女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十九話:固い?女にご用心>

 ピェン、ピェピェピェン・・・
 百坪以上はあろうかという立派な日本庭園。
 晴れ上がった空の下、傘を広げて一人の若い女が琴を引いている。
 その女に、中年の女が近寄り頭を下げた。
「お嬢様、辰巳 麗奈様がお見えでございます」
 お嬢様、と呼ばれた女の手が止まる。そして、彼女は俯いたまま答えた。
「こちらへお通しして頂戴」
「かしこまりました」
 使用人らしい中年女は、恭しく一礼すると下がった。


「ごきげんよう、麗お姉さま」
「ごきげんよう、亀乃さん」
 和服姿の二人は、傘の下に座って正対した。
 万田 亀乃は、麗奈の従姉妹で、八蔵の姪に当たる。
 亀乃の母は八蔵の妹であり、その昔政略結婚により万田家に嫁いで来たのであった。
「して、本日はどのようなご用件ですの」
「あら亀乃さん、随分と冷たいわね」
「滅相もありませんことよ。ただ麗お姉さまの今にも私を取って食ってしまいそうなその目つき、ただごとではございませんわ」
 麗奈は顔をしかめた。
「これは失礼。あなたには何も隠せないわね」
「ほほほ。麗お姉さまでもお困りになるということがありますの?」
「そうですの、亀乃さん。たまにはね」
「私が、お役に立てるようなことかしら」
 麗奈は、一枚の写真を取り出して見せた。
「まあ、これはまた素敵な殿方。麗お姉さま、私に見合いの相手でも?」
「いいえ」
「では、どうしろと仰いますの」
「その男を、捕らえて頂きたいの」
「何故、私に?その手の事は私よりもむしろ麗お姉さまや綾奈さん、香奈さんのお得意な分野ではなくって?」
 麗奈の表情が一瞬こわばる。実際、彼女にとって亀乃の力を借りるなどということは屈辱意外の何物でもなかったのだ。しかし彼女は屈しなかった。
「率直に申し上げるわ亀乃さん」
 麗奈はさらに四枚の写真を取りだし、亀乃の前に置いた。
「この四人の邪魔が入ったおかげで・・・・もう頼れるのはあなたしかいないの、亀乃さん」
「あら。麗お姉さまらしからぬ弱気なお言葉ね。して、この男を捕らえてどうなさるの」
「それは・・・」
 万田家は、政略結婚により事実上辰巳コンツェルンに吸収されたとはいえ数代にわたる大資産家であり、その一人娘である亀乃には、次代の万田グループ総帥の座が約束されている。隙があれば内部からグループを乗っ取ることもありうるのだ。麗奈は少し考えた後、答えた。
「この男の優秀な遺伝子を見込んで、父上の側に仕えて頂こうかと思って」
 一瞬の沈黙。そしてその後。
「おほほほほ、ご冗談が過ぎますわ。麗お姉さま」
「冗談ではないわ」麗奈は少し苛立った。亀乃は完全に麗奈を舐めている。
「もう結構。このお話は無かったことに」
「そう怒らなくてもよろしくてよ、麗お姉さま。こんな面白そうなお話、そうそうあるものでもございませんわ。三重子さん」
 そう言うと、亀乃はさっきの中年女を呼んだ。
「麗お姉さまと少し遊んでみる事にしましたの。準備をして頂戴」
「かしこまりました」
「亀乃さん・・・・」
「ご安心なさって、麗お姉さま。この男、立派な女御に仕立てあげた上でのし付けてお届けに上がりますわ。その代わり、お礼はたんと頂きますことよ」
 亀乃の目が、妖しく微笑んでいる。


「で、今日はどこ行くの?」
「えへへ・・・・」
「その怪しい笑いは、どこぞのケーキバイキングだな」
「え、すごい!さすがゆーくん。私のすべてを知り尽くしてるのね・・・」
「あのなあ、そうゆうはしたないことよく口走れるな」
「えー!何考えてんの?ゆーくんイヤらしい・・・」
「おいおい」
 例のごとくそんな会話をしながら歩く優と文香の前に、一台のリムジンが停止した。
「何よ何よ何よ・・・」文香の目が丸くなる。
 助手席から和装の女が降りてきて、なにやら時代劇の茶店のような傘を開くと後ろの席のドアを開けた。
「おほほほ、ごきげんよう。はじめまして、日野神 優さま」
 車の中から現れたのは、見るからに高そうな亀甲模様の着物を着た若い女だった。
「私、万田 亀乃と申しますの。日野神様のご高名はかねがねからお伺いしております。突然ですけど、私めとご一緒していただけませんこと?」
 唖然とする優と文香。亀乃の合図で、さらに数人の女が現れ、二人の前に赤絨毯を敷き、二人の上に傘をさす。
「え、あ、な、どう」
「まあお堅いこと仰らずに」
 半ば拉致されるように、二人は車の中に押し込まれた。


 そのころ・・・
 某大学学内。
「久瀬 正嘉さんですね」
 正嘉は見知らぬ女に突然声を掛けられた。
「そうですけど」
「キャー!痴漢!」彼が答えた瞬間突然叫ぶ女。
「え!?な、そんな」
 タイミング良く警官が駆け寄ってくる。彼は有無を言わさず連れて行かれた。


「一体あなたは」
「ま、いいから召し上がって」
 リムジンに乗せられた優と文香は、どこぞのホテルか邸宅かわからない、とにかくとてつもなく豪華な部屋に案内された。
 そして、そこにあるのは御馳走の山、山、山・・・・・
 あまりの凄さに、文香はすでに理性が吹っ飛び掛けていた。
「そんなわけには」
「ね、ゆ、ゆーくん・・・この人も、いいって言ってるんだし・・・」
「そーゆう問題じゃないの。とにかく僕たちにはこんな事をして貰う理由が」
「それがあるんですのよ」亀乃はあっさりと答えた。
「え?」またもや呆気にとられる優。
「私の趣味というのはいかが」
「趣味だって!?」
「とある方から貴方のお写真を拝見して、それで是非にと思いましたの。金持ちの道楽と思って少しおつきあい下さらない」
 呆然とする優。あまりに日常とかけ離れすぎた状況。彼は理解に苦しんだ。
(何かの罠・・・?)
(しかし、文香の前で変身するわけには・・・)
(と、その前に、俺ふつうのまんまだぞ・・・)
「・・・んじゃあ、貧乏人の食い意地って事で」
 優と文香はとりあえず?食べることにした。


 というわけで、数時間後。すでに外は暗い。
 テーブルの上の御馳走は半減し、優と文香は腹を抑えてため息をついていた。
「三重子さん、お客様が苦しがっているわ。お飲物を」
「かしこまりました」
 三重子、と呼ばれた女がグラスに水を注ぐ。
「あー、幸せ」一気に飲み干す文香。しかし、そのまま文香はグラスを落として力無く頭を垂れた。
 動転する優。彼は苦しい腹を押さえながら叫んだ。
「お、文香に、何をしやがった!」
「別に、ちょっとお休みになって頂いただけですわ。彼女には用がないの。でも居てもらったほうが私の都合もよろしいし。ね、女神仮面さん」
「おまえ、何者だ!」
「今更何者もありませんわ。私は亀乃でございます。一緒に来ていただける?」さっきの女達が同じように優を囲んだ。
「文香を・・・」
「大丈夫。彼女には危害は加えません事よ。もっとも、貴方の反応次第ですけどね」
「なに・・・・!」
 優は促されまま亀乃に従った。


「これから面白い見せ物がございますの」
 優が連れて行かれた部屋は、何か研究室のようなところで、大きなガラス窓の向こうは、手術室のようになっている。
 手術室の真ん中の台、つまり手術台には男が一人拘束されていた。
「おまえら、辰巳の手先か!」
「手先なんて人聞きの悪い。ま、確かに親戚ではあるけれど。無駄よ、貴方は女性体にならなければ変身できないし、私は力を抑える特殊なフィールドで全身を包んでいるの。貴方が女性化しないようにね」
「そこまで・・・」
「この彼氏は、貴方と違って簡単に女の子になれないから、私たちが女の子にしてあげるの。どう、面白いでしょ。目が覚めたら全然違う自分に気づいてどう思うかしら」
「貴様ら・・・・」
「さあ、始めましょう」
 亀乃の合図とともに、手術室のクルー達が動き始めた。
 優は、周りを囲まれ、さらに文香を人質に取られてどうすることもできなかった。
 手術台の男に、次々と点滴や注射がなされ、電極が繋がれていく。
「彼は将来母になって、その子供は世界を支配する。でもここで間違えて貰っては困るわ。世界を支配するのは辰巳の息子ではないの。私の意志と遺伝子を受け継いだ偉大なる我が息子なのよ」
 処置が一段落して、クルー達は機械を操作し始めた。低い振動音とともに男の体が震え出し、そして変化が始まった。
「ほほほ、見てらっしゃい。今彼の体の中で私の遺伝子をコピーする転換剤と、それを活性化させる促進剤が駆け回っているの。そして彼の体と精神を私の忠実な影に作り替えて行きますのよ」
 亀乃の目は狂気を孕んでいる。優はどうにもできない自分を情けなく思った。
 やがて、男の姿は完全に女のそれに変わった。機械が止まる。
「ほほほ、どう、私の作った芸術品は」
 敗北感に打ちのめされている優の前で、女の姿に変貌したその「男」が立ち上がった。
 しかしその時、扉が突然弾けた。
「遅くなってごめんなさい!」
「何奴!ああ!」叫ぶ亀乃。その腕時計がカグヤのチョップによって弾ける。
「あ」あっという間に、女性化する優。
「ミーミル、早く!」
「ああ。女神転生!」
 優の変身するのと同時に、女達が次々と鱗状の皮膚を持った爬虫類人間に変貌していく。ミーミルとカグヤは、背中合わせの格好で二人を取り巻くトカゲ女達と対峙した。
「ごめんなさい。紗希ちゃん、なかなか昼寝してくれなくて」
「ほほほほ。変身されてしまっては仕方ありませんわ。三重子さん、後はお願いしますね」
 そう言うなり亀乃はその高価そうな着物を脱ぎ捨てた。
「げげ、亀女!」そこには、文字通り亀のような甲羅を付けた姿の女がいた。
「カグヤ!ここはあたしに任せて、文香を頼む!」
「はいはい」カグヤは群がるトカゲ女をなぎ倒して部屋を出ていく。
「ほほほ、なかなかやるわね。でもここからはそうも行きませんことよ」
 ガラス窓の向こうで、三重子が女に変身したばかりの「男」を連れていく。
「逃がすか!」跳ぶミーミル。しかし、その体は高熱とともに床に叩きつけられた。
「なんて・・・」不意に受けた強烈なダメージに、呆然と亀乃の顔を見据えるミーミル。
「ほほほ。いかが、私の火球弾は」
「この・・・ガ*ラじゃあるまいし」しかし、ミーミルはなかなか立ち上がれない。亀乃が迫る。
「思ったより弱いのね。辰巳の娘どもも大したことないわ」
 亀乃の腕がミーミルの胸ぐらをつかみ引き寄せる。
「ねえ、いっそのこと私と組みません事?辰巳を潰して世界を支配するの。貴方も大貴族にしてさしあげるわ」
「こ、とわる」答えるミーミル。
 ビシ!亀乃の平手打ちが跳ぶ。ミーミルは吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
「正直じゃない子ね。ま、結構。ではお礼にもう一発お熱いのを差し上げる」
 亀乃の指先に炎が孕み始める。
「ヴァルキューレ・・・」火球が発射された瞬間、ミーミルの体が白く弾けたように見えた。そのなかに火球が飛び込んでいく。
「何!」
「ミミー・グングニル!」決死のジャンプで火球をかわしたミーミルは、亀乃に向かって光の槍を放った。が!
「ウウ!」「え!」
 突き立っている光の槍。そこは、辛うじて身を翻した亀乃の背中、すなわち甲羅の部分だった。
「なかなかできますこと。では本日はこの位にしておきましょうか」
 亀乃は少し苦しそうな表情でそう言い放つと続けざまに火球を放った。
 たちまち炎に包まれる部屋。
「またお会いしましょう。しばしごきげんよう」
 炎の向こうで亀乃の声が響く。ミーミルは部屋を脱出した。


「おはよう」
 文香が目を開けると、優の顔があった。
「あら、私どうしたのかしら」
「あのなあ・・・いまさら可愛い子ぶらないの」
「へへへ、ああ、おなかいっぱい・・・あれ、で、ここどこ?」
「全く失礼な奴だな。食うだけ食って寝ちゃうんだから」
「えーどうしよう!まだ食べたいのあったのに」
 カグヤはすでに引き上げている。優もそれに習うことにした。
「あのねえ・・・もう遅いから。帰ろう」
「うん」
 文香は優に腕を絡ませた。


「お約束通り、お届けに上がりました」
「ほほう、これは見事」
 辰巳家の応接間に、亀乃と三重子、そしてもう一人和装の女が訪れていた。
「ご挨拶申し上げなさい」
 亀乃の後ろに控えたその女が進み出て平伏する。
「清華でございます」
「肩苦しい挨拶はよい」
 八蔵は、終始満足そうに微笑んでいた。
「何と礼を言っていいものやら」
「叔父上様、礼には及びませぬ。これは私めから叔父上への贈り物にてございます」
「そうかそうか。そなたのような姪を持つ儂は幸せだ」
「ほほほ、叔父上様ったら」
 妖しい微笑みを浮かべる亀乃の横で、清華が亀乃にそっくりの妖しい目つきをして微笑んでいた。

<つづく>



<次回予告>

「薫、開けて見れ」
「ワタシノ、ナマエ、ジョン。ジョン ヤング」
「待てジョン!武器が無い」
(あなたが現れるのを待っていた・・・)
「おのれ!許さん・・・光力招来!」
「正義の光、アポロン。光をかざし、闇を切り裂く」
「アポロン!アポロン!」
 次回「伝家の宝刀」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

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<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 目には*を*には歯を、女*は女を、(←マズい事書いたかもしれない・・・確信犯はだめですね)というわけで従姉妹には従姉妹の亀乃さんが登場してしまいました。おかしいな・・・この人一回で死ぬはずだったのに、意外と強そうだったので幹部に出世してしまいました。ついでに三重子のおばさん、もう少しで「八重」になるところでした(歳がばれるな:笑)。
 イメージとしてはそうですね、和装版「華の嵐」(もっと歳がばれるっちゅーの!)といったところでしょうか。はじめはザファイヤだったのに。
 次回は番外編です。最近相次ぐ新キャラ登場の波ですが、次回も何か出そうな雰囲気です。こんな事をしてて収拾つくんだろうか・・・でも最終回のネタはもう決まってますから。
 というわけで、また。


 KEBO。

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