華代ちゃんシリーズ
 

 
「水泳嫌い」
 
作・水谷秋夫

 
 
 こんにちは。私は真城華代と申します。
 
 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
 
 報酬ですか?いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。
 
 さて、今回のお客様は…。
 
 
 
 男子更衣室。
 
 七月。時刻は昼休み。もうすぐ五時限目が始まる。次の時間は体育。水泳の時間だ。
 
 つい先刻まで、更衣室は男子中学生達の集団で喧噪に満ちていた。しかし、彼らのほとんどはすでに着替えて海パン姿で外に出ていった。水泳は体育の通常の授業よりも人気が高い。まして外は炎天下だ。時間前に競い合うように彼らはプールへ向かっていった。
 
 いま、更衣室にいるのはたった一人。その少年は大きくため息をついている。彼だけは、まだ、半袖ワイシャツに学生ズボンのままだ。
 
「あー、なんで体育に水泳なんかがあるんだ」
 
 ふうーう、とまたため息。しかし、あきらめたような顔をして、ついにワイシャツのボタンを外し始めた。
 
 
 
「おにーちゃん」
 
「うわっ!」
 
 突然声を掛けられて驚く少年。
 
「どうしたの? おにーちゃん、こんなところで、何を悩んでるの?」
 
 怪訝な表情で突如現れた少女を訝る少年。なにしろここは男子更衣室。しかも彼はこれから着ているものを全部脱ぎ捨て、海パン姿に着替えようとしているところなのだ。
 
「…な、何だ君は」
 
「よくぞ聞いてくれました!」
 
 と言ってごそごそとポシェットの中から何かを取り出す。
 
「はい!これ」
 
 名刺を差し出す少女。
 
 不審に思いつつもそれを受け取る少年。そこには連絡先住所も電話番号も無く、ただ「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」と書かれているだけだった。
 
「何だいこれ?」
 
「名刺よ」
 
「君、何年だ?」
 
「そんなこといいから依頼を言ってよ」
 
「は?」
 
「もう、鈍いのねえ。あたしは困った人の味方なの」
 
「何言ってんの?」
 
「私の仕事よ。困った人がいたら助けてあげるの。で、どうしたの? こんな所でさっきからため息ばかりついて」
 
「これから体育なんだ。しかも水泳」
 
「それがどうしてため息なの?」
 
 少年は少し話しにくそうだったが、口を開いた。
 
「体育は得意じゃないんだ。とくに水泳は」
 
「泳げないの?」
 
「水に浮かぶぐらいは出来るけど……、駄目なんだ。クロールなんか全然前に進まない。息継ぎが全然できないし。ひと掻きごとに立たなきゃいけないから、友達には馬鹿にされるし、先生には怒られるし」
 
「そんなに嫌なら、風邪だとか言ってさぼっちゃえば?」
 
「駄目だよ。うちの学校は厳しいんだ。体育を病気で休むんなら、親の証明書がいるんだよ。そんなの、うちの親が書いてくれるわけないし」
 
「よし分かった! 体育が休めるようにしてあげるよ!」
 
「そう。だったらそうしてもらおうかな」
 
「いいよ。じゃあ目えつぶって」
 
「うん」
 
 目をつぶる少年。その瞬間、少年の胸部が突起し始める。肩幅が狭く、なで肩になり、髪が伸び始める。
 
「この学校ってさあ、女子の髪って長いときは編まなきゃいけないんだっけ?」
 
「ん? そうだったかな」
 
「じゃあ三つ編みにしとくね」
 
「え? 何の話?」
 
 いつのまにか肩よりも伸びた髪が左右に分かれ、誰の手も触れていないのに三つ編みに編み込まれていく。
 
「はいはい黙って……髪留めはピンクっと。よし出来た! 目開けていいよ」
 
 すっかり三つ編みの女子生徒になってしまった少年。
 
「ん? うわっ! な、何、これ、いったい!」
 
「はいはい、まだ動かない動かない。立ったままね」
 
 「少女」を見て、ちと考え込む華代。
 
「うーん。女の子の学生ズボンってのも可愛いけど、やっぱちゃんと制服着ないとね」
 
 と、見る見る制服が変形していく。ワイシャツの襟が丸くなり、ボタンの位置が左右逆になる。ズボンのベルトが消失し、脚を包んでいた二本のトンネルが一本になって、スカートになっていく。あっという間に夏服のブラウス姿の女子中学生になってしまった。
 かつての少年は口をぱくぱくさせている。肌に密着しているのは、さっきまでランニングシャツとブリーフだったのに、いまはブラジャーと女物のショーツだ。
 
「さて、と。問題はここからなのよ。えいっ」
 
 ふと、股下に違う感触が生じた。なにか柔らかい弾力のある厚手の布がショーツと股の間に入った感じ。そして同時に始まった下腹部の鈍痛。腹下しとも便秘とも違う痛みだ。
 
「それでね、ちょっと、言ってみて」
 
「なに?」
 
「あたし、アレが突然、始まっちゃったんですぅ」
 
「え? ぼ……ぼく」
 
「ぼく、じゃなくて、あ・た・し」
 
「あ、あたし、アレが突然……」
 
「そうそう。それを先生に言えば、今日の水泳は休めるよ。良かったね」
 
「あ、あ、あの……」
 
「お礼はいらないわ。早く行かないと、体育、遅刻になっちゃうよ。じゃあね」
 
 風のように華代ちゃんは去っていった。後には突然女の子になったばかりか、初めてのアレの痛みと感触に戸惑う少女が、呆然と立ち竦むばかりだった。
 
 
 
 
 
 今回の依頼は簡単でした。体育を休む正当な理由があればいいだけですもんね。アレって女性にはふつう悩みの種なんですけれど、こんなに役に立つこともあるんですね。えへっ、ちょっと意外な効用をみつけちゃったかな。また何か困った事があったら何なりとお申し付けださい。今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。それではまた。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
あとがき
 
 初めまして。水谷秋夫です。
 見ての通り「アレ」ネタです。「文庫」には数々の「女の子になって初めてのアレ」の話がありますが、華代ちゃんシリーズにはまだ無かったな、と思って書いてみました。
 本作は真城さん二作目の「正座」を参考にし、というか借用し、出来る限り作りをシンプルにしました。いかがでしたでしょうか。ちなみに最後まで、露わに書かずに「アレ」で押し通したのは私の趣味です。
 
 


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