし等の用事をこなさねばならない昼休みの貴重な時間を割いて出向いた人々が殺到していた。
 その人々は11桁の数字を書き込まれた葉書を持っていた。

 先ほどぼやいていた背広の男はPCの前でキーボードを叩いていた。
 だが、その速度はプライベートな時間のチャットや小説の執筆に比べPC初心者のように極めて遅い。彼のやる気と見事に正比例していた

 よりにもよって無線のLANなんかで繋いだからその気になれば簡単に盗めてしまう情報が、窓口から丸見えの位置にあるモニターに写されていた。

 名前、年齢、性別、住所、職歴、ETC……。

 面倒くさそうにキーを打つ男の背広の裾を誰かが引っ張った。

「おっじさん♪」

「ん?」

 その方向を見ると小学生くらいの少女が居た。

「お嬢ちゃん、見学かい? 先生とはぐれたのかな?」

「ううん、違うよ」

 そう言って少女は小さなカードを取り出した。

 それにはこう書かれていた。


「ココロとカラダの悩み、お受け致します。

               真城 華代」


「困ってる事があったら何でも言って。力になるから」

「サラリーマンごっこかな?」

「セールスレディよ!」

「そっか、ごめんごめん」

 付き合ってやろうと思った彼は立ち上がり、自分の席に少女を座らせた。

 民間企業に入社し、営業でノルマ消化にあくせくしている友人の愚痴を思い出しながら、のんびりしていられる自分に優越感を感じていた。

 少女にも見やすいようにモニターを傾け、説明を始めた。

「このパソコンに、この街に住んでいる人達のデータが入っているんだよ」

「ほんとだ、名前とか住所が出てる」

 少女はしきりに感心してたが、ある一点を見て怪訝な表情をした。

「あれ? この人は男の名前なのに性別は女ってなってる」

「そうなんだ、データを間違えて入力しちゃったんだよ」

 データはそのまま記録され、太陽にすかせば丸見えの葉書で住民の下に郵送され、間違いの訂正を求めた男性たちが殺到しているのだ。

「昼休みの間に直せってあの人達がうるさいんだ」

 男は、まるで他人事のように言った。

「じゃあ、データが正しい物になればいいのね」

 PCの操作を手伝ってくれるんだろうか? 最近は子供でもPCを扱えるだろうな。でも別にいいんだが、どうせ民間みたいに残業してでもやれ、って言われるわけでもないんだし……等と、男はあくまでも他人事のように考えていたが……。


 窓口に殺到していた男性達は大騒ぎを始めた。

「な、何だ!?」

「か……体が……!」

 ある者は、Yシャツが柔らかな感触の純白のブラウスになり、ズボンの二本に分かれていたトンネルが徐々に一本に繋がり始める。
「あっ!」
 未経験(の筈)のスカートの履き心地に戸惑う男。いや、元男。

 土木作業員は脚が内股になっていくが、ゆったりとしたニッカポッカのため傍目でそうとは判らない。
 腰もくびれて、臀部が膨張するがやはり判らない。
 服装は変わらないが、Tシャツを大きな2つの膨らみが押し上げる。
 胸の膨らみでTシャツの布地が引っ張られてズボンから抜け、ヘソが露出する。腹はきゅっと引き締まり腹筋は『田』の字を描いた。
 彼は筋肉質の大柄な、それでも一種の美を醸し出す女ボディービルダーになった。

 修正を求めるのではなく婚姻届を出そうとしていた男女のうちの男性も体型が見る見るうちに変化し、服装も背広からブラウスへと変化してゆく。
 元々女性であり妻となるはずだった彼女は、変わり果てた姿の配偶者を呆然として見守っていた。


 建物内部のどよめきが男声から徐々に女声に変化してゆく。


 そして、PCのモニターの前で呆然と見守っていた市役所職員の男は突然股間に走った違和感に思わず前かがみになる。
 そして胸にも違和感が走ると共に服装も変化を始めた。
 ネクタイが縮み、白く細いボータイへと変化し、背広はブラウスとベストに変わっていく。
 ズボンの二本の脚の部分はこれまた融合を始め、見る見るうちに縮みタイトスカートに変化する。
 革靴は爪先が細くかかとが高い靴になり、ほっそりとした脚にはベージュ色のストッキングがかぶせられる。


 市役所の内外で突如発生した性転換事件はマスコミをにぎわす筈だったのだが、役所のデータベースの通りだったため本人の勘違いとして片付けられる事になった。








 いやあ、今回はちょっと大変でした。
 パソコンはできない事もないのですが、あれだけたくさんの修正作業の納期が、あの人達のお昼休みが終るまでではちょっと無理でした。
 戸籍の書き換えはよくやるのですが、戸籍だけを書き換えるのは苦手なんです。
 でもそこは発想の転換です。データの修正が間に合わないなら市民の皆さんをデータに合わせてしまえばよかったんですから。
 でもあの職員さん、自分のデータも間違えて入力してたんですね。お給料貰ってるんですからお仕事は責任持ってやらねばいけません!

 あ、私はタダ働きが嫌って訳ではないですよ?
 満足して頂けた皆様の喜ぶ顔が何よりのお給料でございます。

 では、もし何か困ったことがありましたら、何なりとお申しつけ下さいませ。
 今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

 それではまた。


あとがき

 ……やったもん勝ちです。
 実際、住基ネットで性別の記載ミスがありました。
 この職員の行動……フィクションとは言い切れないのが怖いですな……。

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