いちごちゃんシリーズ
「氷上の舞姫」
作:ヒラリーマン
※「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html
*「華代ちゃんシリーズ・番外編」の詳細については
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan02.htmlを参照して下さい。
※「いちごちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/Novels-03-KayoChan31-Ichigo00.htm
2005年1月某日
「な、なんですとっ!?こ、この私が、ふ、ふぎゃあーを?」
「ふぎゃあーでは無い!フィギュアだ」
ここはハンター組織最上階にある指令室……つまりボスの部屋である。
そこに4人の美女(?)が集められていた。
最初にボスに噛みついたのは、ウェーブのかかった右側だけ垂れている前髪とポニーテール。
そして眼鏡を掛け、スーツを着こなした25歳前後の女教師然とした美女。
元ハンター10号こと半田燈子であった。
「ふ、ふぎあーと言えば、あ、あの極端に短いすかあとの付いたれおたあどの様な物を着て、楽曲に合わせて氷の上を踊りながら滑るというやつですか?」
「お前はいちいち言い回しが古いな。そう、そのフィギュアスケートだ」
「なぜ我々が?」
「うむっ! 来年開かれる、世界ハンター組織対抗冬季競技会に我々も日本代表として選手を送り込まねばならない。しかし予算的に見てあまり多人数の選手を送り込むわけにもいかず、少数精鋭でほぼ確実に入賞を狙える様にとフィギュアスケート一本に絞り、本部職員達の人気投票と身体能力の両面で君達4人が選ばれたと言う訳だ」
「どうしてフィギュアなんですか?」
「男子職員達からの熱烈な要望があってな」
「……」
燈子以外の顔ぶれはというと、半田いちご・半田双葉・浅葱千景の3人が選ばれていた。
燈子はハンター達の訓練士として、同僚から鬼の如く恐れられていた。
だが、性転換して美女に成るや否や、急に男達のファンが増え、皆嬉々として猛訓練に取り組みだした。
今や、ややMの気がある男性職員達にとっては女王様……もとい、女神の様な存在になっていた。
双葉はその愛嬌の有るコケティッシュな顔立ちと、甘ったるいアニメ声優のような喋り口でハンター組織内でも所謂『ヲタク』と呼ばれる男達に人気があった。
いちごと千景は今更言う迄も無いだろう。
又、『二人のコスチューム姿が見たい!』という水野・沢田両女史の画策による組織票も効いていた。
確かに身体能力としては千景を除く3人は男時代にはそれぞれ組織内では卓越した能力の持ち主であったし、女になった現在でもその能力は引き継がれているはずである。
また千景も組織内の一人を除き誰も知らないが、かつて男であったときには一流の暗殺者・スナイパーとして他の3人に負けず劣らずの身体能力の持ち主であった。
「ちなみに、競技会は来年の2月にイタリア支部で開催される。それまで1年ほど有るが各自十分に訓練に励むように!ただし、競技会に行けるのは3人だけだ。その為今年の12月に最終選考会をこの4人で競って貰う。以上だ」
「うわぁ! 憧れのイタリアに行けるなんて! パスタにピザでしょ、頑張らなくっちゃ! え〜とどんな衣装にしよおっかな〜? オダ・ユミさんにデザインしてもらおうかしら?」
と、双葉。
「じゃあ、俺が辞退しますよ。この3人で行ってきて貰いましょう」
そういっていちごは逃げようとしたが、燈子と千景が言う。
「な、何を言う! このような任務は滅多にないぞ。私は海外勤務が長かったからな、お前達に譲ろう」
「わ……私は高所恐怖症気味でな。飛行機はちょっと……」
などと、不毛な言い争いを三人が続けていると。
「勝手な言動・行動は許さんぞ! 是は既に決定事項なのだ! この特命に関しては“絶対命令”を発動する!」
――と、ボスの怒りが爆発した。
「で、でも何で無理矢理選考会を開かにゃならんのですか?」
「これも熱烈な男子職員及び一部の女子職員の要望でな」
いちご達『………』
やる気満々の双葉とは違いいちごと燈子はしぶしぶ引き受けることになった。
ちなみに千景はと言えば『中松屋の水饅頭』一年分契約であっさり転んだらしい。
こうしして各自選考会に向けて猛特訓が始まった。
最初はリンクに立つのが精一杯でおぼつかない足取りだったが、そこは流石に身体能力に卓越した四人の事。
ものの一週間で、フィギュアスケート基礎を会得し、さらに次の段階として徐々に難度の高い技術を学ぶようになっていった。
月日は流れはや11月に差し掛かった頃、各選手達はそれぞれ高度で個性的な演技・技術を身につけていた。
燈子はステップ・高速スピン技に磨きを掛け、大人の女性としての表現力を大きな武器としていた。
双葉は身体の柔軟性を生かし、身体を真横にして回転する『ドーナツスピン』、上体を大きく反らしたまま滑る『イナバウアー』など難度の高い技を身に付けていった。
千景はそのしなやかで軽量な身体でコンビネーションジャンプを得意とし、一回の演技に『トリプルアクセル』を二度織り込むのと、片手での『ピールマンスピン』を会得した。
皆それぞれが順調に仕上がっている中で、いちごはスランプに落入っていた。
というのも、いちごはその強靭な脚力、全身のバネを生かしたジャンプを得意とし、彼女の『4回転サルコウ』は女子スケーターとして史上初の超ウルトラ難度の技であった。
その為軸足にかかる衝撃は並のジャンプの比では無く、ある日の練習中に軸足を痛めてしまっていたのだ。
ひょっとすると骨折しているかもしれなかったが、男性時代から真面目一徹、不言実行の彼女はそれを誰にも漏らさず、黙々と練習に励んでいた。
選考会も後幾日と迫ったある日、ハンター機関附属病院の整形外科の診察室にいちごの姿が在った。
「1号君、いや、現在はいちご君と言うべきかな。レントゲン写真によると君の左足首は亀裂骨折を起こしている。この状態ではリンクにつことは事実上無理だ。医者として出場を許可する訳にはいかない」
「先生!無理を承知で出場したいんです!今迄4人でお互い競い合ってスキルアップしてきたのに、もしここで俺が棄権すれば、全体の士気の低下にも繋がりかねない。日本代表を背負う限りは絶対避けなければならない事なんです」
「し、しかし……」
「先生、この事は先生と俺との間だけの秘密にしておいて下さい」
「……」
……しかし軸足の状態は日を追うごとに酷くなり、結局負傷後の練習では『4回転サルコウ』を一度も成功しないまま最悪の状態で選考会を迎える事となった。
12月某日、その日は快晴であった。
ハンター組織敷地内にあるアイスアリーナには、多勢の職員達が詰めかけていた。
水「ねえねえ、さっきいちごちゃんと千景ちゃんの陣中見舞に行ってきたんだけど、千景ちゃんはともかくいちごちゃん、なんか元気ないのよねえ。覇気がないっていうか……」
沢「本番前で緊張してるんじゃない? ところでさ、燈子さんあれだけ嫌がっていたのにやる気満々ね? メイクもばっちり気合い入ってたし。双葉ちゃんは相変わらずっていうかあの娘、頭の中はイタリア観光と食べ物の事ばっかし……」
いよいよ選考会のフリー演技が始まろうとしていた。
一番手は半田燈子である。
黒を基調とし、部分的にシースルーを入れたコスチュームは、成熟した大人の女性をアピールしていた。
彼女がリンク中央に現れると、男性職員の間からどよめきとも溜息とも付かぬ声が上がった。
水「あ〜あ、だらしないったらありゃしない。みんな鼻の下デレ〜と伸ばしちゃって……」
沢「ほ〜んとっ!あいつら燈子さんの胸かお尻か太ももばっかり狙ってるんだから……」
……どうも燈子は他の女性職員達に受けが悪いようである。
燈子の演技が始まった。
ジャンプは大技が無く派手さはないが、ミスが無く確実に決め、ステップでは女性らしさを表現豊かに演じ、最後に得意の高速スピンを決めノーミスで演技を終えた。
会場からは男性職員達の「ほ〜〜〜」という溜息が一斉に洩れた。
(芸術点33.2 技術点28.5 合計点61.7)
つぎの演技者は半田双葉。
彼女は燈子と同様黒を基調としたコスチュームだが一見ゴスロリ調、つまりメイド服のフィギュア版と言ったところだ。
「双葉タ〜ン!!(;´Д`)ハァハァ・・・ 萌エエエ〜〜〜!!」
と、一種異様な声援が飛んだ。
双葉の演技が始まった。黒に白のフリルの付いたスカートをひらひらさせながら身体の柔軟性を存分に生かした『イナバウアー』や『ドーナッツスピン』など難度の高いわざを次々と決め、3回転から2回転のコンビネーションジャンプも無難に決め、これまたノーミスで演技を終えた。
(芸術点30.8 技術点31.2 合計点62.0)
と芸術点では燈子に及ばないが、技術点との総合点で上回りこの時点で双葉が首位に立った。
突如、大きな歓声が上がった。
リンク中央にエメラルドグリーンのコスチュームを着た、しなやかな肢体のまるで妖精のような可憐な美少女が現れた。
水&沢「「千景ちゃあぁぁぁ〜〜〜ん!! がんばってぇぇぇ〜〜!!」」
千景は小柄だがそのしなやかな手足を一杯に使って素晴らしい演技を行った。
得意のコンビネーションジャンプに『トリプルアクセル』は二度共見事に決め、さらに得意の片手『ピールマンスピン』を披露し、これまたノーミスで演技を終えた。
(芸術点32.2 技術点33.2 合計点65.4)と、先の二人を上回り一躍首位に立った。
(さあっ!いよいよ俺の番だな!!)
いちごは軸足の痛みを堪えながらリンクの中央に向かった。
水&沢「「がんばれぇぇぇ〜〜いちごちゃあ〜〜ん!! 燈子にまけるなあ〜〜!!」」
燃えるような真っ赤なコスチュームで現れたハンター組織のアイドルに一際大きな声援が送られる。
「いっちごおぉぉぉ〜〜!!俺が付いてるぞおぉぉぉ〜〜!!」
観客席からハンター5号・五代秀作の声が飛ぶ。
いちごは一つ大きな息を吐くと……
『へへっ、もう行くとこまで行くしかねえな……』
いちごの演技が始まった。
観客は固唾を飲んで見守る。
この目で『4回転サルコウ』の瞬間をしっかり目に焼き付けて置きたいのだ。
躍動感溢れるいちごの演技が続く。
他の選手達に較べ表現力にやや難があるとは言え、それを補える程力感に満ち溢れた技術で次々と難度の高いコンビネーションジャンプをこなして行く。
そしていよいよその瞬間がやってきた。
いちごの心に迷いは無かった。
全てをこの一瞬に賭け、充分な助走を付けて思い切り踏み切った!!
誰よりも速い回転速度で……
『おおお〜〜〜!!』
一瞬リンク内の時間が止まったかの様だった。
……見事着地が決まったかに見えた次の瞬間。
痛めた軸足が着地の衝撃に耐え切れず、いちごは大きくバランスを崩し尻餅をついた。
『あああ〜〜〜!!』
会場内に落胆の声が拡がる。
だが、いちごは健気にも直ぐ立ち上がると、黙々と演技を続けた。
そして演技最後のスピンを終えると、会場全体から惜しみない拍手が起こった。
その汗にまみれた顔には力を出し切った充足感が溢れ、輝くように美しかった。
水野・沢田両女史も目に涙を一杯溜め、
「「素敵よ〜いちごちゃ〜ん!!ナイスファイト!!」」
と声をあげた。
リンクに投げ入れられた花を丁寧に一つ一つ拾いながら、リンクサイドに戻ると、先に競技を終えた三人がいちごの方に駆け寄って来た。
三人共目に涙を一杯溜めながら……。
「いちごの馬鹿っ!なんで言ってくれなかったのよ!」
「医療機関の整形外科の先生に聞いたわよ。貴女左足首を骨折してたんですって?」
「それなのにいちごさん…わたし達の士気に影響が出たらいけないって……」
「ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど、皆の脚を引っ張ってはいけないと思って……本当にごめんね……あたし、あたし……」
……いちごの目にも見る見る涙が溢れてきた。
そして、三人はいちごの手を固く握りしめ……
燈子「貴女の気持ちは充分にうけとったわ、いちご……」
双葉「トリノに行っても、心は何時も一緒だからね……」
千景「いちごさん……」
いちご「みんな……」
4人は抱き合い、堰を切ったように泣き始めた。
水「ううっ、ぐすん! 力を出し切った激闘の末芽生えた、女同士の美しい友情ね……」
沢「ていうか、双葉ちゃんはまだしも、あの3人すっかり女の子しちゃってるんじゃない?」
水「あら?」
結局、転倒での減点が大きく響き、(1位)浅葱千景(2位)半田双葉(3位)半田燈子となり、いちごは代表権を獲得出来無かった。
翌る日……
「何っ? 千景が大会に出られないって?」
「はあ、年齢制限に引っかかったらしくて……それでスライドでいちごが代表に」
「あいつなら、優勝候補と言われるロシア支部の『カルツタヤ』とアメリカ支部の『オーエン』に対向できると思ったのにな……」
「ちなみにいちご・千景・燈子の三人が引き籠もってるそうです」
「なんだ? 千景の場合は解らんでもないが、いちごと燈子は……」
「いえ、原因は競技の結果ではなく、うちの報道班が試合後彼女等の余りにも女らしい振舞をVTRに収めて放映したのが原因みたいで……」
「まったく男心と女心の入り交じった厄介な奴等だな! とにかく引っ張り出せ! まだエキジビションが残ってるんだ」
「あれ? 新しいビデオカメラ購入されたんですか?」
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