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 あのあと自分がどうなったのであろうか覚えていない。

 あの男に殺されてしまったのであろうか。

 それとも生きてるのだろうか。

 それも自分には分からない

 その身が変わっていることも知らない……


 



 君が思う心

 第一章【転生】
 作:Hidden-Seek


 自分は今黒く、深遠なる場所にいる。
 そして、自分は走ってる。あの男に追いかけられてる。
この俺から逃げられる思うなよ!!!
 来るな!!
見られたからには、貴様には死んでもらわんと困るんでな
 来るな!!!
この俺に会ったこと後悔をしとけよ
 来るな!!!!

 バサ

「……ここは」
 そこは自分の部屋でない綺麗な場所だった。病院なのだろうと優は思った。時計は既に十二時を過ぎていた。
「はぁ……さっきのは……夢……か?」
 いやそうではなかった。あの記憶は残ってる。夜学校へ行ったこと、あの殺人鬼に会ったこと、そしてあの男に刺させたことも……
「……!!! そうだ僕はあの男に殺されたはず……確かあの時、心臓を刺されて」

 ムニュ

「ん?」
 優はその時体の違和感に感じた。あの男に刺されて傷はどうなっていたのかを確かめるために胸の辺りを触れてみたら、柔らかい感触と音がした。
「?」
 触った場所を見てみると、胸の辺りが膨らんでいた。男の自分が女性みたいな胸を持っているはずがない。
「んーなんかさっきから声が高いな」
 声の方もおかしい、さっきから自分の声のトーンが高い。女性みたいな甲高い声になっていった。
「……ま……まさか……いやそんなはずはない」
 もしや自分は思ったが否定し続けた、否定はしたがもしやと思い、病室にあった鏡を恐る恐る見てみた。
「……これが……僕?」
 優はあまりにも驚愕をした。
 顔は男の優の面影はあった。髪は銀糸で細やかで腰まで髪が伸ばしてあった。目は青色だが、その色は深海の底の色のようだった。
「はは……冗談にもほどがあるってそれはないか」
 冗談かと思ったがそれはないと思った。実際に自分がここにいるのに自分ではない存在が鏡を通して見えている。
「……屋上行って空気吸ってこよう」
 そう言うと優は屋上へと向かった。





「ふぅー風がいいや」
 屋上の風が涼しいので落ち着いたところで優は考えて見た。自分はあの男に刺されて死んで、で何故か女性になってしまった。
「ホント、これからどうしよう」
「なにしけた面してやがる」
「え?」
 声のする方へ向いて見ると、黒髪でショートヘアーの女性がいた。多分ここの医者であろう。
「あなたは?」
 優がその女性に尋ねてみると
「ああ、ここの医者やってる須藤奈央(すどうなお)だ、であんたの名は?」
「え? えーと」
 須藤に名前を聞かれたので慌てた。自分はいちようここの入院患者なので、面倒は起こしたくない。
「まぁいい、そんなことよりも『これからの人生どうしよう』って面していなかったか?」
「う」
 須藤が優の心を見ているかのように読んだ。
「図星……みたいだな」
「……まぁ、そんなことを考えていましたから」
「……あんた歳は?」
「16ですけど?」
「人生まだあるんじゃないか、何そんなに暗い面してるんだい」
「そんなこと言ったって……」
 須藤のそんな励ましをされても自分にはこの先どうすればいいのか分からなかった。
「あんた、自分の人生どう思ってるの?」
「え?」
「あんたに何があったかは知らんが、それでいいのか?」
 須藤が問う。
「ここで死んだら、あんたはどうでもいいかも知れんが家族はどうなるんだい?」
「……」
「悲しんでくれる人達がいるんだ。今ここで死ぬなよ。まぁ私にはもういないけどな」
「……」
 優は少し俯き、考えてみた。そして、須藤を見て言った。
「これからどうなるかは知りませんが、がんばってみます」
「おう、その意気だ」
 自分がこの先どうなるかは自分でも知らない。しかし、前に進まなければ意味はないそう思った。
「ではこれで失礼ます。家族の方も来てるかも知れませんし」
「おう」
 そう言って優は須藤の方へお辞儀をし病室へと戻った。
「……」
 須藤はポケットからドリンク剤のビンを取り出すとふたを開け、中のモノを飲み干した。
「ふぅ、やっぱお手製の栄養剤に限るわ」
 飲み干したビンはふたを閉め、ポケットに戻した。
「さて、これからどういう行動するのかな? 鴇凪優くん」
「先生!! 須藤先生!!」
「ん?」
 須藤は声のする方へ向いた。息を切らしている看護士の方がいた。
「先生こんなとこにいらしていたんですか」
「どうした? なんかあったの?」
「先日入ってきた患者について他の医師達が剣幕した様子でしたよ」
「あちゃー、勝手にやっちゃのがまずかったか」
 須藤はなにかとんでもないことをやらかしたが、本人はあまり困った様子ではない。
「すぐ戻って下さい」
「はぁ、またくそじじぃ達の説教かよ」
 そう言いつつ、須藤と看護士は屋上から立ち去った。





「それにしてもなんでこんな体になったんだ?」
 すっかり忘れていたが、どういう経由でこんな事になってしまったのが自分には分からなかった。
「とりあえず、もう一回寝るか」
 優はまだ疲れがあるのか、もう一眠りをしようと病室の扉を開けると……
「優ちゃんどこ行ってたの!!」
「ふぇ?」
 病室には母の三由と秋枝、春日がいた。
「姉さん!!それに母さん!!どうしてここに?」
「家族の見舞いに行くのは当然だろ!!」
 秋枝が言った。そして須藤のあの言葉を思い出す
ここで死んだら、家族はどうなるんだい? 悲しんでくれる人達がいるんだろお前は、今ここで死ぬなよ
 そうだねと心そう思った優だったが、一人足りないことに気づく。
「あれ? 父さんは?」
 さっきから父、紅影の姿がどこにも居ないのだ。
「あ……あぁ……」
 三人ともばつを悪そうな様子だった。そして母の三由が言った。
「実は紅影さんはね……落ち込んでるのよ」
「え? どういう事?」
 状況は把握できない優だったが、秋枝が事情を説明した。
「父さん、優がそうなったのは自分だって責めてるんだ」
「あ」
 優はその事情を聞いて思い出した。あの晩、学校に行くことを父に止められたこと、自分は大丈夫だからだと行ってしまったこと、結果こうなってしまったこと。
「……父さんはどこなの?」
 父はどこに居るのか秋枝に聞いてみた。
「行ってみればわかると思うよ」
「空気……重すぎるんだよなぁ」
「他の患者さんには影響はないはずだけど……」
 三人はため息をついた。話から推測すると、かなりの落ち込みだと優は思った。
「んじゃぁちょっと父さんのとこ行ってくるよ」
「いってらっしゃーい」
 そう言うと優は父はいる場所へと向かった。
「で母さんどうする? これ?」
 そう言うと秋枝は手に持っている紙袋を指差した。
「そうねぇ、紅影さんのとこ行ってみましょうか、優ちゃん達の様子を見に行きたいし」
「賛成!!!」
 秋枝、春日ともに賛同した。





「……しまった、場所詳しく聞くの忘れてた」
 いまさらながら優は、父が何処にいるかを秋枝達に聞くのを忘れてた。
「まぁ、行けばわかるって言ってたしそこら辺探せばわかるは……」
 とその時、辺りの空気が異様な重さを優は気づいた。
「……こ……このことか」
 周囲の空気がよどんでいた。
「……と言うことはこの近くに父さんが……いた!!」
 辺りを見渡してみると、父らしき背中があった。しかもこの空気が重い原因も父から発することも分かった。
 優は父がいる方向へと歩みより、声をかけた。

「父さん?」
「ん? ……優なのか?」
 父、紅影は声のする方向を見た、その雰囲気から優だと気付くのには時間は要らなかった。
「うん……」
「そうか……」
 優がうなづくと、
「隣……いい?」
「ああ……いいぞ」
 そう言って父の隣に座った。少し間をおいて優は言った。
「父さん……ご免なさい」
 優が今回の件についてのことで詫びたが、
「なんで優が謝るんだ」
「だって、あの時父さんの言う事を聞いていれば……こんな事にはならなかったんだよ!!」
「けど、優は行ってしまった。自分も一緒に行っていれば、あんな思いはしなかったはずだ」
 そう言うと父は優の頭をなでた。
「そう悪いのは私だ、優じゃない」
「けど……父さん」
 そう言って優は顔を俯いて言った。
「父さんは悪くないよ悪くないんだよ」
「優……」
 優の顔には涙が滴った。父、紅影は悪くはないとその直後……
「え?」
 父の腕が優の背中を抱いた。
「それもそうだな、優はまだ死んではいない生きているんだ。だって、目の前にいるんだからな」
「父さん」
 そう言うと優の顔にまた涙が滴ったが、悲しみの涙ではなかった。喜びの涙であったのだ。
「あの〜紅影さん、優ちゃん」
「ん?」
 何故か聞き覚えのある声がしたので、二人はそちらに向いた。
「三由何でここに?」
「母さんそれに姉さん達まで……」
 そこには母の三由と姉達の秋枝と春日がいた。
「い……いつからそこに!!」
「えーと、最初っから?」
「ってことは全部見てたの!!」
 三由がそう答えると、優は少し顔を赤くした。
「でも父さん、優の言うとおりだよ」
「そうそう、優はここにいるんだから」
「姉さん……」
 姉さん達がそう言うと、優は少し良かったと思った。
「えーと、話している途中ですみませんがちょっといいですか?」
「ん?」
 声のする方を見てみると、二人組の男達が居た。
「おやおや、こんなことに何しに来たんですか? 伊藤警視に野元警部」
 どうやら父の知り合いらしい。
「いえ、ここに来たのはその娘さんにようがありまして」
「え? ……」
 伊藤警視が優の方も向きながら言った。優の方も驚いていた。何故刑事達が自分に用があるのか分からなかった。そして伊藤警視は優の方へと近づいて言った。
「優くん……だね?」
「はい……」
「今回君は私達が血眼で捜してる犯人を見たはずだ」
「……え?」
目撃者がいると厄介なんでな……死んで貰うぞ
「あの晩、君は用事があって学校に行った……違うかね?」
まぁ、死人に口無しだ、死ね
「いや……」
「思い出してくれ、奴がどういうなりをしていたのかを」
あの世で後悔するんだな
「いやぁぁ!!!」
 よみがえるあの光景、そしてよみがえるあの声、思い出したくもない、目の前の警視があの時のことを思い出させる。
「……やめろ」
 父がそう言うと優を再び抱きしめた。
「ひっぐ……ひっぐ」
「大丈夫私が付いているからもう大丈夫だよ」
 そう優しげに優に語った後、伊藤警視に向かって言った。
「警視……捕まえることはいいですが、優はあの時の記憶を思い出させないでください」
「鴇凪!! これはチャンスなんだ。奴の情報を持ってる娘が今ここにいるのだぞ!!!」
「それがなんですか!! 優は被害者なんだ!! あんな悪夢のような思いをまた思い出させるのですか」
 優はこの時、父の顔を覚えていた。優しい父が憤怒の形相だったことと父の細めの目が開いていたのだ。
 とその時だった。風切り音がし、伊藤警視の目の前を何かが通り過ぎ、壁に刺さった。伊藤警視は壁の方を見た。刺さっていたのは手術に使われるメスだった。そして今度は逆方向を向いて言った。
「誰だ!!!」
「あたしの患者に何やってるんだい?」
 声の主は須藤だった。なにがどうなっているか優には分からなかった。
「邪魔をするな!! 今大事なことをやってるんだ!!!」
「ほぉ人の心の中にズカズカ入り込んで挙句の果てにその娘の精神を傷つけるのがそんなにいいのかねぇ?」
「うるさい!! こっちだって奴を捕まえるのに必死なんだ!!邪魔をしない」
「伊藤警視」
 先ほどから姿が居なかった野元警部が警視に声をかけた。
「なんだ今取り込み中だ」
「いえ、さきに本部に連絡しようといたら直ぐ戻って来いって言われまして……」
「……なんだと」
「戻りますか?」
「……仕方がない、戻るか」
 そう言うと伊藤警視達は警視庁へと戻った。
 須藤は優へと近づき言った。
「さて、病室に戻るか。いろいろと説明しないとな。なんで自分の体がそうなっているのか」
 そう言うと先に優の居た病室へと行った。





「それにしても僕の体を治療したのが須藤さんだったなんて……屋上で話したときは一言も言っていないのに」
 何とか落ち着いた優は自分の体を治したのは須藤だったのに驚いていた。
「あの時はあんたもかなり滅入ってるから話は後にしたんだよ」
 病室には家族を含め須藤がいた。そして須藤が、説明をした。
「さて、どこから説明しようか……」
 少し須藤は考え、やがて口が開いた。
「……まず、ここに運ばれた経緯を説明しようか。覚悟は出来てるね?」
「……はい」
「よし、昨日病院に一人の患者が来た。君だよ優」
 須藤が語りだす。自分になにがあったのかを。
「運ばれた時は驚いたよ。何かで心臓を一突き、完全に治療不可能な状態だったよ。心臓移植も考えたが、搬送された時間がまずかった。移植しても何らかの障害が出ると私は思った。」
「それで……どうしたのですか?」
「だったらいっそのこと、脳移植を考えたよ。先ほどのリスクも減るからね。けど、他の医師達が断固拒否をした。そりゃそうだ、脳移植なんて芸当はかなりの高度な技術なんてできる訳がない。しかもそれをやるのは女性の私だ」
 脳移植と言う高度な技術……普通の人でも四割と言う成功率、何処かの番組で見たことがある優だった。
「それに移植元である体がない。まぁそこには一理があるが」
 問題はそこだった。仮にやろうとしても元となる移植する体がないのでは意味がない。
「じゃぁ……この体は一体」
 優が不思議がるのも無理はない。では一体この体は何処から手に入れたのかを
「まぁ、そこにはぬかりはない。実は知り合いの病院からその体を搬送したんだよ。その本当の持ち主の事は言えないが、五年前にその子は死んでるんだ」
「……そうなんですか?」
「これで条件はそろって後はご両親の了承がくれば良かったんだけど……くっく」
 何かを思い出したのか、少し笑いだす。
「いやぁ、すまんすまん。あの時の事を思い出してな……」
「……?」
 何が何だがさっぱり分からない優であった。
「普通は自分の子供が別の人間になるのってあんまりいいもんじゃない。そういう親が多い筈なんだが……あんたの両親と姉達にその事を話したら父以外はOKって言われたもんでなぁ。あの時はびっくりしたよ」

 十四時間前

「……その方法しかないんですか?」
「そう言われても……方法がなぁ」
 優が病院に搬送されて五分後に家族の皆が来ていた。須藤は脳移植の説明を家族にしたが、やはり父紅影は他の方法を聞いてみるが、リスクは高くなるらしい。
 そして黙っていた三由が一言言う。
「ところで先生」
「ん? なんだい?」
「移植する肉体性別は男性ですか?」
「それが女性なんだよ。さらに厄介この上ないよ」
「……やって下さい」
「……はい?」
 三由の返答の声が小さいのもあったが、了承することに耳を疑った須藤であった。
「いいからその移植やって下さい」
「いいのかい? あんたの息子が別の体、しかも女性の体になるんだぞ!! いいのかよ!!」
「構いません!! 優ちゃんが可愛くなるんならそれでいいです!!!」
「…………」
 皆一同空気が凍りつく。
「三由……それはまずいのでは?」
 数秒後三由に紅影が説得をかけたが……
「紅影さんは優がこのまま死なせろと言ってるの!!」
「いや、そうは言ってないが……優ならそれなら死んだ方がましだって言いそうだし……って秋枝も春日も三由を説得してくれよ!!」
 そう言って秋枝達にも三由の説得を試みるが……
「いいんじゃない?」
「え?」
「ってか母さんトリップしてるし、あれはもう無理だ」
「あれはもう止められないね」
「…………」
 そう言う秋枝の言葉を聞き、三由の方を見てみると、別次元へトリップをしているみたいだ。
「……もういいよ」
 そして半分諦めかけた紅影だった。





「そして移植は成功。感想は?」
 須藤が優に問うと優はこう言った。
「……自分の人生……なんか捻じ曲がってるよかなり」
「まぁ、新たな人生だ。楽しくやんな」
「ははぁ」
「なにか質問は?」
「ところで自分の元の体は何処にあるの?」
 優は自分の元々の体はどうなっているのかを須藤に問いただすと
「ああ……その事ね実は……」
「実は?」
 少し気まずそうな顔をする須藤、数秒後とんでもない事を口走る。
「既に……火葬済み……」
「…………はい?」
「いやだからね……」
 どのような言葉を出せばいいのか、悩む須藤を前に体を母に向けてこう言った。
「母さん……なにやったの?」
 もしかしたらと思い、母の三由に聞いてみると
「え? だって既に脳が体になじんちゃって、元に戻そうにも拒絶反応出るって須藤さん言わなかった?」
「いや、だからって火葬はないでしょう……」
「と言う事は……」
「まぁ、さっき言った通り拒絶反応のせいで戻すのは無理だし、第一戻そうにも体が既に火葬済み……ってなわけだ、頑張りな」
「そそんなぁ」
「さて、私はこれでなんかあったら下にいるから」
 そう言って須藤は仕事へと戻った。
「さてと私達も取りかかりますか優、はいこれ」
「ん?」
 そう言って三由は優に包みを渡すと優も気になっていたのですぐに包みを開けてみたが、優は一瞬だけ凍りつく。
「母さん……なにこれ?」
「え? なにって優ちゃんの下着だけど?」
「いやだって、これ女性の下着のブ、ブ……」
「ブラとショーツだけど」
 言い出せない優に代わって秋枝が言った。と言っても人前でそんな単語を言わない優にとっては免疫はないはず。
「なんでこれが僕の下着なわけ!!」
「だって優ちゃん今は女性なんだし、下着が男性のままってのはちょっとね……」
 三由の言っている事は正論だが、今の優は女性の体だけど精神は男性のままである。拒絶するのは無理もない。
「で、もしかすると姉さん達が持ってる袋の中身って……」
「もしかするとだ、お前の服だ。女物のな」
「やっぱり……」
「さて、これから何をされるか分かってるな?」
「……分かりたくもない……知りたくもない」
 何をされるか見当はついていたが、逃げたくても空気がさせてくれない。その前に回りの人間三人がそうさせてくれない。
「さて、優ちゃんの免疫をつけさせますか」
「おー」
「父さん、助けてってあれ? いない」
 さっきから父の姿が見えない。そのことで秋枝が何かを思い出し、優の耳元でつぶやいた。
「父さんからの伝言」
「……で?」
「ごめん」
父さんの馬鹿ぁぁ!!!
 その後お察しの通り、免疫をつけると言いながら優を着せ替え人形のごとくやるのだが……
「って優、あんた胸の大きさいくつあるのよ!!私より大きいんじゃない?」
「須藤さんの話しではCくらいはあるって聞いたけど……」
「ってやっぱり私より大きいんじゃない!!ちょっと触らせなさいよ!!」
 とまぁこんな展開だったのだが、って言うか秋姉……胸を触るのは止めてくれ。いちよう今は自分の体なんだから……





「すって……はいて……何か特に変な症状はない」
「いえ、特に……」
 その夜、須藤は計らいで念のため検査が行われた。無論家族の皆は帰ったが……
「で、何があったの?」
「ん?」
「お前さんの家族、一人除いてウキウキで帰ったんだが、なにか心辺りは?」
「……多分大有り……」
 あれからが大変だった。着せ替え人形にさせられたあげく、写真まで撮られたら……死にたいよ。
「あ、あのー」
「ん? なんだい?」
「トイレ行っていいですか?」
「そうかい……なら少し付き合うよ。一言言うが男子の方じゃなくて女子の方だぞ」
「……やっぱり、そうなんすか」
「当たり前だ、まぁいい経験だ。体験しろ」
「……はぁ」

 一時間後

「……長いな……なんかあったのか?」
「いや……いまさらながら自分が女って自覚持ったよ」
「そうかい、まぁ今のところは体の拒絶反応もなし大丈夫だろ、屋上行って空気吸ってきたら、かなり疲れたろ?」
「ではお言葉に甘えて」
 そう言って優は屋上へと向かった。





「ちょっと冷えるな」
 五月とはいえ、やはり夜の気温は少し冷える優であった。
「今日は……色々あったなぁ」
 死んだ自分が女性になっちゃって、家族や須藤さん達の話を聞いて何とか勇気とか希望を持った。
 とその時だった。後ろの方で音がした。
「誰? ……須藤さん?」
 自分がここにいるのは須藤くらいしか知らない。だが呼びかけても返事はなかった。
「気のせいだっ……」
 刹那、殺気に似た空気を感じ取った。そうあの時の……自分が殺されたあの時の空気を同じ感覚だった。
「ま……まさかそんなはずは……」
「そのまさかだ」
「!!!」
 声のする方を向くと、そのには男が居た。暗くてよく見えないが優には分かっていた。そう、あの夜の男だと……
「まさか……生きていたとはな驚きだぜ」
「っ!!!」
「上から言われたんでな、殺したはずのお前が生きてるってにわかに信じがたい事実だが、上の言ったことだ真実だろう……」
「……」
「さてと、さっさと片付けるか」
 そう言って男は少しずつ前へと進んだ。無論優の方は後ろへと下がっていく。
逃げれるのか?
 優はそう思った。この男は解らないだらけだ。

 第一にあのスピード……一瞬という刹那であの距離を走った脚力、人間技ではない。
 第二にあの出来事……あの男の力なのか今のところ解らないが空間自体を捻じ曲げるほどの何かがあそので起きた。

 そう思いながらも優は屋上のドアの方へと走ったが、やはりあの男の速度の方が一枚上手だった。
「逃がさねえよ!!!」
 男は優の肩を掴み払う。優はその反動で倒れるが、左腕を男の足を乗せられ、身動き取れない状況に陥る。
「っ!!!」
 男の体重が足にかかっているため、優の方も無論苦痛が生じる。
「さて……終わりだな」
 あの時と同じである。あの夜と同じ場面が今再び蘇る。
「い……いや……」
「悪いな……まさか生きてるとは思いもよらなかったんでな……」
「いや……」
「一発でやる……苦痛はない……一瞬で終わる」
「いやぁぁぁ!!!!」
 刹那光が差し込む……月光というなの光が……
「……な……なんで……なんで生きてるんだよ……」
 優は訳が分からなかった。死ぬと思ったその時、男は持っていた槍を寸止めで止めたのだ。
「なんで……なんで生きてるんだ……零(れい)」
 零……男の発した言葉……それがこの体の持ち主の名前なのだろうか。
「この体の本当の人を知ってるんですか?」
「知らん……」
「教えてください。この人の事を……」
「知らねぇと言ってるだろ!!!」
 そう言って持っていた槍を優の方へと向けるが、優には解っていた。この男は刺さないいや、刺せないのである。この体の持ち主を知ってる……そう確信している。
「ちっ!! 止めだ止めだ。しらけたよ」
「待てよ!! さっき零って言ったけど、あれは一体なんなの!!!」
「知らん!!! よく見たら人違いだ。んじゃな」
「あ!! ちょっと!!」
 男がその場を離れようとしたその時、何か思い出すかのように立ち止まった。
「……刻(こく)……」
「……え?」
「俺は刻だ。それだけだ」
 そう言い残すと、刻はその場を離れた。
「……」
 言葉が出なかった。なにがどうなのか頭で整理しているが、訳が解らなかった。
「どういう関係なんだろ……この体の持ち主と……」





 混迷たる事柄、何がそうさせるのか。
 二つの運命が入り混じり、今その運命が動き出す。





 第二章へつづく

 


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