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 たったひとつ、悪魔が起こした出来事。
 その悪魔は何故、自分と言う存在を選んだのか。
 意識の中に、新しい一つの鼓動。渦巻く嫌悪。気が付いた頃にはもう遅い。
 ほんとにどうでもいい、虚しい日に、偶然か必然かどうかも分からない「事」が起きた。


change
作:koro


 昔、悪魔にあった。少女のような。少年のような。いや、悪魔にその定義は通用しないか。
 俺はそいつを悪魔と知らなかった。いや、知り得なかった。
 悪魔は俺に、交渉してきた。
「人生楽しくないなら、変化。欲しくない?」
 透き通った声には裏があるのかさえわからない。
「いらないよ、そんなもの。偽者は嫌いなんだ」
「偽者? 君はそう捉えるんだね。面白い捉え方だ。でも違うよ。変化は偽物じゃない」
「何故?」
「だって、本物が無いときの変化は、『誕生』になるからさ。本物に変化があればその変化は立派な『本物』さ」
 そのコトバは、呪いのコトバ。人生を『変化』させた、呪いのコトバ────



 夜は好きだ。自分が照らされないから。
 昼は嫌いだ。見たくないものが見えてしまうから。
 高田圭吾という人間には好き嫌いをハッキリさせようとする、変な癖があった。
 今では仕事で話す機会が少なくなった親に注意される時はいつも、
「食べ物の好き嫌いならいくらでも聞いてやれるのに……」
と、皮肉交じりに注意される。他人になんと言われようが、偽りの自分を演じるのは大嫌いだ。そして、それを演じている
他人にも嫌気がさす。
 こんな性格が災いしてか、「友達」という物は一人もいなかった。いや、正確には居たっけ、変なのが。
まぁ、人間支えられるものが居なくても生きていけるもので、自分にはむしろその方が嬉しいとさえ感じられる時もあった。
 朝、まだ覚醒してない頭を無理やり起こして、目を覚ます。
「……まだこんな時間か」
 といっても、いつもよりも30分ほど早めに起きただけなのだが。
 二度寝するのも面倒なので、暖かい布団からオサラバする。
 歯磨き顔洗いと、朝の儀式をすましてから自分の部屋に戻る……と、いけない、飯が先だ。
 ダイニングの扉は開いていて、そこから見える机に、
「圭吾へ ごめんネ、寝坊したからこれで朝ごはんお願い 母より」
と、メモの横に野口さん。稀にあることなので気にしない。
 学校の進行方向と逆にある店に買いにいくのもめんどくさいんで、コレは昼に回そうか。
 まだ学校へ行くには時間があるが、家に居ても暇なので着替えて幾分か早めの登校。
いつもの通学路にはいつもの道が続いていて、この世がいつもと変わらない事を物語っている。
「……ん?」
 違和感。
 といっても一瞬脳裏によぎっただけなので、気に止めずに歩を進める。
 5分くらい歩いたところで気がついた。カバンもってねぇ。アホか、俺。
 家に戻ると、鍵が開いていた。
 スゲェ、今日の俺って超無用心。
 少なくとも荒らされた形跡なし。まぁ、10分の間に空き巣なんぞあるわけないか。
 カバンを手にしてまた家を出る。今度は鍵を閉め忘れずに、と。
 昔から、ここの道は変わらない。変わったと言えば家がぽつぽつと増えてきたことぐらいか。
 静かで、結構気に入っている道が通学路というのは、朝から気分を良くさせてくれる物である。
 う〜ん、前のと大違い。
 ぐぅ。
「……ホントにアホか、俺」
 途中でパンをくわえた少女に道の角でぶつかる事も無く、無事学校に到着。
 校門に入り、少し歩いたところにある下足場。靴の無い靴箱は、少し寂しい哀愁をただよわせていた。
 朝、いつもより早い学校はこんなにも静かなものなんだと実感。
 自分の教室は3階にある。
 いつもと同じように自分の教室の前に着き、ドアを開けて足を前に……
「っ!?」
 何だ。この目の前にある光景は。理解するのに時間がかかった。
 まず、いつもはキレイに並べてある机はまるで、ゴミを寄せるようにして教室の隅に置かれていた。
 その上に、マネキン? 違う。体をナイフのようなもので何度も刺されたような傷跡がある、正真正銘の人間が捨ててあった。
 そして、その横には生きている人間。手にはナイフ。
 この状況、逃げないと。でも足が動かない。こんな時にチキンな俺。
 こちらに気づいたのか、顔だけ振り返ってこちら側をみた矢先、血走った目を向けながらこちらに歩いてくる。
 20代くらいの女だった。
 マズイ。マズイ。
 自分と女が人一人ぐらいの距離になった所で、女は俺の胸倉を思い切り引き教室に入れた後、ドアを閉められた。
「お前、一人で来たのか?」
 女が発した声は、震え、狂っていた。正気じゃない。少なくとも「普通」の人間じゃ出せない。
 質問は、他の奴と一緒に来たか。否。コクコクと頷く。
「嘘だったら承知しない。本当に、一人で来たのか?」
 女はしつこく尋ねてくる。
「……嘘は嫌いです」
 目の前にある「恐怖」で、不安定で震えた声しか出なかった。
「まぁ、いいや。お前は違う」
 女はそういうと、俺の体にナイフを入れた。
「──────っ」
 突然の事で、声にならない。悲痛な叫びが自分の頭を埋め尽くす。
 痛い。
 いたい。
 何で? 刺されたから。
 間髪いれずにもう一回、一回と、自分の体に痛みが走る。
 やめてくれ。誰にも、何も言わずに立ち去るから。お願いし────……
 ショックで意識を失った体を、女は机の方に捨て、誰かを探すように逃げていった。




「くそ! くそ! あああああ! いない、いないじゃないか!」
 女は、家の中で叫んでいた。
「私の人生、返してよ……!!!」
 ふと、足音。
「誰!」
 振り向いた先には、悪魔が居た。


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