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TSストーリーランド 前編
作:角さん
原案設定:北房真庭
 
スペシャルサンクス:原田聖也
 

第一話
<優介と知花の章:最強の言霊使い>

 幼なじみというのはとかく、うっとうしいモノである。
小さな頃から一緒にいるだけあって、自分の弱味やイヤな事、覚えていなくてもいい事まで知っている。
 だから俺は、あいつを避けている・・・・
思春期の俺達にとっては尚更のことだ、幼なじみというだけでクラスの奴らに茶化されるのもその一つであったりする。
 いつの頃からだろう、あいつを名前ではなく名字で呼ぶようになったのは・・・・
「ちかぁ〜、優君が迎えに来てるわよ!」
「は〜〜〜〜い」
 あいつと入れ替わってから一週間、戸惑いながらも、俺はあいつのフリをして何とかやっている。
制服に着替え、洗面所で顔を洗い、グチャグチャになった髪を櫛で梳かし、ドライヤーでセットする。
あ〜〜、女ってなんてめんどくさいんだ、俺なんて頭に水つけてタオルで拭いたらもう終わりなのに、しかし周り奴にあいつが変になったと思われるのがイヤなので、ついついやってしまう。
「じゃあ、行って来ます」
「知花、最近毎日、優君が迎えに来てくれて良かったわね!」
「え・・・・うん」
 曖昧に答えたが、あいつは今の状況をどう思っているんだろう・・・・
「おはよう!」
 あいつは俺の顔で爽やかに挨拶をする。
「ああ、さっ学校に行くぞ!」
「あっ、ちょっと待って、優君リボンが曲がっているよ」
そう言うと、あいつは俺の襟元に付いているリボンを直す。
 こいつを見てると不思議に思う、普通は体が入れ替わったらもっとパニックを起こしてもいいだろう、しかしこいつは体が入れ替わってもこれといって動じてないみたいだ。
 俺だったら、人に自分の部屋や体などのプライベートな所を覗かれたくない、女のあいつだったらなおの事だろう、なのに何故・・・
俺は、ニコニコしながら後ろをついて来るあいつに、その疑問をぶつけてみることにした。
「お前、そうやって毎日ニコニコしてるけど、俺に自分のハダカや下着を見られて恥ずかしいと思わないのか?」
「ふぇ?う〜ん、そう言われてみれば、優君に私のハダカを見られて、恥ずかしいのは恥ずかしいけど・・・」
「けど、なんだ?」
「だって、今まで優君、私のこと避けてたでしょう、でも今の状態だったら、優君、いつも私のそばにいてくれるもん!」
「バッ、バカヤロウ!!それは俺の体の事が心配なだけだ!!」
 そう、あいつに言うと、あいつはニコリと笑い・・・
「でも、私は優君と二人でいられるだけで、嬉しいもん!」
ぐっ・・・・
そう言われると、なにも言えなくなるじゃないか・・・・・

あいつは・・・
あいつは、最強の言霊使いだ・・・・


第二話
<知花と優介の章:あたたかい手>

〜昼休み〜
 俺はクラスの女どもに馴染めず、一人屋上でパンを食っている。知花はと言うと、あいつの”のほほ〜ん”とした性格が良かったのか、クラスにとけ込んでいるみたいだ。
あいつ本人は、俺になりきっているつもりだろうが、チラチラと、『優介君、最近なんだか優しくなったね!』とか、女どもが噂しているのを耳にしたりする。
やはり姿形が変わっても、人の本質は変わらないのだろうか?
あいつの持つ”あたたかさ”は、本人も気づかないうちに、周りの人間も、あたたかくしてるのだろうか・・・・・
 だから俺は、あいつを避けた・・・・
 俺は、あいつの”あたたかさ”がまぶしくて、背を向けるしかなかった・・・・
『優君・・・』あいつの寂しそうな声が頭に響く・・・
しかし一度背を向けたら、もう後には引けない。
ほんの一握りのちっぽけなプライド、捨てようと思えばいつでも捨てられる愚かな意地、だけど俺はそれが捨てられなかった。
 知花の気持ちは解っていた・・・・
 だけど・・・・
「あっ、優君、こんな所にいたんだ」
「知花・・・・」
「そろそろ、授業が始まるよ・・・」
あいつはそう言うと、俺に向かって右手を差し出す。
俺がこいつに出来なかったことを、こいつはあっさりやってしまう。
それがこいつの強さなのか・・・・
 俺は戸惑いながらも、あいつの差し出した右手を握り返す。
俺(知花)の小さな手は、知花(俺)の大きな手にすっぽり包まれる。
 俺の手は、知花にはこんなに大きく感じられたのか・・・・
 そしてその手は、とてもあたたかく感じられた・・・・・
俺が知花に差し出す手は、こんなにあたたかであっただろうか・・・・・


第三話
<柳 士郎の章:柳・パーフェクトサービス>

 『ジリリーン、ジリリーン・・・』電話が鳴っている。
今は懐かしいダイヤル式(っと言っても受信専用なのでダイヤルは無いが)の黒電話が鳴っている。
ここは駅前に並ぶビル通りの中にある、柳・パーフェクトサービスの事務所の中である。
 <柳・パーフェクトサービス>、レンガ貼りで出来た三階建ての古いビルに居を構える、地域に密着した何でも屋さんである。
ここの売り文句は、『トイレ掃除から瓦の張り替え、ペットの散歩、浮気調査まで何でもやります!』だそうだ、しかしこのどっちつかずの売り文句が災いして、仕事が来ることはあまりない。
 話が多少、横道にそれたが、その間にも電話は事務所の中で鳴り響いている。
そこで事務机でパソコンをいじっている、メガネをかけた青年がそれに業を煮やし、奥にあるソファーに向かって、「士郎さん、いい加減電話に出てくださいよ!うるさくて仕事にならないじゃないですか!!」と言い放つ。
するとソファーから、「めんどいから、俺の代わりに盛綱(もりつな)が出てくれ・・・」と寝ぼけた声で返事が返ってくる。
「なに言ってるんですか、黒電話は、士郎さんでないと出られない、決まりじゃないですか!」そうすると、今までソファーで寝ていた男がボリボリと頭をかきながら、だるそうに電話口に向かっていく。
ここにも、今風のファックス付きのプッシュホンはあるのだが、ある仕事の依頼が来るときだけこの黒電話が鳴る。
この電話だけは、この柳・パーフェクトサービスの社長兼、現場作業員の柳 士郎(やなぎ しろう)しか、取る事が出来ない決まりになっている・・・
 「ただいま帰りました!!」
 事務所の扉が勢いよく開き、ポニーテールの小さな女の子が飛び込んでくる。
その女の子は、くりくりとした大きな目、そして髪を結わえている大きなリボンが印象的な可愛い女の子だ。
「盛綱さん、町内会のお掃除手伝ったら町内会長さんに、たくさん、たい焼きもらったんです。」「
みんなで食べましょう!!」
女の子はそう言うと胸に抱えていた、たい焼きの入っている袋を盛綱に見せる。
しかし、盛綱は残念そうに首を横に振り、電話に出ている士郎の方を指さす。
「へっ?」っと、盛綱の指さす方に視線を移す女の子に、電話を終えた士郎がつかつかと近づく・・・
 「あっ、柳さん、たい焼き貰ったんで、みんなで食べましょう!」
女の子は、ニコニコと士郎にたい焼きの入った袋を見せる。
それを見た士郎は、すかさず女の子からその袋を奪い取り、中に入っているたい焼きをバクバクと頬ばる。
「あっああう〜、私のたい焼きぃ〜〜」
女の子は、何とか士郎からたい焼きを奪い返そうと士郎の体によじ登ろうとするが、時すでに遅くたい焼きは全て彼の胃袋の中に収まってしまった。
「せっかく、みんなで食べようと思ってたのにぃ〜〜」
今までみんなと食べようと、大事に持って帰った、たい焼きを全て士郎に食べられ、女の子は目を潤ませながら床にへたり込む。
 士郎はそんな女の子を無視して、「盛綱、しばらくここをあける、後は頼む・・・」
そして女の子に、「おいっ、いつまで落ち込んでんだ、仕事だ、行くぞ!!」と言い、士郎は女の子の襟をつかんでずるずると引きずっていく。
「うう〜、盛綱さん、また行って来ますぅ〜〜」
女の子は士郎の横暴な振る舞いを、半ば諦めているようだ。
「二人共、気を付けて・・・」
盛綱も、このいつもの二人のやりとりを諦めているみたいだ。

 <柳・パーフェクトサービス、一階ガレージ>
「吠えろ、白い幻影号!!」
士郎は車のアクセルを思いっきりふかしながらクラッチを離す、すると白い幻影号は前輪を勢いよく空転させながら、ガレージから飛び出す。
「うひぃぃ〜〜〜」
町中で、女の子の悲鳴を響かせながら、士郎達の乗る車は目的地に向かう。

 しかし、彼らが向かう目的地で今、小さな事件が起ころうとしていた・・・


第四話
<優介と知花の章:小さな事件>

 放課後、俺は教室で帰り支度をしていた。
教室でも、ガヤガヤと生徒達が帰り支度をしている。
その中で、教室を見回してみる。
いつもなら知花が、『一緒に帰ろ!』と、俺を誘いに来るはずなのだが、あいつの姿は見えない。
以前なら、その誘いまでむげに断っていた、それ以前にあいつが誘いに来る前に帰ってしまってただろう。
 しかし、今は・・・・
「ちかぁ〜、たいへん!大変よ〜!!」
教室の入り口から、バタバタと知花の女友達が入ってくる。 
俺はその話を聞き教室から飛び出した。
『さっき、優君がクラスの男子達に校舎裏に連れて行かれたのよ!!』
 なんで?
『最近、優君なんか変わったでしょ、それでウチの女子達がチヤホヤしちゃったもんだから、男子達がそれを妬んで・・・・』
 くそ!!何でこんな事に・・・・
クラスの中で突出した者は少なからず人に妬まれる。
本人が意識しなくても、それは少しずつ雪のように積もり、その積もった雪はなだれの様に一気に噴出する。
あいつのように突然、人が変わったような行動を起こすと尚更だ、はじめはニコニコしていた男子達も度が過ぎると、こう言う事になってしまう。
 くそ!!女のあいつがケンカなんて出来るわけがない。
あいつ等にボコボコにされるのがオチだ・・・・
何で逃げなかった、何でついていった・・・
 あいつの体でうまく走ることは出来ない、体が言う事を利かない、息が上がる。
 この女の体で、奴らを相手に出来るのか?
 先生を呼ぶか?
しかし、騒ぎを大きくしたくはない・・・・
 いや違う、俺は俺の体が心配なだけかもしれない、俺は自分の保身だけを考えているのかもしれない・・・・
 でも、気持ちははやる、早くあいつの元へ、足にスカートがまとわりついてうまく走ることが出来ない、足がもつれる、しかし止まることは出来ない。
校舎裏に出る扉に手をかける、そこで俺は息を整え覚悟を決める。
女の体でどこまでやれるか解らないが、やるしかない。
願うことなら、事が起こる前であってほしい・・・・
 俺は意を決し、扉を開く・・・・
外の景色が目の前に飛び込んでくる・・・・
そして俺の目に映る光景、それは俺の予想を大きく裏切る光景だった。

校舎裏に横たわる男子達、一人は鼻を押さえ、一人は腹を抱え、もう一人は頭(こうべ)を垂れながらコンクリートの壁により掛かっている。
 何だ、何がどうなっているんだ・・・・
 その中心で両腕をダラリと垂らし、立っている一人の男。
俺だ、いやっ知花だ・・・・
ユラユラと体を揺らしながら、ハーッハーッと、荒い息を漏らしているあいつの両拳には、べったりと血が付いている。
 あいつの虚ろな目、荒い息づかい、拳に付いた返り血、横たわる男子達・・・そして、あいつの放っている異様な雰囲気・・・全てが怖かった。
 あそこに立っている俺の横顔が、鬼のように見えた・・・・
その異常な状況に飲まれ、俺はあいつに声をかけることすら出来ない、俺は俺が怖かった・・・
あいつと目が合う、体が動かない、声が出ない、足がガクガクと震える・・・・
「ゆうくん・・・・」
その力無い声で、あいつを覆っていた努鬼は消え、あいつの瞳からポロポロと涙が落ちる。
「優君、わたし・・・私・・・・・」
そしてあいつは返り血の付いた両手で顔を覆い、その場で泣き崩れた・・・・
 しかし、俺はあいつに何も言ってやれなかった。
 俺は只、その場で立ちつくすだけだった・・・・

 無言での帰り道、あいつは家の前で一言、「ごめんね・・・」と言い、俺と別れた。
そして、次の日あいつは俺を迎えにこなかった・・・・・


第五話
<柳 士郎の章:社>

 優介と知花との間に起こった小さな事件、それからちょうど一日経った次の日、彼らの住む町に士郎と鈴が到着した。

 木々のうっそうと生い茂る山道を一人の男と女の子が歩いている。
男は、緑色のツナギを着、前にツバのある帽子を後ろ前にかぶり、ボサボサに伸びた後ろ髪を、布でグルグル巻きに一本に縛っている。
その後ろをフラフラしながら歩く女の子は、薄黄色のシャツの上にベージュのベストを羽織り、ショートパンツをはき、そのシャツの裾をズボンから出すことにより、スカートのように見せている。
そしてその、親子とも兄妹とも見えぬ、奇妙な二人組の左手には、なにやら細長い棒ようなが物が入っている袋を手にしていた。

 山道を一人スタスタと歩く士郎は、後ろを振り返り後を付いてくる鈴に向かって、「おい!鈴、早くしろ!!」とイライラしながら叫ぶ。
 それを聞き鈴は、「あう〜〜、柳さん、すぐ行きますから〜〜」と言い、急いで歩こうとするが、どうにも足下がおぼつかず、なかなか前に進めない。
その様子を見て、士郎はポケットから、空のタバコの箱を取り出し、鈴に向かって投げつける。
士郎によって投げられたタバコの箱は見事、鈴の頭にヒットして、鈴はその場でヨロヨロとよろけてしまう。
「柳さぁ〜ん、何するんですか!ゴミはちゃんとゴミ箱に捨ててくださいよ!!」
そう言って怒る鈴に向かい士郎は、「お前、今からそれと同じ銘柄のタバコ買ってこい!!」と言う。
「はぇ!?」
そう言ってキョトンとする鈴に士郎は、さらにポケットから500円玉を取り出し、鈴に向かって放り投げる。
500円玉と、空のタバコの箱を持った鈴に向かって士郎は、「早く買ってこい!!」とせかす。
 しかし、鈴はその場を動こうとしない。
そして、「柳さん私、一緒に行かなくていいんですか?」と不安そうに聞く。
その鈴に向かって士郎は、「うるせー、早く行け!!」と怒鳴る。
 士郎に怒鳴られ、鈴はトボトボと、登ってきた山道を下っていく。
その途中で、鈴は後ろめたそうに振り返るが、士郎はその鈴に向かって右腕を振り上げ「カ〜〜ッ!」と威嚇する。
その士郎の様子を見て、鈴は慌てて山道を下っていく。
士郎は、鈴の姿が見えなくなるのを確認すると、フーッとため息を吐き、ポケットから新しいタバコを取り出し火を点ける。
 鈴は元々乗り物に弱い・・・・
しかも今回は思いの外長旅だったので、彼女は疲れ切っていた。
士郎はそんな鈴を休ませるために、わざわざタバコがあるのに買いに行かせたのだ、これが鈴に対しての彼なりの気の使い方なのである。

 士郎がちょうどタバコを一本吸い終わる頃、山頂に到着した。
木々の少し開けた場所の真ん中に小さな社が建っている。
人があまり来ないのだろう、周りには無秩序に草が生え、社も何年も手入れをしてないのか木がボロボロに腐りかけている。
「神も、人がいなけりゃ、こんな物か・・・・」
士郎は、そう言ってごちると左頬にある古傷をさすりながら周りを見回す。
そして、社の中心で目を止める。
「こんな所に、鬼門があるとは世も末だな・・・」
 士郎はそう呟くと、胸のポケットから携帯電話を取り出し、事務所に電話をかける。
二、三回コールすると、事務所に電話がつながる。
「もしもし、柳パーフェクトサービスですけど・・・・」
「おう!盛綱か、今、鬼門を見つけたぞ」
「そうですか、さすが北条家、情報が正確ですね」
「いや、そうでもない、もう鬼門は閉じかかっている」
「と言うことは・・・・」
「ああ、今回も、一暴れしなきゃ、ならねーかもしれん」
「そうですか、ではこっちでも色々と手を回しておきます。」
「士郎さんも大変でしょうけど、気を付けて・・・・」
「ああ、いつものことだよ、俺達の仕事はいつも、後手回りなんだからな!」
「そうですね・・・・」
「あっそれと、鈴ちゃんに帰ってきたら、一緒にたい焼きを買いに行こう、て伝えて下さい」
「ケッ、お前は鈴には甘いんだな!」
「まさか、お前ロリコンなのか!」
「ちっ違いますよ!!」
「士郎さんが鈴ちゃんをいじめるばっかりするから、慰めてあげようと思ってるだけですよ!!!」
「ヘイヘイ、そう言うことにしておくよ!」
「それじゃあ、そっちの方は頼んだぞ!!」
「はい、任せてください、それより重ね重ね言いますけど二人とも、無茶なことは極力、控えてくださいよ!」
「ああ、解っているよ!」
「だが、それを覚えていたらの話だけどな!」
士郎はそう皮肉を言うと電話を切る。
 そして士郎は、目の前の社を睨み付け、「今回も忙しくなりそうだ・・・」と一言ぼやき歩き出す。

 彼らはこれから起こる大きな事件のために、まだ動き出したばかりだ・・・・


第六話
<優介の章:入れない我が家>

 いつもと変わらない教室の風景・・・・
ガヤガヤと騒ぐクラスメイト達、その中に俺は一人いる。

俺は、誰も座ってない席の方をじっと見ている・・・
その誰も座ってない席は、俺のいや、知花の席だ・・・
今日、結局、あいつは学校に来なかった。
 クラスの奴らは、あいつがいないことにも気づかず、いつものように授業をうけている。
 俺の存在って、そんなものだったのか・・・・
 それとも、昨日の事を、誰も触れたくないのか・・・・
しかし、昨日の事を知っているのは、俺と知花、それと知花にやられた三人だけだ。
その三人も、今日は学校に来ていない・・・・
 一体、知花とあいつ等の間に何があったんだ、あの温和な知花が、あんなに豹変するなんて、俺には信じられなかった・・・

 放課後、重い足取りで家路に着く・・・
家に着いてからも、あいつの事が気になってしょうがない。
 あいつは、あんなに酷いことをやってきた俺に、簡単に手をさしのべてきた。
 次は、俺の番じゃないのか・・・・
昨日、別れ際に聞いた、あいつの『ごめんね・・・』という言葉・・・
あいつには、そんな余裕は無かっただろう。
不安で、不安で、たまらなかっただろう。
しかし、あいつは俺の事なんかを気にして、あんな事を言った・・・・
 何故、あの時、あいつに何も言ってやれなかったのか・・・
 何故、あの時、あいつに優しくしてやれなかったのか・・・・
過ぎ去った時に対しての後悔の念だけが、胸の奥に積もっていく・・・・

 そして俺は、あいつのいる、俺の家の前に来ている。
”源(みなもと)”俺は、俺の家の表札を、じっと見ている。
つい、こないだまでは、何も考えず、自由に出入りできた、俺の家・・・
しかし今、その入り口は、俺の入ることを拒んでいるかのように見える。
 俺はもう、この家の人間ではないのだ・・・・
敷居が高い・・・・
この中に、何年も一緒に暮らしてきた家族がいるというのに、俺はその中にはいることは出来ない。
 あいつは、この中にいるのだろうか・・・・
二階にある、俺の部屋の窓を見てみるが、カーテンが閉まっていて中の様子を知ることが出来ない。
 中に入る方法はある・・・
表札の下に取り付けてある呼び鈴を一回押せば、俺は客として、優介の幼なじみの”式部(しきぶ) 知花”として、中に入ることが出来る。
 その家の者は、絶対に押すことの無い、自分の家の呼び鈴・・・
俺は、それを押そうとしている。
しかし、それをやってしまったら、俺はこの家の人間では無いことを認めてしまうようで、押すのをためらってしまう。
 母さんが出てきたら、どんな顔をして会えばいいのか、どんな事を話せばいいのか、そんなことを考えると、さらに呼び鈴を押す指が、遠のいてしまう。
しかし、あいつの事は気になる・・・・

 俺は、俺の事だけを考えて、あいつの事なんか全く考えていなかった。
あいつは、俺と入れ替わってから、毎日、俺を迎えに来ていたではないか・・・
あいつがどんな気持ちで俺を迎えに来ていたのか、毎日会う自分の母親に、まるで他人のように話さなければならなかった気持ちを、俺はそんな事を全く考えず、自分の事だけを考えていたのではないか・・・
 俺は、あいつの無垢な優しさに、甘えていただけではないのか・・・
 そんな事を、いざ、自分がやる時になって解るとは・・・・

俺は覚悟を決め、呼び鈴に人差し指を伸ばす・・・
しかし、その指はそれ以上、動くことはなかった。
 昨日見せた、あいつの鬼のような表情、返り血で真っ赤に染まったあいつの拳、そしてその人を寄せ付けない異様な雰囲気、それらが生々しく、俺の頭の中で何度もよぎる。

怖かった・・・
俺の姿をした、あいつの、あの顔が・・・・
俺の姿をした、あいつの、あの拳が・・・・
俺の姿をした、あいつの、あの雰囲気が・・・・
その全てが、俺の脳裏に焼き付いて離れようとしない・・・・
 恐怖だけが、俺の心の中を支配する。
あいつの事を、解ってやれるのは俺しかいない。
あいつの事を、救ってやれるのは俺しかいない。
 そんな事は解っている・・・・
しかし、俺の体はそれを拒否する・・・・
 
伸ばした人差し指を、再び握りしめ拳をつくり、俺はその場に立ちつくす。
 ちくしょう・・・・
 ちくしょう・・・・

俺は、臆病者だ・・・・


第七話
<優介の章:犯される、心と体>

 夕方、俺は学校の公園でブランコをこいでいる。
あいつの居る俺の家を離れ、行く当てもなくしばらく町中を歩き回った。
日も傾きかけ、家に帰ろうかと思ったが、今の気分じゃ知花の家に帰る気にもなれなかった。
そして、最後に行き着いた先が、この公園だった・・・
 力無く地に着いた足で、ブランコを前後に揺らす・・・・
ブランコは、キィキィと高いさびれた金属音をたて、それがさらに俺の心を落ち込ませる。
今まで公園で遊んでいた子供達も、迎えに来た母親に手を引かれ帰っていく・・・・
 気づくと公園にいるのは俺一人になっていた。
日も落ちあたりが急激に暗くなり、転々と建てられている街路灯に明かりが灯り、周りの景色をぼんやりと照らし出す。
うつむきながら考える事は、今までの事、そしてこれからの事ばかりだ。
しかし、それは前向きなものではなく、後悔や不安などと言う後ろ向きなことばかりである・・・
公園を取り囲むように植えられた防風林が、ザーザーと音をたて、それが何者かが俺を責めたてているように聞こえた。
俺はこれからどうすればいいのか、何をすればいいのか、それが解らない、頭の中がグチャグチャになりそうだ・・・・
 結局、俺はこうして一人でブランコをこぐしかできないでいる。
もういい、考えるのは止めよう・・・
明日になれば、いつものように知花が迎えに来るだろう・・・・
 もう、帰ろう・・・
ブランコをこぐ足を止め立ち上がろうとすると、今まで街路灯にぼんやりと照らされていた足下が急に暗くなる。
不思議に思いゆっくりと視線を上げると、そこには街路灯に照らされた一人の男が立っていた。
その男は、ガムをクチャクチャと噛みながら、俺の体を上から下まで舐めるように見ている。
何だ、こいつ・・・そう思い、俺はそいつを無視して立ち去ろうとする。
すると、突然後ろから何者かに羽交い締めにされる。
正面にいる男は、それをニヤニヤしながら眺めている。
「しまっ・・・」そう叫ぼうと口を開くと、さらに背後から口を押さえられる。
口を押さえられ、身動きも出来ない俺はそのまま、街路灯の光が届かない林の中に引きずって行かれる。
 その間、手足をばたつかせ必死に抵抗したが、俺の体はがっちりと固定され凄い力で引きずられていった。
それから、両腕を縛られ、口に猿ぐつわをされ、俺は今、三人の男達に見下ろされている。
その三人の男達は、ニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべながら俺を見下ろしている。
そして真ん中のガムを噛んでいる男が、両隣の男達に目で合図をする。
すると二人はジリジリと俺ににじり寄り、俺のスカートに手をかける。
「うっ・・・・」声を出そうとするが、猿ぐつわが口に食い込み声がでない。
そのまま俺は男にスカートをはぎ取られてしまう・・・
もう一人の男は、俺の上着をめくり上げようと上着をつかむ。
俺は必死に抵抗しようと身をよじるが、男は力任せに俺の上着をめくり上げる。
俺は二人の男に無理矢理半裸にされ、俺の着けている白いパンティーとブラジャーを見た男達はさらに、ニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべる。
 リーダーと思われるガムを噛んでいる男は、俺に向かって低い声で言い放つ。
「運が悪かった、だけだ・・・・」
「たまたま、機嫌が悪い俺がいた・・・・」
「たまたま、あんたがそこにいた・・・・」
「たまたま、ここが人通りの少ない公園だった・・・・」
淀んだ目をして俺を見下ろす男の顔がいびつに歪む・・・・
「たまたまだ・・・」
「たまたま、あんたが俺好みの女だった・・・・」
「くくく、くはははは・・・・」
「運が、運が悪かったなぁ〜」
男は狂ったように笑い出す。それにつられて二人に男達も、ゲラゲラ笑い出す。
 狂ってる・・・
 なんだこいつ等は・・・
何とか、何とか逃げなければ、俺は唯一自由になる両足をばたつかせ、何とか男達を遠ざけようとする。
その瞬間、俺の頬にヒンヤリとした感触が俺を襲う。
イヤな予感と共に感触のした方へ目を向ける。
そこには、キラキラと光を受けて輝くナイフがあった。
二人の男は自慢げに、俺の目の前にナイフを持ってくる。
「抵抗は止めた方がいいぜ、あんたの綺麗な白い肌に傷が付くことになる・・・・」
リ−ダー格の男はそう言うと、ズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出す。
「俺もあんたを傷つけたくないんだよ、あいにく俺は血だらけの女を抱く趣味は持ち合わせてないんだよ・・・・」
そう言うと三人は、声をそろえて笑い出す。
くそ、何で俺が・・・・
「恨むなら、運の無い自分を恨むんだな・・・」
そう言うと、リーダー格の男は、ゆっくりとナイフを俺のブラジャーと胸の谷間の間に滑り込ませ、引き上げる。
胸の谷間にナイフのヒンヤリとした感触と圧迫感を感じた後、ブチッと言う音と共に、俺のブラジャーは切り落とされる。
今までブラジャーによって圧迫されていた胸が、プルンと揺れながら外に解放される。
「なかなか、良い形してるじゃないか・・・」
男は下卑た薄ら笑いを浮かべながら、左手で俺の右胸を鷲掴みにする。
「・・・!!」声にならない声が漏れる。
力任せに胸を掴まれ、俺の体中に激痛が走る。
「くくく・・・すぐに天国に、つれてってやるよ・・・」
男は、俺の鼻先まで顔を近づけると、ゆっくりと低い声で、威圧的にそう言う・・・
俺を押さえつけている男達も、興奮が押さえきれないで息を荒げている。
その荒い息が俺の素肌に当たり、さらに俺の恐怖をあおる。
 これから起ころうとすること・・・・
それに、恐怖を覚え、何とか逃げようと考えるが、恐怖で考えがまとまらない・・・
ガクガクと体が震え、目から涙がにじむ・・・・
しかし、この状況から逃れられない・・・・
誰か、何とかしてくれ・・・・
誰か、助けてくれ・・・・
知花、俺はどうしたら良いんだ・・・
これは、俺が知花にしたことの報いなのか・・・・
声にならない声が、公園をこだまする・・・・


第八話
<優介と鈴の章:風の少女(1)>

 優介は、これから起こるであろう事に恐怖していた・・・
両腕を縛られ自由を奪われ、口に猿ぐつわをされ叫ぶことも出来ず、目の前に刃渡り20センチのナイフを突きつけられ抵抗することすら出来ないでいる。
 周りを取り囲む男達の荒い息づかい、そしてギラギラと輝く獣のような瞳、それが全て自分に向けられている事に体が震え、自分でも音が解るぐらい心臓が高鳴り、おびえていた。
 男の淀んだ瞳に映る自分の姿・・・・
それは自分の幼なじみの知花の姿、その知花が男達になぶられ犯されようとしている。
 その知花の感覚は、直接自分に伝わり、そのいたたまれない嫌悪感を含む感覚は、知花と自分が犯されているという二倍の苦しみを優介に与えていた。
「くくく・・・くくくくく・・・・」
リーダーと思われるガムを噛む男は、おびえる優介を嬉しそうに見下ろしながら、その柔らかい胸を揉みしだく。
「俺が憎いか・・・悔しいか・・・・」
「何なら俺の顔を覚えて、警察に通報してもいいんだぜ・・・」
「しかし、それをするのは、俺達が全ての事をやり終わってからだけどなぁ〜」
 言葉による屈辱、それにより相手に精神的苦痛を与え、自分が優位である事を認識させ、抵抗する気力をなくす。
それを見て男は、優越感と征服感を味わう・・・
「警察に俺達の事を言えよ、俺達に何をされたか自分がどんな目にあったか、事隠さず全て言えよ・・・・」
「それによって、どっちが傷つくか楽しみだよなぁ〜」
 そうなのである。こういう場合、傷つくのは被害者の方である。
この事を警察に通報すると言う事は、世間に自分が見知らぬ男に犯されたと公表する事と同じである。
それはこれから結婚、出産という事を経験する女性にとって大きな障害になるだろう。
ましてや、知花の体を間借りしている優介にとって、この事を警察、ましてや知花に話すことは決して出来る事ではない。
 この男達は、優介が、か弱い女性が自分達の事を警察に通報出来ない事が解っていた。だからこの男達は顔も隠さずに、こんな酷い事を大胆にやっているのだ。
 弱い女、弱い自分、心も体も弱い自分を痛感しながら、優介はただ、男達のなすがままになるしかないのだ。
目から大粒の涙がこぼれる・・・
悔しさと情けなさが入り交じった涙が・・・
それをこらえようと顔をそむけ、今の状況を認識しまいと目を逸らすが、音、臭い、感覚がそれを許してくれない。
その様子を見てガムを噛む男は、口をゆがめニタニタと満面の笑みを浮かべる。
相手を追いつめる事で得る、何とも言えない征服感という淀んだ感覚に酔いしれる。
 周りの二人の男達は、悶える優介の姿を見て興奮の絶頂に達しているようだ。
我慢の限界に達した二人の男は、ズボンのベルトをガチャガチャともどかしそうにはずしていく。
『もうダメだ・・・』
もう優介には、抵抗する気力すらなくなっていた。
『死にたい・・・・』
全ての事に絶望して、もう生きる事すら優介は諦めかけていた。
しかし、その優介の気持ちを無視して男は、彼女の付ける最後の薄布に手をかけようとしている。
「どうした、もう諦めたのか・・・・」
「くくく、つれねぇなぁ、こんな死んだような女を抱いても俺は全然、燃えないんだけどなぁ〜」
男はそう言いながらも、パンティーを握る力を強める。
その伸縮性に富んだ薄布は、優介の柔らかい肌に食い込みながらドンドン伸びていく。
それにより、今まで他人の目に触れることの無かった大切な部分が、見知らぬ、狂った男達の目にさらされようとしていた。

 その時、男達の背後にある茂みが、ガサガサと音をたてる。
「誰だ!!」
男達はその音に気づくやいなやそう叫び、茂みの中を凝視する。
すると、茂みをガサガサとかき分け、長い髪を大きなリボンで束ねている目の大きな少女が現れる。
 その少女は、殺鬼立つ男達に睨まれているにもかかわらず、ニッコリと満面の笑みを浮かべながら元気よく口を開く。
「私は、北条鈴です!」
「それよりお兄さん達、こんな所で何やってるんですか?」
男達は、この突然現れた間の抜けた少女に驚いたようだが、すぐに落ち着きを取り戻し、三人は壁を作るように優介の体を鈴の目から遠ざける。
 そして、リーダーのガムを噛む男が低いドスの利いた声で鈴に語りかける。
「お前こそ、こんな所で何してるんだ?」
「子供はもう家に帰る時間だぜ・・・」
「はぁ、私もそうしたいんですけど、どうも迷子になっちゃったみたいで・・・・」
「誰か、柳さんの居る所、知りません?」
「はぁ〜ん?」
「お前、何は言ってるんだ?」
「俺達がそいつを知る訳、無いじゃないいか!」
「そうですか・・・・」
「そうですよね!」
「では、お兄さん達の後ろにいる、おねいさんに柳さんの所につれてってもらう事にします!!」
 鈴のその一言で、男達に戦慄が走る・・・
男達の真ん中に立つガムを噛む男は、チラチラと両脇にいる男に目で合図を送る。
 日も落ち、月の光も届かぬ公園の林の中、道を照らす街路灯が三人と一人の少女を、ただぼんやりと照らし出している。
 その中で、三人の男達の放つ殺鬼だけが、周りの空気をビリビリと振動させていた・・・・ 


第九話
<優介と鈴の章:風の少女(2)>

 何もかもどうでも良くなり、もうろうとする意識の中、俺はただ後ろにある木によりかかり周りを取り囲む男達のなすがままになっていた。
 俺の着けている最後の一枚の薄布に、男の手が掛かる。
それは、俺の肌にギュウギュウと食い込み、肉を圧迫する。
しかし俺は、その痛みよりこれから起こるであろう事に恐怖していた。
 すまない・・・すまない・・・俺はお前の体すら、守ることが出来なかった・・・
頭に浮かぶのは、知花への懺悔の念のみ・・・
 パンティーが肉に食い込みプチプチと音をたてている。
もう限界だ、そう思って覚悟を決めようとした時、突然男達の動きが止まる。
 そう、茂みの中から突然現れた奇妙な女の子によって事態は一層緊迫感をましてしまう・・・
 俺の姿を女の子から隠すために男達は壁を作る・・・
三人の男達の張りつめた空気が伝わる。
しかし、それは俺に向けられた物ではなく、ヤツ等の目の前に立っている女の子に向けられた物だ。
 今ならスキを突いて逃げることが出来るかもしれない。
しかし俺がヤツ等から逃げられたとしても、次はこの何も知らない女の子がヤツ等の餌食になってしまうだろう。
男達と女の子の会話から、彼女はただ道に迷ってここに来てしまっただけのようだ。
 このまま俺は、何も知らない女の子を身代わりにして逃げるのか?
俺は知花の心と体を傷つけてしまった上に、この女の子まで傷つけようとしている。
 最低だ・・・・
俺はなんて酷い事を考えていたのだろう。
これでは、目の前にいるあいつ等と同じではないか、何とかあの女の子にあいつ等の事を知らせないと・・・・
 しかし知らせようにも俺の口にはしっかりと猿ぐつわが結ばれている。
何とかこれをはずさないとならない。
あいつ等が女の子に気を取られているスキに・・・
俺は口をモゴモゴ動かしたり、寄りかかっている木の幹にホホを擦りつけたりして、何とか猿ぐつわをはずそうとする。
 その時だった・・・・
「そうですよね!では、お兄さん達の後ろにいる、おねいさんに柳さんの所につれてってもらう事にします。」
『・・・・!!』
 なっ、なんて事を言うんだ、そんな事を言ったら、あの女の子は確実にヤツ等の餌食になってしまう。
現に男達は女の子を捕まえようとジリジリと間を詰めている。
 くそ!俺は、思いっきり木の幹に自分のホホを擦りつけて、無理矢理猿ぐつわを引きずり下ろす。
「おい!何をしてるんだ!!速く逃げろ、そいつ等はお前を捕まえて、酷い事をするつもりなんだぞ!!」
 俺は大声を上げ、女の子に危険を知らせる。
しかしその声にいち早く気づいたのは男達の方だった。
男の一人が俺に向かって右手を振り上げる・・・
「今は取り込み中なんだ、お前は少し黙ってな!!」
殴られる!しかしこれによりヤツ等の注意が俺に向けられれば、女の子はそのスキをついて逃げることが出来る。
俺は歯を食いしばり、目を思いっきり閉じ身構える。
 ゴチン!!
公園に鈍い音がこだまする、しかし身構えた俺の体には、殴られた衝撃がなかなか伝わってこない。
俺は不思議に思い、つむった両目をゆっくりと開いていく。
その開いた瞳に映った物は・・・・
 クマ・・・・
 いや違う、クマの形をしたリュックを背負ったあの女の子が、頭をクランクラン揺らしながら俺の目の前に立っていた。
 いつのまに、彼女はヤツ等の後ろから俺の前まで移動したんだ・・・・
その俺の疑問と同じ物を、男達も持っているみたいだ、殴った本人も彼女を殴ってしまったことに気づいてなかったみたいだ。
そして、その女の子はと言うと、目に涙を溜めながら男達に食いついていく。
「あうう〜、痛いじゃないですか!!」
しかし、ダメージを受けたのは殴った男の方みたいだ。
男は、右拳を押さえながら女の子に怒鳴り上げる。
「痛いのは、こっちの方だ!この石頭!!」
「が〜ん、酷いですぅ〜」
女の子は男の言葉を聞き、ヨロヨロとうなだれる。
「黙れ・・・」
男達の真ん中にいるガムを噛む男が、高圧的に二人の口論を止める。
そして両隣の男に目で合図を送り、後ろ手に隠しておいたナイフを取り出す。
「俺達もあまり手荒なことはしたくないんだよ」
「お嬢ちゃん、これを使う前に俺達の言う事を聞いて、少し大人しくしてくれないか?」
 街路灯に照らされてキラキラ輝くナイフ、せっかく俺が忠告したのに何でこの女の子はここにいるんだ?
俺は、この女の子すら守ってやれなかったのか・・・
 しかし、女の子はその男の言葉を無視してしゃべりだす。
「お兄さん達は、本当に最低ですね!」
「女性に手を挙げた上に、言う事を聞かなければそれですか・・・」
女の子は、両手を腰に置き、その怒りをあらわにする。
「でも、そんな”おもちゃ”で脅しても、全然怖くないですよ!」
「バッバカ!これ以上、あいつ等をあおるな!!」
「そのナイフは、本物なんだぞ!!」
そうだ、俺の足下に落ちている引き裂かれたブラジャーを見れば、あのナイフが本物でないかどうかは、すぐに判断できるだろう。
 でも、その女の子はと言うと、クマの形をしたリュックを下ろしながら、少し困った様な顔をして俺に言う。
「すいません、私はそう言う意味で”おもちゃ”って言った訳じゃあないんですけど・・・」
「じゃあ、どういう意味だ・・・」
ナイフをちらつかせている男達も、その女の子の不思議な言動に困惑してるようだ。
「はぁ、こういう意味なんですけど・・・・」
そう言うと女の子は、クマが両腕で抱えている細長い袋をスルスルとずらしていく。
そして、その袋からでてきたモノは・・・・
 刀・・・日本刀だった・・・・・
「くくくく・・・・」
「なんだそりゃ、お前が取り出したその刀の方が、おもちゃじゃないのか?」
「そんなモノ夜店に行けば、いくらでも売ってるぜ!!」
 男の言った通りだ、女の子と日本刀、どう考えても結びつかない。
普通の女の子が、本物の日本刀なんて持ってるはずはない。
 しかしそう言われた女の子は、”ふぅ”と一つため息を吐くと、さらに困った顔をして男達に言う。
「そうですか、まぁこの刀が”おもちゃ”って言うんだったら、私はかまいませんけど、素手でいるより少しはましかなぁと思って・・・」
「そうか、それで俺達とやろうって言うのか?」
「でも、そのおもちゃでナイフを持った三人の男に勝てると思っていんだな・・・」
 ガムを噛む男は、ニヤニヤ笑いながら更に高圧的に女の子に言う。
「おもしろい!できるモノならやってみな!!」
「はぁ、それはいいですけど、素手で戦うのはお兄さんの方ですよ!」
男達は、その女の子の一言で自分の手に持つナイフに目を落とし、確認する。
「!!!」
 男達の顔が驚きの表情に変わる。
そう、さっきまでヤツ等の手元でキラキラ輝いていたナイフの刃先がいつの間にか無くなっていた・・・
「な、何だ!!」
「一体、どうなってるんだ?」
どよめく男達、それを尻目に女の子は、その高い声のトーンを少し落としてしゃべり出す。
「お兄さん達には、私の動きが見えなかったようですね・・・」
「いいですか、一度しか言いません!」
「このまま帰っていただけませんか?」
「これ以上、私たちに近づくと言うなら、次は手首から先が無くなると思って下さい・・・」
 女の子のその一言で周りの空気が凍り付く。
さっきまで間の抜けた会話をしていた女の子が放つとは思えないほどの圧迫感、俺があのガムを噛む男から受けた圧迫感とは、全く桁違いの物だった。
 後ろにいる俺がこれほどの威圧感を感じているんだ、彼女の真正面で向き合っている男達は、まるでヘビに睨まれたカエルの様にピクリとも動けないでいる。
「さぁ、お兄さん達、どうします?」
その女の子の一言で、男達の金縛りは説け、ガムを噛む男の両脇の男達は男の袖を引っ張り、この場を去ろうと促している。
 しかし、リーダーであるこの男は、こんなに小さい女の子に脅されてこのまま引き下がるというのは、彼のプライドが許さないみたいだ。
男は女の子の目を、ただじっと睨み返すだけだ、その様子を見て女の子はもう一度、男達に強く言う。
「去りなさい!!」
「さもないと、私から近づきますよ!!」
その言葉を聞き、両脇の男は一目散にその場を去っていく。
 そして最後に残ったガムを噛む男は、歯をギリリと一回鳴らすと、ゆっくり口を開く。
「お前達の顔は、しっかり覚えた・・・」
「これからは、夜道の一人歩きは気を付けた方がいいぜ・・・」
「どこで、俺達が狙っているか解らないからな・・・」
そう言うと男はきびすを返し、その場を離れていく・・・
 夜の公園に、再び静寂が訪れる・・・
とりあえず俺は、助かったのか・・・・・・・
 しかし、たった一人の、小さな女の子が、ナイフを持った三人の男達をあっさり追い返してしまうなんて、一体この女の子は何者なんだ・・・・
 疑問だけが、俺の頭の中に残る・・・・


第十話
<優介と鈴の章:風の少女(3)>

 あれからどれくらいの時間がたったのだろう・・・・
 とても長い時間のように感じるし、またそれはほんの数分の出来事のように感じる・・・
だだ、それは全て事実だった事は確かだ。

 街路灯に照らされ浮かぶ女の子のシルエット、大きなリボンで縛ってある蒼い髪が風にさらされサラサラとなびく。
 凛と立つ女の子の左手に握られている日本刀・・・・
はじめは間の抜けたしゃべり方をする小さな普通の女の子と思っていた。
しかし、彼女はたった数言でナイフを持った三人の男達をいとも簡単に追い返してしまった。
 ピンと伸びた背筋、肩幅に軽く開かれた足、斜に構えた体、それはあくまで自然体で様になっている。
そして、この女の子が放った異様なまでの威圧感、今でも鳥肌が立っている。
 この女の子は一体、何者なんだ・・・・・
あの左手に持っている日本刀、そして彼女の放つ威圧感、一見普通の女の子だが、この二つの物が、彼女の見た目をがらりと変えていた。
「君は、一体・・・・・」
俺の問いかけに気づき、女の子はゆっくりと振り返る。
「あぅぅ〜〜、怖かったですぅ〜」
「あのまま、お兄さん達が近づいて来たらどうしようかと思いましたぁ〜〜」
振り返ると同時にその場にへたり込む女の子に呆気にとられていると、女の子と目が合う。
「あう!すいません!!」
「一人で取り乱してしまって、おねいさん大丈夫ですか?」
「俺は・・・・」
「あ゛〜〜〜!!おねいさん、ほっぺに傷がぁ〜〜〜〜」
女の子は俺の言葉を遮り、あわただしく叫ぶ。
そう言えば、さっき猿ぐつわをはずそうと思い切りホホを木の幹にこすりつけたんだった。
今まで、興奮してその事を忘れていたのか、彼女に言われてホホが急にズキズキと疼きだしてきた。
「あの〜、良かったらこれで冷やしてください・・・」
女の子は、リュックから濡れタオルを取り出して俺に差し出す。
しかし、俺は男達に両手を縛られていてタオルを取ることが出来ない・・・
「あわわ、すいません!気がつかなくて!!」
女の子はそう言うと、俺の両手を縛っている布をほどいてくれる。
「あっ、ありがとう・・・・」
「そんな事より、顔の傷は大丈夫ですか?」
「よく、法子さんが言うんですよ、顔は女の命だって・・・」
女の子は、心配そうに俺の顔をのぞきこむ。
「ああ、ちょっとこすっただけだから大丈夫だと思うよ、でも君もあいつ等に頭を殴られただろ、大丈夫?」
「鈴です!私は、北条鈴って言います!」
女の子はそう言うと、ズイっと顔を近づける。
どうやら名前で呼んで欲しいようだ、しかし初対面の人間をいきなり名前で呼ぶのは、ちょっと気恥ずかしい。
「す・・・、鈴ちゃんは、大丈夫なの?」
「はい!!私は、顔じゃなくて頭ですから大丈夫です!!」
「でも・・・、頭殴られたから、少しばかになったかも・・・・」
「でも、ばかは風邪引かないし、付ける薬がないって言うくらい健康って事だから、ばかでもいいです・・・・」
鈴ちゃんは、俺の考える暇無く、ポンポンと話し続ける。
その彼女の話を呆然としながら聞いていると、突然、彼女のクマの形をしたリュックから電子音が聞こえてくる。
「ふぁ!柳さんからだ・・・」
鈴ちゃんはそう言って、リュックから携帯電話を取り出す。
慌てて携帯電話を取り出した鈴ちゃんは、鳴り続ける携帯電話を手に取りジッと見ている。
「あの〜、これってどうやったら柳さんと話せるんでしょう?」
そう言って彼女は、鳴りやまぬ携帯電話を俺の前に差し出す。
彼女の差し出した、ピンク色の携帯電話はボタンが三つしか付いてない。
電話の受話器を上げた絵の書いてある緑色のボタンと、受話器を下ろした絵の書いてある赤色のボタン、そして柳の木の絵が書いてある大きなボタン、それだけしかない。
暗闇の中で輝く液晶ディスプレイには”ヤナギ チャクシン”と表示されており、未だに俺の手の中で電子音を奏でている。
とりあえず、緑色のボタンを押して、彼女に手渡してやる。
「どうもすいません!せっかく、盛綱さんが私に使いやすいように改造してくれているのに、私はどうも機械が苦手のようで・・・・」
「それより早く、電話に出た方がいいんじゃないの?」
頭をかきながら照れている彼女は、俺の言葉を聞き慌てて電話に出る。
 彼女は、電話に出ると同時に、両手に持った携帯電話を頭の上に掲げ、「すいません、すいません、すいません・・・・」と、ペコペコと電話に謝っている。
なんだか、デジタル時代に乗り遅れたサラリーマンを見ているようだ。
「本当にすいません、どうも道に迷ってしまったみたいで・・・・」
「・・・・・・」
「そんな事言ったって、町なんてどこも同じような風景に見えちゃって、すぐに迷っちゃって・・・・」
「・・・・・・・・・」
「はい、解りましたすぐに帰りま・・・・・あっ!!」
そう言うと、鈴ちゃんはチラリと俺の顔を見る。
「あの〜、もう少し帰るの遅くなってもいいですか?」
「・・・・・」
「ええ〜〜〜」
「・・・・・・・」
「あう、わかりました・・・・」
鈴ちゃんはそう言うと、”ふぅ”とため息を吐くと、その場でくるくると三回回り「わん」と言う。
一体、彼女は何をやっているんだ?
「これでいいですか?ちゃんとやりましたよ!!」
「・・・・・」
「見えなかったって!そんなの知りませんよ!!」
「・・・・」
「はい、わかりました。」
「それでは、少し待ってって下さい」
「では・・・・」
彼女は、一通り電話の主と話しを終えると、携帯電話をまたクマのリュックの中にしまう。
「それでは、そろそろ帰りましょうか、立てます?」
そっと俺の前に出された彼女の小さい右手、俺はその手を握り起き上がる。
彼女の小さな右手、その手はとても柔らかく暖かかった、そう以前どこかで感じたことのある暖かさ・・・・
「どうしたんですか?どこか痛い所でもあるんですか?」
鈴ちゃんは、ボーッとしている俺を心配そうにのぞきこむ。
彼女は何でこんな見ず知らずの俺に対して優しくしてくれるんだ?
こんなに小さいのに、俺のために危険をかえりみず、男達から俺を助けてくれたんだ?
「お洋服、汚れちゃいましたね」
そう言うと、鈴ちゃんは俺のスカートに付いている泥をパタパタと叩いて落としてくれる。
「これで、少しはましになりましたね!」
服の汚れを取ってくれた彼女は、目を細めてニッコリと笑う。
「す・・・鈴ちゃんは、何で俺の事を助けてくれたんだ?」
「そして、見ず知らずの俺なんかの為に、何でそんなに優しくしてくれるんだ?」
突然、俺にそんな事を聞かれ、鈴ちゃんはその大きな目を丸くしてキョトンとする。
「・・・・う〜〜〜ん、何ででしょう?」
「見ちゃった、からかな?やっぱり、困っている人がいたらほっとけないですよ・・・・」
「迷惑ですか?」
「いや・・・」
迷惑なんかじゃない、彼女は俺の危機を助けてくれたのは事実だ。
ただ見たからと言っても、最近は見て見ぬ振りをする人間が多いというのに、彼女はあんな緊迫した所に、危険をかえりみず飛び込んできた・・・・
 俺にそんな事が出来ただろうか・・・・
「あの〜〜、そろそろ帰りませんか?送りますよ!」
「えっ、そこまでしなくてもいいよ、それに鈴ちゃんも早く帰った方がいいんじゃないの?」
「私は大丈夫です!ちゃんと、柳さんに許可を取りましたから!」
「それに、こう言う時は、誰かがそばにいた方がいいって、法子さんが言ったましたから・・・・」
「やっぱり、迷惑ですか?」
鈴ちゃんは、申し訳なさそうに上目づかいで俺を見る。
「いや・・・、ありがとう・・・・」
 そして俺達は、公園を後にした。
この小さくて、ちょっと間の抜けた明るい鈴ちゃんと一緒に・・・
 彼女の、優しさと暖かさは、以前どこかで感じたことのある懐かしい物だ・・・
そう、知花から感じた物と同質の物だった・・・
 知花・・・・
あいつは今どうしているんだろうか・・・・
 あれから、鈴ちゃんの最後に言った言葉が、頭の中にこびりついて離れようとしない・・・・
『こう言う時は、誰かがそばにいた方がいいって・・・・』
答えは、彼女に言われなくても、すでに知っていた。
果たして俺に、それが出来るだろうか・・・・
(つづく)
 

あとがき
 相方が思いつきで書いた、第一話・・・
それが、わいの悪夢の始まりだった・・・・
人が、コツコツと貯めていた、文庫用のネタが、奴のせいで、みんな”パァ〜”になってしもうた・・・
 しょうがないので、前から考えていた”柳士郎”と言う、キャラクターをとうとう出すことになってしもうた。
こいつ等とは長いつき合いで、手元の資料によると今から四年前のキャラクターであったりする。
いつかは、登場させようとは思ってはいたが、もうちょっと温めたかったのが、実際の所である・・・・
 しかし、過ぎた事はしょうがねぇーので、何とか面白くなるように頑張っていこうと思う・・・・・
 後、この話しをまとめてくださった、原田聖也様には、ぼっけー感謝しております。
この場を借りて、お礼を言わせて貰います。
ありがとうございます。
それじゃあ、あと残り半分、そういうことなんで、よろしゅうに!!
 
 主人公、二人共死ぬけどね・・・・・・      (北房真庭)

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