女神仮面 ミーミル
By KEBO

<第一話:女神転生>


「おい、もう一軒行くぞ!」
 見るからに酔っぱらいといった感じの男三人組が、夜の町を歩いていた。
 そのうちの一人が、ふと足を止める。
「おいどうした」
 男は、向こうの方を指さした。
「なんだよ、お!」
 残りの二人も、同じ方を見て思わず立ち止まった。
 彼らの視線の先には、どうやっても男の目を引きそうな美女が、一人で立っている。
「なあねえちゃん、俺たちと一緒に、楽しい事しねえか」
 中の一人が、早速声をかけた。
 女は顔を上げると、妖しげな微笑みを浮かべた。そして、何を思ったか彼らに向かって手招きをすると、歩き始めた。
「どうする?」
「どうするもこうするも、ついて来いってんだから」
 三人は女の後について歩いていった。
 女は、人気のない路地の奥に入っていく。やがて、その道が路地の奥で行きどまった。
 女が足を止めて振り返る。
 ゴクリ!
 男たちは思わず唾を飲み込んだ。
「姉ちゃん、好きもんだねえ。初めからこういうつもりだったのか」
 男の一人が、じわり、と女の方に近づいたその時、
「フフフフフ・・・・」
 女が初めて声を発した。とともに、女の姿が変化していく。
「ど、どうなってんだ!」
「う、うわあ」
 男たちが悲鳴を上げる。
「フフフフフ・・・・」
 笑い声とともに、女の髪は蛇になり、腕や足には鱗が浮き出した。
「助けてくれ!」逃げようとする男たち。しかし、彼らは逃げられなかった。
 スルスルスル・・・!
 女の頭の蛇が、男たちに向かって伸びていく。蛇は次々と、男たちの首筋に噛みついた。
「ウアァァァァ!」
 噛まれた傷を押さえながら倒れ込む男たち。そんな彼らに変化が起こり始めた。
「ア、アアアアあああああ」
 筋肉質のがっしりとした体が、見る間に線の細い、丸みを帯びた体型に変わっていく。そして、悲鳴までもが高い声になり、やがて悲鳴が止まるとともに三人は動かなくなった。
 女の目が赤く光る。
「立ちなさい。おまえたちはフェムニスの一員になったのよ」
 女の命令に従って、三人が立ち上がる。その姿は、服装こそ変わっていなかったが完全に女のものに変わっていた。
「さあ、ついてくるのよ」
 蛇女フィムメドゥーサと変身した三人は、夜の闇の中に消えていった。


「遅いな・・・」
 六時二十分、すでに約束の時間を二十分ほど過ぎている。
 待っている彼の名は日野神 優。日野神家の次男坊にして気ままな学生である。先日来アプローチを繰り返し、やっとデートにこぎ着けた彼女をここで待っているのだ。
 女の子が時間に遅れるのは別に珍しいことでも何でもないが、やはり待っている方はイヤなものである。そういう子にかぎって逆の立場になるとうるさいものだ。
(初めてのデートで準備が大変なのかな・・・)彼はそう思って待つことにした。
 と、その時である。
「ごめんなさーい!」駅の方から、黄色い声が飛んできた。
 振り向くと、普段キャンパスでは見ないような派手な服装と化粧をした文香がこちらに向かって走ってくる。
「おいおい、あまり慌てると転ぶよ!」
 とはいったものの、時すでに遅し・・・
 バタ!
「いったーい!」
「ほら、いわんこっちゃない」
 優は慌てて駆け寄ると、彼女を抱き起こしてやった。
「えぇーん、せっかくおめかししてきたのに・・・」
 彼女の言うとおり、洋服は汚れ、鞄にも擦り傷が付いてしまっていた。
「ほらほら、そう泣かない泣かない。さて、とりあえず食事でもしようか」
「うん!」
 泣き顔は一瞬にして笑顔に変わり、二人は町に繰り出した。


「・・・まさか、知恵の瞳が」
 嫁入り道具で持ってきた箪笥の引き出しの一つから、光が漏れていた。
 日野神 蘭は恐る恐る、ゆっくりとその引き出しを開いた。
 一瞬、目が眩む。
「やはり・・・また戦わなくてはならないのね」
 引き出しの中で、一つの指輪が輝いていた。それは彼女の実家、泉家に代々伝わる「知恵の瞳」という石の付いた指輪である。
(この世に闇の力が蘇りし時は、この石の力を借りて戦わねばならぬ。それが泉家に生まれた娘の運命なのじゃ)
 彼女の祖母はそう言った。そして彼女も、まだ若い頃実際にその力を借りて「闇の力」と戦ったことがあった。
 しかし、それももう二十年以上も前の話である。幸いその人知れぬ戦いに勝利した彼女は、普通の女性として普通に結婚し、二人の男の子を設けて幸せに暮らしていた。
 彼女には姉妹はおらず、娘もいない。彼女はこの力を引き継ぐのは自分が最後であるのを充分に承知していた。
 しかし、主婦業が長かったせいか、そのプロポーションは何とか保てても、体力の衰えは隠せない。
「仕方ないわね。もう一度、世のため人のために戦いましょう・・・」
 彼女は夫のために素早く夕食の支度を済ませると、置き手紙をして家を出た。
『少し遅くなります。夕飯はレンジでチンして下さい。冷蔵庫の中に・・・・』


「おいしかった・・・」
 優と文香は食事の後、町外れの公園の方を歩いていた。
 夜の公園には、怪しい誘惑がいっぱいである。
「ねえ・・・・」
 不意に、文香が何か真剣な眼差しで優の方を見た。
「ん」
「あの・・・」
「なんだい・・・」優は優しい声で答える。
「私ね・・・」
「うん」
「トイレ行きたい」
 優は一瞬ガクッとした。どうやら彼女は恥ずかしくて「トイレに行く」と言えなかったらしい。
「そ、そうか。ごめん、気付かなくて」
 別のことを想像していた彼は必死に自分でフォローした。
「ちょっとあそこのトイレ行って来る・・・」
「うん」
 彼女はあわてて公園のトイレに走っていく。
 思わずふう、とため息を付いたその時、優に全身にいいようのない寒気が走った。
「な、何なんだ・・・」
 それは、信じられない出来事だった。
 身体中に寒気とともにむず痒い感覚が走る。とともに、体が変化し始めた。
「ななな、なにぃ」
 ズボンのウェストが緩くなっていく。と同時に尻が少し膨らんだように思えた。慌ててズボンを押さえなんとかずり落ちは免れたようだ。しかしそれだけではない。胸の部分が徐々に苦しくなっていく。見れば胸がだんだん膨らんでいた。
「うわあああ」
 身体中の脂肪や筋肉が、もぞもぞと移動していく。そしてやがて、大事な部分の感覚さえも変化していった。
「一体どうなってるんだ!?」
 ようやく変化が落ち着いたらしい。
「落ち着け・・・」彼は自分に言い聞かせながら自分の体を見回した。が、口から出たのは記憶にある自分の声とはほど遠い、高い声だった。
「これって・・・」変わった声を確かめるようにつぶやく優。どう考えても、結論は一つしかない。
 優はあわてて文香の行ったトイレの男性用の方に駆け込み、個室にはいると鍵をしっかりと閉めた。
 恐る恐るズボンのチャックを下ろす。
「・・・・・・・」
 思った通り、あるべき物がない。
(そんなことが・・・信じられない、突然女になるなんて・・・何で、何でなんだ!?)
 優は、完全にパニックに陥った。
(こんな現実認められない)と思ったその時、
「うわぁ!助けてくれ」男の叫び声がした。そして次の瞬間、
「キャァァァァァ!」
 聞き間違いようがない。文香の悲鳴だ。
 優は慌ててトイレの外に飛び出した。
「フフフフフ・・・」不敵な女の笑い声が聞こえる。どうやら痴漢ではないようだ。
 少し落ち着いた優はトイレの影から様子を窺った。
(・・・・?)
 男が、腰を抜かした感じで後ずさりしている。文香の様子が見えない・・・
「フフフフフ・・・・さあ、お前もフェムニスの一員になるのよ」
 再び女の声がした。徐々にその声の主の姿が明らかになる。
(!!!!!)
 優も、腰を抜かしそうになった。
 その声の主の女(?)の頭には、どう見ても髪の毛の代わりに蛇が生えている。
 慌てて飛び出さなくてよかった、という安堵感と同時に文香の様子が気になった。しかし、もし文香がこの姿を見たら、と思うと飛び出す勇気が湧かない。
(しっかりしろ!もし彼女に万一のことがあったら・・・)
 女の頭の蛇が、男に向かって伸びる。その瞬間!
「待ちなさい!」
 別の女の声に、蛇の動きが一瞬止まる。
(何が起こったんだ?)
 影から、別の女が現れ、蛇女に不意打ちを食らわす。
「何者!」蛇女が声を上げる。
 それに答えるように女が左手を高く差し上げた。
(母さん!何やってんの!?)
 女はどう見ても優の母、蘭だった。
「行くわよ!女神、転生!」
 しかし・・・・
「え!?なぜ?」
 蘭はその場に凍り付いた。知恵の瞳が反応しない。
「フフフフフ、何のマネかしらね。私の邪魔をするなんて、許せないわ」
 蛇が今度は蘭に向かって伸び、首に巻き付く。
「うっ!」
「フフフフフ・・・ゆっくりと締め上げてあげる」
 もう迷っているゆとりはなかった。優は、ありったけの勇気を振り絞って飛び出した。
「母さん!」甲高くなった声で叫ぶ優。
 優は必死に蛇女に飛びかかったが、あっさりと跳ね返される。
 その脇で、文香は気絶しているようだった。
「優・・・?もしかして優なの・・・」
 蘭は、苦しみを堪えながら言った。
「そういうことだったのね・・・」蘭は、左手にはめた指輪を外すと優の方に投げた。
「優・・・その指輪を・・・左手の中指に・・・・」
「え!?」
「早く!」優は言われるままに指輪をした。
「うるさい!大人しくしろ」蛇女が、蘭の首をさらに強く締め上げる。
「優・・・・・それを高く差し上げて・・・・めがみ・・・・てんせい・・と・・・いうのよ」
「母さん!」
「ゆう・・・・はやく・・・・」
「さあ、死ね!」締め上げる力が一段と強くなった。
 優は何が何だか分からなかったが、左手を差し上げて言った。
「女神、転生」
 ピカァァァン!知恵の瞳が輝いた。
 眩しさに、おもわずたじろぐ蛇女。蘭の首に巻き付いた蛇がほどける。
「やった・・・」つぶやく蘭。
 知恵の瞳は指輪から離れると優の頭上で輝き、次第に形をとっていく。
 次の瞬間、手、脚、胴体、そして最後に頭と、輝きの中で取られた形がちょうど光で作られた鎧のように優の体を包む。そして・・・
「な、何者だ・・・」
「女神仮面、ミーミル!」答えたのは蘭だった。
 白と紫のツートンにプラチナ色のラインが入った鎧のようなスーツと仮面、そしてマントに身を包んだ女戦士が、そこに立っていた。
「女神、仮面、ミーミル・・・」優も噛みしめるようにつぶやいた。
「おのれ、二度も私の邪魔を・・・」蛇女が、ミーミルの方に向かってきた。
「優!戦うのよ!」蘭が叫ぶ。
 伸びてくる蛇。首に巻き付いた蛇をミーミルがなぎ払う!
「ううっ!」次々と蛇を切断され、うろたえる蛇女。
「とお!」優は、もう何が何だか分からなかったが、がむしゃらに蛇女にかかっていった。
「エイ!」
 ビシ!ビシ!
 ミーミルのパンチやキックが蛇女に炸裂する。
「ウウウウウ!おのれ!」
 蛇女が反撃を開始した。
 バシ!バシ!
 しかしさっきは簡単に優を跳ね返したほどの蛇女の力に対して、ミーミルに変身した優の力は充分対抗するに足りるほどになっていた。
「トゥ!」
 蛇女の攻撃を受け止め、逆に投げ返すミーミル。
「ウワ!」蛇女がもんどり打って倒れる。
「優、今よ。ミミー・グングニルと言いなさい!」
 ミーミルは頷くと、右手をあげて叫んだ。
「ミミー・グングニル!」
 右手の先に、光り輝く槍が現れる。ミーミルは、それをしっかりと握ると蛇女の方に向かって放った。
 ヒュイィィィン!蛇女に向かってまっすぐに飛ぶ槍。
「ウギャァァァァ!」
 光の槍が、蛇女の胴体を貫く。蛇女は、そこから燃え上がりあっと言う間に消滅した。


 蘭の指示に従って、優は変身を解いた。
 全身を包むスーツが光になって指輪に吸い取られるように戻っていく。
「あ、戻った・・・」
 そして優自身の体も元の男の姿に戻っていった。
「一体どうなってんだよ」少し落ち着きを取り戻した優は、蘭に食ってかかった。
「説明は後。それより彼女を助けてあげなさい」
「あ」
 はっとした優は、慌てて文香に駆け寄り抱き起こした。
「あ、ううう」
 一方、腰を抜かして気を失っていた男も、気が付いたのかゆるゆると立ち上がる。
「さあお兄さん、お帰りはあちらよ」男の目には、怖い顔をした蘭の顔が写った。
「は、へえー」
 男は、蘭の指さした方向に一目散に駆けていった。


「文香、もう大丈夫だよ」
「日野神さん・・・」
 意識を取り戻した文香は、優に抱きついた。
 二人とも意識していなかったが、優が文香を名前で呼んだのは初めてだった。
「めでたしめでたし・・・さあ、帰ろうかしら」木の陰から覗いていた蘭は、にっこりと微笑むとその場を後にした。

<つづく>


<次回予告>

「何で兄貴じゃなくて俺が!」
「これは宿命なの」
 闇の力に反応して再び女の姿になってしまう優。
「ホホホホホ。邪魔者は消すまでよ」
 ベシベシ!
「うあ!」
 フィムマシュロスの幻覚攻撃に、ミーミル最大の危機が訪れる!
 しかしその時、
 シュ!
「ハハハハハ」
 ミーミルを救う不敵な笑い声の主は誰か?
 次回「黒い薔薇」お楽しみに

*このお話はフィクションであり、ここに登場するすべての人物、団体等は実在の物とは全く関係ありません。

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<女神仮面ミーミル END>


<作者のたわごと>
 というわけで、新番組(笑)「女神仮面ミーミル」です。
 最近の深夜枠等でやっている特撮番組等の影響を受けてほんの軽いノリで書いてみました(予告編までつけちったりして・・・)。
 特撮マニアの私としてはある意味一番「らしい」お話かもしれません。
 はたしてネタが保つかどうか・・・ネタ切れになった時点でたぶん最終回になるでしょう(その前に打ち切りになるかも)。
 だいたいそれ以前に次のお話書けるのかなあ。←なんて無責任・・・
 次回では、少し謎解きをしてみたいと思います。ちなみに「笑い声の主」は男です。
 では、次回ができたらお会いしましょう。

 けぼ改めKEBO。


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