女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十六話:漏れ聞こえのミッドナイト>

 日野神家のリビング。
「ところで紗希ちゃん、そのペンダント、どこで手に入れたの」
「えー、なんで」
 優と紗希がテレビを見ながら会話している。
「いや、その、ちょっと気になったから」
「あのね、お父さんのお友達で、NASAの職員の人がいるのね。その人が、私にってわざわざくれたの」
「それ、何の石?」
「月の石。なんでもこれだけ他のと違ったらしいの」
 優は石を手にとって見た。それは何かの結晶のように半ば透き通っており、まるで勾玉のような形をしていた。優が昔「アポロとスペースシャトル展」で見た月の石とは似ても似つかない代物だ。
「ふうん・・・」石を見つめる優。どうやら紗希は、自分がカグヤに憑依されていることにまったく気づいていないらしい。
「あげないわよ。その石気にいってんだから」
「別に要らないよ」
「なんだ。文香さんもいいなって言ってたから・・・」
「そんなねえ・・・似たようなの買ってあげるお金ぐらい、俺にだってあるの」
「よく言うわね、万年金穴のくせに。でもいいなあ文香さん。私もそんな風に誰かに言われて見たーい」
「あのなあ」


(ふふふふふ・・・・)
 どうも最近、よく眠れない。
 夏輝は、ベッドの上で寝返りを打った。どうもこのごろ妙な笑い声が聞こえるのだ。
(神経が疲れているのかな)
 彼は、大学の中でも随一の優秀な学生である。この不況下、すでに何社もの会社から誘いが来ていた。しかし、彼はまったく就職する気など無い。出来ることなら大学に残って研究を続けたいというのが彼の本音だった。
 それともう一つ、この頃気になっていることがある。
 どうも体の調子がおかしいのだ。昔から小食で細い方だったが、この頃筋肉が落ち、代わりに脂肪が付いてきている。それも腹が出るというのならわかるが胸や尻など、まるで女の子のような場所に脂肪が付くのだ。
 それにもともと女の子より勉強の方に興味があったのは確かだが、それでも最近本当に女というものに興味が無くなっている。
 それどころか、夢の中で自分が女になったりすることもしばしばだった。
(不摂生で肝臓でもやられたかな)
(それともどこか他に悪いところがあるのかな)
(どちらにしても相当神経いかれてるな)
 彼は彼なりに自分の変化について考えてみた。しかし何にも代え難い研究の時間を潰して医者に行く気にはなれない。
 とにかく、彼は身体を休めることにした。
(ふふふふふ・・・・・)
 またもや妙な笑い声が聞こえてくる。彼は聞こえないふりをして目を閉じた。
 やがて彼が眠った頃、部屋の天井から何かが降りてきた。それは、人間のように立ち上がると夏輝の枕元に立った。
「ふふふふふ、だいぶ進んだわね。でももう少し、スピードを上げてちょうだい」
 そいつは夏輝の身体に覆い被さると、首筋に毒針を突き刺す。
「う・・・」
「痛くない痛くない・・・ついでに素敵な夢でもご覧なさいな」
 頭とおぼしき場所に、電球のような目が光る。夏輝は、すぐに安らいだ表情になって再び眠りについた。
 しばらくして、その生物、真っ黒い毛むくじゃらな六本の腕と八つの目を持つクモ女スパイドールは、夏輝の身体を離れた。
「さて、この子はもう時間の問題ね。隣はどうかしら」
 クモ女は、出てきたときと同じように天井に消えた。


「うそ!」
「あそこってさ、無茶苦茶頭いい奴しかいないじゃん」
「でも安いし、学校近いし、設備それなりだし・・・」
 学食にたむろする優たち。仲間の一人、弘樹が学内では「秀才マンション」といわれている第二辰巳マンションに引っ越すと言い出したのだ。
 第二辰巳マンションはキャンパスに隣接した土地にあり、また彼の言うように安く古いマンションの割には設備も整っていたので新入学期には競争になるほどである。
 しかも、そのマンションにはここ数年来学内でもトップクラスの学生が何人も入居している。
「たまたま一部屋空いたっていうからさ」
「へーえ。で、いつ引っ越すの」
「いやあ、もう鍵は貰ってるから、あと荷物を運び込むだけ」
「よしよし、じゃあみんなで手伝ってやろう」
「いいよいいよ、そんなに荷物ないし、大人数だと怒られそうだし」
「だから行くんじゃねえか。賢い奴の生活って拝んでみたいよな」
「言えてる」
「いいからいいから。んじゃあ二人ぐらいまでで、交代交代な」
「オッケー」
「なんかでもこれ、頼む方が言う言葉じゃないよな」
 弘樹は首をかしげた。


「そういうわけですの」
「なかなか面白い趣向ね。で、順調に進んでいるの?」
 麗奈、綾奈、香奈の三人は、リビングというにはあまりにゴージャスなその部屋で談笑していた。
 綾奈が自分のプロジェクトについて説明している。
 辰巳コンツェルン傘下の不動産事業部の持ち物であるマンションで、密かにその実験が行われているのだ。
「そこが問題ですのよ。思ったより時間がかかって、まだ捕獲する段階に達していませんの」
「いっそのこと、先に捕獲して麗お姉さまのラボで実験なされたら」と香奈。
「それは駄目よ。今の実験体たちも確かに優秀だけど、私たちの弟を産むほどの器ではないわ」
「まあ残念」
 不動産事業部に命じて、「第二辰巳マンション」には、優秀な学生のみが集まるようにしてある。つまり、あらかじめ優秀な学生をピックアップしておいて入居を斡旋するのだ。
「それより、時間を短縮する手は打っているの?」麗奈が尋ねた。
「はいお姉さま。夕べからより強力な薬剤を順次投入しておりますわ」
「薬剤ね・・・気をつけなさい。副作用でも出たら水の泡よ」
「・・・それを言われると辛いなあ。その実験も兼ねてるのよ」綾奈が少し困った顔をした。
「まあいいわ、もう少し実験を続けなさい。そして実験体を捕獲した時点で結果を分析して段階的に本作業を実行していくといいわ」
「はいお姉さま」


「おい、大丈夫か?」
 学食にいつものメンバーが揃っている。普段は割と元気な弘樹が、珍しく少しボッとした感じで座っていた。
「他の住人に影響されて勉強しすぎたんじゃないの」
「いやあ、それもあるけど」
 弘樹はボケて見せた。仲間がしらける。
 彼はフォローに入った。
「いや・・・なんか妙なんだよな、あそこ」
「妙って?」
 弘樹が首をひねりながら答える。
「夜中に目が覚めてさ・・・なんか怪しげな声が聞こえるわけ」
「怪しげな声!うんうん、それで」
 優をはじめ他の連中は思わず身を乗り出した。もちろん、彼らの頭の中では怪しげな声の内容についてもっと怪しい想像が拡がっていく。
「でさあ、それがなんかどうも近付いてくるんだな、これが」
「近付いてくる!?」
 優たちは完全に意表を突かれた。
「なにそれ、みんなでAV回して見てるとか?」
「いやあ、わからんけどその後もっと変、ていうか妙なことがあってさ」
「なになになになに?」
 身を乗り出した優たちの顔がだんだん弘樹に近付いていく。
「いや、やっぱやめとこ。あまり思い出したくないわ」
「げげ、そこまで言って言わないのかよ」
 優たちの期待に満ちた視線が弘樹に突き刺さる。
「うーん・・・絶対変態とか思わない?」
「何!?そんな変態チックな事だったのか?」
 弘樹は後悔した。完全なやぶへびだ。
「しゃあないな。その声が近付いてきたら眠っちまってさ、それから妙な夢見たんだよ」
「夢?」
「そう。笑うなよ、クモの化け物が出てきてさ」
 優たちは完全にぶっ飛んで笑っていた。弘樹との距離が一気に拡がる。
「やっぱやめとこうかな」
「ごめんごめん、で」
「なんかそのクモの糸かなんかで捕まるわけ」
「うんうん」笑いをこらえる優たち。
「でさあ、全身糸でくるまれて、身動きとれなくなって、そのうちなんか突然自由になったと思ったら」
「思ったら?」
「・・・・・やっぱやめよ。変態と思われる」
「何だよ何だよ、そこまで言ったんだから言えよ」
 弘樹の声のトーンが下がる。
「思ったら、俺、チャイナドレス着た姉ちゃんになってんの」
 停止する優たち。というか彼らは、必死に笑いをこらえていたのだ。
 弘樹は一気に最後まで話した。
「で、なんか等身大の鏡かなんか見て焦って、うそ!とか言ったらその声で目が覚めた」
 長い沈黙・・・。
「あのなあ、俺はそのケ無いからな」弘樹は、必死に自分をフォローした。
「わかってるって。テレビでも見すぎたんじゃないの」
「たぶんな。でもさ、妙にリアルな夢だったんだよ。色付いてたし、その・・・チャイナの感覚がまた妙に気持ちいいんだ、これが」
 どうやら弘樹は開き直ったようだ。
「で、結構美人だったとか」仲間の一人が突っ込む。
「あったりめえよ。まあ、そこらの女子大生よりは美人かな」
 優たちはどっと笑った。
「でもさあ、夢はともかくその怪しい声って気にならない?」
 みんなが弘樹の顔を見る。
「おいおい、みんなして泊まるっていうんじゃないだろうな」
「わかった。ここは一人づつ、交代で」
「よーし、じゃ順番決めよう」
「おいおいおいおい」当事者の弘樹をよそに話は進んでいく。
「せーの、ジャンケンポン!」
「勝ったぁ!」優がグーを出した拳のままガッツポーズをする。
「そんなに気合い入れて喜ぶようなことか・・・・?」弘樹はあきれ顔をした。


 というわけで、優は弘樹の部屋に泊まることになった。
「すげえな・・・」感心する優。まだ荷物は段ボールに入ったままだったが、中身が本の段ボールが何箱もある。
「別に・・・見なきゃただの紙だよ」
 弘樹は涼しい顔をしてパソコンに向かっていた。
(そうか。意外と弘樹もここの住人にふさわしいのかもな)優が密かに思ったその時、弘樹が突然動きを止めた。
「何?」
「聞こえる・・・」
 耳を澄ます優。なるほど、まるでアダルトビデオのような女の声が遠くから聞こえてくる。しかし、聞こえてきたのはそれだけではなかった。
「でもさ、なんか笑い声も聞こえない?」
「うん。そう、言わなかったけど、あの笑い声、夢の中に出てきてさ」
「?」
「クモの声」
 その声はゆっくりと、確実に近付いてくる。弘樹が突然、パソコンデスクに突っ伏した。
「おい、おい!」
「俺、寝るわ」弘樹は怪しい足取りでベッドに倒れ込むと布団に潜った。
 怪しい声はすぐ隣の部屋から聞こえてくる。明らかに女の声と笑い声の主は別だ。
「フフフフフ・・・・・」声がやがて、真上にやってきた。優の身体が変化し始める。
「そういうことだったのか」
 突然天井が開き、そこからクモ女がその姿を現した。
「あらまあ、女の子なんか連れ込んで。それに、どうして起きてるの」
「あのなあ・・・俺、男なんだけど」優は見るからに女になった姿で言った。
「え、でもあなたに噛みついた覚えないわよ」
「仕方ないな。行くぞ」
「え!?」
 優はクモ女の前で左手を差し上げた。
「女神転生!」
 ピカァァァン!知恵の瞳が輝いた。
 知恵の瞳は指輪から離れると優の頭上で輝き、次第に形をとっていく。
 次の瞬間、手、脚、胴体、そして最後に頭と、輝きの中で取られた形がちょうど光で作られた鎧のように優の体を包みこむ。
 クモ女はようやく状況を理解した。
「お、お前は一体・・・」
「女神仮面、ミーミル!」
 ミーミルは、弘樹の眠るベッドを背にしてスパイドールの前に立った。
「おのれ・・・」クモ女は、慌てて廊下へ飛び出していく。ミーミルはそれを追ったが、突如何かが身体に絡みつき、その動きを止められた。
「フフフ、かかったわね」
 ミーミルが絡まったのは、廊下に張られたクモの巣状の糸だったのだ。
「私の特製生糸を着せてあげるわ」クモ女は尻から液状のものを噴射する。それは糸となってミーミルの全身を包み込んだ。
「ちくしょう!何が目的でこんな事をするんだ!」ミーミルが叫ぶ。
「さあなにかしら。でも残念ね、ここで絞め殺されることになるなんて」
 クモ女が糸の端を引っ張った。少し引いただけでミーミルに絡みついた糸はその身体を締め上げ、糸が食い込んでいく。
「本当ならゆっくりとお料理したいところだけどそうもいかないわ。今日は忙しいのよ。そろそろ死んでもらうわ。さよなら、女神仮面さん」
 クモ女の糸を引く手に力が加わった。苦しむミーミル。
「ううううう・・・ヴァ、ル、キューレ」ミーミルは辛うじてその言葉を唱えた。そして数瞬後・・・
 ヴァッ!ミーミルを包んでいた糸が弾けた。
「何!」うろたえるクモ女。
 弾けた糸のかけらの中で、小さな何かが集まりミーミルのマントになった。
「よくも痛い目に遭わせてくれたわね。今度はこっちの番よ、ミミー・グングニル!」
 右手の先に、光り輝く槍が現れる。ミーミルは、それをしっかりと握るとクモ女の方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!クモ女に向かってまっすぐに飛ぶ槍。
「ウギャァァァァ!」
 光の槍が、クモ女の胴体を貫く。クモ女は、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。


「申し訳ありません・・・思わぬ邪魔が」
「仕方ないわ、次の手を打ちましょう。でも本当に目障りね、あの二人プラス一人」
 麗奈は、苛立ちながら次の指示を出した。
「とりあえず選別作業を急ぎましょう」


「なんだ、つまらない」
「結局隣のAVまる聞こえだっただけかいな」
 優と弘樹は、「事情」を説明していた。しかし最後に、弘樹はまた余計なことを言ってしまった。
「でもさ、あのチャイナ、着心地よかったんだよな・・・・」
「あちゃ・・・」
 優たちは一瞬止まると無言で首を振った。

<つづく>



<次回予告>

「親父の仇は俺が必ず取る」
「毒牙とは少々人聞きがよろしくありませんわね」
「ホント。丸茂ちゃん、友達いないの?」
「見たわね!」
「辰巳の手先め!俺が成敗してくれる」
「や、め、ろ・・・」
「辰巳の敵は俺の友」
 次回「憎しみの太陽」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 「女神仮面ミーミル」第十六話「漏れ聞こえのミッドナイト」をお届けします。
 今回は仮面ライダー伝統のクモネタでした。クモさんっていろんな技があるので怪人にしやすいのでしょう、きっと。
 ちなみに今回のミーミルちゃん、はっきり言って無敵でしたね。格闘なしでいきなり必殺技使うパターン、私結構好きだったりします。それに文章だとその辺が結構難しかったりもするので(←てぬきだあ!)。
 でもどうせ格闘技で倒せないのなら、始めから飛び道具や必殺技使う方が有効だと思います。ライフル持ってる相手に殴りかかる奴はまず勝てないだろうし。まあともあれヒーローの必殺技はまず外れませんからね。
 では。


 KEBO。


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