女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第二十一話:月のステージ>

 紗希は、なにかもやもやしていた。
 別に学校に馴染めない訳ではない。むしろ、彼女のキャラクターは友達を作りやすかったし、帰国子女学級の子達とはみんな仲がいい。
 しかし、どうも最近何となくつまらないのだ。
 理由はたぶん、学校そのものの違いだろうと、紗希は思う。
 躾が厳格なのはともかく、くだらない校則が多すぎる。
 彼女は、意味無く厳しい校則と厳格な躾は違うと思っていた。
 そんな考え事をしながら歩いていたので、彼女は前から来た人間に気づかなかった。
 バタ!彼女は地面にキスし損ねた。
「あ、すいません!」
 紗希はどうやら彼女がぶつかったらしい男を見た。
「いたた、ごめん、大丈夫?」
 顔を上げる男。その姿に紗希は思わず見とれた。
(かっこいい!)
 ボッとしている紗希を見て、そんなにひどくぶつかったのかと勘違いした彼は、丁寧に彼女の手を取って立たせると、制服に付いたほこりを払った。
「ごめん。ちょっと急いでたもんだから」
 紗希は我に返った。
「あ、いえ、大丈夫です。こちらこそごめんなさい」
 早くなる鼓動を感じる紗希。
「そう、じゃ、急ぐから」ニッコリと笑う彼。
「ええ。じゃあ」彼女はそれに満面の笑みで応じた。


「ねえ、君」
 その男、真木 一郎はダンスのレッスンの後、ある女に声を掛けられていた。
 駆け出しのダンサーである彼は、このスタジオにレッスンを受けに通っている。この女は、このスタジオに顔を出す元女優で、今では自分でスターを育てるのが夢らしいとの噂だ。
「今晩私に少しつきあってくれない?決して悪い話じゃないんだけど」
 真木は少し考えた。話を聞くだけなら悪くなさそうだ。
 彼は頷くと、彼女に従った。


 翌日・・・・
 学校の帰り道、紗希はまた鼓動が早くなるのを感じていた。前から、昨日の彼が歩いてくる。向こうも気づいたようだ。
「あ、あのう・・・」
「やあ」
 数分後、二人は公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
「え、じゃあ、舞台人なんだ」
「あ、まあね。まだ駆け出しだけど」
「うわあ、すごい!私絶対見に行きます」
「おいおい、まだ出られると決まったわけではないよ」
 真木は、うれしかったのか昨日の出来事を紗希に話して聞かせた。
 あの女、嶋田 優花は、自分のプロダクションから彼をとある大型ミュージカルのオーディションに出したいと言ってきたのだ。それまでのレッスンも、すべて事務所持ちということらしい。その役は今までとは違って大きな役だっただけに彼はさすがにうますぎる話とは思ったが、最後の一言で、彼は決意した。
「でもね真木君、チャンスは一度だけ。成功すればあなたはウチの事務所で世話させて貰う。いや、させていただきたいの。でも失敗すればハイさよなら、私に見る目がなかったということだわ。どう、やってみる?」
 真木はそのチャンスに賭けることにしたのだ。
「へえ、すごいじゃないですか。きっと大丈夫ですよ。真木さん格好いいし」
「え・・・」照れる真木。彼は時計を見ると立ち上がった。
「ごめん、そろそろ行かなくちゃ」
「また、会えますか」紗希は勇気を振り絞って聞いてみた。
「ああ。でも忙しくなるから、約束はできないよ」彼は、メモ用紙を破ると紗希に渡した。
 そこには、電話番号が書いてある。
「じゃあ」
「じゃあ、頑張って下さいね」
「ありがとう」
 紗希は、真木の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。


 一週間後・・・
「紗希ちゃん、どうしたの?おしゃれして」
「優、野暮なこと聞かないの。あなただって白木さんとデートの時はおしゃれするでしょうに」蘭が優をたしなめる。
「おやまあ、色気づいて」
「それじゃあ、いってきまあす」
「紗希ちゃん、あまり遅くならないでね」
「はあい!」
 紗希はそんな優のつっこみを無視すると、颯爽と出かけていった。


「・・・・真木さん、大丈夫?」
 紗希はびっくりした。真木の姿には一週間前の面影はなかった。
 もともとスラッと凛々しいスタイルだったのだが、肉がそぎ落とされたように痩せこけ、肩もかなり撫で肩になっている。だが、ただ痩せこけていたのとは少し違うように見えた。確かに全身ほっそりしたような雰囲気にはなったが、その代わり、シルエットが全体に曲線的に見える。そしてどう見ても不自然にウェストが細く、むしろくびれているように見えた。
 真木は疲れ切った顔をしている。
「レッスン大変なんですか」
「ああ。でも何か変なんだ・・・」
「変、って?」
「レッスンの間に、時々記憶が飛ぶことがあって・・・・」
「真木さん、ちゃんと栄養取ってる」
「当然だよ。僕たちは体が資本だからね」
「でも記憶が飛ぶって・・・」
「飛ぶって言うかさ、夢を見てたみたいな感じかな・・・とにかく何かすごく心地が良かったのは覚えているんだけど、それ以外のことを忘れてしまっていて」
「体の調子は?」
「絶好調ではないけど、悪くもないよ。ただ、疲れているのは確かだけど」
「真木さん、何日かゆっくり休んだ方が・・・」
「そんなことできないよ。これは僕のチャンスなんだ。心配してくれるのは嬉しいけど僕の一生が掛かってるんだ」
 紗希は真木の剣幕に圧倒された。
「・・・・ごめんなさい。わかったような口聞いて」
「いや、僕の方こそごめん。あ、もう行かなくちゃ」
「真木さん・・・・」
 紗希は、先日とはうって変わって心配そうな顔で真木を見送った。


『ただいま留守にしております。ピーッと鳴ったらお話下さい』
「また留守電だ・・・」
 何回電話しても、真木の電話は留守電になっていた。
(そんなにレッスン大変なのかな・・・もしかして、その何とかいう元女優に虐められてるんじゃ・・・)
 紗希は、いても立ってもいられなくなり、稽古場を覗きに行くことにした。


(これってストーカーだよね・・・)
 塀を乗り越える紗希。嶋田 優花の事務所は、自宅とスタジオと事務所をすべて兼ねた邸宅で、高級住宅地の真っ只中にあった。
 抜き足、差し足、忍び足で庭を横切っていく紗希。
 途中、人の気配を感じて振り向く。
(うわ、やば・・・でも悪趣味・・・)
 庭の手入れか、女が一人、悪趣味なフリフリの服装で何かしている。
 それだけではなかった。どうやら気づかれてはいないが、この家にいる使用人はみんな若い女で、同じ服装をしているのだ。
(どういう趣味してんのよ・・・)
 そう思いながら紗希は庭を進んでいく。幸い女達はみんな妙に幸福そうな表情で、黙々と自分の仕事をしていた。紗希に気づく気配はまったくない。
 と、建物の方から声が聞こえてきた。
「さあマキちゃん、女の子になりましょうね」
 紗希はその窓の方に近づいていった。背が届かないので近くにあったボロ椅子を踏み台にして、彼女は部屋をのぞき込んだ。
 一瞬、異様な匂いが紗希の鼻を突く。それは、部屋の中に立ちこめた香か何かの匂いだった。その煙の中、部屋の中央で、男が妖艶な雰囲気の女に服を脱がされていく。
(真木さん・・・・!)
 紗希の目の前で、裸にされた真木。その姿はすでに筋肉の引き締まった男性ではなく、むしろ丸みを帯びた柔らかい女性に近かった。その体に優花の手によって女の下着が着けられていく。
(いったい何なのよ・・・・・?)
 下着を着け終わると、数人の女達が手伝って真木に彼女たちと同じような悪趣味なフリフリの服を着せていく。そして着替えが終わると優花は、真木を鏡の前に座らせた。その鏡に映った真木の表情は、他の女達と同じような表情を浮かべている。その顔に、優花が化粧を施していくと、見る見るうちに、真木は美しい女の姿になった。
「とても綺麗よマキちゃん。うれしいわね、あなたは女の子になったのよ」
 優花が暗示をかけるように呼びかける。真木は幸福そうな表情を浮かべたまま従順に頷いた。
「さあ、お薬を飲みましょうね」
 優花が、何か赤い液体の入ったワイングラスを渡すと、真木は嬉しそうにそれを飲み干していく。
「だめ!」思わず叫ぶ紗希。足下がぐらつく。
「きゃああ!」
ドサ!地面に叩きつけられる紗希。
「あら、どうしたのかしら。とんだネズミさんだこと」
 気がつくと、優花が紗希を見下ろしている。
「そう言えばその顔・・・・麗奈お嬢様が捜していた子にそっくりだわね」
 たちまち女達に取り囲まれてホールに連れ込まれる紗希。その中には、真木の姿もあった。真木の足にすがりつく紗希。
「真木さん!目を覚まして、お願い!」
 しかし真木は反応しなかった。
「無駄よ」
「あんた!真木さんに何をしたの」
「何をって、見ての通り。綺麗な女にしてあげたのよ。ここにいる子達はみんなそう、美しい青少年達。女になった方がもっと美しくなれるのよ。私の大事なコレクション。特殊なクスリを与えて、特別なレッスンで身も心も、私にだけ従順な美しい女に生まれ変わらせるの。もうじきこのマキちゃんも、本物の女の子になるのよ」
 紗希は理解に苦しんだ。その時、
「紗希ちゃん、無茶するなあ」
「優お兄ちゃん!」
「何者だ!」
「何者はないだろ。フェムニスじゃあるまいし。ま、話を聞いてれば巳の一族とも仲がいいみたいだしね」
 振り返る優花と紗希。さっき紗希が覗いていた窓から、優が室内を覗いている。
「お言いだわね、ぼく。ちょっと不細工だけどあなたも私のコレクションに加えてあげるわ」言うなり優花はその正体を現した。
「おい、ちょっと待て!」
「キャアアアア!」
 悲鳴を上げる紗希と優。優花は細かい鱗と長い指、ちぐはぐな目を持ったカメレオン女に変化していく。そして、その前で優の体も女性化していった。
「ゆ、優お兄ちゃん・・・・」紗希は何よりもそのことに驚き、パニックに陥っている。
「何と!それでは楽しみが半・・」たじろぐカメレオン女。
「まったく・・・そんなところで正体現したらこっちの秘密もばれちまうじゃないのよさ。仕方ない、女神転生!」
 左手を高くかざして光に包まれる優。
「女神仮面、ミーミル!」
「おのれ・・・やっておしまい!」カメレオン女の一声で、真木をはじめとした女?達がミーミルに襲いかかる。
「優お兄ちゃんなんでしょ!一体どうなってんの!」叫ぶ紗希。
「紗希ちゃんには黙っておこうと思ったけど、日野神さんち、いや泉さんちの宿命みたいなもんなんだってさ」女達の攻撃をかわしながら答えるミーミル。そのミーミルの首に、何かが巻き付いた。
「う!」
「ほほほ、大人しくしないなら、殺してしまうわよ」首に巻き付いたカメレオン女の舌が、ミーミルの首筋に食い込む。
「ううう、どこにいる・・・」
 カメレオン女の姿は周囲にとけ込んで舌以外は見えない。
「優お兄ちゃん!」
 動きを止められたミーミルを、女達がにこやかに袋叩きにする。その時、紗希に何かが話しかけてきた。
(紗希ちゃん、恐れてはだめ。あなたも戦うのよ)
「戦うって?」
(左手を上に、三日月のポーズを)
「こんなふう?」紗希は、言われるままにポーズを取った。
(そうそう。そのまま、ムーンライト・イリュージョンと)
「ムーンライト・イリュージョン?」
月の石が輝く。と同時に空から彼女に向かって光が降り注いだ。
「な、何事!」うろたえるカメレオン女。
 紗希は、変身した自分の姿をまじまじと眺めた。
(月光天使カグヤ)
「月光天使・カグヤ?」
(そう。あなたは私、カグヤの姿になったの。悪と戦うために)
 拳を握りしめるカグヤ。
「何だかよくわからないけど、なんか勇気がわいてきたわ。覚悟しなさい、バケモノ!」
 言うなりカグヤは唯一見えるカメレオン女の舌めがけて襲いかかった。
「エイ!」伸びた舌が、カグヤのチョップに切断される。
「ウ!」倒れるカメレオン女。床の色にとけ込む間もなくカメレオン女の姿は丸見えになった。
「ふう、助かった。女優も正体がばれちゃおしまいね。行くわよ!」舌から解放されたミーミルも攻撃に加わる。
 ビシ!ビシ!バシ!二人の攻撃に、カメレオン女はたじたじになった。ミーミルのチョップやカグヤのキックがダメージを与えるたびに、操られていた女達も力無く倒れていく。
(さあ、とどめを)
 紗希は指示されるままに両手を広げた。
「ルナチック・ブーメラン!」
 カグヤが右手に輝く巨大な三日月型ブーメランを放つ。
「ギャアアア!」カメレオン女の体は三つほどに切り離され、ブーメランとともに消滅した。


「信じられない!」
「信じるも何も、現実なんだからしょうがないよ。それに俺なんかもっと信じたくないさ」
 元の姿に戻った紗希に、優が事情を説明していた。
「そんな・・・十七歳の乙女にはショックが大きすぎるわよ」
「の割にケロッとしてるじゃないか」
 優の言うとおり、紗希はしっかり現実だけは把握していたのだ。
「さ、優お兄ちゃん、真木さんが目覚めないうちに」
「え、何で」
「優お兄ちゃんだって女装したところ文香さんに見られたくないでしょ!」
「・・・・・う、そうか。そうだ、絶対文香には内緒だぞ」
「さあ、どうかしら」
「なに!あ、待て、この・・・まったく最近の若いもんは」
 優はすたすたと歩いていく紗希の後を追った。

<つづく>



<次回予告>

「二ヶ月ほどで、世界は我らのものとなる。参るぞ」
「何億人を、殺してか」
「亀乃なんかに負けるわけには行かない。頼んだわよ、貴美子さん」
「挑戦状!?」
『この電話は、現在通話のできない区域か・・・・』
「ほれほれ、隙あり!」
「そろそろ現れると思っていたぞ、ドラド」
 次回「プロジェクトA」お楽しみに


*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 あっさりと、紗希ちゃんに真実がばれてしまいました。でも紗希ちゃん、頭良さそうだから力を悪用されたら手が着けられないでしょうね。
 今回はあまり書くことが無いなあ。割とオーソドックスな展開だったんで。強いて言えば紗希ちゃんと真木さんの関係は・・・・といったところなんでしょうけど真木さんの登場予定は今のところありませんのであしからず。
 カメレオン女はもう少し書き込みたかったんですけど(何せ女優さんですから)サイズが大きくなってしまいそうなんで諦めました。残念。
 では。

KEBO。



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