女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第六話:天使の歌声、仮面の裏声>

 深夜・・・・
 ピコピコ・・・ピコピコ・・・ブン!
 テレビの前で、ひたすらゲームに興じる少年。
「うわ!」
 画面に浮かぶ“GAME OVER”の文字。
「ちくしょう」彼はすかさずコンティニューのメニューを選び、再びゲームを開始した。
 しかしその時、
(・・・・・アー・・・アアアーアアーアアー・・・・・)
「ん?」どこか遠くの方からかすかに歌声が聞こえてくる。時間はすでに午前二時を過ぎているし、窓も閉め切ってある。彼は気になってゲームの音量を低くしてみた。
(・・・・・あなたも・・・おいでよ・・・乙女の・・・花園へ・・・)
 やはり確かに聞こえる。それもとても美しい歌声だ。
 やがて歌声は、よりはっきりと、まるで彼の頭の中に直接響いてくるかのようになった。
「なん、なんだろう」
 彼は歌声の主を確かめたい衝動に駆られた。そしてそのまま部屋の外に出た。
(・・・・一緒に・・・おいで・・・素晴らしい・・・世界・・・)
 頭の中に響く歌声に導かれるまま、彼は歩き続けた。途中、何人もの同じような少年たちと合流したが、そんなことはどうでもよかった。
 やがて彼、いや彼らが辿り着いたのは、巨大なアンテナのあるビルの屋上だった。
“可愛い子羊たち  私の歌声で
 あなたたちの  悩みも苦しみも
 すべて  忘れましょう“
 アンテナのたもとでは、一人の美しい女が歌い続けている。少年たちはその女を囲むように立った。
“さあおいで  素晴らしい世界
 夢の国  乙女の花園へ“
 少年たちは皆一様に女を見上げ、至福の表情を浮かべている。彼らはまるで人形のように歌声に合わせて体を揺らした。
 不意に、歌のテンポが速くなる。
“さあ あなたも 生まれ変わりなさい
 体も 心も 美しく
 そして 変えましょう この世界を“
 歌に合わせて踊る少年たちに変化が起こった。少年たちの締まった体つきが、丸みをおびていく。筋肉質の肩や腰が細く柔らかくなり、その代わりに胸が膨らみ尻が丸く大きくなっていった。引き締まった顔も至福の表情をうかべたままふっくらと、優しいラインに変わっていく。
 やがて、少年たちの姿は、一人残らず少女のそれになった。
 歌が止まった。
「ようこそ乙女の花園へ。お前たちはもう生まれ変わったわ。これからはフェムニスの一員として世界を変えていくのよ」
 少女たちが頷く。女は少女たちを連れてどこへともなく消えた。


「んん・・・おはよう」
「ふふぁああああ」
 優がリビングに降りていくと、薫があくびをしながら朝食を食べていた。
「兄貴眠そうだな」
「ん、ああ」
「どうせまた夜中まで裏でも見てたんだろ」
 プッ!牛乳を吹き出す薫。
「お前って奴は・・・朝からそういうこと言うかな」
 蘭が、台所で聞こえないふりをしている。
「やっぱりな。正義のヒーローも所詮若い兄ちゃんだもんな」
「るせえ。お前こそ夜中まで電気点いてたじゃねえか」
「俺はな、今週いっぱいのレポート書いてたんだよ」
「正直に言え。お前も見たかったんだろ」薫は作戦を変えた。
「う、買収するつもりか・・・仕方ない、来週になったら回してくれい」
「わかった。でもなあ、俺もまだ最後まで見てないんだよ。夕べなんか途中で変な歌が聞こえてくるし」
「歌?」
「ああ。せっかくいいところでな、なんかちょっとミュージカルな感じの歌が聞こえてきてな」
「え、あれまた兄貴がビデオ見てたんじゃないの?」
「俺は夕べは裏一本しか・・・」
 言いかけて薫はフリーズした。
 恐る恐る振り返るとそこには稔が目を点にして立っている。
「よ、よう親父、おはよう」フォローする優。
 薫はまだ止まっている。
「いい時代になったなあ。俺の頃はなかったぞ、そんなもん」
 ボソ、と稔がつぶやいた。
「さあ、そろそろ行かないと遅刻するわよ」
「ん、ああ、行ってきまーす」
「行ってきまーす」
 顔をひきつらせた蘭の一言を合図に、薫と稔は家を飛び出した。
「はい優、朝御飯。しっかり食べて学校行ってちょうだい」
「は、ははは、いっただっきまーす」
 優はあわてて朝食をかき込んだ。


「行けそう?」
「けっこうヤバイ。今日明日徹夜して何とかなるかなあ」
 いつものように学食でとぐろを巻いている優たち。今回のレポートは結構大変で彼らは互いに情報交換しながら書いていた。
 しかし、そうなるとつい余計な無駄話をしてしまうのが常である。
「ゆうべなんかもう途中で変な歌が妙に耳についてさ、頭ん中でぐるぐる回ってレポートどころじゃないんよ」
「なにそれ?」
(・・・・?)優は気になった。歌を聴いたのは彼だけではなかったのだ。
「俺なんかさっさと寝ちまったから知らねえよ」
「またかよ。コピー代足らなくなるぞ」
「今晩さ、集まってやろうぜ」仲間の一人が提案した。
「どこで?」
「俺んちでよければ来いよ」別の仲間が乗る。
「よっし。晩飯食ってから一式もって行くわ」
 そういうことで話はまとまった。


 というわけで・・・・
 夕食後、優は仲間の部屋へ出かけることになった。
「お、優、今日はレポートしないのか」
「友達のところで集まってするのさ」
「集まってって・・・そんな何が悲しくて夜中に男同士集まるかな」
「そんなことより兄貴、ちょっと気になるんだけどさ」
「なに?」
「あの歌聞いたの、俺たちだけじゃないみたいだぜ」
「やっぱり・・・」
「やっぱりって?」
「どうも、またいつものパターンのような気がする」
(あちゃー)優は思った。心の奥底ではそう思っていたが、はっきり言って認めたくないのだ。
「どうした」そんな優に薫が突っ込む。
「あのさ、なんでもかんでもそのせいにするの、やめない」優は冷たく返す。
「そうだなあ。でもさ、奴らもアホだからいつもすぐバレるようなこと企むし」
「わかったわかった、一応もし何かあったら電話するから。ちょっと今週一杯は頼む。本当にレポート間に合わないんだ」
「了解了解。何時でも起きてるから」
「また、あれ?」
「そうとも言う」
「来週本当に回してくれよ」
「わかったわかった」
 ウッフン!後ろで蘭の咳払いが聞こえる。
「んじゃあ、行ってきまあす」


「ジャンケンしようか」
「よっし!せーの!」
「ジャンケンポン!」
「へ、やり!」
「げげ・・・」
 こういうときに限って優は負ける。
 結局、仲間たちの食料を買い出しに行くハメになってしまった。
「ったく。ついてないな」
 時計の針はもう二時近い。こんな時間にやっているのはコンビニぐらいなものだ。
 十数分後、優は大きな袋を両手にぶら下げて歩いていた。
 と、その時・・・
(・・・・・アー・・・アアアーアアーアアー・・・・・)
「おいおい、またかよ・・・」
 優はおもむろに電話を取り出す。が、その時、前から優の仲間たちが歩いてきた。
「お、おいみんな!どこ行くんだ!」
 しかし仲間たちは優を無視して歩いていく。
「おい、せっかく食い物買ってきたのに。あいや、レポート間に合わないぞ!」
 優がダイヤルしている間に、仲間たちはさっさと歩いていってしまった。
(RRRRR・・・・・RRRRR・・・・・)
 何度鳴らしても、薫は出ない。
「ええい!いい加減にしろ!」
 優は電話を切ると、慌てて仲間たちを追いかけた。


“さあみんな ここにおいで”
 フィムキャナリは美しい女の姿のまま歌い続けた。今日も若い男たちが集まっている。彼らに彼女の歌声で転生の舞を踊らせるのだ。
 しかし、その歌は不意に遮られた。
「本当にいい加減にしろよ!どいつもこいつも・・・・俺はな、本当にレポートが間に合わないんだ!」
 優であった。仲間についてきたら女のいるビルの屋上に来てしまったのだ。
「わたぁしのぉうたをじゃまするぅなんて、おまぁえもぉ、いっしょにぃ、おどりなぁさぁいぃ」
 女は、歌のテンポを変えようとしたが、その前にすでに優の変化は始まっていた。
「なんだぁおまえはぁ?わたしのうたをぉきけないっていうのぉ」
「・・・別にあんたに言われなくても勝手に変身しちまうんだけど」
 徐々に細く美しくなっていく声で、優はつぶやいた。そして、完全に女性化した優は、左手を差し上げた。
「女神、転生!」
 知恵の瞳が輝く。
 光が消えると、白と紫のツートンにプラチナ色のラインが入った鎧のようなスーツと仮面、そしてマントに身を包んだ女戦士が、そこに立っていた。
「う、何者!」フィムキャナリが、初めてメロディなしに口をきく。メロディが途切れた途端、彼女はそのカナリヤ女の正体を現した。
「女神仮面、ミーミル!」
「おのぉれぇぇぇぇぇ、ぼうやたちぃぃ、そいつをやっつけてぇぇおしまい!」
 カナリヤ女が再び歌い始める。すると、優の仲間たちをはじめ周りの少年たちが、拳を振り上げてミーミルに襲いかかってきた。
「こまったもんだわねえ!」
 ミーミルは、彼らに阻まれてカナリヤ女に近付くことができない。それどころか、彼らが次々と掴みかかってくる始末である。
 やむなく少年たちを吹っ飛ばそうとしたその時、
 シュッ!
「なんだってぇぇきょうはぁぁつぎつぎぃ邪魔が入るのぉぉぉぉ」
 歌いながら呻くカナリヤ女の目の前に突き立つ黒薔薇のカード。
“闇に紛れてくる悪が  俺の正義を呼び覚ます
 光の力が集まって  今がその時  光力招来!“
 新たに聞こえてきた歌に少年たちの動きが止まり、そして頭を抱えながら次々倒れていく。
 ミーミルも、一瞬おもわずよろけた。
 光の中から、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士が現れる。
「闇を切り裂く正義の光!」
「遅い!それに何その歌」ミーミルの冷たい視線が彼を刺す。
「悪い、ちょうどいいところだったのでな。いや、やりなおしだ・・・闇を切り裂く正義の光!太陽仮面アポロン!」
「うう、二度までも私の邪魔を・・・」カナリヤ女は怒り心頭に達したようだった。
「聞いたか、私のテーマソングを」
「いいかげんにしろ!みんな倒れちまったじゃないか!」あきれるミーミル。
「う・・・まあそれはともかくその、女声のときはもう少し言葉遣い変えたらどうだ」
「何言ってやがる!中身変わらないのに変えるか!」
「ええい、何をゴチャゴチャと・・・・邪魔する奴は消えろ!」
 たまりかねてカナリヤ女が飛んだ。
「そうだった。アホな事につきあっている暇はないんだ!」
 ミーミルが応じる。しかしカナリヤ女はミーミルの頭上から急降下攻撃をかけてきた。
 ドゥ!ミーミルが吹き飛ばされる。
「おう、なかなかやるな。こんどはこちらの!あれ」アポロンが駆け寄るが彼のショルダーアタックも見事にかわされた。カナリヤ女は再び宙に舞っていたのだ。
「ホーホホ!私のぉ歌声をぉ聞くがいいわぁぁぁ」
 キィィィィン!テンポを取り戻したカナリヤ女の口から、空気をつんざくような高い音が発せられる。
「うわ!」「うう!」カナリヤ女の超音波攻撃に翻弄されるアポロンとミーミル。その隙をついて、カナリヤ女が次々と急降下攻撃をかける。
「うわ!何とかならないか!」アポロンが叫ぶ。
「何しに来たんだよ!こっちはな、本当にレポートが間に合わないんだぞ!」
 ミーミルがすっくと立ち上がる。
 キィィィィン!再び超音波と共に急降下してくるカナリヤ女。ミーミルは、その攻撃をジャンプしてかわすとマントをカナリヤ女に向かって投げた。
「ヴァルキューレ!」ミーミルの叫びと共に、マントが弾けたかに見えた。が、弾けたマントのかけらは、群となってカナリヤ女に向かっていく。
 マントのかけらに見えたものは、小さな白い翼ある者たちの軍団となってカナリヤ女を包み込んだ。
「キャァァァァ!」カナリヤ女の悲鳴。カナリヤ女の羽が空中に拡散する。
 ヒュゥゥゥ、ドサ!
 カナリヤ女がついに墜落した。軍団はミーミルのもとに戻り再びマントになる。
「よしとどめだ!アポロン・コロナパンチ!」
 燃え上がる鉄拳が太陽のコロナのように弧を描き、毛をむしり取られたような姿のカナリヤ女を捉える。
「ギエェェェェェ!」
 カナリヤ女は数メートル吹っ飛ぶと、白い炎を上げて消滅した。


「どうするつもりだよ!アホな歌唄うからみんな寝ちまったじゃないか。おい起きろよ!」
 優は仲間たちを起こして回る。
「あ、あのな」薫が悪そうに口を開いた。
「なんだよ」
「あれ、見終わったわ」
 一瞬止まる優。
「・・・あのなあ、俺は、本当にレポートが間に合わないんだよぉぉぉぉ!」

<つづく>



<次回予告>

「あなたたちには、あの声が聞こえないの」
「声?」
「人間は、ガンよ」
「そんなこと・・・」
「母親が愛しくないの」
「今日ほどこの力を呪ったことはなかった」
 次回「潮風の鎮魂歌」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 というわけで、「女神仮面ミーミル」第六話です。
 特撮のヒーローは大抵若い人じゃないですか。私が今までの見たヒーローの中で、面白かったと思うのは、やはりナンパしまくる奴とか恋愛する奴だったりします。ヒーローになりきっているキャラクターも面白いけれど、男のスケベ心丸出しにしたヒーローもなかなか好きですね
 ではまた。


 KEBO。


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