満員電車

作:矢治浩平
(原案者:真城 悠)



*「華代ちゃん」シリーズの詳細については

http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.htmlを参照して下さい



 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申しつけ下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申しつけ下さいませ。

 報酬ですか?いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は――

 クーラーの故障で蒸し暑い電車の中、乗客のイライラは頂点に達していた。ましてや、乗客同士が密着する満員電車であってはそれはなおさらだ。サラリーマンの宿命とはいえ、ネクタイにシャツ、そして上着まで着ていれば暑さは天下一品である。さらに、満員電車の不快感もさる事ながら、目の前の女性の化粧品の匂いがさらに不快感を募らせていた。
「早く、着かないかな?暑さと匂いで気分が悪い」
そんなことを考えながら、ぼんやりと目的地に着くのをを待つ。しかし、事件は突然起こった。
「きゃあっ!」
不快感をパワーアップさせているその女性が突然叫んだ。
「チカン!だれかが私のお尻を触ったの!」
当然のように疑惑はすぐ背後の彼に向けられた。
「あなたでしょ!認めるんなら許してあげるわ!」
「いや、僕じゃない!」
「シラを切る気!警察に突き出してもいいのよ」
周囲にいた乗客達は、彼に対して冷たい非難の視線を向けていた。痴漢行為に対する非難よりも、この不快感漂う車内にさらに不快感を付け加えたことに腹を立てていた。他の女性達のひそひそ声がさらに緊張感を生み出す。
「君い、僕は見てたぞ!」
不幸なことに正義感溢れる人間も同情していたらしい。別のエリートサラリーマン風の男性が、彼の右手を持ち上げた。
「僕は見てたぞ!この右手が彼女のお尻を触っていたのを」
初めは自分の勘違いではないかという気持ちも芽生えていたが、この男の登場によってそれはかき消された。
「やっぱり、嘘だったのね。やっぱり警察に突き出してやるわ!」
その女性の怒りは頂点に達した。しかし、彼女は足に妙な感触を覚え、注意はそちらに移った。
 ふと下を見ると、小学生ぐらいの少女が、彼女のスカートを引っ張っていた。少女は自分に気づいてもらえたのがうれしいのか、やや笑みを浮かべながらその女性を見上げた。
「犯人はこのお兄さんじゃないよ」
その少女は彼女を見上げてそう言った。
「え?」
「こっちの人がこのお兄さんになすり付けようとしてたの」
と、エリートサラリーマン風の男の方を指差す。
「嘘だ!僕はそんなことはしないぞ」
わざとらしく彼は叫んだ。しかし、女性はヘビのような視線を彼に投げかけた。
「こんな子供の戯言を信じるのか?」
しかし、純真な子供と汚れた大人では勝負は見えてるだろう。間の悪いことに、次の停車駅にそろそろ到着するアナウンスが流れてきた。
「ここでおりなさい!申し開きは警察で聞くわ!」
ドアが開くと、彼は数人の親切な男性によって、降ろされてしまった。彼らも朝からの不快な事件にけりをつけ、気分をスッキリさせたかったのだろう。早朝の同僚との話題になるに違いない。

 自分の会社の最寄り駅に到着すると、彼はベンチの上に座って一服していた。内ポケットからタバコとライターを取り出し、タバコに火を点けて、気分を落ち着ける。
 タバコを半分ほど吸ったところで、目の前を見ると、先ほど自分を窮地から救ってくれた少女の顔があった。いつから彼の目の前にいたのだろうか?さっきまでは確かにいなかったのに。
「君は…さっきの…」
彼はそういうとタバコの火を消した。
「まだ何かお悩みがあるようですね?」
「うん、ああ。どうして分かる?」
まだ年端の行かない少女の洞察力に少し彼は驚いていた。
「そりゃ、プロですから」
「プロ?」
訝しげに彼女の方を見ていると、彼女の方はポケットから名刺入れのようなものを取り出すと、一枚のカードを取り出した。
「実は、あたし、こーゆー物なんです」

――ココロとカラダの悩み、お受け致します。
               真城 華代――

名刺入れのように見えたものは、そのものズバリ名刺入れだった。
――今小学生でこういうのが流行ってるのかな?
そんなことを考えていたが、彼は華代の冗談に付き合ってやることに決めた。
「実はチカンに間違えられたの、今日が始めてじゃないんだ。なるべく女の子のそばに近づかないようにしてるんだけど、何度も何度もチカンに間違えられるんだ。そんな風に見えるのかな?」
華代はじっと彼の顔を見つめていた。なるほど、スケベそうな顔といえばそんな風に見えないこともない。
「分かりました。では金輪際チカンに間違えられないようにいたしましょうか?」
「そんなことができるのかい?」
「できます!」
そう断言すると、華代はその場から立ち去ってしまった。
 すでにそこに座っていたのは、スーツを着たサラリーマン風の男ではなくて、プロポーション抜群の美しく若い女性だった。

 クーラーの故障で蒸し暑い電車の中、乗客のイライラは頂点に達していた。ましてや、乗客同士が密着する満員電車であってはそれはなおさらだ。OLの通勤時の服装は、男性ほど融通が利かないものではないが、満員電車の不快さはある意味男性以上である。
「またっ!」
その女性は自分の体に手が触れたことを感じとっていた。いやらしく、動き回る手にゾクゾクとして感触が体中を走り、彼女は背後の男性に怒りをぶつけようとしていた。



 いや、今回の依頼も実に簡単ですね。痴漢に間違えられないようにするには、女性になっちゃえばいいんです。すぐ後ろに女性がいても、普通はその女性が痴漢だとは思わないですよね?あなたも何かお悩みがあればわたしに打ち明けて見てはいかがですか?きっと解決してご覧に入れます。

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