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 突然やってきた自身のコピー生体である清香からGOODの秘密基地の在処を聞き出した桜谷涼香は単身秘密基地に潜入した。だが、恐るべきGOOD機関は涼香の潜入を見破って いた。涼香に挑戦する強敵シシオサーベルタイガー。そして一方、GOOD秘密基地アルテミス宮殿の地下手術室で二人の博士が何者かの手術を行おうとしていた。その手術台に横た わるのは一体誰なのか。



 涼香とシシオサーベルタイガーが死闘を繰り広げている最中、手術室ではまさに二人の博士による手術が始められようとしていた。手術台の人物には白いシーツがかけられていた。

「さあ、手術を開始したまえ」
 総司令の指示でシーツが取り外され中の人物が姿を現す。上川博士が尋ねる。

「これは?」
「ポイボス・スピリット。GOODの大佐で監察官だ」
「名前だけは聞いておりましたが、そのポイボス・スピリットがどうして?」
「魔導師と戦い敗れたのだ。このまま死なそうとも思ったのだが、事情が変わってな。もう一度チャンスを与えてやることにしたのだ。再生手術はそのためだ」
「しかし、総司令。我々の力では死んだ者を生き返らせるのは……」
 これは本宮博士だ。

「承知している。ポイボス・スピリットの蘇生はこちらでやる。ただ、そのまま生き返らせたのでは魔導師にリベンジを果たすのは難しい。そこで、両博士にはポイボス・スピリット のパワーアップをお願いしたい」
「わかりました。ポイボス・スピリットの肉体組織を強力な細胞に変えましょう」
「私はポイボス・スピリットのメカニックをチェンジします」
「両博士の腕を信頼している」






ドンノルマの使者第8話
『怪談、悪魔の復活祭(後編)』


作:大原野山城守武里





 目が覚めると僕は拘束されていた。右手と両足そして首が鎖で僕が寝かされている台(感覚からして石か何かでできているようだ)に繋がれている。着ていた物は下着も含めて全部 脱がされている。上にシーツが被されているのはせめてもの配慮か。どうせなら下にも何か敷いてくれたら少しは嬉しがってやるのだが。それよりここはどこだ? 照明が蝋燭の灯り だけなのでよくわからない。しばらくして白い装束と三角頭巾の集団が入ってきた。いつからKKKはGOODになったんだ?

「お目覚めかね?」
「ここはどこだ?」
「ここはGOODの儀式の間だ」
「僕をどうする気だ」
「君には生贄になってもらう」
 生贄だと? 確かに周りの雰囲気はそういう感じではある。GOODってそんなオカルト的なこともするんだ。って感心している場合じゃない。

「ふざけるな。誰が生贄なんて」
「あきらめろ。君には逃げる術はない」
 そうかな? こんな鎖で僕を拘束できるなんて思うなよ。変身したらこんな鎖ぐらい……あれ? 変身できない?

「逃げる術は無いと言ったはずだ。君の魔力は封じさせてもらったよ」
 魔力を? そんなデバイスアームもなくなったのに魔力まで奪われたら僕はただの女の子じゃないか。嘘、マジで逃げられない?

「ふっふっふっどうやら自分の置かれている状況が理解できたようだね。では、次はこれから君の身に起きることを理解させてあげよう。これが何かわかるかな?」
 透明の管がついている注射器のようだが…ましゃか?

「そう、これで君の血を残らず吸い取らせてもらう」
 待て、そんなことして何になるんだ?

「我らドンノルマの呪いの儀式は手を下した相手の血が流れるとき悪魔の復活祭となるのだ」
 悪魔の復活祭? 何のことか知らんが三角頭巾の男たちは僕の右腕に注射針を刺そうとしている。せめて消毒してからにしろ。うわあっ刺さったぁ。どんどん血が抜かれていく。人間 は1/3以上の失血で生命の危機に陥ると言われている。それは僕とて同じだ。僕は必死に身体を動かして抵抗を試みるが拘束された体では無駄な足掻きだ。くそっせめてデバイスアー ムがあったら。駄目か……と観念しかけた時だった。急に騒がしくなった。

「な、なんだ、おまえたちはっ!?」
 叫ぶ男たち。一体何が起こったのかと見ていたら量産型サヤカが乱入してきたのだ。

「君は……」
「ヤー、グッドスズカ1984029号はお姉さまを助けに来ました」
 栗色の髪をした量産型サヤカはそう答えて僕の拘束を解いてくれた。他にも数人の量産型サヤカが三角頭巾を倒していた。

「ありがとう。君たちを助けに来たのに逆に助けられちゃったな」
「ヤー、グッドスズカ1984029号は一刻も早い脱出をお姉さまに進言します」
 わかってるよ。その前に着るものだ。いくらなんでも裸で逃げるわけにはいかない。そこらへんに倒れている奴から白装束を拝借しよう。よし、これで派手なアクションをしない限り 外から中が見られることは無い。

「長居は無用だな。君たちはこれで全部か?」
「ヤー、グッドスズカ1984029号は他の姉妹は陽動に出ていますとお姉さまに返答します」
 そうか、遠くで聞こえる爆発音がそれだな。全員の回収は事実上無理か。

「撤収だ。急ごう」
 敵が態勢を整える前に逃げないと。部屋を出て通路を走る。所々に工作戦闘員たちが倒れていた。量産型サヤカいや妹たちがいて助かった。僕だけだったら一人の工作戦闘員も倒せ なかった。これなら難なく脱出できそうだ。そう思ったが甘かった。

「おいおい、どこに行こうってんだ? てめぇら」
 ミイラ野郎だ。厄介な野郎が出てきやがった。変身もできないいまの僕じゃあっという間に刀の錆だ。

「てめぇらに行く場所なんてねぇんだよ。血も十分にいただいたしもう用済みだ」
 だったらもう帰らせてくれ。

「駄目だな。さっきは生け捕りにしなきゃならんかったからトドメをささなかったが、もう遠慮する必要はねぇ。殺してやるぜ。こいつらのようにな」
 なんだと? ミイラ野郎が体をどけると奴の後ろには何人もの倒れている妹たちの姿があった。

「貴様っ!!」
 僕は激昂してミイラにとびかかろうとした。それを栗色の妹がおさえる。

「放せっ!」
「ヤー、グッドスズカ1984029号はお姉さまの命令を拒否します。私たちはお姉さまの大事を最優先にするようにとの至上命令を受けています」
 でも、奴を倒さないと先には進めないぞ。

「ヤー、グッドスズカ1984029号はここは私たちにお任せくださいとお姉さまにお願いします」
 君たちには無理だ。少々の数の差じゃ奴には勝てない。

「ヤー、私たちははシシオサーベルタイガーの弱点を知っています。だから大丈夫とグッドスズカ1984029号はお答えします」
 シシオサーベルタイガー? あのミイラの名前か。それより弱点があるのか? 栗色の妹はコクッと頷く。

「……わかった。ここは君たちに任せる」
 変身もできないデバイスアームも無いいまの僕よりは妹たちの方がまだ戦えるか。妹の数は8人。弱点を突けば勝ち目はあるか。だが、奴は相当に強い。本当に勝てるのか。よしんば 勝てたとしても何人かは殺されてしまうだろう。妹たちを助けに来たってのになんてざまだ。妹たちはシシオサーベルタイガーを取り囲むが隙を窺っているのかなかなか攻め込まない。 そうなると膠着状態になるんじゃないか。妹たちは靴から短剣を抜き出して構えている。妹たちは自分の靴底に短剣を忍ばせているのだ。しかし、短剣ではちときついじゃなかろうか。

「てめぇらの魂胆はわかってんだぜ。なるべく俺を長く戦わせようって腹だろうが、てめぇらをやるのに15分もいらねぇ。10分で十分だ。いくぜ!」
 シシオサーベルタイガーがベージュの髪の妹に斬りかかった。ベージュは間一髪かわすと反撃に出た。それを合図に他の妹も一斉に動いた。やはりというかなんというか妹たちでは 相手にならないようだ。身体能力では僕と大差ないが戦いの場数では話にならない。勝つには弱点を突くしかないが、奴の弱点って? 全身包帯ぐるぐるの見た目からして弱点だらけ に見えなくもない。気になるのは妹たちが弱点とやらをいっこうにつこうとしないことだ。早くしないと自分たちがやられるだけだ。すでに2人やられた。残りも程度の差こそあれ 負傷している。

「おい、本当に大丈夫なのか?」
 たまりかねて栗色にたずねる。切迫した状況からか汗が出てくる。ってか暑い。なんだ? さっきまでこんなに暑くなかったのに。栗色がこっそり教えてくれた。

「ヤー、グッドスズカ1984029号はお姉さまの疑問に答えます。さきほど、別行動のグッドスズカに基地の空調の温度を限界まで高くするように言っておきました」
 だから暑いのか。ってかなんで?

「ヤー、グッドスズカ1984029号はお姉さまにお答えします。それはシシオサーベルタイガーの体温を少しでも早く上げるためです」
 どういうことだ? 勝つための算段だろうが早くしないと妹たちがやられてしまう。もう半分もいない。あれだけの数を相手にしているのに、あんなに激しく動いているのにまったく 息を切らしていないシシオサーベルタイガーは敵ながらすごい。しかし、気持ちが高揚しているのか体から湯気みたいのがあがっている。それもちょっと赤いような。

「もしかして血?」
 体内の血が蒸発しているのか? そんな話は聞いたことない。これが栗色の言っていた弱点と関係あるのか。シシオサーベルタイガーは己の異変には気付いていないようだ。そして、 奴が斬りかかろうとした次の瞬間、奴の体が突然燃え出して瞬く間に全身火だるまとなった。炎の勢いはすさまじく何が起きたかわからぬ間にシシオサーベルタイガーは塵ひとつ残さ ずに燃え尽きた。栗色によるとシシオサーベルタイガーは汗による体温調整ができなかったようだ。そのため体温が上昇するとそれを抑えることができないという。15分とか言って いたのは奴が全力で戦える制限時間で、栗色はそれを縮めるために基地内の空調の温度を高めて奴の体温を上げようとしたのだ。それに気づかないままシシオサーベルタイガーはいつ もどおりに15分以内に終わらせたらいいと思ってしまった。結果、危険なまでに上昇した体温は体の脂に引火するまでになってしまったのだ。

「いいのかな…これで」
 あまりにあっけない強敵の最期。無論、払った犠牲は大きい。僕を含めて誰一人奴にダメージを与えることはできなかった。それほどまでに奴は強かった。まあ、僕が魔法を封じ られたこともあるが。奴を倒すには奴が自滅するのをただひたすら待つしかなかった。そう、奴は自滅した。奴の本当の弱点は戦いになると冷静な判断ができなくなることだ。 だから、周りの気温が暑いくらいになっても気にも止めなかったし、奴が最初から全力で戦っていたら妹たちは奴が限界に達するまでに殺されていただろう。しかし、結果は奴が 15分も余裕があると思ってしまったために自滅という形になったのだ。テレビとかだったらもう少しアクションが欲しいところだろう。

「まあ、しょうがないか」
 なにしろこの格好だもんな。魔法も使えないアクションもできないんじゃどうしようもない。

「さて、帰ろうか」
 長居は無用だ。別の改造兵士がいるかもしれないしな。何より服を着たい。

「ヤー、グッドスズカ1984029号はお姉さまにGOODが別の作戦を遂行中であることを伝えます」
「別の作戦?」
 栗色の妹が言うにはGOODは人類ぬいぐるみ化作戦なるものを企んでいるらしい。人間をぬいぐるみにしてしまうという何とも恐ろしいというかアホらしいというか。しかし、 放っておくわけにはいかない。早く脱出して作戦を阻止しなくては。もう作戦はスタートしているらしいからすでに被害は出ているかもしれないが、これ以上の犠牲者は出させない。 電波妨害でバイクが呼べないから外に出る必要がある。僕らは急いだ。途中で合流してきた妹たちを拾いながら。そして、ようやく外に出た僕らはそこで思わぬ奴に出くわした。

「桜谷涼香!」
 名前を呼ばれて振り返った先にいたのは、なんと前に倒したはずのポイボス・スピリットだった。

「桜谷涼香…そうか、総司令からのもう一つのプレゼントはお前だったのか」
「死んだはずのお前が……」
「俺は貴様を殺すまでは何度でもよみがえる。貴様にとっては迷惑な相手なのだ!」
 本当に迷惑だ。

「よみがえった俺が新しいメカニックのテストとして貴様を殺す!」
 そう言ってポイボス・スピリットは右手に装着した剣のついた円筒状の物を僕らに向けた。よく見ると剣の周りに3つの穴がある。

「くらえ!」
 その穴は銃口だったようでそこから発射された弾丸は僕らの周囲の岩を砕いた。

「どうだ! 38口径のポイボスマグナムの威力は。今度こそ貴様を倒す!」
「ポイボス・スピリット! 魔法少女に敗れたのを忘れたのか」
「黙れぃ! いまの俺は昔のポイボス・スピリットではない!」
「何回生まれ変わってもポイボス・スピリットは魔法少女の敵ではない!」
 だから大人しく地獄へ帰れ。だが、ポイボス・スピリットはますます激昂したようだ。短気なのは相変わらずのようだ。魔法が使えたらいくらでも相手になってやるのだが。そこへ、 別に行動していた妹たちがジープとトラックで駆け付けた。よし、これで逃げられる。僕はバイクを呼び寄せて跨った。

「ポイボス・スピリット、いずれゆっくり相手になってやる!」
 バイクのプラズマジェットで敵を食い止めている間に妹たちを先に逃がしてそのあとを追いかけた。さて、例のぬいぐるみ作戦とやらはどこでやってるんだ?

『ヤー、グッドスズカ1984029号がお答えします』
 それはテレパシーのように頭の中から聞こえてきた。そうか、同じサヤカシリーズだからこんなこともできるんだな。

『作戦の指揮官はコブラヴァイパーです。コブラヴァイパーのアジトは……』
 栗色が教えてくれたアジトの座標をバイクに読み込ませる。これで自動的にそこまで行ってくれる。

「よし、一気に潰すぞ」
 向こうにつくまでには魔力も回復しているさ。30分後、目的地が見えてきた。派手にぶちかましてやる。バイクからロケット弾を発射する。見事にアジトに着弾した。あわてて アジトから飛び出す工作戦闘員の中に左腕に銃を装着したコブラの怪人がいた。あれがコブラヴァイパーだろう。僕はそいつにバイク前面の2丁の50口径機関砲を撃ちながら突進 した。

「アタックシールド!」
 全速力でバイクを怪人にぶつけると、怪人は思いっきりぶっ飛ばされて頭から地面に激突した。ピクリとも動かないので首の骨でも折れたのだろう。残りの工作戦闘員は妹たちが 片付けた。アジトも徹底的に破壊してこれで作戦は阻止できた。試験的に何人かがぬいぐるみにされたようだが、お気の毒としかいいようが無い。

「ふーっ、これで残る懸案は……」
 チラッと整列している妹たちに目を向ける。彼女たちをどうするかだ。20人はいる。全部を家に引き取るのは不可能だ。どうしたものかと考えているとオレンジ色の妹が、

「ヤー、グッドスズカ7809号がお姉さまに向こうの繁みに誰か隠れていると報告します」
 なに? GOODか。

「誰だ!」
 オレンジが指さした方に向かって叫ぶと数人の男女が出てきた。GOODではないようだ。

「怪しい者じゃない。我々はノーグッド連合ジャパンの者だ」
 ノーグッド連合? 連合は全滅したんじゃないのか? でも、確か外部協力者がいたとか言ってたな。はて、信じていいかどうか。すると一人の女性が一歩前に出て帽子とサング ラスを取った。それを見て僕は「あっ」と声を上げた。

「お久しぶりです」
 前に会った岩上多恵さんだ。ノーグッド連合ただひとりの生き残り。でも、南米に行くって言ってなかった?

「そのつもりだったのですが、やはり日本に残ることにしました」
 そうだったのか。で、なんでここにいるんです?

「GOODが何かを企んでいるのと情報があったので阻止しようとしたんです。でも、いざ来てみると改造兵士がいたので手が出せないでいたところをあなたたちが来たんです」
 まだ戦うつもりでいるんだなこの人は。

「はい。GOODのために苦しんでいる人がいるかぎり私たちは戦いつづけます」
 さいですか。でも、いまのメンバーじゃ正面切って戦うのは無理だ。前みたいに全滅するのがオチだ。

「わかってます。でも、私は戦うって決めたんです」
 ご立派なお覚悟だ。そっちはそっちでやってもらったらいいさ。あとは任せて僕らは帰ろう。

「待ってください」
 岩上さんに呼び止められた。何でしょう?

「私たちと一緒に戦ってくれませんか? バラバラに戦うよりも力を合わせて……」
「お断りします」
 双方の力が対等ならともかく圧倒的に僕の力が上である現状では僕に共闘するメリットは存在しない。逆に足手まといを持つというデメリットが発生するだけだ。それより妹たちを どうするか考えないと。清香を引き取るので家は精いっぱいだ。とにかく家に帰って後の事を考えよう。妹たちに出発することを伝えてバイクに乗っかる。と、ここであることに 気づいた。

「ところで君たちは車の運転免許を持っているのか?」
 妹たちは一斉に首を横に振った。だろうなとは思うたが、もし途中で検問とかがあって免許書の提示を求められたら困ったことになる。さて、どうしたものか。歩いて帰るには無理が ありすぎる距離だし、こんなところじゃタクシーも来てくれない。魔力が回復していたらどうにかできただろうに。途方に暮れていると岩上さんが声をかけてきた。

「どうかしましたか?」
「いえ……」
「私たちにできることでしたら協力しますが」
 ……連合なら20人くらいを運べる車ぐらい用意できるか。それと妹たちを泊める場所とかも。でも、その見返りとして連合に入れと言われたら困る。かと言って他に妙案も無い。 思い切って相談してみるか。

「実は……」
 事情を説明した。

「そうでしたか。よろしければ私たちの車でお送りしましょうか?」
 どうしよう。ここはお言葉に甘えるべきか。……そうだな。

「お願いします。それとあつかましついでですが、妹たちをそちらで預かってくれないでしょうか」
「えっ?」
「家に引き取ろうにも人数が多すぎて困っていたんです」
「それはかまいませんが…よろしいんですか?」
「ええ、その見返りと言ってはなんですが妹たちにできることなら何でも言ってください。僕もできることは協力します」
「本当ですか?」
 岩上さんの顔がパッと明るくなった。妹たちがお世話になるんだ。姉として当然だ。

「ありがとうございます。妹さんたちは責任を持ってお預かりします」
 これで懸案は解決した。妹たちにそのことを告げると皆同意してくれた。

「じゃ僕はこれで」
 本当なら連合のアジトまでついていくのが礼儀だが、いまの僕は白装束の下は素っ裸の状態だ。寄り道はしない方がいい。また後日改めてお伺いさせていただくことにしよう。岩上 さんたちに別れを告げてバイクに乗ろうとしたが寸前でやめた。白装束でのバイク乗車は乗りにくいうえにかなりはしたない姿になってしまう。ちょっと他の人には見せたくないな。 向こうも見たくないだろうし。もう少し早く気付けば岩上さんたちが先に帰るのを待っていたのだが、すでに帰ると宣告してバイクにまで来た以上奴らが帰るまで待つなんてできない。 帰ると言っておきながらもいつまでもその場にいたら当然不審に感じて理由を訊かれる。白装束なんでバイクに乗ったらだらしない格好になるからと説明したら、十中八九なんで白装束 なんだ? と訊かれる。実は敵のアジトで素っ裸にされて着るものが無いからしょうがなしに敵の白装束を奪って着ている。だから白装束の中は下着すら着けてないんだよね。 なんて言えるかっボケェッ! そうだ、テレパシーで妹たちに岩上さんたちの目をふさいでもらってその隙にバイクに乗って帰ろう。

「えっ? な、なんなんですか? いきなり」
 妹たちに目をふさがれ動揺する岩上さんたち。その隙に僕はバイクに乗って走り去った。変な娘だなと思われるのは確実だろう。さすがはGOOD、僕を裸にしたのはこうなる事を 見越してだったとは。違うって。
 家に着くと玄関の前に手帳みたいなのが落ちていた。拾ってみるとうちの生徒手帳だった。持ち主は伊東か。なんで生徒手帳なんか落としたんだ? しょうがない。明日、届けてや ろう。

「たっだいまー」
「ヤー、京香はお姉さまを出迎えます」
「おかえりー。と清香はお姉さまをお出迎え〜」
 はい、ただいま。あれ? 靴箱の上に見慣れないレッサーパンダのぬいぐるみが。京香によると玄関に落ちていたそうだ。誰が? そうか伊東か。僕にプレゼントを持ってきて 置いて帰ったんだな。殊勝な心がけだ。ありがたくもらっておいてやろう。清香が欲しそうにしていたが、ダーメこれは彼氏からだから所有権は僕にある。

「いじわるー。と清香はふくれっ面〜」
 君には違うレッサーパンダのぬいぐるみをあげただろ。リビングに行くとルイとエリシアがいた。

「あら、お帰り」
「ねーねーお土産は?」
「ごめん、忘れた」
 それどころではなかった。命からがら帰ってきたんだから。それより疲れたよ。今日はもう風呂に入ったら寝よう。その前に博士に電話して代わりのデバイスアームを作ってもらお う。あ、そうだ博士は科学者の会合とやらに出席していてしばらくいないんだった。どうしよう、左腕が無い状態で学校には行けない。しょうがない。博士が帰ってくるまで休もう。 ソファーに座りたい気持ちを抑えて浴室に向かう。その前に白装束を脱ごう。もういらないから京香に言って処分してもらう。

「あー、お姉さま素っ裸ーっ。と清香は指を指して指摘〜」
 さらにルイが僕をじーっと見て、

「……あなた、そういう趣味があったの?」
 えっ? 違う! 断じて違う! 人を露出癖あるように言うな。僕は事情を説明した。

「……だとしても、そんな格好でここまで逃げてきたんだから同じことよ」
 うっ、反論しにくい指摘をしてくれる。僕は逃げるように浴室に向かった。今日はシャワーを浴びるだけで済ませる。くそっ片手じゃ体を洗いにくい。博士が帰ってくるまでこの 不自由が続くのか。風呂から上がりバスタオルで体を拭く。京香が着替えを用意してくれているが、片手で着替えるのは面倒だし疲れてもいるので今日はバスタオルを体に巻いて寝る。 それすらも片手じゃ難しいので京香に手伝ってもらう。京香がいて良かったよ。ルイとエリシアじゃやってくれないもんな。

「ありがとう。晩飯は何か出前でも取ってくれ」
「ヤー、京香はそのことを皆に伝えます」
 頼む。僕はレッサーパンダのぬいぐるみを手に取ると、自分の寝室に行きぬいぐるみを抱いてベッドにもぐりこんだ。おやすみなさーい。



 僕の記憶にあるのはここまでだ。だから伊東がなぜ僕の布団の中にそれも全裸でいるのかわからない。暗くて相手の表情はわからない。なぜ、奴がこんな暴挙に出たかわからない。 わからないことだらけだ。どうする? 張り倒すか? いや逆上されては却って逆効果だ。そうだ、悲鳴だ。大声を出せば誰かが来てくれる。よし、やろう。女の子だからこういう 場合「きゃあああ」だろう。

「き……!」
 だが、それを予想していたのか伊東が僕の口をふさいだ。いよいよもってこいつはやばい。奴は本気だ。

「ま、待て」
 待て? それはこっちのセリフだ。

「ち、違うんだ」
 違う? 何が違うんだ。このケダモノめ。

「頼む。落ち着いて俺の話を聞いてくれ」
 この期に及んで弁明とは見苦しい。どんなに言い訳しようが奴の罪状は明白である。女の子の家に侵入して全裸になって女の子の上にいるだけで奴の高校生活は終わりだ。だが、 彼氏にまでした男だ。弁解ぐらいは聞いてやろう。アイコンタクトでそのことを伝えると伊東は僕の口をふさいでいた手をどけた。

「お、俺にも何が何だか……」
 あっ? 弁解ってのはもう少し頭を使ってするものだ。

「は、話を聞け。本当に何が何だかわからないんだ」
「……いいから続きを言え」
「お前の家に行ったら急に体が縮んで…その前にチャイムを押したからお前の妹が出てきて俺を拾って家の中に入れて…ほんでしばらくしたらお前が帰ってきて……」
 ん? 待て、それって…。無い…あのレッサーパンダのぬいぐるみが無い。まさか、あのぬいぐるみが…。そうとは知らずに僕はそれを抱きしめて寝ていたのか。

「そうか、わかった。すべてわかった」
 すべてはGOODのせいか。

「すまない。体も元に戻ったし俺は家に帰るよ」
 そそくさとベッドを出る伊東。

「……お前、その格好で帰るのか?」
 格好も何も全裸だ。それで外を歩いてたらそれこそ警察の厄介になる。そういや、こいつの服どこ行ったんだ? 僕が帰ってきた時には生徒手帳しか落ちてなかった。そうか、京香だ な。ゴミと勘違いしたんだ。家族の物じゃないからな。だとしたら、それは姉である僕の責任だ。なら、責任を取らないとな。僕もベッドから出る。そしたら、伊東があわてて僕から 目をそらした。どうしたんだ? 失礼な奴だな。

「お、お前、ふ、服、服を着ろ」
 服? 自分の体を確認する。

「!」
 あわててベッドに飛び込んで体を隠す。そうだった僕も裸だったんだ。バスタオルは寝ている間に取れたらしい。気まずい空気が流れる。とりあえず服を着よう。片腕じゃ着にくい とか言ってられない。伊東は…バスタオルで我慢してもらう。タオルを渡すと伊東は怪訝そうな顔をした。

「今日はここで泊れ。明日になったら僕が何とかしてやる」
「へっ?」
 しょうがないだろ。それとも全裸で家まで帰る気か? それは勇気でもなんでもないただの無謀だ。ってかそれ以前に犯罪だ。で、どこに寝かせるか。空いている部屋はもう無い。 居間のソファで寝かせるのもルイに見つかるとやばいので無理。となれば…。

「ここで寝るしかないな」
 しかも布団も毛布も僕の分しかないので僕と一緒に寝るということになる。伊東は驚いた顔をしているが、僕だって本当は嫌だよ。でも、僕が思うに僕たちはもう恋人同士なんだか らこれぐらいは当然ではないだろうか。でも、

「変なことしたら殺すからな」
 さすがに肉体関係は早すぎる。伊東は迷っているようだが、僕は奴をほっといて寝ることにした。しばらくして、伊東がそっと僕の布団に入ってきた。想像以上にドキドキしてきた。 やはり、この判断は間違っていたのだろうか。いつ伊東の理性が崩壊するか。考えたら羊が自分の小屋に狼を招き入れているようなものだ。もし、そうなったら…それを考えると眠れ なくなった。よし、羊を数えよう。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹…それを追いかけて狼がやってきて羊をパクパク。違うって。いかん、よけい眠れなくなってしまった。伊東はどう だろう。機会を虎視眈々と狙っているのか。いや、奴は決してバカではない。それなりの分別は持ち合わせているはずだ。そうだよ、何も心配することないんだ。伊東は人の寝込みを 襲うような奴じゃない。きっと大丈夫さ。これで安心して寝られる。伊東の方は眠れない夜を過ごしてもらおう。と、思ったらスースーと寝息の音が聞こえる。もしやと思い確認して みると既に寝ているではないか。

「なっ」
 女の子と一緒の布団にいるのによく緊張もせずに寝られるものだな。それとも何とも思わないのだろうか。鈍感なのか? 腹立つから顔に落書きしちゃる。ええい、僕だけが意識 してたみたいで馬鹿馬鹿しくなってきた。寝る!



 翌朝、目が覚めると伊東の顔が間近にあった。まだ寝ているようだ。結局、何事も無かった。ホッと胸を撫で下ろすべきなんだが、ちょっと複雑な気分にもなる。もう少し大胆に なってもよかったんじゃないの?

「おい、起きろ」
 伊東の顔をべしべしとはたく。

「う、うーん……」
 起きたか。

「あれ、涼香? なんで俺の部屋に?」
 バカ、何を寝ぼけているんだ。ここは僕の部屋だ。

「あ…そうか」
 やっと目が覚めたか。んじゃ早速。僕は変身した。魔力はもう回復している。変身した僕を見て伊東が指差して驚いている。

「お、お前、それ」
「そっか、まだ言ってなかったか。僕は魔法使いだ」
「魔法使い? 本当に?」
「そうだ。だからこんなこともできる」
 僕は魔法で伊東に服を着させてやった。

「えっ? 本当に魔法が使えるんだな」
 そうだ。

「じゃあ、俺をぬいぐるみにしたのもお前か?」
「それは違う。お前をぬいぐるみにしたのは違う連中だ」
「そうか……」
「なんか残念そうだな」
「お前が俺をぬいぐるみにしたという方が嬉しいかなって」
 バカ野郎。いくら現代の魔法使いで最強の僕でも人間を何かに変えることはできない。それより早く家に帰れ。家族が心配しているぞ。

「あ、ああ、じゃ帰るよ。またな」
 伊東は大急ぎで出て行った。でも、すぐにもどってくるだろう。なぜなら靴が無いから。

 つづく





次回予告
 ついにポイボス・スピリットが桜谷涼香に最後の挑戦をしてくる。ポイボス・スピリットに命の焔を分けてもらい蘇る怪人たち。
怪人軍団を相手に劣勢の涼香にルイとエリシアが加勢する。しかし、3人の魔法少女が共に戦うのはこれが最初で最後だった。死を
覚悟したポイボス・スピリットに日本は壊滅の危機に陥る。絶体絶命の窮地にルイとエリシアは……。日本を守るために犠牲となっ
た二人に涼香は魔法少女4号と5号の名を贈るのだった。変身!ライダー少女BLACKRX『ポイボス・スピリット最後の総攻撃』
ぶっちぎるぜ!







 えっと、文庫版をお読みの方は知る由もないんですが、実は前々回のラストには続きがありまして涼香と伊東はめでたく相思相愛になったんですよ。サイト版には掲載してあるんで すが。あの時はそんな深刻に考えてなかったんですが、やはり重要なエピソードなのでここで掲載したいと思います。お姫様抱っこレースが終わって表彰式でのシーンからです。 ☆から先が文庫版未掲載分です。



『……最後にお二人にキスしていただきましょう』
 ……キス? 鱚? スズキ目に属するキス科の魚。違う? ん、例のチラシか。どれどれ、ちゃんと大会優勝者にはキスしてもらうって書いてある。ただ、単に見落としていただけ か。なーんだ。……なにーっ!!!? ☆ど、どういうことだ? 僕はチラシを何回も確認した。しかし、いくら見返しても書かれている文章に変更は無い。僕は先輩の方を向いた。 ニコッと笑っている先輩にようやくその意図を理解した。あの時、ちゃんとよく見ておくべきだった。どうする? 大衆環視の中でキスなんてありえない。かといって空気的にキスする なんて知らなかったとはいえない状況。特に伊東はすっかりその気でいる。当然だ。僕から誘ったんだからな。だからか。先輩がくれぐれも僕の意思で誘ったことにしてくれと念押し したのは。絶体絶命の窮地に陥ってしまった。どうしよう。どうしよう。どうしよう。このままじゃいつぞやみたいに頭がオーバーヒートして自動防衛プログラムが起動してしまう。 そうしたら皆に僕が人間でないことがばれちゃう。やるしかない。でも、自分からキスするなんてありえない。その一線を越えたら僕はもう……。葛藤している僕を伊東は何か勘違い したようだ。

「お前…もしかして緊張しているのか?」
「なっ!?」
 もし、この時コップでも握っていたら思わず握りつぶしていたかもしれない。自分の中で感情制御が限界を越えようとしているのがわかる。理性が崩れようとしていた。

「そ、そそそそそんなことあるもんか。こ、こここここのぼぼぼぼぼくが……」
 完全に頭が混乱していた。悪いことに追い打ちをかけるかかのように、あの時のことが脳裏に浮かんでしまった。兄さんを殺したあの日の晩での公園での伊東の不意打ち。忘れよう としていたのに最悪のタイミングで思い出してしまった。

「キ、キスぐらいでこの私が緊張するなんてあるはずないじゃない!」
「涼香?」
「やるわよ。やってやるわよ! 覚悟なさい!」
「いや、何の覚悟だよ。それより、落ち着け。お前やばいぞ。このままじゃあの時みたいに……」
「うっさい! うるさいうるさいうるさい! 男なら覚悟決めて目をつむりなさい!」
「だって、お前……」
「何よ! 女に恥かかす? それでも男なの!?」
「わ、わかった……」
 伊東が目をつむるのを確認した僕は奴の唇に自分の唇を重ねた。その直後、場内から拍手と歓声が沸き起こった。



 その日の晩、僕は伊東と夜の公園にいた。奴との衝撃的な事が起こったあの公園である。僕は先輩に言われてあのレースに出たこと、キスのことなんか知らなかったことを伊東に話し た。

「そうか…おかしいと思った。お前があのレースに誘うなんてよ」
「悪かったな。先輩からお前を誘ったらって言われたんだ」
「……なあ、もしパートナーを自由に選べたとしたらお前は俺以外の男を選んでいたか?」
「どうだろう。わからない。あの時はそこまで考えていなかった。でも……」
「でも?」
「もし、そうなったとしても僕はお前を選んでいたかもしれない。やっぱし、ああいうのって誰でもいいってものじゃないし。キスの事もあったら尚更お前しかいない。僕の初めてを 奪った大泥棒なんだからな」
 言っておくが女になってからのである。

「あの時はすまなかった。ちょっと強引だったな」
「お前にあんな度胸があったなんてな。まあ、寝ている僕の胸を鷲掴みにしたり、パンツに顔埋めたりするような奴だからなお前は」
「だからあれは誤解だって」
「わかってるよ」
 僕らは笑いあった。

「ところで気になったことがあるんだけどよ」
 なんだ?

「お前って興奮すると女口調になるよな? 普段は男口調なのに。前はそういう喋り方の娘かと思ってたけど、普段はそういう風に作ってるのか?」
「いや、そういうわけでもないよ。いまの喋り方がごく自然な僕の喋り方だし、昔は興奮してもいまの喋り方だった。実は僕もなんで女口調になったかわからないんだ。ただ無意識に としか言いようがない」
「そうか、でも女の子なんだから女口調の方が自然だけどな」
「それは自分でもそう思う。でも、今更変えるつもりはないよ。いま変えても却って皆が変に思うからな」
「そうだな。無理して変えることはないさ。まあ、それよりさっきの大泥棒って少し言い過ぎじゃないか?」
「なんでさ。奪ったじゃないか。二つも」
「二つ?」
「一つはファーストキス(くどいようだが女になってからのである)。もう一つは…僕の心だ」
「えっ?」
「この罪は高くつくぞ?」
「それって……」
「お前、何回も聞いてたな。僕と付き合える状態になったかどうかって。答えてやるよ。答えてやるから耳を貸せ」
「あ、ああ」
 伊東が耳を近づけると、僕は耳に囁くと見せかけて奴の頬にキスした。驚く伊東に僕は少し照れくさくなった。

「それが僕の答えだ。さっきも言ったようにこれは極めて重い罪だ。だからちゃんと責任とってもらうからな」
「ああ、心配すんな。俺はちゃんと責任取る男だ」
 胸を力強く叩く伊東。またしても二人で笑いあった。こんなに笑ったのなんて生まれて初めてだ。

「あ、雪」
 雪が降ってきた。

「変だな。今日は快晴のはずなのに」
 それは僕も天気予報で聞いた。ここしばらくは雪の心配は無いって。ちらほらならともかく地面につもるぐらいの雪だ。

「あの二人の仕業か……」
「えっ?」
「ううん、なんでもない」
 純血の魔導師が二人も揃えば雪を降らすぐらい造作もないだろう。あの二人にしては気を利かせてる。ホワイトクリスマス。ロマンチックな演出じゃないか。

「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 そして、僕らは抱き合った。ちなみにいま降っている雪が交通機関がマヒするぐらいの大雪になったことは別の話である。本当にあの二人は手加減を知らないんだから。





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