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シアワセの意味
絵師:MONDOさん
作K



 7月も後半、もうわたしたちの学校も夏休み。わたしが女の子になって、今通っている女子高に転校してからの始めての夏。
 わたし・・・、ぼくは去年の秋まで「川村高志」という男の子だった。去年の秋、ぼくは病気で死んでしまった。しかし、ぼくの意識と記憶が電気信号に変換されて今の「わたし」の身体に“移植”された。
 だけど、ぼくが“移植”されたのは叔父が勤めている会社で研究中の人間サポート用ロボット(人工人間)の少女の身体だった。
 男性型ロボットは人型にしないで機能重視の機械にした方がいいので、女性型しか研究していないのでぼくは女の子の身体に“移植”されたのだった。しかし、人間サポート用ロボットといっても、今のぼくの身体の型はDNAレベルから人間とまったく同じ。しかも、それゆえにコスト等の問題で研究中止に なった。そこで叔父と開発主任のマスターが開発記録を消去してぼくが普通の人間として生活できるようにしてくれたのだった。
 女の子になったぼくは「川村志衣」と名前を変えた。そして、今年の春に引越しをして今の女子高に転校した。
 転校そうそうゴタゴタもあったけど、親しい友達も出来た。
 そして、今日から高校の同級生の女の子4人で泊りがけで海に行く事になった。


「志衣ちゃーん。美紀ちゃんがもう迎えに来る時間でしょ」
そう言うお母さんの声が一階から聞こえた。
 わたしは昨日すでに荷造りは終わっていたけれど、もう一度忘れ物がないか確認していた。
「はーい。今、準備終わったところ」
と答えた。そして、
「よし、準備完了!」と心の中でつぶやいて、中身のいっぱい詰まったバックをポンとたたいた。
 そして、わたしは2階にある自分の部屋から荷物をもって出た。そして階段を降りると玄関にはお母さんが待っていてわたしに声をかけた。
「気をつけてね」
「はい」
「行ってらっしゃい。高志」
「うん」
 そう言って僕はうちの玄関を出た。


 外はまだ午前9時を過ぎたばかりなのにじりじりとする日差しがさしている。
「今日も暑くなりそう・・・」とわたしがうちの玄関の前で考えていると
「シッイちゃーん。おはよー」
と元気のいい声が聞こえた。
「おはよう。美紀ちゃん」
 彼女は「小笠原美紀」ちゃん。わたしが今通っている女子高に転校してすぐに友達になった、わたしの一番親しいお友達。 転校したてで右も左も分からないわたしの世話をよくみてくれた。美紀ちゃんのおかげでわたしの新しい学校生活に すんなり馴染む事が出来た。
 そして、美紀ちゃんも今回の旅行のメンバーの1人でわたしのうちまで迎えに来てくれる事になっていたのだった。
「いよいよ今日からお待ちかねの旅行だよ。志衣ちゃんは忘れ物は無いかなー」
「うん。今朝、もう一度確認したから大丈夫」
「よーし。それじゃあ、行こうか!」
 わたし達は他の2人との待ち合わせ場所の駅に向かって歩き始めた。


 わたしの家は新興住宅街の一角にある。ちなみに美紀ちゃんの家も同じ住宅街の中にある。 わたしと美紀ちゃんはうちから駅までつづく住宅街の中の道を歩いている。
「そうそう、志衣ちゃん。忘れ物と言えばあたしは大変だったんだよー」
と美紀ちゃんはわたしに話し掛けた。
「大変って、何かあったの?」
「聞いて、聞いて。今日の朝ね・・・」
 私が聞き返すと美紀ちゃんはそう話しめた。その時、美紀ちゃんから後ろから近づいてくる来る人にわたしは気が付いたけど美紀ちゃんは話す方に一生懸命で気づいてないみたいだった。
「今日の朝ね、うちをでてからママがあたしを呼ぶのよ。何かと思ったらあたし・・・電車の切符をうちに忘れて来ちゃった。 あたしがそんな事あったからさっき志衣ちゃんに忘れ物は無いかなーと聞いたんだ」
と言い終わった時、美紀ちゃんは後ろから声をかけられた。
「川村さんはあなたみたいに、おっちょこちょいでは無いですよ」
と言われて振り返る美紀ちゃん。わたしは美紀ちゃんに声をかけた人物に挨拶した。
「おはよう。春日さん」
 彼女は「春日玲子」さん。わたしの女子高のクラスメート。転校当初は彼女とわたしはそりがあわなかった。春日さんは大病院の一人娘で 両親に何不自由無く育てられた為、悪く言えばわがままになってしまいプライドも高くなってしまった。その為、親しい友達もつくれないでいたが、 本来やさしい娘なのは彼女の行動でうすうす感じていた。そして、ある事件のあとは わたしは自分の秘密を彼女に話し、春日さんはわたしに心をひらいてくれた。今ではわたしにとって春日さんは大切なお友達のひとり。
「おはようございます。川村さん」
 春日さんがわたしに向かって微笑みながら言った。始めて会った時彼女は肩肘をはっている様に感じたが、今ではこの様に自然な微笑みをわたしに見せてくれる。
「ちょっと春日さん。今何か言わなかった?」
とは先に声をかけられた美紀ちゃん。ちょっとほっぺたをふくらませて言ったが春日さんは平然と
「あっ小笠原さん、おはようございます。ところで川村さん、学校以外で会うのは始めてですけど・・・。私服姿もかわいいですね」
 春日さんは始め美紀ちゃんに向かって言ってたが途中からはわたしに言っていた。
「ありがとう。でもそう言われるとちょっと恥かしいな」
 わたしも自分が女の子なのには慣れてきたけど、面と向かってそう言われると気恥ずかしく感じて何も言えないでいると美紀ちゃんが
「春日さんは志衣ちゃんの私服姿見るの始めてなんだー。・・・志衣ちゃん、この前のお買い物に行った時のワンピースもかわいかったよ。 そうそう、そう言えばその時買ったビキニちゃんと持ってきたよね?」
 美紀ちゃんはそうわたしに言ってから春日さんを見た。
「えっ、川村さん。小笠原さんとショッピングに行ったんですか」
と言って春日さんはわたしを見た。
「うっうん。わたしの買い物につきあってもらったの」
「・・・なんでわたしは呼んでくれないの・・・」
 春日さんと問いにわたしが答ると、彼女は下を向いて小声でなにか言った様だった。
「えっ、春日さんなに?。よく聞こえなかったんだけど」
「何でもありません!」
と、わたしは春日さんに聞き返したがちょっと怒った風に返事をされてしまった。
「そう言えば春日さん。あなたとは駅で真子と一緒に合流するんじゃなかったけ?」
と美紀ちゃんが春日に言った。言われてみれば、春日さんとは駅で合流するはずだった。
「だって・・・」
 春日さんはそういったん言葉を切って、うつむきながら小声で言った。
「川村さんと早く会いたかったんだもん。夏休みに入ってからずっと会えなかったから・・・」
「春日さん・・・」
そううつむく春日さんにわたしが声をかけた時に、
「えー!?。志衣ちゃんと春日さんはそういう・・・あぶない関係だったの!?」
と美紀ちゃんが驚いた「風」な口調で言った。
「そっそんなんじゃありません。わたしにとって川村さんは大切なお友達で・・・、それで・・・」
 春日さんは耳まで真っ赤にして本気で反論している。
「えー、そうなのー。ホントかなー」
 しかし美紀ちゃんはまだつづけて言ったのでわたしは、
「美紀ちゃん!たちの悪い冗談はそこまで。春日さん顔真っ赤にして困ってるじゃない」
「はーい、ごめんなさーい。そうそう春日さん、今日泊まるところ・・・」
 と言って美紀ちゃんはもう違う話題で春日さんに話しかけていた。春日さんはまださっきの話題がひっかかって うつむきかげんだけれど、美紀ちゃんはケロッとして悪びれず春日さんに話しかけている。
 春日さんも春日さんらしいけど、美紀ちゃんはホント憎めない性格をしてる。
「志衣ちゃん、何ひとりでぶつぶつ言ってるの?。はやく駅まで行こう。真子が待ってるよ」
「うっうん」
 わたし達は改めて駅に向かって歩き出した。


 そして、わたしたちは駅に到着して今回の旅行のメンバーの最後のひとりと合流した。
「おっまたせー、真子ー」
と、ほんと元気な美紀ちゃん。
「おはよう、真子ちゃん」
「栗田さん、おはようこざいます」
とわたしと春日さん。
 彼女は栗田真子ちゃん。彼女もわたしの通う女子高のクラスメートで美紀ちゃんとはもともと 仲がよかったそうだ。
「おはよう。美紀、川村さん、春日さん。待ち合わせ時間までまだ余裕あったけど、あたしひとりきりだから ちょっと不安になっちゃった・・・。あれっそう言えば春日さん、あなたも駅で合流するんじゃなかったっけ?」
「え、あっ、わたし・・・はやく川村さんと会いたくって・・・」
と、しどろもどろに春日さんは真子ちゃんに答えた。
「えっ何?、志衣ちゃんと春日さんは危ない関係?」
「美紀ちゃん!」
「ごめーん志衣ちゃん。ギャグよ、ギャグ。よく言うじゃない繰り返しはギャグの基本って。あっそうそう真子ー・・・」
と言って、美紀ちゃんは今度は真子ちゃんと話し出した。
「まったく、美紀ちゃんの奔放さにも困ったものね。ねえ春日さん」
と春日さんを見ると彼女は下を向いてブツブツ言っていた。彼女は美紀ちゃんの軽い乗りの冗談も本気で受け止めてしまっているようだ。 そこでわたしは春日さんの正面に立って彼女の両肩に手を乗せた。すると春日さんは顔を上げてわたしの顔を見たので、
「春日さん、何事も真剣に考えすぎちゃダメ。春日さんの性格だから冗談を素直に受け入れられないのは分かるけど」
とわたしが言うと春日さんは「フー」とひとつ深呼吸してからわたしに言った。
「そうですね。これまでこの意地っ張りなところで自分を追い詰めてきちゃったんですからね」
「うん」
とわたしが答えると春日さんは、
「それと川村さんもです。かわいいって言われたぐらいで顔を赤くしちゃだめですよ。実際かわいい女子高生なんですから」
「え、うっうん」
と答えたけどそう言われるとやっぱり恥かしい。
 そうこうしてると真子ちゃんに声をかけられた。
「ほらっ、美紀はともかく川村さんと春日さんまで何ぐずぐすしてるの。さあ、そろそろ出発しましょう」
 というわけでメンバー全員が揃い、わたし達女子高生4人組みの旅行が始まった。




 わたし達は待ち合わせした駅から電車に乗っていた。3駅乗ったところに大きな駅があって、そこで乗りかえれば今回の旅行の 目的地の海までは電車で一本である。
「・・・そういえば真子、今年は旅行に行くのにご両親のお許し出たのね。去年はダメだったのに」
「そうそう、その件ね美紀。この件に関しては春日さん、ありがとう」
と真子ちゃんはいきなり春日さんにお礼を言った。
「えっわたしが何か?」
「今回の旅行、春日さんが泊まるところとか手配してくれたでしょ。それに春日さんが一緒なら安心だって、だからうちの両親も今回の 旅行OKしてくれたんだ」
「さすが、大病院の一人娘。信用度抜群ね」
とは美紀ちゃん。
「でも、それはわたしでなく両親が・・・」
と春日さんは言いかけたがわたしが、
「こういう時は素直に感謝されるの。実際、泊まる所とかに連絡して手配してくれたんだから」
と言うと真子ちゃんも、
「そうそう。春日さんがいなかったらあたしは今年も旅行にこれなかったんだから。ありがとう」
「はい」
と言って春日さんは嬉しそうな顔をした・・・。
 その時、わたしは後ろから肩をたたかれた。わたしが振り向くとそこには、
「あっ、マス・・・」
と言いかけた所でマスターはわたしの口の前に手を当てた。マスターは今のわたしの体、人間サポート用C型ロボットの開発をしていた人である。
「ちょっといいかな?」
とマスターはわたし達に言った。
「だれですか。この変なおじさんは」
とは春日さん。
「この人はわたしの知り合いなの。ちょっと待ってて」
と春日さんたちに言って、わたしとマスターは春日さん達3人からちょっと離れた。
「変なおじさんとはきついなぁ、僕はまだ20代なのに」
「しょうがないですよ。わたしたち高校生から見ればおじさんだし、だいたい電車の中で白衣はおかし過ぎます。マスター」
とわたしはマスターに言った。
「うーん、白衣で出かけるのはこれから考え直そう。そんな事より志衣ちゃん」
「はい?」
とわたしは答えたが始めは冗談めかした口調だったが、後半は真面目な顔をしてマスターは話していた。
「君はこれから僕の事をマスターと呼んではだめだよ。マスターとはロボットが僕達技術者を呼ぶ呼び方だからね。 志衣ちゃん、君は戸籍もある正真正銘の人間なんだから」
「はい、ありがとうございます。マス・・・。でも何て呼べば・・・」
とわたしが言うとマスターは白衣のポケットから黒いお財布の様ものを出した。そこから名刺を出してわたしに渡した。
 そこには「サイバネティックス社・開発主任・寺門まこと」と書いてあった。
「まことさん、とか読んでくれると嬉しいンだけどね」
とマスターは・・・、開発主任・寺門まことさんは言ったが、
「・・・じゃあ、寺門主任さんて呼ばせてもらいます。サラリーマンは役職が大切なんでしょ?。それに『まことさん』なんて恥かしくて言えません」
「うーん、残念。だけどそこら辺が無難な所だね。その名刺は志衣ちゃんに預けとくからなにかあったら気軽に電話をかけてくれていいからね」
「はい」
とわたしが言うと今度は冗談めかした口調で、
「いやー、現役のしかも美人女子高生とお知り合いなんて嬉しいね」
「えー、そう言われると」
 今まで女子高に通っていたから「かわいい」とか「きれい」とか言われても女の子からしか言われた事無かったけど、男の人に 言われるとまたちょっとちがった感じで恥かしく感じる。
「志衣ちゃん」
「はい?」
 マ・・・、寺門主任さんはわたしを呼んだ。
「君は女の子なんだよ」
「はい?。分かってますけど」
「そう、分かってる。理解してるつもりか・・・」
と寺門主任さんが独り言っぽく言った時に、美紀ちゃんから声をかけられた。
「志衣ちゃーん、もうすぐ電車降りる駅だよー」
「はーい。じゃあ寺門主任さん。わたしももう行きますね」
と言ってわたしは寺門主任さんに微笑んでから美紀ちゃん達の方へ行ったが、寺門主任さんは まだ何か言った様だった。
「志衣ちゃんはすっかり女の子をやってるね。でもまだ自分の事を認識しきって無いみたいだね・・・」


 乗り換えてからさらに電車に乗ること1時間半。わたし達は目的地の駅に到着した。
「んー、やっと着いたね。でもほらー、もうあそこに海見えるよー」
「美紀ー。海見たぐらいではしゃがない、はしゃがない。小学生じゃないんだから」
「えー、だって海だよー。真子ー」
「はいはい、美紀に自制を求めたあたしが間違いでした。それより、春日さん海の家の方も予約してくれたんだよね」
 真子ちゃんははしゃいでいる美紀ちゃんには見切りをつけて、そう春日さんに言った。
「はい。泊まる旅館は海からすこし離れてるとの事だったので、旅館の方から海の家を手配してくれました」
 それを聞いてわたしは、
「へー、海の家つかうんだ」
「何言ってるの川村さん。海の家でも借りないと着替える所も無いじゃない」
と真子ちゃんに言われた。「そーか、男の子だった時は海パンはくのは何処でもよかったけど、女の子の水着の着替えはそこら辺で着替える 訳にはいかないな」とわたしは気が付いた。



 と言う訳で海の家の女子更衣室。
「うーん。学校の体育の着替えで女の子の着替えに慣れはあるけど・・・。うちの学校にプールは無いから水着への着替えしなかったし・・・。 学校での体育着への着替えとは雰囲気が全然違うよぉ」とわたしは戸惑っていた。
「あっ真子。その水着かわいいね」
「ありがとう、美紀。春日さんの水着はさすがにセンスいいわね」
「えっあっありがとうございます」
 パレオ付きの水着を着た春日さんに真子ちゃんが言った。
「お待ちかね、あたしの水着はこれー。ワンピースのハイレグ!。足が長く見えて、よりいっそうスタイルよく見えるでしょー」
「無駄な努力を・・・」
と真子ちゃんはポツリと言った。
「真子ー、言いたい事があったらはっきり言ってね。それよりね、志衣ちゃんはビキニだよー」
 美紀ちゃんがそう言うと春日さんと真子ちゃんはわたしの方を見た。
「ビキニ?」
「へー、おしなしい川村さんがね。ちょっと意外」
と春日さんと真子ちゃんに言われてわたしは、
「えっと、これはわたしが・・・、選んでもらって・・・」
としどろもどろになっていると美紀ちゃんが、
「この水着買うときあたしも付き合ってたんだけど、志衣ちゃんこの水着一目で気に入ったみたいで試着室の中でしげしげと 自分の姿を鏡で見てただから」
「あっ、うっ」
 わたしはこの水着を試着した時、確かにこの水着を着た自分に見とれてしまった。その時をお母さんと美紀ちゃんに見られてしまい 恥かしい思いをしたのを思い出してしまった。
「志衣ちゃん着替えがてこずってるみたいだから手伝うね」
と美紀ちゃんがった。
「まず上着脱いで」
「えっあっ」
「あっいいガラのビキニじゃない」
「ねーいい水着でしょう、あたしが選んだんだから」
「脱いだお洋服はこっちにたたんでおいておきますね」
「まずはこっちをはいて、あとは・・・」
「ひゃっ」
「ゴッメーン。でも胸をちゃんと包み込まないといけないから」
とわたしは美紀ちゃん達に水着に着替えさせてもらった・・・。
「ねっ、やっぱり志衣ちゃんこの水着よく似合ってるよ」
「ほんと、川村さんスタイルもいいのね」
「ビキニの水着も似合っててかわていいですよ」
 ビキニの水着に着替えたわたしに美紀ちゃん、真子ちゃん、春日さんと声をかけてくれた。
「あっありがとう」
としかわたしは言えなかった。始めての女子更衣室で、美紀ちゃん達に着替えさせられて、胸を美紀ちゃんにさわられちゃって・・・。 わたしはちょっと混乱していた。
「さっみんな着替えもすんだし、そろそろ海に行こう」
「はーい、うっみー。さあ行こう」
 真子ちゃんが言った事に美紀ちゃんが答えた。
「さあ、わたし達も行きましょう」
 わたしも春日さんにそう声をかけられて更衣室を後にして海に出た。


 わたし達は海の家から砂浜に出てきた。
「ビキニって・・・、引っかかってるだけではずれないかなー」
「気お付けないとほんとに外れますよ」
 春日さんがわたしの独り言に答えた。それにつづけて真子ちゃんがわたしに言った。
「そうそう、あたしは中学生の時背伸びしてビキニを着けたらみごとに外れちゃった。志衣ちゃんはビキニ初めてなの?」
「えっうん」
とわたしは答えたが、去年の秋に女の子になったわたしにとって今年が初めての夏で、女の子の水着を着るのも当然初めてだ。 でもこの事を知ってるのはわたしの身内と寺門主任さんの他には、転校後に全てを話した美紀ちゃんと春日さんだけである。
「ほらっ、志衣ちゃん!ビーチボール」
と美紀ちゃんが声をかけて急にビーチボールを投げてきたが、どうにかバレーボールのレシーブの様な感じでボールを受けた。
「おっ、ナイスレシーブ志衣ちゃん!。今度は春日さんの方に行ったよ」
「え、あっはい!」
と慌てながらも春日さんもポーンとビーチボールを跳ね上げた。ビーチボールは今度は真子ちゃんの方へゆるく上がっていった。 そのボールを真子ちゃんはオーバーハンドトスで美紀ちゃんの方へ上げた。
「ほらっ美紀」
「よーし」
と気合を入れて美紀ちゃんはジャンプした。
「アターック!」
 美紀ちゃんの渾身のスパイクがわたしの方へ向かってきた。が、なにぶんビーチボールなので真っ直ぐ飛んでこないで わたしの手のとどかない所へ行ってしまった。
「ゴメン、志衣ちゃん。思いっきりそれちゃった!」
「うん。わたしボールひろってくるね」
 わたしは美紀ちゃんにそう答えてからビーチボールを追いかけて走り出した。
 ボールは風に乗ってしまい意外と速いスピードで転がって行ってしまった。やっとボールが止まったのは何人か人が集まった所だった。
「あっ、すいませーん」
 ビーチボールが転がっていった所は高校生ぐらいの男の子3人のグループの所で、その中のひとりが拾ってくれたのでわたしは、そう声をかけてボールを拾った人に走り寄った。
「・・・君のビーチボール?」
とボールをもった男の子がわたしを見つめながら言ったので、わたしは微笑みながら、
「はい、わたしのです。ありがとうございます」
と言ってビーチボールを受け取った。こういう所は我ながら女の子をやっていると思う。
 わたしはビーチボールを持って美紀ちゃん達の方へ走って戻っていった。


 そしてわたしたちはあまり遅くなる前に旅館に行こう、という事で3時すぎには海から上がった。 駅に戻ってからバスに乗って20分。バス停の目の前がわたし達の泊まる旅館だった。
「着っいたー。ここでいいんだよねあたし達の泊まるところ。春日さん」
 真っ先にバスから飛び降りた美紀ちゃんがそう言った。
「はい。旅館、海望館。ここで間違いありません」
「なんか、風格があって高そうなところね」
と真子ちゃんが言った。確かにわたしの目からも貫禄があって宿泊代が高そうな旅館に見えた。
「両親に宿泊先を相談したらここを薦めたもので、父はこういうシックな感じの旅館が好きなんです。 あとこの旅館は父の知り合いの方がやっている旅館なので料金も安くしてくれるし、安心だろうと言う事だったので」
と春日さんは宿泊先をこの旅館にした経緯を話してくれた。
「ほんと、春日さんにばかり手間かけさせちゃったね」
と私が言うと春日さんは、
「いいえ、手間だなんて・・・。さあ、みなさん今日1日はしゃいで疲れてるでしょうから早くお部屋に行きましょう」
と言った。そしてわたし達は旅館に入った。
「「「「こんにちは、お世話になります」」」」
 わたし達が玄関に入ると年配の女性が出てきた。
「はい、みなさんこんにちわ。私がこの旅館の女将です。今日1日お疲れ様でした、ゆっくりしていって下さいね。玲子お嬢さまこんにちわ、お父様から今日の事はご連絡いただきました。ところでおばさんをおぼえてます?」
「はい、5年前にこちらにお世話になった時にお会いしましたよね」
「あら、憶えてくれていてうれしいわ。あの時お嬢様はまだ小学生だったのでもう忘れてしまったかと思ってました」
と春日さんと女将さんは話をしていた時、わたしは美紀ちゃんに話しかけられた。
「やっぱ春日さんは違うわよね、お嬢様だって」
「そうね、改めて春日さんが大病院の一人娘だって思った」
 わたしは美紀ちゃんに相槌を打った。
「ところで、みなさん」
と今まで春日さんと話していた女将さんが今度は私達全員に話しかけた。
「今日はちょと坂を上がった所にある神社でお祭りと、花火大会があるので見てきたらいかがです」
「わー、お祭りと花火。あたしどっちも大好き」
「美紀ー、もうはしゃいじゃって。でもあたしも行きたいな。どう、川村さん、春日さん」
 真子ちゃんがわたしと春日さんに言った。わたしも「行こう」と答え春日さんも、
「行きましょうか」
と答えるとまた女将さんが、
「よろしかったら、みなさん。ゆかたお貸ししますので着て行って下さいな。みなさんに合うかわいいのをお出ししますから」
「やったー、花火にゆかたか・・・。これでかっこいいボーイフレンドがいれば最高なのにネ」
と真子ちゃんが言うと美紀ちゃんが、
「あれっ、真子はボーイフレンドいなかったっけ?」
「・・・夏休み前にふられちゃった・・・」
「そりぁー、残念!」
 嬉しそうに美紀ちゃんが言った。
「あー美紀。人の不幸を嬉しそうに。美紀だって彼氏いないくせに。春日さんは彼氏は」
と聞かれた春日さんは首を横に振った。そして真子ちゃんが今度はわたしを見て、
「志衣ちゃんは、転校前の学校の彼と遠距離恋愛だっけ」
先日、美紀ちゃんと真子ちゃん達はうちに来て、僕の昔の自分と友達のうつった写真を見てその中の一人が わたしの彼氏だと決めつけたのだった。
「あの時も言ったけど、あれは彼氏の写真じゃないって・・・。わたしに彼氏はいません」
とわたしは真子ちゃんに答えた。実際、僕は女の子をやってるだけで精一杯で彼氏をつくる気になれない。 と言うよりも僕が男の子と付き合うなんて考えた事も無かった。
「さあ、みなさん。玄関で長く立ち話もなんですから、そろそろお部屋にご案内しますね」
 わたし達は仲居さんに導かれてお部屋の方へ案内された。


「さーて、部屋について一段落したし。ごはんの前にお風呂は入りに行こう」
「お風呂?」
 真子ちゃんの言った言葉にわたしはそう言ってしまった。
「そうそう、この旅館のお風呂。女湯も露天風呂になってるんですよ」
と春日さんが言うと美紀ちゃんが、
「露天風呂ー、いいねー。さぁみんなでお風呂は入りにいこー」
「みんなでお風呂!?」
とまたわたし。
「川村さん、女の子同士なんだから恥かしがる事無いじゃない」
「そうですよ、川村さん」
「さぁみんなで露天風呂ー。行こう志衣ちゃん」
と美紀ちゃんに手を引っ張られてわたしたちは女風呂に向かった



「ふー、いい湯だけど」
とここでわたしは言葉を切った。あとは心の中で「目の行き場に困る」と続けた。
「いやー、お風呂はいいねー。やっぱり」
「美紀、それおじさん入ってるよ」
「だって真子ー、気持ちいいんだもん」
と美紀ちゃんと真子ちゃんが話していると春日さんがわたしの方へやってきた。
「露天風呂っいいですよね、川村さん」
「うっうん」
 春日さんに1度目を向けたが顔をそらした。
「うわっ、肩より下はお湯につかって見えないけど・・・。肌がほんのり桜色って感じできれいだ」 と思ってしまい春日さんを直視できなくなってしまった。
「どうかしましたか?」
と春日さんに声をかけられた答えられない。今日は女子更衣室に女風呂と刺激がつよすぎる。 自分の体には慣れてきたけど、裸の女の人ばっかりに囲まれるのは初体験だ。 こういう状況を素直に喜べればいいのに、とも思うけどどうしても恥かしく思ってしまう。 これは性分なだけにしょうがないしょうがない。
 そうわたしが考え込んでいると、ザッブーンという音がして、
「しっいちゃーん。ちゃんと温まってるかなー」
と美紀ちゃんがわたしの側にやってきた。
「あー、志衣ちゃん。水着の後がくっきりでてるー」
と言われて確認して見るとビキニの後がしっかり残っていた。
「しっかり日焼け止めしておきましたか?」
と春日さんに言われ、美紀ちゃんには、
「わー、志衣ちゃんのお肌、白と赤がクッキリー」
と言われ真子ちゃんにも、
「川村さん。女の子はお肌にちゃんと気を使わないとダメだよー」
と言われしまった。
 そうかー、女の子は大変なんだね。って、僕は本当に女の子だったんだ・・・。


 そして夕食後、わたし達は旅館でかわいいゆかたをかりてお祭りにでかけた。
「川村さん、さすがにゆかた似合ってますね」
「ほんと、志衣ちゃん色白だからゆかたがよく似合うね」
と春日さんと美紀ちゃんに言われた。
「そんな、みんなゆかたよく似合ってるよ」
と私が言うと真子ちゃんが、
「ほんと、春日さんはともかく美紀も意外と似合ってるよ」
「えっへん。真子もあたしを見直したようね」
と会話しながらお祭りの行われている神社に到着した。
 その神社は長い参道の階段を上ると意外と広く縁日の屋台も多数出ていた。
 美紀ちゃんは小物屋さんの屋台をのぞき込んでいた。
「えーとね、おじさん。あたしこれちょーだい」
「お嬢ちゃん達かわいいからこれはおまけだ」
「ありがとー」
と美紀ちゃんが言って、その屋台から離れて歩き出した。 美紀ちゃんと屋台のおじさんのやり取りを見ていた真子ちゃんが、
「よかったわねー、おまけまでもらって」
「うん、こんな時女の子って特よねー。ねっ志衣ちゃん」
「うん・・・」
とわたしは答えた。そう、わたしは女の子なんだよね・・・。
 そしてわたしたちは参道を奥へと進んでいくと道が込み始めた。
「あっすいません」
 真子ちゃんが誰かとぶつかった様だ。わたしが真子ちゃんの方を見ると、
「あっ今日、昼間ビーチボールを追いかけてきた娘だよね」
とわたしは声をかけられた。真子ちゃんとぶつかったのは、わたしが今日のビーチボールを 追いかけたときにボールを拾ってもらった男の子達だった。
「ねー、君達女の子だけでお祭りに来たの?。よかったら俺達と一緒に回らない」
と彼は僕に声をかけてきた。
「えー、どうしようか?」
と真子ちゃん。
「あたし達女の子にも好みがあるよねー、志衣ちゃん」
と美紀ちゃんが僕に話し掛けてきた。
「どうしました?、川村さん」
と今度は春日さんが僕に声をかけた。
 でも僕は今は自分の頭の中で考えがぐるぐる回っていた。目の前の男の子達は僕に声をかけた。そう彼らから見た僕は正真正銘の女の子なのである。 美紀ちゃんは僕のことを「志衣ちゃん」と春日さんと真子ちゃんは「川村さん」と呼ぶ。美紀ちゃん 達は僕と女子更衣室にいっても女風呂にいっても平気だった。
 それもそのはずだ。彼女達にとって僕は女の子なんだから。僕は自分の事を「女の子だ」と 思いながらもやっぱり僕は僕だったから、恥かしく感じたのだった。
 美紀ちゃんと春日さんには真実を全て話したけど、そういえば僕が彼女に会ったのは「志衣」に なってからである。僕が彼女達の前に現れた時、僕はすでに女の子だった。僕が美紀ちゃん達に僕は 元は男だったんだ、と話してもそれは言葉で伝えただけである。彼女達から見れば僕は始めから 女の子だったんだ。
 今の僕の姿は「志衣」という女の子である。美紀ちゃんたちにとっては「志衣」が全てなのである。
 あっ、と思った。今日マスター、寺門主任に言われた事。
『君は女の子なんだよ』
『はい?。分かってますけど』
『そう、分かってる。理解してるつもりか・・・』
 そうか・・・。僕は女の子を演じているつもりでいた。でも今の僕は、
 本当の女の子だったんだ。



 僕はひとりその場を走り出した。人の波をかきわけて進み、境内の階段を駆け下りた。
 その間も僕は考えていた。「志衣」は僕のつづきと思っていた。でもみんなにとっては「志衣」が すべてであったのだ。僕は何処に行ってしまったのだろう。いなくなってしまったのだろうか。
 その時、僕は目頭が熱くなっているのを感じでいた。
 僕は目に入った電話ボックスに駆け込んでいた。そしてうちに電話をかけていた。
プルルルル、プルルルル、ガチャ。
「はい、川村です」
 お母さんの声がした。
「・・・お母さん。僕、高志?、それとも志衣?」
 僕はそれだけ言った。しばらくの沈黙の後
「ちょっよ待っててね」
とお母さんの声がした。
「お母さんどうしたのかな、急にこんな事言われてびっくりしたのかな」と思っていると受話器 からはお父さんの声が聞こえた。
「お前は、高志だ。そして今は志衣でもある。高志がいなくなってお父さん達は本当に悲しかった。 でも「志衣」という姿でお前が戻って来てくれた。どんな姿であろうとお父さん達にとっては高志戻って来てくれただけで嬉しかった。 でもね、体は女の子なんだからこれまで通りに高志として生きていくわけには行かない。だから今は「志衣」 でもあるんだ。だから、お父さん達にとって今のお前は高志であって、志衣なんだよ」
「・・・うん」
とだけ僕は答えたと思う。涙がこぼれていたような気もするが、しっかりと答えた記憶は無い。ただお父さんの言葉だけが胸に残っていた。



 つぎの日の朝。
「志衣ちゃん昨日はどうしたの?」
と美紀ちゃんが声をかけてくれた。
「急にお祭りの場所から走り出して。わたし達が旅館に戻ってみたら一人でふとんを頭からかぶって寝てるし」
とは真子ちゃん。
「あら、目の下が赤くなってますよ。泣いてたんですか、悩み事なら言って下さいね。わたしたちお友達でしょう」
と春日さんが言ってくれた。
 みんな僕、わたし・・・、そんな事どうでもいい。十何年かの僕の上に一年未満のわたしがかさなった「志衣」の事を心配してくれている。 そして、うちには全てを話せる暖かい両親がいる。これがシアワセと言わないで何なんだろう、わたしは本当の『シアワセの意味』を知ったような気がした。
「美紀ちゃん、春日さん、真子ちゃん。昨日はゴメンね・・・。さぁ今日も天気がいいし元気に出かけましょう」
とわたしが言うと3人とも始めは不思議そうな顔をしていたが、笑顔をわたしにむけてくれ、
「それじゃ、女の子仲良し四人組で出かけましょうか」
と美紀ちゃんが、
「彼氏いない四人ぐみだからね」
と真子ちゃん。
「今は女の子だけでもいいんじゃないですか」
と春日さん。
「うん、出かけよう」
とわたしが答えてみんな部屋をでる準備を始めた。







○MONDOさんより、書き下ろしイラスト5点いただきました。本当にありがとうございました。

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