女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第二話:黒い薔薇>

「一体どうなってんだよ」
 日野神 優は母、蘭に食ってかかった。
「優、信じられないかもしれないけどこれは、泉家代々の運命なのよ」
 朝食の後、朝の連ドラを見ながら交わす日野神家のその日の風景であった。
 すでに父の稔と兄の薫はそれぞれ仕事に出かけている。
 優の大学の講義は、今日は二限からであった。
「いい加減にしてくれよ。女神転生、なんてゲームじゃあるまいし。それに運命だか何だか知らないけど何でわざわざ女にならなきゃならないんだよ!」
「優の気持ちは分かるけれど、それは母さんにも分からない。でもたぶん、あなたの体に流れる泉家の血が、悪と戦うためにそうさせたのだと思うの。とにかく、ミーミルに変身できるのは泉家の血を引く女だけだから、悪と戦うときだけ優を女の子にしたのよ、きっと」
 連ドラが終わって、ニュースになる。
「そんな・・・悪だの血だの・・・それに何だよ、あの蛇女は!」
「それも分からないの。でも知恵の瞳が反応したからには闇の力を持つ悪に違いないわ」
「いい加減な・・・もしあれがテレビの撮影とかだったら、俺は殺人犯じゃないか」
「そんなことはないわよ。母さんも昔、ああやって変身して戦ったけど、一度も間違って普通の人間を倒したことはないわ」
「・・・・・当たり前じゃないか」優は思わず目が点になった。
「あなたは泉家の血を間違いなく引いているの。これから私に代わって悪と戦わなくてはならないのよ」
「そんなの無茶苦茶だ。何で兄貴じゃなくて俺が!」
「これは宿命なの。どうして薫じゃなくて優なのかは分からないけど、もしもあなたが戦わなかったら、この世は悪に滅ぼされてしまうかもしれないのよ」
 蘭は朝の茶の間とは思えないセリフをズバズバと連発した。
 ニュースが汚職事件を伝えている。
「だいたい、あんな怪物よりもコイツらの方がよっぽど悪じゃないか」優がテレビを見て言う。
「へえ、いいのそんなこと言ってて?もし奴らが彼女の前に現れたらどうするの」
「汚ねえ、脅迫かよ」
「分かったらはい、これ」
「何?」
「取り説みたいな物よ。これをよく読んでおくのね。それと、このことは他の人達には絶対内緒よ。もちろんお兄ちゃんやお父さんにも。わかった」
 結局何も大したことは解らないまま、優は学校へ向かった。


「ホホホホホ、次の出荷予定は」
 ショートボブの女が、部下と打ち合わせをしている。
「はい、一週間後に二百キロほど・・・」
「あと五体ほど苗床が必要ね。しっかり調達するのよ」
「かしこまりました」


「日野神、お前も行かない」
 朝のこともあり、ボケッとしていた優はその一言で現実に引き戻された。
「え」
 学食でダベるいつもの仲間達。その中の一人がアルバイトの話をもってきたのだ。
「軽作業で時給千円」
「どこ、それ」
「タイゲル製薬」
「って、あの特効オスタケ粉の」
 特効オスタケ粉とは、最近流行の超強力精力剤である。オスタケというキノコを乾燥させた粉末らしい。何でもそのキノコの形が、男性のあの部分にそっくりだというので最近マスコミを賑わせていた。
 しかしその栽培方法などについては一切企業秘密となっている。
「さっき電話したら、今日の五時に面接に来てくれって」
「俺も行っていいの」
「グループは歓迎らしいぜ」
 優は七時に文香と待ち合わせをしていたが、いかんせん金穴に近かった。
(とりあえず面接だけして帰ればいいや)
「んじゃあ、行く」
「オッケー。じゃあ、四限終わったら学食な」
「了解!」
 彼らは講義に向かった。


「はい、承っております。こちらへどうぞ」
 タイゲル製薬の倉庫兼事務所らしいビルに来た彼ら五人は、応接室に通された。
 案内嬢が、茶を配る。
 その時、優はまたもや体の異変を感じた。
(え、勘弁してくれよ・・・)
「お、俺ちょっと、トイレ」
「おいおい」
「すいません、トイレはどちらでしょう」
 案内嬢はにっこり笑ってトイレの場所を教えた。
 トイレに走る優。
「他の皆さんも、行くなら今のうちですよ」
 しかし、優の他には誰も、立ち上がらなかった。


 優は慌てて個室のドアを閉めた。
(何だってこんなところで・・・もしかして、また化け物が出るんじゃないだろうな)
 すでに身体の変化は始まっている。腰の脂肪は上下に移動し、体型は細く丸みを帯びていく。
 優の意に関わらず、体はどんどん女性化していった。
 幸いラフな格好をしていたので、別にそのままの格好で歩いてもどうということはなかったが、いかんせんここはバイト先の建物の中である。女に変身したと言っても誰も信じないだろうし、下手をすれば不法侵入で捕まりかねない。
(ちくしょう・・・とりあえず、密かに脱出するしかないか)
 変化が落ち着くと、優はそっとトイレを出た。


 優を抜きにしたまま面接は始まっていた。
「では、質問はありませんね」
 ショートボブの女が、一通り内容の説明を終えて言う。
 彼らからの質問はない。
「ほほほほほ、そういうことで。次に目が覚めたときには、おまえたちはフェムニスの一員として生まれ変わっているのよ」
 女が一人の頭を突つく。彼はそのままバタン、と床に崩れ落ちた。
「では、作業を始めなさい」
 数人の女達が現れた。
 睡眠薬入りの茶で眠らされた優の仲間達は、女達の手によって素っ裸にされると、台車に乗せられ運ばれていった。


 優は、抜き足差し足で建物の中を移動していた。
 タ、タ、タ、タ・・・・
 前方から大勢の足音が聞こえてくる。優は慌てて近くのドアを開けると、その中に入りドアをしっかりと閉めた。
「ふう・・・」とため息を付く優の視界に、異様な物が飛び込んできた。
 部屋には、たくさんのベッドが並んでいた。そしてその上には、ぬめぬめと妖しく光るキノコがびっしりと生えた苗床が乗っている。
(何だってベッドの上で・・・)優は不思議に思いベッドの一つに近付いてよく見た。
(・・・・・?)
 ふと、苗床がどこか人間の形をしているような気がした。そしてちょうどその股間のような場所に当たる所には、一回り大きなキノコが生えている。
 不意に、ドアが開いた。
 慌てて部屋の隅に隠れる優。
「いい出来映えね」ショートボブの女が、優の見ていた苗床を眺めてそう言った。
 女は、そのまま手を伸ばすと、例の一回り大きなキノコを思い切り引き抜く。
「もういいわ。採取しなさい」
 別の女二人がその苗床からどんどんキノコをはがしていく。最後に苗床をタオルか何かで拭くと、驚いたことにその下から丸裸の女の体が現れた。
「さあ、目覚めなさい」
 女は目を覚ますと、まじまじと自分の姿を見回した。
「どう、女に生まれ変わった気分は」
 女が、びっくりしたようにショートボブの女の方を見る。
 プォっと、ショートボブの女の口から何か白い粉が吹き出され、目が覚めたばかりの女にかかった。
「う、あああ」女が頭を抱えて苦しむ。そしてやがて、ベッドに力無く倒れた。
「ほほほほほ。あなたもこれでフェムニスの一員になったのよ」
 女は、他の女達に抱えられて連れて行かれた。
「次の苗床を」ショートボブ女が指示をする。すると台車に乗って、優の仲間達が運んでこられる。
(・・・・・!)
 思わず身を乗り出す優。しかしその時、横の棚に腕を引っかけて何か瓶のような物を落としてしまった。
 ガチャン!
「誰!」
 ショートボブの女と目が合った。
「見たわね」女が恐ろしい顔をして言う。
「み、見たわよ」優もおもわずそう答えた。
「どうやら生かしてはおけないようね。フィムトランス!」
 女は突然ポーズを取った。一瞬にして、女の体が変化していく。
「ホホホホホ・・・・」
 そこには、キノコの頭にキノコの体、キノコの手足を持った正にキノコの化け物がいた。
「な、何なんだ!」
「ホホホホホ、女のくせに男のような口をきく子ね。私はフィムマシュロス」
 俺は男だ!という言葉を優は飲み込んだ。
「何が目的でこんな事をするんだ!」優は開き直った。
「見てのとおり、若い男の子達を苗床にして、オスタケを栽培しているのよ。この子達はみんな女の子に生まれ変わって、我々フェムニスの一員になるの」
「フェムニス?」
「説明はそのくらいにして、見られたからには死んで貰うわ」
(ち、何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ・・・)優は左手を高く差し上げた。
「何のつもりかしら」キノコ女が迫ってくる。
「女神、転生!」
 知恵の瞳が輝く。女性化した優は女神転生によって女神仮面ミーミルに変身するのだ。
「うう、お、お前は一体・・・」うろたえるフィムマシュロス。
「女神仮面、ミーミル!」
 ミーミルはフィムマシュロスにかかっていった。
 ビシ、ビシ
 ミーミルのパンチがキノコ女の体に当たる。しかし、柔らかすぎるのか手応えがない。
「ホホホ。ここまでおいで」
 キノコ女は、部屋を飛び出した。
 追うミーミル。キノコ女は、どうやら倉庫に逃げこんだらしい。
「出てこい!」隠れたキノコ女を捜すミーミル。
「ホホホホホ」倉庫内にキノコ女の笑う声だけが響きわたる。
 不意に、目の前にキノコ女が現れた。
「ホホホホホ、喰らえ!」
 プオッ・・・キノコ女の頭頂部から、白い粉が発射される。
「ウウウウウ」ミーミルは、一瞬目を眩まされた。
「ホホホホホ・・・・・」
 次の瞬間、ミーミルの周りに、何人ものキノコ女が現れた。
「ホホホホホ。邪魔者は消すまでよ」
 ベシベシ!
「うあ!」
 響きわたるキノコ女の笑い声と四方八方からの攻撃に、ミーミルは防戦一方になった。
 ベシ!ベシ!
 キノコ女のキックやパンチが、次々とミーミルに炸裂する。
 その時だった。
 シュッ!
「ウウウ・・・」不意に、キノコ女が一人に戻った。
 手に、黒薔薇模様のカードが突き刺さっている。
「ハハハハハ」頭の上の方で、不敵な男の笑い声が響いた。
 マントをなびかせるシルエットが浮かび上がる。
「闇を切り裂く正義の光!」
「何奴!」キノコ女が、シルエットを凝視する。ミーミルも思わず同じ方を見た。
「太陽仮面、アポロン!」
 おお・・・・・
 そこには、黒いマントに黒いスーツ、黒い仮面、そしてアイラインを始めとして身体中に金色のラインが輝いている戦士がいた。
「とお!」アポロンが跳ぶ。
「うわあ」キノコ女の顔面に、アポロンのキックが炸裂した。
 吹っ飛ぶキノコ女。
「さあ!今だ!」
 アポロンに促されて、ミーミルは右手をあげた。
「ミミー・グングニル!」
 右手の先に、光り輝く槍が現れる。ミーミルは、それをしっかりと握るとキノコ女の方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!キノコ女に向かってまっすぐに飛ぶ槍。
「ウホォォォ!」
 光の槍が、キノコ女の胴体を貫く。フィムマシュロスは、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。


「あなたは一体・・・」
「俺はアポロン。君の方こそ」
「私はミーミル」優は、一瞬「俺は」と言おうとしたが、「私は」にしておいた。
「フェムニスを追っていたら偶然ここに辿り着いたのだ」
「フェムニスって一体・・・」
「知らずに戦っていたのか、まあいい。奴らは女王を中心に女だけの世界を作り、選ばれた男以外は女性化して奴隷にしようとしているらしい。まるで、働きバチかアリのように」
「文字通り虫けら扱いか・・・」
「しかし、君とは初めてあった気がしない。一体誰なんだ?」不意に、アポロンが言った。
「それは私も同感。さっきからどこかで聞いたことのある声だと思ってた」
 変身を解くミーミルとアポロン。
 その瞬間、二人は絶句した。
「あ、兄貴・・・」
「ゆ、優・・・・」
「なんだ、兄貴かよ。どおりであの黒い薔薇のカード、兄貴らしいや」
「うるせえ、お前の方こそ、何だ女装して。声まで女みたいだったじゃないか」
「う・・・それには深い訳が・・・」
「まあいい。家に帰って親父を交えてゆっくり話すとしようか」
「こっちこそ、お袋交えてゆっくり話そうじゃないか」
「・・・え、じゃあまさか、お袋も・・・?」
「ということは、親父が・・・?」
 二人は思わず顔を見合わせた。
「とりあえず話は後。他の人たちを助けなくては」
「あ!」優は声を上げた。
「何だ?」
「ここ頼む。おれ、デートの約束があるんだ!」
「え!おい、待てこら!」
 時すでに遅し。薫の言うのも聞かず優は走っていった。

<つづく>


<次回予告>

「ああーん、やっぱり私たち、運命の出会いだったのね」
「もう、いい加減にしてくれ!」
 ついに明らかになる父、稔の正体。
「ヒーヒッヒ。データ変換!」
「あああああ!」
 情報処理研究室を襲うフィムピシェラに、ミーミル怒りの新必殺技が炸裂する。
「ミミー・ミョルニル!」
 次回「研究室の怪談」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

ご意見、ご感想等をお寄せ下さい
<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 というわけで、「女神仮面ミーミル」第二話です。
 いよいよ、といってもまだ二回目ですが、相棒の太陽仮面アポロンが登場しました。
 いやあ、黒い薔薇の元ネタが分かる人がいたら凄いですね(失礼・・・)。でも以外と簡単かもしれない。まあ、一応薫君も蘭さんもヅカファンということになってはいるので(完全に趣味の世界入ってる・・・そのうちそのネタも書けるといいな)。
 ちなみに、アポロン編の回もいずれ作ろうと思ってます。必殺技もその頃までには披露できると思います。
 では、次回ができたらお会いしましょう。(できるかなあ・・・・)

 KEBO。


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