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女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第二十四話:闇の鼓動>

「ううう・・・・」
「まだ動かない方がいいわ」女の声。
 目を開ける幸一郎。
「俺は・・・まだ生きているのか・・・」
「そのようよ」
 徐々に焦点が合ってくる。どうやら海沿いの洞窟らしい。微かな波の音が耳に入る。彼の傍らには金色に輝く剣も置いてあった。
「おまえは・・・人魚か・・・」
「失礼ね。私にもマリという名前があるわ」
「おまえは・・・知っているのか・・・」
「何を?」
「奴は・・・俺の本当の父親なのか・・・」
「さあね。でも、その答えはあなたが一番よくわかっているんじゃなくて」
「・・・・・」
「あなたの大事な人を呼んでおいたわ。ゆっくりと体を休める事ね。それと、よく考えるがいいわ、あなたの本当の使命を。じゃあね」
 そう言い残すとマリは姿を消した。


「中佐・・・・」苦しげな声が本度の耳に届く。
 地下の施設内。声の聞こえたドアの覗き窓に目を凝らす本度。
「まさか・・・三木か!」そこには苦しそう横たわる裸の女らしき姿があった。
 慌ててカギを壊そうとする。
「中佐・・・いけません。それ以上近づいたら中佐にもウィルスが・・・」
「ウィルス!?」
「そうです。奴らの究極の目的は全世界に、私に投与した物より遙かに強力な感染力を持つ女性化ウィルスをばらまき、自分の選んだ者以外を女性化することによって抵抗力を削ぎ落とし、世界を力で支配する事です」
「よくやった、三木。すぐに救援を呼ぶ!」
「無駄です。私はもう長くはありません。奴らのウィルスはすべての人間を女性化するわけではないのです。確かに男性の生殖器官を破壊、排出させた後、感染者の体内に女性の生殖器官を急速に発生、成長させます。が、年齢が高くなるにつれてその器官は正常に発達しないようです」
「正常に発達しないとどうなる」
「その器官の出来損ないが、巨大なガン細胞になって成長するだけです」
「まさか・・・おまえも」
「奴らは太平洋岸のどこかにある秘密基地で、極秘裏に建造した原潜を隠しているようです。それを使って海中から世界中に細菌弾頭を積んだミサイルを発射するつもりなのです」
「その基地はどこだ」
「残念ながら・・・中佐、私はもう駄目です。一刻も早く奴らを」
「三木・・・・」
「イヤ」いや紗希は、思わず目を逸らせた。
 三木と呼ばれた女、いやXX4は、舌を噛んで果てた。
「・・・・許さん」怒りをかみしめる本度。
「本度さん、急ごう。早くその基地を割り出さなけりゃ」


 そのころ、同じ施設内の別の部屋・・・・
「清華様、私と共に来ていただきましょう」
 清華をはじめ、今までに捕らえられ女性化された者達を、葉山が連れ出す。
「葉山・・・何をしているの・・・・」
 ゆっくりと振り向く葉山。そこには傷つき、肩を支え合う三姉妹の姿があった。
「ごらんの通り、この者達を頂いて参ります」
「どういうつもり・・・まさか!」
「そのまさかですよ」葉山の声が、軽薄な響きを孕んだヒステリックな声に変わっていく。
「おのれ・・・葉山に何をした」麗奈が声を振り絞る。
「もうこの方はこの世にはいませんよ。ただし、このなかなか賢い脳とがっちりとした身体は借りましたけどね」
「貴様、何者だ」
「いずれわかることです。とりあえず、この娘たちは頂いていきますよ」
「待て!」比較的傷の浅い綾奈が青の龍に変身する。
「フッフッフ、無駄だというのに」葉山の身体が突然倒れ、そこから染み出すように不定型の物体が現れる。
「キャアアア!」悲鳴を上げる清華たち。その物体は分裂するとあっという間に娘たちを包み込むように取り込んでいく。
「しまった!」娘たちに及ぶ影響を考えると、綾奈も手出しできなかった。
 最後までもがいていた清華の身体が、その物体に包み込まれた。そして、物体は清華の口を使って言った。
「フッフッフ、この娘たちとこの娘の胎児、確かに受け取りましたよ。いずれ可愛い妹に会わせてあげますよ、生きていればね」
「妹!?」
 体外受精で清華の体内に戻された受精卵は、あらゆる手段を講じて男性にしたはずだった。
「そう。何のために私が苦労して受精卵を操作したと思ってるんです?」
「・・・・・」
「この子は暗黒の巫女になるべく、私が連れていきます。再会の日を楽しみにするのですね」
「待て!」慌てて飛びかかろうとする綾奈に、その不定型の物体から何かが伸びる。
「アァァァァァ!」
 恐ろしいほどのスピードで伸びたその触手は、まるで鋼鉄でできているかのように次々と綾奈の身体を貫く。
「綾奈!」「お姉さま!」
 力無く倒れる綾奈。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハ・・・・・」
 ユグトスの高笑いだけが響く。三姉妹は、娘たちが肉体を支配され去っていくのを見ていることしかできなかった。
「綾奈・・・」
「申し訳、ありません・・・」息も絶え絶えに答える綾奈。
「いいえ、まだ終わってはいないわ」
 頷く綾奈。三姉妹は、傷つき果てた身体を引きずって研究室に消えた。


「これだ」頷く本度。
 紗希が操るコンピューターの画面に、秘密海底ドックの場所が表示された。
「さすが紗希ちゃん。どこで使い方習ったの」
「こんなの常識よ」
「あちゃ」
「それより優」薫が聞く。
「ん」
「いつから女装してるんだ」すでに優は元の姿に戻っている。
「あのなあ、母さんが全部俺の服クリーニング出したって言うから仕方なく着てるの」
「おまえのって・・・俺の着ればいいじゃないか」
「あ・・・なるほど、気づかなかった・・・・」
「それに化粧までして。ついにその気になったのかと思った」
「これは強引に・・・」
「おい、二人とも行くぞ!」二人が間抜けなやりとりをしているうちに本度と紗希はさっさと部屋を出ようとしていた。
「ちょっと待ったぁ」薫と優は慌てて走る。
「この車にしておいてよかったよ。行くぞ」
 BMWのエンジンを掛ける本度。BMWは完全に交通法規を無視したスピードで走りはじめた。


「愛子・・・・」
 幸一郎は、愛子の部屋にいた。枕元にきれいに折り畳んだ、新しい衣類が置いてある。
「行くんでしょ」
「ああ。行かねばならん」
 幸一郎は、ゆっくりとその服に袖を通す。愛子の献身的な介抱で体力はかなり回復していた。
「食べていって」
 食卓の上にあるのは、愛子の心づくしの食事だった。幸一郎は、軽く頷くとむさぼるようにその食事を掻き込んだ。愛子はそんな幸一郎をじっと見つめている。
 最後のスープを飲み干したとき、愛子は幸一郎に告げた。
「もう止めないわ。これがあなたの宿命なのでしょう」
「ああ」答える幸一郎。
 愛子は、幸一郎に上着を着せると、自らの唇を幸一郎の唇に重ねた。
「愛子・・・」
「必ず勝って。そして、必ず帰ってきて」
 頷く幸一郎。
 愛子は、力強く踏み出していく幸一郎を見送った。
「信じてるわ。あなた」


 暗い部屋・・・・
 二つの魔法陣が並べられている。片方には、清華が全裸で縛り付けられており、もう片方には、二人の娘が頭部を対極にした形で大の字に縛り付けられ、その広げられた足先がもう一人の手の先に縛られていて、腰の部分が重なり合うようになっていた。
「さて、ユグトスよ、どちらから行こうかの」
「彼はこのようなことは好まないでしょう。まずは暗黒の巫女の誕生と行きましょう」
「そうかそうか」
 清華の魔法陣に近づく紅いローブ姿の男。
「いや・・・・いや・・お願い・・」清華の顔が恐怖にひきつっていく。
「何も恐れることはない。待ちわびたわが子との対面じゃ」
 そう言うと、男は清華の腹部に杖をかざし、ゆっくりと回しはじめた。
「****、****、****、****」
 人間では決して発音する事ができないその呪文と共に、杖の先端が描く円から黒いエネルギーの渦が清華の腹部に注入されていく。
「ア、ア、アアア・・・」
 清華が苦しみはじめる。とともに清華の腹部が膨らみはじめた。
「フォッフォッフォ、元気な子よのう。暗黒のエキスがよほど気に入ったと見える」
「アアア、ア、アァァァァ!」悲鳴が絶叫に変わっていく。清華の腹部は、もはや妊婦のそれと言うよりは何か別の生き物が中で暴れているようにさえ見えた。
「さあいでよ、新たなる暗黒の生命よ」
「アア、ギャァァァ!」すでに焦点のあっていない目が、口とともに大きく開かれる。両足がその付け根から不自然に拡がり、骨が砕ける気味の悪い音とともに下腹部が裂けていく。血液が飛び散り、清華の生命活動は停止した。そしてその裂け目から、血まみれの少女が這い出す。さらに少女は、男らが見守る前でぐんぐん成長していき、やがてその成長が止まると、まだ熟し切らないとはいえ立派な大人の女のボディとなった少女は、立ち上がり鮮血に汚れた髪を掻き上げるとはじめてその目を開いた。
「おお・・・」その視線は男も一瞬たじろぐほどであった。まだあどけなさと無邪気さが同居したその顔にまったくそぐわない、残忍な光を湛えたその目は、しっかりと男を見据えて輝いていた。
「目覚めたか、闇奈」
 闇奈と呼ばれた少女は、再び長い髪を掻き上げると男の方へ向き直った。その顔に、ゾクッとするような無慈悲な笑顔が浮かぶ。
「おまえは、だれだ」
「誰だとは冷たいのう。おまえに暗黒のパワーをくれてやったのを忘れたか」
 しかし彼女はそれを無視して問いかけた。
「あたしの名は、闇奈というの?」
「そうじゃ。暗黒の巫女闇奈よ」
「ヒッヒッヒッヒッヒ・・・」ヒステリックな笑いを漏らす闇奈。
「私に何をさせてくれるの」
「破壊と、殺戮。そして生贄の儀式」男は答えた。
「ヒヒヒ、面白そうね。つきあうわ」
 男は、闇奈に黒いローブを羽織らせた。
「そこで今しばらく次の儀式を見ておれ。さてユグトス、奴を呼び出すとしよう」
「そうですね。本日のメインイベント」
 闇奈が面白そうな顔をして見ている。
 紅いローブ姿の男、ナイはもう一つの魔法陣に向くと、再び呪文を唱えた。
「******」
 魔法陣の中心に、小さく黒い穴が開き、そこから何か黒い物が立ちのぼる。
 二人の娘の顔が苦痛に歪み、開ききった口からは声にならない悲鳴が発せられていた。しかし、首から下は身動きがとれないどころかぴくりとも動かない。
 穴が徐々に大きくなっていき、娘の腰が穴に吸い込まれた。娘達の悲鳴がヒステリックな笑いに変わっていく。苦痛のあまり発狂したのだ。
 やがて二人の娘の身体は胸と腕と腕に繋がれた脚を残して穴の中に吸い込まれ、魔法陣中央部の暗黒の六角形の中から、黒い棺が姿を現しそこにそびえ立っていく。
 その棺がそびえ立った瞬間、娘の身体は首だけを残して消滅し、ヒステリックな表情を浮かべたまま息絶えた首の下は、燃えかすのような黒い灰となった。
 どうやら儀式は一段落したようだ。
 ナイは珍しく、肩で息をしていた。
「どうじゃ、出てまいれ」ナイが棺に向かって呼びかける。すると、棺が崩れ落ち、中から黒く異様に威圧感を与える鎧を着た騎士が現れた。
「久しいなナイ。息災か」
「フォッフォ、息災かと?おぬしを呼び出すのに精魂尽き果てたわ」
「フッ、まあそれはさておき、今度は何の用だ?俺の満足する相手でも見つかったか」
「当たらずとも遠からずじゃ」
「貴様の話は宛になった試しはないが・・・まあよい。相変わらず派手な供え物をよこすのは貴様ぐらいだからな」
「話は最後まで聞くものじゃ、アザート。些細なことでおぬしを呼び出したりはせぬ、暗黒界最強の凶戦士とまで言われたおぬしをのう・・・いよいよ我らが再び宇宙の覇権を握る日が近づいたようじゃ」
「フッ、今度は余計な邪魔が入らねばよいがな」
「その余計な邪魔じゃ。おぬしが好んで戦えそうな連中が揃っておる」
「それは有り難いことだ」
「アザート」
「おお、ユグトスか。久しいな」
「こっちの方こそ。また派手に暴れる時が来たらしいのでね」
「そうかそうか。で、ナイ、とりあえずどういう状況だ」
 つかつかと、闇奈がアザートに歩み寄る。
「いい男ね。あたしの好みだわ」
「何だ、この小童は・・・・そうか、ナイ、貴様も相変わらず悪趣味だな」
「子供じゃないわ」抗議する闇奈。
「まあよい。アザート、ユグトスと共に参るがよい。ついでにその闇奈も連れてな」
 ユグトス、アザート、そして闇奈の三人は、その闇のアジトを出ていった。


「本度さん、あれ」優が指す。
「ああ。さすがに早いな」
 目指す八蔵の秘密海底ドックのある岬の先端部に近づくBMWの車窓から、数十のパラシュートが見える。
「ねえねえ、あの落下傘何?」無邪気に紗希が尋ねる。
「本度さん・・・・ここ一応日本なんだけど」呆れる薫。
「日本政府の了解は取ってある。何にしろ彼らも国内の、それも経済界の大物が絡んでいるとあっては動きづらいらしい。すぐにOKが出たそうだ」
「で、結局あれ何なのよ」無視されてふくれる紗希。
「本度さんの国の、特殊部隊」解説する優。
「それってSAS?デルタ?シールズ?とりあえずカッコいー!」
「・・・紗希ちゃん、どこでそんなの習ったの」
「だって、チャックノリスもチャーリーシーンもカッコイイし」
「あのねえ、本物と映画は違うの」
「そうだ。同じアクション映画ならスパイ物を見なさい。とにかく、我々も乗り込むぞ」
 車を止める本度。その前に、一人の男が現れた。
「剣・・・・」前に出る薫。
「俺も連れていってくれ。自分の決着は自分で付ける」
「薫君、時間がない」せかす本度。
「・・・・行こう、剣」
 薫たち四人に剣を加えた五人は、秘密海底ドックに乗り込むべく行動を開始した。

<つづく>



<次回予告>


「そんな物いちいち・・・・・・・持ってるよ」
「は、出撃準備完了まであと三時間ほど・・・」
「日野神、奴は俺に任せろ」
「麗奈・・・・その姿は」
「アッハッハ。死ね!死ね!死ね!」
「破壊できなくても出撃不能にすればいい」
「見るがよい!巳族の長ヤマタの、本当の姿を!」
 次回「血の報酬」お楽しみに。


*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 いやあ、今回はただのキャラ登場編になってしまいました。戦闘シーンもほとんどなく、次回以降の激戦(たぶん・・・ね)に登場する役者のみなさんが揃い踏み、といった形になりました。本当に第二クール、あと二回で終わるんでしょうか・・・
 ちなみに末娘(!)、闇奈ちゃんは「あんな」と読みます。一説では変換キーの邪道な使い方とも言いますが、それはそれで良しとしましょう。
 ついでに、またもやアザートさんの登場です。何回か前に一応匂わせはしたのですが実際に出てくると思いました?でも今回ユグトスさんを加えたナイちゃん軍団、目的を果たすことができるんでしょうか、それはキーボードと両手のみが知っているんでしょうね、たぶん。実際まだ先の展開は大筋しか決まっておりません(ただし最終回は決まっているけど・・・ということはやっぱり・・・)。
 ではまた。大激戦の次回(たぶん)おたのしみに。

KEBO。




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