女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第十話:私を愛したヒーロー>

「おはよう」
「・・・・・」
「おはようってば」
 優がリビングに降りてくる。が、他の三人はポーズボタンを押したように止まっていた。
「何してんの!?新しい遊び?」
 薫が、辛うじてといった感じでテレビを指す。
「うそ!」
 優も止まった。
『F市長選挙は、無所属で民自党推薦の新人、日比木 美都子さんが当選』
『M市長選挙は、無所属で民自・明公・自社三党が推薦の新人、浅野 加代さんが当選確実』
『Y市長選挙は、無所属で自社・社連党推薦の新人、関名 美保さんが当選確実』
『S市長選挙は、無所属で民自・明公・自社・社連党推薦の新人、皆風 舞子さんが当選』
「これってさ・・・・」
「そう。優が言うのが正しければ」
「全部あれ系の候補だよね・・・」


 数日後。
 いよいよ各市とも新市長が就任したその日の深夜、いや、正確には翌日の未明・・・
 キキキー
「なんだこりゃ」車を止める男。道路が、バリケードで塞がれている。
 警備員らしい人間が近付いてくる。
「おーい姉ちゃん」男は警備員らしい女に向かって言った。
「こんな所通行止めなんて聞いてないぞ!」
 しかし帰ってきたのは、意外なセリフだった。
「通行止めではない。午前三時をもって、国境は封鎖された」
「国境!?なに冗談言ってるんだ。俺はそんな冗談につきあってる暇は」言いかけて、男は目を丸くした。
 女が数人、銃らしき物をこちらに向けて構えている。
「わ、わかったよ。回り道を」
「引っ捕らえろ!」
「うわああ!」
 たちまち男は女達に捕らえられた。
「工場へ連行しろ!」
「な、何しやがる」
 男は、為すすべもなく連行されていった。


「おはよう」
「・・・・・」
「おはようってば」
 優がリビングに降りてくる。が、他の三人はポーズボタンを押したように止まっていた。
「またかよ、今度は何してんの!?また新しい遊び?」
 例によって薫がテレビを指した。
「うそ!」
 またしても優は止まった。
 テレビの中で、「F市長」日比木 美都子が喋っている。
『我々F市、M市、Y市、S市の四市は、本日をもって統合し新たな国家を建国して日本国から独立することを宣言した』
『新たな国名は、美国』
 プッ!薫がついに飲みかけた牛乳を噴いた。
「そのまんま。なんの工夫もありゃしない」
『では我らが初代国王を全世界の皆さんに紹介しましょう』
「うそ!」声を合わせて言ったのは蘭と稔だった。
『わらわが、女王、美一世じゃ』美 玲がテレビにその姿を現した。
「かあさん、彼女」
「やっぱり、玲さんよね」
「親父、母さんも、知ってるの?」
「ああ」
「ええ。昔父さんにつきまとってた女」
「で親父、やっぱこっちにしとけばよかったかなって後悔してない」
「してない」
「当たり前でしょ」蘭の厳しい声。
「一体どういうつもりだ」薫がようやく口を開いた。
「わからん。俺はともかく会社へ行くぞ」
「行ってらっしゃい」


 というわけで、優も学校へ出かけた。しかし、
「無期休講だってさ」
 仲間が掲示板横のベンチで放心したように煙草をふかしていた。
「どうなってんの」
「何でも指導要領がどうのこうのって」
「そんなこと言っても、なあ」
「授業料返せって感じだよな」
「とりあえず、学食で時間潰すか」
「そうだな」
 学食には、やはり仲間達が揃っていた。
 テレビの前には、かなりの人数が集まっている。
『植田総理大臣は緊急の閣議を召集し、今後の対応を検討すると共に、三木外相を通じて各国への事情説明を行っています。基本的に今回の独立宣言は認めない方針ですが、予想外の事態に対して具体的にどのような対応をするのかはまったく方針が決まっておりません』
「そりゃあそうだよ。だれがこんな事考える」
「おれもついさっきまで、冗談だと思ってた」


 冗談ではないレベルで、事態は進行していた。
 市立の学校・・・
 教員はすべて入れ替わっていた。
「みなさん、今日から皆さんは、栄えある美国の国民になったのです。今日は新しい指導要綱に従って皆さんの教育が行われます。女王陛下の栄光を讃えましょう」
 小学校や中学校の教室には、「美一世」の遺影が飾られ、毎回授業の前に遺影に対して礼が行われた。
 他の市や町との境界に当たる道路や鉄道はすべて封鎖され、「出入国」は厳しいチェックが行われ、事実上不可能になっていた。
 警察機構やすべての公的機関の職員は解雇され、妖しい女達がそれに変わった。
 一部では小競り合いがあったものの、新王国政府側は必要に応じて武装した女達を動かしたため表だって大きな抵抗はなかった。
 フェムニスの作戦の第二段階までは、見事に成功した。


 薫は、Wスタッフ本社ビルの前にいた。取引先がほとんど市外なため、会社は開店休業状態である。
「仕方ない。一気に乗り込んでケリをつけるか」
 しかし、その決意は肩に掛けられた手によって止められた。
「馬鹿なことを考えるんじゃない。あの女はお前一人では倒せん」
 稔であった。稔もここへやってきたのだ。
「俺が話をつけてくる。まんざら知らぬ仲でもないしな。もし俺が戻らなかったら優と二人で力を合わせて、フェムニスを倒すのだ。いいな」
「親父!」
「頼んだぞ」
「親父、格好よすぎるぜ」
 稔は、薫に手を振ると敵の本拠地へ乗り込んだ。


「やっぱり来たわね」
「久しぶりだな。イヤに警戒が無いじゃないか」
「あなたが来ても止めないようにと徹底してあるわ」
 最上階のプールサイド。稔を止める者はなかった。
「本題に入ろう。どういうつもりだ?俺に対するあてつけか」
「ほほほ。あなたはまだそんなことを言っているの」
「何」
「最初はね。あなたがアポロンだなんて知らない頃は、本当に地球のため、人類の未来のためと思っていたわ。でもあなたが、人間の、ちっぽけなエゴを守って戦っていると知った時、私がどれだけ失望したことか。それどころかあのこざかしいミーミルと組んで私に刃向かうなんて。私はね、あなたになら、世界を導く王様になって貰ってもいいと思っていたのよ」
「一人の人間の力で、未来は開けないさ。未来は、一人一人が知恵を出し合って開いていくものだ」
「まだそんなことを。その一人一人の小さなエゴが、地球を駄目にするのよ。だから私は、選ばれた者を残して人間を滅ぼすことにしたの」
「簡単に言ってくれる」
「見ているがいいわ。もうじき彼が私の願いを叶えてくれる。大勢の生け贄の命と引き替えにね」
「生け贄だと!」
「そうよ。役に立たない人間を少しでも地球の役に立てるために、私はこの組織を育てたのよ。たいした慈善事業だったわ。間抜けな遺伝子が伝わらないように、駄目な人間には奴隷か生け贄になって貰うしかないのよ」
「何ということを・・・・」
「あなたにはわかってもらえないようね。残念だけど、いまあなたに邪魔をされても困るし、少し大人しくしてて頂くわ」
「玲・・・」
「そんな風に呼ばないで。何も不自由はさせないから」
 玲は呼び鈴を鳴らした。
「この方を案内せよ。決して無礼があってはならぬ」
 稔は、現れた女達によって連れ出された。


「そういうわけだ。今すぐWスタッフ本社ビル前に来い」
「滅茶苦茶言うな。だいたい何でいつも俺は兄貴と、それに親父のヒーローごっこにつきあわなきゃならないんだ」
 優が携帯電話を持って悪態を付いている。相手はもちろん薫であった。
「馬鹿野郎。俺達以外に誰が世界の平和を守るんだ」
「米軍」優はボケてみせた。
「・・・・あのなあ」
「わかったよ。行けばいいんだろ行けば」
「母さんには内緒だぞ」
「はいはい」優は電話を切る。
 その時であった。
「よう!」
 優は横の車から、声をかけられた。
「おうおう、誰かと思えば本度さんか」
「乗れよ。暇なんだろ」
「暇じゃないけど・・・ちょうどいいや、ちょっと送って」
「なにい!?どこまで」
「決まってんだろ。某社本社ビル前」
「本気か」
「人が待ってる」
「そうか。なら仕方ないな」
 本度は、優を乗せると車を出した。
「で、なんでこんなに目立つ車乗ってるわけ」
「アストンマーチン・ボランテ。いいだろ」
「いいけどさ、これ、ミサイルとか付いてないだろうね」
「ドキ!・・・何でわかるんだ」
「うそ!」
「ここだけの話だがな、いろいろと軽いオプション装備を積んでるんだ」
「はっきり言っていい」
「ああ」
「俺、エスプリの方がいい」
「今回は海に潜る必要ないだろ」
「本度さん、もしかしてマニア?」
「そうとも言う」
 マニアックな会話が続く中、本度はラジオのスイッチを入れた。
『手配の車両は・・・・C交差点付近を封鎖し待機・・・・』
「まずいな。この先で非常線張ってるらしい」
「その無線・・・それにもしかして手配車両って」優の頭にイヤな予感が走る。
 その時、後ろからパトカーが現れた。
「おいでなすったな」落ち着き払う本度。
 ピキュン!パキュン!パトカーがあろうことか発砲してくる。が、防弾ガラスなのか弾は後ろのウィンドウで弾けているだけだった。
「おいおい、勘弁してくれよ!いったいどうなってんだ」
「どうやら俺が邪魔だってわかったらしい」
「え!?」
 キキキキー!本度がステアリングを切る。
「フェムニスの本当の目的がわかったんだ」
「何だって!?」優は高くなるエンジン音とロードノイズでよく聞き取れなかった。
 前方で、道路が大型バスを盾にして封鎖されている。
「本社ビル前で待ってる奴に電話しとけ!拾うから乗れってな!」
 本度が何かボタンやスイッチをいじりながら言う。
「そういうわけには」優が言いかけたところで、本度はそのボタンを押した。
 プシュー!車から前に向かって何かが飛んでいく。
「うそ!」優は唖然とした。まさか本当にミサイルが付いているとは思わなかったのだ。
 ドォォォォォン!!目の前で大型バスが爆発する。
「しっかり掴まれ!突破するぞ!」
 次の瞬間、車は炎の中を駆け抜けていた。再びリアウィンドウに弾丸が弾ける。
「わかったろ、奴らは本気だ。あんたやもう一人、アポロンだっけ、それだけの力じゃどうにもなんないんだ。知恵を出し合って対抗しないと」
「にしても無茶苦茶するな・・・」
 優は渋々薫に電話しようとしたが、その前に変化が始まった。
「あーあ。今度はこっちの出番らしい・・・」
 優は、あっと言う間に女性化していた。
「正体を知らなきゃ、かなりのべっぴんなんだけどな」本度が楽しそうに言う。
「るせえ!好きでやってんじゃないやい」細く高くなった声で悪態をつく優。
 追跡車が消える。前方の道路の真ん中に女が一人、仁王立ちしていた。
「げ、また化け物か・・・」本度はアクセルを踏み込む。女は服を脱ぎ捨てると正体を現した。
「それじゃこっちも」優も左手を伸ばせる限りで伸ばした。
「女神転生!」
 ドン!優が叫んだ瞬間、車は停止していた。大きな口の鮫女が車を前から押さえている。
「ホホホホホ。これしきのことで私が倒せると思っているのか」フィムジョーゼズはせせら笑った。しかし次の瞬間その顔が、驚きと焦りの入り交じった表情に変わる。
 車の屋根の上に仁王立ちになったミーミルが、右手に光を集めていた。
「ミミー・グングニル!」
「そんな馬鹿、ギャアアアア!」
 光の槍が、鮫女の胴体を貫く。鮫女は、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。
「馬鹿も何も、最初から必殺技使っちゃいけないなんて決まりないもんね」
 あっさりと鮫女を倒し、変身を解くミーミル。しかし・・・・
「うそ!」
 変身を解いたはずなのに、優の姿は女のままだった。
「いいから早く乗れ。次の化け物が現れないうちに仲間を拾わないと」本度が言いかけたその時、
「たぶんその必要はないぜ」優の耳に、聞き慣れた声が入ってくる。
「おいおい、もうちょっと早く現れてくれればいいのに」
 現れたのは薫であった。
「どうやら出直した方が良さそうだ。フェムニスの手先どもがウヨウヨしてやがる」
「それじゃ決まりだ。早く乗りな」
 傷だらけのアストンマーチンのエンジンが、再び咆吼をあげる。
「で、これからどうするの」優が女の姿のまま心配そうにつぶやいた。
「とりあえず国外に出るか」
「国外!?」
「我らが祖国、日本国へ」薫が楽しそうに言う。
 本度がアクセルを踏み込む。
「さあて、どこを突破するかな」
「確かこの先の川が市の境になってると思う」
「川か・・・なんとかなるだろう」
「え!?」
 アストンマーチンが猛スピードで川に向かって突進していく。「国境」を警備しているらしい女達も思わず飛びすさった。
「しっかり掴まれ!行くぞ!」
 本度は再びなにやらボタンを押した。沸き起こる轟音と共に優たちにもGがかかる。
「うそ!」
 次の瞬間、後ろにロケットエンジンを噴かした車は土手を駆け登り宙に舞っていた。
「きゃああああ!!」驚きのあまり甲高い悲鳴を上げる優。
 そして数秒後、アストンマーチンは見事に対岸の河川敷に着地した。
「ふう。何とかうまくいったな。奴らもここまでは追ってこれまい」
「何とかって・・・本度さん、あんた一体何者よ!」興奮さめやらぬ優はヒステリックな声を上げた。
「だから産業スパイの下請けだって」


 すでに夕日が沈みかけている。本度は人目に付かない海岸沿いに車を移動させていた。
「最初のきっかけは武器の大量消失だった。消えた武器の行き先を調査するうちにこのフェムニスにぶつかったわけだ。最初は武力クーデターかとも思ったがどうも違う。そのうちに今回の独立劇が本来の目的のための手段に過ぎないことを掴んだ訳だ」
「へーえ。よくそんなこと探り出せたね」ようやく落ち着いた優が口を挟む。
「ああ、何度女にされ損なったことか。とにかく奴らの力、科学なのかまやかしなのかわからんが、あの人間を改造することに偏った力は、常識ではちと信じられんな。ま、それはともかく奴ら、いや奴の本当の目的は、少数を除いた人類を滅ぼして自分が地球上の支配者になることだ」
「で、その一歩が独立宣言なわけ?」
「それも違う。広く言えばそうかもしれんが、奴は人類を滅ぼすほどの力はまだ持っていない。が、それを手に入れる方法を考えたのだ」
「人類を滅ぼす力?」
「なにやら怪獣か何か、とんでもない化け物を隠しているらしい。しかしそいつを動かすには大量の、奴らが言うところの生け贄が必要なのさ。そしてその生け贄は、若い女でなくてはならないんだそうだ」
「今時、生け贄とはね・・・」薫が真面目な顔をしている。
「話のニュアンスからして、若い女と言うよりその精神エネルギーのようなものらしいがな。で、その生け贄に必要な人数が、笑うなよ、九九九九九人だそうだ」
「あっはっは、そりゃあ無理だわ」笑うなよ、という本度の前置きにも関わらず、優はおもいっきり爆笑した。
「笑い事じゃない。だから奴らは、その大人数を集めることが可能な計画を立てたわけだ。もちろん、若い男の女性化も含めてな」
「どういう意味?」
「一応独立宣言したという事は、それを承認するにしろしないにしろ各国が対応を開始するまでの時間があるわけだ。とくに日本のような国ではなおさらな。その間に、一応の国家権力を使って生け贄を集めることは可能だ。とりあえず、被害が拡がらないうちに阻止しなくては」
「どうやって?」
「私は、ある筋を通じてなるべく早く国家規模でのフェムニス鎮圧を働きかける。君たちには幹部である怪女たちを少しづつでも倒してもらい奴らの計画を遅らせて欲しい」
「いいけどさ、またあの国境線越えるのはぞっとしないな」
「大丈夫だ。我々が全力でバックアップする」
「我々?」
「あれを見ろ」
「うそ!」
 本度の指す方を見て驚く優と薫。
 その海面には、潜水艦が浮上していた。

<つづく>



<次回予告>

「俺達はなにもあんた達の国の国益のために働く筋合いはないぜ」
「今回のことは世界全体の危機なのだ」
「笑ってないで、少しはうーん似合う、とかいったら、どうよ」
「たぶん、人間だろう」
「え、吹っ飛ばすのって奴じゃなかったの」
「アホか!いいから」
 次回「悪魔のリサイクル」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
「女神仮面ミーミル」第十話「私を愛したヒーロー」、別名「うそ!の嵐」をお届けします。
 いやあ、彼ったらゲストのくせにタイトルから車から怪女から大活躍でしたね。タイトルは十話ということで、某第十作目のタイトルを頂いちゃいました。あのシリーズも宝塚化になればいいのに・・・(絶対無理)。
 でもね、今時は戦隊でも映画ネタはすぐにやってたりするので良しとしましょう。
 第一クールも残すところあと三回。もうわかった方もいるんじゃないかと思いますが、またです。はい。他にネタないのかい!って怒られそうですが、私の書いているようなお話は大元が一緒なので勘弁して下さい。
 では。

KEBO。


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