華代ちゃんシリーズ 

「絵日記」

    作    猫野 丸太丸
  原案者 真城 悠

*「華代ちゃん」シリーズの詳細については

http://ts.novels.jp/novel/kayo_chan/kayo_chan.html を参照して下さい


 初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私はお仕事しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを解決してご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ

 報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は…
 
    



 夏休み最後の日曜日、一家四人で高原のキャンプ場へハイキング、次男坊の健二君としては楽しくないはずがない。だが、彼の悩みの種はどこへ行っても彼に付きまとっていた。健二は横目で問題の男をちらっと見た。彼の兄の浩一が、飯盒炊さんをするためだろう、ブロックを積み上げてかまどを作っている。

「ぼうっとしてねえで、おまえも手伝えよ。泣き虫健二。」

「う、うん。」

 健二は手に持っていたトンボを手放して、おそるおそる浩一に近づいた。浩一は持ってきた荷物から、キャンプ用の固形燃料の袋を取り出したようだ。

「なあ、かまどが完成したから、ちょっと火を点けてみねえか?」

「え、だめだよ。お父さんが、火は危ないからさわるなって言ってたよ。」

「固いこと言うなよ。」

 両親が薪を集めに行ったのをいいことに、浩一は黒い固形燃料を、ひと袋全部かまどの中にぶちまけた。

「そんなに入れたら危ないよ。」

「だいじょうぶだって。ほら、ライター。」

 浩一はポケットから百円ライターを取り出した。

「え…、僕が火を点けるの?」

 思わずあとじさる健二。

「あたりまえじゃん、ブロックを積んだのが俺なんだから、火を点けるのはおまえの役目さ。早くしろよ。」

 健二は兄を見た。だめだ、逃げられそうもない。諦めた健二は両手でライターを持って、必死で火を点けはじめた。

 二十回くらい火花を散らしただろうか、ようやくライターから炎が上がった。健二はライターの火で固形燃料の端をあぶったが、固形燃料は少し赤くなるだけだった。

「あれ、これ、燃えないよ。」

「そりゃやりかたが悪いんだよ。よく見てみな。」

 健二が白い煙の上がる固形燃料を覗きこんだ、そのときだった。固形燃料全体が一気に燃え上がった。

「わーっ!!」

 健二はびっくりしてひっくり返った。浩一はやばい、という顔をした。林の方にいた父親が健二の叫び声を聞いて跳んできた。

「おい! 何やってるんだ。大丈夫か!」

 父親はバケツに汲んであった水を、かまどにぶちまけた。火は健二の背丈ほどまで吹き上がっていたが、水をかぶるとすぐに消えてしまった。

「なんで火なんか点けたんだ!」

 父親の怒声を聞いた浩一はとっさに言った。

「だって、健二が…」

「またおまえか!」

 父親のげんこつは、まだパニックから覚めていない健二の方に降った。浩一は、父親の後ろで舌を出している。

「ち、ち、ちが、お、おにい…が…」

 恐怖と悲しさと悔しさのせいで後は言葉にならず、健二は泣き出してしまった。浩一がまた健二のことを、泣き虫と言っているのが聞こえた。
 
 

 家族がカレーを煮ているあいだ、健二はふてくされて、独りで近くの大きな木の後ろにしゃがみこんでいた。健二は思った。いつもいつも、悪いことをしたときに怒られるのは僕で、そのうえおにいちゃんは僕をいじめるんだ。きっと家に帰ってからも、おにいちゃんは僕を泣き虫呼ばわりするにきまってる。
 もうがまんできない。健二の悔しさは限界に達した。

「いっぺんでいいから、お兄ちゃんを泣かしてやりたい!」

「あら、そうなのですか。」

 健二はびっくりして振り向いた。木の向こうから、同い年くらいの女の子が現われたのだ。白い服に白い帽子… 肌も、日に当たったことがないみたいに真っ白だ。

「君はだれ…」

「わたくしは、こういうものです。」

 女の子は名刺を差し出した。そこには
「ココロとカラダのなやみ、おうけいたします 真城 華代」と書いてあった。

 健二は名刺なんかもらうのは初めてだったので、慌てて音読した。…肝心の名前が読めない。

「えっと、君は名前はなんて言うの?」

「ましろ かよ です。はじめまして。そんなことより、ずいぶんお悩みの様子でしたが。」

「う、うん。うん!」

 健二は今までのいきさつを一気にまくしたてた。女の子はびっくりしたようにそれを聞いていたが、健二がしゃべり終わると、にっこりと笑った。

「つまり健二君は、お兄さんを泣いちゃうくらいひどい目に合わせたいのですね。」

「うん。そうなんだ。」

 健二は全力でうなずいた。少女は少し考える風だった。

「それでしたら、えーと、わたくしがお力になれると思います。」

「ほんと? ありがとう!」

「お任せください。」

 少女は笑った。
 
 

「あのかたがお兄さんですね?」

 女の子は近くでカレー作りを手伝っている浩一を、見つからないように指差した。

「では仕掛けを準備いたしましょう。健二君は今から林のほうへ行って、ゲジゲジとかイモムシとか、なるべく気持ち悪そうな虫をこの帽子の中に集めてきてください。」

 女の子は帽子を脱ぐと、健二に手渡した。健二はわくわくしてきた。

「それでこの木のところに戻ってきたら、目をつぶって十、数えてください。」

「うん、うん。それで?」

「目を開けたら、あっちに赤いスカートをはいた女の子がいますから、その子を後ろから思いきり突き飛ばしてください。」

「え、女の子? どこの女の子なの?」

 健二はきょろきょろした。

「大丈夫です、そのときになって見れば分かります。次にですね、その子が振り返ったら、集めてきた帽子の中身を、その子めがけてぶちまけちゃってください。」

「…いいけど、それとおにいちゃんと、どういう関係があるの?」

「作戦ですよ、作戦。じゃ、始めてください。」

 少し納得がいかなかったが、健二は林のほうへ歩いていった。振り向くと、白い服の女の子は自信ありげに微笑んで、手を振っていた。

 ダンゴムシ十匹、ゲジゲジ五匹、ミミズ三匹、クモをクモの巣ごと一匹、あとはなんだかよく分からない臭い虫を五匹手に入れると、健二は大木のところまで走って戻った。そこにはもう白い服の女の子はいなかったが、健二は言われた通り目をつぶると、一、二、三、四…と数えはじめた。
 
 

 そのころ、浩一は母親によそってもらったカレーライスを両手に持たされていた。母親が言った。

「浩一、健二にカレーライスを持っていってあげなさい。」

 面倒くさそうに口答えする浩一。

「えー、あんな泣き虫、ほっとけばいいじゃん。」

「なに言ってるの、あなたの弟でしょう。」

 その言葉を聞いてさすがに良心の呵責を感じたのだろう、浩一はカレーを木のところまで持っていこうとした。そのとき、振り返る間もなく、一陣の風が浩一を捕らえた。

「え?」

 途端に浩一の姿が、変化を始めた。履いていたスニーカーは瞬きするうちに小さくなり、赤い布の靴になった。そしていつのまにか白いソックスがほっそりとしたすねを包み込み、傷だらけだった膝小僧はつるつるになった。カーキ色の半ズボンは上下に伸びると、真っ赤なジャンパースカートになってひもが肩にかかった。気がつくとスカートの腰には、大きな赤いリボンの飾りまで付いているのだった。白いシャツはそのままだったが、ジャンパースカートの前掛けに覆われた胸はなんだかむずむずして、まるで膨らんでくるようだった。

 浩一が自分の姿を落ちついて眺めるひまもなく、つぎの衝撃が彼を襲った。誰かに後ろから思いきり突き飛ばされたのだ。両手にカレー皿を持っていたため受け身を取ることもできず、浩一はうつ伏せに倒れた。

「いたいっ!」

 浩一は手を突いて、なんとか仰向けになった。しかしその結果、彼はこぼれたカレーでどろどろになった自分の服と、膝のすり傷から流れ出る血を見るはめになった。浩一はカレーまみれになった自分のやわらかな胸をさわった。彼の心に、今まで感じたことのなかった感情−−洋服を汚された悲しみと、血に対する恐怖が湧きあがった。

 最後のとどめに、彼−-彼女のスカートの上に、グロテスクな虫がばらまかれた。浩一はパニックになった。

「うわーっ、うわーっ、うわーっ!!」

 浩一はショックで、涙が止まらなくなった。涙の向こうに、健二の姿が映った。健二は浩一の姿を見て言った。

「あれ…、おに…おねいちゃん?」
 
 

 その日の夜、健二は夏休みの宿題の絵日記を眺めながら、考え込んだ。僕はなんであんなことをしたのだろう。たしか、おにいちゃんに復讐したくてやったはずなのに… そうだ、僕にはもともとおにいちゃんがいたはずなのに、どうして今はおねいちゃんがいるんだろう? あれ?

 結局わけが分からなくなった健二は、絵日記に思った通りのことを書いた。

「○月 ×日 きょう、おにいちゃんが、おねいちゃんになりました。」
 
 と、そこまで書いたところで、あっさり浩一(家族にはいつのまにかすっかり浩美と認識されていた)に絵日記を見つけられてしまった健二。

「わーいじゃねーだろ!!」

 浩美のげんこつが飛んだ。

「おに…おねいちゃん、いたいよ!」

 健二はまた泣かされたのだった。


 依頼者の男の子、やっとお兄さんを泣かせることができました。 あのくらいやれば、女の子なら絶対泣きますものね。

 でも健二君、そのすぐあとに倍くらい泣かされていましたね…。 お姉さんって、場合によってはお兄さんよりよっぽど喧嘩っ早かったりしますもの。
 
 うーん、依頼は成功したけど、健二君はこれからも大変そう。

 まあ、気を取り直して、私はお仕事を続けていきましょう。こんどは、あなたの元へ行くかもれません

 では、ごきげんよう。

   



 
 あとがき
 
  にゃあ、二度目です、猫野丸太丸と申します。角様の絵日記に文章を付けていたら、華代ちゃんが出てきてしまいました。
  
  自分も、小さいころは弟とけんかしていろいろ恨まれていたので、意趣返しがけっこう怖いですなんちゃって。
  
  掲示板に御感想をいただければ幸いです。
  
  この度も、世界を提供して頂いた角様、真城様に、感謝なのです。
 
  戻る

□ 感想はこちらに □