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<プロローグ>

 深夜・・・・
 闇に包まれた大都会。建ち並ぶビルの上を、二つの影が跳ねるように走っていく。ネオンが消えた漆黒の闇の中で、二つの影はぶつかり合い火花を散らした。
 人間大の片方の影からシュルシュルシュル!白い何かが伸びる。
「オウ!」もう一つの影が、マントをなびかせながらそれをかわすと、とあるビルの屋上に着地した。黒い、たくましい体をそのまま包んだようなスーツに黒いマント。そして、体格からおそらく男であろうと思われるその影の頭は、やはり黒い仮面によって覆われていた。唯一黒くないのは、その目の辺りに施された金色の装飾のみだった。
「待て!」黒い仮面の男、太陽仮面アポロンが叫びつつ飛ぶ。彼はもう一つの影、蜘蛛女を追っているのだ。
「ケケケケケ・・・・」黄色と黒の縞模様。蜘蛛女が不敵な笑いを浮かべながらフェンスの上に登る。と、蜘蛛女はそのままフェンスの外側に落ちていく。
「何!」慌ててフェンスに駆け寄るアポロン。しかしそれは罠だった。アポロンが駆け寄るのを見計らって飛びかかるようにビルの壁をはい上がってくる蜘蛛女。
 ビシ!蜘蛛女の、細かい毛がびっしりと生えた細い腕が、アポロンの顔面を捕らえる。
「ウッ!」蜘蛛女の奇襲によろけながら二、三歩退がるアポロン。それを見て蜘蛛女は一気に襲いかかる。
 ビシビシ!バシン!ビシ!
「ケー!」「オウ!」
 まるで観音像のように六本の腕を繰り出して襲い来る蜘蛛女。アポロンは両腕と両足をフル動員して必死にそれを防ぎつつ反撃の機会を窺う。そしてその機会が訪れた。蜘蛛女の腕の一本が空を切り、体勢を崩した隙に、アポロンの肘が胸を打ち、そして拳が蜘蛛女の顔に炸裂した。
「グゲケケケ・・・・」よろめきながら後退する蜘蛛女。
 ビシ、ビシッ!アポロンの拳とキックが追い打ちをかけ、蜘蛛女はフェンス際まで吹っ飛んだ。しかし、次の瞬間ごろりと転がり背を向けた蜘蛛女の尻部から、白い糸が吹き出した。
「ウワァ!」「ケケケケケケ」
 白い糸に絡まるアポロン。立ち直った蜘蛛女が糸を操る。
「ウ・・・ウウ・・・」
 白い糸はアポロンの首を締め上げていく。体中に絡まった糸のためアポロンはバランスが取れずに転倒し、そのまま締め上げられていく。しかしその時、白い影が蜘蛛女とアポロンの間に舞い降りた。
「ミミー・スキルニル!」
 白と紫のツートンにプラチナ色のラインが入った鎧のようなスーツと仮面、そしてマントに身を包んだ女戦士が、細身の剣を構えてそこに立っていた。白と紫の戦士、女神仮面ミーミルはそのまま目にも止まらぬスピードでその剣を振るう。たちまちアポロンは蜘蛛女の糸から解放された。
「助かったよ、ミーミル」
「一つ貸しね、アポロン」
 蜘蛛女の方に向き直る二人。
「行くぞ!」
 再び蜘蛛女に襲いかかるアポロン。そしてミーミル。
 ビシビシ!バシ!蜘蛛女は二人の激しい攻撃にたじたじになった。ミーミルのキックが、アポロンのパンチが次々と炸裂する。しかし、一瞬の隙をついて空に向かって糸を放つ蜘蛛女。
 シュルシュルシュル!
「何!」
 蜘蛛女は一瞬縮こまったかと思うと一気にジャンプし、そのまま空中へ消えた。
「クソ!逃がしたか・・・」
「いいじゃないの。じゃ、またね」
 言い残して、自分もどこかへとジャンプし飛び去っていくミーミル。
 大都会を、深い闇が包んでいた。


太陽仮面アポロン
〜闇を切り裂く正義の光〜

作:KEBO


「まったく、イヤな世の中だ」
 悪態をつく同僚たち。ここ数年、汚職だの戦争だの、暗いニュースが続いている。日野神 稔が勤める会社も、このところあまり景気がよくなかった。
「まったく!部長が何だッてんだ!」同僚の一人、西田が、よろけながら喚く。今日、課長を通り越して部長と衝突した彼は、すでに泥酔状態の一歩手前だ。彼の意見はまったく聞いて貰えず、逆に課長を通さなかったことを咎められたのだ。
「オヤジ、おあいそ」稔と、もう一人同僚の高原は、互いに肯き合いここを引き揚げることにした。西田のヤケ酒に付き合っていては彼らの身がもたない。二人は支払いを済ませると屋台から西田を引きずり出した。
「まったく、いい加減にしろよ・・・・」
 案の定、西田はへべれけ状態でまっすぐ歩くこともできない。家が近い高原が彼を送っていくことになったので、稔は彼らと別れた。
「ま、仕方ないか・・・・」今日、実は稔は恋人の泉 蘭とデートの予定だった。しかし西田があのような状態だったので、結局すっぽかしてしまったのだ。
 今までにもこういうことは何回かあったので、蘭の方もあまり気にしないといえば気にしないのだが、稔の方はおおいに気にしている。
 稔は、まだ口に出してはいないがいつかはその蘭を嫁に、と思っていた。
 暗い夜道を、一人で歩く。蘭といるときは、いつも間違いなく彼女を家まで送っていくのだが、その後の幸せな気分で歩く暗い道に対して、今日の暗い道は憂鬱だった。
 最近、テレビでは盛んにエネルギーの節約が声高に叫ばれていた。宣伝によれば現在のまま使い続けると、石油は今世紀末には枯渇するらしい。そのおかげで街のネオンは消され、稔には暗い道がいっそう暗く感じられた。
 と、その時であった。
「うあああああああ!な、なんなんだァ!」どこかで、男の叫びが響いている。
 稔は走った。


「ケケケケケケ・・・・・」笑う蜘蛛女。男が、その糸に足を絡め取られもがいている。糸をゆっくりと、確実に引き寄せる蜘蛛女。
「な、何をする・・・・・」男の顔が恐怖に引きつる。しかしその時、何者かがそこに向かって走ってきた。
「待て!」
「ケ!」「!?」振り返る蜘蛛女、そして男。
「光力招来!」
 ドシュー!走りつつ、クロスさせながら左腕を突き出す日野神 稔。左腕に着けたコロナブレスに、宙空から湧いた光の粒子が渦巻き、そして稔の全身を包む。次の瞬間、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士がそこにいた。
「トーーーゥ!」ジャンプするアポロン。着地すると同時にそのチョップが蜘蛛女に炸裂した。
「ケェー!」倒れる蜘蛛女。しかし蜘蛛女は糸を切り離すとすぐ反撃に転じた。
「同じ手は食わん」一歩下がり、蜘蛛女の六本腕の攻撃を避けるアポロン。しかし反撃の機会を窺っていると、そこにもう一つ影が現れた。
「何!」
 ブァァァー!
 頭上から降ってきた毛むくじゃらのそれは、着地するなり口からガスのようなものを吹き出した。慌てて横に転がり避けるアポロン。しかし、ガスはその男に浴びせられていた。
「う・・・・・」眠るように意識を失う男。蜘蛛女の糸が降り注ぎ、男はあっという間に繭のような糸の固まりになってしまった。
「おのれ!」再びジャンプするアポロン。糸を収拾するのに夢中な蜘蛛女の背後に降り立ったアポロンは、激しいチョップを蜘蛛女に見舞った。
「ケェー!」今度はアポロンは逃さなかった。蜘蛛女に反撃の暇を与えず、次々と拳をぶち込む。しかし、その隙に毛むくじゃらのハリネズミ女が、糸に巻かれた男を担ぎ上げた。
「待て!うわ!」
 バシバシバシバシ・・・・
 アポロンの気が逸れた瞬間、蜘蛛女の六本腕が反撃に転じて、次々とアポロンに命中した。その一本を捉え、一本背負いを打つアポロン。しかし、その間にハリネズミ女は出現したときと同じように驚くべき跳躍力で繭を背負ったまま離脱を計る。アポロンは追おうとしたが、蜘蛛女の腕の一本がジャンプしようとしたアポロンの脚を掴み、転倒してしまった。
「クソ!」
 バコン!寝ころんだまま、蜘蛛女の顔面にかかとを落とすアポロン。ハリネズミ女は完全に逃げ去っていた。アポロンが振り返る。立ち上がった蜘蛛女は再び戦闘態勢に入った。
 ビシ、バシ、ビシビシ、バシ!
 六本腕の攻撃を受け流しながら反撃の機会を窺うアポロン。やがてその機会が訪れた。左三本の腕をなぎ払い、回し蹴りを食らわせる。
「グゲェーーー!!」さすがに効いたのかよろける蜘蛛女。アポロンが構え、右腕に光が渦巻く。右腕はそのまま白熱化し、燃え上がった。
「アポロン・コロナパンチ!」
 燃え上がる鉄拳が太陽のコロナのように弧を描き、ようやく立ち上がった蜘蛛女の胸部中心を捉える。
「グゲェェェェェェェェ!」
 蜘蛛女は数メートル吹っ飛び、胸部から青く燃え上がるとその場に崩れ落ちる。しかし、そこでアポロンは目を疑った。
 崩れるように倒れた蜘蛛女の炎が収まると、倒れているのは蜘蛛女ではなく、どうやら人間のように見えた。
「どういうことだ・・・・」
 と、その時、
「ウウウ・・・」
 その人間らしきものが、手を突き四つん這いになろうとしている。しかしアポロンは、そこに邪気を感じ取ることはできなかった。黒い衣を纏ったそれは、やがてそこに座り込むとフードを脱いだ。長い黒髪がこぼれる。
「これは・・・・一体・・・」つぶやく声。それは、どうやら女のようだった。アポロンの事など意に介せぬように自分の姿を見回している。
「おまえは、一体・・・・」身構えたまま様子を見守るアポロン。その声に気付いたのか振り返る女。その顔を見て、アポロンは思わず息を呑んだ。
(美しい・・・・)
 暗闇にも輝くような白い顔。人間離れしていると言っていいほど均整の取れた顔が、そこにあった。そして、顔つきだけでなく身体そのものから妖しい色香を発散させていた。
「私は・・・・・」言いかける女。しかしそこで困ったように口ごもる。まったく邪気を感じられないアポロンは、変身を解いた。
「君は・・・」改めて、稔は口にした。ゆっくりと思い起こすように視線を泳がせる女。そして、彼女は不意に頭を抱え込んだ。
「ああ・・・・」
「どうしたんだ?」
「私・・・・なんてことを・・・・」
「どういうことだ?」
「私は・・・・取り返しのつかないことをしてしまった・・・」


 とある森の奥・・・・
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
 何やら念仏を唱えるような低い声が響いている。その森の中に、荒れ果てた教会のような建物があった。おそらくもう誰にも忘れ去られたのであろう、柱や梁、壁の痛みもかなりひどい。
 その中から、揺れるような灯りが漏れている。そして、その低い声はどうやらその中から聞こえているようだった。
「ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・」
「た、たのむ!やめてくれ!」
 建物の中は、何もない広間のようになっており、一定の間隔で蝋燭の炎が揺れていた。その中央に祭壇のような台が設けられ、男が裸で寝かされている。それは、ついさっき蜘蛛女の糸に捕らえられた男だった。男は、見るからに恐怖の表情を浮かべ悲鳴を上げていたが、首から下はまるで彫像のようにぴくりとも動いていない。
 祭壇を囲むように、八人ほどの黒いローブ姿の者達が跪き呪文のような念仏のようなものを唱えている。男が何を言おうが悲鳴を上げようが、それらはまったく意に介していないように見える。蝋燭は、祭壇を囲んで六角形に配置されているようだった。そして、祭壇の男の頭部側に、そこにいる他の者達に比べるとあまりにも場違いに見える者が立っていた。
 その者は、黒い法衣のような物を身に纏っており、頭にかぶった笠で、顔は見えない。まるでどこかの法師に見えるその男は、横に伸ばした右腕に、地面に突く杖のような長い棒を持ち、前に突きだした左手には、数珠らしきものを握っていた。しかし、それは普通のいわゆる数珠ではなかった。祭壇の男の目には、それがよく見える。それは、小さな髑髏を繋いだ髑髏の数珠だった。
「ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・」
 周囲の声が、一段と高くなった。ローブ姿の者のうち、祭壇に近い四人が立ち上がる。
「うわ、や、たすけてくれ!」男の、哀願に近い悲鳴も、四人にはまったく通じないようだ。四人の白く細い手には、それぞれ鋭利な光を湛えたナイフが握られていた。
「ヤ、ア、ギャァァァァァ!」
 絶叫と沈黙。次の瞬間、祭壇の上に血が迸った。
 四人は、二人ずつに別れ慣れた作業のように男の胸部から下腹部までを切り開いていく。男の顔は、恐怖に目を見開いたまま真っ赤に染まり、やがてそのまま動かなくなった。
「ハァ!」法師の声とともに、当たりが静まる。四人の動きも、一段落したようだ。
 法師は、右手の杖の先に髑髏の数珠を丁寧にかけると、おもむろに杖から手を離した。杖は、地面に刺さっている様子もなかったがそのまま直立していた。そして法師は切り開かれた男の胸部に腕を差し込み、そこにあるもの、血の滴る、まだ暖かい心臓を掴むとそれを掲げた。
「エンザラブラゼバエンサイレン」
「エンザラブラゼバエンサイレン」法師の声を、祭壇の周りのローブたちが復唱する。すると、突然法師が掲げた心臓が、青白く燃えはじめた。
「ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・」
 再び先程の呪文が響きはじめる。心臓が燃えている間に、先程の四人が作業を再開した。四人は、どこからか持ち出したこぶし大の石を二つ、一つは胸部、そしてもう一つは下腹部に埋め込む。
 心臓が燃え尽きる。と同時に埋め込まれた石が青白く光り始めた。そして、それが始まった。
 法師が、男の頭を髑髏の数珠で撫でる。青白く光った石が、体の中に埋もれていく。いや、切り開かれた傷というにはあまりに大きい体の穴が塞がっていく。急速に復元されていく身体は、切り開かれる前とは違うようだった。男の身体は以前とはまったく違う、曲線を描いたもののようになっていく。法師が撫でる顔も、まるで新しいスプレーで塗りつぶされていくように、別の顔に変わっていった。顔だけではない。土気色をしていた身体が、白く、妖しい艶を湛えたものに変わっていく。やがて全身の修復が終わると、全身が一瞬青白い光を放ち、全身からなにか干からびた滓のようなものが台の上に落ちた。そして、台の上には沈黙が訪れた。
 台の上には、裸の女が、目を見開いたまま瞬き一つせず虚ろな表情でまっすぐ横たわっていた。まるで彫像のようにぴくりとも動かない女の白く妖しい艶を持つ肌には、血の通った暖かさとは全く違う冷たい雰囲気が漂っており、そこには身体を切り開かれた痕など全く見当たらなかった。そして、稔は全く知らなかったが、その顔は、やはり人間離れしたほどの均整の取れた、いや、蜘蛛女だった女と全く同じ顔だった。
 四人が、自分たちと同じような黒い衣を女に被せる。そこで四人は元の場所に戻り、ひざまずいた。どうやら儀式が一段落したらしい。
「ヘガシーバ!」法師が、叫ぶと同時に右手の杖でドン、と足元を突いた。すると、それが合図だったのか黒衣の者達は何もなかったように立ち上がり、どこへともなく解散しはじめた。そして、台の上の女もやはり何事もなかったかのように台から起きあがる。女は被せられた黒いローブを身に纏うと、他の者達と同じようにどこへともなく消えた。
「フフフフフ・・・・ハハハハハハ・・・・・」
 一人残った法師の笑い声だけが響いた。


「すると君は・・・・」
 稔のアパート。稔は、途方に暮れている様子の女を部屋に連れ帰っていた。すでに深夜から未明に近い時間になっている。
「そうです。私の本当の名前は・・・・いや、かつての名前は、西村 弘。私は、たぶん殺されたのです」
 稔のアパートに風呂はない。彼は手ぬぐいと洗面器に溜めた湯とを彼女に与え、切れそうな服を貸してやっていた。そして、ようやく落ち着いた様子の女から、驚くべき話を聞いていた。
「君は男・・・で、殺されたとは?」
「私は・・・・私は私がしたように、やはり怪人に拉致されどこかの山奥に連れて行かれました。そこの、なんというか、儀式の間とでもいう場所で身体を切り裂かれ、おそらく魔女の心臓と闇の子宮を埋め込まれたのです。私自身にそれが埋め込まれた記憶はないのですが、他の人たちに、私も加わってそうしていたことを思えば私にも・・・・」
「なぜそんなことを?」
「私にも記憶があるだけで、あの時の私には意思がなかったのです。頭の中に、繰り返しあの方の命令が響き渡り、身体も勝手にそれに従って、考えることすらできないのです。他の人たちもたぶん同じ・・・魔女の心臓を埋め込まれると、皆私たちのようにただの操り人形になってしまう・・・。私だって、いつまた・・・・あの方からは逃げられません。あなたの一撃のおかげで一時的に自分を取り戻しているだけかもしれないのです」
 戸惑うような女の反応を推し量るように、稔は続けた。
「あの方、とは一体誰なんだ?」
「・・・・・闇丿坊、暗海」
「闇丿坊、暗海?」
 稔がその名前を口にした瞬間、
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
「う・・・・あぁ・・・」彼女は頭を押さえた。
「どうしたんだ!」
「あの方の・・・・ああ・・・・イヤ!」
 頭を押さえ首を振る女。しばらくすると落ち着いたのか顔を上げる。
「大丈夫か?」
「ええ・・・・あの方の力は巨大です。私たちは、この姿に変えられた上、さらに仲間を増やすためにバケモノにされて放されるのです・・・・お願い、私を殺して」
「何を言うんだ・・・・」
「あの方からは逃げられません。だから、殺して・・・・」
 女は、真剣な顔で稔に訴えた。
「どちらにしろ私は、西村 弘は死んだのです。それに・・・もしこのままあの方の支配から逃れたとしても、この姿になってしまった私は元に戻ることはできない。そして私のしたことは取り返しがつかないこと。このまま生きている資格などありません」
「たとえ男の君が死んでしまっても、またこれからはじめればいい。それに、生きてさえいれば取り返しのつかないことなどない」
 稔は言った。
「でも・・・・」
「その、暗海を倒しさえすれば、元に戻れるかもしれないじゃないか。もし仮に戻れなかったとしても、今の君にも、きっとなにかできることがあるはずだ」
 女の目から涙が、落ちる。
「とりあえず、君をなんと呼ばせてもらったらいい?」
 女は、驚いたように稔の顔を見た。
「名前ぐらいよばなけりゃ、話もできないだろ」
「では・・・・ヒロと」
 はじめて微笑みを見せるヒロ。
「じゃあヒロ、教えてくれ。君を、それから仲間にされてしまった人たちを救うために」
「救う・・・あなたは、本気であの方に挑まれるつもりなのですか?」
 肯く稔。
「やめて・・・・」突如、哀願するような顔になるヒロ。その顔がまた美しい、と稔は思った。
「何故だ?」
「いけないわ・・・・もしあなたまで同じ目に遭ったら」
「悪いが、俺は、そういう奴を倒すのが宿命でね」
「あなたという人は・・・・」
「俺だって、好きでこういう存在になったわけじゃない。親父からたまたまこの力を受け継いだがために・・・・でもそれは俺の宿命なんだ。俺は、俺のやるべき事をする」
「・・・・・・・」ヒロは、その均整の取れた美しい顔で稔を見つめた。
 ゆっくりと稔が口を開く。
「教えてくれ。一体そいつのねらいは何なんだ?」
 ヒロは、決意したように答えた。
「わからない・・・・でも、私たちから何らかの力、私たち自身にはわからない力を奪い取って、何かに捧げているのは確かです。さっきの方もおそらく・・・・」
「仕方ない。俺も力が足らなかった。その・・・・」
 黙り込むヒロ。そのヒロの表情が、不意に怯えたものになる。
「どうした?」
 うずくまり、耳を塞ぐヒロ。
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
「来た・・・・・」
「何が、来たって?」
 次の瞬間、稔にもハッキリそれがわかった。
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
「アァァァァ!」耳を塞いで苦しがるヒロ。
「何者だ!出てこい」稔は立ち上がった。すると突如、部屋の壁がすべて消滅し、そのかわりに青い炎の壁が現れた。
「キャアァァァァァ!」ヒロの悲鳴。稔は気にせず叫んだ。
「小賢しい幻術など俺には効かんぞ!」
「フフフ、ならば話は早い。その者、返して貰おう」
 振り返る稔。その背後、一メートルも離れていないところに彼は立っていた。
「おまえが、闇の坊暗海!?」
「いかにも。我が名は暗海。我が大業を邪魔せぬ限り、危害は加えん」
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
 呪文とも念仏ともつかない声が、その空間すべてに染み渡るように響いている。
「何が狙いだ?」不敵に聞き返す稔。
「貴様が知る必要はない。その者、渡すのか渡さぬのか、それを問うておる」
(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
 声が徐々に大きくなっていく。稔の足元で、ヒロはうずくまって震えている。
「イヤだと言ったら」
「イヤと言えぬようにするまで」
「面白い」
 三歩下がってクロスさせながら左腕を伸ばす稔。
「光力招来!」
 ドシュー!左腕に着けたコロナブレスに、宙空から湧いた光の粒子が渦巻き、そして稔の全身を包む。次の瞬間、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士がそこにいた。
「フフフ・・・よかろう」不敵な笑いを浮かべる暗海。杖を両手で構えると、やはり三歩下がって間合いを取る。アポロンと暗海は、互いに身構えながら睨み合った。
「行くぞ!」最初に動いたのはアポロンだった。ひと飛びして暗海の懐に飛び込むと、一気に右足で蹴り上げる。暗海は身体をそらせてそれをかわし、杖を振るう。
 ブオン!ブオン!
 一回、二回と空を切る杖。三回目に上から振り下ろされた杖を、アポロンは両手をクロスさせて受ける。そして杖をつかむと一気に引き寄せようとしたが、暗海は杖を持ったままジャンプし、アポロンの背後に回る。思わず杖を放すアポロンに、再び暗海は杖を振り下ろすが、アポロンも回転しながらそれをかわす。
 再び横殴りに振るう杖をジャンプでかわしたアポロンの跳び蹴りが暗海に命中する。よろける暗海。着地したアポロンは続けざまに回転蹴りを見舞ったが、暗海はそれを杖で受けると押し返した。今度はアポロンが転がって体勢を立て直す。
 再び両者は正対した。
「なかなかやるようだな・・・・フフフ・・・・」
 左手を突き出す暗海。
「ウンベイデラゾナゾンブレルドラ・・・・・」暗海が何らかの呪文を唱えると、左手の髑髏の数珠が青い光を放つ。
「イヤァァァァ!」震えていたヒロが悲鳴を上げた。その姿がまたもや蜘蛛女に変わっていく。
「貴様!」慌てて暗海に飛びかかろうとするアポロン。しかしその前に壁から青い炎がいくつも伸び、アポロンの前進を阻んだ。青い炎の柱が、何かの形を取っていく。
「オンヤーザバウンソバカ」暗海の呪文の調子が急に変わった。炎の柱から、黒いローブ姿の者が数人その空間に姿を現す。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 奇妙なその呪文のような言葉を唱えながら、それらはアポロンを囲もうとしているようだ。そしてゆっくりと蜘蛛女が立ち上がった。
「よせ・・・やめるんだ」
 蜘蛛女はアポロンの声に反応せず、黒衣の者達の包囲網に加わる。徐々に包囲の輪を狭めてくる黒衣の集団。ヒロに言わせれば、この者達はおそらく罪もなく囚われ、「魔女の心臓」を埋め込まれ暗海に操られているのだ。
(このままではまずい・・・・)
 アポロンは、必死に突破口を探る。包囲の輪の外で、暗海が数珠を持って呪文を唱え続けている。
「トゥ!」
 咄嗟にアポロンは飛んだ。そして、呪文を唱える暗海にキックを浴びせたかに見えた。が、次の瞬間アポロンは地面に叩きつけられていた。
「何!?」
 暗海が、アポロンの方に例の髑髏の数珠を突きだしている。そこから発せられた冷たいエネルギーの波が、アポロンのキックを跳ね返したのだ。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 さらに大きくなる声。再びアポロンを囲む黒衣の集団。その一人の顔を、アポロンはフードの中に確かに見た。それは、ヒロと全く同じ顔だった。
「なんと・・・・」
 フードに隠されていたのは、すべて同じ顔だった。人間離れしていると言っていいほど均整の取れた顔。そして、それらはすべて表情というもののない、彫像のような顔だった。その美しい無表情の女たちが、呪文を唱えながら一定の距離を取ってアポロンを囲む。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 呪文の声が、アポロンに突き刺さってくる。呪文そのものが、いまやアポロンを責め苛んでいた。見えない力が全周からアポロンを襲い、波のように押し寄せている。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
「ウ・・・ウウ・・」耐えるアポロン。しかし呪文は容赦なく突き刺さってくる。アポロンは思わず頭を押さえた。
 シュルシュルシュル!
「ウッ!」突如伸びた蜘蛛女の糸が、アポロンの両腕を捉え、大の字に伸ばした。そして次の瞬間、呪文が止んだ。両腕を押さえられながらもよろけつつ辛うじて立っているアポロンの前の視界が開け、暗海が立っていた。そして暗海が、杖で地面を突く。
 ヒュン!ヒュン!ヒュヒュヒュンヒュンヒュン!
 アポロンは避けることさえできなかった。虚空から矢が飛来し、次々とアポロンを貫く。
「ウ・・・・・ウウ・・・・」
 ばったりと俯せに倒れるアポロン。その姿が稔の姿に戻っていく。
「フフフフ・・・・」暗海が笑う。蜘蛛女が、黒衣の姿に変わり集団に加わった。と同時に、思い出したように悲鳴を上げる。
「おまえは過ちを犯した。過ちは速やかに糾さねばならぬ」
「イヤ・・・・お願い・・・・」
 哀願するヒロ。しかしその前に暗海は髑髏の数珠を突きだした。
「ウンベイデラゾナゾンブレルドラ・・・・・」
「い、いや・・・・イヤァ!」
 ヒロの身体は、彼女の意思とは関係なく動いていた。いつの間にか両手にしっかりと握っていたナイフを振り上げひざまずくヒロ。そこには、辛うじて意識を保っている稔が倒れている。ナイフが振り下ろされようとした瞬間だった。
「何!」
 唐突に、青い炎の壁が消滅した。と同時に一人の、白いスーツにネクタイを締め、帽子をかぶった男がその手に何かを持って突き出すように現れた。ヒロが、力無く稔の上に倒れこむ。
「ええい!我が結界を破るとは・・・・ヘガシーバ!」
「イヤァァァァァァァ!」
 ヒロの絶叫とともにヒロを含めた黒衣の女たちがかき消すように消える。と同時に暗海もそこから消え去っていた。
「ヒロ・・・・・」
 稔は、気を失った。


「おい、起きろ!」男は、稔をつついた。しかし稔はウンともスンとも言わない。
 すでにその空間は稔の部屋に戻っている。しばらく思案すると男は、水道に行って洗面器いっぱいの水を溜めると、容赦なく稔に見舞った。
 バシャ!
「う・・・うう・・・・」
「稔、起きろ!」
 うっすらと目を開き、意識を取り戻す稔。
「親父・・・・・」
 日野神 孝夫は稔を見下ろして言った。
「ほれ、さっさと起きろ」
 ゆっくりと痛む身体を起こす稔。全身が痛む。
「まったく・・・・畳濡らしちゃまずいじゃないか・・・・」
 悪態をつく稔を無視して、孝夫は続けた。
「まったくではない!大体にして闇の者相手に闇の結界の中で戦う奴があるか!馬鹿者」
「そんなこと言ったって」
「女などにうつつを抜かしているから敵に結界を張られても気付かぬのだ。それに、おまえのちょっかいを出していた女」
「別にちょっかい出してたわけじゃ」
「同じ事だ。あの女が敵の力の出先になることぐらい分からぬおまえではなかろう」
「確かに・・・軽率だったよ。でも彼女が悪いわけじゃない。逆に、彼女を助けてやらなければ」
「今のおまえには不可能だ。まあ、それだけ言えれば大丈夫なようだがな」稔を押さえるように言う孝夫。
 窓から、日が射しこもうとしていた。稔は、まだひどく痛む頭を押さえてなんとか座り直した。ようやく少し落ち着く稔。
「だいたい親父、そんなヤクザみたいな格好で、何だってこの夜明けにウチに来るわけ?」
「助けて貰って言うことか?ワシは昨夜、ちょっとした戦友の集まりがあってな、それで夜中まで街に居たらば何やらとてつもなく黒い気配を感じたのだ」
「だったら何で今頃」大声を出してまた頭を押さえる稔。自分の声さえもが頭に響く。
「バカを言うでない。ワシはG座から歩いてきたのだぞ」
「・・・・・その・・・・タクシー使うとかさ」
「この非国民め!この節制のご時世にタクシーなどとよく言えたものだな。それに大体その黒い気配を取り除くべきおまえが逆にやられてしまうとは・・・・ワシは情けなくて情けなくて涙が出てくるわい」
「・・・・・で、何者なんだ、奴は」
 さりげなく話題を変える稔。孝夫は一瞬稔を睨み付けたが、仕方ないといった感じで答えた。
「奴が何者かはワシも知らぬ。しかし、あの呪文には聞き覚えがある」
「もう呪文は勘弁してくれ・・・・そういえば奴、闇丿坊暗海って名乗ってたけど」
「闇丿坊、ふざけた名前だ。まあよい。稔、とりあえず寝ろ」
「寝ろって・・・・起こしたの親父だろうが」
「話は済んだ。いくら亜歩論といえども基本は体力だ。昼過ぎに起こしてやる。今は寝ろ」
「でも俺会社が」無意味な抵抗を試みる稔。
「馬鹿者!その身体で会社に行くつもりか!周りの皆さんに迷惑をかけるだけだぞ。それにこの情勢で会社とは」
「だからさ・・・・」しかめっ面の稔。孝夫は言い出すと聞かないのをよく知っていた。それがたとえ矛盾していたとしても。
「起きたらおまえを連れて行くところがある。そこで、奴の正体も居場所もおそらくハッキリしよう。それまでに体力を整えておくことだ。おそらく奴は昼間は動かん。今の内に戦う準備をしておくのだ」
「ちょっと待てよ」
 稔を再び睨み付ける孝夫。
「はいはい」
 稔は、渋々布団に潜った。


 稔が目覚めたのは、二時過ぎだった。身体の方はどうやらだいぶ回復したようだった。少しふらつき感があったが、それも水を一杯飲んで顔を洗うととりあえず普通に動ける程度にはなった。
 昨夜の出来事が思い出される。暗海の結界の中で、暗海の矢を受けたことも大きかったが、それよりもあの攻撃的な呪文の方がダメージは大きかった。稔は、ふう、とため息をついて落ち着くと仕事にかかることにした。
「・・・・たく、親父、起きろよ!」
 孝夫は、稔の横でスウスウ眠っていた。
「親父!!」
「ん、ああ、すまん、寝てしもうた」
 服の襟を直す孝夫。
「で、どこへ行くんだ?」
「まあ、ついてこい」
 部屋を出る孝夫。稔が続く。地下鉄に乗り、着いたところはA草のすき焼き屋だった。
「あのなあ親父」
「今の時間なら落ち着いて食えるだろ。好きなだけ食え」
 女中が霜降りの肉がこれでもかと並べてある皿を運んでくる。
 稔は切迫した状況を危惧していたが、孝夫は違うようだった。
「俺、金ないぞ」稔は想いとは裏腹な言葉を吐く。
「金なら心配するな」そう言うと、孝夫は聖徳太子を束で見せた。
 一瞬止まる稔。帯付きの聖徳太子を見たのは銀行以外でははじめてだった。
「・・・・・んじゃあ遠慮なく」
 稔は本当に遠慮せずに食べた。身体の痛みよりも空腹感と食欲が上回った。生きている実感が、稔を満たしていく。ささやかな幸せだが、それを許される自分が、とても幸福で恵まれているように思えた。そして彼は、ヒロにもこのような、生きることの喜びをもう一度味あわせてやりたいと強く思った。
 そのためには、暗海を倒さねばならない。
食事が終わり、会計を済ませた頃には、すでに夕方になっていた。稔の心身は、完全に回復していた。
「で、どこへ行くんだ」満腹の稔と孝夫は、A草を歩いていた。不意に孝夫が手を上げる。
「ん?」
 止まるタクシー。
「早く乗らんか」さっさと乗り込み稔を呼ぶ孝夫。
「誰だよ、昨夜タクシー乗るのが非国民て言ったの」つぶやく稔。
「何か言ったか?」
 稔は呆れ顔で乗り込む。


 行き着いた先は、少し郊外の住宅街の真ん中にある古びた寺だった。
「和尚とは知り合いでな」孝夫が無造作に門をくぐる。すると、すでに和尚は本堂に座って待っていた。
「お久しぶりですな、亜歩論殿」和尚が挨拶する。
「少々急いでおりましてな」庭に立ったまま、孝夫は言った。
「わかっておりますとも。暗海めのことにございましょう」
「やはり和尚の目はごまかせませんな」
「ここの守りも、だいぶ厳しくなりました。暗海めの波動は日に日に強くなって参ります」
「おい親父、どうなってんだ」
 和尚の言葉に、稔が思わず言う。
「この寺は、闇尼僧砕蓮を封印したうちの一つでな。ほかのいくつかの寺とともに砕蓮を封じる巨大な結界を張っておる」
「闇尼僧砕蓮・・・」孝夫の言葉につぶやく稔。
「我々は、魔女、と呼んでおります。西洋の魔女とはまた違う、美しい女の姿をした闇の魔物という意味で・・・・砕蓮がいつ現れたのか、それとももとから居った者がそうなったのかはだれも知りませぬ。しかしその存在と巨大な闇の力は、封印した今となっても我らにははっきり感じられます」和尚が言った。
「砕蓮は今まで何度となく、世を乱すのに関わって参りました。我らの先祖は、あの者の存在に気付き、その闇の力を封印しようと試みました。しかし、砕蓮の方もそれに気付き、我らの先祖との間に戦いが起こったのです。我々、民の平穏を祈る者達と、彼ら、民を闇に導き世を混沌に陥れようとする者達の間で、密かな、そして大きな戦いが繰り広げられました。長い、何百年にもわたる戦いの後、とうとうその機会が訪れました。我らの先祖は、砕蓮があの忌まわしい館にて数日間の儀式を行う事を突き止めました。全国より、志を同じくする者達が集められました。そして砕蓮が儀式を行う数日間に館を囲むように六つの寺を建立し、あらん限りの力で結界を張ったのでございます」
「・・・・・・」稔は驚いていた。稔の戦いよりも数段以上巨大なスケールの戦いが過去にもあったのだ。
「儀式によって、さらに巨大な力を手に入れようとしていた砕蓮は、我々の結界によってその力の招来が阻まれていることを知りました。そして、やはり自らの信徒を総動員して我らの結界を破ろうと試みたのです。その戦いは七日間続いたと言われております。多くの者が力つき倒れました。そして、七日後、朝日が昇るとともに砕蓮の、断末魔の悲鳴にも似た波動が結界を震わせ、さらに多くの者が命を失いました。しかし、それが最後でした。砕蓮の波動は消え去り、結界は保たれたのでございます」
「でだ和尚」孝夫が口を開いた。
「本題に入ろう」
 孝夫の言葉に深々と頭を下げる和尚。
「暗海めは、もとは善良な僧侶だったのです。しかし、この密かな歴史の存在を知ってから、闇に魅入られてしまった・・・・あの者は、自らが砕蓮のような力を得て闇から世界を支配しようと目論んでおるのでございます。時は流れ、我らの結界にも所々綻びが生じております。あの者はそのどこかから、結界の中に侵入し、眠れる砕蓮の力を呼び出し忌まわしい儀式を行って自らの力をより強力にしようとしているのです。しかし・・・」
「しかし?」聞き返す稔。
「申し上げて良いものか・・・・その綻びを作ったのは、他ならぬこの国の民。敬う心を忘れ、おのが欲に走り快楽を追及する堕落したこの国の民こそが、結界に綻びを生じさせているのでございます。言い換えるなら、闇の混沌を国民自らが求めていると言っても過言ではございますまい。資源の枯渇、核戦争の恐怖、そして昨今流行の大予言・・・人々の心の中にある闇の力が、砕蓮を欲しておるのやもしれません」
「・・・・・・」稔は黙り込んだ。まるで自分のしていることが無駄であるかのような気がしたのだ。それを察したのか、その肩を孝夫がしっかりと叩く。
「闇は人の心から生まれる。我々は、一つでも多くそれを倒して人々の心に光を呼び戻さねばならんのだ」
 肯く稔。稔に変わって孝夫が訪ねた。
「して和尚、その館とは何処に?」
「これをご覧下さいませ」
 和尚は古びた巻物と、大きな地図とを取り出し開いた。
「これがその結界を張る寺にございます」
 和尚が巻物の上を指す。そこには、ほぼ正六角形の形に六つの寺が配置されていた。
「この中心部に、あの館があるはずです」
 地図を開き、巻物と見比べる稔と孝夫。なるほど、地図にはそれぞれ寺が記されている。そして、二人は大判の地図と見比べて、大方の中心部に当たるページを開いた。
「西恋山・・・・」顔を見合わせる二人。山と言うほどの山ではないが、まだ開けていない所ではあった。
「おそらく、奴はここにいる・・・・」つぶやく孝夫。
「ここって言ったって、親父」
 稔が言うのももっともだった。ここから西恋山までは百キロ近くある。
「大丈夫。手は打ってある」
 言うが早いか、突然寺の前にトラックが止まった。
「すみません、こちらに日野神さんて方・・・・あ、どうも」
 男が孝夫の顔を見るなり帽子を取って礼をする。
「その辺に、おいといてくれんか」
「はい!分かりました」
 驚いている稔。
「お、親父、一体何なんだよ」
「おお、大型のオートバイを頼んでおいた。乗って行け」
「オートバイって・・・いつの間に」
「車よりも速いぞ。いらんならワシが貰うがな」
「わかったわかった、乗ってくよ」
 立ち上がる稔。
「実はおまえが寝ている間にな・・・」得意顔の孝夫。
「お気を付けて参られよ」和尚が頭を下げる。靴を履き直し、行こうとする稔を孝夫が呼び止めた。
「待て、何も持たずに暗海の結界に飛び込む気か」ポケットから何かを取り出す孝夫。
「ん」手に取る稔。それはお守りのようなものだった。
「光の護符だ。和尚手作りの有り難いものだぞ」
 和尚が微笑んでいる。
「親父、一つ聞いていいか」
「何だ」
「和尚と、どういう知り合いだよ?」
 微笑む孝夫。
「ワシの、いや、太陽仮面亜歩論の正体を知る唯一の人間といったところだな」
 ブウゥゥゥゥン!ヘルメットをかぶりエンジンをかける稔。
「稔、暗海の力は強力だ。だが憶えておけ、亜歩論の力は結局おまえ自身の力だ。どれだけの力を発揮できるかはおまえ自身にかかっている。いいな」
 ブウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・稔はしっかりうなずくと一気に走り去った。


 夕闇が迫っていた。
 稔のバイクは、山道に入っていた。孝夫の気が利くのか、バイクは少しぐらいの悪路でも平気で走り抜けていく。そして、稔は山の中腹に目指すものを発見した。と、その時、突如目の前に黒い影が現れた。
「グルルルルルル・・・・」
 ハリネズミ女が、狭い山道を塞ぐように立っている。
ブゥゥゥゥゥン!
稔は構わずバイクで突っ込んだ。鈍い音とともに、ハリネズミ女が吹っ飛ぶ。が、ハリネズミ女はすぐに立ち上がった。
 バイクを止める稔。ゆっくりとバイクを降りると、両手をクロスさせた。
「光力招来!」
 ドシュー!左腕に着けたコロナブレスに、宙空から湧いた光の粒子が渦巻き、そして稔の全身を包む。次の瞬間、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士がそこにいた。
「トゥ!」アポロンが跳ぶ。いきなりのキックが顔面に炸裂し、またもや吹っ飛ぶハリネズミ女。
「シヨォー!」叫び声に反応し、飛びすさるアポロン。今度は長い針付の尻尾とハサミを持ったサソリ女が現れた。
「操られているとはいえ容赦はせんぞ!」アポロンはそう叫ぶとサソリ女に飛びかかっていく。
 ビシビシ!続けざまにサソリ女にパンチを見舞うアポロン。
 ブオン!アポロンの背中目指して毒針のついた尻尾が飛んでくる。しかしアポロンはそれを読んでいた。くるりと振り返ると逆にその尻尾を両手でつかみ思いっきり引く。体勢を崩したサソリ女をそのまま尻尾を持って振り回すアポロン。
「シヨォー!!」サソリ女の悲鳴が響く。アポロンがサソリ女の悲鳴とともに尻尾を放すとサソリ女の身体は宙を舞い、そして地面に叩きつけられた。
 ブオォォォォ!そのアポロンに向かって、ハリネズミ女の催眠ガスが吹きかけられる。しかしアポロンは高くジャンプしてそれをかわしていた。その足が光り輝く。
「アポロン・ブライトキック!」
 光り輝くキックがふらふらと立ち上がったサソリ女に炸裂する。
「シヨォーーーーー!!」
 サソリ女が悲鳴を上げながら吹っ飛び、青く燃え上がる。その姿が黒いローブ姿の女になり、そしてかき消すように消えた。
「何!」
 しかしアポロンにはそれに驚いている暇はなかった。
「クアァー!」今度は空から黒い影が急降下してくる。ハリネズミ女も、呼応するように突進してきた。
 アポロンは、咄嗟に前転するとカラス女の急降下攻撃をかわし、ハリネズミ女の直前で立ち上がると同時に突進してくるハリネズミ女の顔面にチョップを食らわせた。よろけるハリネズミ女に続けざまにキックを放つアポロン。そのアポロンの背後にカラス女が着地し、アポロンを背後から羽交い締めにする。しかしアポロンは慌てなかった。頭を強く後ろに降り、カラス女の顔面に頭突きを食らわせる。思わず離れたカラス女に、今度は回転蹴りを見舞った。倒れるカラス女。
 ブアァァァァ!ハリネズミ女のガス攻撃。アポロンはそれを落ち着いてかわすとハリネズミ女の懐に飛び込んでいく。今度は、アポロンの右腕に光が集まった。
「アポロン・コロナパンチ!」
 アポロンの光り輝く拳がハリネズミ女の胸部に炸裂する。吹っ飛ぶハリネズミ女。ハリネズミ女もやはり青く燃え上がるとその姿が黒いローブ姿の女になり、そしてかき消すように消えた。
 体勢を立て直したカラス女が再び空中に舞い上がる。それを見てジャンプしようとするアポロンにまたしても別の影が飛びかかる。アポロンは身を反らせて咄嗟にかわす。
「カカカカカカ・・・・・」
 今度はカマキリ女だった。両手のカマを交互に振るいながらアポロンに襲いかかってくる。身を反らせ、頭を下げかわすアポロン。カマが空を切った隙にアポロンの右肘がカマキリ女の胸に炸裂する。そしてそのままアポロンは腕を起こした。今度は拳がカマキリの顔面を捉えた。
 バシ!
 よろけるカマキリ女に容赦なく回し蹴りを浴びせるアポロン。さらに二三歩後退するカマキリ女を見て、アポロンは一気にジャンプした。その先から、再び急降下攻撃を仕掛けようとしていたカラス女が突っ込んでくる。
「クアァー!」
「ダァー!」
 バシ!
 カラス女の頭部に、アポロンのオーバーヘッドキックが炸裂する。
「グア・・・」地面にたたき落とされるカラス女。アポロンの両足が光り輝く。
「アポロン・ダブルクラッシュ!」
 よろよろと立ち上がったカラス女の両肩に、アポロンの両足の踵落としが炸裂する。
「グアァァァァァァ!」カラス女の悲鳴。着地するアポロン。
 カラス女が両膝から崩れ落ちる。カラス女もやはり青く燃え上がるとその姿が黒いローブ姿の女になり、かき消すように消えた。
 ブオン!次の瞬間、アポロンは身を屈めてカマキリ女の攻撃をかわしていた。前転して間合いを取り体勢を立て直すアポロン。そのアポロンに向かってカマを振るうカマキリ女。その鎌の一本がブーメランのように高速回転しながら飛んでくる。横っ飛びし、身を屈めてかわすアポロン。だがカマキリ女はもう一方のカマも飛ばしてアポロンを襲う。が、やがて高速回転して四方八方から迫るカマの動きを見切ったアポロンは、一瞬の隙をついて前転しながらカマキリ女の懐に飛び込んだ。
「ガァ!」
 バシ!
 カマキリ女の腹に炸裂するアポロンのチョップ。そのアポロンめがけてカマが戻ってくる。後転してかわすアポロン。
「ガァァァァ!」
 自ら放ったカマの直撃を受け苦しむカマキリ女。立ち上がったアポロンの右足に光が集まる。
「アポロン、ローリングクラッシュ!」
 まるで右足の光が円弧を描くようなアポロンの回転蹴りが、カマキリ女の頭部に炸裂する。カマキリ女は、仰向けに倒れると青く燃え上がり、ローブ姿の女に戻るとそのまま消滅した。
 空を見上げるアポロン。山の稜線に近い空はまだいくらか紅いが日は沈み頭上には月が光り始めている。
 アポロンは、そのままバイクに跨るとエンジンを吹かした。山の中腹には、青白い館が障気を放つように光っている。


(ルドラー ヤブダー アルデバ ハブダー・・・・)
 詠唱のような呪文の声が響き渡る。
 広間には、一定の間隔で床に蝋燭が灯され、その間に、黒装束の女が身動き一つせず横たえられていた。広間の中央部にある祭壇のような台を、やはり黒装束の女が四人で囲んでいた。台には、女が一人裸で寝かされている。その、妖しいまでの白さと色香を放つ身体はぴくりとも動かず、顔だけが、恐怖に震えていた。
 台の頭部側に、暗海が立っている。
「いや・・・・お願い・・・・」哀願するように、声を絞り出す台上の女。しかし、暗海はそれを全く気にすることなく作業を進めていた。
 不意に呪文が変わる。
(オンドラブラサバエンサイレン)
(オンドラブラサバエンサイレン)
 ヒロは、もう悲鳴すら上げない。悲鳴すら声にならないのだ。
 暗海が、左手に持った髑髏の数珠を、ゆっくりと恐怖に満ちたヒロの額に置く。そしてその額の上に手をかざすと、数珠が青白く光り始めた。
「いや・・・・やめて・・・あ・・・アァァァァ!」
 恐怖に満ちた顔に、苦痛が浮かぶ。
「アァ・・・・ア・・・・アア・・・・アァァァ・・・・」
 ヒロは目を見開き、絞るような悲鳴を上げ続けた。
(オンドラブラサバエンサイレン)
(オンドラブラサバエンサイレン)
 呪文の声が大きくなる。やがてヒロの悲鳴は、絞りきったように消えていった。そして、苦痛の表情も徐々に消えていく。その時だった。
 ドオォォォォォォ!
 壁の一角が砕け散る。
 ブゥゥゥゥゥン!壁をぶち破って、バイクが一台止まった。
 呪文が止む。
「フフフ・・・・わざわざ貴様の方から来るとは・・・」
「ああ、来てやったぜ。ご希望通りおまえを地獄に落とすためにな」
 アポロンはゆっくりバイクを降りた。
「闇を切り裂く正義の光!太陽仮面、アポロン見参!!」
 マントを翻し叫ぶアポロン。
「フフ、我が結界の中に踏み込んでくるとはいい度胸だ。次の生け贄は、貴様の心臓にしてくれる」
 杖を身体の正面に突く暗海。
「出よ、ヘルカーサ!」
 床に横たわった四人の女の下腹部が、黒いローブを被ったまま膨れていく。そしてその腹が次々と血を飛び散らせて弾けた。
「ケケケケケ・・・・」
 奇妙な笑い声が響く。そこから飛び出したのは、やはり黒いローブ姿ではあったが、足のかわりに黒い羽根を生やし、両手で鎌を持った顔のない者達だった。
「ケケケケケ・・・・ケケケケケ・・・・」
 笑い声を上げながら飛来する四体のヘルカーサ。
「おのれ!」跳ぶアポロン。アポロンの拳が、足が、ヘルカーサをなぎ払う。しかしヘルカーサはまったく怯まず襲いかかってくる。
 その様子を見ながら、暗海はヒロの額から数珠を取り上げる。目を見開いたままのヒロの顔からは、他の女たちと同様に表情が消えていた。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 唱えはじめる暗海。黒装束の女たちも呪文とともに動き出す。そして、祭壇の上のヒロが、ゆっくりと身を起こした。
「貴様!ヒロに何をした!」
 ヘルカーサたちの攻撃をかわしつつ叫ぶアポロン。
「元に戻してやったまでだ」
 ヒロは裸のまま、他の四人とともに呪文を唱えながら一歩一歩アポロンに迫ってくる。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 呪文の波状攻撃受けながらも、アポロンは突っ込んできた二匹のヘルカーサの首根っこを両手で掴み、潰すように二匹をぶつけた。
「ゲェェェェ・・・・」つぶれる二匹のヘルカーサ。黒い体液のようなものを流しながら地面に落ち消滅する。その横から、もう二匹のヘルカーサがアポロンを襲う。
「トゥ!」再び跳ぶアポロン。ヘルカーサの鎌をジャンプでかわすと、頭めがけて飛んできたヘルカーサに逆に頭突きを食らわせる。吹っ飛んで壁にぶつかり潰れるヘルカーサ。そして次の瞬間、
「タァァァァァ!」
 着地すると同時に、ボレーシュートのようなキックを放つアポロン。潰れたヘルカーサが、裸で歩いてくるヒロの脇を飛び抜け、祭壇に当たり消滅した。
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 呪文を唱え続ける暗海、そして女たち。じりじりと、女たちが距離を詰めてくる。
「やめろ・・・やめるんだヒロ!思い出せ、おまえは、人間だ!」叫ぶアポロン。
「無駄なこと。つまらん人間の意識も記憶も、その者の脳からたった今消し去ってくれたわ!」
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
(オンヤーザバウンソバカ・・・・)
 再び呪文を唱える暗海。女たちが、呪文の攻撃に耐えるアポロンをぐるりと取り囲み、絡みつくように手足を押さえた。そしてヒロが後ろからアポロンを羽交い締めにする。
「やめろ・・・・ヒロ!」
 暗海が、杖を地面を突きおろす。
 ヒュン!ヒュン!ヒュヒュヒュンヒュンヒュン!
「・・・・・・あ・・・・ああ・・・・・」
 それは、瞬間的な出来事だった。
「貴様・・・裏切りおったか・・・」
「ヒ、ロ・・・なぜ・・・・」
「これで・・・・よかったのよ・・・・」苦しみから開放された、あまりにも安らかな微笑みを浮かべて、ヒロは目を閉じた。白い身体を、すでに鮮血と言うにはあまりにも青い血に染めて倒れるヒロ。その身体に、無数の矢が突き刺さっていた。
 暗海が矢を放った瞬間、ヒロは後ろからアポロンを押しのけ、両手を広げて矢を一身に受けていたのだ。
「貴様・・・・・・ゆる、さん!」
身体に絡みつく黒装束の女たちをふりほどくアポロン。いや、ふりほどいただけではなかった。女たちは数メートルも吹っ飛ばされ、壁や地面に叩きつけられそのまま動かなくなっていた。アポロンの腕が、足が、いや全身が発光しようとしている。
「ウワァァァァァァァァ!」
 燃え上がるマント。一瞬にしてマントは燃え尽き、アポロンの全身は光を発し燃え上がった。
「何だ・・・そのパワーは・・・」驚く暗海。慌ててもう一度杖が地面を突く。
 ヒュン!ヒュン!ヒュヒュヒュンヒュンヒュン!
 再び虚空から飛来する矢。
「アアァァァ!」アポロンは叫び声を上げながら腕でそれを払う。矢は、ことごとく炎に包まれ消滅した。
「おのれ!」暗海が、杖を構えて跳ぶ。着地と同時にその杖が振り下ろされるが、アポロンはそれをかわして左に跳び、右腕でパンチを繰り出す。パンチを受けて怯む暗海。しかし続けざまに放ったキックは杖によって阻まれた。今度は暗海が再び杖でなぎ払おうとするが、アポロンは体を反らせてかわす。
 左に右に、杖が空を切る。三度目に振り下ろされた杖を、アポロンは両手で受け、そのまま掴んで押し返す。
よろける暗海に右脚でキックを繰り出すアポロン。そのキックが暗海の腹部を捉え、暗海は転倒した。アポロンはすかさず飛びかかり上から拳を打ち込もうとしたが、暗海は両手で杖を支えてそれをはらう。そしてそのまま両手で押し出した杖が、アポロンの顔面に炸裂し、今度はアポロンが吹っ飛ばされた。
 転倒したアポロンに暗海が飛びかかってくる。突き下ろされる杖を、左右に転がりながらかわすアポロン。かわしつつも、身体を縮めて一気に両足を伸ばす。暗海の胸にそのキックが炸裂し、よろける暗海。再び立ち上がって体勢を立て直すアポロンに、暗海は数珠を持った左腕を突きだした。
 ドウゥゥゥゥ!見えない、冷たいエネルギーの波がアポロンに当たり、アポロンを吹き飛ばす。そのまま壁に叩きつけられたアポロンに、第二波、第三波が繰り出される。辛うじてかわしたものの、壁に次々と穴が空く。アポロンはかわしながら体勢を立て直すと、第四波を身を屈めてかわし、そのまま高くジャンプした。エネルギー波の攻撃をかわしながら、暗海の背後に着地する。
 すかさず暗海は身を翻すが、その隙に、アポロンは暗海の懐に飛び込んでいった。慌てて杖を振り下ろす暗海。アポロンはその杖をかわすと暗海の右腕を引き寄せ、背負い投げる。倒れた暗海に、アポロンは正拳を打ち込もうとしたが、暗海も転がってかわす。立ち上がるアポロンの脚を、杖がはらい、アポロンは転倒した。
 転倒したアポロンに、暗海は馬乗りになり杖で首を締め付けようとする。アポロンもその杖を両手で押さえると、一気に押し返した。
 よろけつつ後退する暗海。アポロンは追い打ちのキックを見舞うが、暗海はそれをかわし、杖を振り下ろす。杖がアポロンの腰に炸裂し、一瞬怯んだアポロンを暗海は杖で攻撃した。振るい下ろされる杖をなんとかかわし、空振りした杖をつかむアポロン。そこで杖を介しての力比べになる。
「ウウウウウウ・・・・」
「アアアアアアア・・・タァ!」
 バシ!
 一瞬杖を押し返し杖にチョップを食らわせるアポロン。杖が真っ二つに折れる。
「おのれ!」暗海は、杖を捨てると後ろにジャンプし間合いを取る、そして再び左腕を突きだした。
 ブオォォ!エネルギー波が飛んでくる。
「ダァ!」アポロンは、そのエネルギー波目指して正拳を突きだした。
「何!」
 ドォォォォォォ!
 エネルギーどうしがぶつかり、大爆発を起こす。爆発に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる暗海。
 爆発が収まる。その向こうに、正拳を突きだしたままのアポロンがいた。立ち上がり、ゆっくりと歩き出すアポロン。
 よろよろと壁際に立ち上がる暗海。
「何故だ・・・・貴様程度の者が・・・何故そこまで我と戦えるのだ・・・・・」
 まだよろけながら、暗海はアポロンに問いかけた。一歩一歩近付いていくアポロン。その拳に、まばゆい光が集まっていく。
「貴様如きの光の力など・・・我が偉大なる闇の力の足元にも及ばぬはず・・・・」
 答えぬアポロンに向かってうわごとのように言う暗海。
 アポロンは、辛うじて立っている暗海の前で立ち止まり、右腕を構えた。
「バーニング・コロナパンチ!」
 光り輝き燃え上がる右の拳を強烈な右ストレートにして、アポロンは暗海の笠の下の顔面に叩き込んだ。
 グ!
 アポロンの右腕が暗海の頭を突き抜けていた。
「最後に勝つのは力じゃない。心(ハート)さ」
 崩れ落ちる暗海。一瞬、空間が歪んだ。
 ドゥオォォォォォォォォン!
 大爆発がおこった。

 気がつくと、稔は護符を握りしめたまま小さな祠の前に立ちつくしていた。館や黒衣の女たちは、暗海もろとも消滅していた。そこにあるのは、祠と稔のバイクだけだった。


「和尚、そろそろ引き揚げることにしよう」
「それがよろしかろう。息子殿によろしゅう」
「そうだな。またいつ会うかはわからんが」
「お互い、会わねどもよい日が来るとよいですな」
「違いない」
 日野神 孝夫は、とっぷりと日の暮れた住宅街に消えていった。その顔に、自慢げな笑顔が浮かんでいた。


<エピローグ>

「だから・・・・・」
「もういいわ。仕方ないじゃない、忙しかったんだから」
 歩行者天国を歩く日野神 稔と泉 蘭。花柄のワンピースのスカートが風にひらひらと揺れる。先日デートをすっぽかしたことを蘭は全く怒ってはいない。むしろそれをネタに稔に何かたかろうとしている様子だった。
「そんなことより、どうしたの」
「え?」
「なんか、暗い顔してる。イヤなことでもあったの」
 結局稔は、ヒロを救うことはできなかった。ヒロどころか、暗海に捕らえられた人々は、暗海の結界とともに完全に消滅し、戻ってくることもなかった。暗海を倒しはしたものの、稔にとって今回の事件はそういう意味でやりきれない出来事だった。
「まあね」軽く受け流す稔。沈んでいても仕方ないと彼は思った。
「他の女の子にフラれたとか?」
「え!?」
 驚いた顔の稔。一瞬あのヒロの顔を思い浮かべていたのを見透かされたと思ったが、稔はすぐに思い直した。蘭はその手の冗談が得意だ。
「あははは。稔さんからかうと面白い!」
 蘭はやはり大声で笑った。笑顔が眩しい。
「まったく・・・・今日はせっかくいい話聞かせようと思ったのに」
「いい話って、なによ」
 立ち止まる稔。耳を寄せる蘭。
(ヒソヒソヒソヒソ)
 稔は、本来なら先日すっぽかしたデートの時に言おうと思っていた言葉を伝えた。
 一瞬、蘭の目が星になる。次の瞬間、蘭は稔の首に腕を回し、路上だというのに人目も気にせず堂々とキスをした。道行く人々が、ビックリしたように振り返る。
「でも・・・・ウチの母、難しいわよ」
 長いキスの後、唇を離して稔に告げる蘭。それに稔はこう答えた。
「大丈夫。ウチの父親だって似たようなものさ」


「ヘックション!」
 日野神 孝夫は大きなくしゃみをした。
「だれぞ、ワシの噂をしておるな」
「お父さんたら。そんな格好してるからですよ」
 ステテコ姿で縁側に座る孝夫に、妻の幸が上着を掛ける。
 日野神家の、平和な一日だった。

<おわり>


※このお話はフィクションであり、登場人物その他すべてのものは実在のものとはまったく関係ありません。

<作者の超々弩級スーパーウルトラスペシャルたわごと>

 こんにちは。最後までご鑑賞いただきありがとうございました。
 某所で予告したうちの一編、オリジナル劇場版「太陽仮面アポロン」お届けしました。まあ、戦闘シーンの描写がショボいのは勘弁して下さい。私、格闘技系あまり詳しくないので、ボキャブラリーが少ないんです・・・(じゃあ勉強しろよ!ってね)
 でも勢いついたときに書かないと書けなくなってしまうので、書いちゃいました(ささやかな言い訳)。
 実はこの話、最初にイメージが浮かんだのは宝*のショーのワンシーンだったんですよ(九*の狐!!)。まあ、ストーリーの大筋が浮かぶのには結構時間かかったんですが、書き始めてからはスムーズでした。*塚のショーは私にいろいろなイメージを与えてくれます。出来上がった「芝居」そのものよりも想像力が働くからなんでしょうかね?最近のプログラムは脚本が載っていないので残念な限りです・・・
 ところで、このお話は現在の薫君、優君たちの一世代前、稔父さんの話になっております。というわけで、時は昭和40年代後半から終盤を想定しているのですが、実は時代考証などまったくしていません(爆)。私自身は幼かったのですが、テレビで汚職事件(今思えばロッキードだった・・・コーチャン氏とか)をやっていたのを「御食事券」だと思っていたという記憶があります。だって政治家のパーティー券の話なんかもよくやってたんだもん・・・・
 おっと、話が逸れた。というわけで、ご都合宜しく石油ショックとか出てくるのですがあまりお気になさらないように。最初はその裏で糸を引いてるのも暗海にしようと思ったりしたんですが、私にはちと無理がありました(爆爆)。
 で、今回は一応、正当派ヒーロー活劇にしてみたのですが如何だったでしょうか?
 お約束の劇場版限定バージョン「バーニングアポロン」も用意してみましたし。でも、ビジュアルじゃないとあまり「うお!」っていう気がしないような気もしてます(あまり容姿の描写しなかったし・・・)。私絵が描けないからなぁ・・・・
 まあそんなこんなで。例の如く実はTS要素はほとんどないお話なのでした(超爆)。
 というわけで・・・
 今回も最後までおつきあいいただき本当にありがとうございました。
 「劇場版」第三作があるかわかりませんが。
 では

 KEBO


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