女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第九話:決戦は日曜日>

 シャー・・・
 ホテルの一室。バスルームの方から、水音が聞こえている。
 女は、まるで機械のように衣服を着けるとベッドに腰掛け化粧を直しそして、おもむろに大きな鞄の中から携帯電話を取り出しプッシュした。
「フンフンフン・・・」水音に混じって男の鼻唄も聞こえる。男は随分満足だったようだ。
 RRRRR・・・・RRRRR・・・・Gu
 電話がつながる。
「不適合」女はその一言だけ言うと、電話を切った。
 数秒後、
 ブーン・・・ブーン・・・
「うわ、なんだ!あ、あああああ!」
 ブーンブーンブーン・・・・
 シャー・・・・
 大量の虫の羽音のような音と、それにかき消されるような男の悲鳴の後、バスルームからは、再び水音だけが響くようになった。
 女が、バスルームの扉を開ける。
 バスタブの中に、一人の男が裸でうずくまって、いや蠢いていた。
 シャワーの栓を閉める女。男の体は軟体動物のように蠢いている。やがて、その身体は、男の元の姿とは似ても似つかないように変化していった。
「うう・・・」不意に、男がのけぞるように身体を起こす。
 ブーン・・・
 男の下から、二、三匹の大きな蜂が飛び出す。蜂達は表情一つ変えずに見守る女をよそに、天井にある換気扇の排気口を器用に抜けて飛び去った。
 男の変化はさらに進行し、徐々に一つの形に定着していった。
 やがて変化が終わったのか、男はフラフラとバスタブの中に立ち上がった。
 変化した身体は、がっしりと引き締まった元の男らしい姿とはまるで違う、細く、丸い姿だった。厚い胸板や骨太の脚の面影はもうどこにもなく、二つの胸の膨らみと、脚線美と言って恥ずかしくない細く、しなやかな脚がそれに代わっていた。
 男がバスタブをゆっくりと出る。
 バスルームにある鏡に写った男の姿は、間違いなく女のそれになっていた。
 しかし、男の顔には困惑の表情はない。いや、見るからに男を引きつけそうなその女らしい顔には、表情そのものがなかった。
 見守っていた女によって、彼いや彼女は女物の衣服を着けさせられ、化粧をされより男の気を引きそうな雰囲気の女に仕立て上げられていった。
 一時間後、二人の女はホテルをチェックアウトして、夜の街に消えた。


 月曜日・・・・
「選挙?」
「そう。選挙」
「丸茂さん、この間まで支持政党なしどころか興味なしって言ってたじゃない」
 薫のオフィス。珍しく政治の話題で盛り上がっていた。
「それは昔のこと。これからは、心を入れ替えて参政権を行使するわ」
「どしたの?参院選や衆院選ならともかく、市長選挙だろ。わかった、ファンだったタレントが立候補するとか」
「そんなんじゃないわよ!いずれ私が母親になったときに、子供達に少しでもいい環境で育って欲しいもの」
 薫と峰は唖然とする。
「丸茂さん、彼氏でもできたの?」薫は、半ばわかりきった質問をした。
「うるさいわね!そのうち私にだって王子様が・・・」
 言いかけて丸茂は止まった。薫や峰だけでなく、オフィス内の全員が注目していたのだ。
「あ、ああ、お茶でもいれようかしらね」丸茂は顔を真っ赤にして席を立った。

 そのオフィスの女子更衣室。
「な、なに・・・」
 河井 望美はなんとか声を絞り出した。
 他の三人の女子社員が彼女を囲みこむようにしている。
「河井さん、何市に住んでるの」中央に立つ女、森田 美春が口を開いた。
 彼女は人材派遣会社からの派遣社員で、この会社に来てから三ヶ月と経たなかったがどういうわけか今ではこのオフィス内のOL達のリーダー的存在になっている。
 それだけでなく彼女はその容姿から、男性社員にも人気があるようだ。
「Y市、です・・・」望美は、恐る恐る答える。彼女の方が美春よりも年齢も会社での履歴も長い筈なのに、主導権は完全に美春の方にあった。
 美春の目が妖しい光を放ち、望美は吸い込まれるようにその光にに目を奪われた。
「Y市、そう。今度の日曜日は関名 美保に投票するのよ」
「そんな・・・日曜日は」望美は言いかけたが、最後まで言うことはできなかった。
「いいわね、これは命令よ。あなたも今から、私たちの仲間になるの。そして、知り合いの女の子もどんどん私の所に連れてくるのよ」
 望美は魂を奪われたかのように頷いた。満足そうな笑みを浮かべた美春の目が、元に戻る。
 望美は普通の表情に戻っていた。そして、何事もなかったかのように他の二人の女と談笑しながら女子更衣室を出ていった。
 美春のこのオフィスでの任務は完了した。


 水曜日・・・・
「なあ、優」珍しく、兄弟二人が夕食を共にしていた。
「ん」
「ここいらの市長選って、そんなに関心高くなるようなもんか」
「そうだな・・・・そういえばさ、この周り四市同時選挙だし」
「珍しいって言えば珍しいか。でも普通に考えてだぞ、若い女の子の関心が高い理由があるか?」
「なんで」
「ウチの事務所の姉ちゃん方、最近その話題で盛り上がってるし」
「いいことじゃないか」
「だけどさ、なんか妙な気がするんだよな」
「タレント候補が大量に出るとか」
「ちがう」
「あ、そういえばさ、なんか女の人が出てなかったっけ」
「どれどれ・・・」
 新聞を見る薫。みればどの市でも、候補としては若い女性が立候補していた。
「ふむふむ、なるほど。どれも一応どっかの公認候補だな。でもこの手の候補って大概産共党だろ。なんで今回は違うの」
 どの候補も同じというわけではなかったが、彼女たちを公認しているのは民自党や自社党といった与党系か大きな野党系の党で、産共党はその隣に別の公認候補を立てている。
「やっぱりさ、民自も自社も考えたんだよ。これで選挙に対する関心を上げておいて、一気に解散総選挙とか」
「でも投票率が上がりすぎると与党系、大概負けるだろ」
「そうか・・・おかわり」
 日野神家の晩餐は続いた。


 金曜日・・・・
 人材派遣会社「Wスタッフ」本社ビル最上階、室内プールのプールサイド。
「状況はどうじゃ」
「は。全工作員とも任務完了し各選挙区ともほぼ過半数を確保いたしました」
「よろしい。次の手筈は整っておるのか」
「現在九割といったところで・・・場合によっては奴隷階級の他に支持者を使わねばならぬかもしれません」
「それはならぬ。支持者では弱い。奴隷階級を増やすのじゃ」
「今日、明日中にはなんとか」
「気付かれてはおらぬであろうな」
「はい。今のところ目立った妨害や各界の動きもありませぬ」
「ホホホホホ、上出来じゃ。ぬかりなきようにな」
「は」


 土曜日、夕刻・・・・
「美緒ちゃん、今日はよく頑張ったわね」
「うん!」
「ご褒美に、レストランでお食事しましょう」
「わーい!」
 ごく普通の母子が、街を歩いている。まだ小学生ぐらいの娘の正装した姿から考えると、どうやら娘のピアノの発表会か何かだったらしい。
「可愛いわね。私にもあんな頃があったんだ」文香は母子を振り返りながら言った。
 もちろん優と一緒である。
「そうか。今思えば俺なんかクソガキだったんだろうな」
「えー、どうして」
「しょっちゅう兄貴と悪さしてた」
「うふふ。優さんの小さい頃見てみたいな」
 通りを選挙カーが走っていく。
“S市政に新しい風を。皆風 舞子が最後のお願いに上がりました”
「おばさんってよりお姉さん候補ね」文香が感想を述べた。
「文香はあんまり興味ないの」
「うん。でも私の周りもなんか突然、突然よ、みんな選挙選挙って騒ぎ始めたの」
「突然?」
「そう。今まで全然政治なんかに興味なかった子が突然騒ぎ始めたのよ。びっくりしたわ」
「で」
「それからあっと言う間にみんなに広まって、ここ二、三日は選挙権のない子まで騒いでるわよ」
(おかしいな)優は思った。
 その時であった。
 キキキキー!ドン!
「キャアアアア!」
 悲鳴を上げたのはとっさに振り返った文香だった。少し先の交差点で選挙カーが停止している。
「どうした!」
「今、人が飛んだ」
 周りには二人の他に誰もいないようだ。
 慌てて走る二人。
「ママ!ママ!」
 選挙カーの前に、さっきの母親が倒れている。その横で娘が大声で泣き叫んでいた。
 幸いなことに、怪我はしているが命には別状ないようだ。
「救急車!」とっさに叫ぶ優。
 文香が、慌ててバッグから携帯電話を取り出そうとする。が、
「その必要は無くってよ」運動員の女が、候補者と運転手のような女を伴って車から降りてきた。
「え!」優は、五感を疑った。
 ゆっくりと、身体の変化が始まろうとしている。
(げ、まずい・・・こいつフェムニスか)
「その方は、私が責任を持って病院にお送りしますわ」
 女は妖しく微笑んだ。文香がどうしようか迷っている。
 その時、別の声が響いた。
「早く救急車を。その女に騙されてはいけない」
「う!何者」
「市長選を裏で操って、何を企んでいる」車の進路を塞ぐよう一人の男が現れた。
「な、何の事かしら」女の声が慌てている。
 優が頷く。文香はダイヤルした。
「悪いが各候補の身辺調査を徹底的にさせて貰った。それと、各党への裏工作の事実もな。四人の女性候補は、全員Wスタッフの女社長の命令で動いている。違うか!」
「オッホッホッホッホ、よくご存知ね。そう、知られたからには仕方ないわ」
「君たち、その親子を連れて安全なところへ」男は叫ぶと、懐から拳銃を取り出した。
「何何何!」完全にパニックに陥る文香。
「君たちは知らない方がいい。さあ早く!」
「そうはさせないわ!」
「キャ!」
 一瞬、女と文香の間の空気が歪んで見えると、次の瞬間文香は気絶していた。
「文香!」
 バンバン!男が拳銃を撃つ。しかし女には通じない。
「さ、お前達は行きなさい」女の指令で、候補者と運転手は車に乗って走り去る。女は今や正体を現しつつあった。腕は翼のようになり、耳が伸び始めている。そして優の方にも超音波を飛ばそうとした。
 とっさに跳ぶ優。女が正体を表すとともに、優の身体の変化も急激に進んでいた。
「出たな化け物!」男は拳銃を撃ち続けるが全く効果がない。
「ホホホ。邪魔者は消すまでよ」コウモリ女は、男の方に向かっていく。
 優が跳んだ場所には、親子の娘が事態を全く理解できていない状態で座り込んでいた。
「みんなには内緒だよ」優は彼女に優しく告げると、立ち上がり左手を差し上げた。
「女神転生!」
 突然の光に驚き振り向くコウモリ女フィムバトレス。そこには、白と紫のツートンにプラチナ色のラインが入った鎧のようなスーツと仮面、そしてマントに身を包んだ女戦士が立っていた。
 男はつぶやいた「あれが、噂の・・・」
「女神仮面ミーミル!」
「おのれ・・・よりによってお前が現れるとは」
 正体を現したお陰で強力になったのか、フィムバトレスの額から今度ははっきりとわかる「歪み」が発射される。ミーミルはそれをかわして跳び回らなければならなかった。
「ったく、しつこいな!」ミーミルのイライラも限界に達しつつある。その時、さっきの男がやっと少し理解したのか街路樹の枝をむしり取ってコウモリ女に殴りかかった。
 ボコボコ!
「ええい!邪魔だ!」コウモリ女は今度は男に向かって超音波攻撃を開始した。
「今だ」その隙をついてミーミルがコウモリ女に向かっていく。
 ビシ!ビシ!バシ!ミーミルの蹴りが入る。
「うう!」苦悶の表情を見せるコウモリ女。
「やぁ!」ミーミルのハイキックがフィムバトレスの顔面を捉えた。
「ああ!」倒れ込むコウモリ女。
「ミミー・グングニル!」
 右手の先に、光り輝く槍が現れる。ミーミルは、それをしっかりと握るとコウモリ女の方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!コウモリ女に向かってまっすぐに飛ぶ槍。 「ギャァァァァ!」
 光の槍が、ようやく立ち上がったコウモリ女の胴体を貫く。コウモリ女は、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。


「ユニバーサル情報サービス、本度 恭一郎」
 親子の母親が搬送された病院の暗いロビーで、優は男の正体を初めて知った。
「ぼんど きょういちろう、ふむふむ、産業スパイの下請けさんなわけ」
「人聞きの悪い。実はふとしたことで今回の市長選に絡む陰謀を掴み、それを追ううちにこうなったわけだ」
「ふうん。で、なんでワルサーPPKとかマニアックな銃持ってるわけ」
「しっ、声が高い。本当はP99を今頼んであるんだ」
 気絶したままの文香はロビーのイスに寝かされていた。
「別にそういうことを言ってるんじゃ」
「ま、いいではないか。最近は本物の方がモデルガンより安いかもしれんぞ」
「トカレフだったらそうかもしれないけど・・・で、その陰謀とは」
「どうも裏でWスタッフという人材派遣会社の女社長が糸を引いているらしいんだが」
「その女社長って」
「聞いて驚くな、凄い名前だぞ。その名前は美 玲」
「び れい!?・・・び れい・・・B 玲!?」
「どうだ、凄いだろ」
(Bに・・・気を付け・・・なさい)
 優は思い当たってはっとした。
「でもな」本度の声に、我に返る優。
「ん」
「この親子、本当に可哀想だな。事故のことはおそらくこのままもみ消されるぞ」
「なんで」
「どうして警察でなくて、俺が動いてると思う?」
「・・・・!」
 その時、廊下の向こう側からさっきの娘と、父親とおぼしき男が歩いてきた。
「本当にありがとうございました。おかげさまで命には別状ないようで」
「とりあえずよかったですね。よかったね、お嬢ちゃん」優は答えた。
「ありがとう、おねえちゃん」
 優は一瞬止まった。
 父子が病室の方へ戻っていった後・・・・
「あっはっは。そういえば、あの女装、趣味か」本度が面白そうに聞く。
「るせえ。別に好きでしてる訳じゃないやい」
「でも確かに正体ばれないしな」
 別の声に、会話は止まった。
「う、ううん・・・」
「大丈夫か?」
「優さん・・・」文香が目を覚ましたのだ。
「もう心配ないよ。さあ、帰ろう」
「はいはい。邪魔者は消えますよ」本度は、名刺を残してロビーから消えた。
「優さん、ごめんなさい。わたしね・・・」
「うん」
「おなか空いた」
 時計はすでに日付が変わったことを告げている。
「そう思った。どこかやってるかな」優はすでに文香の言動パターンには慣れていた。
 二人は深夜の街へと病院を後にした。

<つづく>



<次回予告>

「うそ!」
「そのまんま。なんの工夫もありゃしない」
『総理大臣は緊急の閣議を召集し』
「だれがこんな事考える」
「仕方ない。一気に乗り込んでケリをつけるか」
「馬鹿野郎。俺達以外に誰が世界の平和を守るんだ」
「米軍」
 プシュー!
「うそ!」
 次回「私を愛したヒーロー」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
「女神仮面ミーミル」第九話「決戦は日曜日」をお届けします。
 もうわかったんじゃないかと思いますが、フェムニスの最終作戦は、あれです。その先は、お楽しみに・・・。
 今回ついにヅカがらみでないゲストキャラが登場しましたね。彼の名前を両方とも理解できる人は笑ってやって下さい(片方はすぐわかるね・・・)。なんといってもある意味での元祖正義の味方ですから。
 次回はついにフェムニスの作戦の全貌が明らかになります。
 では。


KEBO。


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