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華代ちゃんシリーズ 「少女になった兵士」

作:神川綾乃


*「華代ちゃん」の公式設定については
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html を参照して下さい

「一人は向こうに逃げたぞ、急げー!」
 警報機のけたたましいサイレンの音は、まだ周囲を騒がせている。どうやら、派手に見つかってしまったらしい。両手に持つ拳銃の残り弾はあと僅か、ここで見つかればこの場から逃走するのは不可能。良いところ、見つかれば射殺されるか、捕まれば拷問が待っているに違いない。
『参ったな………まさか、こんなところであいつらに見つかってしまうとは、思ってもいなかったな。』
 すべてのプランは、どれだけ時間を掛けて練ったことか。そうしなければ、成功できないはず。隠密に計画されたこの作戦に対して、敵はまるであらかじめすべてを知り、作戦に対応するような布陣をしていた。
 一歩間違えれば即死につながる状況におかれた俺だったが、橋の下でひとまず追っ手の一団をやり過ごすことが出来て、全力疾走してきた体を少し休めることにした。
 しかし、しばらくして、再び何かの一団がやってくる足音が聞こえてくる。
『もし、犬を連れてきていたら、間違いなく見つかるな………』
 気配は少しずつ大きくなってゆく。間違いなく、人の気配だ。

 この橋を越えれば、近くに占領下の街がある。この広い川を越えれば、もう無事は保証されたような物だ。仲間も待っている。しかし、ここ二日間降り続いた雨の為に、作戦実行時には泳げば渡り切れた川も、増水しきって泳ぎ渡るのはどうしても不可能だ。だとすれば、橋を閉鎖している兵士たちを倒して行くしかない。しかし、警戒態勢が強化されてしまった今、ここを一人で突破するのはまず無理だ。
 増水した川の流れの音は、ますます大きな音をたてている。
「こちらアルバトロス、コブラへ、繰り返す、こちらアルバトロス、コブラ、聞こえるか?」腰に掛けている無線機からは、依然雑音が漏れている。まったく感度がない状態は続いている。
「くそっ!」
無線機から伸びるマイクを再びポケットにしまい、再び残った弾を確認する。
『あと20発足らずか………』
怪我をしていない事が助けだった。まだ、糧食玉は残っている。水は飲み干してはいたが、この雨水で補給すればあと2日間は大丈夫だろう。それに、雨が収まれば、目の前には川だ。
「とりあえず、時が経つのを待つしかないのか………」



 東の空がようやく明るみを持った早朝、俺はその橋の下で目覚めた。無線機から、かすかな音がする。
「…………アルバトロスどうぞ、こちらブラヴォ、岬に陽は沈んだ。繰り返す、岬に陽は沈んだ…………」
「こちらアルバトロス、了解。」
無線の声は、今回の作戦が失敗に終わったことを告げる内容。コブラからの連絡ではなく、後方のブラヴォからの連絡からも、完全に作戦が失敗に終わったのを悟る。そうと分かったからには、速やかに撤退し、回収地点に戻らなければならない。
 俺は、意を決し、銃の状態を確認すると、周囲の様子を見るべく橋の桁下から、気配を殺しながらゆっくりと匍匐前進する。慎重に、見つからないようにと、最大の注意を払いながら来たはずだった。
「ねえ、お兄さん?」
 その時、突然背後から話しかけられた。その言葉に、俺はすぐに振り向いて、声の方向に銃口を構える。
 銃を構えた、そこには一人の少女の姿。まだ、10歳くらいだろうか。
「あ?」
「お兄さん、何をしているの?」
 彼女は、私が兵士であり、そして銃口を向けられているにもかかわらず、少女は愛想そく微笑みかけている。
「お兄さん、これ」
 彼女は、依然微笑みながら、ポケットから何かを取り出そうとする。俺は、まさか、とは思いつつも、銃のトリガーに掛ける指の力を確認する。まさか、このような少女が……という思いとは裏腹に、彼女は一枚の紙片をポケットから取り出す。
「これ、お兄さんに。」
彼女は、その紙を手渡そうとしているようだ。俺は、周囲の様子を確認してから、両手に持つ銃を降ろすと、右手でその紙を受け取る。

”ココロとカラダの相談、お受けします。 真城華代”

 それは、名刺だった。
「…………?心と体の相談………??」
 俺は、一見すると、再び目の前にいるはずの彼女の方をみる。
「あ、あれ?」
 しかし、そこには誰もいなかったー。



 そして、それから2時間ほど経った頃、一人の少女が、橋を渡ろうとしていた。彼女のかわいらしい民族衣装の胸元には、彼女には不相応なまがまがしい鉄の塊、銃が入っている。
「おい、そこの………」
橋を警備している兵士の一人が、彼女に話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、この辺で変な男を見かけなかったかい?身長は180cm以上の大男なんだけどさ。」
「いえ………知らないです………。」
「んー、そうか。お嬢ちゃん、一人歩きは危ないから、今度からは家の人と外出するようにするんだよ。」
 そう警備している兵士は少女に告げると、再び持ち場に戻ってゆく。少女は、緊張した面持ちのまま、その橋を渡っていった。



後書
 まだ、数回しか載せて頂いていない某作品もあるのですが、仕事が忙しく、その代わりとして「ふと思いついたネタ」で書いてみました。


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