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 これまでの、「仮面ライターディレイド」は──

「この世界は俺に書かれたがっていない……」

「貴方はTSバトルヒロインの世界を旅しないといけない」

「『スウィートハニィ』の世界か」

「やめろ、この戦いは無意味だ」

「助けてやるぜ。……うぉおおおっ!」

「いやああああっ……」




「う、うーん……」

 ベッドの上で目覚めたハニィの前に、金髪の巻髪の少女が座っていた。変身を解いて、この世界での元の姿に戻ったつばさだ。
 そして つばさの隣には赤い衣装とかつらを被ったままの小夏と黒髪の少女……いや、髪を黒く染めたマリア、それに白い小動物のぬいぐるみを着たシャドウガールがいて、心配そうにハニィを見つめている。
 鳴神も怪人も、そして観衆も既にその場にはいない。

「……ここは?」
「救護室だ。奴らは追い払った」

 つばさが答える。

「……えっと……あなたは?」
「俺の名前はつばさだ。鳩谷つばさ。で、こっちはココナッツだ」
「もう、ココナッツじゃありませんったら。何回言ったら。あ、杏子という名前でもありません。小夏と言います。あたしは灯小夏です」
「つばささんと小夏さんか、あなたたちがあたしをここに? ありがとう」
「礼ならいい。俺は何もしていない。それより説明しろ。ここは俺の知っているスウィートハニィの世界と少し違う気がするんだが」
「あたしもそう思います」

 つばさに小夏が相槌を打つ。

「それが……あたしどうしてここにいるのか。確か岬の突端で『虎の爪』の怪人と戦っていた筈なのに、気がついたらこのベッドに──痛っ」

 顔をしかめて頭を押さえるハニィ。

「……あたしが説明するんだです」
「マリア……ちゃん?」




世界の遅刻者、ディレイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る?



仮面ライターディレイド

作:toshi9(原案:城弾さん)



第9話 Nuncalo Dejo (ぜったいにあきらめない)


「あたしの名前は桜塚マリア、ハニィの大親友なんだです」
「あたしだって大親友なんだニャ」

 立ち上がった白い小動物のぬいぐるみ──シャドウガールがマリアの横から口を挟む。

「シャドウガールね。二人が混乱するでしょう、黙ってマリアちゃんの話を聞いて」

 ハニィがシャドウガールを諭す。

「ごめんニャ、ハニィ」

 そう言って、ぬいぐるみをかぶったまま、シャドウガールはハニィの肩に駆け上がった。

「さっきから気になっていたんだが、そのぬいぐるみは生きているのか?」

 つばさがハニィに尋ねる。

「このぬいぐるみの中身はシャドウガールって言うの。以前は私を狙う『虎の爪』の刺客だったけれど、今はあたしの大切な友だち」

「大切な友だち、大切な友だち、ニャハハハ」

 ハニィの言葉を繰り返し口ずさみ、機嫌良さそうに尻尾を振るシャドウガール。

「マリアちゃん、話を続けて」
「あたしたちのこの世界は、『虎の爪』に支配されてしまったんだです」
「えっ? 『虎の爪』に支配されてしまった? そんな、いつの間に……マリアちゃん、どういう事?」

 ハニィが驚いた表情でマリアを見る。

「はい。日本も含めて世界の半分近くは『虎の爪』によって統治されようとしている。そしてその地域は今も増え続けているんだです」
「な、何だって!?」
「おかしいです。あたしの知っているスウィートハニィの世界はそんなじゃなかった……スウィートハニィとその仲間たちが『虎の爪』の野望を打ち砕いたはずです」

 戸惑う小夏。首をひねるつばさ。何かがおかしい。

「あの日から全てが変わってしまったんだです。ハニィが『虎の爪』の怪人に敗れてしまった日から」
「ハニィが負けただって?」
「はい。断崖迫る岬の突端での怪人との対決で、怪人と対峙していたハニィが突然ふらふらと海に落ちてしまったんだです。その日以来ハニィは行方不明。そして日本は『虎の爪』によって政治も経済も支配されて、歯向かう人間はどんどん収容所に放り込まれてしまったです」
「…………」
「最初はみんな怯えて暮らしていたんだです。でもそのうち支配されることに慣れてしまって、『虎の爪』を新興政党のひとつくらいにしか思わない無関心な人間がどんどん増えていったです。そうしていつしか、『虎の爪』に支配される日常が当たり前になっていったんだです。ハニィが必死で戦っていた『虎の爪』に支配されるなんて、あたしは嫌だったです。でも、残った仲間だけでは為す術もなくって……あたしはハニィが生きて帰ってくることを信じて、ひたすら待っていたんだです。だから、ハニィがひょっこりあたしたちの元に戻ってきた時には本当に嬉しかった」
「でも、あたしにはあの怪人との戦いの途中から、さっき目が覚めるまでの記憶が全くなくって……」

 マリアの説明に、ハニィが目を伏せる。

「ふむ」
「そうなんだです。喜んだのもつかの間、戻ってきたハニィの様子はどこかおかしかった。そのハニィから『『虎の爪』の一員になった』って告げられた時には、自分の耳を疑ったんだです。でもそれからのハニィは、『虎の爪』のことになると人が変わったように褒め称え、『虎の爪』に敵対する者は容赦なく倒していったです。あたしは罪のない人を笑って叩きのめすハニィが怖かった……これが現実だなんて認めたくなかったです」

 肩を震わせるマリア。

「マリア……ちゃん」
「それでも、それでもあたしはハニィのそばについていようと思ったです。だって……こんなの本当のハニィじゃないって思ったから……きっと何かある、いつかきっと、ハニィは元のハニィに戻ってくれる。そう信じていたから──」

 顔を伏せるマリアの両脚に、ぽたぽたと涙が落ちる。

「……ところで、お前たちはこのドームで何をしているんだ」
「髪を染めて衣装を着て、人気アニメのキャラクターの姿に成りきっているんだです。つまりコスプレ」

 涙をぬぐって、つばさの問いに答えるマリア。

「それはわかるが、何でそんな事を?」
「勧誘なんだです。ハニィから『虎の爪』に優秀な人材を勧誘するから、一緒に参加しょうって誘われたんだです」
「勧誘?」
「このコスプレマーケットは、東西のドーム展示場を結んで同人誌の販売とコスプレコンテストが行なわれる一大イベントなんだです。特にコスプレコンテストは、全国から優秀なコスプレイヤーのグループが集まって盛大に行なわれているんだです。でも実は、『虎の爪』の主催で行なわれているイベント。本当の狙いは人々を『虎の爪』の怪人の姿に慣れさせてしまうことにある。そして、怪人を見ても怖がらない人間を『虎の爪』に引き込んでしてしまうんだです」
「どうやって勧誘を?」
「ほら、これ」

 さっきまで二人が持っていたプラカードをつばさに見せるマリア。
 そこには「僕たちと契約して『虎の爪』の一員になってよ」と書いてあった。

「怪人を怖がらない人間は、不思議とこのプラカードを見ると声をかけてくるんだです。そして彼らを鳴神さんがどこかに連れて行くんだです。『虎の爪』の一員にする為に──」
「鳴神が? 待て、どうしてそこで鳴神が出てくる?」

 首をひねるつばさ。

「時々ハニィの前に現れては、いろいろ指示をしていたみたいなんだです。つばささんって鳴神さんの知り合いなんだですか?」
「知り合いなんてものじゃない……腐れ縁だ。それより、何でまともなお前がそこまでして手伝う?」
「あたしだって『虎の爪』の勧誘なんて嫌だったけれど、どんな時でもハニィのそばにいるって決心したからです。一緒に行動していれば、ハニィが元に戻る手がかりを見つけられるかもしれないって思ったから……だから絶対に彼女から離れないことにしたんだです」
「あたしだってそうだニャ。あたしはハニィと一緒なら、どんな所にもついて行くんだニャ」

 シャドウガールも立ち上がって、胸を叩く。

「そしてようやく、ようやく元のハニィが戻ってきてくれたです。あたしの願いがようやく叶った……本当に良かったんだです」
「……あたし、すっかり記憶がなくって……マリアちゃん、シャドウガール、ありがとう。二人とも、ずっとあたしのことを見守ってくれてたんだね」
「当たり前なんだです。だってあたしはハニィの親友なんだですから」
「だニャア」
「でも、どうしてハニィさんの記憶が急に戻ったんでしょう?」

 小夏が首をかしげる。

「お前が記憶をなくしていたのは、こいつのせいだ」

 つばさは、ちぎれた赤いネックリボンをハニィに向かって放り投げた。

「これは?」
「さっきまでお前が首に巻いていたものだ。恐らくこいつがお前に別な人格を植え付けて、コントロールしていたんだろう」
「それって……それじゃあ、あたしは今まで奈津樹姉さんがパンツァーレディに仕立て上げられていた時と、全く同じことを……」

 ネックリボンを握り締め、ハニィは身をぶるぶると震わせた。やがてぽたりぽたりと、その目から涙がこぼれ落ちた。

「あたしはずっと『虎の爪』からみんなを守る為に戦ってきた。それなのに、いつの間にか奴らの手先になって、罪もない人たちを不幸に陥れる為に嬉々として働いていたって言うの? なんてことを……」
「ハニィ、しっかりしてっ!」
「こんなことって……くやしい……」
(先生、そんなに自分を責めないでください)
「…………」

 だがマリアの励ましにも、心の中のハニィの声にも、彼女はうな垂れたまま答えようとしない。

「おい、お前」

 突然、つばさがハニィを指差した。

「つ、つばさくん、お前なんてそんな言葉……今のあなたは、かわいい女の子なんですから」

 だが、小夏の言葉に耳を貸さず、つばさはハニィに問いかける。

「問おう。お前にとって正義とは何だ」
「正義? それは……みんなで笑いあって暮らせるような、そんな生活を守ること──」
「それじゃ、そういうことだ」
「え?」
「お前の正義を信じるんだ。確かに一度は『虎の爪』に敗れたのかもしれない。過ちがあったかもしれない。でも、ここで迷っていたら、それこそ奴らの思うつぼだろう。自分の正義を信じて、もう一度あいつらと戦ったらどうなんだ」
「あたしの正義……あたしの……」
「この世界はお前が守るべき世界だろう。お前がそんな弱気でどうするんだ。せっかく正気に戻ったのなら、自分の正義の為、自分の世界を守る為に戦うべきじゃないのか?」
「あたしの世界……そうか、そうかもしれない」
(先生、つばささんの言うとおりです。それにあの怪人を倒せば、もしかしたらこの世界は元に戻るかもしれません)
「そうなのか?」
(この世界はどこかおかしい……あってはいけない世界。世界の半分が『虎の爪』に支配されてしまったと言っても、何かできることがあるはずです)
「そうか……よし、わかった」

 すっとベッドから降り立つハニィ。

「元気になったようだな」

 笑おうともせず、つばさはハニィを見つめた。

「もう一度あの怪人と戦う。そして必ず勝つ。ありがとう、あたしすっかり動揺して……でも、もう大丈夫」
「ハニィ、元気になったかニャ?」
「うん、もう大丈夫。シャドウガール、心配してくれてありがとう」

 シャドウガールの頭を撫でるハニィ。シャドウガールは嬉しそうに喉を鳴らした。

「ところで、あなたは誰なの? そんなにかわいいのに、さっきからずっと男言葉だし」
(そうですね。この子、ただ者ではありません)
「うん。この世界の人間ではない気を感じるんだニャ」
「俺か? ただの通りすがりの仮面ライターだ」
「仮面ライター?」
「俺はいつか俺の世界を書きたいと思っている。と言っても、自分の名前を出す気はないがな」
「だから仮面ライターだと?」
「そういうことだ。鳩谷つばさ、またの名を人呼んで『仮面ライター・ディレイド』」

 マミさんのコスプレ姿のまま胸を張って見得を切るつばさ。その胸がぷるっと揺れる。

「名前を出さずに……それって聞いたことがあるんだニャ。え〜っと、そうだ、覆面ライターだニャ!! でもお前、どうして覆面していないんだニャ??」
「ほっとけ。それに覆面じゃない、仮面だ」
「仮面ねぇ…‥」

 くすりとマリアが笑う。

「何だか似合わないんだです。あなた、やっぱりマミさんだです」
「だからこれはただのコスプレで……それよりも」

 つばさは小夏を見る。

「小夏、お前はどう思う?」
「……パラレルワールド」
「パラレルワールド?」
「本来あるべき未来とは別の時間軸の世界です。ハニィさんを倒したという『虎の爪』の怪人が、この世界の過去を書き換えてしまったのかもしれません。彼らの野望を達成する為に」
「なるほど、で、そいつを倒すのが、ここでの俺の役目という訳か?」
「そうかもしれません。いえ、きっとそうです」
「しかし、そいつは何処にいる?」
「さあ、そんなこと私だってわかりませんよ」

 首を横に振る小夏。

「ハニィ、何か心当たりはないのか? お前が負けた相手とはどんな奴なんだ」
「あたしが覚えているのは……大きなクワガタムシのような顎角とクジャクのような綺麗な羽を持った怪人。対峙しているといきなり大きく羽根を広げて、その羽根を見ているうちに段々気が遠くなって、そして意識をなくしてしまった」
(あたしも段々先生に呼びかけることができなくなって、何もできなかった。あたしがもう少ししっかりしていれば……先生をこんな目に遭わせずにすんだのに)
「気にするなハニィ、お前のせいじゃない。油断したあたしが悪いんだ……」
「え? ハニィさん、今なんて?」
「あ、なんでもない。独り言」
「……?」

 心の声に相槌を打つハニィに、小夏が首をかしげた。

「とにかく、何か手がかりを見つけないと」
「ハニィに指示しに来ていた男が怪しいんじゃないかニャ」
「鳴神か、しかしあいつも本来この世界の人間じゃないはずだ」
「そう言えば、鳴神さんは?」
「さっき引き連れていた怪人を一掃してやったら、『覚えてろっ』て捨て台詞を残して消えてしまったよ。しかしおかしいな……あいつどこでこの世界の怪人と仲間になったんだ?」

 ドカーン!!

 その時、突然場内に爆発音が響いた。

「どうした?」
「行ってみましょう」

 四人と一匹は救護室を出て、回廊を走った。
 爆発音がしたのは、さっき戦ったドームとは反対側のドームだった。
 中へ飛び込むと、イベント用の広場になっている。その一角に新たな異形の群れを引き連れた鳴神がいた。

「ディレイド、どこだあっ!? 姿を見せろっ!!」

 広場を練り歩く鳴神とその後ろから続く怪人の群れ。それを何かのイベントと思った客が、次々にカメラや携帯のシャッターを切る。

「うわぁ、すげえ、イベントに出てくる怪人は本物って噂通りだ!」
「ギギギギ、何だ貴様ら、邪魔だ!」
「ぎゃっ!!」

 鳴神の後ろから進み出た大型の怪人が、近寄ったカメラマンの一人を片手で払いのける。
 吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたカメラマンは、ぐったりと動かなくなった。

「な、なんだ、危ないじゃないかっ!?」
「うるさい、『虎の爪』の行動は絶対だ。お前たち逆らうのか?」

 ざわつく会場内の観客。その目には怯えの色が浮かんでいる。だが「誰が『虎の爪』なんかに従うものか」と一人が叫ぶと、そのうち「帰れ、帰れ」とコールが湧き上がる。

「帰れ! 帰れ!」

 その有様に、鳴神が激怒する。

「ええい、勧誘などと手ぬるいことは止めだ。貴様ら全員、『虎の爪』の奴隷となれ」

 鳴神の背中に大きな孔雀のような羽が現れ、広げられていく。その羽根のひとつひとつには巨大な目玉のような模様が描かれていた。
 その模様を見た周囲の人間は、観衆もコスプレイヤーも、カメラを手にしたカメラマンも次々に目をとろんとさせて、ぶつぶつと呟き始める。

 『虎の爪』に忠誠を……シスターに忠誠を……

「あの羽根は!?」
(先生、あいつです、あの怪人があの男の中にいるっ)
「よしっ、今度こそあいつを倒す!」

 観衆の間を縫って鳴神たちの背後に近寄るハニィとマリア、そしてつばさたち。
 接近したハニィは怪人たちの前に飛び出そうとする。だがそれよりも早く鳴神に向かって飛び出した少女がいた。
 桜塚マリアだ。

「この羽根、あの時の化け物だです。よくもハニィをっ!!」

 背後から鳴神の頭を、マリアは手に持ったハリセンで思いっきり引っ叩いた。

「あぐぐぅっ!?」

 頭を押さえて苦しむ鳴神。その体から一体の怪人が抜け出てくる。それはクワガタムシのような大きな顎角と、クジャクのような華麗な羽を持った怪人だった。
 そして、怪人が体から抜け出ると同時に鳴神は正気を取り戻す。

「ややっ、俺はいったい何を? ここはどこだ?」
「鳴神の奴、怪人に取り憑かれていたのか……」
「そうみたいですね」

 つばさと小夏は鳴神の様子に顔を見合わせた。

「ギギッ、こいつ、よくも邪魔してくれたなっ」

 鳴神から抜け出てきた怪人は、マリアに向かって大顎をクワッと広げる。足を止めたマリアの目に一瞬怯えの色が浮かぶ。

「マリアちゃん、危ないっ!」

 マリアの前に飛び出して、両手を広げて庇うハニィ。

「ハニィ、どうしたギギ。こいつは『虎の爪』の反逆者だ、この女を叩きのめすのだ」
「何を言うかっ。あたしはもうお前たちに従わないっ。叩きのめされるのはお前のほうだっ!」
「ネックリボンがない……そうか、正気に戻ったかハニィ。ならばもう一度我らの為に働け!!」

 そう言ってハニィに向けて羽根を大きく広げる怪人。だがハニィは視線を微妙にそらす。

「無駄だっ、同じ手は二度と食わない。そんな羽根模様、見るものかっ」
「ギギ、ならば嫌でも見させてやる。貴様ら、ハニィをつかまえて、私の羽根を見せるのだっ。やれっ!!」

 ステージのまわりにいたカメラマンたちが、ゾンビのようにゆらゆらと体を揺らしながらハニィとマリアに向かってくる。

「こいつら、変なんだですっ。正気に戻れえええっ!!」

 マリアが次々に大型ハリセンでカメラマンを引っ叩く。するとカメラマンたちはその度に正気に戻っていく。一方……

「ハニィ、フラアアアアッシュ!!」

 叫び声と共にハニィの体が光に包まれ、赤いバトルスーツはきらびやかな虹色のドレスに変わる。

「ファンシー・ハニィ、登場よっ♪」

 操られていた若者やカメラマンが、ファンシー・ハニィの周囲に集まって写真を撮り始める。

「きっ、貴様らっ、何をやっている!? 早くあいつらを捕まえろっ!!」

 だが、誰も怪人の命令に耳を貸さない。彼らはひたすらカメラをファンシー・ハニィに向け続ける。

「どお? 撮らずにはいられないファンシー・ハニィの魅力は。……うふっ♪」


虹色ドレス♪(illust by MONDO)



「よし、今だ」

 怪人の前に飛び出したつばさは、手に持ったマスケット銃をくるりと一回転させて銃口を向けると、その引き金を引いた。
 だが、かちっと撃鉄の音が鳴るだけで、銃弾は出てこない。

「なんだレプリカか……いや」

 つばさの手の中でマスケット銃がポシェットに変化する。
 そのポシェットからベルトとカードを抜き出そうとするが、間近に迫る怪人に、取り出す余裕がない。

「くっ」

 つばさに襲い掛かる怪人達。それをくるっと体をひねって避ける。
 だがその時、つばさの背後で悲鳴が上がる。
 振り向くと、小夏が怪人に腕を掴まれていた。

「つばさくん、助けて」
「自分で何とかしろココナッツ。ちゃんと武器を持っているじゃないか」

 つばさは小夏の手に持ったプラカードにちらっと視線を向け、叫んだ。

「こんなの武器じゃありません!」

 そう言いながらも、小夏はプラカードで左右の怪人を何度もぶっ叩く。

「こいつ! こいつ!」
「ぎぎっ、こしゃくな……」

 今度は数体の怪人が、プラカードを構える小夏に一斉に襲いかかった。

「いやぁっ!!」

 その時、ハニィが小夏と怪人の間に体を割り込ませ、同時にその体が光に包まれた。

「ハニィ、フラアアアッシュ!」

 その瞬間、きらびやかなドレスは光の中で粉々に散っていく。一瞬裸になるハニィ。
 その裸体は眩い光の中で誰にも見られることはないが、それはほんの一瞬の事、次の瞬間には、彼女の体は赤と黒の布地に覆われていく。
 そして光の中から、細身の剣を手にした上半身が真紅の、下半身が漆黒というカラーリングのバトルスーツをまとった少女が姿を現す。

「あなたたちの悪行、お天道様が許しても、このスウィートハニィが決して許さないっ!!」
「いいぞ!」

 ハニィが見得を切ると、正気を取り戻したカメラマンの集団から歓声が上がる。

「でやぁぁっ!!」

 赤い髪をなびかせて、ジャンプするハニィ。
 その剣が小夏の腕をつかむ怪人を真っ二つに切り裂く。

「ぐぎゃあ!!」
「つぎっ!」
「グギギギ……」

 プラチナフルーレで怪人を次々に切り裂いていくハニィ。その度に怪人は塵になって消えていく。
 そして、鳴神の体から抜け出した怪人に対峙する。

「今度こそお前を倒す。名なしのクワガタ怪人、覚悟しなさい」

 羽根を広げた怪人に向かって翔び上がったハニィは、細身の剣を唐竹割りに振り下ろす。

「ギギッ、名なしの怪人とは失礼なっ。私は『虎の爪』裏四天王の一人、オオクワガタクジャクだっ!」

 怪人──オオクワガタクジャク振り下ろされた剣を、長い顎角でがっちりと挟みこむ。

「裏四天王?」
「シスターにもしもの事があった時、我らは目覚めるのだ。そして過去に跳び、全てをやり直しするのさ。シスターの思い通りの世界を築き上げるまで、何度でもな」
「時間遡行能力、本当にそんな能力があるんだです!?」

 マリアが半分千切れかけた左腕のバックラーをなでた。

「くっ、こなくそっ!」

 剣を顎で掴まれたハニィは両手を剣から放すと、片足で怪人に蹴りを入れる。
 堪らずつばさの傍らまで吹っ飛ばされるオオクワガタクジャク。
 だが起き上がってつばさと視線が合うと、げへへと笑いつばさに向かってきた。

「ギャギャギャ、お前を先に血祭りにしてやる」
「逃げて!」

 ハニィが叫ぶ。
 だが、つばさはひるむ様子もない。

「ふんっ」

 既に腰にベルトを巻いていたつばさは、飛び掛かる怪人の前でポシェットからカードを取り出すと、ベルトのバックルに差し込んだ。

「──DIDIDIDELAYEDoooou!!」

 スクラッチを思わせる機械音声がドーム内に響く。
 怪人の腕をすり抜け、掛け声とジャンプしたつばさが地上に着地した時、その姿はマミさんのコスプレ姿からディレイドに変身していた。

「正体を現したな、この悪魔め。グゲゲ、死ねっ!」
「こいつ、どっちが悪魔だ」

 顎角でディレイドの体を挟み込もうとするオオクワガタクジャク。
 ジャンプ一閃。ディレイドはそれを避けると、新たなカードをバックルに差し込んだ。

「──AnotherStyle,SESESESAILAaaaaah!!」

 光と共に、さらに変身するディレイド。
 その身体はセーラー服を着た美少女戦士に変わっていた。

「ディレイド・セーラ参上!」

 拳を構えてディレイド・セーラが見得を切る。

「キャストオフ!」

 ディレイド・セーラは「布のヨロイ」を爆発させ、周囲に残った怪人たちを弾き飛ばして体操着姿へと変身した。運動性が格段に向上したヴァルキリアフォームだ。
 さらに左のガントレットをたたくと、今度は水中・パワー戦に特化したスクール水着姿──マーメイドフォームに転じた。

「目くらましか、私には効かんぞっ」

 ディレイド・セーラに飛び掛り、その体を顎角で挟み込もうとするオオクワガタクジャク。だが……

「ふんぬっ!」

 がっちりとその二本の顎角を両手で受け止めたスクール水着姿のディレイド・セーラ。

 バキバキバキ──

「ウギャアアッ!!」

 彼女は両手に力を込めると、その顎角を引き裂いてしまった。
 ふらふらとよろける怪人の後ろで、ハニィが剣を構え直す。

「覚悟!」

 ハニィの声に怪人が振り向く。と同時に剣を下段に構えたハニィは怪人の横を一気に駆け抜けた。

「奥義、桜・華・天・翔!」

 ハニィと怪人が交差した一瞬の後、怪人は真っ二つに切り裂かれ、そしてその姿は霧散してしまった。

「やったニャ、ハニィ」
「うん。でもこの怪人を倒したのはあたしじゃなくあなたね。ありがとう」
「ふん、なんてことないさ」
「でもあなた」

 スクール水着姿の少女を訝しげに見るハニィ。さっきまでとは全く別人だ。

「そんな恥ずかしい格好……」
「こっ、ここはコスプレ会場だろうっ。問題ない」

 そう言いながらも、ぷいっとそっぽを向くディレイド・セーラ。

「その姿もかわいいですよ、つばさくん」

 小夏の一言に、ハニィにもマリアにも笑いがこぼれる。つばさの頬は心なしか赤い。
 和んだ空気が一同を包む。しかし……

「コスプレ? ちがうぞ、スウィートハニィ! そいつはこの世界を破壊する悪魔だっ」

 怪人から解放されて正気に戻った鳴神が、ディレイド・セーラを指差して叫んだ。

「悪魔?」
「そうだ。だからそいつを倒すんだ、そうしないとこの世界が破壊されてしまうんだぞっ」
「この世界が破壊される……」

 鳴神とディレイド・セーラを交互に見るハニィ。

「そうさ、こんな世界、破壊してやる。そうだよな、スウィートハニィ」

 そう言って、パチリとハニィに向かってウィンクするディレイド・セーラ。
 こくりと頷くハニィとマリア。

「ちょ、ちょっと待て、スウィートハニィ。お前はお前の世界をディレイドに破壊されてもいいのか!?」
「こんな『虎の爪』に支配された世界なんか、破壊されてもかまわないっ!!」
「な、何だと!?」
「そういうことだ、鳴神」
「くそう、この世界も終わりだっ、ディレイド、全て貴様のせいだああああっ!!」

 そう言って後ずさりすると、鳴神は背中を見せて駆け出した。

「あ、逃げたニャ」
「あんな奴、放っておけ。それより……」

 その時、突然四人を目眩が襲う。
 気がつくと目の前に、塵と消えたはずのオオクワガタクジャクが姿を現していた。

「ギャギャギャ、私は不死身だ。勝つまで何度でも時間を遡るのだ」
「こいつ……それなら」

 ディレイド・セーラは再びディレイドの姿に戻ると、ポシェットを拳銃に変形させ、怪人を撃った。

「ぎええええっ!!」

 一発、二発、三発と銃声がドーム内に響き渡る。
 銃弾に撃ち抜かれた怪人は、塵となって消えていった。
 だがしばらくすると、何事もなかったかのように再び怪人が姿を現す。
 何度ハニィに切り裂かれても、何度ディレイドに撃たれても同じだった。

「ギャギャギャ、いくらやっても無駄だ」
「はぁはぁはぁ……きりがない。こいつ、どうすれば──」
(先生、ディレイドと一点狙いの同時攻撃ですっ)
「同時攻撃?」
(顎角の間にある青白く光る核球、あれがあいつの急所です)
「急所?」
(はい。あそこにあいつのエネルギーが集中しています。きっとあの核球を破壊すればっ)
「わかった」

 ハニィは並び立つディレイドに体を向けて叫んだ。

「ディレイド! 顎角の間の青白い核球、あれがあいつの急所だ。一点同時攻撃であれを潰す。できるか?」

 プラチナフルーレの剣先で、怪人の顎の間を指し示す。

「ふん、造作もない」
「上等だ……でやあああっ!!」

 ハニィはオオクワガタクジャクに向かって一気にジャンプすると、プラチナフルーレを顎角の間に青白く光る核球にぐさりと突き刺した。

「グギャア」

 剣から両手を放して、飛び退くハニィ。
 核球にプラチナフルーレを突き立てたまま、頭を押さえて苦しむオオクワガタクジャク。
 それを見たディレイドは新しいカードを取り出すと、ベルトのバックルに差し込んだ。

「──AnotherStyle,HOHOHOWHITEoooou!!」

 巻き舌なスクラッチ調のコールとともに、ディレイドの姿がさらに変わる。

「ディレイド・ミラージュホワイト参上っ!」

 ミラージュホワイトの姿に変身したディレイドは、その両手を交差させて叫んだ。

「はあああっ、ライトニングスパーク!!」

 ディレイド・ミラージュホワイトの交差した手から無数のプラズマが発生すると、それは雷のように怪人に刺さったプラチナフルーレに落ちた。

 ピシャアァァ──ンッという轟音と眩い閃光が怪人を包む。

「グ、グオオオオ……」

 もうもうと湧き上がる煙、そしてその中でうめく怪人。
 そして次の瞬間、顎角の間で青白く光っていた核球は光を失い、真っ二つに割れて床にころげ落ちる。
 オオクワガタクジャクは、その場に両膝を落としてばたりと倒れ伏した。

「やった!」

 ゆっくりと怪人に近寄るハニィとディレイド・ミラージュホワイト。
 だが、倒れた怪人の体はむくむくと変化していく。

(いけません、先生、まだ別なエネルギーがあいつの中に……離れてっ!)
「ディレイド、離れてっ!!」

 再び飛び退くハニィとディレイド・ミラージュホワイト。
 その目の前で怪人の体はぼこっ、ぼこっと変形しながら大きく膨らみ始めていた。そしてその体は、やがてドーム中央の広場を占めるほどの大きさになっていた。
 横たわっていたオオクワガタクジャクが閉じていた目をくわっと見開いて、むくりと立ち上がる。その頭はドームの天井に届かんばかりだ。

「こ、こいつ、巨大化した!?」

 思わず後ずさるハニィとディレイド・ミラージュホワイト。
 それまで戦いを傍観していた観衆がパニックに陥る。
 我先に殺到する観衆で、ドームの出口がごった返す。

「つばさくん、ハニィさん、危ないっ! 逃げてください!!」

 小夏が叫ぶ。

「いや、逃げるわけにはいかない。そうだなハニィ」
「勿論! あいつを倒すまでは決して逃げない。マリアちゃん、観客を避難させて! 小夏さん、あなたもお願い!」
「わかったです。皆さん、落ち着いてくださいだです!!」
「皆さん危険です! 慌てないでください!」

 出口に殺到する観衆に冷静な行動を促すマリアと小夏。
 だがパニックに陥った観衆は、誰一人として二人の誘導に聞く耳を持たない。

「くうぉぉらああっ!! 落ち着けと言ってるんだですっ!!」

 出口に密集した男たちの頭を、巨大ハリセンで次々にぶっ叩いていくマリア。その度に彼らは我に返る。
 やがて冷静さを取り戻した観衆は、ばつが悪そうに粛然とドーム内から出ていった。
 一方、ドームの中央にはディレイド・ミラージュホワイトとハニィ、そして巨大化したオオクワガタクジャクだけが残った。
 巨大怪人を見上げてファイティングポーズをとるハニィとディレイド・ミラージュホワイト。
 オオクワガタクジャクは、二人を勝ち誇ったように見下ろすと、

「よくもこの私をここまで追い込んでくれたな。グゲゲゲ……貴様ら二人とも踏み潰すっ」

 足を大きく振り上げるオオクワガタクジャク。そのストンピングを左右に同時に避ける二人。息はぴったりだ。

「くそう……あんなでかい奴、どうしたら倒せる?」
「ハニィ、いい作戦はないのか?」

 ディレイドの姿に戻ったつばさは、怪人の巨大な足を避けながらハニィを呼んだ。
 その時、彼女の手の中のポシェットから三枚のカードが飛び出した。
 すかさずそのカードをキャッチする。一枚はスウィートハニィの──指輪と細身の剣、髪飾りとハリセンが組み合わされたハニィの紋章が描かれたもの。
 もう一枚はハニィ自身の姿が描かれていた。既に持っているミラージュホワイトやセーラといったTSバトルヒロインのカードと同じものだ。
 これを使えばハニィの姿にもなれるし、その能力も使える。
 そして最後の一枚は……

「ふんっ、なるほど……そういうことか」

 最後のカードの絵を見てそうつぶやいたディレイドは、新しいカードをバックルに差し込んだ。

「──AnotherForm,HAHAHAHONEeeeeY!!」

 なおも二人を踏み潰そうとする巨大化したオオクワガタクジャクの足を避けながらジャンプしたディレイドは、ハニィの背面に降り立った。

「ちょっとくすぐったいけど、我慢しろ」
「え? なに?」
(先生、気をつけて、この気は物質変換……)
「うわあああああ──」

 ハニィの叫びが途中で途切れる。
 ディレイドの囁きを合図に、ハニィは自分の意思に反して直立不動になってしまった。そしてその体が筒状に膨らんでいく。抱えるように組んだ両手両脚がくっつき、腹部からトリガーのような金属製の突起が生じる。
 ハニィは巨大な口径を持つ大型マスケット銃に変貌してしまった。
 それを見届けたディレイドは、ハニィの紋章のカードをバックルに差し込む。

「──FinalAttack,HAHAHAHONEeeeeY!!!!」

 ディレイドはハニィが変貌した巨大なマスケット銃をその両手に抱えて空中に跳び上がる。そして向かってくるオオクワガタクジャクに銃口を向け、その狙いを定めた。
 それは、さっきつばさたちがコスプレしていたアニメのワンシーンにそっくりだった。

「…………フィナーレっ!!」

 ハニィ・ガンから閃光と共に、巨大な弾丸が猛烈な勢いで発射される。
 それは巨大化したオオクワガタクジャクの胸部に命中すると、貫通してしまった。
 弾丸の発射と共に巨大マスケット銃から元の姿に戻るハニィ。くるりと怪人に背中を見せるディレイド。
 そして着地すると、ハニィの耳元でささやく。

「ハニィ、紅茶飲もうか」
「……あ、え?」

 ハニィは何が起きたのか理解できずに、まだ呆然としている。

「き、貴様何を余裕こいて──」

 オオクワガタクジャクは背後から二人を踏み潰そうと足を大きく上げる。が、

「お前、自分の体がどうなっているのか気がつかないのか? 胸に手を当ててよく考えてみろ」

 後ろを向いたままのディレイドに告げられ、その動きが止まる。

「私の胸? ……!? …………な、ないっ!? 胸の珠がない……私の胸に穴が…………ぐ、ぐぎゃあああああっ!!」

 ドドーンと地響きを鳴らし、オオクワガタクジャクは仰向けにのけ反って倒れた。

「……ググググ、私の負けだ。だがこれで勝ったと思うな……たとえこの私が倒れても……裏四天王が一人でも健在なうちは……シスター様の支配するこの世界が……消える……ことは……ない……グブグブ……グブ…………」

 怪人の巨体は、その場で泡となって消えてしまった。

「ふふっ」

 壊れずに残ったドーム内の喫茶コーナー。そこに置かれたティーカップの紅茶を一口飲み、微笑むディレイド。
 そこに小夏とマリアとシャドウガールも駆け寄ってくる。

「やったね、つばさくん」
「なに、俺の力だけじゃないさ。……な、ハニィ」
「ハニィ、大丈夫だったかニャ?」
「うん、何が何だかわからないけど、あたしたち勝ったんだね」
「そういうことだ」

 さっきまでの戦いが嘘のように静寂と取り戻すドーム。
 変身を解くディレイドとハニィ。

「それにしても、さっきのFinalAttackって……ハニィが銃に変えらてしまった時にはびっくりしたけど、でもあなたが怪人に向かって銃を撃つ姿って、そっくりだったんだです」
「そっくり? 何にだ?」
「ふふっ、あなたはやっぱり『マミさん』なんだですよ」

 元のコスプレ姿に戻ったつばさを見て、マリアはにっこりと微笑んだ。





 ドームから四人と一匹が外に出ると、既に陽が傾き、長い影がその足元から伸びる。
 そしてこの世界での役目を果たしたからであろう。翼はドームと出ると同時に本来の男の姿に戻っていた。

「あの、いろいろありがとう」
「いろいろあったけど、会えて楽しかったんだです」
「お前たち、どこに行くのかニャ?」

 ドームから公道に続く大理石の階段を降りる翼と小夏に、後ろから続くハニィが、マリアが、そしてシャドウガールが声をかける。

「さあな……だが忘れるな、お前たちだけじゃない。いろんな世界で、様々なTSバトルヒロインが、自分たちの世界を守る為に戦っているんだってことを」

 振り向いて、ハニィの拳を握る翼。
 こくっとうなずいて微笑むハニィ。

「結局、この世界は元に戻らなかったな」
(先生、あたしの早とちりで……すみません)
「ハニィのせいじゃない。どっちにしても戦うしかないんだ。『虎の爪』に支配されてしまった世界でも、この世界はあたしたちの世界。自分の力で『虎の爪』に打ち勝たないと意味がない。だからもうディレイドの力は借りない。ここから先は、あたし一人だけでもあたしの戦いを続けていく。残る三人の裏四天王とシスターを倒し、元のあたしたちの世界を取り戻す為に」
(先生……そうです、やりましょう!)
「何言ってるんだです!」

 拳を強く握り締めて決意するハニィの顔を、マリアが睨んだ。

「ハニィはひとりじゃ・な・い・ん・だ・ですっ!」
「そうだったね、マリアちゃんごめん」

 向き合ったハニィとマリアはお互いの目を合わせてこくっと頷くと、翼たちに体を向ける。

「「私たちはぜったいにあきらめない。この世界をきっと元に戻してみせる!」 んだです!」
「そうだニャ!」

 シャドウガールも立ち上がって拳を上げる。

「また会いましょう。いいえ、きっと会えるよね。えーっと……」
「覚えておけ、通りすがりの仮面ライターだ。……あばよ」

 路上のバイクにまたがった翼は、後ろに小夏を乗せ、バイクのスロットルを強くひねった。
 轟々とした排気音と共に、走り去っていく二人を見送るハニィとマリア、そしてシャドウガール。
 三人は、いつまでも手を振っていた。


 ……ひとつの世界の危機は去った、だが彼らは次の世界に向けて旅立つ。
 がんばれ仮面ライター・ディレイド、負けるな仮面ライター・ディレイド──








「おーい、お前たちどこに行くんだ? 写真館はここじゃぞ〜」

 遠ざかる二人を呆れたように目で追う映二郎。

「ま、それもいいですか」

 そう言うと、彼はゆっくりとドームの中の写真館に戻っていく。
 その背中を、夕陽が赤く照らし出していた。

(to be continued...?)


あとがき

 最後までお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。
 城弾さんの設定をうまく生かしきれたかどうか自信がありませんが、私なりの仮面ライターディレイドの世界を描いたつもりです。さて、この作品の舞台はハニィのイフ・ストーリー、『虎の爪』に支配されてしまった世界です。どんな舞台がいいのか考えているうちに、こんな世界での戦いを描いてみたくなりました。元になったディケイドにも、確か支配されてしまった世界が舞台になったエピソードがありましたよね。
 バトルシーンは書いていて楽しかったです。でも少し遊びが過ぎたかなぁ。
 最後に、仮面ライターディレイドの世界への参加を了解していただいた城弾さん、作中でキャラをお借りしたライターマンさん、そしてMONDOさん、改めてありがとうございました。

 それでは!

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