女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十五話:天使降臨(後編)>

 紗希と、三人の女は、しばらく睨み合いを続けた。
「構わないわ、プルトリス、こいつを凍らせてあげなさい」
「ハ!」
 プルトリスが再び口から青白いブレスを吐く。しかしすでにブレスの先に紗希はいなかった。
「何!」身構える三人の女。彼女らを見下ろすように木の上から声がした。
「ほほほほほ。巳の一族よ、己の野望のために娘のような罪無き者を利用しようとするなど言語道断ですね」
 三人の女のうち、リーダー格の女が他の二人を押さえて進み出ると、頭に被ったフードを外して紗希に対して向き直った。
 その顔を見て驚くアポロン。
「あ、あの超お嬢」紛れもなくその女はベントレーの女だった。
 麗奈は構わず続けた。
「いかにも私は巳族の姫、名は麗奈と申す者。そちらも名を名乗られたい」
 紗希は、いや紗希の身体にいる誰かは、ひょいと地面に飛び降りると名乗った。
「私はカグヤ。月の皇女」
「これは・・・月の皇女たるお方が、何故我らの大業を阻まれるのか」
「大業とは聞いてあきれる。自らの野望の成就を大業とはね」
「地球圏を救うためにはやむを得ぬものにて」
「救う?誰がそう望んだのです?少なくとも我らは巳の一族に救いを求めてはおりません。人間も同じでありましょう」
「それは・・・もうよいわ!月の皇家が敵に回るというなら、戦うまでのこと。カグヤ殿、今日はあなた様に免じて見逃そう。しかし今度会うときは敵同士、近い内にその娘を貰い受けに参る故その身体から離れておくがよろしかろう。さらば」
 言い残すと、麗奈は他の者を従えてどこかへ消えた。
「一体どうなってんだ」アポロンがカグヤに話しかける。
「おお、挨拶が遅れました。私はさっきも名乗ったとおり、月の皇女カグヤ」
「カグヤ!?」
「我ら月の者は、創世の頃より地球とは切り離せぬ関係にて」
「で、なんで紗希ちゃんの身体に?」
「巳の一族が、地球支配の野望を再び成就させようとしているのです。その一方で巳の一族には、現在跡取りがおりませぬ。それゆえ、優秀な若者を集めて族長ヤマタの子を産ませ、巳族の血を引く者たちとしてその者たちにいずれ世界を支配させようとしているのです」
「優秀な若者・・・」
「そう、いまヤマタが求めているのは優秀な人間の遺伝子なのです。それは何も女子に限ったことではありません。彼らは必要とあらば男子を女子に変えてでも、子を産ませようとするでしょう」
「おいおい、またかよ・・・」ミーミルがつぶやいた。
「巳の一族とは、一体?」アポロンが尋ねる。
「人間たちが、神と呼ぶ種族の内の一つです。世界中にある蛇神、龍神の伝承は、ほとんどが彼らの物。彼らはこの度の地球の危機に際して自分たちだけが地球を救いうると考えているのです」
「地球の危機!?」アポロンとミーミルは声を合わせて驚いた。
「あなたたちは知らないのですか?あの闇の神々が蘇りつつあるのです」
(彼がわらわの夢を叶えてくれる)
(・・・私が・・・最後・・・では・・・ないぞ・・・)
 アポロンとミーミルは女王Bの言葉を思い出していた。
 カグヤが続ける。
「私はその成り行きを見届けるために月から来たのです。しかし、これでとりあえずは巳族の暴走を止めなくてはならなくなりました。あいや、そろそろ戻らねば、この娘の身体に負担がかかりすぎます。では」
 そう言うと、カグヤ、いや紗希は崩れるように倒れた。


「何、月の皇家が・・・」
「はい。それだけではございません、太陽仮面アポロンなるもの、並びに女神仮面ミーミルなるものが我らの邪魔立てを」
 三姉妹が、八蔵に報告している。
「何と言うことだ・・・」
「知っているのですか」
「知るも何も、アポロン、ミーミルといえばあのフェムニスを壊滅させた者達だ」
「なるほど・・・ならば、彼らをこちら側に引き入れてみては」
「それは無理だ。彼らは光の一族。自己以外の犠牲という考え方を持つことが出来ぬ。たとえば誰か一人が死なねばならんとなれば、彼らは自分以外をその犠牲にはできぬのだ」
「・・・しかし」
「その通り、計画は予定通りに進める。彼らが邪魔立てをするとなれば排除する他あるまい」
「しかし・・・かしこまりました、父上」
「よいか、地球圏すべてのためだ。いずれ誰もが我らを讃える日が来る」
「わかっております」
「ところで、それ以外の首尾はどうだ」
「こちらを」
 モニターに二つの部屋が映し出される。
「ほほう、見事だな」
 簡易ベッド意外には何もない部屋に、男が一人ずつ監禁されていた。その男たちは手術着のような服を着せられ、そのシルエットは心なしか細く滑らかに見えた。
「私が持ち帰ったウィルスを毎日数回ずつ投与しているお陰で、この男たちの細胞は急速に、かつ効率よく女性化しています」
 麗奈が答えた。
「にしても肝心の女の方を逃がしてしまうとは・・・女ならばこんな手間をかけずとも済んだものを」
「申し訳ありません。しかし現在リストの中に、失踪しても問題沙汰にならないよう者は男性ばかり、女性はほとんどおりません。今回のことはあくまでも最終的に各界の理解を得ないわけには行かぬもの・・・」
「わかっておる。まあいい、私が欲しいのは優秀な遺伝情報だ。それもクローンではなくオリジナルのな」
「恐れ入ります。しかしご心配は不要です。向こうの機関での失敗は今のところ一例もありません。もっとも、生殖能力という点においてはまだ未評価ですが」
 八蔵たちは研究室を後にした。
「他のセクションは進んでおるのか」
「はい。いくつか最終評価を行っている物があります」今度は綾奈が答える。
「慎重に行え。報告ではフェムニスの技術は我らの目的には適さぬ。お前達が頼りだ」
「心得ております。さしあたっては明晩、再びもう一人の娘を」
「よろしい。期待しているぞ」
「は」


「ってことでさ」
「しばらく外歩きさせないようにせな」
 日野神家のリビング。紗希はそのまま部屋に寝かせてあった。
「なんかまたとんでもないことに巻き込まれたみたい」優が、頭を抱える。
「何を言うかな。ヒーローの宿命だ、あきらめろ」軽く流す薫。
「あのなあ、俺は好きでやってんじゃないの。それに俺はヒーローじゃない」
「そうよ。ミーミルはヒロイン」蘭が補足した。
「あのね、そういうこと言ってんじゃないんだけど」
「優、まあ仕方ないと思ってあきらめるんだな」と稔。
「親父まで・・・」
「それとも優、女の姿のままずっといたいか?」
「あのなあ」優の血が徐々に頭に昇っていく。
「そうよ。結局彼らを倒さないことには、また身体が勝手に女の子になっちゃうんだから」
 蘭の一言に、ついに優は切れた。
「いい加減にしろ!いつもいつも他人事みたいに。誰のせいで俺がこうなったと思ってるんだ!」
「誰のせいでもない。そういう運命だったのだ」稔があっさりと言った。
「さあ、もう遅いし、お休みなさい」
「え、あ、おい!」
 優の止めるのを一顧だにせず、日野神家の面々は部屋に戻っていく。
「いつもいつも!何て冷たい家族だ」


「ねえゆーくん、面白かったね」
 次の晩、優にとって久しぶりのは文香とのデートだった。
 映画を見た帰り、これから食事に行くのである。
「で、今日はどこに何を食べに行くの」
「待ってました!N島公園の中の、Bキッチン!」
「何が美味しいの」この手のやりとりにはもう慣れていた。優は時々文香の頭の中は半分以上食べることで占められているのではないかと思うときがある。
「もちろん、焼きたてパン食べ放題」
「また、食べ放題・・・・?」
 最初の頃は間違ってもこんな事は言わなかった。最近は雰囲気や質よりも量に重きを置いているらしい。まあ、万年金穴の優としてはその意味では助かるのだが。
「いいじゃない。好きな物を好きなだけ食べられるんだから」
「ま、いいけどね。とりあえず行ってみよう」
 二人はN島公園へやってきた。と、その時である。
「あ!みーちゃったみーちゃった!優おにいちゃーん!」
 驚いて振り返る優、そして文香。
 見れば紗希がこちらに走り寄ってくる。
「さ、紗希ちゃん・・・」
「やだあ、優お兄ちゃんのかのじょお?」
 文香が無表情に優を見る。
「ゆーくん、誰?」
「あ、昨日からウチに来た、従姉妹の紗希ちゃん」
「宮路 紗希です。もう、優お兄ちゃんたら一人前に彼女なんか作って。で、どこまでの関係?」
「あのなあ、そういうこと言うかよ」
「えー、だって十七の乙女としては興味津々なんだもん」
「興味津々でも聞いていいことと悪いことがある」
 文香は相変わらず無表情だ。
「あ、あのさ、昨日までアメリカで暮らしてたもんだから、その、ちょっと常識ってやつがさ・・・紗希ちゃん、夜の一人歩きはいけないって言ったじゃないか。ったく兄貴もお袋も。わかったらさっさと家に帰りなさい」
 文香が、妖しい含み笑いを浮かべる。彼女は必殺のセリフを吐いた。
「優しいのね、ゆーくん。ところで私おなか空いた」
「わかった。じゃあ紗希ちゃん、ちゃんと家へ」
「ちょっと待ってよ!じゃあここから家まで私に一人で帰れって言うの!」
 優は唖然とした。紗希ははじめからそのつもりで、文香もそれを察知していたのだ。
「ったく・・・」優は文香の顔を見た。含み笑いがくすくす笑いに進化している。
「わかったわかった、一緒に行こ」
「やったぁ!」


 とんだ散財だった。
 昨日の焼き肉の時には気づかなかったが、紗希も文香に負けず劣らずよく食べることが判明したのだ。しかし、気づいたときには既に遅く、優の財布はほぼ空っぽになってしまう事が確定していた。
「アーおいしかった」
「同上同上」
 文香と紗希は気があったらしく、優はなぜかおまけのようである。
 レジで金を払う間に、二人はさっさと店を出て、優の出てくるのを待っているようであった。
 しかし、優が店を出ると、二人はいない。
「あれ、あいつら・・・う!」
 唐突に身体が変化し始めた。とともに、悲鳴が聞こえた。
「キャー!」文香の声だ。
「またかよ・・・」
 優は女性化していく身体を引きずって急いだ。


「ハハハ、コオラセルテマガハブケタワ」
 プルトリスが、気絶した二人の娘に迫る。しかしその目に何かが弾けた。
「ウッ!ナニモノ!」
「女神仮面ミーミル!」
 ミーミルは、変身しざまにジャンプし、プルトリスに一撃を食らわせたのだ。
「オノレ・・・マタオマエカ」
 プルトリスがミーミルを攻撃に移った。長い尾や、太く鋭い爪が次々と空を切る。
「ヤア!」
 その隙をついて、ミーミルの回し蹴りがプルトリスの腹に炸裂した。しかし、プルトリスの固い鱗はその蹴りを跳ね返し、ミーミルは逆に吹っ飛ばされて地面に転げた。
「うわ」
「クラエ!」
 プルトリスの氷のブレスが延びる。
「あああああ!」辛うじてかわしはしたものの、ブレスが掠めた右手が凍り付いてしまった。右手を押さえて苦しむミーミル。
「ハハハハハ、ショセンソノテイドカ」
 プルトリスがじわり、と迫ってくる。しかしその時、また紗希がむくりと立ち上がった。
「どうやら私が戦うしかないようね」
「ナニ!」
 紗希、いや紗希に憑依(?)したカグヤは、左手を上に、右手を下にして伸ばした。
「ムーンライト・イリュージョン!」
 叫びながら今度は、右手を斜め上に、左手を斜め下にむけちょうど三日月のようなポーズを取る。
 首に掛かったペンダントが輝く。と同時に空から彼女に向かって光が降り注いだ。
 光の中、彼女の身体に光の鎧が装着されていく。
「ナ、ナニヲ・・・」うろたえるプルトリス。
 光が収束し、そこに西洋の甲冑のようだがもっと身体にフィットしたサイズのレモンイエローをした鎧、いやスーツを身に纏った彼女が現れた。
「月光天使、カグヤ!」
「オノレ・・・」プルトリスは、再び巨体から攻撃を繰り出す。
「ミーミル、奴の弱点は首よ!首を狙うの!」
「了解!」ミーミルがジャンプする。
「ヤア!」「タア!」
 ベシ!嵐のような攻撃をかわして、ミーミルとカグヤのコンビネーションキックがプルトリスの首に炸裂した。
「ウウウウウ・・・・」よろけるプルトリス。
「とどめよ!ルナチック・ブーメラン!」
 カグヤが両手を広げて十字の体型をとった。腕と腕のラインが胴体を通って眩い光を放つ。カグヤがその光を曲げるように両手の先を合わせた次の瞬間彼女の右手に大きな三日月型の光の固まりが現れ、彼女はそれをしっかり握るとプルトリスに向かって放った。
 ヒョォォォォォ!凄まじい速度で回転しながら飛ぶ光のブーメラン。
「ギャアアアア!」プルトリスの断末魔の叫び。ブーメランはプルトリスの周りを一周するとカグヤの右手に戻った。受け止めるカグヤ。
 プルトリスの胴体が首と切り離される。カグヤの右手のブーメランが光の粒子になって天に昇っていくと同時に、プルトリスも燃え上がって消滅した。
 それに続いて、カグヤのスーツも光の粒子になって天に昇っていく。元の姿に戻ると、彼女はその場に崩れ落ちた。


「文香!」優は例によって文香を抱き起こしていた。
「う、うう・・・あ、ゆーくん!」
 文香が優に抱きつく。が、彼女はすぐ優から離れた。
「どした?」
「えへへ・・・」
 文香がごまかすように笑って指さす。優が振り向くと、紗希が意識を取り戻しつつあった。
「・・・・紗希ちゃん、ほら、帰るよ」
「う、うーん」
 まだボケた感じの紗希と、文香を伴って、優は歩き始めた。


「プルトリスが・・・・」香奈は少なからずショックを受けていた。
「ふふふ、面白くなってきたじゃない。ライバルがいるからこそ、面白味があるってものだわ」麗奈がさらりと言う。
「お姉さま・・・」綾奈も驚いていた。
「さあ、早速次の作戦に移りましょう。ゆっくりしている暇はないわ、あの小賢しいカグヤと、ミーミルたちを叩きのめすのよ」
 麗奈の目には、妖しい炎が燃え始めていた。

<つづく>



<次回予告>

「痛くない痛くない・・・ついでに素敵な夢でもご覧なさいな」
「へーえ。で、いつ引っ越すの」
「・・・それを言われると辛いなあ。その実験も兼ねてるのよ」
「その・・・チャイナの感覚がまた妙に気持ちいいんだ、これが」
「フフフフフ・・・・・」
「何が目的でこんな事をするんだ!」
「さよなら、女神仮面さん」
 次回「漏れ聞こえのミッドナイト」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 結構迷いましたが、結局出してしまいました、三人目の戦士です。しかしカグヤちゃんの変身、こうしてみるとほとんど蒸着の世界ですね。もしかしたら、わずか0.05秒ぐらいで変身できるのかもしれません(←まるで他人事のように・・・)。
 おわかりのように、第二クールは辰巳三姉妹編です。これはカグヤちゃんこと紗希ちゃんの名前から発展させたので、こうなってます(わかる人にはわかると思います、はい)。紗希ちゃんという名前は、何とはじめからあったんですね。だって薫、ゆうときたら次はさきでしょ・・・(失礼)。
 ではまた。


 KEBO。


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