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華代ちゃんシリーズ番外編「華代ちゃん被害にあう」

作:DEKOI
(原案、設定:真城 悠)


※ 「華代ちゃんシリーズ・番外編」の詳細については、 http://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan02.html を参照にしてください。





 こんにちは、初めまして。
 私は真城 華代と申します。

 まだまだ、未熟ですけれども、
 たまたま私が通り掛かりました時、
 お悩み等ございましたら、是非とも、
 お申し込み下さい。
 私に出来る範囲で、依頼人の方の
 お悩みを解決させて差し上げましょう。
 どうぞ、お気軽に お申し付け下さいませ。

 さて、今回の お客様は…。
 
 
「うん、この子ね。」
 華代は図書館に来ていた。日本でも有数な大きさを持った図書館だ。圧倒的な量の本が格納されている。華代はそこで「困った」人を見つけ出した。
 その人物は華代よりも小さな少年のように見えた。身長は80cmに満たないだろう。髪の色は染めているのかこげ茶色でまとめていないのかグシャグシャになっている。少年は机に乗り上げるようにして目つきの悪い目を更に険悪にしながら一心腐乱にノートに何かを書いていた。少年の横には分厚い本が何冊か置いてある。どうやら本の中身を写本してるようだ。
「ねぇ坊や。」
 華代は気さくに少年に声をかけた。少年はジロリと華代の方を見ると、すぐに本の方に視線を戻して写本を再開した。
「ねぇ坊や、何か困っていない?」
 華代は子供に再度声をかけた。少年は頭を一回、縦に振る。その間も筆を動かす腕は動きを止めない。
 子供の素っ気無い態度に少し憮然とするも、華代は懐からある物を取り出した。それは一枚の白い名刺だった。名刺には一言、『ココロとカラダの悩み、お受け致します。真城 華代』と書かれてある。
 華代は名刺を少年に差し出した。少年はそれに気づいたのか右手の筆を止めないまま左手で器用に名刺を受け取った。一回チラリと名刺を見ると名刺を脇に置く。その間も筆の動きは止まっていない。
 大切な名刺を雑に扱われた気がして華代は少し顔を引き攣らせた。だがすぐに顔を笑顔に変えた。セールスレディたるとも、忍耐力が必要なのだ。
「坊やの悩み事、言ってくれないかな? お姉さんが解決してあげるよ。お姉さんは悩み専門のセールスレディだから、バッチリよ。」
 少年は筆を動かしたままチラリと華代の方を見た。何となく胡散臭い物を見ているような目だ。
「大丈夫、お金とかは取らないから。お客さまに満足して頂く事こそ、私にとっての最高の報酬ですから。」
 感慨深げにトウトウと語る、が少年はそんな華代を無視して写本を続行している。
 完全に無視されているのを華代はちょっと顔を引き攣らせながらも耐えた。
「ところで坊や、何をノートに写しているの?」
 華代は少年が写している本を覗き込んだ。本の題名の所には『お菓子レシピ20大全』と書いてある。500ページ以上ありそうだ。下手に使えば人を殴り殺せるのではないだろうか、と思わせる厚さだ。
 華代はそれを見て納得したかのように顔をウンウンと頷かせた。
「そうか! 坊やパティシエを目指しているのね! わかったわ、お姉さんが何とかしてあげる!」
 パティシエとはフランス語で菓子職人の意味だ。華代は題名を見て少年はパティシエを目指して勉強しているんだと安直に結論づけたのだ。
 華代は右腕を上にあげてひとさし指を立てた。
 そして
「ソーレッ!」
 大きく掛け声を一声あげる。
 すると、少年の身に変化が
 ・・・・・・・・・・・・起こらなかった。ガリガリと筆を動かし続けている。
 目を真ん丸にして硬直する華代。室内にも関わらず冷たい風が流れてきた、気がした。
「あ、あれ? えーっと、ソーレッ!!」
 気を取り直し、気合をこめて再び声をあげる。
 でもやっぱり、少年の身体に何1つ変化は起こらなかった。まあ通常は少女が声をあげただけで変身するなんて事はあり得ないのだから、これが普通なのだろうが。
 しかし華代にとっては異常事態であった。珍しい事に彼女は軽いパニック状態に陥ってしまう。
「ええ? なんで? どうしてぇ?」
「何をしてるんだ、お前は。」
 ふと気がつくと華代の方を少年がジト目で見つめていた。散々動かし続けていた筆も止まっている。
「ええーっと、坊やがパティシエ目指しているみたいだから、お菓子職人のお姉さんに変えてあげようと思って・・・」
「はぁ? 俺はパティシエなんて目指していないぞ? 第一何でお菓子職人のしかもお姉さんに俺を変えなくちゃいけないんだよ?」
 少年は呆れ返ったかのように華代を見つめながら声をあげた。見た目とは裏腹に少年の口調はぶっきらぼうで無愛想な口調だった。
 ふう、と一回溜息をつくと少年はいきなり華代にノートとシャープペンを突きつけた。華代はビックリして少年の方を見る。
「はい。手伝って。」
「ハイ?」
 事情が飲み込めないのか華代は間抜けな声をあげた。少年はジト目を更に強めて華代を見つめる。
「困っているのを解決してくれんだろ。だから写本、手伝って。」
 華代は少年の気迫に押されて思わずノートとペンを受け取ってしまう。そこで今更ながら少年の口から悩み事を聞いていなかったのに気付く。
「えーっと。坊やの困っている事って、何なの?」
「この本を写すのが大変だなぁと、困ってたんだ。で、君は解決してくれるんだろう? ほれ、手伝って。」
 少年はポンポンと傍らにある本を叩きながら言葉を続けた。題名は『お菓子レシピ20大全』と書いてある。ページはやっぱり500ページは軽く超えていそうだ。
「ええっと、これ『20大全』って書いてあるように見えるんだけど・・・・。」
「うん、これが全部で20冊ある。」
 気まずい沈黙が流れる。
「これを1ページ1ページ、手で写せと?」
「1文字1文字を手で丁寧に写すと。」
 重苦しい空気が周囲に立ち込める。華代の額に汗が流れてきた。『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』といった威圧感あふれる効果音が流れてきている気がする。
 華代は顔をあげるとシュタッと手をあげてにこやかな笑顔を浮かべた。
「あ、向こうで困っている人を見つけちゃった☆ それじゃあこれで!」
 言うないなやクルリとまわれ右して一目散に立ち去ろうとした。
「クォラ待てや。」
 少年はがっしりと華代の肩を押さえつけて立ち止まらせた。立ち去ろうとする華代を、だ。
「お前の方から『困った事を解決してやる』、って言ってきたんだろーが。言った以上、『解決』してもらうぞ。」
「えええー、でもぉ・・・。」
「つべこべ言わずに手伝え。大丈夫、この図書館に許可とってあるから、終わるまで帰らないですむぞ。」
「ふえええぇえ〜ん。」
 こうして泣く泣く華代は気が遠くなりそうな写本を少年と一緒にやる事になったのだった。
 
 10数時間が経過して、やっとこさっとこ華代と少年は20冊の本の写本を終えた。少年が既に半分近くを終えていたのもあるが、それでも脅威的なスピードで仕事を完了させた事になる。
 華代の右手は酷使し過ぎでしびれていた。小さな文字を一つ一つ丁寧にノートに写していくはかなり過酷な作業であった。あまり肉体を使った『解決』をしてきていなかった彼女にとってはこの緻密すぎる作業はかなりこたえた。
「ふ〜〜う、やっと終わったねぇ。」
 華代は右手をプラプラさせながら溜息交じりで独白した。ところが華代の2倍以上の作業をしているにも関わらずすこぶる元気な少年の口から不吉な言葉が流れてきた。
「さーて、前哨戦は終わり。それじゃあ本番いってみよー。」
 華代の全身が氷の塊になったかのように「ビキッ」といった音をたてながら固まった。それを尻目に少年は本棚の奥の方に入っていき、しばらくすると何冊もの本を抱えて戻ってきた。
 「ドン」という地響きにも似た音をたてながら本の山が華代が座っている机の上に置かれた。本の題名には『古今東西料理レシピ100大全』と書かれている。ページの量もさっきまで写していた本と勝るとも劣らない。一冊一冊が500ページを超えているだろう。
 華代はギギギと首をきしんだ音をたてながら少年の方を向いた。その顔にはひくついた笑みが張りついている。
「あの・・・これ・・・・。」
「うん、写すよ。」
「『100大全』って書いてあるんだけど・・・・。」
「うん、100冊あるよ。」
「・・・・・全部?」
「全部。」
 華代はそのやり取りをし終えると、何かが頭の中で切れたような気がした。
「ふぅ・・・・・」
 そして華代は気絶してしまった。
 
 
 
 気がつくと華代はベットの上で寝ていた。ふらふらと身体を起こす。
 質素な部屋だ。数個のベットの他には小さな机が一個あるだけだ。どうやら図書館の職員が使用する仮眠室の中のようだ。
 机の上に何かが置いてあるのに華代は気付いた。近づいてみるとそれは白い小さな弁当箱とアルミ製の水筒だった。弁当箱には一枚の紙が張り付けられており、一言『食え』と無愛想に書いてあった。
 華代は弁当箱を開けてみた。中身はそぼろご飯だった。茶色の鶏肉と黄色い卵が美しいコントラストを生んでいる。備え付けられていた割り箸に手をつけると、彼女はそぼろを口に入れてみた。
「あ、美味しい・・・。」
 感想を思わずボツリと声にだしてしまう。長年生きていた、いやさ存在してきた彼女はこれまでにそれなりの数の料理を口にしてきたが、このご飯はいままでの料理の中でも5本指に入るほどの絶品な物だった。
 よく噛み締めながらご飯を食べ、水筒に入っていたお茶で喉を潤すと彼女はしばし休憩をした。その後にふと思い立って、少年がいた所に行ってみた。
 少年は未だに本の写本を続けていた。無表情なまんま、ガリガリガリガリと筆を動かし続けている。
 華代はしばし少年のその姿を見ていたが、軽く笑いを顔に浮かべると少年に近づいていき、少年の対面に座った。
「辛いんだったら、手伝わなくてもいいんだぞ。」
 少年は作業を続けたまま華代に声をかけた。ぶっきらぼうで無愛想だがどこか彼女の事を案じているような雰囲気が感じ取れた。
 華代は満面に笑みを浮かべて少年を見つめ、宣言した。
「いーえ、私は困った人の悩みを解決する事を信条としたセールスレディですから、セールスレディとしての誇りをかけて絶対アナタの悩みを解決してあげます!」
 華代は傍らにあるノートとペンを手に取った。そして本を広げる。
「さあ! 頑張りましょう!」
 華代のその行動に少年は一旦作業を止めると、軽く苦笑した。
「・・・・・ありがとう。」
 一言、喋ると少年は作業を再開し始めた。華代はそれを聞いて笑みを更に輝かせた。
 そして華代もまた、写本作業に取りかかった。
 
 
 
 作業は合計で5日もかかった。華代はその間仮眠室を行ったり来たりしていたが、少年はほぼブッ通しで写本を続けていた。時折立ち上がると、華代の為に料理を作ってあの白い弁当箱につめてくる間くらいしか休みらしいのはしていなかった。飲まず食わず寝むらず休まずで少年は作業を続けていたのだ。華代は少年のとんでもない体力に呆れるを通り越して薄ら寒いのを感じた程だ。
 写本をしたノートの山をダンボールに詰め、宅急便の人を呼びつけて運ばせると華代と少年は同時に溜息を吐いた。顔を見合わせるとどちらともなく笑顔を見せ合う。
「やっと終わりましたねぇ。」
「ああ、やっとな。」
 少年は手を組んであくびをするかのように身体を上に伸ばした。
「それじゃあ、私はこれで。」
 華代は頭を下げると立ち去ろうとした。すると少年は華代の手を掴んだ。華代はビックリして少年の方を振り返る。そこには苦笑いを浮かべた少年の顔があった。
「まぁ、せっかく手伝ってくれたんだ。お礼くらいさせろよ。家に、ちょっと来いや。」
 少年は強引に華代の手を引っ張って歩き出した。
「いえ、報酬なんていりませんから。お客様が満足して頂ける事こそ私にとっての報酬・・・」
「いいから、いいから。」
 少年はズルズルと華代を引きづりながら歩き続けた。
 
 少年が華代を連れてきたのは高級アパートの最上階にあたるフロアーだった。他の階とは違って吹き抜けになっていてやたらと広い。少年は華代をテーブルの座椅子に座らせるとキッチンにこもって料理を作り始めた。
 華代は落ち着かないような様子でキョロキョロと辺りを見渡した。部屋の中は広さとは対照的に異様に質素だった。必要最低限の家具しか置いていない。
「広い部屋ですねぇ。」
「ああ、俺はちょっと特殊な職業についてるからな。ある仕事でこのアパートの権利を持っている人を助けてな、その人の好意でここを借りているって訳さ。」
 華代の言葉に少年はキッチンから声を張り上げて答えた。その間も何かに火を通す音といった料理をしている音は鳴り止まない。
 職業に就いている、という事は少年は見た目通りの年齢ではないという事を意味しているのだが、華代はその事に気がつかずに
「はぁ、そうなんですかぁ。」
 と呟いただけであった。
 しばし時がたって、少年は料理を担ぎながらキッチンからでてきた。出来立ての料理をテーブルの上に並べる。
「さぁ、食おうぜ。」
 少年は華代の対面に座ると声をかけた。華代は少年の方を見るとプッと思わず笑ってしまった。
「なんだよ。」
「いえ、その格好が、似合い過ぎで。」
 少年は憮然と華代を見た。だが華代が笑うのもある意味納得ができる。少年は三角巾を頭に絞めて白い割烹着を着ていたからだ。言うならば「給食配給のオバチャン」スタイル。幼稚園児じみた容姿の癖に目つきがやたらと悪くて無表情ぶっきらぼうな少年がその格好をするとかなり珍妙だ。
 少年は不機嫌そうに三角巾を外した。口を尖らしている。こういう表情を見ると、少年も見た目通りの子供のように見えなくもない。
「冷めると不味くなるから、食べようぜ。」
「そうですね。じゃあいっただっきまーす。」
 華代は箸を掴むと少年が用意した料理に手をつけた。
「わぁ、美味しい〜。」
 華代は笑顔を浮かべながら弾むように声をあげた。少年が用意した料理はまさしく絶品、下手な高級料理店の料理を上回る出来であった。
 華代の声を聞いてまんざらでもないかのように少年は笑みを浮かべた。
「ひょころで、アナタは何であふなに大量な料理のレシピを写していひゃんですか。」
 口一杯に料理を放り込んだ状態のまま、華代は少年に声をかけた。年頃の娘にしてはちょっとはしたない。
 少年はポリポリと顎を掻きながら恥かしそうにした。
「んー、実はここの近所に近々共学になる高校があってな。その学校の生徒を対象に近くで弁当屋やろうと思ってよ。色々なメニューを出したいからたくさんのレシピを持っておこうと思っただけだよ。」
「ふーにゅ、そうひゃひゃんですか。」
 そんな風な他愛のないやり取りをしながら2人は食事を楽しんだ。
 
 料理を食べ終えて用意されたお茶を飲み、華代は一息をついた。
 少年は楊子で華代に見えないように手で隠しながら歯の隙間をほじり、カスを取った。そして唐突に少年は切り出した。
「さてと、報酬の件だが、」
「いいえ、私はそのような物はいりませんから。」
 パタパタと手を振りながら華代は笑いながら少年に言った、が少年は「待った」をかけるように手を華代に突き出した。
「お前さんはいいかもしれないが、俺は納得いかないんだ。嫌でも報酬を払わせてもらうよ。」
 華代は困ってしまったようだ。しばし考え込むとポンッと手を叩いた。そして鞄の中から一個の物を取り出す。
「それじゃあコレ下さい。」
 それは少年が華代の為に用意していた白い小さな弁当箱だった。
 少年は意表のつかれたその申し出に目を丸くした。そして次の瞬間にはいかぶしげに目を細める。
「いいのか、そんなんで? それなりの額なら俺でも払えるぞ?」
「いいんです、これで。」
 華代は笑いながら少年の問いに答えた。大切そうに弁当箱を抱え込む。
 少年は苦笑いをしながら椅子に寄りかかった。
「ハア、欲の無い奴だなぁ、君は。ま、そんなんで本当にいいのなら別に構わないけどな。」
「それじゃあ、コレを頂きます。」
 鞄の中に弁当箱を入れながら華代は明るく声を出した。そして立ち上がると少年に向かってペコリと頭を下げる。
「それじゃあお料理ありがとうござました! お弁当屋さん、頑張って下さいね!」
「ありがとう、君も気をつけてね。」
 少年は華代を玄関まで見送った。華代は少年の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
 
 
 
 華代は少年と別れてから不思議そうに頭を捻っていた。
「おかしいなぁ、何であの子は変わらなかったんだろう?」
 そんな事を考えながらテクテクと歩いていると歩道橋にでた。
 そこに1人の老人が重そうな荷物を担いで階段を上ろうとしていたが、足腰が弱っているのか難儀しているようだ。
「わあ、大変そう。手伝いたいけどあんな大きな荷物、私でも苦労しそうね。」
 キョロキョロと周りを見渡すと、何人かの人が道を通っているが老人の事を見て見ぬふりをしているようだ。
 華代は近くを歩いていた若い男性を捕まえると、声をかけた。
「お兄さん、あのお爺さんが大変そうなの。私と一緒に荷物を運ぶのを手伝ってくれません?」
「ええ〜俺がぁ? いやだなぁ、面倒くさいよ。」
 若者はあからさまに面倒くさそうな顔をして嫌がった。華代はその様子を見てムッとする。
「ボランティア精神って大切だと思いますよ。それに老人を大切にするのは若者の必須項目でしょう?」
「だけどよー、男の俺が老人を助けるなんて、なんか恥ずかしいし格好が悪いじゃねぇか。」
 若者の言葉は詭弁であり欺瞞だ。ただ単にやりたくない気持ちを強引に理屈をつけて逃げたがっているだけだ。しかし、その理屈を言った相手が悪すぎた。
 華代はウンウンと頷いた。そして顔に満面の笑みを浮かべる。
「なるほど、確かにその通りですね。わかりました! 私が何とかしてあげます!」
 華代は右手を頭の上に上げて人差し指を立てた。
「そーれっ!」
 元気よく大きく掛け声をあげる。
 すると若者の背が急速に縮んでいった。
 胸が「ポン」という音を立てるかのごとく膨らむ。
 腕が細くなっていき、指が白魚のごときスラリとした物に変貌する。
 脚が若者の意思に関係なく内股になる。
 お尻がムクムクと膨れ上がり、反比例して腰が細くなった。
 髪の毛が急速に伸びだすと背中までぱぁっと広がった。
 睫毛が伸び、瞳が大きくすっきりとした物になる。唇がちいさくなり、そして潤みを帯び始めた。
 顔が、身体全体が丸みがついていく。体毛が抜け落ちて肌がきめ細かに、そして白くなった。
 最後には彼の男性の象徴が縮んでいき、消え去った。
「ええええ? な、なんだよこれ?」
 若者は突如として起こった自分の身体の変態に戸惑いの声をあげた。
 その声も今までの自分の物とは思えないくらい高く、そして聞くだけで人の心を落ち着かせるような美しい物になっていた。
「うわ!?」
 若者は驚きの声をあげた。胸がいきなり締め付けられたからだ。ブラジャーをつけられただけなのだがそんな物、女装趣味のない若者にはわかるわけがない。
 ズボンの中のトランクスがショーツに変貌して下腹部にピタリッと張り付く。
「ああ、やだ・・・いや、やめて・・・・。」
 若者はイヤイヤとばかりに頭を振る。だが変化はとまらない。
 紺色のブラウスが水色になる。そしてズボンが徐々に捲くり上がっていく。くっつくとそれはスカートに変化した。
 スニーカーがあまり踵の高くないハイヒールになった。最後にはストッキングが突如と現れて履かされた。
 数秒後には若者がいた所には水色のワンピースを身につけた清楚な印象を与える女性が立っていた。
 
「はい、これでバッチリですね!」
 華代は若者・・・いやさ女性をニコニコとしながら見つめた。
 女性は呆然としながら華代を見つめている。
「あの貴女は私に一体何を・・、あら? 私なんでこんな口調になっているの?」
 女性は驚いていた。自然に口からでてくる言葉がつつましげな女性のものに変換してされてしまっているからだ。
「これで恥ずかしがる事なく、人助けができますね! それじゃあ人助けの邁進して下さい!」
 華代はスタスタと立ち去ろうとした。
「あ、待って・・・・。」
 女性は華代に追いすがろうとする。華代はピタッと足を止めると女性の方を向きなおした。
「そうそう。そのうち心の中もその口調に変わりますから。私からのサービスですよ♪」
 いらぬサービスをわざわざつけてくれる華代。
「それじゃあ、頑張って下さいね!」
 華代は言いたい事を言い終えたのか、さっさと立ち去った。
 後にはただ呆然と立ち尽くす女性が1人。
「と、とりあえずあのお爺様のお手伝いした方がいいかしら。・・・あら? あの子が手伝ってって言ってきたのになんであの子、立ち去っちゃたのかしら?」
 何か釈然としないまま、女性は未だに苦労している老人の方に歩いていった。
 
「やっぱり悩みを解決するのは気持ちがいいわね〜。 セールスレディの名利につきるわ〜。」
 華代は満面の笑みを浮かべたままスキップしそうな勢いで歩道を歩いていた。
 だがその歩みは唐突に止まる。口を「へ」の字に曲げて眉毛を八の字にする。
「でもさっきの人は変えれたのにあの子はなんで変えれなかったのかな? いつも通りにやったのに・・・・?」
 華代はしばしの時立ち止まったまま考え込む。しかし表情をパッと明るくするとまた歩き出した。
「まぁ気にしてもしょうがないか! 次のお仕事にいって・・・あ、あそこに困ってる人を発見!」
 スタスタと目星をつけた人物に歩みよる。
 可愛らしい笑みを満面に浮かべると華代はその人物に話しかけた。
「こんにちわオジサン。何か困っていない?」
 
 
 
 少年は華代の姿が見えなくなるのを確認すると玄関のドアを閉め、テーブルに散らかった料理の皿の後片付けを始めた。
 皿洗いをしながら溜息をつく。
「しかしなんなんだったろうな、あの子は。高位の神族か上級の精霊か・・・・とりあえず、人間ではないようだな。いきなり存在を強制的に変更する術を使ってきたから思わず抵抗したけど、俺じゃなかったらあんな強力な術、抵抗できんぞ。」
 少年は皿を洗い、フキンで水をきれいに拭き取ると戸棚に片付けた。
 その時玄関のドアが開く気配がした。玄関の方から呑気で明るい声が響いてくる。
「兄ちゃんただいま〜〜〜。」
「おー、お帰り。」
「お腹すいちゃったよー。何か作ってー。」
「ああ、わかった。軽い物をチャッチャと作るから、リビングで待ってろよ。」
 少年は弟に対してそう声をかけると料理器具を再び取り出した。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわ、DEKOIです。
 
 華代ちゃんシリーズ番外編「華代ちゃん被害にあう」をお届けさせて頂きます。
 
 ・・・・・・あああああああ、また反則技を書いてしまったあぁぁぁ。
 
 いつも人々を不幸(?)にしている華代ちゃんがろくでもない目にあう作品を唐突に書きたくなって書いてしまいました。
 
 わかる人にはわかると思いますがこの作品で出てきた「少年」は私が過去に書いた作品の主人公の1人です。だってこいつくらいしか思いつかなかったんだもん、華代ちゃんの『力』に抵抗できそうな奴って。
 
 『力』で強制的に人の「存在」を変えてしまう華代ちゃん。ところがその『力』が通じない相手が出てきたらどうなっちゃうんだろう? という発想の元、ツラツラ書かせて頂きました。
 
 はっきしいって今回の作品で華代ちゃんは怖い目にあった筈です。『力』が通用しない、立ち去ろうとすると押え込まれる、あまりやった事のない肉体的精神的労働を強いられる、報酬を強引に渡されようとする・・・といった始めての体験だらけだったと思います。
 
 つうかあの「少年」、華代ちゃんの天敵かよ。可哀相だと思わないのか。
 
 でも華代ちゃんシリーズ特有のホンワカとした雰囲気はそれなりにだせた・・・・かな?
 
 最後にこんな反則バージョン華代ちゃんを読んで下さいましてありがとうございます。
 
 それではこのような挨拶ができますように願いつつ、筆を置かせて頂きます。皆様、またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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