女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十四話:天使降臨(前編)>

「でさ、なんで俺が迎えに行くわけ」
「いいじゃないか、どうせ暇なんだろ」
「暇じゃないよ。俺だってデートの約束ぐらい」
「要は暇って事じゃないか」
「違うっつーの」
「二人とも、そんな事言わないで二人して行ってあげたらいいじゃない」
 日野神家のリビング。優と薫がもめている。
 ずっとアメリカで暮らしていた従姉妹、宮路 紗希が一人で帰国することになったのだ。
 彼女は稔の妹、未希の長女に当たる。未希の夫は某大手家電メーカーの技術畑の叩き上げ重役で、今ではアメリカの現地法人のトップである。
「ちなみに何で紗希ちゃん一人で帰ってくることになったの?」
「知らない。どうも未希さん、紗希ちゃんを日本の女子大に入れたいらしいのよ」
 未希は、日野神家の中でも出来は別格だったようで、超お嬢様女子大と言われるS女子学院大をトップで卒業していた。よって娘を同じ大学に入れたいらしいのだ。
「でもさあ、今から受験勉強して間に合うの?紗希ちゃんもう高校三年じゃないっけ」
「そこはぬかりないわ。あそこの付属には帰国子女の受入枠あるもの」
「なるほど」
「さ、二人で仲良く迎えに行ってらっしゃい」
「しゃあないな。でも、俺、顔覚えてない」
 薫が言った。当然である。最後に会ったのはもう十数年以上前、紗希がまだ日本にいた頃の話だ。当時まだ彼女は五歳か六歳だった。
「だから、名前書いた紙もって到着ロビーに立ってればいいのよ」
「げ、ハズカシイ・・・」今度は優が言った。
「別に恥ずかしくないじゃない。そろそろ行かないと、間に合わなくなるわよ」
「はいはい」
「ハイは一回でいいの!」
「ふァイ!」薫と優は声を合わせて元気に答えた。


「お帰りなさいお姉さま!」
 到着ロビーに現れたその女に、二人の妹と思われる娘が笑顔で近付いていく。
 女は、サングラスを外すと妹たちに笑顔を返した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
 妹たちの後ろに、使用人のような雰囲気の男が数人続き、女の荷物をすべて受け取って運ぶ。
「すげえな、どこのお嬢様だ」薫は、到着ロビーで紗希が現れるのを待ちながらそのやりとりを見ていた。
「すげえなじゃねえよ。人にこのみっともない紙切れ持たせて」
 「宮路 紗希」とマジックで書いた紙を持っているのは優である。その向こうに、一人の若い女が現れた。
 彼女はカートを押しながら真っ直ぐ優の方に向かってくる。
「薫、お兄ちゃん?」彼女は優に向かってそう言った。
「紗希ちゃんかい?」
 その女の子は、茶髪を振り乱して優に飛びついた。
「わお!ひっさしぶり!」
「おいおい、俺は薫じゃない。優お兄ちゃんだ」
 紗希は、一度優から離れると、まじまじと優を見つめた。
「えー、もうどっちがどっちだかおぼえてなーい」
「兄貴、おい兄貴!」
 優が薫を呼ぶ。薫はまださっきの女を見ていた。
 女は、到着ロビーの外に待たせて会ったベントレーに妹たち共々乗り込むと、ターミナルから走り去っていった。使用人たちか、二台ほど黒塗りのベンツが付き従う。
「いやあ、やっぱ金持ちは違うわ」
「おい兄貴!」
「ん」ふと我に返る薫。
「薫お兄ちゃん、ただいま!」
「おお、おかえり。大きくなったね」
「あったりまえよ!」
 優はいささか、この紗希の元気に圧倒されていた。
「さ、荷物持とうか」
 薫と優は、手分けして紗希の荷物を持つと、駐車場に向かった。


「はい、無事に到着しました。そちらへは一時間ほどで着けると思います」
 ベントレーの後部座席。辰巳 麗奈は受話器を戻した。
「いよいよですのね、お姉さま」次女の綾奈が微笑みながら言う。
「そうよ。お父様と、私たち姉妹、そして生まれてくるべき弟たちが、人類を正しく導くの。そして、破滅から守るのよ」
 ベントレーは、二台のベンツに守られながら高速を走っていく。


「やっぱ疲れたんだな」
「そりゃあ、十時間以上だろ」
 帰りは、薫が車を運転していた。
 紗希は、後部座席でぐっすり眠っている。
「でもいいなあ。俺も一度でいいから海外留学してみたい」優がつぶやく。
「それは、頭のある奴が言うこと。それに、紗希ちゃんの場合留学してた訳じゃないし。かえってこれからの方が留学みたいになるんじゃないか」
「そうかもな」
 日野神家に着いた頃には、もう外は暗くなっていた。
「いらっしゃい」蘭が笑顔で迎える。
「こんにちは。どうぞよろしくお願いします」紗希は、さっきの元気さとはうって変わって淑やかな声を出した。
「というわけで、今日は焼き肉屋だ」稔が、すっとぼけた声を出す。
「あらやだ、叔父さんたら」笑う紗希。
「とりあえず荷物を部屋に置いて、食事に行こう」
「親父、食うことばっかり考えるなよ」薫と優は目が点だ。
 紗希は、当分の間日野神家で暮らすことになっている。稔は張り切って自分の部屋を空けたのだ。
 しばらくすると、紗希が着替えてリビングに現れた。
 止まる日野神家の面々。
「あの、どうかしまして?」
「い、いや、別に・・・」
 彼女の格好は、どう見ても十七、八には見えなかった。見方によっては薫より年上に見えるかもしれない。
「可愛いからって見とれてないの。さ、行きますよ」蘭が、急き立てる。日野神一家と紗希は焼き肉屋へ向かった。


「ただいま戻りました」
 豪邸、辰巳家。その地下、祭壇のような部屋の中央の、まるで玉座のような椅子に、辰巳コンツェルン総帥、辰巳 八蔵は掛けていた。
「ご苦労。疲れているところ悪いが、早速計画をスタートさせたい」
「もちろん。そのために私は戻ったんですもの」
 麗奈、綾奈、香奈の三人は、まるで何か儀式を行うかのように、真っ黒いローブ姿をしている。
「ほほう、心強い限りだ。A計画はすでに動き出している。して、B計画のターゲットは」
「今のところ、とりあえずこの三人が浮上しました」
 麗奈は三枚の写真を取り出した。そのうち一枚は、何と紗希である。
「男二人には既に監視を着けております。女は、今日日本に戻ったはずです。私と同便で」
「そうか。では早速捕獲するがよい」
「かしこまりました」
 綾奈が合図をする。一人の女が裸のまま連れられてきた。
 女は床に描かれた魔法陣に横たわり、目を閉じる。
 麗奈が頷く。三姉妹は魔法陣を取り囲むように立つと、何やら呪文を唱え始めた。
「アジバ・ナドバ・アフミハ・レミサ・ハムナ・ペドロソ・・・・・」
 呪文を唱えながら三人は、その左手を突き出し互いにつなぎあった。そして右手でその左手の指先に、剃刀で傷を付ける。
 指先から、三人の血液が混じり合い、横たわる女の腹部に滴る。その腹部から、女は変化し始めた。
「ア、アアア・・・」
 女が悲鳴を上げる。それに構わず三人は呪文を唱え続けた。
 女の身体は、徐々に青い鱗で覆われていく。そして魔法陣が光り始めた。
「ア・・・ア・・・ギャアアア!」
 女の悲鳴が絶叫に変わった。と同時に魔法陣から青い煙が立ちのぼり、女の身体を包み隠す。三姉妹は、手を引くと両手を広げて固くつなぎあい、声を合わせた。
「我が巳一族の血よ、この者に新たな命を与え賜え!」
 煙が中央部に集結していく。そして、その煙の中に大きな翼ある龍のシルエットが現れた。
「私はプルトリス。すべてを凍らす者」
「プルトリスよ、我が与えし使命に答え賜え」
「心得てございます」
 煙が消えた。そこには、さっきの女が立っていた。しかしその顔は妖しい微笑みを讃えたまま真っ直ぐ麗奈を見つめていた。
 麗奈は、彼女に三枚の写真を渡した。
「その三人を捕らえてまいれ」
「かしこまりました」
 女は、服を着ると身を翻して夜の街に出かけていった。


「あ、優!それ俺が焼いてたのに」
「へへ、くったもん勝ち」
「こいつ・・・」
「あははは、お兄ちゃんたち全然変わってない」
 稔の行きつけの焼き肉屋に、楽しい歓声が上がる。
「あー食った食った」
「お前は食い過ぎだ」
「兄貴こそ、実は俺より食べてたじゃねえか」
「う・・・ばれたか」
「二人ともいい加減になさい」
 食事の後、一家四人と紗希を合わせた五人は、一路日野神家に向かっていた。
「今日からお風呂は激戦ね。紗希ちゃん、とりあえず先にお入りなさい」
「あ、すいません」
 四人の時も結構順番が大変だったので、蘭の心配は当然のことだった。とその時、どこからか悲鳴が聞こえた。
「うわぁー!助けてくれ」
「何だ?」
 優と薫は悲鳴の方へ走った。しかしそこには誰もいない。
「何だったんだろう?」
 顔を見合わせる二人。しかし、優の身体は何かに反応した。
「う、うそ!」
「馬鹿な・・・フェムニスは滅びたはずだ」薫も驚く。しかし、それに関わらず、優の体脂肪はどんどん移動し、やがて優の姿を完全に女性に変えた。
「え、まずいよ。まさか紗希ちゃんにこんな姿見られたら・・・」高く細くなった声で焦る優。
 しかしそれよりも先に、事態は進んでいた。
「ふふふ、その子を渡してちょうだい」
 女が、蘭と稔に迫っていた。
「なんでお前にわたさなならん」稔は、とぼけた顔で答えていた。紗希が、その稔の背中にしがみついている。
「理由を言う必要はないわ。渡さないなら」
「なに、怪人にでも変身するの」蘭がからかうように言う。
「う、なぜわかった」一瞬うろたえる女。
「見ればわかるわよ。あなたの影、人間じゃないもの」
 蘭は指さした。なるほど、月明かりに浮かぶ女の影は人間の物ではなかった。
「本当だ。さすが母さん」感心する稔。しかし、それは紗希をさらに怯えさせただけだった。
「お、叔父さん・・・・一体どうなってるの」
「さあね。紗希ちゃんは可愛いから、ファンが多いんだよ、きっと。おーい、薫、出番だぞ」
 平然と薫を呼ぶ稔。
「おのれ、ならば力尽くで貰い受けてやる」
 女は、目を見開いた。逆立つ髪。
「キャアアアア」その出来事に、悲鳴を上げる紗希。彼女は、そのまま力無く倒れた。あまりのことに気絶したようだ。
 それを見て、蘭も叫ぶ。
「優、いいわよ!」
「ウガガガガ・・・」蘭たちの目の前で、女はその正体を現した。人間だった身体に鱗がびっしりと生え、そのままその身体が西洋の昔話に出てくるような、二本脚で直立する翼あるドラゴンの姿になっていく。
「げげ」うろたえる稔。彼はドラゴンの顔を見上げた。まさかこんなに大きいとは思わなかったのだ。
「サア、オンナヲワタシテモラオウ」
「待て」
 プルトリスは後ろからの声に振り向かされた。
 薫はプルトリスを見上げて言った。
「その子をさらってどうする」
「オマエニハ、ハナスヒツヨウナドナイ」
「ならば渡せんな。行くぞ、光力招来!」
 薫の叫びと共に、左腕のブレスレットが光り、そしてその光が渦を巻き薫の姿を隠していく。そして姿が隠れると同時に、まるで皆既日食のように光に縁取られたシルエットが浮かぶ。
 やがて頭頂部にダイヤモンドリングのような光が現れ、再び眩い光がシルエットを隠す。そしてその光が不意に消えると、そこには、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士がいた。
「キサマ、ナニモノダ」
「闇を切り裂く正義の光!太陽仮面アポロン!」
「オノレ・・・」アポロンに襲いかかろうとするプルトリス。しかしプルトリスは再び鋭い声によって制止された。
「ちょっと待って!こっちも忘れて貰っちゃあ困るねえ」優が高い声で言い放つ。
「どうした、今日はやけにやる気じゃないか」アポロンが怪訝な顔をする。
「まったく・・・だってこいつら倒さないと、また女になっちゃうじゃないのよ」
 優は左手を差し上げた。
「女神転生!」
 ピカァァァン!知恵の瞳が輝いた。
 知恵の瞳は指輪から離れると優の頭上で輝き、次第に形をとっていく。手、脚、胴体、そして最後に頭と、輝きの中で取られた形がちょうど光で作られた鎧のように優の体を包みこむ。
 次の瞬間、白と紫のツートンにプラチナ色のラインが入った鎧のようなスーツと仮面、そしてマントに身を包んだ女戦士が、そこに立っていた。
「女神仮面ミーミル!」
「コシャクナ!」
 プルトリスの口から、青白い炎のようなブレスが延びる。
「うわ!」「わ!」慌ててよけるアポロンとミーミル。ブレスが舐めた場所は、すべて凍り付いていた。
「困ったな。こりゃあ一筋縄じゃいかないぞ」逃げ回りながらアポロンがぼやく。
「困ってないで何とかしろよ」苛つくミーミル。
 そんな二人のぼやきに構わず、プルトリスはアポロンの二倍近くあろうかという巨体から次々と攻撃を繰り出す。二人は必死にそれをかわさねばならなかった。
 突然攻撃が止む。
「何だ?」
「ほほほ。プルトリスの攻撃をかわすとはたいしたものね」
「お前は・・・」アポロンが、凝視する。暗闇の中から、三人の黒いローブ姿の女が現れた。
「でもね、いつまでもそうしている訳にはいかないの。死にたくなかったら大人しくその子を渡してちょうだい」
「お前達の狙いは何だ」アポロンが女に訪うた。
 その時であった。稔と蘭に守られていた紗希が、すっくと立ち上がる。
「紗希ちゃん!」驚く日野神一家。
 しかし紗希の口から出てきたのは、さっきまでの紗希とは似ても似つかぬ大人びた声だった。
「巳族の者よ、自ら姿を現すとはよい度胸よ」
 驚いたのは日野神一家だけではなかった。
「貴様、何者!」
「身の程知らずめ・・・栄えある巳の一族も堕ちたものよのう」
「おい、一体どうなってるんだ」顔を見合わせるアポロンとミーミル。
 紗希と、三人の女が、正面から睨み合う。

<つづく>



<次回予告>

「プルトリス、こいつを凍らせてあげなさい」
「あ、あの超お嬢」
「いかにも私は巳族の姫、名は麗奈と申す者」
「よろしい。期待しているぞ」
「優にいちゃーん!」
「あれ、あいつら・・・う!」
「ムーンライト・イリュージョン!」
 次回「天使降臨(後編)」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

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<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 いやあ、ついに始まりました。お待ちかねの第2クール突入です(自分で言うか・・:笑)。
「まさか紗希ちゃんが・・・」と思っている方、たぶん正解です。ようやくお三方揃い踏み、ステージの方も華やかになるということで、ファンの方大変お待たせしました(何のこっちゃ・・・)。
 次回は、「辰巳コンツェルン」の陰謀を明らかにしたいと思います。
 ということで、また



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