女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十一話:悪魔のリサイクル>

「とりあえず、君の服は今用意させている。もうしばらくそのままで我慢してくれたまえ」
「別にこのままでも・・・」優は、本度と共に入ってきた水兵姿の乗組員の視線を感じて口を閉じた。
 彼らがいるのは某国潜水艦内の士官室である。
「で、本度さん、これからどうするの?」薫が尋ねる。
「君たちには、さっきも話したとおり時間を稼いで貰いたい」
「イヤだといったら」
「何?」
「俺達はなにもあんた達の国の国益のために働く筋合いはないぜ」
「わかって言っていると思うが、今回のことは世界全体の危機なのだ。それに気づき、事態の重大さを理解しているのは我々しかいない。日本や他の国々の反応を見守っている時間はないのだ」
「俺たちの父親が奴らに捕らわれている。それに、あなた方の行動によって俺達の友人や隣人が被害を受けることもあり得る」
「確かに、我々は場合によっては単独で攻撃を行うように上層部から指示を受けている。しかしそれはあくまでも最後の手段だ。我々とて一般人を巻き添えにするようなことはしたくない。だが実際に、あの怪人達相手ににどの程度個人装備で対抗できるかわからんのだ。君たちのお父さんを始め一般市民の安全は全力を挙げて守る。信じろ」
 伝令がやってきて本度に何事かを伝えた。
「私の報告で、国家レベルで事が動き始めたらしい。それと、何か奴らの基地らしい場所を衛星写真から割り出した。報告ではこの場所に学生を中心に多くの若者が集められているらしい」
「要はそこへ行ってくれってことね」優が言った。
「そうとも言う」
「で、どうやって上陸する」
「ま、ついてこい」
 優と薫は、本度について士官室を出た。


「はじめ」
 生徒達が、答案用紙に向かう。新たな指導要領にあったクラス分けをするためのテストであると説明されていた。
 すでに学園の生徒達も半分以上が消えている。昨日早速行われた妙な身体検査によって振り分けられて大勢がどこかへ連れて行かれたのだ。
 そのころ・・・
『今日から、女王陛下の命により人民リサイクル令が施行されます』
 町を走る広報車が触れて回る。
 それとともに、町のあちこちで若い男女が連れ去られていった。


「首尾はどうじゃ」
「思ったよりも順調でございます。市民の抵抗なども思ったほどありませぬ。このままで行けば三日か四日で必要量が採取できますでしょう」
「三日か四日か。よろしい。いよいよじゃの」
「はい。マダム」
「マダムではない。女王陛下とお呼び」
「これは御無礼致しました、陛下」


「どうだ」
「またこういう、目立つ車用意する・・・」
 優たちが潜水艦のハッチから出ると、そこはSF映画に出てくる室内ドックのような場所であった。彼らはすぐに、それが改造された貨物船の船底部だと知った。
「何言ってるんだ、さっきこれがいいって言ったじゃないか」
「まさかまた、ミサイル付いてないだろうね」
 ドックの片隅に、白い車が置いてある。優はその車が何かすぐにわかった。
「ご希望通り、潜水艦にもなるぞ」
「でもこれ、三人乗れるの」
「無理なら、兄貴の膝の上でも座っとけ」
「こういうことして・・・国外の活動するほど予算あったんですか・・・」薫がつぶやく。
 本度は聞こえないふりをした。再び若い水兵が、何か手提げを本度に渡す。
「来た来た。ほれ、着替えだ」
 本度は手提げをそのまま優に手渡した。恐る恐るのぞき込む優。
「・・・あのさ、もし、もしこれ着てて急に男に戻ったらだよ、それ、やばいと思わない」
 優は最後の抵抗をした。が、実際今の服装は体型に合わず窮屈で仕方なかったのだ。
「いいから着てみろよ。たぶん似合うと思うよ」薫が手提げの中を見て笑いながら言った。
 十分後・・・・
「あっはっはっはっは!」
「笑ってないで、少しはうーん似合う、とかいったら、どうよ」
 シックな女物のパンツスーツを着た優を見て、薫はやはり笑い転げた。
「さあお二方、では参ろうか」
 ブォン!エンジンをかける本度。
 優と薫、そして本度を乗せた白いロータス・エスプリは、優の希望通り(?)潜水艦に変形するとそのまま海へと飛び込んだ。

「ここが内陸の都市じゃなくてよかったよ」本度がしみじみと言う。
 潜水艦に変形した車は、Y市に唯一存在する砂浜の海岸に向かって進んだ。
「言っちゃあなんだが、今現在フェムニスの支配区域は日本じゃないからな。ちょっとやそっと武器持ってたぐらいじゃ銃刀法には引っかからないんだ」
 やがて車は、波をかき分けて砂浜に上陸した。
「つまらんな。誰もいないじゃないか」
「いいから本度さん、早く行こう。この車、ものすごく目立つよ」
 一般公道を走る白い車。辺りには全く人通りがない。
「急ごう。とりあえず奴らの基地へ」
 三人を乗せたエスプリは、M市内のフェムニス拠点と思われる場所へと向かった。


   眠らされた若い男達が、裸のまま一人づつ台車に乗せられて運ばれていく。流れ作業のように白衣の女が、その男たちにまるで予防接種のようにその注射をしていった。
 男たちは、台車に横たわったまま少しの間苦しむように身を震わせ、やがてその震えが収まるとともに注射された液体の効果で次々と女性へと変身していった。そして完全に女性の姿になった者たちは分別され、ある者は台車から降ろされて別の所へ連行され、ある者はそのまま運ばれていく。
「女性化させた者どもは分別して不要な者は他の女どもと共に採取室へ送っております」
「よろしいドクトレス。残りは奴隷階級じゃの」
「左様でございます。準適合者は奴隷階級として再教育を施します」
 女王が「リサイクル工場」を視察していた。連れ去られた男女はここで「リサイクル」されるのだ。
 別のモニターの中で、連行された女が一人づつ何らかの装置の下に立たされた。頭上の装置が青く光る。女は身震いして苦しんでいるようだったが、身体を自由に動かすことが出来ないようだ。やがて女は立ったまま完全に動かなくなった。
「まもなく腐りきった人間社会は浄化される。そして我々の手によって新しい世界が始まるのじゃ」
「御意にございます」
 青い光が消える。光を失った目を見開いたままの女は、まるでマネキンのようにぴくりとも動かない。流れ作業のように女がどけられ、別の女が立たされる。その作業は延々と繰り返されていた。
 女王は、制御室に置かれている人頭大の、黒光りする真珠状の物体を眺めながら妖しい笑みを浮かべた。


「一見ただの清掃工場みたいなんだけどな」
「リサイクルセンターね・・・・」
 狭い地下の排水管を進む三人。
「にしてもさ、本度さん、なにその大きな荷物」
「内緒。秘密兵器だ」
「またぁ。ロケットランチャーとかやめてよ」
「ランチャーではないがな、似たようなもんだ」
「ここ、行けそう」
 薫が上へ向かう人坑を指す。三人は、その坑を上がった。
 ゆっくりと蓋を外す薫。
「よしよし、誰もいない」
 マンホールから出ると、そこは機械室のような部屋になっていた。
「あーあ。せっかく着替えたのに服が泥だらけ・・・」つぶやく優。
「なんなら、下着姿でもいいぞ」薫がからかう。
「あのなあ」
「まあまあ、行こうか」本度を先頭に、三人は進行を開始した。
「とりあえず、ここで何が起こっているか確かめないと」
「巨大ロボとか作ってんじゃないだろうな」
「だったら」
「乗っ取って逃げる」
 機械室内の狭い通路を抜けていくと、やがて、真っ暗な通路に行き着いた。本度が、何かゴーグルのような物を着ける。
「何それ」
「赤外線スコープ」
 今度は本度が先頭で通路を進む。しばらく行くと、古びた扉に突き当たった。鍵がかかっている。
 本度は、ポケットから何かを取り出すと、簡単に解錠した。
 ギギギギ、錆びた音が思いのほか大きく響く。普段はこのドアを使っていないのだろう。
「・・・・・?」
 そこは、広い倉庫のような空間だった。目が徐々に慣れてくる。
「これは・・・」そこには、たくさんの何かがピクリとも動かずに立っていた。
 それは、人間、それも若い女に限りなく近い姿をしていた。人形かマネキンのようにも見えたが、それにしては本物に近すぎる。
「これは・・・」優がもう一度同じ疑問を口にする。
「たぶん、人間だろう」薫がおぞましいといった感じで言った。
「生きているのか死んでいるのかわからんが、人間であることには間違いないようだ」
「例の、生け贄だろう。奴らのあの異質な力で精神エネルギーを吸い取られた後の抜け殻なんじゃないか」本度が落ち着き払って言う。
「ひどい、ことを・・・」優が俯く。
「とりあえず、これ以上同じ事をさせないようにしなくては。行こう」そう本度が言ったときであった。
「おほほほほ。そうはいかないわ」二つの声が、だぶって聞こえた。
「何!」
 ビャビャビャ!音のした方から何かが飛んでくる。三人はあわてて飛んできた泡をかわした。
「よくもまあこんな所に迷い込んだものねえ」
「でも安心なさい、すぐに同じようにしてあげる」
 徐々に輪郭がはっきりしてくる。現れたのは、二人のカニ女だった。
「フィムキャンス・ライト」
「フィムキャンス・レフト」
 見るからに固そうな甲羅を身につけたカニ女たちはそれぞれ名乗る。なるほどそれぞれ左腕のハサミと右腕のハサミが大きく存在を主張していた。
「出たみたいだな」
「うん」
「んじゃ、俺達も」
「仕方ないわね」
「何急に女言葉になってんだ」
「いいでしょ。女神転生!」
「んじゃあ、光力招来!」
 光とともに現れる二人の戦士。
「女神仮面・ミーミル!」
「太陽仮面・アポロン!」
「ここからは生きて返さないわ」再び声がだぶる。
 双子のようなカニ女は、左右に分かれると襲いかかってきた。
 ビシ!ビシ!バシ!ベシ!
「うわ!」「う!」ミーミル達の攻撃はカニ女の固い甲羅に阻まれる。逆にカニ女のハサミチョップが次々と炸裂した。
「げ、こいつら固い」アポロンの悪態。
「そうよ。女は身持ちが固くなくては」カニ女は、訳の分からぬ事を言いながらさらに攻撃してくる。ミーミル達は倉庫の隅に追いやられていった。その時、
 ドゥオォォン!片方のカニ女が吹っ飛んだ。
「ううう・・・」フィムキャンス・ライトの巨大なハサミが吹き飛ばされていた。
「今だ!」叫んだのは本度だ。いつの間にか彼は高い場所に陣取り、これまた大型のライフルを据えて構えていたのだ。
「よし行くぞ。アポロン・コロナパンチ!」
 光の拳がカニ女に向かって行く。しかし、
「馬鹿な!」アポロンの拳は、カニ女のハサミに受け止められていた。
「馬鹿ねえ。ハサミなんてすぐ生えるのよ」カニ女は嘲笑った。そして本度の方に向かって腹にある口を開く。
 ビャビャ!
 ドゥオォォン!火を噴くライフル。
「馬鹿はお前だ」本度が、ライフルを抱えて泡をかわす。
「今度こそ!アポロン・コロナパンチ!」
 光の拳が、弧を描いてカニ女の、甲羅を吹き飛ばされた腹部を捉える。フィムキャンス・ライトは、悲鳴すら上げずに消滅した。
「おのれ・・・よくも姉さんを!」
 ミーミルを追いつめていたもう一人のカニ女が、ミーミルを放るとアポロンに向かっていく。
「ええい!」カニ女が、アポロンに向かってハサミを振り下ろす。しかしアポロンは、それをかわすと逆にハサミを抱え、思い切り引き抜いた。
「ウォォォ!」アポロンが、引き抜いたハサミを思い切りカニ女に突き刺す。
「ギャアアア」カニ女の悲鳴。カニ女の腹部に自らの爪が食い込んでいた。
「今だ!」叫ぶアポロン。
 右手を挙げるミーミル。
「ミミー・グングニル!」
 光の槍が、カニ女の胴体を貫く。フィムキャンス・レフトは、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。


「バレットとはねえ」薫がアポロンの姿のまま言う。
「薫君、ガンマニアかい。ともあれ、五十口径の直撃を耐えるとはねえ」
 本度は、バレットライフルをかつぎ直すとしみじみと言った。
「さあ、行こう。早くこのばかげた祭りを終わらせようぜ」
 本度を先頭に、三人は工場内を走る。本度が持っていたのはバレットだけではなかった。
「気絶させてもいいけど、殺すなよ」
 催涙弾の小型ランチャーやその他の「秘密兵器」を使い分け、三人は警報の鳴り響く工場の中を着実に駆け抜けていく。
「ふう、どうやら制御室らしいぜ。少し離れてろ」
 ドゥオォォン!
 本度が、あろう事かバレットを腰だめでブッ放した。
「凄い体力・・・」唖然とするミーミルとアポロンの前で、扉が吹っ飛んだ。
 白煙が徐々に晴れていく。
「おのれ!ここまで来るとは!」
 白衣の女が、三人の前に立ちはだかった。
「行くわよ!フィムトランス!」
 女が変身する。白衣が弾けると中からまるで神話に出てきそうな半人半鳥の女が現れた。
 バサ!女が羽ばたくと翼から無数の羽が三人に向かって飛んでくる。
「危ない!」とっさに跳ぶ三人。しかし
「うわ!バレットが」
 バレットライフルに次々と突き刺さる羽。次の瞬間、ライフルは粉々に粉砕されていた。
「兄貴、あれは・・・」そんな中、ミーミルがそれを発見した。
 それは、人頭大のサイズで、妖しく光り輝く球体だった。
「ほほほほ。そんなところに隠れていてもムダよ!」
 再び羽がミーミル達の方に飛んでくる。盾にしていた机が消滅した。
「このままじゃ・・・」
「優、あれだ」
「え」
「俺が盾になる。その隙にあれを使って吹っ飛ばせ」
「でも」
「とにかく、あの球には異様なパワーを感じる。部屋ごと吹っ飛ばすにはあれしかないだろうよ」
「え、吹っ飛ばすのって奴じゃなかったの」
「アホか!いいから」
「その話、乗った!」横で聞いていた本度が、一人別方向に飛ぶと怪女フィムハーピュアに向かって拳銃を抜いた。
「おお、ワルサーP99!」本度が抜いた拳銃に思わず注目するミーミル。
「感心してる場合じゃない。俺達も早くしないと」
 フィムハーピュアに飛びかかっていくアポロン。その後ろでミーミルは両手を高く差し上げた。
 ビュビュビュビュ!飛んできた羽をマントで受けるアポロン。しかしアポロンのマントも徐々にボロボロになっていく。
 本度も弾を撃ち尽くしたようだ。
「早く!」交錯するアポロンと本度の声。
「行くわよ!ミミー・ミョルニル!」
 ガガガ・・・ガガガ・・・
 ミーミルの両手に大量の稲妻がほとばしる。そして、両手の先に、大きなハンマーが現れる。
「何!」慌てるフィムハーピュア。
「エェェェイ!」ミーミルは、よろけながら部屋の中央にある黒い球に向かって、直接ハンマーを振り下ろした。
「伏せろ!」叫ぶ本度。
 一瞬、すべてが静寂に包まれた。そして次の瞬間、黒い球の上下から青白い何かが、まるで風船から空気が抜けるように噴き溢れ出した。
 ビュウゥゥゥゥゥ!
「な、何ということ、ああああああ」
 青白い「何か」を翼にまともに受けたフィムハーピュアは、制御室の窓ガラスを突き破ってどこかへと吹き飛ばされていった。
 やがて、そのエネルギーをすべて放出し尽くしたのか、黒い球はパチンコ玉程度の大きさにまで小さくなると二つに割れ、その動きを止めた。


「おい、大丈夫か」本度が完全に破壊され尽くした制御室を見回して言った。
「どうやらね」変身を解いて答える薫。一方の優の方は未だに放心状態のようだった。
「どうした」
「なんでまだ男に戻れないんだよぉ」変身を解いた優はまだ女のままだったのだ。
「さあな。でもまあ、見ろよ」
 本度が指す先に、たくさんの女達が建物から逃げ出していくのが見えた。
「どうやらその球が彼女たちの精神エネルギーを吸い取っていたんじゃないか」
 RRR・・・本度の電話が鳴る。
「俺だ。ん、ん、わかった」
「何」
「俺の出番は終わったらしい。家まで送ろう。家で、テレビを見るんだな」
 三人は、たくさんの女達に混じって建物を後にした。

<つづく>



<次回予告>

「いいわね優、正義の味方はあらゆる苦難に耐えて悪と戦わなくてはならないのよ」
「いや!お許、キャアアアア!」
「決まってんだろ、大詰めにヒーローが乗り込むと言えば」
「ウガウゥゥ・・・」
「では行くぞ。俺の新必殺技だ!」
「ご協力には感謝します。しかし・・・」
「俺達は」
 次回「六角形の落日」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
「女神仮面ミーミル」第十一話「悪魔のリサイクル」をお届けします。
 なんだかメタルヒーローな雰囲気になっちまいました。
 だれかさんなんて主役を食う勢いだし。でもご安心を。次はちゃんと本来の人々が活躍する筈です。
 次回のタイトルはですね、本来なら「女王B、恐怖の正体」になるべきなんでしょうけど正体がすでにバレバレのようなのでやめておきました。
 ちなみに第十三話のタイトルは今から宣言しておきます。そのタイトルは何と「女王B、最後の挑戦」です(あまり変わらないって・・・)
 では。

KEBO



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