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 この物語はフィクションです。
 登場する人物、場所、組織、商品などは、実在のそれとは無関係です。


 

これまでの、「仮面ライターディレイド」は──

 

「世界は俺に書かれたがっていない……」

「……貴方はTSバトルヒロインの世界を旅しないといけない」

「やつらは……いったい」

「道場に入る理由が聞きたいところです」

「やめろ。 お前では俺には勝てない」

「ディレイド、貴様がその姿に戻ったのは、ツバサに出会ったためだ」

 

 道場とは別棟となっている、ルミの自宅。奥の部屋に寝かせられていたツバサを見て、黒いボブカットの少女は悔しげな表情を浮かべた。
「ごめん…………間に合わなかった」
「間に合わせろといっても、無理があったけど」
 ジーフの気配は、近くにいたルミにも感じ取れなかった。距離が離れていては、なおさら厳しいだろう。
「で、現状を説明してほしいんだけど……この人たちは?」
 この世界でなすべき事には、ツバサが深く関係している。翼と小夏は状況からそう判断し、そばに付いていた。
「鳩谷翼さんと、灯小夏さん。 どうも、ツバサに用事があるらしいよ」
「……『堂林アズサ』といいます」
 少女……アズサは知っていた。翼が『ディレイド』であること、そして……『世界の破壊者』とツバサから聞かされていても、今はそれを指摘する状況ではないことを。

「なるほど。 だいたい、わかった」
 今朝からの経過をルミから聞き、梓は首を縦に振る。自身の口癖を真似された形になる翼は、少々嫌な顔をした。
「無理があったのなら、次は現状を変える方法を考える」
 次は、何をするべきだと思うか。問いかけるように聞くアズサに、ルミは即答する。
「ココナツを取り戻しに行く。 ツバサ抜きでも、それは急ぐべきだと思う」
「…………私は反対」
「え!?」
「なっ……」
 ルミからの回答に、真っ向から反対するアズサ。ルミ、そして傍観していた翼までも、戸惑いを隠せずにいた。思わず聞いてしまう小夏。
「助けなくていいんですか!?」
「そうは言ってないでしょう。 私が気になっているのは、この”違和感”」
 ここにいる、翼と小夏。そして、鳴神とかいう男。その存在とジーフの行動に、関連性はないのか。
「私にも、答えはない」
「だったら、『シフォン』さんに聞いてみるモン」
「『シフォン』……?」
「まあ、”ご意見番”ってところね」
 立ち上がるルミ。奥へ入り、ツバサを見つめる。
「ツバサはどうする気だ」
「この場に置いていくのは可哀想ですね……翼くん、連れて行ったらどうですか」
「なんで俺が」
「男の子は一人じゃないですか」
 とはいえ、鳴神の言葉は気になる。行動を共にした方がよいと思った翼は、ツバサを背負い歩き始めた。

 

世界の遅刻者、ディレイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る?


仮面ライターディレイド

作:ほたる (原案:城弾さん)


第11話「オープン・マイ・ハート」

 アズサの道案内で連れられたのは、一件の喫茶店。灯写真館と同じ商店街、その端にある。
「いらっしゃい」
「ツバサがあいつらにやられてる。 一度裏から入ってもらってるわ」
 寝かせておきたい。小声での現況報告を、店のマスターでもある女性は黙って聞いていた。

「この人は?」
「道場の新入りさんと、そのご友人です」
 軽く自己紹介をし、”予約席”と書かれたプレートの席へと座る。注文をした上で、翼は切り出した。
「突っ込んだ話ができる場所というから、どこへ連れて行くのかと思えば……ただの喫茶店か」
「”ただの”喫茶店じゃないです」
「お待たせしました」
 注文を運んできたウエイトレス、その顔を見て……翼はなるほどと思った。
「……お前の家か」
 早着替えを行いウエイトレスとして動いていたアズサに、声をかける。アズサは否定せず、『ご意見番』を紹介した。

 『堂林シホ』。アズサの母親である。

 時間がとれたので、四人の座るテーブルで会話をする。
「確かにこれまでのジーフとは、動きが違うわね」
 現状の説明を受けたシホ。過去との違いを、認識する。
「ココナツを早めに助けることも重要だけど、それがあいつらの思う壺だとしたら、それには乗らない方がいい。 そう思って思いとどまった」
 違和感はないか、と聞くアズサ。シホは少し考える。
「鳩谷さんと今村さん、二人が争っている間に、動けない野村君を狙ってきた。 誰かが入れ知恵してるのかも、しれないわね」
「……鳴神だろう」
 横で話を聞いていた翼が、短く返す。
「その鳴神って人のことも、教えてくれる?」
 回答を渋っていた翼だが、”それが解決になるのなら”とせかしてきた小夏を見て、手短に説明する。
「…………読めた」
 外しているかもしれないけどと断り、シホは推測を語り出した。

 『ヴィスティア』を弱体化するために、ジーフは鳴神を利用して、ツバサたちにディレイドが『世界の破壊者』だと吹き込んだ。 一方の鳴神もディレイドを倒すため、ジーフを利用しようとしている。

「Win−Winの関係は、今のところ成立している。 そして、野村君はジーフの思惑に、まんまとはまってしまった」
 それはもう、これ以上ないぐらいに。辛辣ではあったが、それもまた事実であった。
「これで俺が、ツバサの代わりにジーフとやらの所へ行って倒されれば、お互いに万々歳というわけか」
 間接的にではあるが、ジーフの思惑を自分がアシストした形となっている。ツバサとの関係を示唆する鳴神の言葉は、まだ成就していない思惑に自分をはめるためだろう。
 行かないのが良い、それは分かっている。翼が行動を悩んでいると……考えこんていたルミが顔を上げる。
「この状況での最適解は、わたしたちが二人でジーフの所に行って、ココナツを取り戻してくること……かな」
「できるなら、そうね」
 シホがその解に同意したことで、次の行動は決まった。
 着替えてくるというアズサが奥の扉へと消えた後、ルミは翼に声をかける。
「とりあえず、争うのは中断。 わたしたちが行っている間に何かあったら、ツバサを守ってくれない?」
 お互い、思惑には乗りたくない。敵対する存在がつながっているであろう現状では、こちらも連携する必要はあるだろう。
「……だいたいわかった」
 ルミの言葉の裏に隠された思い、それはツバサにもくみとれた。

「……出る前に一つだけ、指示を出す」
「はい」
 準備が整った、アズサとルミ。二人はまっすぐな視線で、シホの瞳を見る。
「負けてもいい。 生きて帰ること」
 これ以上欠けることは許さない。優しい声には似合わない、強い指示であった。


 アズサとルミが店を出ていって、十分ほど後。
「起きたか」
「…………」
 身構えるツバサ。とはいえ、ただでさえ実力がはるかに上である上、身体の節々が痛む現状では、とてもでないが立ち向かえるとは思えない。次の言葉をどう紡げばよいか分からず、無言の時が流れる。
 ベッドの横にあった椅子へと腰掛け、翼は問う。
「起き抜けで申し訳ないが、聞かせてくれ」
「…………何を」
「お前の戦う目的は何だ」
 聞かれて、ふと詰まる。自分は何のために戦っているのか、闘いの先に何が待っているのか。あまり考えず、ただ目の前の問題を解決するために動いてきた以上、言えることは一つ。
「そこに敵がいるから、それを倒すこと」
 わかりやすい答えだなと翼は返し、もう一つ聞く。
「お前が戦っている敵、その目的は聞いているか」
「……僕たち『ヴィスティア』や関わる存在全てを消し、思うがままの世界を作ること。 そう聞いたことがある」
「…………なるほど、だいたい分かった」
 椅子から腰を上げ、窓の外を見る翼。彼の作った影が、ツバサの元へと延びる。
「目標を持たない奴が目標を持つ奴に、勝てるわけがない」
 今のお前が出て行っても、恐らくは負ける。辛らつな言葉であったが、そこには計り知れない重みがあった。
「アズサたちは……?」
「ココナツとやらを取り戻しに行ったぞ」
 外へ出ようとする。しかし。
「今のお前が行っても、逆に足手まといだ」


 オフィスを思わせる部屋。ココナツはその場で、檻に入れられていた。すぐ横ではジーフが、社長椅子へ座ったままにらみを利かせていた。
「……どうするつもりナツ」
「ウィッシュが来るまでは、待ってやる。 来るまで止めを差す気はないが……この状況で、貴様はウィッシュが来ることを望むか?」
 非常に難しい問い。来なければ自分もツバサも、多少は生きながらえられる。しかし…………
「来て……そしてボクを救ってくれるナツ」
「脳天気なものだな……む」
 先日より見知った存在の来訪に、ジーフは立ち上がって応対した。
「状況はどうなりましたか」
「『ウィッシュ』のパートナーを捕らえてきた。 これで『ディレイド』とやらがやってくると聞いたが……それは確実か?」
「必ず『ウィッシュ』を連れて、ここへとやってくる。 それは保証しますよ」
 確度の高い預言を繰り返している彼に、ジーフは信頼感を抱いていた。だがその一方、警戒を解くことも忘れずにいた。
「私に……何を願う?」
 情報を教えたという事は、何らかの見返りを求めているのだろう。預言者に聞く。
「『ディレイド』の始末。 私も奴とは因縁がありましてね」
「ふむ」
 ジーフは少し逡巡した後、答える。
「…………いいだろう」
「と、お客様ですね」
 邪魔でしょうから。預言者……鳴神は頷き、オーロラに包まれその場から姿を消した。その直後、激しい音と共に、ドアが蹴破られる。
「ココナツを返してもらうよ!」
 その場にいたのは……二人。鳴神の言う『ディレイド』、そしてウィッシュの姿は見えない。
「貴様らか……つまらん」
「あなたにはつまらないでしょうね。 でも私たちには……今この場でやるべきことがあるの」
 羽根の幻影を纏うアイテム……『エクセリュート』。眼前に構え、腕を一回転させる。

「「『ヴィスティア・エクセリューション』!」」

 赤と緑、二人の少女が姿を変える。

「運命を払う勇気の風、ティアフォルティス!」
「真を貫く永久の輝き、ティアルミナス!」

 即座に構え、戦闘態勢に入るとともに、ココナツが檻ごとその場から消える。出していては不意に取り戻される、そう判断してであった。
「広い場所で、やらないか」
 背後を向き、ガラスを突き破って外へと出るジーフ。フォルティスとルミナスも、迷わず追う。

「私を倒せば戻ってくる。 返してほしくば、実力で奪ってみせろ」
 オフィスビル街。 人の気配がないそこに、事務用品を模した大量の『ボリョーク』が現れ、二人を取り囲む。
「邪魔しないで!」


「あなたは……僕をいったいどうしたいんです? 破壊したいのは、世界じゃなくて僕じゃないですか?」
 辛辣な言動が続く翼に対し、ツバサは不信感を抱き続けていた。
 その反応を見て、翼は少し前のことを思い返していた。

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 アズサとルミが駆け出す。その後ろ姿を見送った後、翼はポットから残りの紅茶を注ぎ直し、カップに口を付けた。
「……ちょっと質問いいかしら」
 翼に問いかけるシホ。カップをソーサーに戻し、何だと返す。
「あなた……どうもこの世界の人じゃなさそうね」
 一瞬、表情が変わる。努めて、それを隠そうとする。
 なぜ、分かる。心中で呟いたその問いを待っていたかのように、シホは翼、そして共にいた小夏の斜め上を行く答えを返してきた。
「わたしもまともな人間じゃないから、その辺鋭いのよね」
「人間ではない……『魔人』か? 『アマッドネス』か? 『女美川』か? 『虎の爪』か?」
 人間が混ざっているような気がするが、どれもシホには分からないワードだ。しかし、確かに言えることがある。
「どれでもないわ」
 そう一言告げた後、シホは紅茶に口を付け、続ける。
「人間か否か、この世界の存在か否かなんて、些細なことよ」
「些細……?」
「大切なのは……心。 そう思うわ」
 どう生まれたかではなく、どう生きるか。それは……心次第。心、そしてその見せ方を誤れば、どんな存在だって世の災いとなる。
 あなたは野村君に、どう思われているのかしら。シホの一言で、翼はこの世界における自身の行動を再考していった。

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「……ただ一つ確実らしいのは、俺がこの世界に来た理由が、お前にあるという事だ」
 この世界で俺は、お前とともに何かをしなければならない。そういうものらしいと翼は告げ、ツバサの方へと向き直る。
「何かを……だったら、僕の代わりに『ヴィスティア』をやってください」
 なんか、僕より適任に思えてきました。ツバサはそう呟いた。
「無理だ。 俺は別の世界の人間だからな」
 深いため息をつくツバサ。翼はそんな彼に、一言告げる。
「ココナツはお前のパートナーだろう。 なぜココナツがお前を選んだのか、それは考えたことがあるか?」
 ツバサはその言葉を聞き、ココナツと自分の出会いから今までを振り返った。

 春。自分の中に秘めた力を引き出されたアズサが、制御の効かないその力をもって世界を破壊しかける。力に翻弄される彼女を止めるため、ココナツは手を貸してくれた。
 以来、常にパートナーとして支えてくれた。それは……自分一人だけ足手まといとなっている今でも、変わらない。
 何が理由で、自分を選んだのか。何が理由で、自分から離れないのか。それはココナツの気まぐれなのか、それとも……

「僕がこんなんじゃなければ、ココナツに今から聞きに行くこともできたのに……」
「どういうことだ?」
「僕は…………”乗り遅れている”んです」

 十日ほど前。これまでとは質の違う敵、そして親玉とでも呼べる存在……ジーフ。彼らと初めて相対した『ヴィスティア』は、完膚なきまでに敗北し、逃げ帰らざるを得なかった。
 とはいえ、いつまでもやられ続けるわけにはいかない。ルミに誘われ、三人で合宿を行った。自分たちの手で、未来を切り開くために。

「アズサとルミは、その過程で何かがあったんだと思います。 でも、僕は…………」
(…………そういうことか)
 この世界でやるべき事、それが何となく、形になった。
 明確なきっかけがない以上、どうやってそれを成就させるかはわからない。しかし、一つだけ確実そうなことがある。
「仮にお前が、遅れを取り戻したとする。 でもその確認には、ココナツの存在が不可欠じゃないのか」
「…………ですね」
 外へ出ようとするツバサ。腕を差しだし、静かに制止する翼。
「もう一度聞く。 お前の戦う目的は何だ」
「戦うより前に、行く目的があります。 ココナツに、もう一度会うためです」
 翼の表情が緩み、腕を降ろす。
「行くぞ。 ココナツを取り戻すところまでは、手伝ってやる」


「まったく、きりがないっ!」
 多勢に無勢とは、このことを言うのか。個々の能力だけでいえば『ボリョーク』を上回っているのだろうが、相手は数十、数百体。減っている風にも思えない。
「これ、元を絶たないと終わらないよ」
 息の乱れを、軽く整える。疲れがないといえば、嘘になる。
「なら、方法を考え……っ!」
 見ると、足下から腕だけが飛び出し、足首を掴んでしまっている。
「キモいわ!」
 動きを封じられては困る。ルミナスの持つ日本刀が一閃し、腕らしき物が切り取られる。
「ありがとう……しかし油断ならないわ」
 数がほしいと漏らすフォルティス。ルミナスもその思いは共通していたが、誰かを期待できる状況にはなかった。

…………………………

「……奴で、間違いないな」
「間違いない」
「ココナツとやらは……いるか?」
「見えない」
 物陰に隠れる、二人の”つばさ”。その場にいる存在だけに聞こえる程度の小声で、状況を確認する。
「おそらく、闘いの中で不意に奪われないよう、どこかの世界に閉じこめたのだと思う」
 まずは、ココナツとツバサを引き寄せなければならない。ジーフがココナツの所在を思わず確認したくなるような策、それが現状に適用できることを確認する。
「……僕たち二人が、出ればいいんですね」
 一人後ろに引く翼。準備は整った。

 見知った人影、そして小柄な人影が、ビルの影から飛び出す。

「おまえ、騙されているナツ」
「……!?」
「ボクはここにいるナツ」

 ジーフの視線の先には、よく知った少年……ツバサ。そして……自身が捕らえているはずのココナツの姿。確かこの姿になることもできたなと、記憶をたどる。
「バカな! ココナツは確かに……」
 隔離されていた空間から、檻を取り出した……瞬間。
「…………っ!」
 蒼い光が一直線に飛び出し、ジーフの顔をかすめる。
「ココナツ!」
「ツバサさん!」
 再会。二人の顔に、わずかばかりの微笑みが戻った。
「鳩谷さん、成功しました!」
 ツバサの持つ『エクセリュート』。その元の所有者は、ココナツ。二つを引き合わせる力を用いることで、絶望的な状況を打開していた。

 博打には勝った。それを確認し、翼は小夏をかばうように前へと出る。
「もうっ、いくらそう呼ばれているからといっても、この格好と演技は恥ずかしかったです」
「後で何かおごってやる。 ここからは俺たちに任せろ」
 ココナツとそっくりのコスプレ……喫茶店のユニフォームとリボンの組み合わせ……をしていた小夏。彼女にさがるよう言い、翼はジーフの方を向く。が、次の瞬間。
「!!」
 隣にいたツバサが、ジーフに首を捕まれ、持ち上げられる。息を詰まらせる。
「哀れな虫けら……貴様に何ができる」
 ココナツを人質に取るよりも、効果的だ。自身の描いたシナリオ通りに事が進む現状に、ジーフは心中で笑みを浮かべていた。
「何でもできる」
 笑みを遮ったのは、ココナツ。ツバサの懐に入ったまま、続ける。
「ツバサさんのこと、信じてるから」

 ココナツがツバサを選んだのは、強さが理由ではなかった。圧倒的な力の差があっても、何とかアズサを助けようとした、その行動に打たれてであった。
 そして今は……『ヴィスティア』になれないことを分かっていてもなお、自分を取り戻すためにこの場に来てくれた。行動は、まっすぐなままであった。

「僕は……こんなところで」
「…………!?」
 青い輝き、それがツバサを包む。自身の力と相対するそれに、ジーフが拒絶反応を示す。振り払うように離れ、間合いを取る。
「こんなところで……立ち止まってなんかいられない! 僕には、やるべきことがあるから!」
 与えてもらったこと、いやそれ以上を返したい。ひとところに止まったままの時間が、再び動き出した。

 ツバサの所持していた『エクセリュート』に。羽根の幻影が浮かぶ。それは……アズサやルミと同じ。
 それと時を同じくし、翼の所有するポシェットから、三枚のカードが飛び出す。
「どうやらこれが正解のようだな」
 カードを拾い集め、再びポシェットへ戻す。異世界の物と思われるそれを目にし、ジーフが問う。
「貴様……この世界の存在ではないな」
「ああ。 確かにこの世界は、俺の世界ではない」
「ならば、なぜこの世界に干渉しようとする……?」
 巡る世界、その全てで聞かれたこと。翼はディレイドのカードを取り出し、笑みを浮かべる。その腰にはすでに、ベルトが装着されていた。
「確かにそいつは弱い。 貴様等だけでなく、俺まで哀れんでしまうぐらいな」
 的確な表現であるが、横にいたツバサが顔を背けることはなかった。
「だが、その意志は強い。 弱いのに誰も離れていかないのは、それが理由だ」
 力で支配しようとする貴様等には、分かるはずがあるまい。それだけ言うと、翼はツバサの方を向き、ふっと微笑んだ。
「理屈を抜きに、惹かれあう力。 世間ではそれを、『心』と言うらしいぜ」
 してやったりという、翼の表情。このタイミングしかないと、ココナツはツバサを促す。
「ツバサ! 急いで変身するナツ!」
 『エクセリュート』を顔の前にかざす。天へ向け、腕を一回転させる。両の掌を胸の前に引きつけ、前へと出す。

「『ヴィスティア・エクセリューション』っ!」

 変化した『エクセリュート』が、これまでと違う力を与える。
「ん……ん…………あ、はっ」
 二回りほど小さくなる身体。くすぐったい変化に合わせ、可愛らしい声が漏れる。
 ふわりと伸びる髪。かき上げたそれが青に染まり、後ろで纏められる。
 完全に変わった身体を包むワンピース。これまでとは異なり、純白に青のアクセントが入った、より華のあるものへと変わる。右手で払った裾、そこに『エクセリュート』が収納される。
「……んっ!」
 一連の流れで横に開いた右腕、その手のひらにロッドが現れる。頭上でそれを回し、構える。

「未来を導く希望の雫、ティアウィッシュ!」

 

 まさか、このような変化が起きるとは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるジーフに対し、”役目”を終えた翼が一つ歩を進める。
「…………貴様、只者ではないな。 名を名乗れ」

「通りすがりの仮面ライターだ。 覚えとけ」

 手にしたカードを前に突き出し、ベルトのバックルへ挿入する。

「『変身』っ!」

「──DIDIDIDELAYEDoooou!!」

 虚像が重なり、翼の姿が変わる。
 肩が膨らんだアイボリーのブラウス。黒のスカートとニーソックス、ブーツ。ショートヘアの髪と背中に、緑のリボンが現れる。

(…………鳴神め)
 『預言者』を名乗る彼の情報に従い、ウィッシュとディレイド、二人をこの場に連れてくることはできた。しかしそれは、ウィッシュの自信を取り戻させることにつながってしまった。
 奴に、はめられたか。心中で舌打ちする。
(こうなれば……妨害してやる)
「…………来い、『ボリョーク』」
 さらに数を増す異形。事務用品……クリップやボールペンに始まり、果ては机やロッカー、コピー機に至るまで、あらゆる物を変えていく。
「『ヴィスティア』のみを始末しろ!」
「俺は無視か!?」
 対象から外されたディレイド。思わず問い返してしまうが……その間にウィッシュは彼女の元を離れていた。ディレイドたちには目もくれず、『ボリョーク』はそれを追う。
(よく訓練されているな……だが)

「もうっ、待ってたんだからねっ」
「ごめん……遅くなった」
 やっと、三人で並び立てる状態へと”戻った”。腰に手を当てるルミナスに、少しばつが悪そうな顔をするウィッシュ。
「話は後で聞くわ。 まず、こいつらを片づける」
 『ボリョーク』の数は増えた。しかし、こちらも二人から三人、”本来の”姿へと戻っている。
「久々に、”あれ”いこうか」
「うん」
「ウィッシュの復活祝いね」
 ”あれ”と言うだけで、意図は伝わる。それだけの相互理解が、三人の間にはあった。 正三角形の頂点に、それぞれが立つ。
「「「ボリョォォォオクゥゥゥゥゥ!」」」
 唸り声を上げながら襲いかかる、数知れない『ボリョーク』。ぎりぎりまで引きつける。 

「「「『ヴィスティア・フラワーパニック』っ!」」」

 頭上にかざした両手を、地に付ける。花が開くかのように虹色の光が広がり、巻き込んだ『ボリョーク』を元の姿へと戻していった。

(……まずい)
 フォルティスとルミナス、二人を相手するのであれば、『ボリョーク』を撃破されても次を発生させることで、均衡を取ることができた。だが、ウィッシュ……しかも二人と同様に力を増している……が加わった今となっては、供給が追いつかない。
「…………!」
 斬撃の気配を感じ取る。間合いを離し見ると、そこにはディレイドが立っていた。
「ぬしのターゲットは、鳴神ではないのか」
 私と闘うことは、鳴神に対して自らを不利にする道。対象から外したのは、ぬしの力を温存してやるため。揺さぶりをかけるジーフに、ディレイドは表情を崩すことなく返す。
「俺がウィッシュを戦闘不能に追いやったことで、貴様はココナツを容易に連れ去ることができた。 ……それは俺が、貴様の行動をアシストしたことになる」
 その行動を感謝して良いか否か、今のジーフには判断が付かなかった。無言のまま、見つめる。
「それを知った時、俺にはもう一つやるべきことができた」
 剣先をジーフに突きつけ、宣言する。それは……ウィッシュに対する一つの”心”を抱いていた故。
「あの時のウィッシュと同じように、貴様も戦闘不能に追い込んでやる」
「できると思うか?」
 相手が交戦を望んでいる以上、対応せざるを得ない。襲い来る『ボリョーク』。相対するディレイドは、一瞬の迷いもなく動いた。

「──AnotherStyle,SESESESAILAaaaaah!!」

 光と共に、ディレイドが姿を変える。間髪入れず……

「キャストオフ!」

 吹き飛ばされる、魔力の鎧。破片が『ボリョーク』に命中し、次々と地に伏させていく。

 

 『ボリョーク』の攻撃が、倒したからという理由以上に手薄となった。訝しむウィッシュは、ふと自分の離れた場所を見る。
「……!」
 視線の先では、ディレイドが『ボリョーク』に取り囲まれていた。この場の相手をそこそこに、ウィッシュは彼女の元へと向かおうとする。
「ちょっと、ディレイドのところに行ってくる!」
 振り向くウィッシュ。その背中に、ルミナスから一つ質問が飛んでくる。
「あいつ……『世界の破壊者』だけど、いいの?」
「破壊者でも何でも、関係ないし。 それに……」
「それに?」
「あたしは、あたしを大切に思ってくれる人を、守りたい」
 飛ぶようにしてディレイドの所へと向かうウィッシュ。彼女の背中に、水色の羽根が幻影として見えた。

「はっ!」
 クロスファイアを放ち、何匹かまとめて始末する。しかし、一向に数が減った気がしない。姿形もそれぞれ、攻撃方法もそれぞれの異形に、ディレイドは手をこまねく。
 現在のフォーム……セーラは徒手空拳を主とするため、大した遠距離攻撃の手段を持ち合わせていない。 いや、なくはないのだが、こうして複数の敵を一度に相手するのには不向きである。
「……きゃあぁぁぁっ!」
「ココナツ!」
 交戦の隙を突き、小夏めがけて『ボリョーク』が襲いかかってくる。その時。

「『ヴィスティア・ぜんぶパンチ』っ!」

 スピードの乗った体当たり。小夏を襲おうとした『ボリョーク』がなぎ倒される。
「今のどこが”パンチ”だ!」
 ジーフの突っ込みを無視し、少女……ウィッシュは小夏に安否を問う。その背後から、さらに襲いかかってくる『ボリョーク』。

 …………ズンッ!

 槍が腹部を貫き、力なく倒れる。その先には、マーメイドフォームへと転じたディレイドの姿が。
「借りは返したぜ」
 とはいえ、相性がよくないのは事実。ウィッシュの到着は、ディレイドにとって好都合だった。
「小夏さんはわたしたちで守る。 二人はジーフに集中して」
 他の『ボリョーク』を倒し駆けつけてきた、フォルティスとルミナス。お願い、とウィッシュは返し、ディレイドに同意を求める。
 ジーフに向かい、走り出す二人。その行く手を、新たに生み出された『ボリョーク』が防ぐ。
「飛べる?」
 言葉で返す代わりに、ディレイドは右腕のガントレットを叩く。レオタード姿のフェアリーフォームへと、姿を変える。
 襲いかかる『ボリョーク』の眼前で、二人の姿が消える。
「上だ!」
 ジーフの指示で、一斉に上を向く。飛び上がってくる者もいたが……それに対する回答は。

「『ヴィスティア・サンダーバード』!」

 雷のごとく地へと舞い降り、一所に集まっていた『ボリョーク』を跡形もなく消し去る。後に残されたのは、散乱した事務用品。
「……こんなに散らかしていいのか」
「ほっとけばいい」
 ここは現実と異なる世界。あたしたちが勝てば元に戻る。端的な説明も、現場を何度か見たディレイドには十分であった。
「復活される前に、元を叩くぞ」
 急降下する二人。勢いが乗ったところで、ディレイドは再び姿を変える。目の前に『ボリョーク』が現れるが、そのまま突っ込む。

「『ヴァルキリィィ・キィィィック』!」
「『ヴィスティア・シューティングスター』っ!」

 勢いをそのまま生かした、ダブルキック。かばうように立ちふさがった巨大な『ボリョーク』を、ジーフの元へと蹴り飛ばした。

「…………!?」
 小夏を守っていた、フォルティスとルミナス。『ボリョーク』が復活しないことに、”様子”の変化を感じ取る。
「気をつけて! 強いのがくるわ!」
「強いのがくる、だと」
「ひっこめた。 ジーフの攻撃が、激しくなると思う」
 手慣れていたウィッシュ。これから起きるであろうことを、手短に説明した。

「二対一か……卑怯な」
「貴様に言われたくない。 合理的、とでも言い直してもらおうか」
 同程度の実力なら、数が多い方が有利。貴様がやっていたことをやり返している、それだけだ。断言するディレイド。
「……はたして”同程度”かな」
 真後ろへ下がるジーフ。その姿が消え……一瞬の後。
「ぐはっ!」
「うっ!」
 背後から一撃を食らい、たたらを踏む二人。
(……見えなかった)
 『ボリョーク』を生み出すために使っていた力を、自身に使う。ジーフの実力は、想像を超えていた。

「その程度では効かん!」
 建物を有効に使いつつ、目で追えない速度で飛び回るジーフ。スピードに長ける二人も、手をこまねいていた。
「ちっ!」
 間合いを離し、ディレイドはカードを取り出す。

「──AnotherStyle,HOHOHOWHITEoooou!!」

 姿を変えるディレイド。手の中に光弾を作り出し、ジーフに向けて投げつける。

「『ライトニングスマッシュ』!」

 牽制の腹積もり。当たらなくても動きを止められればよい。だが、ジーフは予想外の行動に出た。
 はじき返される光弾。色が白から黒へと染まる。慌てて避ける二人。
 足止めは効かない。ディレイドはそう判断し、左腕の籠手から棒状の物体を引き抜いた。

「『ブーストアクセラレート』!」

 ミラージュホワイトの切り札。自身の速度を上げ、一方的な攻撃を可能とする技。速さに対抗するには、これしかないと判断した。
「……!」
 まさか、このスピードについてこられるとは。焦るジーフの横を、ディレイドの手にした剣がかすめる。
「来てみろ! こいつに手を出せるのならな!」
「ちっ!」
 動かない……いや、二人があまりにも速すぎるので止まって見える……ウィッシュを盾にしながら、ジーフが逃げる。かわすようにして追うディレイドだったが……時は無情だった。
「……くそ」
 制限時間オーバー。速さと共に上昇した力を持って、何発かは確実にヒットさせたが、止めを刺すには至らなかった。
「時間切れのようだな!」
 もう一度、同じ攻撃がくる。頭では分かっていても、身体が反応しきれない。
「くそ……どう対応すれば」
 策を考えていたディレイド。そのポシェットから、再びカードが飛び出す。
(ここで使え、ということか)

「──AnotherForm,WIWIWIWISHhhhhhh!!」

 ”読み”で一撃をかわした瞬間、ウィッシュの背面に立つ。
「ちょっとくすぐったいぞ」
「ひゃあああああああっ!?」
 背筋を触られると同時に、変化が始まる。
 四肢を突っ張るような状態になる。脚があり得ない方向へと曲がり、輪を形作る。
 腕も意思に反して曲がる。純白の服がとろけるように伸び、左右へと広がっていく。

 背負ったのは、天使の羽根……ウィッシュ・ウィングフォーム。

「……見え透いた作戦だ」
「どうかな」
 紋章のカードを、バックルへ差し込む。

「──FinalAttack,WIWIWIWISHhhhhh!!」

 背中の翼を広げ、構えるディレイド。動くのを待つジーフ。静寂が流れる。その重苦しい雰囲気を吹き飛ばしたのは……第三者、ルミナス。

「ぴかぴかぴかりん、じゃん拳ぽんっ!」

 広げた掌……どうやら”パー”のつもりらしい……から放たれる、金色の光弾。それはまっすぐに、ジーフの元へと向かう。
 何らかの形で動かなければ、直撃を食らう。だが、ディレイドの動きも無視できない。何より、その速さは未知数。
(恨むなら……放った奴を恨め)
 脚を広げるジーフ。それを見て、ディレイドが動き出す。
「うぉぉぉっっ!」
 二本の腕を組んだ、ハンマーパンチ。フルスイングした腕はルミナスの光弾を弾き……狙い通りの場所へと返す。
(く!)
 制御しきれないスピード。急停止して次の行動へ移る前に、ヒットしてしまう。やむを得ずガードを固めようとしたディレイドだが……
(……突っ切って!)
 そう、響いたような気がした。
(信じるぜ)
 ディレイドは”信頼感”を抱きながら、迷わず金色の中へと突っ込んでいった。
(食らえ、この拳……)

「…………!」
 スピードとパワーを兼ね備えた一撃が、ジーフの腹部に入る。ヒットした部分のプロテクターを砕き、その身体を背後のビルへと打ち付ける。ビルに無数のひびが入り、頭上へと崩れ落ちる。
 『ヴィスティア』同士の攻撃は”禁忌”であるゆえ、無効化される。ウィッシュの力を借りていたディレイドにおいてもそれは適用され、ルミナスの光弾をノーダメージで貫通していた。
「仕止めたか?」
 構えを解かず、見据える。瓦礫の生み出す粉塵、それが晴れた中には……男の姿が。
「……く」
 再び立ち上がり、構えようとするジーフ。しかし、片膝を付いた状態から立ち上がることはできなかった。
 これまでの世界とは違い、爆発も消滅もしない。その様子にディレイドは戸惑ったが……勝敗はすでに決していた。
「しぶとい奴だが……これで終わる」
 銃口をジーフへ向ける。だが、そこから放たれた光の銃弾が到達するよりも早く、ジーフは黒い霧に包まれ、溶けるように消えていった。
「…………追わなくていいのか?」
 至極当然とも言える、ディレイドの問い。背中合わせに立っていたウィッシュは、掌を銃口の前に差し出し、答える。
「この世界じゃ、”できるだけ殺さないのが流儀”なの」
 やはり、この世界は今までとは違う。ディレイドは改めて、その”違い”を感じ取っていた。
「最後のは 『ディレイドこぶしパンチ』ね」
「……いや、命名はいい」

 

 

 そして…………
「ディレイドおおおっ! 貴様のせいで、貴様のせいでこの世界の放送時間が三十分変更されっ、男の子向けの内容と女の子向けの内容が分離できなくなってしまったぁぁぁぁぁっ!」
 誰もいなくなった世界で、鳴神は絶叫していた。
 放送時間って何だ、という突っ込みが、どこからか聞こえてきた。

 


「ほほう、自分が自分である理由を心に持ったとき、力は本来の姿となる。 いい話じゃないですか」
「勝手に読むな!」
 元の世界へと戻った、灯写真館。珈琲の香る店内でドラフトを読んだ映二郎の呟きに、翼は不機嫌な顔をする。
「明らかに違う世界でしたが……参考になりましたよね、つばささん」
「さんづけで呼ぶな」
 いつものことであるが、小夏は翼が元に戻ったことに、残念そうな表情をしていた。今回は年齢が高めだったので、妹扱いできなかったのも残念であったが。
 そんな小夏を後目に、翼は原稿を書き終える。いつものように、それを保存していく。
「…………くそっ!」
 Ctrl+Sキーを押したその瞬間、記していた文字は意味不明のそれへと変換された。
「やはりこの世界も、俺に書かれたがっていないという事か!」
 吐き捨てるように叫ぶ翼であったが、さすがにパソコンを投げるのは駄目だろうと思い直す。
「書くべき世界、書いて欲しい世界は、きっとどこかにありますよ」
 未だ、見つからない。だが、それはどこかにあると、小夏は信じていた。

 前向きに生きることが、今の翼を支えていた。そう、それはもう一人の”つばさ”と同じ。

「…………そう信じたいな」
 微笑む小夏につられるかのように、翼の口元がゆるむ。場の雰囲気が変わりつつあるその場に、新たなスクリーンが降りてきた。

(To be continued ... ?)


 ほたるです。『ディレイド』ヴィスティア編、いかがでしたでしょうか。

 要するに、本当にディレイ(遅れ)した世界でした。本家『ディケイド』には「30分前の世界」があったので、逆にしたらどうなるというのが元々の発想です。
 また、主人公が最弱というのは『ヴィスティア』初期にもあった構図ですが、それが行き着いたら……という考えもまとめ、私なりに『ディレイド』の世界は描けたのではないかと思っております。

 本作への参加を快諾していただいた城弾さん、作中でキャラクターをお借りしたライターマンさん、およびtoshi9さんに感謝の意を表して、筆を置かせていただきます。
 お読みいただき、ありがとうございました。


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