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 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
 報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は…。




−華代ちゃんシリーズ−

『閑古鳥の鳴く店』

神川綾乃

※ 「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照にしてください。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html




 ある街角にある、一軒の鉄板焼き屋。といっても、お好み焼きや焼きそばが主なメニューの、小さな店。早くして他界した両親が、唯一僕と妹に残していった財産。両親が相次いで他界してしまっても、双子の妹と一緒に頑張ってここまでやってきた。その妹を大学に進学させて、そして卒業。僕は高校を出てそのまま店を続けた。大学生だった頃の妹は、大学が終わるとほとんど毎日、店を手伝ってくれた。その妹が、半年前に結婚してしまった。
「はぁ、暇だなぁ………。」
 金曜日の夕方なのに、客は一人も入っていない。親が店を切り盛りしていた頃は、街ではちょっと名の知れた店だった。材料の仕入れから、下ごしらえ、秘伝のソースだれ……味も変わっていない。時々やってくる妹や、両親の代からのなじみの客がいつもそう言っている。
 なのに何故か、誰も暖簾をくぐって店に入ってきてはくれない。
「妹がいた頃は、繁盛していたのになぁ………。」
 兄の自分が言うのも変だけど、妹は可愛かった。身長は低くて、髪は長く、その黒髪を、店に出るときは二本両側に縛ってまとめていた。僕が調理したお好み焼きの種や、焼きそばをてきぱきと客席に運んでいってくれていた。そんな妹が、店を盛り上げていてくれたのだ。


 誰もいない店内。厨房の中に座りこむ僕は、悲嘆に暮れていた。


 それからさらに数ヶ月………もう、蓄えが少ない。妹が無事に長女を出産したというのに、誕生祝いもロクに準備できない情けない僕がいた。
 このままでは、店はもう先がない。
 時々やってきてくれるお客といえば、なじみの人たちばかり。やはり、両親の代から変わっていない味を、「美味しい」と言ってくれる。
 でも、銀行からもこれ以上は借り入れ出来ない。材料を仕入れるお金も無くなりつつある。両親………そして妹には申し訳ないけど、この店をたたむことになりそうだ………。
 店を開けても、相変わらず休業状態。僕はカウンターの椅子に座りながら、預金通帳の残高を見ながらため息をついていた。
 その時だった。
『がらがらがら』
 入口の引き戸が、音を立てて開く。客が来てくれたのだ。すぐに入口の方を見て、
「いらっしゃい!」
 と言う。………でも、誰もいない。確かに戸が開いた音………それに閉まる音もした。
「………あれ?」
 僕はすぐに立ち上がり、入口の方を見た。
「い、いらっしゃい………?」
 拍子抜けしてしまった。そこには、小学校中学年くらいの、黒いストレートの髪の少女が一人、立っていた。妹のその頃にも、似ているような気がして、まるで妹がいるような錯覚を起こしてしまった。
「お悩み事ありますか?」
「え?」
 彼女はいきなり、突拍子のないことを言う。
 確かに悩みはある。テレビのクイズ番組で1000万円とは言わない。100万円だけでも取らない限り、この店はもう続けられない。
「お、お客様………?」
 彼女のような小学生が一人で来るような店では無いから、僕は逆に尋ね返してしまった。
 僕の問いかけを聞いているのか聞いていないのか分からないけど、彼女はカウンターの席に座る。
 そして、そこに置いてあるメニューを手に取ると、
「豚いか玉ください。」
「あ………、豚いか玉ですね、少々お待ちを………。」
 少女の注文に、僕はおしぼりとお冷やをあわてて彼女の元に運ぶと、豚いか玉のお好み焼きを作り始めた。
 それから数分、店には僕が調理している音が響く。そして出来上がったお好み焼きを皿に盛りつけて、少女の前に置いた。
「豚いか玉、お待ち!」
 少女は、箸箱から割り箸を取り出すと、お好み焼きに箸をつけた。
 店には僕と少女しかいない。すこし離れた位置で、少女の様子をちらちら見る。彼女はその小さな口に、お好み焼きを運んでいく。
「お兄さん、美味しいです。とても、美味しい………。」
 少女はそう言ってくれた。
 しばらくして、彼女はお好み焼きを全部たいらげた。
「こんなに美味しいのに、どうしてお客さんが一人もいないんですか?」
「あ、ああ………、そ、それが悩み………かな。」
 そう言えば、さっき少女が言ってたような。悩み事ある?みたいな事を。
「これ、どうぞ。」
 少女は、座るときにカウンターに置いた赤いポシェットから、名刺のようなカードを取り出すと、僕に手渡した。
 それは思った通り、名刺だった。

『ココロとカラダのお悩み解決します』 真城華代

「これは?」
 名刺を見つめながら、少女に聞いてみる。
「私がお兄さんのお悩みを解決して差し上げます。」
「………え?」
 こんな少女に?と思って彼女が座るカウンターを見返すと………そこには誰もいなかった。
「あ、あれ………!?」
 食い逃げと思ったが、しかし彼女がいま座っていた席には、彼女が食べて使ったはずの皿も箸も、お冷やもおしぼりもなかった。
「き、きつねにでも化かされた………?」
 納得は到底出来ないけど、調べてみると豚いか玉の材料は減っていない。
「これって………???ははははははは………………………………。」
 なんだか怖くなって、今日はすぐに店じまいをすることにした。










 それから数日後の夕食時。彼の店の前で、若い夫婦が立っていた。
「おかしいわ、いままでこんな事は無かったのに………。」
 若い夫婦の妻………赤ちゃんを抱いた女性が呟いた。
 彼女が嫁いで妊娠してから、兄が一人で切り盛りしていた店が閉まっている。閉められたシャッターには、張り紙が一枚。

『店主の都合により、しばらくお休みにします』

「お義兄(にい)さん、どうしたのかな?」
「いままで、休むことって無かったわよ。店を休むなんて連絡もないし。ちょっと電話してみるわ。………あなた悪いけど、この娘(こ)お願い。」
「………ああ。」
 妻は、抱いていた娘を夫に渡すと、バックから携帯電話を取り出して、兄に電話する。
「電話、出ないわね………。」
「とにかく、家に行ってみないか?」
「そうね。」
 若夫婦は、妻の兄の家に向かうことにした。
 数分後、店からあまり離れていない地区にある兄の家………元々、妻の彼女の実家でもある………にたどりついた。
「家の電気、ついてるわよ。」
「そうだね。何かあったのかな?」
「病気でもしていなければいいけど。」
 二人は玄関に立つと、ドアを開けようとした。しかし、ドアの鍵が掛かっていて開かない。
「う〜ん、やっぱり呼び鈴は駄目………壊れてるね。」
 夫がそう言った。実家の玄関の呼び鈴はいつの頃からか壊れていた。押しても意味がない。
 そして、ついたままの部屋の電気。繋がらない携帯電話。妻は、自分が嫁いで兄一人が店を切り盛りするようになってから、あまり店が繁盛していないという噂を聞いていた。
 ふと、『最悪の事態』が脳裏をよぎった………。
「鍵、開けよっか。」
「うん。」
 玄関の鍵を開けると、妻は間髪入れずに家の中に入っていく。
「あはは、お母さん行っちゃったね。」
 玄関には、娘を抱いた夫がとり残された。それからまもなくして、家の中から………
「キャッ、あなた誰ーっ!?」
 妻の悲鳴に似た声が聞こえた。
「ぼ、僕だよ僕!」
 同時に知らない女の声も聞こえてきた。でも、どことなく妻の声に似ている。
 夫もあわてて家の中に入った。そこには妻と、妻にとてもよく似た一人の女性がいた。夫には、双子の姉妹そのものに見えた。
 その女性は、以前夫も見たことのある服を着ている。新婚旅行のおみやげで買ったシャツを着ているのだ。
「君は、誰なんだ!?」
「あなた、誰よ!?」





「……だから、僕だってば、僕!」










 ………それから数週間後。


「いらっしゃい!」
 元気な彼女の声が、カウンターから聞こえてくる。今日も満員御礼。座る席が無くて、空席が出来るまで店内で待つ客もいれば、残念そうな顔で帰る客もいる。
 あれから、“彼女”の店は息を吹き返し、いままで閑古鳥が鳴いていたのが、まるで嘘のような雰囲気に包まれている。
 熱い厨房で、玉のような汗をかきながらも楽しそうに、一生懸命お好み焼きを焼き続ける彼女の姿があった。





 あのお好み焼き屋さんに必要だったのは、“花”だったのですね。これからも、美味しいお好み焼きを、つくっていってください。
 またいつか私も、食べに行きます。あのおいしいお好み焼きの味を楽しみたいと思いますから。

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