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 この物語はフィクションです。
 登場する人物、場所、組織、商品などは、実在のそれとは無関係です。


 

これまでの、「仮面ライターディレイド」は──

 

「世界は俺に書かれたがっていない……」

「……貴方はTSバトルヒロインの世界を旅しないといけない」

「あたしたちのこの世界は、『虎の爪』に支配されてしまったんだです」

「自分の正義を信じて、もう一度あいつらと戦ったらどうなんだ」

「こんな『虎の爪』に支配された世界なんか、破壊されてもかまわないっ!!」

「お前たち、どこに行くのかニャ?」
「さあな……だが忘れるな、お前たちだけじゃない。いろんな世界で、様々なTSバトルヒロインが、自分たちの世界を守る為に戦っているんだってことを」

 

 灯(あかり)写真館、その一室。居候している青年……翼は、布団に寝たままゆっくりと目を開いた。
「朝か……」
 カーテンの透き間から射し込む朝日。まぶしさに顔を背けながら、翼は昨日のことを思い出していた。

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 スクリーンに描かれていたのは、指輪と細身の剣、そして髪飾りとハリセンが紋章のように組み合わされた絵。翼はふっと息を付き、立ち上がる。
「あの世界、元通りにはならなかったですね」
 後ろにいた少女に、声をかけられる。少し考え、ぽつりと口にする。
「元、か」

 旅をしたその世界……『スウィートハニィ』の世界は、過去に対して改変が行われた結果、少し……いやかなり違うものとなっていた。

「……だが、元通りにしないという選択肢を選んだのは、奴らだ。 ”元通りにするのが最善”だなどと、誰が言い切れる?」
「…………そうですね。 あんな世界、まっぴらです」
 少女……小夏は頷いた。おそらくは彼女たちも、同じ事を考えていたのだと思う。

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「元が最善ではない、か……」
 ”元の自分”に対する記憶が曖昧な翼。はたして、それを取り戻すことが最善なのだろうか。
 答えはない。いや、むしろ探さなければならない。翼はそう思い、布団から上半身を起こした。
「…………ち」
 時計は普段の起床時刻から、30分遅い時刻を指している。やや慌てて身支度をすませ、翼は撮影室へと降りていった。

 撮影室の扉を開けるとともに、待ちわびたかのような声がかかる。
「翼くん、30分遅刻です」
「分かっている」
「分かっているなら反省してほしいです」
 遅刻を理由に、居候先の娘……小夏に軽く説教されていたところ、からからという音が二人の背後から聞こえてきた。
「さて、次の世界は」
 椅子に腰掛けていた紳士……映二郎は、スクロールの絵を見ながら珈琲を口に含む。
「……これまでとは、”違う”世界のようですね」
「……言われなくても分かる」

…………………………

 朝陽に照らされた、ビルの屋上。地上を見下ろすその縁に立つは、コート姿にフェルト帽の男。
「この世界では、これまでの常識は通用せん。 一筋縄ではいかんぞ……ディレイド」
 腰に下げられたポシェット……彼の姿には少々似つかわしくない……に一瞬手をやり、足を開く。右腕を折り畳みつつ、その拳を顔の左へ、左手を腰へ付ける。
「身体が勝手に…………なるほど、こういう世界か」

…………………………

「何やら騒がしいな……」
 前回とは質の違う騒がしさに、翼は窓の外を眺める。老若男女不特定多数の集まるそこは……アーケード街。
「商店街ですね。 ということはお客様も」
 映二郎がそう告げるのを待っていたかのように、表口のドアが開く。
「いらっしゃいませ。 本日はどのようなご用件で」
 写真館である以上、来館者には応対する必要がある。翼は片手間に依頼を片づけながら、この世界が何の世界であるかについて、乏しい記憶の中から掘り起こしていった。

 虹。装飾の施されたハート。飛び交う妖精。そして、原色で彩られた三つのアイテム。

「……『ヴィスティア』の世界、か」

 

 

世界の遅刻者、ディレイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る?


仮面ライターディレイド

作:ほたる (原案:城弾さん)


第10話「ふたり」

 灯写真館の撮影助手、鳩谷 翼にはひとつの悩みがある。何を書いても、それが活字にならないのだ。
 文章が書けないのではない。自分の書いたものを”原稿”という形にすることができないのである。
 手書きメモの時はともかく、いざそれを清書しようとしてパソコンに打ち込むと、決まって文字化けを起こす。機種やOSを問わず、そして代わりに誰が打ち込もうと、必ずだ。
 彼曰く、「この世界は俺に書かれたがっていない」。
 翼には過去の記憶がない。そして新たに記録を残すことも、この不可解な現象のせいで、できないでいる……

 翼たちがかつていた世界は、突如現れた異形の存在であふれ返り、滅びようとしていた。
 小夏を助けようとした翼は謎の人物の言葉に導かれ、TS少女戦士ディレイドに変身。崩壊寸前の世界は凍結され、翼は「TSバトルヒロインの世界を巡り、世界を救うのがあなたの使命だ」と告げられる。

 以来、『ミラージュガール』『セーラ』『ロボTRY』『スウィートハニィ』の世界を巡り、現在に至る。そして、今回の世界は……


 写真館の裏口から外へと出ようとして、翼はふと考える。
「……もう女になるのはごめんだ」
 過去に何度も、同じ目に遭っている。さすがに学習もする。
 とはいえ、外へ出ないわけにはいかない。翼は一歩足を踏み出し……すぐに横へと避ける。
「何度も同じ手を食らうか」
 先ほどまで自分の立っていた場所に落ちた、謎の光。それを一瞥し、歩きだそうとした瞬間。
 自身の上に降り注ぐ、別の光。結局、避けられるものではなかった。

「ちょっと雰囲気違いますね」
「…………………………」
 きっちり女性化してしまった自分が腹立たしい。翼……女性姿は『つばさ』と表記する……はしばし不機嫌になった。
「高校生というよりは、少し年上……大学生ぐらいでしょうか」
 言われてみれば、確かにそうだ。その時、つばさのケータイ……ご丁寧にショッキングピンクに変化していた……に、コールが入る。見ると、”合気術道場”と表示されていた。
(知り合い、というわけか)
 待たせるのは無礼だ。とりあえず電話を取る。
「もしもし」
【真誠(しんせい)流合気術道場の今村と申します】
 声を聞く限り、かなり幼い少女。しかしその丁寧な言葉は、つばさにとりあえずかしこまった対応をとらせた。
「……おはようございます」
【30分前になりましたので、ご連絡いたします。 最初ですので、遅れないように願います】
「…………わかりました」
【あと、自己紹介で何を話すか、考えておいてください。 よろしくお願いいたします】

「誰からでした?」
「合気術の道場」
「合気術?」
「どうやら今回の俺は、そこの門下生らしいな」
 肩をすくめる。毎回毎回役回りが変わるので、慣れたくもないが慣れてしまっているのも事実だが。
「だとすれば、鞄の中身も……」
 手にしていたスポーツバッグ。ファスナーを開け、中を覗く。真新しい白の道着が、そこには入っていた。
「どうします?」
「行くしかないだろう」
 目指すべき場所は、知識の中にある。頻繁に入るメールにいらつきながら、歩いていく。
(なんだ、この少女趣味丸出しのカスタマイズは)
 ケータイの画面に、いちいちいらついていたところ……空が急に曇りだした。
「雨でも降るんでしょうかね」
 一応、傘は入れてきた。だが、雨とはまた別の気配を、つばさは感じ取っていた。
「いや…………これは違う。 ココナツ、俺から離れるな」
「あたしはココナツじゃありませ…………きゃっ!」
 突如飛び出してきた、黒い影。小夏のバッグをかすめ、前へ出る。
「ひったくりか? 俺がいるというのに無謀な奴だ」
 だが、つばさの視線の先にいたのは……人ではなかった。
 巨大な異形の存在。だが、数々のパーツから、元はそれがバイクであったことが伺えた。

「…………ボリョォォォォクゥゥゥゥ…………」

 うなり声をあげ、二人に飛びかかってくる。つばさは小夏をかばいながら、それを避けていく。
「ここもか……」
 ベルトを装着し、ポシェットからカードを取り出す。前に突きだしたそれをバックルへ装着しようとした時……緑の風がつばさの横を通り抜けた。異形に重い蹴りを見舞い、身を翻して着地する。
「とっととおうちに、帰りなさい」
 風の正体は、茶色の髪をした一人の少女。緑のアンダーシャツとミニスカート、白いタンクトップ状の上着、羽のような形のショートブーツ。臍が出ているのがポイントであった。
(何者だ、こいつ)
 一瞬躊躇ったつばさ。その横に、もう一人の少女が現れる。
「うん、迷い込んじゃったみたいだね。 元の世界にすぐ戻してあげるから、そこでじっとしていて」
 金髪のツインテールに、巫女さんを思わせるような配色の服。動きやすさを重視してか袴の裾は短くされ、緑の少女と配色の違うショートブーツが足元を飾る。
「ん…………ココナツ、こんなところで何やってるの? ”つばさ”はどこ行ったの?」
「俺のことか?」
 予想もしない返事が返ってきた。金髪の少女は、首を傾げる。
「ルミナス、この子はココナツと違うモン」
 少女の腰に下げられていたポシェットから、声が聞こえる。改めて確認すると……自分の知識にある”ココナツ”とは、似てはいたものの明らかに違っていた。
「……ごめん、人違いだったみたい」
「前見ろっ!」
 つばさに促され、金髪の少女……ルミナスは視線を逸らす。先ほどの怪物が、ルミナスの前に迫っていた。
「ルミナス! そっちいった!」
「……まったく、『ボリョーク』のくせになまいきよっ!」
 胸のリボン、その上に留められていたハート型のブローチに、指を当てる。次の瞬間、ルミナスを中心として球状の爆発が起きる。
「きゃっ!」
 思わず目を伏せてしまう小夏。しかしその爆発は、三人に迫っていた『ボリョーク』と呼ばれる異形のみを吹き飛ばし、近くのビルへとその身体を打ち付けていた。
 その状況を確認した上で、もう一人の少女に声をかける。
「フォルティス、さっさとやっちゃ…………って、気が早い」
「これで……終わりよ!」
 すでに構えに入っていた少女……フォルティス。ターゲットへ向かい、ダッシュする。両の掌を、腰溜めに重ねる。

「『ヴィスティア・スプラッシュスター』!」

 自身の後方に放たれた光波を推進力に変え、敵を貫く。粉々にされた『ボリョーク』は光となり、しばらく後に元の形……どこにでもあるようなスクーターへと戻った。
「ふうっ」
「おつかれ」
 後はこの世界を、元に戻せば終わり。近くに転がっていた黒い石を粉々にすると、世界は元の光を取り戻した。

 

「…………ち」
 上空からその様子を眺めていたのは、一人の異形。蜂を模した顔、その口元が、苦々しく歪んだ。

…………………………

「やつらは……いったい」
「深く考えるのはやめましょう」
 壊されたビルを含め、世界が元に戻ったとき、二人の少女はつばさたちの前から消えていた。正体を気にするつばさを、小夏は現実に引き戻す。
「それに……今ので五分ぐらい使っちゃいましたよ」
「まずいな」
 初日から遅刻というのは、ほめられたものではない。わずかに早足になりながら、道場へと向かった。

 ……俺(私)は誰と勘違いされたのかと、二人がそれぞれ考えながら。


「……また失敗したようだな」
「申し訳ございません!」
 オフィスビルの最上階。背を向けたままの存在に向け、スーツ姿の男はただただ平身低頭の姿勢をとり続けていた。
「黙れ。 言い訳は聞き飽きた」
 忸怩たる思いを抱く男。コート姿の男が、その横に歩を進めてくる。
「『預言者』とやら……やつが『ディレイド』なのだな」
「『ヴィスティア』が保護した女の一人……紛れもなく『ディレイド』、この世界の破壊者です」
「ここまでは告げた通りだな、『預言者』よ」
 『ヴィスティア』と『ディレイド』、二つの”世界を乱す存在”が行動を共にするのであれば、狙うのはたやすい。
 社長椅子から立ち上がったのは、一人の男。一見優男に見えるが、その冷たい眼光からは誰をも寄せ付けぬ威圧感が漂っていた。
「今回は私が自ら動く。 貴様は……」
「はい、ジーフ様のためなら何でも」
「…………1週間の謹慎、及び30%減給の処分だ」
 スーツ姿の男、その表情がゆがむ。一般社会におけるサラリーマンと同様に、その処分には厳しさを感じていた。


 『真誠流合気術 極限道場』という表札が掲げられた門をくぐり、入る。その奥……道場と思わしき建物の中から、つばさは異様な空気を感じ取った。
 とはいえ、遅刻は避けたい。そっと扉を開ける。
(……新人さん?)
(ああ)
(静かにしてて)
 小声での会話。普通でない事態が起きている。つばさは稽古場の方へ、視線をやった。

「その筋肉、実戦で作ったものじゃないでしょ? 筋トレ好き?」
「余計なお世話だ!」
 筋骨隆々の大男と対峙しているのは、道着姿の小柄な少女。多くの視線が、その場に注がれていた。
 男の拳がうなりを上げ、少女へ襲いかかる。少女がそれを紙一重でかわすと、拳が道場の壁へとめり込んだ。
「修繕代、数千円コースね」
 完全に小馬鹿にしている少女。男はさらに逆上の度合いを強める。
(……やつが弱いわけじゃない。 あいつが強いだけだ)
 一連の動きを見ながら、つばさは戦況を分析していた。これまで幾多の闘いを経験した彼女には、それを見極めるだけの裏付けがあった。
 静かに向かい合う二人。互いの隙を見極める。一瞬先に動いた男に向かい、少女が軽い笑みを返した……次の瞬間。

 ぱぁん、と乾いた音が響き、男は地に仰向けに転がされた。
「……道場破り破り、かな」

「凄いですね、あの人……」
 柔よく剛を制す。それを地で行くかのような少女の行動に、小夏は感心を超えた感動を覚えた。
「…………………………」
 一方のつばさは、少女から”既視感”のようなものを感じ取っていた。

…………………………

 先ほどの男は、道場破りだったらしい。少女が一人であっさりと撃退した、その五分後。
「今日からこの道場へ入門しました、鳩谷つばささんです。 ……自己紹介を」
 顎髭を蓄えた中年男性……おそらくはこの道場の師範……に振られ、つばさは短く自己紹介をした。
「鳩谷つばさ、という。 よろしく」
 『クールビューティ』だとか『オレっ娘』だとかいう外野の雑音は、シャットアウトする。道場の片隅に正座し、説明を受ける。
「お父さんは別件があるので、とりあえずわたしが説明します」
 つばさの前に現れたのは、先ほど道場破りを撃退した少女。既視感の正体を知るにはちょうどよい、そう思った。
「先ほど、かなり興味深げに見られていた気がしますが……もしかして、他の武術とかの経験があります?」
 見られていたようだ。とはいえ、数多の世界でヒロインとして闘ってきたのだから、経験のないはずがない。とりあえずあると答える。
「なら、のみこみは早いでしょう。 ただ一つ押さえておいて欲しいのは……”真誠流”は相手を傷つけることが目的ではないということです」
 先ほどの一件もそうである。傷つけるよりも実力の差を見せつけることを、優先しているように思えた。
 一方のつばさは、誤解を恐れず言えば”傷つけてばかり”である。まあ、話を聞かない相手ばかりであったし、こちらがやらなくても向こうはやる気満々だったのだから、やむを得ないといえばそうなのだが。
「なるほど、だいたいわかった」
「武術の経験があるということですので、まずはそのスタイルでやってみてください。 それから考えましょう」
「やるって、何をだ」
「あたしが相手します」
 少女に手をあげる……自分も女性なのは置いておいて……のは、つばさの趣味ではない。それでも提案があった以上、対応はしなければならない。相当な実力者だろうが、相手できなくはない。
「名前、聞かせてもらってもいいか?」
「『今村ルミ』」

「……せいっ!」
 繰り出した拳がいなされ、体勢を崩す。多少遊んでやるかという気で取り組んでいたつばさは、その考えを改める。
(演技ではないな、あの強さは)
 この場で『ディレイド』になる必要はないが、本気でかかった方が良さそうだ。つばさは軽く腕を回し、構えを取り直す。
「続き、始めようか」

 いつの間にか、周りの稽古が止まっていた。誰もがみな、つばさとルミの組み手(?)を、固唾をのんで見守っていた。そしてそれは、次の時間帯のために入場してきた男性の目も、引きつけていた。

「この辺で、いいでしょうか」
「…………こちらこそ」
「道場に入る理由が聞きたいところです」
 これだけ強ければ、わざわざこの合気術なんか習わなくてもいいだろう。つばさと手合わせしたルミの、率直な感想であった。
「今度な」
 一方のつばさにとっても、なぜ自分が道場の門下生に……ついでに言えば女の身体にも……なっているかなど、理由が分からない。どう言い訳するかを考えていたところ、後ろから不意に声をかけられた。
「…………鳩谷つばささん、ですよね」
「なんだ」
 一人の気弱そうな少年が、そこにはいた。
「人に質問するときは、まず名前を名乗るものだ」
「失礼しました。 僕は『野村ツバサ』といいます」
 同じ名前を持つふたり。出会ったのは何かの縁か。
「で、なんだ。 言いたいことがあるなら、さっさと言え」
 まずは、この世界のTSバトルヒロインに会うことが目的。それを果たすまでは、余計な用事はしたくない。つばさは目の前の少年を急かした。
「”鳩谷つばさは『ディレイド』でこの世界にあってはならない存在”とか、人の話を聞かない怪しすぎるメガネ男から聞いたんですけど」
 二重の意味で、つばさは驚きを持った。こいつがという思いと、鳴神に対してそこまで言うかという思いと。
「……またか」
「またか……って、なんなんですか」
「いや、こちらの台詞だ。 ……で、仮に俺がそうだとしたら、お前はどうする気だ?」
「まずは、確認させてください」
「なんだ」
 ツバサは少し考えてから、言葉を続けた。すでに周りからは、気配が消えていた。
「…………鳩谷先輩が『ディレイド』かどうか」
 そう言うとツバサは、ジャケットのポケットから何かを取り出した。
「……やる気ナツ?」
 ツバサの肩から覗いた少女が、不安げに聞く。つばさは彼女の姿を見て、小夏が何故あの場で”ココナツ”と呼ばれたかを察した。
「……これは、僕がやらなければならないこと」
「何をする気だ」
「鳴神とかの言う通りであれば、僕が殺されかねません」
 曰く、”悪魔”、”世界の破壊者”、”排除しないと取り返しのつかないことになる”と。それだけの存在に立ち向かうのなら、これは欠かせないとツバサは語った。
「…………そうは見えないんですけど、一応」
 掌に載った、ケータイほどの大きさのアイテム……『エクセリュート』を取り出し、構える。
「ツバサ、何考えてるの!?」
「今、話した通り。 一人でやらせてほしい」
 同じ世界にいたルミ。彼女の制止と思える言葉をも、ツバサは無視した。

「『ヴィスティア・エクセリューション』」

 青い光に包まれるツバサ。その姿が、身体ごと大きく変わる。
 深い青のワンピース、白いアンダー。爆発的に伸びた髪が青く染まり、ポニーテール状にくくられる。
 年齢不相応の幼い少女姿……それが『ウィッシュ』であり、ツバサのもう一つの姿である。

「あなたも『ディレイド』に変身してください。 そうしないと、”破壊者”かどうか確認しようがないので」
 気は進まないが、このままでは事が進まない。つばさはポシェットからカードを取り出そうとして……この場にそれがないことに気づいた。
「少し待て」
 更衣室からポシェットを出し、仕切り直す。

「──DIDIDIDELAYEDoooou!!」

 場に響く、機械音声。つばさの姿は、大きく変わっていた。
 アイボリーのブラウス、黒檀色のフレアミニスカート。ショートカットの髪を、黒いストライプの入った緑のリボンが飾る。
「なら確認してみろ。 後悔するだろうがな」
「遠慮なく、いかせてもらいます」
 二人のTS少女戦士……ディレイドとウィッシュ。ルミの見ている前で、決闘が始まった。

 手にしたポシェットを銃に変形させ、ディレイドは銃弾を放つ。辛うじてかわしたウィッシュに肉薄し、蹴り飛ばす。
「うっ!」
 もんどりうって倒れる。売られた喧嘩は買う主義であるディレイドは、全く攻撃をゆるめない。
 一方のウィッシュは、全くの防戦一方。強さを見誤ったという感情は湧いてきたが、それでも立ち向かうことはやめなかった。
「……まだまだ!」
「やめろ。 お前では俺には勝てない」
「どんなに実力の差があっても、諦めはしない」
 ディレイドが振り下ろした剣により、持っていたロッドが真っ二つにされる。目を見開くウィッシュ。
(……おかしい、こんなはずでは)
 あまりにも、手応えがない。ディレイドの中で、違和感が強まる。
(こんな強い奴……見たことがない)
 全くもって、手も足も出ない。ウィッシュの中で、恐怖が強まる。
「まだ、やる気か?」
「やめるのは、どちらかが倒れる時!」
 どうも、徹底的に力の差を見せつけなければ、この場は終わらないらしい。心中でため息を吐いたディレイドは、ポシェットからカードを取り出し、バックルへと刺す。

「──FinalAttack,DIDIDIDELAYEDoooou!!」

 出現したカードが作り出す回廊を突き抜け、キックを放つ。ウィッシュは真正面からそれを食らい、悲鳴と共に道場の壁を突き破り、固い地面に叩きつけられる。
「…………拍子抜けだ」
 ディレイドはそれだけ言うと、ウィッシュを一瞥してその場を去ろうとした。しかし。
「破壊者……その称号が似合いますね。 特に、その容赦のなさ」
 前に現れたのは、ルミ。その場を退くように告げたディレイドであったが、ルミは全く動かなかった。
「やるのかモン」
「これ以上、ウィッシュが傷つくのは見ていられないから」
「なるほど、お前が『ルミナス』だってことか」
 ツバサと似たアイテムを手にするルミ。色とデザインから、ディレイドはその正体を察した。
 道理で強いわけだ。そう軽口を叩きつつも、内心ではわずかばかりの不安を感じていた。

 果たしてルミナスは、ディレイドの想像を超える強さを持っていた。
(こいつ……!)
 油断はできない。ディレイドは再びカードを取り出し、バックルへと刺す。

「──FinalAttack,DIDIDIDELAYEDoooou!!」

 再び場に響く、機械音声。ルミナスはそれを見て、キックの射程外へと身を移す。前後方向への回避では当たってしまうので、横方向へと。
「お約束になんてのらない!」
「ちっ!」
 地面をえぐり着地したディレイド。見切られたと判断した彼女は、次の一手を打つ。
「せっかくだ。新たなカードを試してやる」

「──AnotherStyle,HOHOHOHONEeeeeeeey!!」

 赤のノースリーブシャツ、黒のタイツ、白いブーツ。細身の剣を右手で握り、髪が紅に染まる。
「仕切り直させてもらうぜ」
 フルーレを顔の前にかざす、ディレイド・ハニィフォーム。一瞬で間合いを詰め、繰り出す。

「桜・華・天・翔!」

 場数を踏んでいた事による”勘”で、間一髪それをかわしたルミナス。服の一部に裂け目ができているのが、目に見えてわかるダメージであった。
「本気…………なら、こっちも本気」
 右手を振るルミナス。そこに一振りの日本刀が現れた。
「西洋対東洋、といきますか」

…………………………

 一時的に道場を後にし、終了予定時刻を目安に戻ってきた小夏。道場横の道を歩く彼女。その目に留まったのは……
「……まさか……!」
 気を失っている、青いワンピースの少女。それは……小夏の見た悪夢に出てくる少女と同じ。そして、彼女が開けたであろう大穴の向こうに見えるのは……ディレイド。
 また、よからぬ事態が起きている。小夏は迷わず、穴から道場の中へと入っていった。穴の先からは、甲高い金属音が響き続けていた。

「く……くっ!」
 二人の少女、それぞれの刃が組み合う。力は全くの互角。
「やめてくださいっ!」
 飛び込んできた小夏。その声に呼応するかのように、鍔迫り合いがやむ。
「あなたのお友達ですよね? やめろと言われてるんだから、やめたらどうです?」
「…………そうだな」
 お前がTSヒロインでない以上、戦う理由はない。口には出さず、そう呟く。
「……ウィッシュの様子を見に行ってもいい?」
「好きにしろ」
 変身を解いたルミが、道場の外へと出ていく。その直後、壁に空いた大穴がふさがってしまう。つばさも変身を解き、小夏と共に正門から外へと出る。飛ばされたであろう場所、そこから寸分違わない場所で、ツバサはルミに抱き起こされていた。
「ココナツがさらわれたっていうの!?」
 ルミの言葉は、現況を一言で説明していた。二人に近づいたつばさ、その身体が男……翼へと戻る。
(この世界で出会うべきだったのは……こいつか。 ならば何故?)
 ミラージュホワイト、セーラ、沙織、ハニィ。過去に巡ってきた世界のTSヒロインは、質こそ違えど自分が認める強さを持っていた。それが彼……いや彼女、『ウィッシュ』はどうだ。
「いつよ!」
「この人が、ディレイドのところへ向かって、その間に……」
 小夏を指さし、かすかな声で答える。
「いったい誰がよ!」
「『ジーフ』…………取り戻し、に…………っ」
 全く気配を感じなかった。周囲への注意が散漫になったのか、それ以外の理由か。ルミがそれを考えている中、ツバサの意識はゆっくりと闇に堕ちていった。
「…………………………」
 課せられたのは世界を巡ることであり、このように痛めつけることではない。翼はさすがに不安になった。
 しかし……俺は何故この世界を巡らされているのか。その意味について思考を巡らせていると、目の前に謎の男が現れた。
「ふむ……面白い展開となってきたな」
「鳴神……」
「ディレイド……貴様のせいだ。 貴様がここに現れなければ、貴様とウィッシュが争うことも、そしてココナツが連れ去られることもなかった」
「…………では確認させていただく。 お前は何故、こいつに俺の存在を伝えた? 伝えなければ、争うこともなかったはずだが」
 争う理由は、俺が”世界の破壊者”であるということを、こいつに吹き込んだためだ。それ以外の理由は、ツバサからは読みとれなかった。
「あんたが、ツバサをこんなことに……!?」
 『エクセリュート』を手にし、ルミが構える。鳴神はそれが、自身に対する誤解ゆえの行動であると判断した。
「信じてもらわなくても構わないが、断じて私ではない」
「だとしたら、あんたは何なの!」
「『預言者』だ。 それ以上でもそれ以下でもない」
 預言者。そう名乗る鳴神を、ルミは試すことにした。
「なら預言して。 ココナツはいったい、どこへ連れ去られるのか」
 口元をゆがめる鳴神。しばし考えた後、その答えを告げる。
「『ヴィスティア』の目指す先……そこに答えはあるだろう」
「ツバサは頼れないし……鳩谷さん、手伝ってくれます?」
「くだらん」
 その義理はない。ましてやそいつの言うことなど、信用する気もない。ルミの申し出を明確に断るのを見て、鳴神は一言付け加える。
「ひとつ……事実を教えよう。 ディレイド、貴様がその姿に戻ったのは、ツバサに出会ったためだ」
 オーロラの中に消えていく鳴神。翼はその背中を、複雑な思いで見つめていた。

(To be continued)


 ほたるです。

 みなさまが書かれていました『ディレイド』の企画にのらせていただいたのですが……本家『ディケイド』はリアルタイムで見ていなかったりします。……というわけで、フォーマットには沿いつつ「明らかに違う世界」になるように進めてみました。
 また、『ヴィスティア』におけるのぞみの本名が『翼』ということもあり、二人の”つばさ”を絡められるように設定をリ・イマジネージョンしてみました。

 弱すぎるツバサに出会ったことで、元の姿に戻った翼。『ヴィスティア』との関係も良くない中、この世界において彼は目的を果たせるのか。後編をお楽しみにしていただければと思います。


 

次回予告

「大切なのは……心。 そう思うわ」

「お前、騙されているナツ」

「確かにそいつは弱い。 貴様等だけでなく、俺まで哀れんでしまうぐらいな」

「あたしは、あたしを大切に思ってくれる人を、守りたい」

第11話「オープン・マイ・ハート」

すべてをつなぎ、すべてを壊せ。

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