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 八月某旬。奈緒達の住む街に一台のバスが到着した。
 
 「くはあ─────っ!!」     バスから出て来たのは大体奈緒達と同じ位の年齢の少年。出て来た瞬間に欠伸がでる。よほど疲れているのだろうか?
 
 その少年・・・・・つか、ぶっちゃけて言うと『明』の事だが、先日奈緒達との入れ違いにより沖縄に行ってしまった不幸(?)な奴である。
 
 「結局大した情報は得られなかったな・・・・・・・。」    一人ごちる明。
 
 そしてその明が探しているモノは、過去に明が出会った少女(?)の奈緒であり、明はその少女をここの所ずっと探していたのだ。
 
 まあ、奈緒≠『ナオちゃん』と奈緒達(理奈や灯)が言っていた為、ナオちゃんを奈緒の同名相似(名前や姿形が似ている事)の別人として捜索するしかない明はつい先日とある女性用専門店デパート『ビショップ』の女性店員にそのナオちゃんらしき女の子が沖縄に行く。みたいな事を言ったため。突拍子もなく沖縄へと向かったのだ。
 
 本来ならガセネタ情報の可能性もなくはないのだが、なんせナオちゃんに関する情報が何一つ得られなかった事から、
 
 
 明:(水着を購入したって事は沖縄へ旅行に行く為だよな・・・・?)
 
 
 という何とも確信がない連想で沖縄へと向かったらしい。まあ当然ながら当の本人は既に栂野市に帰ってそっちにはいるはずもなく、そして行きの飛行機代でお金が底を尽き、何とか奈緒達の知り合いであるオジィや剛、ひなた達の慈悲により帰りの運賃分のバイトをする事になったのだ。
 
 とはいえせっかく沖縄に来たのだからナオちゃんの幼馴染である剛やひなた達にその本人の話を当たり障りのない事を聞いたのだったが結局今、その本人がどこにいるのかは剛達にも分からないらしい。隠しているわけではないらしく、単に知らされていないだけらしい。
 
 そして明が得た情報は、ナオちゃんの本名は『紅葉寺 奈緒』といい、どうやらマジで良いところのお嬢様なんだそうだ。一瞬、住む世界が違うと絶望を感じていた明だったが、剛達が語るナオちゃんの話の中に『あー君』とやらが何回も出て来たらしく、それが自分の事だと確信を得た明は『ナオちゃんは俺の事をちゃんと覚えている』という希望を持ってここに帰って来たのだ。・・・・・・・・まあ、結局今ナオちゃんがどこにいるのか分からない為、あまり意味がないというのも事実ではあるが。
 
 「帰ったら那雄達に何か詫びでも入れるか(苦笑)」    
 
 沖縄に行く時、誰にも行き先を言わずに急に行ってしまったため、親や那雄達バンドのメンバーに迷惑をかけてしまっていた事は言うまでもあるまい。
 
 と、その時明の携帯がなった。どうやらメールらしい。
 
 「・・・・・お袋か。『勝手に旅行に行った罰として、帰って来る前に夕飯の買い物を頼むわ。』って・・・・旅行目的に行った訳じゃないんだけどな(苦笑)」
 
 と、明は直接自宅には帰らず、渋々自宅近くの駅から3〜4駅離れた場所にある大きな商店街へと足を運んだ。



奈緒の憂鬱

第十一話:混沌鍋  作:SAYA


 俺こと『煎杜 奈緒』は灯と灯が勝手に決めた俺の偽名『紅葉寺』のオッサン(大体40歳くらいかな?)が運転するベンツに同乗し、紅葉寺のオッサンと俺と灯で今後の事について説明していた。
 
 もちろん今の俺は指輪はしていない女の子バージョンである(今朝、母さんと灯が吊るんで指輪を取られた) 
 
 灯:「んじゃ奈緒ちゃん。早速だけど紅葉(あかば)さんの事を『お父様』と読んでみて?」
 
 奈緒:「早速、じゃねえ! いきなりなんだそのハイレベルな言葉遊びは!? それに『あかば』って誰だよ!?」
 
 オッサン:「ははは奈緒君。『あかば』って言うのは私の苗字を略したものだよ。ほら『こうようじ』じゃ言いにくいだろう?」
 
 奈緒:「え? あ、まあそりゃあそうですけど・・・・・。ってそうじゃなくて、何で『お父様』なんだよ!?」
 
 灯:「あのね。貴女は今、紅葉(あかば)家のお嬢様なのよ?そうなると当然自分の父親の事は『お父様』と呼ばなきゃ。」
 
 オッサン:「灯ちゃん。私も前に言ったと思うけど『お父様』はさすがに奈緒君にはきついんじゃないのかな?」
 
 奈緒:「そ、そうですよね。なんせ自分の父親でさえたまに『糞親父』なんて言いますから、俺。」
 
 灯:「む、だったら貴女ん所の親御さんにもちゃんと『お父様』『お母様』って言いなさいよ。そうして慣れればおk?」
 
 奈緒:「『おk?』じゃねーよ!何で『様』付けしなきゃいけないんだって言ってるんだ!」
 
 灯:「あのね・・・・・自分で言うのもなんだけど、金持ちの子供は大抵自分の親や尊敬に値する人の事を『様』付けするの。分かった?」
 
 奈緒:「あ────うん。何となく理解した。納得はいかないけど・・・・・で、俺はこの人を『お父様』って呼べばいい訳?」
 
 オッサン:「ははは・・・・・奈緒君。無理して呼ぶ必要はないよ。灯ちゃんが決めた設定も『親子』じゃなくて『親戚(叔父と姪)』って事にすれば『さん』付けだけで済むはずだしね」
 
 奈緒:「そ、そうですよね。じゃあ・・・・・・ってあれ?」
 
 灯:「ん?奈緒ちゃん、どうかした?」
 
 奈緒:「そういや俺。この人(オッサン)の名前聞いて無い。」
 
 オッサン・灯:「「あ──────。」」
 
 まあ、自己紹介の時、『紅葉寺さん』としか教えられてなかったからな・・・・・・・。
 
 ちなみに下の名前は『弦在(げんざい)』っていうらしい。
 
 
  
 そして灯と弦在さんと別れ、その際自宅から3〜4駅くらい離れた大きな商店街へ送ってもらった。家に送ってもらってもよかったんだけど今日の夕飯は俺が作る役割になっている上に今、家の冷蔵庫の中はほとんど空っぽに近い。ので、食材が安く質の良いこの商店街に来たわけだ。まあ、学校からも結構離れているから顔見知りに見られても誰も俺(奈緒)だと分からないだろう。・・・・・・・・多分。
 
 奈緒:「えーっと、今晩の希望メニューは───────────」    
 
 祐貴───カレー
 藍────シチュー
 浩────ハヤシライス
 父さん──肉じゃが
 母さん──「なんでもいいわ♪」
 
 奈緒:「統一しろよお前等・・・・・・。」
 
 まあ共通している食材がニンジンとジャガイモ、玉ねぎ、そして肉系か。うーむ・・・・・とりあえずルー(カレー、シチュー、ハヤシ)だけ全部買っとくか。
 
 ということで、もうすっかり不可解ながらも慣れてしまったスカートをなびかせながらスーパーへと足を運んだ。


 
 明:「と、こんなもんか?」
 
 と、両手いっぱいの荷物をぶら下げて商店街を練り歩く。ちなみにその両手いっぱいの荷物の中身は
 
 『人参10本、玉葱15個、豚もも肉450g、ピーマン1個、青梗菜(ちんげんさい)2束、タラの切れ身200g、ザ・ソース1個、その他色々・・・・・』
 
 母親からのメールでは食材のみだけ表示されてて、個数などは一切書いてなかった。その上、明はこういう食べ物系の買い物はお菓子以外した事がない。故に数にバラつきが生じたのである。ちなみに『ザ・ソース』とは世界で一番辛い調味料らしい。在庫処分セールで目に入ったため買ってみたらしい。
 
 明:「さすがに買いすぎだよな。でもこれだけあれば2,3日は持つだろ。」
 
 と気合いを入れて、食材の入った袋を肩に担いで来た道を戻る。すると50メートル先の路上に一つのベンツが駐車してあった。こんな所にベンツがあるのは珍しいのでちょっと拝見。車に詳しくない明(まだ17歳)でもちょっと興味はあるようだ。
 
 明:「うわっすげ!『ゼガル』のベンツかよ!?」
 
 と、近くでマジマジと2,3分くらい見ていたが、これ以上ここにいると不審者扱いになりそうなのでさっさと帰る事にした。
 
 
 
 
 
 ──────────明が去るその後ろでは奈緒と弦在がこれまた両手いっぱいの荷物を手に、ベンツに乗り込む。
 
 奈緒:「す、すみません。さっき車から降りて別れたばかりなのに。」    あはは、と苦笑いする。
 
 弦在:「いや、どうせ今日は仕事休みで帰るだけだったしね。それに可愛い娘(設定上)のお願いを聞くのが親の務めってもんだよ。」
 
 奈緒:「・・・・・そのセリフ。俺の実父が聞いたら怒りますよ?」
 
 弦在:「あ、こりゃ失敬。」
 
 
 
 
    
 明:「お、重い・・・・・・・・」
 
 さ、さすがに買い物しすぎたこの量で家に帰るのはかなり無理があるんじゃないかと俺は思う。
 
 と、ぶつくさ言ってる間に、また袋から玉葱がコロコロと転がっていく。
 
 明:「っだよもう!」
 
 キレそうになりながらも両手の袋を下ろし、玉葱を拾う。と、視界の先に見覚えのある車が目に入った。さっきのベンツじゃないか。
 
 こっちに向かってくるので何となくどんな奴が乗ってるんだろうとさりげなくその視線を車の中の人物に目を向けた。
 
 一人は運転席に乗って運転している中年〜初老の男性。それとなく金持ちっぽい風格にかなり納得。ん?後ろにも誰か乗っているのか?と今度は直視する。
 
 明:「ああっ!!!」
 
 そこに乗っていたのは何と、明が探していた人物、そう『紅葉寺 奈緒』だった。
 
 や、やっぱり奈緒ちゃんはここにいたんだ・・・・・・となると前で運転してるのは執事か父親か?
 
 とか考え込んでいる間にも車は明から遠ざかる。
 
 明:「くっ・・・待て!」   急いで追いかける。
 
 ───────しかし当たり前ながら人の足で車に追い付ける訳もなく次第に車は明の視界から完全に消えた。
 
 
 
 
  
 奈緒:「ん?」  
 
 どことなく自分を呼ぶ声が聞こえたので周りを見渡した。が、当然のようにそこには自分たちには関係のない車や通行人がいるだけだ。
 
 弦在:「ん?どうしたんだい奈緒ちゃん。」   
 
 奈緒:「あ、いえ、何となく誰かが俺を呼んだ気がして・・・・・」
 
 弦在:「そ、そうか。」


  
 夜(煎杜家にて)───────────────
 
 藍:「お、お姉ちゃん・・・・・・・」
 
 裕貴:「これはさすがにちょっと・・・・・・・」
 
 双子が唸っているのは目の前の鍋に入っている流動物のようなもの。
 
 浩:「カレーか?色は?」
 
 戎壱(父さん):「でもカレーの匂いしないぞ?」
 
 麻奈華(母さん):「あらあら。インゲン豆にタケノコとコンニャク・・・・これは肉じゃがの食材ね。」
 
 藍:「この大量の玉葱は何?」
 
 浩:「ああ・・・・多分俺が入れたハヤシのやつか。」
 
 裕貴:「何かルーの量に対して具が半端なく多いんだけど・・・・・」
 
 戎壱:「・・・・・うわ。豆腐と・・・・これは挽肉・・・・・か?」
 
 麻奈華:「奈緒ちゃん。一体どうしてこんな事になったの?」         
 
 奈緒:「いや、それがさ──────────」
 
 
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 要するに奈緒が料理していた時、その奈緒の後ろでは藍と裕貴が喧嘩していたのだ。もちろんカレーかシチューにするかの喧嘩で。
 
 奈緒にとって沖縄に行った時、お祖父(お店)のカレーを腐るほど食べたのでしばらくは流動系(カレーやシチューなど)は止めようと肉じゃがにしたのだがそこに藍と裕貴が大ブーイング。さすがにうるさいと説得に当たっているうちに浩がやってきてハヤシライスのルーを肉じゃがの入った鍋に投入してしまったのだ。当の本人はその時、
 
 浩:「あれ?カレーとシチューじゃないんならハヤシじゃねーの?」
 
 奈緒:「いや、今日は肉じゃがにしようとしたんだけど・・・・・・・」
 
 浩:「・・・・・・・・」
 
 藍・裕貴:「「あ───!お(兄ちゃん)ずるい!私(俺)も入れるー!!」」
 
 ボトンボトン(カレーとシチューのルーが同時に入った音)・・・・・・
 
 奈緒:「あ──────!!」
 
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 
 
 麻奈華:「そう。そんなことが・・・・・・・」
 
 戎壱:「ん?それじゃあこの豆腐と挽肉は何だ?」
 
 浩:「それなんだが───────」
 
 
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 結局肉じゃがにハヤシ、カレー、シチューのルーが入ってしまった今夜のオカズ。試しに今日の料理担当の奈緒、直接的に原因を作った浩が味見。すると、
 
 奈緒・浩:「「ごふっ!?」」    未知以前の味がした。
 
 バタリ・・・・・・(T・K・O)
 
 藍:「お、お兄ちゃん!?お姉ちゃん!?」
 
 裕貴:「やばい。二人とも泡吹いてるぞ。」
 
 とりあえず倒れている二人を椅子に乗せ、藍と裕貴は途中まで肉じゃがだった鍋を見つめる。
 
 裕貴:「さて、どうしようコレ?」
 
 藍:「どうしようって私達料理出来ないよ?」
 
 裕貴:「かといってこのままコレを放っておくわけにはいかないだろ?」
 
 藍:「だよねぇ・・・・」
 
 と言って裕貴は徐に冷蔵庫を漁り出し、
 
 裕貴:「こうなったら俺等でこの産業廃棄物(?)を何とかするしかないだろ!」
 
 藍:「・・・・裕ちゃん、最近出番ないからといって暴走しすぎじゃない?」
 
 裕貴:「いいからやるぞ。ほら豆腐にミンチ、パスタにツナ缶。その他色々入れてみるか!」
 
 藍:「何かもう取り返しのつかないような感が・・・・・・」
 
 
 
 二十分後───────────
 
 奈緒:「・・・・うっ、何だ・・・・この匂い?」   刺激臭に気付いて起きた。    
 
 藍:「お、お姉ちゃん。助けてぇ〜〜(泣)」
 
 裕貴:「・・・・・・・・・(気絶中)」
 
 奈緒:「おわぁ!? 何だこの闇鍋っぽい産業廃棄物は!?」
 
 藍:「えっとね。お姉ちゃん達が気を失ってる間、二人で鍋に色んな物を入れたらこんな感じに・・・・・・」
 
 奈緒:「ああ・・・・裕貴が味見したのか。」    気絶している弟を見て溜め息をつく。
 
 藍:「お姉ちゃん。これ、どうしよう?」
 
 奈緒:「いや、正直言ってもうどうしようもないと思う。」
 
 浩:「くはっ!? 何だこの刺激臭は!?」    浩も匂いで起きた。
 
 奈緒:「兄さん。これだよこれ。」
 
 浩:「うわぁ・・・・・。一体どうしたらこうなるんだ?」
 
 藍:「あ、あのね実は─────(説明中)──────。」
 
 奈緒:「で、どうしようかと悩んでたんだよ。兄さんはどうしたらいいと思う?」
 
 浩:「俺に振るなよ。・・・・・そうだな、いっそもう『闇鍋』で良いじゃないか?」
 
 奈緒:「食べたら100%気絶するって判ってるのに?」    気絶している裕貴を指差して言う。
 
 浩:「それだったら更に何か入れりゃいいじゃね?」
 
 奈緒:「まあ、それだったら何とかなるかな?」
 
 藍:「私的に更に酷くなるんじゃないかと思う。」
 
 浩:「物は試しだ。親父たちが帰って来るまでもうあまり時間もないしさっさとやるぞ。」
 
 そして兄さんは冷蔵庫をおもむろにあさぐり、あるものを取り出した。
 
 浩:「『豆板醤』!」
 
 奈緒:「いきなりそれですか!?」    ラベルには『本場四川州で作ってます』と書いてあった。
 
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 

  
 戎壱:「それで肉じゃがだったものが『闇鍋』になったのか・・・・・」
 
 麻奈華:「あらあら。もうこれは『闇鍋』じゃなくて『混沌(カオス)鍋』ね。」
 
 子供達:「「混沌(カオス)て・・・・・・」」
 
 戎壱:「我が娘奈緒よ。ちなみにこれ、味見したのか?」
 
 奈緒:「娘言うな!・・・・味見は兄さんに止められたからしてない。」
 
 藍:「ていうか『お姉ちゃん』って呼ぶのはいいの?私、お姉ちゃんの事もうずっとそう呼んでるけど?」
 
 奈緒:「知ってるけどお前の場合、もう手遅れっぽいからいい。せめて俺が男の時(今も男だけど)は『お姉ちゃん』って呼ぶなよ? おK?」
 
 藍:「出来そうにないけど頑張ってみる。」
 
 浩:「出来そうにないんかい(苦笑)」
 
 麻奈華:「さてと、それじゃあそろそろ『混沌鍋』を食べましょうか?・・・・・貴方達、作ったからには責任もって全部食べなさいね?」   
 
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・
 
 奈緒:「な、何か母さんの背景に阿修羅様っぽいものが見えるんですけど」
 
 浩:「ああ・・・・きっとあれは『ス●ンド』ってやつだろう。今機嫌を損ねたら『百●拳』とか来るかもな。」
 
 裕貴:「兄貴達、『スタ●ド』と『●烈拳』は別物だよ。」
 
 と、俺たちが現実逃避(時間稼ぎ)していると、
 
 「ピンポ───────ン!」
 
 藍:「あ、私が見てくる!」   と逸早く玄関に向かった藍。
 
 裕貴:「あいつ、逃げやがったな。」
 
 奈緒:「どうしてそうなるのさ・・・・」
 
 
 
 そしてすぐに藍は戻ってきたのだが、その表情はちょっと硬い。
 
 戎壱:「ん?どうした我が娘藍よ?一体誰が来たんだ?」
 
 奈緒:「父さんそのセリフ(我が娘)好きだね───(溜め息)」   ちなみに息子の事を『愚息』と呼ぶ。
 
 藍:「えっと・・・・お姉ちゃん。お友達が来たよ、明さんが。」
 
 奈緒:「・・・・・・・・・・・え゛?」
 
 浩:「ほう。もう沖縄から帰ってきたのか。早いな。」
 
 戎壱:「明君が来たのか?じゃあ、ちょっと俺が話でもしてこようかな?」   
 
 とさりげなく趣味のモデルガンをいじりながら玄関に向かおうとする糞父。
 
 裕貴:「親父!?何で獲物(銃)を持ってるの!?」
 
 麻奈華:「貴方。人の恋路を邪魔するとは何事ですか?」
 
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 戎壱:「じょ、冗談だよ麻奈華。冗談だからそのオーラの出ている右手をこっちに向けないでくれ(怖)」
 
 浩:「出た。『スタン●』!」
 
 奈緒:「てか『人の恋路』って何だよ・・・・・」
 
 と聞き捨てならないセリフが出たが来客してきた明をいつまでも待たす訳にはいかないのでとりあえず玄関に向かう。
 
 麻奈華:「左手は、そえるだけ☆ 『波●拳』(ハート)」
 
 戎壱:「そえたら駄目―!!」
 
 
 ドゴ──────ン!!!



 
 奈緒:「よ、よう。久しぶり明───つか黒!焼けすぎ!」 
 
 明:「うっせ! 旅費が足りなくて炎天下の中バイトしてたんだ!」
 
 奈緒:「にしては焼けすぎだろ。」
 
 明:「お前んとこの祖父さんに散々扱かれたからな。今、熱い風呂に入ったら死ぬ。」
 
 奈緒:「あはは、それは災難。」
 
 明:「それよりお前。その格好は何だ?」
 
 奈緒:「へ?その格好と言われても・・・・・・」
 
 今の俺の格好。体格は普段通り細く、ポニテにノースリーブのオレンジシャツ、そして生地の薄い半ズボンにサンダル。特に変な所はないよな?
 
 明:「いや、何ていうか・・・・・俺からの見た目。女子バスケの部員みたいな格好だぞ。それに何か・・・・・良い匂いがする。」
 
 クンカクンカクンカ・・・・・・・(奈緒の匂いを嗅ぐ音)
 
 奈緒:「んな!? 良い匂いって何だよ!? っていうか近い近い!(赤面)」    その距離わずか5cm。
 
 明:「は? 今更何恥ずかしがってんだ? 冗談に決まってんだろ?」
 
 奈緒:「じょ、冗談でもそういう事は止めろって! ほら、折角だからお前も夕飯食っていけな? な!(赤面)」
 
 明:「何か無理にでも食わす気満々な顔だな? 何だ、よっぽどの自信作なのか?」
 
 奈緒:「ああ・・・・・今日のは煎杜兄弟(妹)の共同合作だからな。」
 
 明:「そうか。じゃあゴチになろうか?今日は昼から何も食ってないからな。」
 
 奈緒:「それは重畳。いっぱい食ってけな。・・・・・・・・残すなよ?」
 
 明:「??? まあ、よそった分は全部食うつもりだが?」
 
 奈緒:「そうしてくれると嬉しいんだけどな・・・・・・(鬱)」
 
 明:「それはそうとさっきの凄い轟音は何だったんだ?」
 
 奈緒:「んを?ああ、さっき母さんの『●タンド』が発動したんだ。」
 
 明:「『ス●ンド』!?」


  
 明:「・・・・・・・・・・・何故に家族の夕飯で『闇鍋』が出てくるんだよ?」
 
 浩:「違うぞ明。これは『闇鍋』が進化した『混沌(カオス)鍋』と言うんだ。」
 
 明:「あんた等はいつの間にゲデモノ食いになったんだ?」
 
 奈緒:「・・・・・・事情を説明すると悲しくなるから聞かないでくれ。」
 
 明:「お前ん家はいつも楽しそうだな・・・・・・。」 
 
 麻奈華:「さてと、色々ありましたがそろそろ頂きましょうか?・・・・・・・明君遠慮はしないでもいいのよ?た〜〜〜っぷりありますからね☆」
 
 明:「は、はぁ・・・・・・」
 
 曖昧な返事をする明。そりゃそうだろう肉じゃがだったものが今や相撲取り達が使っているような巨大チャンコ鍋並みの大きさで入っている『混沌鍋』化しているのだから。俺たちだってそりゃあ現実逃避くらいしたくなるさ。
 
 混沌鍋からまず一杯ずつ器に盛っていざ処理にかかろうとした時、玄関のチャイムが再び鳴った。
 
 裕貴:「こ、今度は俺が行く!」
 
 奈緒:「大した時間稼ぎにもならないのに御苦労なこった・・・・・」
 
 
 
 そしてまたもや数十秒後、すぐに裕貴が戻ってきた。
 
 裕貴:「ね・・・・奈緒兄。また友達が来てるぞ。今度は4人。」
 
 奈緒・明:「4人?」
 
 灯:「ヤッホー☆」
 理奈:「ど、どうも・・・・・」
 和也:「は、腹減った・・・・」
 智香:「は、はじめまして・・・・・」
 
 奈緒:「何でお前らがここに?」
 
 理奈:「それはね・・・・・・」
 和也:「腹減った・・・・・・」
 智香:「奈緒っちその格好可愛い!!」
 灯:「えっとね、浩さんに御呼ばれされたの。何でも緊急事態だって言われて。」
 
 奈緒:「確かに緊急事態ではあるんだが、事情は聞いてないのか?」
 
 理奈:「聞いてないよね?」
 和也:「早く食わせろぅ・・・・・」
 智香:「・・・・・・!!!(パシャパシャ×∞)」    ←カメラを切る音
 
 奈緒:「撮るな!」
 
 灯:「で、浩さん。緊急事態って何ですか?」
 
 浩:「あ、いや、その・・・・・あれだ。」    と指差したのは混沌鍋。
 
 理奈:「鍋? こんな時期に?」    
 
 奈緒:「それはちょっと成り行きで────だから撮るなって智香! あとそこの裕貴と父さんも撮るな!しかも動画(ビデオ)撮影で!」
 
 裕貴・戎壱:「・・・・・・(REC中)」
 
 和也:「うううう・・・・・・ん、あれ?何で明がここに居るんだよ? つかいつの間に帰って来たんだ?」
 
 明:「今日の昼過ぎだ。・・・・・和也ちょっと聞いていいか?」
 
 和也:「うぃ?」
 
 明:「那雄の事だが、ちょっと見ない間(約三週間)にかなり女っぽくなってないか?」
 
 和也:「ああ・・・・それは俺も同感。なんせここに帰ってきてバンドの自主練の時に『ナオちゃん同好会(長いので省略)』の連中に毎日女装されまくってたからな。」
 
 明:「そ、そりゃ災難だな・・・・・」
 
 和也:「ああ、奈緒のボディガード代わりになってた誰かさんがどこか行っちゃった所為でもあるんだけど?」
 
 明:「それは俺か!?」
 
 和也:「誰もお前とは言ってねえ。それに俺に被害はないしな。実質被害者は奈緒(&たまに理奈も)だ。」
 
 明:「くっ・・・・・まあいい。麻奈華さん早く食べても良いでしょうか?」
 
 話題を打ち切るため、向こうでも夫婦で会話(いちゃいちゃ)していた麻奈華さんに声をかけた。
 
 麻奈華:「・・・・・そうね。いつの間にか私も現実逃避していたみたい。ではお嬢さん方も席について。藍ちゃん、器を持ってきてくれる?」
 
 藍:「アイアイサー☆」    トテトテと台所へ消えていく。


 
 智香:「こ、これは・・・・・・」 
 
 灯:「まさしく『混沌(カオス)鍋』・・・・・・」
 
 奈緒:「だ、大丈夫だって。ちゃんと食べられる物しか入れてない・・・・・・はず?」
 
 理奈:「何故そこで疑問形!?」
 
 浩:「あ────俺と奈緒。途中で味見して時、気絶したからな。その間、この二人が追加で色んな物を入れてたらしい。」
 
 藍・裕貴:「「えへ☆」」    舌を出してポリポリ頭をかく双子。
 
 明:「その後も味見はしてないんだよな。」
 
 奈緒:「兄さんに止められました。」
 
 浩:「今、戦闘不能になられても困るからな。」
 
 智香:「ちなみに副会長(浩)。味見の時はどんな味でしたか?」
 
 浩:「・・・・・・ノーコメント。」
 
 灯:「わ、私、急に用事を思い出したからこれで・・・・・・」
 
 全員(灯以外):「「「帰すかボケェェ!!」」」
 
 全員で拒否りました。
 
 戎壱:「と、とにかく食うぞ。一人1〜2杯くらいいけばすぐに完食できるはずだ。」
 
 理奈:「和也はいつもよりお腹空いてる筈だから3杯はいけるよね?」
 
 和也:「お前は俺を殺す気か!?」
 
 智香・理奈・灯・奈緒:「「「「大丈夫、さあ前に進もう〜〜〜♪」」」」
 
 和也:「歌うな!」
 
 浩:「コラコラ、脱線してないで今度こそよそうぞ。」
 
 
 
 
 ────────────全員に配分しました────────────
 
 裕貴:「うわぁ。自分で作っておきながら凄い匂いだ。」
 
 理奈:「甘いような、辛そうな・・・・・?」
 
 灯:「ニンジン、タケノコ、鶏肉に・・・・豆腐?」
 
 明:「この微妙に豆に糸引いてるのは何だ?」
 
 藍:「あ、それ納豆です。」
 
 智香:「うげぇ。あたし納豆嫌い。」
 
 奈緒:「大丈夫だ。ここまで食材をぶちこめばもう味なんて分かんないって。」
 
 和也:「何かもう色々と駄目じゃねーか。」
 
 浩:「んじゃあ、みんな心の準備はいいか?全員一斉に食うんだぞ?誰かが食べてからじゃ絶対に減らないからな。」
 
 麻奈華:「・・・・・・浩君。何で手が震えてるの?」
 
 戎壱:「よく見れば奈緒の顔もあまり優れない感じが・・・・・」
 
 奈緒・浩:「「ダイジョウブ。クエバワカルサ☆」」
 
 全員(奈緒・浩以外):((何故カタコト・・・・・?))
 
 奈緒:「と、とにかくいい加減に食べるぞ。食べる前に相当な文章を削ってる訳だからな!」
 
 浩:「リアルな話だな・・・・・。さて、みんな・・・・・・行くぞぉ!!」
 
 全員:「おう!!」
 
 
 
 パクッ─────────────────────────
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 明:「お!? 以外に美味い?」
 
 理奈:「うん。甘みと辛み、ダシ(?)もコクもあって・・・・・・」
 
 灯:「今までに食べた事のない味だわ・・・・・」
 
 和也:「ガツガツガツガツガツ・・・・・・・・・」      ←大量に口にかきこむ音
 
 智香:「あれ?奈緒っち、箸が止まってるよ?」
 
 奈緒:「あ、いや。さっきの産業廃棄物からどうやったらこんな味になるのか考えててな・・・・・・」
 
 浩:「ああ、俺も同感・・・・・・」
 
 裕貴:「やっぱり俺の『アレ』のおかげだろ!?」
 
 藍:「違うもん!私が入れた『アレ』が隠し味に・・・・・」
 
 麻奈華:「・・・・・・藍ちゃん?ちなみに『アレ』って何かしら?」
 
 藍:「えっと・・・・・これ『ガム・デン●ルリンス』」
 
 麻奈華:「え・・・・・・?」
 
 戎壱:「うーむ。本当に良くダシ(?)も取れて────ゴファ!?」
 
 全員(戎壱以外):「!?」
 
 戎壱:「ゴホッ! ゴホゴホ・・・・!!」
 
 麻奈華:「あ、藍ちゃん・・・・・。さすがにこれはマズイわ。」
 
 藍:「え?そうなの?ミント風っぽくしようとしたんたけど・・・・・・」
 
 
 ※:『ガム・デンタルリ●ス』
 歯周病を防ぐ効果がある成分が入っている医療品。朝起床した時など、口に含んでうがいすれば寝ている間に増えた雑菌もイチコロである。決して調味料ではない。
 
 
 奈緒:「と、父さん。一体どうした?」
 
 戎壱:「ゴホッ! く、口の中がスパークした。まるで刺激の強い歯磨き粉を丸ごと飲んでしまったかの様な感じだ。」
 
 浩:「多分鍋のダシと混ざらないで浮いていたんだろうな。そして運悪く親父のよそった器のダシに多く入ったんだろ。具自体は別に悪くないはずだ。」
 
 理奈:「そ、そうだよね。その部分を回避して食せば何とか─────」
 
 和也:「グハァッ!?」
 
 バタン────────────────────────
 
 智香:「うわ!?カズヤンが大変な事に!?」
 
 灯:「口から何かいっぱい固形物が生成されてるよ!?」
 
 浩:「ぬお!?何か甘い匂いがする。お菓子っぽいなこれ・・・・・・ああ、カルメル焼きみたいな感じだな。」
 
 麻奈華:「裕君。貴方は何を入れたの?」
 
 裕貴:「ふ・・・・俺が入れたのは、これだ!」
 
 と、裕貴が出したのは『白い粉』。
 
 
 ・・・・・・・・・・・。
 
 
 浩:「裕貴。そこにいる親父と一緒に警察署に行って出頭しろ。」
 
 奈緒:「うう・・・・うちの家族からまさかの犯罪者が・・・・・」
 
 裕貴:「え? ええ!? ち、違うよ!これは『重層』だよ! ほら、この前ねえ・・・・奈緒兄のケーキ作りとかで入れてたやつ。」
 
 智香:「・・・・・・・何で『重層』?」
 
 裕貴:「いや、これ入れたらケーキみたいにブクブク膨らむんじゃないかなーって藍と話してたんだよ。膨らまなかったけど。」
 
 理奈:「当り前じゃない・・・・・・」     和也に膝枕しながら言う。
 
 藍:「でも何で今頃、しかも口の中から出てきたのかな?」
 
 明:「多分、色々混ぜすぎた結果。そして一気にかきこんだ和也の胃の中で化学反応を起こしたんだろう。」
 
 灯:「まるで科学の実験みたいね・・・・・・」
 
 浩:「これはもう駄目だろ絶対に。・・・・・・・母さん。どうする?続けるか?」
 
 全員の目が母さんに集中する。
 
 麻奈華:「そうね。これ以上やると死人が出る危険性もあるものね。仕方ないわね、ここは出前でも取りましょう。」
 
 全員:(最初からそうしてくれればよかったのに・・・・・・)
 
 救急車で運ばれるとしたら搬送先は全員恐らく母さんが経営している栂野病院だろう。
 
 ────────────────次回へつづく。
 
 ※:長くなりそうなので、この後の展開は次回に持ち越しです。


 
 佐夜:「な、長かった・・・・・・」
 
 奈緒:「確かに長かったね。」
 
 浩:「前回の掲載(第十話)から4、5ヶ月くらい経ってるんだもんな。」
 
 灯:「あなたは一体今まで何をやってたんですか!?」
 
 佐夜:「だって忙しかったんだもん! 試験やら進路とかバイトに課題、夏風邪も引いたしその他の事情もあって執筆する暇もなかったんだよぅ!」
 
 和也:「つか俺達いつになったら学校(2学期)始まるんだ?」
 
 理奈:「そうだね。こ●亀『エンドレスストーリー』じゃないんだから・・・・・・」
 
 佐夜:「分かってるよ! この後に続く一話で夏休みが終わる予定なんだから。」
 
 明:「終われば良いんだけどな・・・・・・・」
 
 佐夜:「で、ではまた次回に〜〜〜(汗)」

 
 
 
 ってな事で十一話になりました。はい拍手〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。空しい事はこれくらいにして、話の内容に行きましょうか。
 
 今回でやっと煎杜家とバンドのメンバーが揃いました。若干生徒会のメンバー(智香)が入っていたけど気にしない気にしない。
 
 奈緒の『女性化』は現在のところ明と智香以外は知っており、事情を知ってる人間は奈緒を男と女、どっちで扱ってるかは皆さんの想像にお任せします。
 
 料理の失敗作『混沌鍋』については単純にカレーはインド、シチューとハヤシは欧米(洋風)、肉じゃがは日本(和風)、豆腐と挽肉豆板醤で中国(中華)そしてその他諸々の食材を集めた地球料理になりました。とどめの『ガム・デンタル●ンス』と『重層』が入っていなければまともに食べられたのかも知れません。作る気にもなりませんが。
 
 ※:ちなみにこれらの食材を全部集めると材料費がバカにならないため、真似しないでください。しないと思うけど・・・・・・
 


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