戻る

僕らのキックオフ
文:johny

「姉ちゃんやめてくれよ〜」

その夜、僕たちの両親は旅行にでかけており、僕は6歳年上の姉ちゃんと留守をしていた。僕の名前は沢村良雄(さわむらよしお)、地元の中学に通いサッカー部でサッカーにあけくれる青春まっしぐらの15歳だ。姉ちゃんの名前は沢村真理子(さわむらまりこ)今年新社会人として世の中にデビューしている。母親が用意していったカレーを温め、それを食べ、食後に2人でテレビを見ていたが、ろくな番組がやっていなかったせいか、姉ちゃんが退屈しのぎに僕を化粧台の前に座らせ、化粧を施してからかっていた。
「ほら動かないの、化粧水塗れないじゃない。」
「やめてくれったら」
姉ちゃんは面白半分に化粧水を僕の顔一面に塗りたてる。
「この化粧水高いんだから、角質層をととのえてお肌がすべすべになるのよ。」
「いいよ僕は男なんだからそんなの必要ないしさ。」
「あらこれからは男が化粧する時代もきっとくるのよ。弟が流行に後れないようにするのも姉の勤めなんですからね。」
そんなの来るわけないよ。僕はこの時そう思った。けどその時代・・・いやその瞬間はすぐに訪れた。姉ちゃんは着々と僕の顔に化粧を塗りたてる。ファンデーションにパウダーと鏡の中の僕は見る見る彩られていく。しかし・・・所詮は成長期に突入している僕の顔は男特有の骨格というかつくりをしており、おかまの域を越えることはできない。
「なんか気持ち悪いよ。やめよーよ。」
「いいのいいの。」
姉ちゃんは既に楽しんでいるだけのようだ。続いてアイシャドウを僕の目頭に塗った。あれなんだろう?初めはあんんなに嫌がっていたのに、僕の気持ちの中で何かが芽生え始めていた。男の子はヒーローに女の子は綺麗なアイドルに、誰にでも変身願望というものがあるが、この僕の今の気持ちもそこからうまれだしているのだろうか。
「さて最後は・・・」
姉ちゃんは、口紅を取り出した。
「この口紅だって高かったのよ。ほら中山田美帆(なかやまだみほ)が宣伝してるじゃない。見たことあるでしょあのCM。」
あのCMとは最近よく流れている口紅のCMの事である。確か女の人がラブレスという口紅をつけると中山田美帆に変身するというやつだ。もちろんCMであり作り話であることは子供がみてもわかる。単にこの口紅を使えば中山田美帆みたいに綺麗になれるよと詠っただけの話しである。
「ほら口元を"い"の字型にして!」
「"い"?」
「そうそうすると上手く塗れるのよ。」
姉ちゃんは丁寧に僕の唇に口紅を塗っていく。僕はなんとなくそれがとても気持ちよく天にも昇るような感じでとても心地よくなっていた。僕は目を閉じ、化粧が終わるのを待った。上唇続いて下唇へ中央から左右に広げるように塗っていくのが判る。しかし完成への期待感と共に、なにかこの時身体がムズムズとしていた。そして口紅を塗り終えたころだろうか、姉ちゃんが大声をあげた。
「えっ!?なっなんでよ・・・?」
僕はその姉ちゃんのその大声と共に眼を開いた。そこには化粧ですっかり彩られたおかまみたいな僕の顔があった・・・いやなかった。
「へっ・・・」
そこには僕の顔でなく、といっても化粧した為ではなく、全く別人の顔があった。しかも綺麗な女の人である。それが僕の驚きを表現するかのように、口をポカンとあけてこっちを見返している。鏡の前に座っているのは僕と姉ちゃんだけ、しかし鏡の中にいるのは・・・綺麗な女性と姉ちゃんだけだった。ということはこの鏡に映っているのが僕自身なのだ。
「姉ちゃんこりゃ一体?」
姉ちゃんもすっかり驚いているらしく、慌てふためいていた。僕が頬に手をやると、鏡の中のその女性も頬に手をやっていた。そういえばこの女性どっかで・・・?
「中山田美帆!!!」
僕は、いや僕と鏡の中のその中山田美帆は大声でそう叫んでいた。その声もすっかり僕のものではなく、女性・・・そういつもTVから流れてくる中山田美帆とそっくりになっていた。
「しかしなんで・・・?」
「わからないわ。この口紅を塗り終わった途端・・・突然変わっちゃったのよ。」
そんな馬鹿な事・・・僕は中山田美帆になってしまった。あのCMのように・・・。
ただCMように「ラッキー!」と素直に喜べる状況にはほど遠かった。
手を見ると、すっかり肌は白く指も細かった。視線を下に下げるとTシャツの胸元を押し上げるかのように大きなオッパイが隆起するように盛り上がっているようだ。僕はボクサーパンツの中へその手を忍ばせると、男の勲章でもあるチンチンは既に影も形もなかった。この身体はすっかり中山田美帆そのものになっていた。いや中山田美帆の全裸を見たわけではないから、ホントにこの身体がそうとは判らないが、おそらくそうなんだろう。
「私は塗ってもなんともないのに・・・」
そうだ!この口紅は既に全国で発売されている。もしこの口紅を塗って姉ちゃんを初めとするみんなが中山田美帆になっているとしたら、いまごろ大騒ぎになってもおかしくはない。とすると僕だけが・・・僕が改めて鏡の中を注目するとすっかりスポーツ刈りだった髪もすっかり伸びきり、肩にかかるほどになっていた。髪は艶を帯びていた。それにしてもやはり中山田美帆は綺麗だ。そこいらの十代のアイドルと違って大人の魅力がそこに・・・いやここにある。
「ねえ良雄、せっかくだから外に遊びに行かない?」
「えっでもこんなの恥ずかしいよ。」
「あらどっから見ても素敵よ。もっと自身を持って!」
僕は鏡の中の自分を見返した。確かに面白いかもしれない。

姉ちゃんは自分の洋服ダンスを開けると、なにやら女物の服を用意し始めた。
「ほら早く脱いで・・・。これに着替えるのよ。」
女物の下着や服を僕に手渡した。
「えっこれ女ものじゃないか。」
「いい!?あんたは今、中山田美帆なのよ。男物の服じゃおかしいでしょ。」
「そっか・・・」
僕は着ていたTシャツとボクサーパンツを脱ぎ捨てた。
「あらずいぶんと大きいのね。」
姉ちゃんは、僕の身体を舐めるようにして見定めた。普段は姉ちゃんの前でもパンツいっちょでうろついているが、こうしてみられると恥ずかしくなってくる。鏡に眼をやると、サッカー部で鍛えた僕本来の身体はそこにはなく、そこには中山田美帆の全裸が映っていた。腰はくびれ、形よく盛り上がった尻から伸びるその脚はしなやかな脚線美を描いている。そしてオッパイは姉ちゃんのそれより大きく、先っぽの可愛い乳首は拗ねた女の子のようにツンと上を向いているようだ。そりゃ友達の家で見たアダルトビデオで女性の裸を見たことはある。でも生でみたことなんか・・・。突然姉ちゃんが僕のオッパイを鷲掴みにした。
「やんっ!何すんだよ姉ちゃん。」
「あら感じてるの?可愛い声だしちゃってぇ〜!」
姉ちゃんが力を入れるたびに、僕のそのオッパイは弾力豊かに潰れる。オッパイでこんなにも柔らかいんだ。しかも動く度にプルプルと動き、重さすら感じる。僕は興味本意に掌をそのオッパイにそえてみる。濡れたようなすべやかな肌に包まれたそのオッパイは僕の指先が触れた瞬間、鼓動するかのように僕の全身を熱い何かが貫いた。女性の身体って・・・なんて敏感なんだ。・・・でも気持ち良かった。
「なに感動しちゃってんのよ。」
「だってさ姉ちゃん。こんなに感じるなんて・・・。」
「あんたねぇ〜そんなに気持ち良かったなら、いっそのこと男に抱かれたら?」
冗談じゃない。そんなの想像しただけで吐き気がしそうだ。
「ほらとりあえずこれからつけて・・・。」
僕は手渡されたショーツから身を通した。この身体は、幸い姉ちゃんと同じぐらいの背丈なのでなんとかサイズ的な問題は障害はないが、オッパイは僕の方が大きいから・・・ブラジャーは少し苦しい感じがした。
「姉ちゃん少し苦しいよ。」
「それが一番大きいブラなのに、たいしたものね。」
僕はそれを聞いた瞬間少し優越感に浸っていた。この身体は借り物だっていうのに・・・僕は自分の知らない一面を発見した様な気がする。それにしてもブラジャーっていうのはなんでこうもフリルがいっぱいついてて、まるで飾りみたいなのにその反面、乳房を優しく包むようにして気分すら落ち着いてくるようだ。なんとも不思議なものだ。
続いて高そうなキャミソールとパンツその上からジャケットを着込んだ。中山田美帆は20代後半の大人の女性だからと言い、姉ちゃんの服の中でももっとも大人っぽいのを用意してくれたようだ。とてもこの身体に似合っているのかもしれない。
「じゅあ仕上げね。」
姉ちゃんは僕を再び化粧台の前に座らせ、髪を櫛で整え、指にはマニュキアを塗ってくれた。そして最後に香水までつけてくれた。
「よし!」
姉ちゃんは立ち上がり、僕は鏡の中のその自分の姿を確認した。化粧や施し、女性の衣類を身につけたその鏡の中の僕は、完璧なまでの女性と化していた。
「これが・・・僕?」
それは中山田美帆・・・いやそれ以上かもしれない。
「そうよそれが今の貴方よ。自身を持ちなさい。」
姉ちゃんは自分も大人っぽい格好に着替えながらそう言った。僕は姉ちゃんの着替えが終わるまで、鏡の前で自分のその姿をいろんな角度から確認・・・いや堪能していた。
「よし!じゃあ行こう。」
姉ちゃんに連れられて、僕は家の外へと出た。靴は姉ちゃんのパンプスを貸してもらった。すこし歩きづらかったが、ハイヒールを履くよりはずっと歩けそうだ。
「何処へ行くの?」
「せっかくだもん。六本木にでもでましょ。」

僕は姉ちゃんに連れて行かれるままに、地下鉄に乗り込んだ。いちおう見た目は中山田美帆という芸能人なので、騒がれないように色メガネをつけたのだが、逆に目立ったようで、地下鉄車輌内で周りがジロジロと僕の方を観だし始めた。そして人の多い六本木に近づく度に、車輌内の人は増え、騒ぎも大きくなっていった。
「姉ちゃん見られてるよ。」
「堂々としてなさい。」
僕は六本木に着くまで、必死に顔を見られないように努力した。そして六本木に着き、ドアが開くや否や姉ちゃんと共に駆け足で改札口まで駆け上がった。そしてそのまま六本木の夜の街に繰り出した。人の多い町中では、そう簡単には中山田美帆と見破られる事はなさそうだが、すれ違う度に僕の方を振り返っているようだ。それは男の嫌らしい視線でもあり、また女性の憧れの眼差しのようだ。
「姉ちゃん何処行くの?」
「行きつけの店があるの。それにしてももっとちゃんと歩けないの。いい女が台無しよ。」
「そんな事言ったって・・・。」
女になって間もないのに無理言わないで欲しかったが、確かに僕はみっともない歩き方をしていた。確かに中山田美帆であることがバレるのを恐れてもいたが、夜の六本木の街にもなかなか僕にはドキドキしていた。歩道に出て客を勧誘するきわどい格好をした女性がそこらへんにいるのだ。いくら女の姿でも中身は立派な男である僕にはなんとも貴重な体験である。
「ほらキョロキョロしないの。」
「だって」
「ほら着いたわよ。」
姉ちゃんは洒落たビルの地下階段を下りていった。僕もそれに続き、店へと入った。そこはジャングルの雰囲気を再現した洒落た空間が演出されており、カップルや綺麗なお姉さんがいっぱい酒を楽しんでいるようだった。姉ちゃんに招かれて、カウンター席へと座った。
「何にします?」
姿は大人の女性でも、中身はまだ中学生である僕に酒の種類なんてわかるわけない。
「えっえっと・・・」
僕の困っている姿をみてか、姉ちゃんが飲み安めのカクテルを頼んでくれた。
「ねぇ姉ちゃんいつもこんなとこ来てるのか?」
「そうよ、いいとこでしょ。」
姉ちゃんはこの前、男にふられたばっかである。その相手とは1年近くもつき合っていたらしいが、別れは突然訪れたらしい。ちょっとした言い合いから、相手を泣かしてしまったらしい。まあ姉ちゃんの性格なら、男を泣かせてしまうのも判らなくはないが、そんな男とよくも1年も持ったもんだと思う。
カクテルが目の前にだされ、僕はグイッと口に含んだ。
「うわっ何これ?」
「馬鹿ねぇそんなに一気に飲み込むからよ。こうやってちょびちょびと口に含むのよ。」
そんなこと言ってもビールだって飲めないのに、酒の飲み方なんて中学生の僕に判るものか。僕が姉ちゃんの見よう見まねでカクテルに苦戦していると、スーツ姿の男が2人が近づいてきた。そして僕の斜め後ろに立ち、声をかけてきた。
「そこのお嬢さんがた、僕たちと一緒に飲みませんか?」
うっ・・・テレビドラマで聞いたことあるその古くさい台詞とそのさわやかな笑顔に思わず吹き出しそうになった。
「えっ何かおかしい事言ったかな?」
もうひとりの男がそう言った。
「あっ・・いや・・・その」
僕が対応に困っていると姉ちゃんが助け船をだしてくれた。
「御免なさいね。友達と待ち合わせしているからまた今度・・・!」
待ち合わせ?そんなのしてたっけ?
「そっか・・・」
その2人の男は渋々と何処かに行ってしまった。
「姉ちゃん、待ち合わせなんてしてたっけ?」
「馬鹿ねぇ断り文句よ。大人のマナーってやつだからよく憶えておきなさい。」
そんなの男の僕に必要あるわけないじゃん。あっそっか!今は女だった。
「それにしてもいい男はいないのかしら?」
姉ちゃんは愚痴るように、周りの客を見渡している。
「男?」
僕はこの時初めて姉ちゃんの意図がわかった。姉ちゃんは僕を出汁にして、男を釣ろうとしているのだ。まったく姉ちゃんの計算高さにはまいっちまう。

それからというもの2時間のうち、3組の男共から誘いがあった。そのたびに僕らは愛想笑いをして断り続けた。
「なあ姉ちゃんどういうのがいいんだい?僕もう頭痛いよ。」
何杯飲んだだろうか、いくらこの身体が酒に慣れているとは言え、飲み方のわからない僕には結構こたえていた。頭がガンガン痛い。
「私は今度は金持ちの大人のおじさんがいいのよ。黙ってつき合いなさいよね。」
「好きにしてくれ。」
僕はその席から立ち上がった。
「あら何処行くの?」
「トイレ・・・飲み過ぎたみたい。気持ち悪い。」
「まあまあ頑張ってね。」
頑張る?僕はこの時まだその意味が判らなかった。僕はとりあえずトイレへと駆け込んだ。しかしいつもの習慣のためか、僕は男便所の方へ入り、便器の前でパンツのジッパーを降ろしていた。しかし女の身である今の僕にはそこから引っぱり出すものはなく、そこで気がついた。
「あっそうか!」
慌てて外へ出ようとしたら、その場にいた男性客が口をポッカリと開け、唖然としているのが見えた。そりゃ女性しかも中山田美帆にそっくりの女性が男便所に入っていったら誰でも驚くか・・・。僕は赤面しながら、女便所の扉を開いた。その瞬間、僕の乳房の下でドキンという音がした。入ることのできない神秘の空間に僕は足を踏み入れたのだ。
女便所内は妙に女臭く、いろんな香水の臭いで充満していた。僕が入った瞬間、洗面台の前で化粧をなおしていた若い女性がこっちを見たので、なおさらドキドキしながら、とりあえず空いている便器を探した。一番奥の空きを見つけ、僕はドキドキしながらドアを閉めた。別に中は男便所と変わらない洋式の便器だったが、妙に緊張するものだ。僕はパンツを降ろし、続いて履いていたシルクのショーツを降ろした。そして便座に座った。出し方はよくわかんなかったが、気を緩めるとシャーという音を立てておしっこが勢いよくでた。

僕は妙な気分のまま用を足し、パンツを上げ、そこを出た。洗面台の鏡には、僕・・いや中山田美帆が恥ずかしそうに立っていた。そうだこの姿は借り物なんだ。ここに映っている僕は本当の僕じゃあーない。早く元に・・・そう言えば元に戻るにはどうすればいいんだろう?僕はそんなことを考えながら、手を洗い女便所を出た。カウンターに戻ると姉ちゃんの姿はなく、飲み干したグラスの下にメモ書きが一枚残されていた。そこには"私はもう少し遊んで行くから、あんたは先帰ってなさい。勘定はすませてあるからね!"と書かれていた。さてはいい男見つけたな!僕は残っていた自分の飲みかけをグイッと飲みほし、店を出ることにした。

酔っているせいか、千鳥足で地下鉄の駅まで向かった。そして切符を買おうとしたときに気がついた。そういえば僕は財布を持っていない。小銭すらないのだ。
「どうすりゃいいんだよ。」
少し悩んだが、僕は姉ちゃんを捜すべく再び六本木の街を歩き出した。

それからどれくらい経っただろうか。頭は痛いし、吐き気はするし、慣れない歩き方のせいか足は痛いし、姉ちゃんいないし・・・。もう足が前に出なかった。しょうがない誰かにお金を借りよう。僕はちょうど通りがかった女性に声をかけた。
「すみません・・あのお金を貸してもらえませんか?」
女性は僕の顔をチラっと見ただけでプイっとそのままどこかに行ってしまった。まあ当たり前か、見知らぬ女が金貸してくれなんて言っても・・・。と思っていたら逆に声をかけられた。振り返ると冴えないサラリーマンだった。歳は・・・父親と同じぐらいだろうか40代後半ぐらいだと思う。
「お金が必要なのかい?」
「あっ、はいちょっとタクシー代貸してもらえませんか?」
「どこに帰るの?」
サラリーマン風のその男は、優しそうに笑顔で聞き返してきた。
「あの広尾なんですけど・・・」
「あっそう、僕もそっちのほうだから一緒に帰ろう。」
「えっ、あっでも・・・」
僕が断るまもなく、そのサラリーマンはタクシーを止めると、僕の背中を押すようにしてタクシーへ連れ込んだ。そして運転手に「広尾まで」と伝えた。まあせっかくのご好意だから甘えとくか。こういうとき女っていいよな。僕はヘヘンとニヤつきながらタクシーから夜景を見ていた。それにしてもちょっとした大人の社会・・・いや女としての大人の社会の体験もいいものだ。

「キミ中山田美帆に似てるね。」
「えっそうですか?よく言われるんです。」
僕は横にいるサラリーマンに顔を見せないようにして、そう答えた。危ない危ない思わずばれるとこだった。
「そう・・・僕ね彼女の事好きなんだよね。ほらあのCMとかさ・・・」
「はぁそうですか・・・」
それからというものそのサラリーマンは詰まらない話しを立て続けに僕に話し続けた。奥さんに聞いてもらえない悲しいサラリーマンってとこか。そのつまらない話しに飽きたのか突然眠気が襲ってきて僕はあくびを漏らしてしまった。
「眠いのかい?」
それを見たのかサラリーマンがそう話しかけてきた。
「あっいや大丈夫です。」
「そうかい広尾に着いたら起こしてあげるから寝とくといいよ。」
「えっでも・・・」
断っていたものの、それから5分後には耐えきれなくなって僕は寝てしまった。

「ほら着いたよ。」
僕はそう身体を揺さぶられ、サラリーマンに起こされた。
「あっすみません。」
僕はサラリーマンに支えられながらタクシーを下りた。そしてそのまま訳の分からないままどこかの建物に連れ込まれた。
「あれぇここは?」
見慣れないその建物を見渡し僕はそう聞いた。
「うん?ほら少し酔いをさましたほうがいいと思って・・・。」
「あっ・・・ありがとうございます。」
僕は慣れないその身と酔いですっかり意識も朦朧とし、そのままサラリーマンのやっかいになった。この時までは女である今の自分に酔いしれていた。しかしそれは次に気がついた時に全てうち砕かれたのだ。

次に気がついた時、僕は見知らぬ部屋の豪華なベットの上で寝かされていた。どっかからシャワーの音すらする。僕はまだ頭がフラフラしながら、周りを見渡した。
「ここって・・・?まさか・・・?」
そのときさっきのサラリーマンがタオルを腰に巻いた状態で、浴室からでてきた。このシチュエーションは間違いない。
「あの僕帰ります。」
僕はサラリーマンの横を抜けて扉のほうへ向かおうとした。しかしサラリーマンはそれを阻むかのようにして、僕の手首を掴んだ。
「僕だなんて・・・ずいぶん可愛い事いうじゃないか?」
「ちっ・・違う。」
僕はその手を振り解こうとしたが、か弱い女性の力となっている僕のその抵抗は空しくも通用しなかった。僕はベットの上に押し倒され、着ているものを次々はぎ取られた。キャミソールをとられ、僕はブラジャーとショーツだけの姿になった。その男は荒い息をもらしながら僕の全身を舐めるようにして・・・吸い付き、僕のオッパイを何度も何度も揉みほぐした。
「やっやめ・・・て・・・く・・・」
姉ちゃんの部屋で姉ちゃんで掴まれた時の比じゃないくらい、ましてや今まで味わったことのない熱い何かが僕の身体を支配していった。
「そんな事言って、気持ちいいだろ?」
男はブラジャーと乳房の間に手を突っ込みそう言った。
「あっ・・・もう・・・」
その後の事はよく憶えていない。というかなんだかわからないそんな感じだった。

次の日、僕は朝早く目を覚ました。
となりではその男が寝息を立てて寝ていた。僕はその男と一晩を共にしてしまったのだ。そしてそのままシーツから抜けだし、昨晩の余韻を感じながら便所の方へと向かった。僕は・・・よく憶えていないが、とても気持ちよくて、その・・・女としての悦びを体験してしまったのだ。
「ふぅ・・・」
僕はため息をつきながら、便所の前にいつものように立つと、そこには見慣れたチンチンがあった。元気はなくブラリとはしていたが・・・。立派に!
「えっ!どうして・・・?」
僕は洗面台の鏡で自分の姿を確認するために、鏡の前に立った。そこにはもう中山田美帆の姿はなく、僕本来の姿だった。髪もいつものようにスポーツ刈りになっていた。ただ爪のマニュキアや顔の化粧はそのままだった。昨日あの男に期すされたせいか口紅はすっかりおちていた。このまま、あの男がおきたら大変な事になってしまう。僕は顔を洗い、すっかり化粧を落とすと、男を起こさないように着てきたキャミソールとパンツそしてジャケットを便所に持ち運び、それを着込んだ。それは女性ものだが、着方によってはなんとか男物として通せそうだ。そう考えたのだ。もっとも全裸のまま自宅に帰ることはできないしね。ブラジャーはポケットにつっこみ、ショーツだけ身に纏った。僕の勲章はショーツに収まりきるものではなかったが、はかないとサテンのパンツにくっきりとチンチンが浮かび上がってしまうのが嫌だったのだ。僕はそっーと部屋を出た。やはりこの建物はラブホテルだった。

幸い隣町だったので、そこから人目を避けるようにして家に辿り着いたのは、朝の10時だった。「あら朝帰り?良雄ちゃん?」
一足先に朝帰りしていた姉ちゃんに僕は出迎えられた。
「どうしたの?そんなに怖い顔して?」
「冗談じゃないよ!僕は酷いめにあったんだぞ!」
「あらどんな?朝帰りってことは・・・うふふ。」
姉ちゃんはすっかり見通しているのか、薄笑いをして僕の方を観ていた。僕は姉ちゃんの服と下着を脱ぎ返しながら昨晩あったことを離した。
「ずいぶんと大変だったみたいね。でも気持ち良かったんでしょ?」
「・・・知らないよそんな事。それにしてもどうして元に戻ったんだろう。」
姉ちゃんは名探偵のようなそぶりで考え込み、そして化粧台の前から昨晩僕の唇に塗った口紅ラブレスを手に取った。
「あんたの話から推測するに、おそらくこれのせいね。これを塗ったために貴方は中山田美帆になり、そして口紅が消えたために元に戻った。それだけの話しよ。どうまたつけてみる?」
「冗談じゃないよ。もうこりごりさ・・・!」

それから数日たった事のこと、姉ちゃんの部屋に呼ばれた。
「ちょっと良雄来てみなさいよ。」
「なんだよ!サッカー部でもうクタクタなんだよ。」
「いいから来てみなさいよ。ほらこれ見て!」
姉ちゃんはリモコンでテレビを差し僕に見るように言った。そこにはニュースキャスターが次のように語っていた。

〜さて冒頭でも報じましたが、化粧品会社の大手"ゴーセー"の発表によると先月発売されました今大人気の口紅"ラブレス"をつけた男性が突然、中山田美帆に変身するという副作用が発見されたようです。これは男性のみへの副作用で、これまでに数件の問い合わせが同社に寄せられているとの事です。同社は男性はこれをふざけてつけないようにと呼びかけると共に、同製品の回収をおこなっていく方針だそうです。〜

僕と姉ちゃんは顔を見合わせ、いつまでも笑っていた。

次の日から化粧店には多くの男性客が押し寄せ、ラブレスと多くの化粧品そして女性物の服や下着が売れに売れまくったらしい。不況もなんのその、日本経済もこれで立ち直すと評論家は語ったとか。また街から男性の姿がすっかり見かけられなくなり代わりに中山田美帆が至る所に出没した。

僕もいつかまた・・・あのラブレスを手にすることだろう。だってあの快感は癖になりそーだしネ!

<あとがき>
今回はCMのパロディとして1日で書き上げました。そのCMとはあえて説明する必要もないですが、今流れているアレです。いつもは展開の構成に苦しむのですが、今回は比較的楽しく勢い任せで書き上げられました。「僕らの関係」の寄贈から早2ヶ月が経ってしまいましたが、その間のスランプで5作も執筆が止まってしまいましたが、これらを活かして8月には大攻勢をかけたいと考えてますので、応援宜しくお願いします。あと今回は勢い任せなので、誤字とかがたくさんありそうです。見つけられた方は是非お知らせください。

johny@geocities.co.jp

 

 

 

 

戻る


□ 感想はこちらに □