女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第三話:研究室の怪談>

「あっはっは、じゃあ何か、奴らに近付くと前触れもなく女になっちまうわけか」
「るせえ。兄貴なんか、素面でよくあんなセリフ吐けるな」
「あったりめえよ。他にいつあんなセリフ吐けると思ってんだよ」
「・・・アホか」
「いい加減にしなさい、二人とも」
 蘭の一声で、日野神家のリビングはやっと少し静かになった。
「でもこれではっきりしたわ。兄の薫はお父さんの跡を継いで太陽仮面アポロン、弟の優は私の跡を継いで女神仮面ミーミル。それにしても、お父さんがあのアポロンだったなんて」
 アポロンとミーミルは、過去にも共に戦った事があったのだ。
「僕の方こそびっくりだよ、君がミーミルだったなんて」稔が口を開いた。
「ああーん、やっぱり私たち、運命の出会いだったのね。どうりであの時・・・」

 二十数年前・・・・
「稔さん、どうしよう・・・母が、どうしても賛成してくれないの。泉家は過去何度も婿をとって存続してきたから、お前を嫁には出せないって」
「当たって砕けるまでだよ、蘭さん。僕は何度でも、君のご両親にお願いするつもりだ」
「稔さん・・・・」
 しかし・・・
「おっほっほ、よい男を捕まえてきたの、蘭よ。日野神さん、ふつつかな娘ですがよろしくお願いします」
 蘭の母親は稔を見るなりコロッ、と態度が変わったのだった。
「では」
「おほほほ。のし着けて嫁に差し上げます」

「今思えば、あの時君のお母さんは、僕をアポロンだと見破っていたのかもしれない」
 稔が感慨深げにつぶやく。
 しかし、その雰囲気は、優によってあっさり打ち破られた。
「もう、いい加減にしてくれ!兄貴はともかく、何で俺は女に変身しなきゃならないんだ」
「ううむ、お母さんにお嫁に来てもらった以上、場合によっては次男の優を泉家の跡取り息子としなくてはならなかったかもしれんのだ。ミーミルとして戦うことぐらい我慢しろ」稔がもっともらしく答えた。
「そうよ。兄弟力を合わせて、悪と戦う。それが日野神家と泉家の子孫に与えられた使命なのよ」蘭も力強く優に言い聞かせた。
「そんな・・・・・そういうことをいってるんじゃ」
「はい、本日はここまで。もう遅いから寝ましょう」
「はーい、おやすみ」
 まだ文句を言い足りない優をおいて、日野神家の面々は各々の寝室へと向かっていった。
「なんて冷たい家族だ」優は悪態を付いた。


「じゃあ、お先」
「ん」
 淳は、研究室に一人居残ることになった。
 論文の中間発表が近いのだ。
 すでに時間は深夜になろうとしていたが、淳は机のパソコンに向かった。
 と、その時・・・
(ホホホホホ・・・・・)
 どこから聞こえてきたのか妙な笑い声を聞いた気がした。
(どうせどこかの研究室で酔っぱらって騒いでるんだろう)
 気のせい気のせいと、淳はパソコンに向かった。が、
(ホホホホホ・・・・・)
 思わず辺りを見回す淳。今度はさっきよりもはっきりとした笑い声が聞こえた。
 不意に、部屋の照明が暗くなる。
「え、おい、誰かいるのか」
 返事はない。代わりにさっきの笑い声がだんだん大きくなってくる。
「おいおい、忙しいんだから邪魔しないでくれ」
 いい加減に淳も腹が立ってきた。いたずらにしては悪質すぎる。
 パチン!
 突然、部屋にある全部のパソコンに電源が入り、モニターが点いた。
「一体何なんだ!」
「ホホホホホ・・・・」
 よりはっきりした声が、彼のパソコンから聞こえた。
「え!」
 モニターを見て唖然とする淳。作業中の画面が崩れていく。一時間以上の作業が無駄になった。
「ああああ、なんてこった」
「ホホホホホ・・・・・」再び声が聞こえる。
「いい加減にしろ!一体誰だ!」
「私よ」
「え?」
 彼のパソコンのモニターの中に、突然女の姿が現れた。
「さあ、あなたもこちらへいらっしゃい」
「はあ?」
 部屋の隅にあるスキャナーが光り始める。
「さあ、取り込み開始!」
「え、うわあああ!」
 スキャナーから延びた光が淳の体を包む。次の瞬間、淳は悲鳴と共にスキャナーの中に吸い込まれていった。

「ここは・・・?」
 気が付くと、淳は真っ白な空間にいた。体を動かそうとしても身動きがとれない。
「ホホホホホ、冴えない坊やね。これからあなたは我がフェムニスの一員として身も心も美しく生まれ変わるのよ」
「え?何それ?」
「説明してもムダのようね。でも大丈夫、ちゃんと心も書き換えて上げますからね・・・」
 女の声は徐々にヒステリックに興奮していく。
「お、おい、何する気だ!」
「ヒーヒッヒ。データ変換!」
「あああああ!」
 突然淳の身体中を何かが這い回った。感覚が、意識が、麻痺していく。
 淳のパソコンの画面の中で、淳の姿は女の姿に書き換えられていった。それと同時に画面の隅には何かをフォーマットしている旨を示すウィンドウが現れる。
 誰も座っていない机の上の画面の中で、ポインタが独りで忙しそうに動き回る。やがて作業が一段落したのか、ポインタがメニューの中から「上書き保存」を選び、その後ファイルが閉じられた。
 続いて電子メールのソフトが開かれ、添付書類の欄に「JUN」と書かれたアイコンが移動され、ポインタはそのまま送信ボタンを押した。
 送信が確認されると、パソコンの電源は自動的に切れた。
 研究室には、誰もいなくなった。


「日野神さん、知ってる?」
「何を」
「最近の都市怪談」
「何それ?」
 文香とデートする優。その話が出たのは喫茶店でのおしゃべりの最中だった。
「夜中に会社で一人で残業してた人が、ふっと消えるんだって」
「消える?」
「そう。たった今まで仕事してた人が、机の上とかやりっぱなしで消えちゃうんだって」
「それって、ただ片づけるのが面倒だっただけじゃない?」
「でも、次の日とかも全然姿を見せなくて、そのまま行方不明になっちゃうんだって」
「そりゃあ一人で夜中まで残業してりゃあ消えたくもなると思うよ」
 ウッフン!文香は可愛らしい咳払いをした。
「はいはい、それで」
「そう。それにどれも共通しているのが、消える直前までパソコンの前に座ってたって事なの」
「え?もしかしてそれ、本当の話?」
「当たり前じゃない!ただの怖い話だったらほかにもいろいろあるわよ」
「で、どこで聞いたのそんな話」
「週刊誌に書いてあった」
「なんだそれ」
「それだけじゃないのよ。日野神さんの大学でも、一人消えてるって」
「え!?ウチの学校、そんな遅くまで仕事してんの?」
「なんでも論文でがんばってた学生らしいんだけど。それに、変な笑い声を聞いたって目撃談もあるの」
「こわ・・・それって、がんばりすぎてイカれちまったんじゃない」
「でもそれ以来彼の姿を見た者はいないって」
(もしかして、奴らの仕業かな・・・)優は一瞬そう思った。
(でもまた女に変身したくないしな・・・)
「日野神さん!」
「え、」
「聞いてるの?その消えた人、私の友達の彼氏のお兄さんなんだって」
「複雑な関係だな・・・まさか、俺に調べろっていうんじゃ」
「ねえ、日野神さあん」文香は猫撫で声を出した。
「仕方ない、他ならぬ文香のためだ」
「やったあ。だって、日野神さん、私のヒーローなんですもの!みんなに自慢しまくりすぎたみたい」
「そういうことか・・・・」


 というわけで、優は夜中の学校、それも工学部の情報処理研究室に忍び込むハメになった。
 とはいっても、工学部の研究室は比較的夜遅くまで作業しているところが多いようで、忍び込むというほどの事でもなかったのだが。
(俺って本当にお人好しだな)優は思った。
 危険があるかもしれないので文香は連れてこなかった。それに、万が一優が女に変身してしまうところでも見られたら・・・
 というわけで、優は目指す情報処理研究室にあっさり辿り着いた。
 今日はすでにもう誰もいない。というより謎の失踪事件以来、暗くなると皆すぐ帰ってしまうらしい。
「何だよ、何にも起きないじゃないか」
 別に今までのところ、あの忌々しい感覚も襲ってこない。
 帰ろうと思ったその時だった!
「ホホホホホ」
「ぎゃあああ!」
 別の研究室から、絶叫が聞こえた。あわてて飛び出す優。絶叫がした研究室に飛び込むと、部屋には誰もいないのにパソコンが点いている。そしてその画面に映っているのは・・・
「そんな・・・」
 3Dかレタッチのようなソフトが独りでに動いて、開かれたウィンドウの中の男を女に書き直している。
「あああ、またかよ」
 唐突に、優の体も変化し始めた。
「ホホホホホ・・・・・」
「ゲゲ、やっぱりフェムニスか」
「何!なんでそのことを知っている!」画面の中から声がした。
「お前も今女に、あらら」
「うるせえ、大きなお世話だ!」
 優の体はフェムニスの手を借りなくても女性化してしまっていた。
「ううう、小癪な!とりあえず取り込んでやる!」
 脇のスキャナが光り出す。
「仕方ないなあ」
 優は、左手を差し上げた。
「女神、転生!」
 スキャナの光が延びると同時に、知恵の瞳が輝く。
「うううううう!」画面の中の声がうめく。
 <メモリが足りません>画面がフリーズした。
 ポン!スキャナが弾けて煙が出る。
 光が消えると、そこには、彼女がいた。
「女神仮面!ミーミル」
 ミーミルはキーボードを素早く操作した。
「強制再起動!」
 データがセーブされないまま、パソコンが再起動される。画面が再び現れると、ウィンドウの中身は男に戻っていた。すかさず印刷ボタンを押すミーミル。
「うああああ!」画面の中から響く絶叫。
 ボン!今度はプリンタが弾けた。
 プリンタがあった場所に、男が実体化し倒れ込む。と同時に、もう一つの物が現れた。
「よくも、私の邪魔を・・・」
 現れたのは、青と白のスケルトンボディを持つ、パソコン女だった。
 しかし・・・
「こっちこそ・・・」優は怒りに震えて口を開いた。
 パソコン女に向かって指を突き出すミーミル。
「お前達がいるせいで、なりたくもない女に変身して、さらにこんな恥ずかしい格好をして戦わなくちゃならないんだぞ!お前ら、この手で全部倒してやる!」
 優はミーミルの細く美しい声でそう言い放った。
「そんな逆恨みを・・・いくわよ!」
 パソコン女フィムピシェラの口が横に広がる。と同時にその口から、銀色の円盤が飛びだし、ミーミルに向かってくる。
 シュビシュビシュビ!
「痛!」ミーミルの体を掠めて、殺人CDが飛び、壁に突き刺さる。
 おもわず机の陰に隠れるミーミル。
「ヒーヒヒヒヒ!どうしたの?かかっておいで」パソコン女はだんだんヒステリックになっていく。
 プッチーン・・・怒りに震える優の頭の中でついに何かが切れた。
「ならいくわよ!」ミーミルは、突然女言葉になって開き直った。
「ヒーヒヒヒ!喰らえ!」再びCDが飛ぶ。
「やあ!」
 バタバタバタ・・・
 気合い一番!ミーミルは両手両足を駆使して飛んでくるCDをことごとくたたき落とす。
「ば、馬鹿な・・・・」
「今度はこっちの番よ。ちゃんと取り説読んだもんね」
 ミーミルは、両手を上に差し上げた。
「ミミー・ミョルニル!」
 ガガガ・・・ガガガ・・・
 ミーミルの両手に大量の稲妻がほとばしる。そして、両手の先に、大きなハンマーが現れた。
「う・・」重さに思わずよろけるミーミル。
「な、なに!」うろたえるフィムピシェラ。
「エェェェイ!」ミーミルは、パソコン女の方向に向かって、そのハンマーを振り下ろした。
 ガラララララ!強力な稲妻がほとばしり、パソコン女を捉える。
「ギャ」フィムピシェラは、悲鳴を上げ終えることができなかった。
 ガガガガガガガガ・・・・・
 稲妻が消え、一瞬の沈黙の後、
 ドドドドドドバボボボボーン!
 パソコン女は、粉々に砕け散って消滅した。


「あーあ、こりゃあやりすぎた・・・・」
 元に戻って、理性を取り戻した優は、完全に破壊された研究室を見回してつぶやいた。
 ミミー・ミョルニルは、取り説にも「手軽に使うべからず」と書いてあったのだ。
「ううう・・・」部屋の隅で、あやうく女にされそうになっていた学生が、意識を取り戻しつつあった。
「日野神さーん」遠くの方で、文香が呼ぶ声が聞こえる。
「やば、んじゃ失礼」
 優は、慌てて研究室を飛び出した。

<つづく>



<次回予告>

「おひとついかがですか」
「実は、女になりたい・・・」
 薫のオフィスに忍び寄る、フェムニスの魔の手。
「うふふ、素敵な夢の世界へどうぞ」
「許さん!」
 人の夢と心を食い物にするフィムバッカメアに、アポロンがついに立ち上がる。
「光力招来!」
 次回「うたかたの夢」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

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<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 というわけで、「女神仮面ミーミル」第三話です。
 いやあ、出ました出ました超強力技、ミミー・ミョルニル。類似品にトールハンマーなどがございますのでご注意を。(なんのこっちゃ)
 ま、それはおいといて、こりゃあほんまに消えた人たち編書かなきゃならないかもしれないな・・・。とりあえず変身させると後のケアが必要なのが難しいところですね。
 ちなみにそれにしても酷い家族だ。私なら家出するね、きっと。(←誰のせい?)
 では、次回ができたらお会いしましょう。次回はお待ちかね(?)のアポロン編です。

 KEBO。

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