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性転怪盗フォーチューン MISSION1
盗まれる奴、盗む奴
作:泉谷パーム



『難波刑事、応答願えますか!? 怪盗フォーチューンは名画“泉の精霊”を持って依然逃走している模様』
「言われんでもわかっとるわ! さっさと逃走経路を確保しろ! 今回を逃したら次はないんだぞ!」
『そ、それが……』
「まさか、見失ったとかいうんじゃないんだろうな?」
『その、まさかでして……』
「大たわけどもがあああああ!」
『す、すみません! なにぶん気球で逃げたものですから……』
「ただちにヘリを手配して、海王市全域をくまなく捜せ! まだ遠くには逃げていないはずだ!」
『は、はい!』
 時刻は午後九時すぎ。
 真夜中に差し掛かり、街も静かになり始めようという時間帯にも関わらず、海王市内はパトカーのサイレンと、警官たちの声や舌打ちで賑わっていた。
 特に響き渡ったのが難波 条一郎(なんば じょういちろう)という刑事の怒鳴り声だ。強面の風貌以上に力強いその声は、そこらのチンピラの怒鳴り声がかわいく思えてしまうほどだ。
 三十半ばに差し掛かった彼が年下のキャリア組にどんどん追い抜かされていき、その憤りや焦りもあってか、この「怪盗フォーチューン」逮捕には彼も全力を尽くしていた。
 しかし――。
「クソッ、何が『フォーチューン最期の獲物』だ!」
 雪山なら雪崩ぐらい簡単に起こせそうな地団駄を踏み、彼はポケットの中に忍ばせてあった一枚のカードを取り出す。
 そのカードには、大きな観覧車のような輪が描かれており、裏には『今夜九時、名画泉の精霊を頂きます。なお、今回がフォーチューン最期の獲物となるのであしからず』という文面が書かれていた。
「絶対、ぜったい逃がさんぞおおおおおおおおおぉぉぉお!」

 海王町から少し離れた場所にある廃ビル。パトカーのサイレンがようやく聞こえなくなってきたことを確認すると、少女はふっとため息をついた。
「やれやれ、ようやく逃げ切れたかな。こんなので息があがるなんて、私も衰えたかな……」
 彼女が休憩していると、ヘリコプターの音が若干だがこちらに近づいているのが聞こえてきた。
「おっと、いけない。さっさと仕事終えないとね」
 そういって彼女は懐から一枚のカードを取り出す。そのカードには大きな観覧車のような輪が描かれているが、裏には何も書かれていない。
「それじゃあ、あなたの偽りの乙女心、頂きます!」
 少女はそのカードを盗んだ名画に貼り付ける。
 突然名画が青白く光りだした。
 そして名画から、するすると蔦のようなものが何本も伸びてくる。それは行き場を失ったかのように乱雑に動き回り、そして貼られたカードの部分へ先端を伸ばしていく。
「封印!」
 少女は目を瞑り、手で大きな輪を作り突き出した。すると、カードに描かれていた輪が突然グルグルと廻りだし始める。
 その蔦が輪に吸い寄せられるように先端をカードのほうに伸ばしていく。そして、蔦の先端が本当にカードに吸い寄せられていった。
 強い力を放ちながらカードにするすると蔦が入っていく。やがて全て吸い尽くされると、先ほどまであった名画は影も形も消えうせ、残されたのがカードだけになってしまった。
「ふぅ、疲れた……」
 そのときだった。
「う、ゲホッ、ゲホッ……」
 少女が突然咳き込んだ。
 激しい乗り物酔いをしたかのように、脳裏が歪む。三半規管の機能を失ったかのように、彼女はその場に倒れこんだ。
「やっぱり、ムチャ、だったかな……?」
 彼女は夜空を見上げた。ヘリコプターは幸いこちらのほうまで来ておらず、雲ひとつない星空が真上を漂っている。
「これで、良かったんだよね? 私、自分の運命を全うしたんだよね?」
 彼女の呟きが次第にか細くなっていく。
「ごめんね、お父さん……要……」


 半年ほど前、海王市を騒がせた義賊たちがいた。
 「アルカナ」と呼ばれる彼女たちの中でも、ひときわ目立っていたのが、タロットカードの「運命の輪」を予告状として用いる、「怪盗フォーチューン」だった。
 オレンジ色のフリル付きレオタードと水色のツインテールがポイントの彼女。狙った獲物はどれも価値があると同時に何かしらのいわくもオマケでついている代物ばかりで、狙われた獲物が戻ってきたことはただの一度もない。
 しかし、ある事件――「泉の精霊事件」を皮切りに、彼女たちは現れなくなった。
 そして同時期、海王市では世間を騒がせるもうひとつの事件が頻発していた。
 男性が何の前触れもなく突然苦しみだし、数分後には外性器から染色体に至るまで、全て「女性化」してしまうというもの――。そういった事件が、立て続けに何件も起こっており、通称“連続女性化事件”としてこれまた世間を騒がせていた。
 不思議なことに、連続女性化事件が起こるとほぼ同時にアルカナから予告状が届き、また彼女らが盗みを成功すると、その女性化した男性たちが元に戻ったり、また元に戻らずともそれまで苦しんでいた顔から一転清々しく何もなかったかのように生活したりするようになった。
 その連続女性化事件もまた、泉の精霊事件と同時期に、ぷっつりと起こらなくなった。
 そして、その二つの事件が起こらなくなってから、半年の月日が流れた――。


 昼休みの海王学園高校では、学生たちが購買部でパン争奪戦を繰り広げたり、女子生徒たちが中庭で弁当を突きあっていたりする姿が見られた。
 しかし、そんな中でひとりだけ、普段誰も立ち入らない屋上で寝転んでいる男子がいた。
「ねぇ、天海くん」
 彼を追ってきたのか、一人の女子生徒が屋上に踏み入った。
「こんなところで何してるの?」
「別に……」
 男子生徒、天海 要(あまみ かなめ)はゆっくりと伸びながら上体を起こした。
「あのさ、頼みがあるんだけど……」
「何だよ?」
 江西 弥生(えにし やよい)は奥歯に物が挟まったような物言いで彼を見つめた。
「お弁当、持ってきた?」
「ああ、一応な」
「お願いします、お弁当のおかず、一品でいいから分けて!」
 ぐぎゅるるるるる――。
 彼女から腹の虫の鳴き声が聞こえた。

 屋上のベンチに座りながら、二人は弁当を食べた。とはいっても一人分の弁当を二人で分けたのだから、あっという間になくなってしまったのだが。
「ふぅ、満腹。ごちそうさま」
「お粗末さまでした、とでも言えばいいのか?」
「いつもありがとうね、天海くん」
 彼女はにっこりと微笑んで要を見るが、要はぶっきらぼうな表情で彼女のほうを全く見ようとしない。
「あの、その……」
「別に怒ってねぇよ。だったら最初から分けてないって」
「でも、いつも分けてもらってるから……」
「知ってるよ、お前んちがだいぶ家計が苦しいってこと。そういえば新しいバイト見つかったのか?」
「うん……なんとか」
 弥生は寂しそうな表情で俯いた。
 江西 弥生は成績優秀、スポーツ万能であり、人柄も明るく誰とでも自然体で接するために学年も男女も問わず人気がある。ただし、その笑顔の裏には、事業に失敗した父とパートで働きづめの母、そしてまだ幼い弟や妹たちのためにバイトをして家族を支えている苦労人でもあることを、要も知っていた。
「いつもごめんね。天海くんしか私の事情知らないから」
「だからいいって。みんなに話して下手に心配させてもお前が困るだけだろ」
「うん……」
 ――だからその顔やめろって。
 要は心の中でそう思った。
「天海くんは、また昼寝?」
「寝てねぇよ。空を見上げてただけだ」
「そんなに空、好きなんだ」
「いや、やっぱ昼寝ってことにしといて」
「やっぱり……まだ命ちゃんのこと考えてるの?」
 弥生がそういうと、要は黙りこんだ。
 半年前、要の双子の姉である命(みこと)が他界した。
 それまで気丈だった彼女がある時期から突然病気に掛かってしまったことは、要にとって大きなショックであった。
 そして彼女が亡くなって以来、要はこれまで普通に送っていた学園生活に身が入らなくなり、成績も格段に下がっていった。
 弥生は命と親友だった。もちろん命が亡くなったことは弥生にとっても悲しい出来事だったが、それ以上に彼女は残された要のことが心配でならなかった。
「なぁ、江西……」
「うん、わかってる。もう行くね。あ、お弁当ありがとう」
「次回のおかずのリクエストはあるか?」
「え、うーんと……ウィンナー、かな?」
「分かった。考えておく」
「うん……それじゃあね」
 弥生が去っていくのを見届けて、要は自分の携帯電話を取り出す。
 そこにぶら下がっているのは、小さなクマの形をしたストラップ。それは姉が生前非常に気に入っており、姉弟でおそろいのものとして無理やりつけさせられた。おおよそ男には似つかわしくないものであるが、要はなんとなくそれを外すことができなかった。
「なんで、置いていったんだよ。馬鹿野郎……」


 時を同じくして昼休み。海王学園高校の校長室では一人の少年が呼び出されていた。
 とはいっても説教ではない。むしろ少年を呼び出した校長は感服といった感じで満面の笑みを浮かべている。
「いやぁ、素晴らしいよ。我が校から絵画コンクールの最優秀賞作品が出るなんて」
「はぁ、ありがとうございます」
 少年は浮かない顔で返事をした。
「ん? どうしたんだい? もっと喜んでいいんだぞ」
「いえ、ちょっと……」
「まぁ、まだ実感が沸かないかな? でも、これが市の美術館に飾られたら、君の絵をみんなが観てくれるだろう。そう、きっと天国の君のお兄さんも……」
 ――お兄さん!
 その単語を校長が発したとき、少年の顔が一瞬引きつった。


 要の家は学園からさほど離れていない場所にある。
 そして、表に大きく「天海法律相談事務所」と書かれているため、要を知っている人は大抵そこが一目で彼の家だと分かる。ちなみに構造的には一階が事務所で二階が住宅という風になっている。
 幼い頃に母を亡くし、半年前に今度は双子の姉を亡くした要は、今は弁護士を営んでいる父と二人暮らしだ。そのため、大半の家事は要が担当している。
「ただいま」
「おかえりんこー」
 要が家のドアを開けると、父、天海 清(あまみ きよし)の声が聞こえてきた。ただし、その声はどこか舌がまわっていないようだった。
「息子が帰ってきたよぉ、難波刑事!」
「おお、ぞうかぁ。おかえりぃ」
 奥からもう一人、ゾンビのような男の声が聞こえてきた。
 要は呆れながらも、キッチンのほうへ向かっていった。テーブルの周りに錯乱しているビール缶の山と、つまみ類のゴミ、そして顔面を真っ赤にしている二人の中年男の姿から彼らが何をしていたのか容易に想像がつく。
「おい、親父! それに難波刑事! 何昼間から酒飲んでんだよ!?」
「いいじゃないか、たまぁの休みぐらいな!」
「要くんもここに座っておぢさんの愚痴を聞いてくれよ」
 ――いやだ。
 要は心の中でつぶやくが、決して口には出さない。
 が、ちょっとだけ話に興味がないわけではないので、とりあえずその場に立って話を聞くことにした。
「ちくしょー、七年も後輩のやつに追い抜かされて、ついにはタメ口まで……それもこれも怪盗フォーチューンのせいだあああぁぁあ!」
「私的にはね、彼女にはもっと活躍してほしかったんだ。で、君に逮捕してもらって、彼女が裁判を受ける際には是非とも私が弁護を……はぁ、はぁ……」
「ちくじょおおおおぉぉぉおおおおお! フォーチューンめぇえええええ!」
「はぁ、はぁ……フォーチューンたん、やはりあのオレンジのレオタードが……」
 全く会話がかみ合っていない。
 しかも中年男が酔っている姿は目に毒としかいいようがなかった。
「ちくしょう! なんで、なんで突然消えやがったんだああああぁぁぁあ! あ、そのうにくらげ欲しいんだけど」
「なんで突然消えちゃったんだよオオおお! ん、それじゃあその松前漬けと交換で」
 ようやく二人が同じ結論に達した。
 しかし、これ以上は要も聞いていられないと思い、回れ右をした。
「おい、どこに行くんだ?」
「海行ってくる」
「そうかぁ、じゃ、遅くならないうちに帰ってこいよぉ。今日の晩飯は父さんが寿司の出前取っといたから作らなくていいぞ」
 要は返事もせず、家から出た。


 海王市は古くから港による外との交流で発展してきた町である。
 そのため学校からも海が見える位置にあり、夏になれば海水浴客も来るほどだ。
 貴重な骨董品、宝石などが運ばれてくることもあり、お宝は海王市にあり、なんて言葉を放つ人間もいるほどだ。
 要はこれといってこの海が好きなわけではない。ただ、ひとりになる空間が欲しくて、最近は放課後決まってここに来るようになっていた。
 秋口になってきたこともあって、潮風が冷たい。適当に時間をつぶしたらコンビニにでも寄って帰ろう、と要は考えていた。
「ねぇ、天海くん」
 突然、後ろから声が聞こえてきた。要が振り返ると、見覚えのある小柄な少年がそこに立っていた。
「なんだ、太一か」
 杉森 太一(すぎもり たいち)。要と同じクラスの生徒で、際立って目立つ存在ではないが、人当たりのよい性格で生徒や教師からは比較的好感を持たれている。
「何してるの?」
「別に。海を眺めていただけだ」
「そっか……僕と一緒だね」
 太一はテトラポットに腰掛けて、海を眺め始めた。
「ここにはよく来るのか?」
「うん、兄さんとの思い出の場所だからね」
 ――そうか、こいつも。
 要は思い出していた。
 二年前、太一の兄は交通事故でこの世を去った。彼らは絵画の天才と謳われた兄弟で、その兄の死は新聞にも報道された。しかもそれは絵画コンクールを間近に控えての出来事だった。当時中学生だった太一にとって兄の死は非常にショッキングであり、その年の絵画コンクールには彼も応募するのをやめていた。
「兄さんとね、よくこの海を見にきていたんだ」
「そっか……」
 兄弟を亡くした者同士、太一には要もなんとなく親近感を抱いていた。同情ではなく、同じ境遇の者だからこそ、彼の気持ちがなんとなく分かるような気がした。
「そういえばさ……今年は絵画コンクール応募したんだって?」
「えっ?」
 その話をした途端、太一は顔が引きつった。
「いや、それで最優秀作品に選ばれたって聞いたからさ……」
「あ、うん。実は、そう……なんだよ……」
 太一の声が次第に弱々しくなっていく。
 ――なんだ? 様子がおかしい?
「うっ……く……」
 太一が胸を抑えだした。
「お、おい! どうした!?」
「兄さん、に、謝らなきゃ……僕は……ダメ……な……うわああああぁああぁああ!」
 太一の声が海岸中に響き渡る。
 すると突然、彼の身体が青白く光りだした。
「な、なんだいったい!?」
「離れて!」
 どこからともなく少女の声が聞こえてきた。
「うわぁあああああ!」
 あまりの出来事に、要も一気に彼から離れた。
 その後は一瞬だった。
 彼の身体から妙な蔦のようなものが生え出した。それは彼をがんじがらめにするかのように巻き付き、彼の姿かたちを全て覆いつくす。一瞬、それが巻きついたかと思うと、これまた一瞬にしてするすると緩み、再び彼の胎内へと戻っていった。
 そして、そこに残された太一は、既に要の知っている太一ではなくなっていた。
 伸びきった髪、そして学生服の胸元が風船でも詰めたかのように膨らんでいる。元々小柄だった彼だが、今となってはどこからどう見ても「少女」の姿になっていた。
「い、いったいどうなって……」
 そのとき、彼の脳裏にひとつの単語が思い出された。
 ――連続女性化事件。
 かつてこの海王市界隈を騒がせた事件の総称。当然要も知ってはいたが、まさかその瞬間をこうして目撃することになるとは――。それも、彼が思い描いていたものより、痛々しく、恐ろしい変化の仕方だった。
「何してるの!? 早く、太一君を病院に連れてって!」
 再び、要の耳に少女の声が聞こえてきた。
 その声には要も聞き覚えがあったが、それだけはありえなかった。なぜなら、それは……。
「み、命!?」
 要はハッと気がついた。その声がどこから出ているかやっと分かった。
 自分の携帯電話を懐から取り出したとき、彼は目を疑った。
「驚くのも分かるけど、早く太一くんを病院に!」
 まさか、こんなことが――。
 要の携帯電話につけていたクマのストラップが、彼を睨み付けながら喋っていたのだ。それも、命の声で――。


 幸いにも病院は海岸からさほど離れていなかった。
 急いで太一を運び、彼、いや彼女を医者に預けると、要は一息入れて人気のない裏庭へと向かった。
「命、なんだよな?」
 要は携帯電話のストラップに向かって話しかけた。不思議な感覚だったが、今はそんなことも言っていられなかった。
「久しぶりね、要」
「ははは、馬鹿野郎……突然死にやがって、ずいぶんちっこくなって戻ってきやがって……」
「私だって好きで小さくなったわけじゃないわよ」
 久しぶりの姉弟の再会。
 本来ならばありえない、死者との再会。
 しかし、要はうれしさのあまりそれらの事象を全てすんなりと受け入れてしまった。
「でも、いったいこれはどうなってんだよ!? 突然太一が光りだして、蔦みたいなものに包まれて、気がつくと女になっていて……」
「どうやら太一君は“女卵花”にとり憑かれたようね」
「にょ、にょらんか……?」
 新しい単語に、要はやきもきする。
「もしかして、あれが、海王市で起こっている連続女性化事件の……」
「ええ。ある意味では“犯人”ともいうし、言い方を変えれば“凶器”といえるものよ」
 要の思い描いていたものより、遥か斜め上をいく話だった。
 元々ありえない事件ではあるが、まさかあんな非現実的なものによる事件だったとは、彼も思いもよらなかった。
「いい? よく聞いて。この女性化はあくまで“第一段階”でしかないの」
「第一段階? まだ何かあるのかよ!?」
 ストラップの命はコクリと首を縦に振る。
「あの花はね、彼の大事にしている宝物に取り憑いて、そこから彼の心へと寄生するの。その養分は彼の男性ホルモン、男心、優しさ、そして……罪悪感」
「ざ、罪悪感!?」
「やがてそれらを全て吸い尽くした花は大きく成長し、また別の宝物へ種子を植えつける。今までにないほどの量の種子をね。そして吸い尽くされた男性は完璧な女性、そして完全な悪魔へと変貌してしまう……」
 ――悪魔!?
 そんな馬鹿な話があってたまるか!
 いや、しかし現に太一は完全な女性になってしまっている……。
 そこで要は思い出した。過去の女性化事件の中には男性に戻っている事例がほとんどであるということを。
「いったい、どうやったら太一は戻るんだ!? 戻す方法があるんだろ!?」
 要はストラップに向かって大きく叫んだ。
「わー、うるさい! 身体が小さい分声が大きく聞こえるんだからあまり叫ばないで!」
「わ、悪い。で、どうやったら戻るんだ?」
「方法がないわけじゃないわ。ただ……」
 命の声が訝しくなった。
「その宝物を見つけ出して、封印すること。つまり、それを盗み出すのよ」
 宝物? 盗む?
「とはいっても、私も突然この世に呼び戻されちゃったからどうしていいか分からないのよ。この身体じゃ“アレ”をやろうにもムリがあるし」
 アレ?
 まさか、それって……。
「命、ひとつ聞いていいか?」
「ん? 何?」
「怪盗フォーチューンの予告状は毎回女性化事件とほぼ同時に届いている。また、彼女が盗んだ直後、女性化事件の被害者たちは男に戻ったり、女のままでも特に不自由なく暮らしている。たしか新聞にはそう書いてあった」
「……まぁそうね」
「もしかして、このふたつの事件は、関係があったのか?」
「ご名答」
 命がやけに落ち着いた声で答えた。
「つまり、怪盗フォーチューンが盗んだものは全部女卵花が取り憑いたものだったわけ。彼女はただの宝石泥棒ではなくて、女卵花を封印する正義の味方ってわけ」
「ふたつめの質問」
 要が間髪を入れずに尋ねた。
「さっき女卵花の養分は“罪悪感”っていったよな? てことは、太一は何かしらの“罪”を犯したのか?」
「おそらくはね。彼が勝手に罪だと思い込んでいるだけかもしれないし。そこまでは分からないわ」
 太一が、罪?
 疑問は残ったが、要は最後の質問を尋ねることにした。
「それじゃあ最後の質問」
「まだあるの?」
 要は一層真剣なまなざしで見つめた。
「何で、このことに関して命はそんなに詳しいんだ?」
 要が尋ねると、命はフッと息を漏らした。
「そっか、分かっちゃったか」
「やっぱりそうか。今思うと半年前には色々ありすぎたからな。フォーチューンが最期の盗みをしたのも、女性化事件が起こらなくなったのも、そして……命が死んだのも」
 命は一瞬要から目をそらしたが、すぐに視線を戻した。
「そうよ。私は生前……怪盗フォーチューンだったわ」
 ――やっぱり。
 不思議と要は驚かなかった。もう既に何が明らかになっても平然と構える余裕が彼にはあった。
「ごめんね、今まで隠していて」
「謝られても困る。それより今は太一を戻す方法を……」
「だから私もどうしていいか分からないのよ。何度もいうけど、さすがにこの姿じゃ怪盗なんて無理だしね」
「ほら、他に怪盗仲間がいるんだろ? そいつらに頼めば……」
 そう、怪盗フォーチューンはあくまで怪盗集団「アルカナ」の一人でしかなかった。メンバーの名前は覚えていなかったが、要は他に何人か怪盗がいることを覚えていた。
「それも無理な話ね。私たちはお互いの素性を全く知らない。彼女らが今どこにいるかなんて分からないわ」
「おいおい……」
「それに、ほとんどの盗みは私が単独で行っていたし、彼女らが自分からやる気にならなきゃ現れないことがほとんどだったわ」
「畜生!」
 要は握りこぶしで壁を思いっきり殴った。
 この悔しさはどうすればいいのか。クラスメイトが困っているというのに、救えない自分の無力さ、それだけが無性に腹が立って仕方がなかった。
 ――せめて、自分がフォーチューンだったら。
 要がそう思った瞬間だった。
「たったひとつだけ、方法があるわ」
「え!? 本当か!?」
「ええ。ただし、これはとても危険な賭けよ。何よりも、あなたにとってね、要」
 危険な賭け。
 しかし、今となってはそれにすがるしかなかった。
 要はもう誰も知っている人間を失いたくなかった。それが例え同じクラスの、そこまで親しくない生徒だったとしても。
「教えてくれ! 俺は何でもする!」
 要の真剣な眼差しに、命も気を許さざるを得なかった。
「そう、なら教えるわ。彼を救う唯一の方法……」
 一瞬だったが、重い沈黙が流れた。
 そして、その方法が、命の口から放たれた。
「あなたが、二代目フォーチューンになることよ。要!」




「あとがき」

というわけで始まりました、新シリーズ。

色々とごちゃごちゃにしすぎて、この先どうしようかまだ決めかねている作品でもあります。

二話ではいよいよ要が二代目フォーチューンとして本格的に怪盗を始めます。

とりあえず二話目の目標。説明不足な点をきちんと補足すること。

あと、魔蘭のほうも進めています。いや、ホントですよ(汗)

それでは、また。




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