女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第七話:潮風の鎮魂歌>

 さささささ・・・・・さささささ・・・・・
「海ってさ、この匂いがいいんだよな」
「匂い?」
「ああ。なんていうかさ、磯の匂いっていうか、潮の香りっていうか・・・」
 優と文香は、少し遠出して海に来ていた。
 釣り人が数人、釣りを楽しんでいる。少し郊外の港の桟橋で、凪の風が二人の周りを駆けていく。
「すいません」不意に、後ろから若い女に声をかけられた。
 振り向く二人。
「あの、署名お願いできませんか」
「署名?」
 署名運動の用紙には、「埋立処分場建設反対運動」と書かれている。
「埋立処分場?」
「はい。この沖をゴミ処理の埋立地にしようという計画です。あれを見て下さい」
 彼女が指す先には、数隻の小型船が作業をしている。
 文香が署名をしていた。
「はい」優にペンを渡す文香。優もあまり考えずに署名した。
「ありがとうございます」女は去っていった。
「ゴミ捨場か。ウチのゴミもここまで来るのかな」優はつぶやいた。


 その、作業している測量船の上。
「昼にしようか」「了解」
 しかし測量船が引き返そうとしたその時、鈍い衝撃が船を襲った。
「おい、なんだ?」
「別に当たるような物ないだろ」
「ん!?」
 船の先頭から人のような何かが上がってくる。
「なんだ、人か?」
 船上の者が振り向く間もなくそいつは船の上に立ち上がった。
「うわあ、化け物だ!」
 化け物が、彼らに向かって何かを投げる。それは、手のひらサイズの貝殻のようだったが、船上の男達にくっつくと、見る間に大きくなっていった。
「うわああああ」
 男達が人間大に巨大化した貝の中に飲み込まれる。貝の口は彼らを飲み込むとそれぞれ固く閉じられた。
「母の心を知るがいいわ」貝女は、そう言い残すと海に消えた。


「なんだ、あの人だかり」
「え、もしかして大物の魚でも上がったのかしら」
 優と文香が漁師料理の店で昼を済ませて、再び港を散策していると、桟橋の一つに人だかりができていた。
 警察の駐在が走っていく。
「お巡りさんが走っていくってのは、ちと大事かな」
 二人も桟橋の方に急いだ。桟橋には、測量船が繋がれている。
「これさっきの作業船じゃない」文香がそれに気付いた。
「なにがあった、あ」
 数人の男が、船から何かを運び上げる。それは、巨大な貝だった。
「何があったんですか」優が近くにいた男に尋ねた。
「何がも何も、乗ってた人間が消えて、大きな貝が人数分乗ってたってえの」
 男も成り行きを興味深そうに見守りながら答える。
 やがて、人々が見守る前で、貝の口がこじ開けられる。
「おおお・・・」思わず上がる驚嘆の声。
 開かれた貝の中には、人間大ほどもある巨大な真珠様の物が入っていた。
「お、おい、動いてるぞ」
 巨大な真珠が、卵が割れるように砕け、中から現れた物に再び驚きの声が上がる。
 中から現れたのは全裸の女だった。それも体の所々が真珠化しているように見える。
 女は貝から這い出ると、ぐったりと倒れ込んだ。
「おい、救急車!」
 あわてて駐在が携帯電話をかける。救急車が来るまでに貝は三つともこじ開けられ、中から都合三人の女性が「助け」出された。
「罰が当たったのよ」突然、優の後ろで声がした。
 振り返るとさっき署名を集めていた女だ。
「罰?」
「あの声が聞こえないの?」
「声?」
「海が怒っているのよ。人は命のもとの海を汚して、殺そうとしているんだわ。罰が当たって当然よ」
 冷たく言い放つ女に、優は少々ムッとして言い返した。
「あの女の人たちに何の罪があるって言うんだ」
「女?ふふふ、そのうちわかる事だけど、彼女たちはあの船の船員達よ」
「どういう意味だ?」
「だからそのうちわかるわよ。でもね、ご覧なさい。あんな事件の後でも人間の欲望は変わらないものだわ」
 野次馬が、一転して今度は砕け散った真珠のような物を拾い集めている。
  「・・・・・」
「彼らにとって、あれが何だろうと関係ないのよ。場合によっては、彼女たちが完全に真珠化してから貝を開けた方がよかったんじゃないかしら」
「お前、何者だ」
「優さん!」優が女に言いかけたところで文香が最前線から戻ってきた。
 女が、すっ、と消える。
「優さんあのね」文香がはしゃぎまくった芸能レポーターのように話す。
「何」
「さっきの女の人たち、どうも船の乗組員らしいのよ」
「何で?女の人三人で作業してたの?」
「ううん。ただ貝の中から、その乗組員の人の持ち物や着てた物が出てきたの」
「で」
「作業してた事務所の所長さんの話じゃ、船に乗ってたのはみんな男の人だって」
「うん」
「ということは、その男の人たちは貝の中で女に変身したってことだわ」
「だから?」
「やだあ、優さん冷たい。だって、男の人が女の人に変身して、貝の中から出てくるのよ。なんか不思議だけどファンタジックじゃない」
 優は少しいらついて答えた。
「そんなこと言うもんじゃないよ。お話の中ならともかく、本当の事じゃないか。あの人達だって生活も家族もあるだろうし」
「・・・・・」文香は黙り込んだ。二人の間に気まずい空気が流れる。
「ごめん」優が最初に口を開く。
「・・・・ううん。私が調子よく喋りすぎたの」
「おいしい物食べに行こうか」
「うん!」
 二人は、港を後にした。


 港を後にしたはいいものの、優はその後のことが気になって仕方なかった。
(あの女、やはりフェムニスだったのだろうか)
(でも、体は反応しなかったな)
 文香と別れた後、優は再び港へやってきた。
 工事は一時中断になったようである。
「やはりやってきたわね。光の力をもつ彼氏」
 さっき彼の後ろから声をかけた女が桟橋の先で待っていた。
「おまえ、フェムニスか」
「そう。かつてはね。でも今は違うわ」
「今は違う?」
「確かにかつて私はフェムニスの一員だったわ。かつてのフェムニスは理想に満ちていたし、私も世界を救えると信じていた。奴が現れるまで」
「奴?」
「そう。奴が現れてから、あの方はおかしくなられた。私たちは、その狂った実験台。奴の持つ強力な闇の力によって、私や仲間達は人間を越える力と特殊な能力を与えられた。あの方も私たちを特別な幹部として扱ってくれたわ。でもね、徐々にあの方は奴の言うなりになって、フェムニスの理想もねじ曲げられていった。今では、知ってのとおり野望に満ちた破壊集団にすぎないわ」
「何で俺にそんなことを話す」
「あなたならわかるはずだからよ。私の家は代々神主で、この辺の土地神を守って来たの。でもご覧なさい、人間達の欲望は止まることを知らず、やがてこの母なる海までも破壊しようとしている。私がフェムニスに入ったのは、海を守りたかったから。このガンに冒された海を」
「ガン!?」
「人間は、ガンよ」
「そんなこと・・・」
「母親が愛しくないの?母親を苦しめて殺す子供達を、私は理解できないわ。あなたには聞こえるはずだわ。この、海の悲鳴が。自然の怯えが。みんな殺されるのよ、人間というガン細胞に」
「だからって、あの人達を女性化して何になるんだ」
「そうかも知れないわ。でもね、私には他に何もできないのよ。せめてあの人達も母性を感じることができれば、少しは違うはずだわ」
「しかし・・・・あのまま放って置いたらあの人達死んだかもしれないんだぞ」
「そうよ。だから船を桟橋に戻したの。奴が私に与えたのは子貝によって男性を女性化し、女性を真珠化する能力。最初にその力を試したとき、実験台にされた男は死んだわ。美しい、そう、とても美しいビーナスのような真珠になってね。私は、もうだれも殺したくないの。でも、海を、自然を、地球を救うためにはああしていくほかないのよ」
「それじゃあ、とりあえず工事が中断されて願ったり叶ったりだな。三人の一生をめちゃくちゃにして、自分の目的を果たしたわけだ。海を救うだの何だの言っても、結局やってることはフェムニスのまんまじゃないか」
 女の表情がひきつる。
「愚かな人間を殺さずに正しい方向へ・・・・・」
「本音が出たようだな。あんたは自分が神にでもなったつもりか?」
「あなたにはわかるはずだわ。私たちの人を越える力は、人を導くためにこそあるのよ。どちらにしろこのままでは、人間はいずれ自ら地球を道連れに破滅していくのだわ」
「それは違う。人間だってもう気付いているよ。人間の知恵や勇気は、誰に導かれなくても正しい未来を切り開いていける。少なくとも俺はそう信じる」
「愚かな・・・見ているがいいわ。そんなことではフェムニスの思う壺よ」
「どういう意味だ」
「そのうちわかるわ。とにかく、私たちは相容れないようね」
「待て、やめろ!」
 女は、おもむろに両手を交差させた。
「フィムトランス!」
 両手を振り下げる女の周囲に黒い風が走り、竜巻のような風の中で、彼女の姿は変貌していった。
「私の正体を知られた以上は仕方ないわ。あなたには、死んで貰う」
 貝女フィムパーシェルは、優に向かって子貝を投げつけた。
「うわああ!」
 男の姿のまま貝に飲み込まれる優。しかし優が完全に飲み込まれた次の瞬間、貝が弾けた。
「うっ!」今度は貝女の方がよろける。
 貝があった場所には、ミーミルに変身した優の光に包まれた姿があった。
「どうしても戦わなくてはならないの?」ミーミルは、細く美しい声でもう一度貝女に問いかけた。
「それが運命ならね・・・」答える貝女。
「そう・・・・」
 ミーミルは、悲しげに身構えた。
「さあ!」
 シュバシュバシュバ!
 大量の子貝を飛ばす貝女。子貝は次々とミーミルの体にとりつき、ミーミルの体を覆い隠していく。
「愚かな・・・戦わないのなら、死あるのみ」
 フィムパーシェルの悲しげな声。
 やがてミーミルの体は、小さなままの子貝の群に覆い尽くされた。しかし・・・・
「もうやめなさい。本当にあなたを倒さなくてはならなくなる」
 一瞬にして消滅する子貝の群。ミーミルは、構えを解いて貝女の前に仁王立ちになった。
「ええい!私を愚弄するのか!」
 再び飛ぶ子貝の群。しかし何度ミーミルを飲み込もうとしても、子貝の群はことごとくミーミルを包む光に粉砕されていった。
「こうなったら・・・」子貝による攻撃をあきらめたのか、貝女は両腕を斧のような形に変化させる。
「ええい!」鋭い貝殻でできた斧が、ミーミルの体を掠めていく。両腕を振り回しながらいつしか、貝女は涙なのか顔を濡らしていた。
 スパ!
 いままで貝女の攻撃をかわし続けていたミーミルの左肩を、ついに貝女の斧が傷つけた。
「あ!」一瞬飛びすさるミーミル。
 左肩から、一閃の血が流れる。
 少し離れて貝女は、肩で息をしていた。
 ミーミルは、再び身構えると口を開いた。
「わかったわ。どうしても戦わなくてはならないのね」
「ヤァァァァ!」貝女が、返事の代わりに斧になった手を振りかざして突っ込んでくる。
「たぁ!」ミーミルは、貝女が振り下ろした腕をかわすとその腕を抱き込み、腕の先の斧状の部分に肘鉄を叩き込んだ。
「あぁぁぁ!」悲鳴と共に砕け散る貝女の斧。そしてミーミルは、そのまま貝女を背負い投げた。
「やああ!」
「うぅ」
 倒れ込む貝女。貝女はそのままうずくまった。
「私はこの力に良くも悪くも翻弄されてきたけれど、今日ほどこの力を呪ったことはなかった」
 ミーミルはそう言うと、右手を差し上げた。
「ミミー・グングニル!」
 右手の先に、光り輝く槍が現れる。
「ごめん。私にはこうしてあげることしかできない」
「いいのよ。ありがとう」
 ミーミルは、それをしっかりと握ると貝女の方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!貝女に向かってまっすぐに飛ぶ槍。
「ウッ」光の槍が、貝女の胴体を貫く。
「・・・いいこと・・・Bに・・・気を付け・・・なさい・・・もうすぐ・・・とんでもない・・・ことが・・・おこる・・・ああ」
 槍が貫いた胴体から炎が上がる。貝女は炎の中に安らいだ顔を残して消滅していった。


『F港沖に計画されている埋め立て処分場の建設工事が、測量や磁気探査などを終えて今日本格的に始まり、F港沖には外縁部の護岸を築造するための地盤改良船が・・・』
 学食のテレビが、昼のニュースを流していた。
 仲間が、彼に声をかける。
「日野神、今度の土曜河原でバーベキューしようかってんだけど、来ない?」
「ゴミは?」
「キャンプ場だからゴミ箱あるだろ」
「・・・・・」
 思わず学内を見回す優。どのゴミ箱にも、空き缶や紙屑、吸い殻などが溢れている。溢れたゴミはゴミ箱の周りに散乱し、学生達は誰も片付けようとしない。それどころかその散乱したゴミの上にまた新しいゴミが増殖していく。
 優は、思わず頭を抱え込んだ。
 これでいいのだろうか?

<つづく>



<次回予告>

「君は、いったい誰だ」
「いいえ。そんなこと、誰にも言わないわ」
「それじゃ何故・・・・まさか!?」
「私たちは、あの方の玩具なのよ」
「玩具!?」
「あの方には二度と近付かないで」
「剣を取れ日野神 薫、いやアポロン」
「怒りの鉄拳を受けてみろ!」
 次回「黒い薔薇VS赤い薔薇」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 というわけで、「女神仮面ミーミル」第七話です。
 今回は、少し社会的なテーマに挑戦してみました。いやあ、実に偽善的ですなあ。
 私も土建屋稼業ですけどね、工事してて「本当にいいのかな」とか、もっと身近な所では***さんや***な人たちの環境に対する意識っていうのが低いと言うより全くないんじゃないか、もっと端的に言えば・・・よしましょう。あまり言うと自己否定につながっていくかもしれない。
 ともかく、自然や環境に対するテーマは、ここ最近のヒーロー番組のトレンドのような気がします。
 次回は、アポロン編。あの関係のネタ満載でお届けします。(ファンの人怒らないで下さいね!)
 その後は、怒濤の5話連続エピソードを予定してます(それで第一クールは終わり)。  今まで見たヒーロー物の中で、もっとも効果的だったと思う悪の組織の作戦を踏襲させていただきますのでよろしく。
 では。


 KEBO。


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