女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第二十話:伝家の宝刀>

「あのさあ、いつも思うんだけどなんで爺ちゃん、こんな山奥に住んでんの」
 稔と薫は、稔の父すなわち日野神 孝夫の住むとある山奥にやってきていた。
 孝夫は、稔と蘭の結婚後突然、この山奥に引きこもったのだ。おかげで、数年前妻の幸が亡くなったとき、稔達は大変な思いをしたものだ。
 なにせ車を止めてから約一時間、細い山道を歩いて上った場所なのだ。驚いたことにそこに忽然と孝夫の家があった。どうやって建てたのかは謎である。
「ま、それは置いといて、何か重大な話があるらしい」
「重大な話?」
 二人は息を切らせて山道を登った。


「ほう、よく来たのう」
 日野神老人は年の割にシャキッとした爺さんである。
「で、親父、重大な話って言うのは?」
「まま、とりあえず座れや」
 彼らが座ると、日野神老人はなにやら古びた木箱を取りだし彼らの前に置いた。
「なんじゃ、これ」
「薫、開けて見れ」
 言われるままに箱を開く薫。そこには、一本の、錆びた鉄の棒のような物が横たわっていた。
 そして、日野神老人は話し始めた。


 時は大戦中。
 ヒュー!ドドドドドド!
 米機の攻撃は続いていた。ハード島を死守している兵達を救うための食料を積んだ輸送船「小林丸」は夜陰に乗じて島に接近を試みたが、逆に米軍に捕捉されてしまったのだ。
 ドカーン!敵の爆弾が船体を捉え、遂に船体の中央部に火柱が上る。
「うわ!」
 申し訳程度についている機銃で絶望的な対空射撃をしていた孝夫は、その爆風に吹き飛ばされた。
「うああああああ!」
 海面に叩きつけられる孝夫。そして世界が真っ暗になった。


「う・・・・うわ!」
 気がつくと、目の前に少女の顔があった。
「一体、俺は・・・」
 そこにいたのは、少女だけではなかった。いかにも南方という感じの家の広間らしき場所に、おそらく原住民らしい人々が、彼を取り巻くように座っていた。
「キガツキマシタネ」
 孝夫は咄嗟に身構えた。その声とともに現れたのは紛れもなく米兵だったのだ。
「ダイジョウブデス、ワタシ、アナタトオナジ。ワタシノフネ、ニッポングンニシズメラレマシタ。デモソレシカタナイ、ソレ、センソウ。コノシマ、コノヒトタチダケ。ニッポンジン、アメリカジン、ダレモイナイ。ワタシト、アナタ、チカラアワセル。ソレ、クニニカエルタメ。オッケー?」
 孝夫はどうやら彼が危害を加えるのではないと解って少し安心した。むしろ彼の切実そうな態度に、誠意さえ感じていた。
 孝夫の落ち着いた様子を見て、米兵は話し始めた。
「ワタシノウチ、チカク、ニッポンジン、トモダチタクサン。ダカラ、スコシ、ニホンゴワカル」
「少しどころか、よくわかるよ」
「ワタシノ、ナマエ、ジョン。ジョン ヤング」
「マイネーム、イズ、タカオ。タカオ ヒノガミ」
 孝夫は、自分の知っている唯一の英語で話しかけてみた。
「オー!アナタ、エイゴ、ベリィジョウズ」
「これだけしか解らないんだ」
 ジョンが右手を差し出す。孝夫はしっかりとその手を握った。


 孝夫が島に流れ着いて数日が過ぎた。
 ある日のこと、二人は、村の長老によばれた。
 長老の、身振り手振りを交えた話では、どうやら何か困っている様子だった。
 なにやら化け物がいて、島の娘を食うらしい。その化け物は永らく封印されていたが、この戦争の影響か、どうも封印が解けたらしく、その前兆が現れるようになったという。
 その前兆とは、島の衆がみんな女になってしまうことらしい。化け物がよみがえるとき、その樟気が島中に降り注ぐ。そしてそれを浴びた男は、女になってしまうのだ。
 すでに島の若い衆が何人か、島の中央部にある谷でその樟気を浴び、女になったという。彼らにはにわかに信じがたい話であった。
 長老の言うには、どうも爆弾か大砲で、化け物を退治して欲しいらしい。
 もし島の人々が皆女になってしまったら、後は食われるだけだ、と長老は切実に訴えた。
 しかし、今の二人にそんな武器を調達できるわけがない。ジョンが、彼らは今爆弾も、大砲も持ってはいないと言うと、長老はひどく落胆した様子だった。その時、一人の女が走り込んできた。
 女が、慌てた様子で何かを訴える。女は、ほとんど素っ裸で、他の女が付けているような服装とは明らかに違い、まるで男の服装だった。
 長老の顔に絶望の色が浮かぶ。化け物が実際に現れて、男三人が女にされ、うち二人は食われたというのだ。そして生き残った一人が、その走り込んできた女だったのだ。
 信じられない事態を目の当たりにした二人は、衝撃を受けた。
 いても立ってもいられないと言った表情で、ジョンが立ち上がる。
「タカオ!レッツゴー!バケモノ、ワカラナイ。デモ、ユルセナイ」
「待てジョン!武器が無い」
「オッケー。ワタシ、ガン、モッテル。ワタシ、ステタ、ガン。アメリカトニッポン、センソウ、ソレ、マチガイ。ニッポンジン、ワタシ、トモダチ。ダカラ、ガン、ステタ。デモ、バケモノ、ユルセマセン」
 ジョンは、錆びかけた拳銃を持つと、谷の方へと走っていく。孝夫は慌ててそれを追いかけた。


 島の中央部は、鬱蒼とジャングルが茂っていた。
「ジョン!」
 返事はない。ジョンは、孝夫の制止も聞かずに一人で先に行ったのだ。
 ジャングルを進む孝夫。その視界が急に開けた。
「これは・・・・」
 それは、彼が見たこともない、古墳のような岩の建造物だった。
 その傍らに、ジョンが立ち尽くしている。
「ジョン!」
 もう一度呼びかける孝夫。しかしジョンは全く反応しない。慌てて駆け寄ろうとした孝夫は、ようやくその光景に気がついた。
 ジョンの周りに立ちこめる異様な靄。そしてそれは、古墳の横にある緑色の物体からジョンに向かって浴びせられていた。ジョンは恍惚の表情を浮かべたままその姿を変えていった。
 孝夫は金縛りにあったようにその光景を目撃した。がっちりしたジョンのシルエットが、徐々に細くなっていく。そのうち、苦しいのか上半身の服を脱ぎ捨てたジョンの体は、まさに女のそれになっていた。
 やがて物体は奇妙な雄叫びをあげると、細長い触手のような物をのばして女性化したジョンの体に絡めていく。そして突然、ジョンが悲鳴を上げた。
「ギャアアアア!」
 動くことすらできない孝夫の前で、ジョンだった女は鮮血を迸らせながら解体されていった。物体の本体中央部に、真っ白な鋭い歯が生えそろった真っ赤な口がぱっくりと開いている。解体された肢体は、次々とその中に飲み込まれていった。
「ジョォォォォォン!」
 気がつくと、孝夫はその場にへたり込んでいた。そして彼は現実に気づいた。
(今度は自分がやられる・・・)
 物体、いや怪物が孝夫に気づいたのかゆっくりと、確実に迫ってくる。しかし彼は動くことができなかった。彼は腰を抜かしてしまっていたのだ。
 物体が蒸気のように靄を吹く。それが周りに立ちこめると、孝夫は何故か急に、幸せな気分に満たされた。危機感が消失し、心地よさが彼を包んでいく。その時突然、それが現れた。
(光の力を継ぐ者よ・・・)
 正気に返る孝夫。目の前で、怪物が何かに打たれたようにのたうっている。
(あなたが現れるのを待っていた・・・)
 振り返る孝夫の前に、ギリシャ神話に出てくる女神のような格好をした女が、光に包まれて立っていた。
「あなたは・・・?」
 女は、建造物を指した。
(邪悪の使者ボギニスが蘇ってしまった。光の力を継ぐ者よ、コロナブレスを用いて光力を招来し、闇を再び封印するのです)
「ころな、ぶれす?」
 女が指す方を見る孝夫。するとそこ、建造物の頂部にさっきまではなかった金色に輝く何かがある。孝夫は促されるままに建造物に上り、それを手に取った。
(さあ、光力を)女は、言い残すと不意に姿を消した。
 驚きながらそれをまじまじと見つめる孝夫。コロナブレス、それはちょうど孝夫の腕にはまるサイズの腕輪だった。
 ブシュー!体勢を立て直した怪物が、再びガスを吹きながら孝夫に迫る。孝夫は女に言われたとおり腕輪をかざして叫んだ。
「光力、招来!」
 ピカーン!コロナブレスが輝く。次の瞬間、光とともに孝夫の体は何かに包まれていった。
「何が起こったんだ!」
 その疑問に答える者はなかった。代わりに、怪物が孝夫に襲いかかる。
 ビシ!ビシ!次々と飛んでくる触手を受け止める孝夫。彼は夢中でその触手を引いた。
 グギョォォォ!怪物が悲鳴を上げる。触手は怪物から抜け落ちていた。
 自分の力を理解した孝夫は、攻勢に転じた。常人を遙かに越える力で繰り出される孝夫の攻撃に、怪物はついにその動きを止めた。
「勝った・・・・」孝夫は初めて、自分の姿をまじまじと見た。
 黒い甲冑のような服に、黒いマント。彼にはその姿が遠い未来の国から来た英雄に思えた。と、唐突にその姿が元に戻っていく。
「いったい何だったんだ・・・」孝夫はそうつぶやきながら、建造物の中に入っていった。
 中央のホールとおぼしき部分の地面に、何か蓋のような物がある。
「これが、封印」
 見るからにそうと解るそれは、真っ二つに割れていた。
 その傍らに、なにかぼろぼろの鉄の棒のような物が落ちている。
(・・・・・・)孝夫は、それが彼になにか呼びかけているような気がした。
 手に取る孝夫。すると突然、それが光り輝き始め、たちまち金色に輝く刀になった。
(我は太陽刀。光の力を継ぐ御仁、そなたに我の力を託そう。我が力必要とあらばいつでも喚ぶがよい)
 驚く孝夫の前で、刀はブレスレットに吸い込まれるように消えた。


 村に戻ると、村人達がパニックに陥っている。
「一体どうしたんだ!」
 見れば、さっきの怪物が数匹、村を襲っていた。男達は必死に立ち向かうが、あの靄に包まれるとたちまち戦闘意欲を失い、女性化されていく。
「おのれ!許さん・・・光力招来!」
 再び光に包まれる孝夫。
「おお、アポロン・・・」長老がつぶやく。
「亜歩論!?」今まで全く理解できなかった原住民達の言葉が、孝夫にも理解できていた。
「正義の光、アポロン。光をかざし、闇を切り裂く」長老が涙を流していた。
「アポロン!アポロン!」他の人々も、口々に叫びながら孝夫の後ろに集まる。
「よし。闇の亡者ども!まとめて成敗してくれる。太陽刀よ!」
 光とともに現れる太陽の刀。
「ヤァァァァァァ!」
 怪物は次々と倒されていった。


「その後儂は、運良く復員する事ができた。しかし、闇がはびこっていたのは南方だけではなかった。わが日本にも、闇はウヨウヨしておったのじゃ。儂はその闇どもと戦い、太陽刀は自分の働きを終えて眠りについていたのじゃ」
「で、その島は」
「米国の核実験場になって、今は立ち入りできん。それより薫、手にとって見れ」
 薫は、促されるままその箱の中の物を握った。すると、いままでボロボロの錆び付いた棒にしか見えなかったそれが光を放ち始め、金色に輝く刀になっていく。
「これが、その・・・」
「やはりの。先日、夢の中に出て来おった。稔の時にはこのようなことはなかったのじゃが・・・再び偉大なる闇が現れようとしているのじゃ。太陽刀よ、我が孫に、力を貸してやってくれ」
 刀が、一瞬別の色に輝いたように見えた。そして太陽刀は再び、今は薫の左腕に輝くコロナブレスの中に消えていった。
「薫よ、明日から特訓じゃ。我が秘剣、陽炎、伝授して遣わす」
「親父・・・」稔が言いかけた時、その声が聞こえた。
(再び我の出番が来るとは・・・我が力、存分に振るおうぞ)
「そういうわけじゃ。今日は、もう、寝るがよい」


「あのさあ」
「何」
「親父達いつ帰ってくんの」
「さあね、しばらく向こうにいるようなこと言ってたわよ。でもなんで?」
 優は今まで気づかなかったが、父と兄がいなくなると日野神家に残るのは蘭と紗希、すなわち一瞬にして女系家族のようになってしまうのだ。
 いつか聞いたことのある「娘と妻に虐められて居心地の悪い父親」の気持ちが少し分かったような気がした。
「だってさあ・・・まるで女系家族じゃない?」
「いいじゃない。この際、優も女の子になってみたら」
「え!?」
 唖然とする優。その横で、紗希がやはり「え!?」という顔をしている。
「あのなあ・・・・」
「じょ、冗談冗談。さあ、晩御飯にしましょう」
 紗希の存在を思い出した蘭は、慌てて取り繕った。
 食卓に夕飯のおかずが並べられる。
「なんか寂しくない?」優がつぶやく。
「残り物と冷蔵庫の在庫整理。女系家族の食卓なんてこんな物よ」


 深夜・・・・
 誰もいなくなりひっそりとした辰巳邸地下の研究室に、人影があった。
 カツン・・・カツン・・・
 警備員らしい足音。その音にも臆することなく人影は何か作業を進めている。
 不意に、その顔がライトに照らされ闇に浮かび上がった。
「誰だ!あ、これは葉山さん」警備員が照らし出した初老の男は、紛れもなく執事の葉山だった。
「おうおう、もうそんな時間か。警備ご苦労さん」
「葉山さんこそ、こんな時間まで」
「そうだな。少々根を詰めすぎたようだ」
「無理しないで下さい。なにしろ葉山さんはご家老様なんですから」
「はっはっは、気遣いさせてすまんな。ここは私が閉めておく。もう終わりにするから、自分たちの仕事に戻りなさい」
「はい。では」
 警備員達が親しみのこもった笑顔を向けて去っていく。その後ろ姿を見送ると、葉山は妖しい表情を浮かべて作業を再開した。
「ふふふ、おろかな人間達・・・」
 その口から出たのは、さっきとは似ても似つかぬ軽薄な声だった。

<つづく>



<次回予告>

「ごめん。ちょっと急いでたもんだから」
「今晩私に少しつきあってくれない?決して悪い話じゃないんだけど」
「紗希ちゃん、どうしたの?おしゃれして」
「あら、どうしたのかしら。とんだネズミさんだこと」
「紗希ちゃん、無茶するなあ」
「ゆ、優お兄ちゃん・・・・」
「ムーンライト・イリュージョン?」
 次回「月のステージ」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

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<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 アポロン誕生(?)編です。
 前からアポロンの剣型武器は出そうと思ってたんですが、薫君の能力不足や剣君の登場でなかなか思うようにいけませんでした。というわけで、今回薫君の特訓ということになった次第です。
 ちなみに「秘剣」というのは剣法のことです。見事薫君が免許皆伝になるのか楽しみなところですねえ。なにしろ剣道部元主将だとか強力なライバルがいますから。
 ところで、最近アポロンのバージョンアップばかりですが、今のところミーミルの方はしばらくバージョンアップの予定はありません。はじめから結構無敵なアイテム与えてますし。必要がないのが現状でしょう。別にオモチャ売る訳じゃないし。
 なお、今回の小林丸は訓練ではありませんのであしからず(笑)。
では。


 KEBO。


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