一番素敵な贈り物

 今日で学年末試験も終わり、明日から一週間の試験休み期間に突入する、雅は少し暇を持て余していた。もっとも、この休み中にする事が一つあった。三月十四日までにバレンタインのお礼を準備しなければならない。
 二月の十四日のイベントに比べると、この三月十四日のイベントはやや地味である。義理チョコを配る女の子はかなりの割合に上るが、お返しをする男の子は何パーセントぐらいなのだろう?毎年、「お返しを貰った事がない」という女の子のつぶやき声があちこちから聞こえる。
 桐生雅は本来であれば、お返しを待つだけでいいはずの女の子なのだが、彼女の場合はやや様子が違っていた。彼女にチョコレートを贈呈した風変りな女の子がいたからだ。瀬尾香住がどういう意図で自分にチョコレートを渡したのかはよく分からないが、「桐生雅章」にチョコレートを渡しに来た以上は、「桐生雅章」として、きちんとお礼をすべきだろうと雅は考えていた。
 「女の子って何もらったら喜ぶんだろう?」
自分がその女の子である事はよく分かっているつもりであるが、彼女は一般的な「女の子」の枠に入らない、女の子なのだ。精神構造が生物学的な性によって、「男」と「女」にほぼ二分されるという現実にはいささか薄気味悪さを感じている。自分の今の精神構造はどちらかといえば男性のそれに近い。が、十五年間を男の子として生きて来て、一年間を女の子として過ごした雅自身の精神構造は、おそらくそのどちらにも二分されない。
 ということで、試験が終わった後浮かない顔をして雅は教室から出ようとしていた。
「雅、どうしたの?テストの出来が悪かったとか?」
優が話し掛けてきた。
「そんなことないよね。雅のことだから」
桐生雅の成績はいつも学年でトップに近い。今回のテストの出来が悪かったとは思えなかった。また、彼女は定期考査の成績が上下したところで、動じるような性格ではない。
「人をスーパーマンか何かみたいに言わないで欲しいなあ」
ふう、とため息をつく雅。でも、そのため息は優の言葉のせいではないようだ。
「なんかあったの?」
「何かおごるからさ、ちょっとこれから相談に乗ってくれない?」
優の瞳がきらきらと輝き出した。
「え、ホント?いいわよ」
優は雅の手首を両手で持って引っ張って歩き出した。
「優、危ないって」
「いつもおごってばっかだもんねえ。この機会を逃したらいつおごってもらえるか」
「やれやれ」
雅はぽりぽりと頭をかいた。

 学校のそばのいつもの喫茶店。試験が終わった後ということもあり、同じ高校の生徒でテーブルは結構埋まっている。
 カランカランカラン。
 ドアを開けると鐘がなる。その音を聞いて、 マスターが笑いながら出迎えてくれた。
「あ、優ちゃんに雅ちゃん。いらっしゃい。隆一君たちも来てるよ。ほら、あそこのテーブル」
 見れば窓際の席で、何やら智和と隆一の二人が熱心に会話している。
「どうする?」
優が雅に尋ねる。
「まあ、男性諸君の意見も聞くかあ」
「あの二人に関係がある質問なの?」
「ちょっとね」
にこっとマスターに雅は微笑みかける。
「あの二人のところでいいや。混んでるし」
「了解っ!」
優と雅は隆一たちのテーブルへとてくてく歩いていった。
「珍しい組み合わせじゃない?どうしたの?」
「わああああっ!」
優が二人に話し掛けると二人は同時に叫び声を挙げた。
「????」
智和と隆一の態度に雅は疑問を感じた。
「なにそれ?僕たちに聞かれたらなんかまずい話?」
腕を組んであからさまに怒る雅。
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
しどろもどろになって答える隆一。
「ああ、誤解だよ誤解」
「あ、なんか怪しい?」
手をついて詰め寄る優。
「優ちゃん、雅ちゃん、どうでもいいけど、目立ってるよ」
 マスターが雅と優の分のお絞りとお水を持って傍らに立っていた。
 雅は冷静になってふっと周りを見た。そういえぼ、周りは同級生ばかり。この四人は学校でもかなりの有名人だ。騒ぎを起こせばすぐ目立つ。はずかしくなって優と智和のそばに、雅は隆一のそばに座った。
「で、注文は?」
「じゃ僕ホットミルク」
「あたしはいつものとおりね。ミルクティーを」
「はいはい、じゃちょっと待っててね」
マスターはすごすごと出ていく。
「で、相談って何なの?」
優が雅に尋ねた。
「優ってさ、ホワイトデーにどんなもの貰ったことがある?」
いきなり男性二人がせき込み出した。
「お、お前な、なんか欲しいなら直接言えよ」
というのは隆一。
「そうだよ。雅ちゃんだったら少々の無理は聞くのに」
「あ、なんだか問題発言」
智和の言葉に優がかちんとなる。
「あたしの無理は聞いてくれないの?」
「あ、そうか。今度は僕ももらう番なんだ。忘れてた」
「ちょっと待ってよ。あんた誰かからチョコレートもらったの?」
優が雅に尋ねた。
「うん。で、お返しに何あげようかと思ってさ」
いきなり雅のバックに百合の花が浮かび上がる3人。
「え?三人とも何その目?」
「何、ってねえ。あんた自分が何言ってるか分かってる?」
「仕方がないじゃないか。貰ったもんは」
「その子、アブない趣味してるんじゃないの?」
心配そうに優は雅の方を見る。
「残念でした。その子は桐生雅章の方に用なの」
三人がほっと胸をなで下ろした。
「おどかさないでくれよ。雅がアブナイ方向に走るのかと思ったじゃないか」
「大丈夫だよ。僕は隆一一筋だから」
しばらくの沈黙の後、優が静かに言った。
「あんた自分で言ってて恥ずかしくない?」
不意に横から低い声が響いた。
「いいじゃんないの。女の子はそれぐらいの方がかわいくていいよ」
マスターがカップを二つトレーに乗せて立っていた。
「四人とも仲が良くてうらやましいよね」
カップを優と雅の前に置きながら言うマスター。思わず雅も頬が赤らむ。
「友達は大事にしなきゃいけないよ。じゃ、ごゆっくり」
マスターは雅たちの前から歩いていって、カウンターへ戻る。
「あ、雅赤くなってる。かわいい?」
茶かす優。
「もう慣れたもんね」
雅はすましてミルクを飲む。
「あ〜あ、ちょっと前までこれで遊べたのに」
舌打ちする優。
 しかし、次の一言が三人を再び騒ぎに巻き込む。
「でも、その子僕にキスしてきたしなあ」
左手の人差し指をつけて視線をやや上向きにしながら、雅は言った。隆一は持ち上げようとしたカップから力が抜けて、受け皿とカップが甲高い音を立てる。
「ちょっと待て!それはどういうことだ」
「知らないよ。いきなり近づいてきて、チュ、だもん。僕の方がしばらく呆然としてたんだから」
「で、その後は」
 優の声が少し引きつっている。
「父さんの生徒だから何度か顔は合わせているよ。別になんとも」
ホットミルクをもう一口雅はすすった。
「ということで、三人にご相談なんだけど、お礼に何あげたらいいと思う?」
「そっとしておく方がいいと思うな」
優がつぶやいた。
「あたしがその子だったら、もう放っておいて欲しい」
「どうして?」
雅が尋ねた。
「あんたね。もうすこしその子のことを考えなさいよ。叶えられない恋に恩情をかけるのはかえって酷よ」
「僕もそう思うな。そっとしてあげるべきだよ」
智和も優に同調した。とそこまで話が進んだとき、
ぎゅるるるる〜?
隆一のお腹から大きな音が聞えてきた。
「はしたないなあ、もう」
右手を頭に当てて肘を突く雅。それを見て優が笑っている。
「そう言えばもうお昼だね。もうお昼御飯もうここで食べていかない?」
智和の提案に全員が同意した。
「決まりだね。マスター、ランチ四つ」
智和はオーダーを追加した。
 「じゃ、また今度ね」
雅は智和と優の二人に手を振った。優、智和の二人と、隆一と雅の二人とでは違うのだ。
「で、どうするんだ。ホワイトデーは?」
隆一が雅に尋ねた。
「僕はなにか大変な思い違いをしてるのかもしれないなあ」
「どういう意味だ」
「いやなんでもない」
そうこうしているうちに、隆一の降りる駅に着いてしまった。
「じゃあ、またな!」
「うん、また今度ね」
隆一は電車を降りていった。 

 雅は駅を降りるときに香住の姿を見つけた。向こうは雅に気づかず、どんどん雅から離れていく意を決して、雅は香住を呼びとめた。
「香住ちゃ〜ん!」
大声で呼ばれたのを聞いて香住は振り返った。駆け足で近づく雅。
「あ、雅さん、今帰りですか?」
「そうだよ、香住ちゃんは?」
「これから雅さんの家に行くところですよ。テストも終わりましたし、折角だからちょっと長めにレッスンを見てもらおうと思って」
  午前中や真っ昼間にレッスンを受けに来る人はそんなに多くない。従って、実は恭一郎は午前中は暇である。しかし遊んでいるわけではない。そういうときに、恭一郎は自分の練習時間を当てたり、CDを聴いたりしている。
「そうしていると本当に女の子なんですけどね。どうしていつもそういう格好をしないんですか?ジーンズとトレーナーばっかり」
制服姿の雅を見て、香住はため息を吐いた。
「せっかくかわいいのに、もったいないですよ」
「そんなもんなのかなあ?」
雅はつぶやいた。
「隆一さんとのデートのときもあんな感じなんですか?」
「うん、別に服は気にしないもん」
デート、という言葉に雅は反応した。
「あ、そうだ。十四日の日ってヒマ?」
「え、特に予定はありませんけど、どうしてですか?」
怪訝そうな顔で香住は雅に尋ねた。
「一日僕とデートしてくれない?」
「え!?」
「バレンタインデーのお返しにね。御飯でもご馳走するよ」
香住は厳しい表情で返答した。
「お断りします」
「どうして?」
「そういうことは、つきあっている男の子として下さい」
「僕と一緒に歩くのは嫌?」
雅がそう言ったときに、桐生家の玄関前に着いた。
「そういう問題じゃないでしょう!」
叫ぶ香住に動ぜずに、門を開けて、玄関のドアを開ける雅。
「じゃ、レッスンがんばってね」
「あ、雅さん!」
雅は香住を放って自分の部屋にこもってしまった。
「もうっ。昔っからああなんだから」
香住はぶつぶつ言いながら、レッスン室へと向かった。

 早川隆一も雅へのプレゼントをずっと考えていた。別に雅とそんなに付き合いが長いわけではない。彼女の好みなどはちっとも分からない。その上に、彼女は元々は男の子。普通の女の子にするようなプレゼントをしても、果たして喜んでくれるかどうか。だから智和に相談しようとしていたのだが、優と雅に捕まってしまってはそんな話もできなかった。
 家に戻って来てから、とりあえず、電話機のボタンを押す。
「もしもし、佐々木ですけれども」
低い男性の声が聞こえてきた。どうやら目的の人物に電話がつながったようだ。
「いつもお世話になっています。早川です」
電話の声を聞いて向こうの声ははずんだ。
「なんだ、隆一君か。どうしたんだ?僕に電話してくるなんて珍しい」
「雅って、何をあげたら喜ぶと思います?佐々木先生なら長い付き合いですし」
佐々木はうううむ、と唸ってから答えた。
「すごく難しい質問だね。あの子は多分自分が欲しいものはほとんど持ってるからなあ」
「といいますと?」
「あの子が24時間をどう使ってるか考えてご覧。あのピアノを維持するために必要な練習量と、あの成績を維持するのに必要な練習量。それプラス、感性を鍛えるために音楽を聴き込む時間。それを差し引いたら、どれぐらい残る?」
「ほとんど残りませんね」
「桐生のうちは音楽一家だから、CDや楽譜はほとんど揃ってる。となると、彼女が欲しがるものってなんだろうね?」
 そこで佐々木は一旦話を切った。
「ところで、どうして今頃そんなことをきくんだい?あの子の誕生日はもう少し先だぞ?」
「バレンタインのお返しですよ。あいつから手作りのチョコレートを貰ったんです」
「へええ。あの子がバレンタインなんて行事に参加するなんてねえ」
「僕は風邪で寝込んでいて母さんが受け取ったらしいんですよ。わざわざお茶まで出して」
「尚美くんが? よっぽど雅ちゃんのことが気に入ったんだな」
「離している間ずっと、赤くなって、小さくなって、普通の女の子じゃない、って言ってました。」
佐々木の笑い声が受話器の向こうから聞こえた。
「尚美君相手にしおらしくする雅くんか。僕も見たかったな」
「ええ、寝込んでいたのが残念ですよ」
「いや、力になれなくて悪いね。プレゼントのことは自力で何とかしてくれ」
「ええ、お手数かけてすみませんでした」
情報を何一つ得ることもないまま、隆一は電話を切った。
「キャンデー、マシュマロ、ホワイトチョコ。あいつ甘いものは好きだし、そういうのでもいいと思うんだけどな」
 といいながら、好きな女の子にはやっぱり特別なことをしてあげたいと思う。そのぐらい、桐生雅が自分のためにチョコレートを作った、ということは隆一にとって重要なことだ。
「あの天邪鬼が余計なことをするから」
といいつつも、あのカードは大事にアルバムにはさんである。
「いつもそばにいるあなたへ、いつも言えない想いを、このチョコレートに込めました。」
 そのカードにはそう書いてあったが、いつもそばにいる雅に、いつも言えない想いがあるのは隆一も同じだ。その想いは共に感じ取ってはいるが、だからこそ、たまにはその想いを形にした方がいいと思う。ホワイトデーはきっかけに過ぎない。
 そこまで考えが行きついたとき、重要なことを見落としていたことに気が付いた。自分は、雅にお礼がしたいわけではないのだ。勇気を出して自分の想いを形にした想い人に対して、同じように自分の想いを形で表現したいのだ。たとえ喜んで貰えなくても、それを感じ取ってもらえればそれで十分だ。贈り物とは、そういうものだろう。
「あの子に何をあげるか決めた?」
電話を切ったそばで、尚美が立っていた。どうやら立ち聞きしていたらしい。
「うん。何かアクセサリーにしようと思うんだ。指輪とか、髪飾りとか」
隆一は母親にそう返答した。
「あの子そういう物を欲しがると思う?」
「思わない」
隆一は断言した。
「でも、ああだこうだ考えるよりは、徹底的に女の子扱いしてやろうと思って」
「その方がいいかもね。あの子には」
二人は笑っていた。

 ホワイトデー当日。雅はインターフォンの連呼で目を覚ました。
「母さんや父さんはどこに行ったんだよ?」
ぶつぶつ言いながら、玄関のドアを開ける。門の外には自転車に乗った隆一の姿があった。
「よっ!」
「どうしたんだよ。朝っぱらから」
がたっと崩れる隆一。気を取り直して、雅に言った。
「いいから、こっちに来い」
気迫に押されて雅は隆一の方へ歩いていった。
「左手を出して」
「なんで左手なの?」
「いいから!」
おそるおそる左手を差し出す雅。隆一その左手をしっかりと握り締めた。ポケットから銀色の指輪を取り出して、雅の薬指に指輪をはめる。
「これ?」
「安物だけどな」
「ありがとう」
予想外の反応に、隆一はつまらなさそうにただ立ちすくむ。
「どうしたの?」
「なんか、もっと違ったリアクションを期待してたから」
自分の手の甲をしげしげと眺め、自分に指輪をはめてもらった余韻に浸る雅をそう評する。
「僕もね。自分でもびっくりしてるんだ。なんでだろうね。あんなに女の子として扱われるのは嫌がってたのにね」
「さあな。で、チョコをくれた女の子に会いに行くんだろ?」
「うん、「住ちゃんの家、ここからそんなに離れてないんだ。ついてきてくれない?」
「わがままな奴だなあ」
苦笑いしつつも、隆一は了承した。
「ごめん、ちょっと待っててよ」
 そのちょっとが長い。ドアを入ってから、三十分ぐらい経ったが、まだ出てこない。これでは普通の女の子じゃないか!三月の半ばとは言っても、まだまだ朝はつらい。すっかり隆一の体は冷え切っていた。
「お待たせ!」
 甲高い声が響いた。隆一は目を丸くする。ひざがやや隠れるぐらいのスカートに、クリーム色のセーター。髪の毛は髪留めで一点に止め、ポニーテールにしてある。寒さ除けに茶色のコートを左手に抱えていた。
「えへへ、かわいい?」
小首を傾げて尋ねる雅に、思わず頭を抱える隆一だった。

 「おはようございま〜す!」
元気のいい雅の声が香住の家の玄関に響いた。
「本当に来たんですね、雅さん」
「おめかししてきちゃった。かわいい?」
にこにこと笑いながらスカートをちょっと持ち上げてみせる雅。香住も右手で頭を押さえる。これが学年一の秀才のすることか!
「え、ええ、よく似合ってますよ」
そう言いながら、男の子が雅の後ろに控えているのに気が付いた。
「君が香住ちゃん?」
隆一は香住に話し掛けた。
「はい、隆一さんですね。お顔は存じています」
そう返答する香住にぼそぼそと雅の耳元につぶやく隆一。
「同い年なのに、どうしてこの子こんなに馬鹿丁寧なんだ?」
「女の子なのにこんな言葉使いの子もいるんだから、気にしないの」
くらくらとなりながらも、とりあえず、隆一は用件だけ伝えて帰ることにした。
「じゃ、こいつを今日一日お貸しするから、煮るなり焼くなり好きにしてね。あ、今日の夕方までの返却は受け付けないから」
「そういうことなら、付き合わないわけにはいかないですね」
すっかり毒気を抜かれてくすくすと香住は笑っていた。

 とはいえ、雅は別に予定を決めていたわけではない。
 仕方がないので、とりあえず街まで出ることにした。香住の駅から駅まで歩く。雅の足取りは軽やかだ。
「スカートいつもはかないのに、結構慣れてるんですね」
「制服でいつも着てるじゃんか」
「そういえばそうですね」
馬鹿なことを聞いたものだ。
「じゃ、どうしてはかないんですか?」
香住は雅に尋ねた。
「ミニスカートなんかはいてる子を見るとね、どうしてもそっちに目が行くんだ。そういう風に見られるのは気持ちが悪いからね」
一説によると、見える間接が一つ増える毎に、性的興奮は助長されるそうである。
「まさか私とデートだからおめかししてきたとか言います?」
恐る恐る香住は尋ねた。
「そうだよ?悪い?」
香住は足を止めしばらくぽかんとしていたが、大きな声で笑い出した。それを見て、たまらず雅は振り返る。
「そんなに笑うことないじゃないか!」
「いや、女の子とのデートでそんな格好してくる人はあまりいませんよ」
「しょうがないじゃか。今の僕ならおめかしっていうのはこういうのを言うんだから」
すねる雅の右腕に、香住は自分の左腕を絡ませた。いきなりの行為に雅は焦る。
「ちょ、ちょっと香住ちゃん!」
さすがの雅もこれは恥ずかしいらしい。女の子と腕を組んで歩くのが恥ずかしいのか、それとも女同士だから恥ずかしいのか、そのあたりは自分でもよく分かっていなかった。

 一番近い繁華街まで、電車で三十分ほどで到着する。雅たちは、あちこちのお店を見て回ることにした。車道に沿ってあるく雅と香住。女の子二人が歩いているとちょっかいをかける人間もやはり出てくる。
「ねえねえ、女の子だけ?」
同い年ぐらいの男の子が雅達に話し掛けてきた。無視して雅は歩き続けるが、駆け足で先回りし、二人の正面に立ちはだかる?
「高校生?二人ともかわいいねえ」
「残念。相手を選ぶんだね!」
雅は左手の太陽の下にかざした。太陽の光に照らされて、キラリと光る薬指。
「あ、彼氏いるんだ」
「えへへ、今朝貰ったんだ」
「君みたいなかわいい女の子を相手にできるなんて、うらやましいなあ。邪魔したね!じゃあ」
それほど悪い奴じゃなかったようだ。それ以上付きまとうこともなく、二人から離れていった。二人は再び歩き出した。
 「雅さん、その指輪いつのまに貰ったんですか?」
歩き出してしばらくした後、香住が尋ねた。
「今朝貰ったんだ。隆一の奴わざわざ持って来てくれたんだ」
そういいながら、しげしげと自分の左手を見つめる雅。
「手作りのチョコレートが効いたみたいだね」
 雅の目は香住の方を向いていなかった。ちょうど通りかかったショーウインドーの前で香住は立ち止まった。
香住が視線を上げる。ショーウインドーの中には純白のウェディングドレスが飾られてあった。
「女の子にとっては、やっぱり憧れなんですよ。これ」
「これ着て僕の隣に立ちたいとか思ってた?」
香住はショーウインドーの方から視線を変えずにつぶやいた。
「そこまで考えたことはありませんよ」
そういうと、香住はショーウインドウを背にして、雅に尋ねる。
「こういうの、雅さんは着たいと思います?」
「嫌だと言ってもまた問答無用で着せられるんだろうな、これ」
この前のクリスマスコンサートの悪夢が甦る。あの時はよってたかって着せられたけれども、結婚式もあんなのだろうか? 大勢に囲まれてまた冷やかされるのかも。返答に詰まる雅に香住は追い討ちをかける。
「嫌なんですか?」
「う〜ん」
問いただす香住に対し、雅はさらに考えこんでから答えた。
「二人っきりで、記念写真を取るぐらいはしたいかもね」
「隆一さんと二人っきりで?」
「うんっ」
 真っ赤に染めた頬に手を当てて雅は答えた。どこかの教会で神父の前で二人っきりで隆一はタキシードを着て、自分はウエディングドレスを着ている姿を想像してみる。神父以外は二人っきり。神の御前で永遠の愛を誓い合う二人。
 うっとりと一人の世界に入った雅を見て、香住はちょっとあきれかえった。見てみれば立ち止まって雅をじろじろと見ては、歩き出す人が何人かいる。
「雅さん、人が見てますよ」
冷たい声でつぶやく香住。つい一年前までクールに男の子をしていた人間と同一人物とは思えない。恥ずかしくなって雅を置いて香住は歩き出した。
「私も早くいい人見つけないといけないな」
そうつぶやくと、後ろから声が聞えてくる。
「香住ちゃ〜ん、待ってよ〜」
ようやく雅が香住に追いついた。息を整えるために、雅は立ち止まる。顔を上げて、香住を見上げてみれば、香住はニコニコと笑って立っていた。香住が雅に言う。
「雅さん、幸せになって下さいね。約束ですよ」
雅はなんだかよく分からずに、ぽかんとそのまま香住の顔を見上げていた。


後書き

みなさんこんにちは、桐生雅です。
作者 ここまでを振り返って今回は作者と雅との対談形式で進めたいと思います
こんな恥ずかしい話良く書けるね。
作者 ほっとけ。
お話を作る上でどういうのを材料にしてるの?
作者 どっちかというと、少女漫画の学園ストーリーが基本かな?伊達に20年も少女漫画に付き合っているわけじゃない。俄仕込みの萌え萌えな連中とは年季が違う。
あんたいくつだっけ(笑)僕少女漫画読んだことがないから、よく分からないな。
作者 真面目にピアノやってればそうなるよね。僕でも真面目に練習してれば、一時間や二時間ピアノの前であっという間に過ぎるもんね。
そのくせいつも聞いている音楽はポピュラーばっかりだよね。
作者 これでもクラシックだけを聞いてた時期があったんだぞ。
ふーん。僕もMD持ち歩いてクラシックばっかり聞いてるもんね。おかげで流行っている曲なんてちっとも知らない。別に気にしてないけど。
作者 今回のBGMはこの一月のヒット曲だけど、「一年目のクリスマス」のBGMなんてひどいもんだもんな。
何聞いていたの?
作者 電磁戦隊メガレンジャーの主題歌。
・・・
作者 「行くぞメガ、変わるぞメガ」って口ずさみながら、「二人の奏でるメロディは」とか書いてた。
げ!
作者 コードネームは正体不明だ。わはは
良かったね。勉強せずに遊んでたかいがあって。
作者 うるさい。
ところでさ、作品の話に戻るけど僕を創るときにイメージするキャラってある?
作者 別に君を作るときは何も考えてなかったんだけど、今から見れば「ファミリー」のフィーとか、「ソルジャーボーイ」の主人公とかが近いかな。
どんなキャラ?
作者 女の子だけどボーイッシュなキャラね。ああいうのがイメージかな。いつもは男の子みたいなんだけど、要所要所ではちゃんと女の子なの。今考えたら隆一に対する君の行動パターンと、フィーの行動パターンって良く似てるね。気になる読者は「ファミリー」を全巻読むべし。でも、それをそのまま書けばただのボーイッシュな女の子だから、その辺との差別化はかなり配慮したつもり。
例えば?
作者 男の子だったときの社会的な立場と女の子だったときの社会的立場の違いに疑問を抱かないといけない。でも疑問を持ってる人ってあんまりいないじゃん。
女の子であるという理由だけで要求されたり許されたりするいろんなことに疑問を持つような人間でないと困る、と。
作者 もちろん、すべての女の子がそのような疑問を持つ必要はないけどね。逆に、女の子になったからとすべての社会的な状況を逆手に取る奴がいても面白い。この作中でも君がやってる。
も、もちろん、何も考えずにあるがままに受け入れる人がいてもいいよね。
作者 ごまかすんじゃない。まあ、今の現状から言えば、女の子は損している部分もあるし、得している部分もある。得してる奴は黙ってるんだよ。ひどいのになるとそれが既得権益だと気づいてない奴もいる。既得権益にしがみついたまま男女同権を訴える自称フェミニストもいるしね。なるべくフラットにしようと社会は動きつつあるんだけど、やっぱりなかなか進まない。
「お仕事は適当にして早く結婚して退職」っていう価値観もアリだもんね。
作者 それが悪いとは思わない。でもなんで女の子だからという理由でそれが許されて、男の子はそういう可能性が与えられてないんだ?
同じようになんで男だという理由であんたみたいな奴に可能性が与えられて、私にチャンスをくれないの、っていう女の子もいるよ。
作者 世の中なかなかうまくいかないねえ。
こら、逃げるな。
作者 ではこのあたりでお開きにいたしましょう。ではまた。