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 私の名は戸黒 木久蔵。人呼んで“太ィせぇるすまん”。ただのセールスマンじゃございません。私の取り扱う品物は心、人間の心でございます。ハーッ ハッハッハッハッハッ。


大原野山城守武里Aの
太ィせぇるすまん




 この世は老いも若きも男も女も心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの心のスキマをお埋めいたします。いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたらそれが何よりの 報酬でございます。さて、今日のお客様は……。

恩奈仁 成夫(20才)学生
ホーッホッホッホッホッホッ


世にも奇妙で不幸な物語・10
『恐怖の超猿人』


作:大原野山城守武里




 ああ、祥子ちゃん、今日も綺麗だなぁ。幼稚園のころからずっと同じ学校だったけど告白する勇気が無くて、いつも遠くから眺めるだけだもんな。そりゃ、幼馴染だから会話ぐらい はするけど、あっちからしたら僕は友達の一人にすぎないだろうし。美人で勉強もできて性格も良いから彼女を狙っている男はたくさんいる。そんな彼女だから僕なんか眼中に無いに 決まってるさ。どうせ付き合えないならせめて裸でもと思ったけど、覗きなんてする勇気なんか無いしな。一度でいいから彼女の裸をじっくりと拝みたいよ…わっ? す、すいません。 ボーっとしてました。ご、ごめんなさい!

男「いえいえ構いませんよ。何か考え事をされているようでしたが、ちゃんと前を見て歩かないと駄目ですよ」

 す、すみません、本当に…。

男「何か悩み事がおありのようですな。私でよければ聞かせてもらえませんか?」

 えっ? あなたは?

男「申し遅れました。私、こういう者です」

『心のスキマお埋めします♪ 戸黒木久蔵』?

戸黒「はい、私こうみえてもセールスマンなんです。セールスといっても一種のボランティアみたいなものですがね」

 はあ……

戸黒「あなたのような深刻な悩みを抱えている人を救済するのが私の仕事です。お金の心配はいりません。すべてタダです。まあ、こんなところじゃなんですから近くに私の 知っているバーがあるのでそこに行きましょう。ついてきてください」

 は、はい。

戸黒「着きました。ここです」

 へえっこんなところにこんなバーがあったんだ。客は…僕らだけか。

戸黒「さあ、こちらに。それでは詳しい話をお聞きしましょうか」

 はい、実は……。

戸黒「なるほど、好きな女性がいるけど告白する勇気が無くて、それならせめて裸だけでも拝みたい、ということですか」

 はい…お恥ずかしい…。

戸黒「いいえ、あなたのような若者ならある意味そんなよこしまな思いを持っているのは当然です。しかし、実際にそんなことしてもしバレたらあなたは逮捕されますよ。そして、 彼女には徹底的に嫌われる」

 そうなんです。だから覗きをする勇気も無い。でも、彼女への思いは募るばかり…戸黒さん僕はどうしたらいいんでしょう。

戸黒「そんなに好きなら思い切って告白されたらどうです? もしかしたらお付き合いできるかもしれませんよ」

 そんな無理ですよ。僕なんか相手にされないに決まってます。

戸黒「そうでしょうか。まあ、いいでしょう。私があなたの望みを叶えましょう。要するに彼女の裸を堂々と見れるようにすればいいのでしょ?」

 そんなことできるんですか?

戸黒「できます。つまり、あなたが女性になればいいのです」

 僕が女性に? からかわないでください。そんなことできるわけないじゃないですか。

戸黒「できますとも。まあここは騙されたと思って」

 はあ、そこまで言うなら。それでどうやって女の子になるんです? まさか僕に性転換手術を受けろと言うんじゃないでしょうね。

戸黒「ご心配なく。正真正銘本当の女の子にしてさしあげますよ。今日から毎日この薬を飲んでください。そうすれば徐々に体が男から女に変化していき7日目にはほぼ完全な女性に なることでしょう。その間は大学は休んでください。いいですね?」

 七日もですか?

戸黒「ご心配無用です。大学には私から連絡しておきますから。あ、それから体が変化していく過程を誰かに見られたら不味いので私が借りているアパートでしばらく暮らしてくだ さい」

 わ、わかりました。

戸黒「では行きましょう。こちらです。………………はい、ここです」

 ここですか。

戸黒「ささ、どうぞお入りください」

 お、お邪魔します。

戸黒「このアパートには他に誰も住んでいません。私も仕事が忙しいのでほとんど家にはいません。つまり、あなた一人ということです」

 一人…ですか。

戸黒「食料は7日分あります。着替えは後で用意しておきますから。あと他に何か必要な物があればこの携帯電話にお願いします」

 は、はい。

戸黒「それでは立派なレディになってくださいね。くれぐれも言っておきますが決して外に出てはいけませんよ。あ、それからもし途中でやっぱり男のままの方がいいと思われまし たらこの薬を飲んでください。すぐに元の姿にもどれます。では仕事がありますので私はこれで。がんばってくださいね」

 あ…行っちゃった。本当に女になれるのかな。こんな薬で。体が縮んだりしないだろうな。

戸黒「7日が経ちました。恩奈仁さん、どうですか?」

 あ、戸黒さん見てくださいよ。

戸黒「おやおやこれはかわいらしい。見事に化け…いやいや生まれ変わりましたな」

 ええ、どこから見ても僕とは気づかないでしょう。でも、女の子になったのはいいけど、どうやって彼女に近づくんです?

戸黒「あなたはこれまでどおり大学に通ってください。もちろん、いまの姿で。ちょうどあなたの大学の一年生に一人行方不明の女学生がいましてね。その顔と体はその女学生に そっくりなんですよ」

 なりすまし、ですか。

戸黒「大学には私から話をつけておきました。それからついでに男の方のあなたの退学届も出しておきましたから」

 ええっどうしてそんな。

戸黒「男のあなたはもうこの世に存在しないのです。あなたはこれからは女性として生きていかなければいけません。もう、元に戻ることは許されません。いいですね? これだけは 忠告しておきますよ。無理に男に戻ろうとは考えないでくださいね」

 は、はぁ、わかりました。

戸黒「それでは新しいキャンパスライフをお楽しみください。そうそう、あなたに渡した元に戻る薬はそちらで処分してください。もう必要ありませんから。はい、これ」

 なんです?

戸黒「あなたのマンションの鍵です。いつまでもあなたのようなうら若き乙女をこんな小汚いアパートにお泊めするするわけにはいきませんから」

 そ、それもそうですね。お世話になりました。

戸黒「では、外にタクシーを待たせてありますので。料金はすでに払ってありますからご心配なく。それからこれは餞別です。私、実はラーメン作りに凝ってましてね。木久ぞ… いやいや戸黒ラーメンとでも呼んでください。味は保証しますよ」

 何から何までありがとうございます。

戸黒「恩奈仁さん、くれぐれも男に戻ろうとしないでくださいね。約束ですよ」

 わかりました。では。…………来た来た祥子ちゃんだ。彼女、いつも金曜日はここの銭湯に通っているんだ。女になってから彼女に近づくのが容易になったからな。すっかり顔見知 になった。いまの僕ならできる。祥子ちゃんと一緒にお風呂に入れる。よーし、行くぞ。せんぱ〜い。

祥子「あら、あなたも銭湯?」

 はい、先輩もですか?

祥子「ええ、いつも金曜日にね」

 ご一緒していいですか?

祥子「いいわよ」

 本当ですか? やったぁ。じゃ、すぐに行きましょ。

祥子「えっ? ちょっとまって。そんなに急がなくても」

 善は急げって言うでしょ。さ、早く。

祥子「待ってよぉ」

番台「いらっしゃ〜い」

 (いよいよ祥子ちゃんのまっぱが拝めるぞ。駄目だ。鼻血が…)

祥子「どうしたの?」

 いえ、なんでもありませんです。それより早くお風呂に入りましょう。
祥子「そうね」

 (うひょーっついに祥子ちゃんのヌードが。うわぁ噂通りのナイスバディだ)

祥子「あなたも早く服を脱ぎなさい」

 は、はい。(ああ、祥子ちゃんと一緒にお風呂入れるなんて夢みたい…)

祥子「いいお湯ね。あなたもよくここに来るの?」

 いえ、私は初めてです。

祥子「そうなの。もし良かったら来週から一緒に来ない?」

 えっいいんですか?

祥子「一人より二人の方が楽しいでしょ」

 は、はい、喜んで!(毎週、祥子ちゃんとお風呂…なんてハッピーなんだ)

祥子「ふふ。じゃ体を洗いましょうか」

 はい。お背中流させてください。

祥子「ありがとう。お願いするわね」

 はい!(祥子ちゃんの背中…祥子ちゃんのうなじ…なんて魅力的なんだ……いかんいかん見惚れてるだけじゃ男の時と変わらんじゃないか。女同士のいまだからこそ夢にまで見た ボディタッチを…よし、やるぞ!)あ、手がすべっちゃった!

祥子「きゃっ!?」

 (やったぁ! とうとう祥子ちゃんのおっぱいを…)す、すみません、先輩。でも…先輩っておっぱい大きいですね。くやしいから、えい!

祥子「えっ? ちょっちょっと待って…やん、もう、やめて」

 えへへ、すみません。調子に乗りすぎちゃいました。てへ。(ああ、僕はなんて幸せなんだ…)

祥子「んもう」

 すみません。でも、先輩って本当にスタイルいいですよね。そんなに美人なら男が放っておかないでしょ。

祥子「まあね。でも、お付き合いしている男性はいないわよ」

 確か、告白を全部断ってるって聞きましたけど。どうしてですか?

祥子「私ね、実は好きな人がいるの。小さいころから同じ学校で。ずっと好きだったんだけどなかなか告白する勇気が無くて」

 ……その人、いまはどうしているんです?

祥子「それがね、10日ぐらい前に急に退学届を出して行方不明なのよ。なにがあったかわからないけど、こんなことになるなら想いを告げるべきだったわ」

 (ぼ、僕だ。そんな祥子ちゃんも僕の事を想ってくれていたなんて。こうしちゃいられない)

祥子「ど、どうしたの?」

 ごめん、用事を思い出した。先に帰るから。(急いで家に帰らないと。家に帰って服を着替えてあの薬を…)

戸黒(回想)「もうあなたは男に戻ることはゆるされませんよ」

 ええい、そんなの知ったもんか! ……男にもどったぞ。なんだよ。何にもならないじゃないか。そうだ、早く行かないと。家を出たぞ。もう祥子ちゃんも銭湯から出て家に帰って いる最中のはずだ。いたいた、祥子ちゃーん!

祥子「えっ? 恩奈仁くん? 恩奈仁くんなの?」

 そうだよ。

祥子「どうしたのよ。心配してたのよ」

 ごめん、いろいろあってさ。それより君に言いたいことがあるんだ。

祥子「なに?」

 実は…ずっと前から…君が好きだった!

祥子「ええっ!?」

 僕とつきあってくれないか?

祥子「はい、喜んで。私もあなたのことが好きだった」

 祥子ちゃん…

祥子「恩奈仁くん…」

 (やったぁ、ついに祥子ちゃんとキスできたぞ)………………今日はいままでで最高の一日だったな。

戸黒「もしもし」

 わっ!? と、戸黒さん?

戸黒「恩奈仁さん、あなた私の忠告を無視しましたね? あれほど男に戻ってはいけないっていったのに」

 ほっといてください。あなたに関係ないでしょ。

戸黒「知りませんよ。どんなことになっても」

 脅しても無駄ですよ。現になんともないじゃないですか。な、なんですか?

戸黒「あなた、あの薬を飲みましたね? あの薬は女性になりきる前に飲むべきでした。確かに完全に女性化した後であの薬を飲んでも一時的に男性にもどることはできます。ただ し! それで終わりではないのです。あなたは人間いや人類としての原点まで戻るのです。ドーン!!!

 ぎえぇぇぇぇっ!!





所長「いやあ戸黒くん、いい研究対象を持ってきてくれたね」

戸黒「お役に立てれば幸いです」

所長「本当に感謝するよ。生きた猿人を研究できるなんて。ところで、あの猿人どこからつれてきたのかね?」

戸黒「それは企業秘密です」





戸黒「退化するところまで退化した彼に人間の時の記憶があるかはわかりません。しかし、愛しの彼女と相思相愛になったのだから思い残すことはないでしょうな。ホーホッホッホ ッホッホ」





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