女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十二話:六角形の落日>

「ただいま」
「あらお帰りなさい」
 蘭は、優と薫を平然と迎えた。
「なんか食い物ない」聞いたのは薫だ。
「シチューでも暖めようか」
 玄関でかわされるごくごく普通の会話に、優は目が点になった。
「あ、あのさ、母さん」
「何?」
「なんか気が付かない」
「あ」
「なになに」
「着てる物が違う」
「あのねえ・・・」
「あのねじゃないわよ、せっかく触れないでいてあげてるのに。それとも母さんの若いときの服、着たい?」
「着たくない着たくない着たくない」
「でしょ、だったらつべこべ言わないの。いいわね優、正義の味方はあらゆる苦難に耐えて悪と戦わなくてはならないのよ」
「・・・・あ、そ、そう」
「それよりテレビ」薫はすでにソファに陣取っている。
「あ、そうだテレビテレビ」


「この愚か者!」
「・・・お許しを」
 Wスタッフ本社ビル、その地下に拡がる空間。
 まるでハチの巣のような造形物に囲まれた場所に、女王の玉座があった。
「そなたの失敗は万死に値する。わかっておろう」
「・・・・・」
 女王の前に跪くフィムハーピュア。その姿は傷だらけであった。
「だが今そなたを失うわけには行かぬのじゃ。そなたのその優秀な頭脳がなくてはプラントの建設もおぼつかなかったであろうからの」
「では・・・」
「しかし失敗は失敗じゃ。過ちは速やかに正さねばならぬ」
 ブーン・・・ブーン・・・
 周辺に、無数の虫の羽音が徐々に大きくなっていく。
「・・・いや・・・それだけはお許しを」
 フィムハーピュアの顔が恐怖に歪んだ。
「言ったであろう、そなたの失敗は万死に値するのじゃ」
 ブーンブーンブーン・・・
「いや!お許、キャアアアア!」
 フィムハーピュアの体を、湧いて出た大量の大きな蜂の群が包む。フィムハーピュアは、もがくように倒れ込むとそのまま動かなくなった。
 しばらくすると蜂の群は現れたときと同じようにどこへともなく消えた。そして、残されたフィムハーピュアの姿は、不透明のゼリーのようになり蠢いている。やがて、彼女の体は、新しい、おぞましい姿に定着していった。
「さあ立つのじゃ、ボーネッド」
 ウウウ、という呻き声を漏らしながら、それは立ち上がった。
「そなたはすでにわらわの僕、ボーネッドとして生まれ変わったのじゃ。存分にその力を振るうがよい」
「ウガアアア」
 その時、別の女が慌てた様子で駆け込んできた。
「女王様、一大事でございます」
「何事じゃ」
「日本政府が・・・・」


 岡田官房長官の記者発表の映像は、全世界に流されていた。
『政府は今回の事態を美国を名乗る武装勢力による武力蜂起であると断定し、事実上の被占領地域であるF市、M市、Y市、S市における我が国国民の生命、財産、人権の保護、並びに武装勢力の排除を目的として、本日朝、自衛隊に出動を命じました』
「さすが本度氏。政府筋は違う」優が感嘆の声を上げる。
「感心している場合じゃないぞ。親父、やばいんじゃないか」
「お父さんはきっと大丈夫。それより優、彼女から何度も電話あったわよ」
「え」
「早く悪を倒して元に戻らないと、振られちゃうかもよ」
「・・・・・」
「んじゃ、俺達も行こうか」シチューの鍋を空にした薫が立ち上がった。
「行くって!?」
「決まってんだろ、大詰めにヒーローが乗り込むと言えば」
「敵のアジト」
「そういうこと」
「仕方ない、つきあってやろう」
「気をつけてね。今夜はすき焼きにしとくから」
「行って来ます!」


 自衛隊の戦車、ヘリコプター等を中心とした第一陣は、予想された抵抗もなくあっさりと人材派遣会社Wスタッフ本社ビル「ヘキサパレス」を包囲した。
「君たちは完全に包囲された。大人しく武装解除して降伏しなさい」
 しかし・・・・
「う」
 先頭の戦車の上でハンドマイクを持っていた男の額に、いきなり大きな針のような物が突き刺さった。
 ブーンブーンブーン・・・・
 男が崩れ落ちると共に突如現れる蜂の大群。
「な、一体何が・・・」指揮官は完全にパニックに陥っていた。
 ブーンブーンブーンブーン・・・・
 蜂の群が、次々と戦車やヘリコプターにとりつき覆い隠していく。
「うわあああ!」「助けてくれ!」悲鳴を上げる自衛隊員達。
 ドカーン!ズドーン!
 ヘリは次々と墜落し、内部の温度が異常に上昇した戦車は次々と爆発炎上していった。
 シュ!シュ!
「あれはなんだ!」「うわあ!」そんな中、おもむろに正面玄関から現れた怪物が、逃げまどう自衛隊員達に次々と大きな針のようなものを見舞う。
 五本の腕と、翼をもった異形の怪物は、奇妙なうなり声を上げながら自衛隊員達に襲いかかった。
「撃て!撃て撃て撃て!」
 ドドドドド!
 火を噴く自衛隊のライフル。しかし怪物は意に介しないように隊員達に迫る。その時!
 シュッ!
「ウガウゥゥ・・・」
 ボーネッドの腕の一本に突き刺さる黒薔薇のカード。
「遅かったか」
「能書きたれてる場合じゃないみたいだよ」
「じゃあ、行くぞ」
「おお」
「光力招来!」
「女神転生!」
 呆気にとられる自衛隊員達の前に、二人の戦士が現れた。
「太陽仮面アポロン!」
「女神仮面ミーミル!」
 ブーンブーンブーン・・・・
「うわ、なんだこいつら」襲い来る蜂の群。
 蜂の群はあっと言う間に二人を包み込んだ。しかし、
 パッ!
 眩く発光する二人。蜂はあっさりと消滅した。
「ウガグググ」今度はボーネッドが二人に襲いかかる。
 ビシ!バシバシ!ビシ!
「汚ねえ、こいつ反則だよな」
「つべこべ言わずに、戦え」
 五本の腕が、刃物や様々な物に変化して二人を襲う。アポロンとミーミルはその攻撃に手こずった。二人の腕を足してもまだ一本敵の腕の方が多いのだ。
「とう!」「やぁ!」
 ベシバシ!怪物は二人と互角以上の戦いをしている。
「ガァァァ!」
 ブーンブーンブーン・・・・
「また蜂かい」
「きりがないな」
 その時、後ろから声がした。
「蜂の方は任せて下さい!」
 ドゥオオオオオ・・・
 自衛隊員の一人が、どこから持ち出したのか火炎放射器を使って蜂の群を焼いていた。  他の隊員達も、次々とそれに習う。
 よく見れば、火炎放射器は即席のようだった。
「お、さすが!」
「感心してる場合か!」
 ブウン!怪物の刃物化した腕が宙を斬る。
「そろそろケリをつけないと」
「そうね。んじゃあ」
 ミーミルがマントを投げる。
「ヴァルキューレ!」ミーミルの叫びと共に、マントが弾けたかに見えた。が、弾けたマントのかけらは、群となって怪物に向かっていく。
 マントのかけらに見えたものは、小さな白い翼ある者たちの軍団となってボーネッドを包み込んだ。もがき苦しむボーネッド。
「お返しよ!」
「その女言葉、妙に似合うんだけど」
「人前で大きな声で言わないで!」
「では行くぞ。俺の新必殺技だ!」
 アポロンが高くジャンプする。
「アポロン・フレアーキック!」
 アポロンの右足が光り輝く。空中からの急降下キックがボーネッドを捉えた。弾けるようにヴァルキューレが舞う。
「アガガガガガ・・・・」怪物は数メートル吹っ飛んでいた。燃え上がるボーネッド。しかし・・・
「うううう、殺して・・・」
「何!?」
 炎の中から、半分溶けかかったフィムハーピュアの姿が現れた。
「苦しい・・・殺して、早く・・・あああああ」
 フィムハーピュアの姿が、炎の中で再び怪物へと変貌し始める。
「優!」
 ミーミルは頷くと、右手を高く挙げた。
「ミミー・グングニル!」右手の先に、光り輝く槍が現れる。ミーミルは、それをしっかりと握るとフィムハーピュアの方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!フィムハーピュアに向かってまっすぐに飛ぶ槍。
「ウ!」
 光の槍が、フィムハーピュアの胴体を貫く。フィムハーピュアは、そこから溶け落ちると炎の中に消滅した。

「さあ、行くぞ」二人がビル内に侵入しようとした時であった。
「失礼します。これ以上一般市民の方にご迷惑をかけるわけには行きません。この先は我々に任せて・・・」
 自衛隊員だった。しかし・・・
「だったら、援軍が来るのを待ってた方がいいんじゃない。たぶんこの先はあんなのばっかりだと思うよ」ミーミルが言った。
「ご協力には感謝します。しかし・・・」
 何か言おうとするミーミルをアポロンが制した。
「今のあなたたちにはフェムニスの相手は無理だ。上に報告して充分な対策をしてから攻め込んだ方がいいよ。それに俺達は一般市民じゃない」
「一般市民じゃない・・・!?一体あなた方は?」
「俺達はヒーローなんだよ」
 絶句するミーミル。
 アポロンは、そんなミーミルを伴ってビル内に侵入していった。
 後ろで、自衛隊員達が敬礼を向けていた。

「一度言ってみたかったんだ」
「もう・・・つきあいきれんわ」
 二人は地下へと進んでいった。抵抗はなかったが徐々に異様な空間になっていく。
「なんだこりゃ」
「蜂の巣じゃないの」
 人間が入れそうなサイズの六角形の穴が、壁一面に透明な蓋をつけて開いている。やがて二人の前に広い空間が現れた。
「ボーネッドを退けるとはのう」女王は、玉座に一人で座っていた。
「お前が女王か、親父をどこへやった」アポロンが叫ぶ。
「ほうほう、父親そっくりよのう。安心いたせ、今のところ無事じゃ」
「今のところだと」
「間もなくここは消滅する。わらわの僕となりし者たちの精神エネルギーを増幅させ、爆発させるのじゃ。そしてその爆発エネルギーと引き替えに彼がわらわの夢を叶えてくれる」
 二人は辺りを見回した。壁・天井・そして床下を埋め尽くした六角形の穴の中には、どれも人間、それも若い女が入っているのだ。
「誘拐して、女性化した人達だな」
「誘拐?人聞きの悪い。わらわは女王ぞ、忠誠を誓わせて何が悪い」
「忠誠心とは、自分から捧げるものであって、強制されるものではない!」
「戯けたことを。思い知るがよい」
 女王は、ドレスを脱ぎ捨てるとその正体を現した。
「おお、強烈・・・」思わずつぶやくミーミル。
 ドレスの下から現れた女王の正体は、黄色と黒のコントラストのボディ、そして透き通った羽と触角を持つ蜂女だった。
「女王蜂そのまんまかよ」アポロンもつぶやく。
「何をぶつぶつと。光栄に思うがよい、わらわこそはビー。フェムニスを支配する者」
 ブーン・・・ブーン・・・
「ということは働き蜂さんなわけね、そいつら」
 無数の蜂が、再びアポロンとミーミルを襲う。
 二人は光の力を使って蜂の群を撃退していった。が、
「ホホホホホ、愚か者め。お前達のエネルギーのおかげで精神エネルギーが臨界に達したわ」
「何・・・・!?」
 グウウウウウ・・・・
 異様な音が空間に満ちていた。二人が蜂と戦っている間に女王の姿は消えていた。
 六角形の穴が、不気味に光り始めている。
「臨界って、まさかこの場所がそのまま爆発するわけ!?」
「どうやらそのようだな・・・・」
 ちょうど玉座のあった場所に、何かエネルギーが渦巻いていく。
「まずい・・・どうなるんだ」始めてうろたえるアポロン。
「まずいって、見栄きったの兄貴じゃないか!」
「それより、何とかしないと」
「何とかって、なによ!」
 渦巻くエネルギーが拡がっていく。
「うわあああああ」
 グオオオオォォォォォォン!!


「で、け、結局どうなったの・・・」
「こうなったのよ」
 破壊された空間の中央に、ミーミルが、ミミー・ミョルニルを持ったまま立ち尽くしていた。
 爆発の瞬間、ミミー・ミョルニルの強力なエネルギーが爆発エネルギーを打ち消し、連鎖的に大爆発を起こすのを免れたのだ。
「どさくさに紛れて叫んでみたのがよかったようね」ミーミルが、アポロンを睨みながら言う。
「助かった・・・」それが、アポロンの、薫の率直な感想だった。
 が、その時遠くの方から声が聞こえた。
「おのれ・・・おぼえておれ、お前達だけは決して許さん・・・・」
 とっさに身構える二人。しかし、女王は二度と姿を現さなかった。
「女王、逃げてったみたいだな」
「ああ」
「どうやら終わったみたいだし、変身、解こうか」
「ああ、これで戻らなかったら、ギャグだわ・・・」
 薫と共に恐る恐る変身を解く優。
「う、うそ!」
「あっはっはっはっは」優の悲鳴と薫の笑い声が響く。
「そんな馬鹿な・・・」
「馬鹿だな優、よく見ろよ」
 気を取り直し、よく自分の体を見回す優。
「げげ!」
「な」
 優は、男の姿に戻ったのに女物のスーツと、それに下着を着けている自分に気付いた。
「だから言ったのに。このまま男に戻ったらまずいって」
「しばらく女のふりしとけば。しゃべらなけりゃ誰もわかりゃせんて」
「これじゃただの変態だよ・・・」


 ドアが開いた。
「きゃはははは、乾杯!」響く嬌声。
「親父、何してんの!?」
「か、薫・・・それに優まで・・・」
 女王の玉座のあった場所のさらに奥。そこは、稔が閉じこめられていたらしい部屋だった。しかし優や薫の想像に反して、そこはきらびやかな、高級クラブのような部屋になっていたのだ。
「親父・・・今までずっとここにいたわけ」
「人が苦労してる間、どんちゃん騒ぎしてただ酒飲んでたんだ」
「そ、それは・・・」
 稔の右側にはバニーガールが、左側には見るからに水商売風の派手目な服を着た女が腰掛け、稔と共に止まっていた。
「優、置いて帰ろうか」
「そうすっか、こんなの母さんに見せられないし」
「今夜すき焼きなのにな」
「さ、帰ろ帰ろ」
「あーアホらしい。せっかく親父助けに来たのに」
「昔のヒーローもこうなっちゃな」
 さっさと回れ右する優と薫。
「ま、待て、俺も帰るから!母さんには内緒だぞ!」
 稔はあわてて二人の息子の後を追った。

<つづく>



<次回予告>

『おまえがミーミルとはね。ま、いいわ』
「いーらいらいらいらいら」
『おぼえていて頂いて光栄だわ、女神仮面さん』
「誰だっけ、ヒーローごっこにつきあうのはごめんだ、とか言ってたの」
「冷たい奴・・・正義のヒーローが聞いてあきれる」
「どうするもこうするも、とりあえず上に行こう」
「やっぱりこのクソババァ、絞めたるわ!」
 次回「女王B最後の挑戦」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。


ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
「女神仮面ミーミル」第十二話「六角形の落日」をお届けします。
 どうやらBちゃん起死回生の作戦も阻止されたみたいです。今回の、ヘキサパレス内部は蜂の巣と、原子炉をイメージしてみました。
 パレス内にいた奴隷階級の人々の運命はご想像に任せます。爆発に巻き込まれたという説もあれば男に戻って自衛隊員に救出されたという説、それから女としてそのまま社会復帰したなどいろんな説がありますがはっきり言っておまけの人々(!)の運命まで気にしてない冷たい作者ですはい。
 いよいよ次回が第一クール最終回。果たしてBちゃん、どんな挑戦をして来るんでしょうか?ソ連には行かなかったんでしょうか?(わかる人いるかな・・・ヅカネタ)実はここを書いてる時点でまだタイトル以外ほとんど決まってないという(・・)状態。もちろん予告編なんて後付だよんよんよん。
 では。

KEBO



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