美少女指揮官ジュン=イタガキ

「飛行艇にエンジントラブル、まもなく爆発します!」
「なんとしてでも、艦長を救うのだ。」
「座標ロック、転送します!」
叫んだ瞬間、飛行艇は爆発した。
転送ゲートに人影が現れた。
その姿は、16才ぐらいの美少女だった。
「保安部!転送ゲートに急行せよ」
少女は、何が起きているのか分からない、という顔をしていた。

戦艦さざなみの副長ユウジ=ヤマモト中佐と謎の美少女は向かい合っていた。
「これが最後の質問です。あなたがこの戦艦さざなみの艦長として着任したのは?」
「宇宙暦1790802.午前9:00.君はいなかったね。ヤマモト君」
にっこりとほほえんだ。
「どうやら、あなたは本物のイタガキ艦長のようです。残念ながら。」
ユウジ=ヤマモト中佐はため息をついた。

戦艦さざなみは、連邦の最新型戦艦である。もっとも戦艦といえど、その主な目的は戦闘ではない。銀河内の探索である。現在、隣国と休戦状態にあるので、連邦宇宙軍は開店休業状態。どうせ暇だから、というので、宇宙探索などをやっている。もっともこれは表向きの理由で、隣国への牽制、情報収集、という目的が最優先、といううわさもある。
戦艦さざなみはの乗艦希望者は後を絶たなかった。理由は二つだ。最新鋭の戦艦であるという事だ。さざなみの研究設備は、一流である。目的が目的だから、素材には事欠かない。
もう一つは、ジュンイチ=イタガキ艦長の存在だ。
クルーの意思を尊重しならがらも、クルーの能力を最大限に活用し、自分の意志を通すべき時は、強引にでも通す。その指揮ぶりは、連邦の間で半ば伝説となっていた。

円卓を囲んで、「さざなみ」の将官はイタガキ艦長と名乗る少女の処遇について会議をしていた。彼女が本物の「イタガキ艦長」であるのか、そして、そうだったとして、彼女にこれからも指揮を取ってもらうのか?
「彼女が偽者であるという可能性は大きい。どこかに監禁すべきだ。」
保安部長のゴウ・オニザワがまっさきに発言した。
「すでに彼女にはゲストルームでじっとしてもらっています。」
ドクター・アリバヤシがいった。彼女の階級は中佐。軍医とはいえ、立派な将官。階級から言ば、副長の次に大きな責任をになう事になる。
「彼女のDNAパターンは、転送前の艦長のものとほぼ同じです。遺伝子構成がXXに変わっている事と、年齢が大幅に若返っている事を除けば、ですが。」
「転送事故による、DNA構造の変化が原因である、と私は判断します。」
発言した後、ドクターは着席した。
「彼女のこころを読んでみましたが、嘘をついてはいません;わたしは彼女が艦長であると確信します。」
カウンセラーの、ミキ=ハヤシバラが発言した。
彼女の階級は少佐。カウンセラーという役職は、長時間航海する連邦の戦艦にとって必要である。
「ドクターとカウンセラーの意見を総合すると、客観的材料から見れば、彼女が艦長であってもおかしくはない、ということになりますね。ドクターとカウンセラーが彼女が本物だ、というなら、わたしはその意見を指示します。」
アンドロイドであり、パイロットのインフォ少佐は発言した。
「俺もインフォの意見に賛成だね。」
インフォとなぜか気が合う、技術部長コウイチロー=サカキ少佐はその意見に賛同した。
「彼女が本物である事と、彼女が今後私たちの指揮を取る事はまた別のものよ。」
その発言に、皆いっせいにカウンセラー・ハヤシバラの方を見た。
「彼女は女性になったことで非常にナーバスになっているわ。また、彼女が指揮を取る事に違和感を感じるものもいるでしょう。」
「そして君の結論は?」
「ユウジ。わたしは艦長にしばらく休んでもらった方がいいと思うの。それが艦にパニックを起こさない最善の方法よ。彼女が今後指揮をとるならば、クルーへの説明が必要だし、そうでないなら、艦長に納得してもらう必要があると思うの。」
「説得は誰が行う?」
ヤマモト副長はいっせいに見渡した。
「わたしがやるわ。長い付き合いだしね。」
ドクター・アリバヤシが答えた。
「今の意見に反対のもの。」
副長の声が会議室に響いた。反対者は一人もいなかった。

「ジュンイチ、入っていいかしら。」
なじみの声がドアの外から聞こえた。
「ああ、かまわんよ。」
少女は返答した。
自動ドアが開き、ドクター・アリバヤシが部屋の中に入ってきた。
「ごめんなさいね。自室ではなくて、ゲストルームで。」
「私でも、ヤマモト副長がいきなり少女になんかなってしまったら、ゲストルームに閉じ込めるだろうね。」
ドクター=アリバヤシはイタガキの側に腰掛けた。
「私の処遇は決まったのかね?」
さっきまでの柔和な表情が嘘のような厳しい顔で、ドクターアリバヤシの方を見た。
「ごめんなさい。少し休んでいていただけないかしら?」
少女はすこし悲しそうな顔をした。
「君たちの意見を当ててやろう。私の精神状態が不安定になっている。そして、クルーの動揺が大きい。だから、私に休養を命じる。」
「そのとおり。艦長は転送事故で療養中、ということにしているわ。さすがは名艦長とうたわれたイタガキ艦長だけあるわね。説明が省けていいわ。あなたはゲストとしてこの艦にいてちょうだい。いいわね。」
「私の身分はどうするのだ?」
「あなたの姪という事でいいでしょう。次の惑星で乗船した事にしておいて。記録は適当に改竄しておくわ。一応言っておくけど私たちにとって今もあなたは艦長よ。一刻も早くあなたが指揮を取れる日を待っているわ。」
そう言い残して、ドクターは去っていった。

「艦長。入ってよろしいでしょうか?」
今度はカウンセラー・ハヤシバラがイタガキのもとに現れた。
「カウンセラー。何のようかね。私の精神状態はもう安定しているとは思うが。」
カウンセラーはにっこりと笑った。
「ごめんなさい、艦長。あなたの精神状態を見出しに来たの。」
にっこりと笑って、ある「もの」をとりだした。
女性もの、というよりは、少女趣味のワンピース、そして靴。下着。
「転送時のデータからレプリケーターで作りました。必要な服はレプリケーターでお作りください。」
「私に、これを着ろ、というのか?」
イタガキはちょっと赤くなって着替えを受け取った。

カウンセラーから下着の付け方や服の着方、女性としての注意事項のレクチャーを受けた後、カウンセラーとイタガキ艦長はバーラウンジへ向かった。
「歩き方が女の子らしくないですね。」
「わかった。気をつけるよ」
バーラウンジで、イタガキ艦長が、
「スコッチを・・」と頼もうとした瞬間、カウンセラーは彼女の口を閉じた。
「オレンジジュースをお願い。私にはチョコレートサンデーを」
ウェイターが去った後、カウンセラーは小声で注意した。
「16の女の子がスコッチなんていうもんじゃありませんよ。あなたはイタガキ艦長ではなくて、普通の女の子なんですから、それなりの態度を取ってください。」
「やれやれ、面倒なものだな。」

「その子は誰ですか?カウンセラー・ハヤシバラ」
今のイタガキ艦長と同年代ぐらいの少年が、元気よく近づいてきた。
軍の制服を着ている。
「イタガキ艦長の姪御さんで、ジュン=イタガキさん。年はあなたと同じぐらいかしらね。」
なれなれしく少年は、イタガキのそばに座る。
「僕マサハル=アリバヤシ。ここの見習い仕官なんだ。一応階級は少尉。よろしくね。」
「ジュン=イタガキです。よろしく。あなたのことは、おじさまからよく聞いているわ。若いけど、優秀で将来有望だって。」
「ホントに?君みたいな子までジュンイチおじさん、僕の事を話しているんだ。光栄だなあ。」
マサハルはドクター・アリバヤシの息子である。イタガキとドクター・アリバヤシはかなり長い付き合いだ。マサハルの父親はイタガキの親友でもあった。もっとも、彼はもうこの世にいない。軍の事故で亡くなったのだ。そういうことで、イタガキ艦長は、マサハルにとっても特別な人ではある。尊敬できる軍の英雄であると同時に、昔馴染みのおじさん、なのだ。
「じゃ、この子の面倒をよろしくね。アリバヤシ少尉。これは命令よ。」
離れていくときにイタガキにそっと耳打ちした。
「年頃の男の子にエスコートされる年頃の女の子の気分を味わうのも良い経験ですよ。」
そうして、二人からカウンセラーは離れていった。

「この艦は初めてでしょ?案内するよ。どんなところがいい?」
マサハルはかなり舞い上がっていた。
「きれいなところがいいな。」
イタガキの笑顔はマサハルの心をフリーズさせた。
イタガキ艦長は親友の息子をちょっとからかってやるつもりだった。
「じゃ、あそこだね。」
フリーズから解けた、マサハルはイタガキの手を引っ張った。
「わあっ。」
イタガキはなれない靴に足を取られて転んでしまった。
「いきなり引っ張ったりしてごめんよ。はい。」
差し出された手をイタガキはつかんだ。
その手は非常に大きく感じられた。今のイタガキの手と比べると、はるかに男の子らしくたくましい。今まで彼の手を握った事はなんどもある。が、親友の息子が自分が思っているより、大人になっていることを思い知った。
「ありがとう。」
イタガキは立ち上がった。が、勢いあまって、マサハルに抱きついてしまった。
「ご、ごめんなさい。」
赤くなってイタガキとマサハルは離れた。
「気、気にしなくていいよ。可愛い女の子に抱き着かれて悪い気がしない男なんていないから。」
その光景をカウンセラーとドクターが隠れて見ていた。
「艦長、なんだかんだいいながら、結構楽しんでますね。」
「いいんじゃないの?でもジュンイチの奴、分かっているのかしらね。
ジュンイチの奴、ずっと女の子でいるかもしれないのよ。」
ドクター・アリバヤシは一抹の不安を感じずにはいられなかった。

時刻は、朝の5:00ごろだろうか?
まだ暗い。
目の前には小さなせせらぎ。しかし、光る物体が浮遊している。蛍だ。
「き、きれい」
イタガキ艦長は、親友の息子の前で幻想的な光景を見て感動する美少女を演出してみせた。衣装はユカタ、古代日本人の民族衣装である。
ここはホロデッキ。きれいなところ、という漠然とした注文に、少年が必死になって思い付いた答えがこれだった。マサハルのとっておきのプログラムである。
もっとも、このオリジナルは彼ではない。ジュンイチ=イタガキその人だ。彼の兄は地球で米農家をしている。彼の実家の近くでは、まだこの光景が生きているのである。彼の兄達、日本人の農民の子孫の努力の結晶だ。しかし、このオリジナルがジュンイチ=イタガキであることをマサハルはすっかり忘れていた。
「喜んでくれてうれしいよ。でも、本物はもっときれいだろうな。」
「ううん、こっちのほうがずっときれい。あなたの気持ちがこもっているから。」
マサハルはこの台詞を聞き流し、幻想的な光景に感動する美少女の姿に酔いしれていた。
その時・・・
ダガーン
艦がいきなり大揺れした。

ここはブリッジ。
「現状を報告せよ。何が起こった?!」
ヤマモト副長が部下達に報告を求める。
「どうやら、侵入者のお出ましのようです。」
保安部長のオニザワから連絡が入った。侵入者はみずからの宇宙船を爆発させて、さざなみのフィールドをこえて隔壁を破り、さざなみに進入したようだ。わざわざ宇宙船を爆発させて、このさざなみに侵入するとは、どういうことだろう?
「コンピュータ。侵入者の進入経路を示せ。」
副長の命令に、コンピューターは迅速な反応を示した。ブリッジ前面のスクリーンに、船内図が現れた。
「侵入者、ホロデッキに接近中。」
ブリッジ仕官のの事務的な声が艦橋にこだまする。
ヤマモト中佐はその報告を聞いて、慌てた。
「まずい!ホロデッキには、艦長とマサハルがいるぞ。」

幻想的な光景は、銃声によって終わりを告げた。
「へ、この艦にはガキまでいるのか?ちょうどいいや。」
暗闇の向こうから、声がする。
イタガキは長年の経験から、向こうから聞こえる声に危険を感じた。
「マサハル!ふせて!」
イタガキが強引にマサハルの頭を押さえた。
彼女たちの数ミリ上をフェーザーがかすめた。
「コンピュータ、ホロデッキプログラムを停止せよ。」
冷静に、次の行動に移る。
周囲の蛍の舞は消え、無機質な壁が周囲に現れた。
「どうしよう・・・」
慌てふためくマサハルにイタガキは一喝した。
「しっかりしろ。わたしはそんな不甲斐ないお前をこの艦のクルーに選んだつもりはないぞ!」
いきなり態度が豹変した少女に、マサハルは困惑していた。
「フェーザーは持っているか?」
「え?」
「フェーザーだ!持っているはずだろう、早く貸せっ」
イタガキの表情は厳しい。とりあえずは、目の前の敵をこの少年となんとかするしかない。自分はこのなりだ。敵はおそらく油断しているだろう。可能なら、ここに足止めして、捕獲するのが理想だ。
「通信機を貸せっ。」
マサハルの制服に付いている通信機を奪い取って、敵に悟られぬように通信した。
「こちら、イタガキ。ヤマモト副長応答せよ。」
「艦長。休養を命じていたはずですが?」
か、艦長?この少女が?どういうことだ?
マサハルが困惑していた。
「緊急事態だ。アリバヤシ少尉と、侵入者を足止めする。なるべく時間を稼ぐ。保安部を急行させろ。」
「それでは艦長に危険が!」
「わたしは君たちを信頼している。君たちはわたしを信頼したまえ。」
「わかりました。」
侵入者は相手が意外に手強いのを見て、逃走しようとしていた。
「甘いっ!プログラム直接実行。座標、78・98・0にオブジェクトコード2761!」
イタガキが叫んだ瞬間、侵入者の目の前に大きな壁が現れた。
「ホロデッキ内で、逃げ回ろうというのが間違いだ。」
勝ち誇ったようにフェーザーを握ったまま、侵入者に近寄ったとき、保安部が現れた。
侵入者は逮捕された。
イタガキは安心感からか、大きく肩で行きをした。

「アリバヤシ少尉。ご苦労だったな。」
笑い顔を浮かべるヤマモト副長に、マサハルはひたすら恐縮していた。
「自分は何もしていません。ですが、あの子が・・」
「かわいこちゃんをみて、かっこいいところを見せられるはずが、逆に見せられたって?」
ヤマモト副長以下、将官クラスのクルーはマサハルを冷やかした。
「しかたがないよ。あのなりでも、中身はジュンイチ=イタガキ艦長だ。君みたいなペーペーとは年季が違う。いろんな意味でね。」
天使の微笑を浮かべたイタガキ艦長が続けた。
「からかったりして悪かったな。アリバヤシ少尉。」
全部演技だったのだ。
マサハルには、美少女となったイタガキが悪魔に見えた。

その夜、ヤマモト中佐は連邦宇宙軍への報告書にこう付け加えた。

我々さざなみのクルーはジュンイチ=イタガキ大佐が、艦長として能力的に問題がないと確信する。その冷静な判断力、積極的な行動力は女性となっても陰りは見られず、彼女を艦長の職務から外す事は連邦宇宙軍にとって損失であると考える次第である。
我々は、ジュンイチ=イタガキ大佐が艦長としての職務を続行する事を強く望む。

戦艦さざなみ副長 ユウジ=ヤマモト中佐

数日後。
連邦本部から連絡が入った。内容は次の通り。

DNAパターンNo.9980132のその少女を連邦宇宙軍コード7834、ジュンイチ=イタガキ大佐であると認定する。
特記事項 我々はジュンイチ=イタガキ大佐がそのまま任務に就く事を強く希望する。尚、その他の調整はさざなみ内部で行うべし。

イタガキ艦長以下さざなみの高級士官は、艦のクルーには事故のあらましを説明した。彼らは、この少女に今後も続けて艦長としての任務の続行を希望する旨クルーには理解を求めた。クルーに反対者が一人もいなかったことは言うまでもない。
ただ、女性が「ジュンイチ」では士気も落ちるというので、イタガキ艦長は今後は、「ジュン=イタガキ」と名乗る事に決めた。

「艦長。次の目的地は、惑星ジャタビーです。」
ヤマモト中佐は、艦長席の少女の方を向いた。
「アリバヤシ少尉。進路を設定せよ。」
透き通ったソプラノの声がブリッジを駆け巡る。
「イタガキ艦長、座標を設定し終わりました。」
しばらくして、少し情けない少年の声がブリッジにこだました。
艦長席の少女は手を挙げた。
「戦艦さざなみ、発進。」
さざなみは加速し、見事な美しい軌跡を描いた。


あとがき

前作とはうってかわって、今回はパロディーです。元ネタは"Star Trek The Next Generation"(以下STTNG)の中に、「少年指揮官ジャン=リュック=ピカード」というエピソードがありまして、転送時の事故で、艦長のジャン=リュック=ピカード、バーラウンジの支配人ガイナン、ロー=ラレン少尉が若返ってしまって、そこに侵入者が現れる、というエピソードです。
STTNGのお約束シーンをふんだんに盛り込みました。もっとも、ピカード艦長はどっちかというときわめてロジカルな人間で、こんな小悪魔な野郎じゃありません。


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