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「サヤ姉様、私なんかにそんな役目が務まるのでしょうか……」
「マヤ、大丈夫よ。あなたは召喚の巫女なのだから……私が神託の巫女として王様につかえているのを見てきたでしょう?」
「でも……」
「今、この国は壊滅の危機にあるの。その危機を救えるのはあなたとあなたが呼ぶ勇者だけなの。」
「…………」
「わかっているのでしょう? マヤ、この首飾りをあげるわ。私が祈りを込めたものだから効果は抜群のはずよ。」
「……わかった。一生懸命やってみる!」


THE STORY IN THE MIDDLE 前編

present by yuk


「…………ま。…みや………小宮山!」
「え!? あ! はい!」
「お前はまた……読書はいいことだが授業中はこっちに集中してくれないか?」
 小宮山紀也(こみやまのりや)は読書家だ。
 ただ、読書好きが行き過ぎ学校の授業中ですら本を読みふけっていてよく先生に注意される。

「お前、またかよ。」
 授業が終わり放課後、紀也は親友の水筒冬氷(みなづつふゆひ)と共に下校している。
「またって言わないでよ。一回読み出したら止まらないんだって。」
 実際またなため言い訳は続かなかった。
「で、今日はどんな本読んでたんだ?」
「えと、ね。勇者ライズの伝説っていう勇者とかが出てくる冒険ものなんだけどね。この世界観が面白いんだ。」
 冬氷は何の気なしにその内容を聞く。
「ふ〜ん。どんなの?」
「この世界では魔法があるんだけど使えるのは美女だけなんだって。で、男で魔法が使える人が否応なく勇者って呼ばれるんだって。」
「へ〜。」
「でね。この本には上巻と下巻があってね。上巻が魔王になってしまった自分の彼女を救う話、下巻が自分の国だけじゃなくて世界を平和にする話なんだけどね。」
「ほ〜。」
「でもね。下巻の初めにサラッとその後隣の国の魔王を倒した勇者たちはとかって書いてあるんだ。きっとその間には何か知られざる物語というかなんというかがきっとあるんだよ!」
「は〜。」
「それでさ、その間に何があったかを考えるとどうしても読むのを止めれなくて話のどこかにヒントがあるんじゃないかって……」
「ふ〜。」
「……って聞いてるの!?」
「ひ〜。……いや、聞いてるさもちろん。」
「ほんとにぃ〜?」
 正直この世界では〜のあたりから聞いていなかった。
「ははは。紀也がどれだけその話を気に入ったかはよくわかったよ。」
 そんなたわいもない話をしながら帰り道を歩いていく。すると……
「冬氷! 仕事だぐぷぇっ」
 と突然後ろから何かが飛んできて紀也の頭にぶつかった。
「な!? シャ……なんで今!?」
「……いてててて。今の何!?」
 なぜか驚いている冬氷と突然のことに何が起きたのかわからない紀也。
「ねぇ、冬氷、今の何?」
「さ、さぁ? なんなんだろうな?」
 何かを知っていてごまかす冬氷。しかし目が泳いでいる。
「そ、そんなことより帰ろうぜ!」
 そしてなぜかあわてたように帰ろうと言い出した。
「え? うん……あれ? これなんだろ?」
 その時、紀也は道に落ちている丸いきれいな小石のようなものを見つけて手に取ろうとした。
「ぎゃ! 《ゲート》!? シャルレのやつ落としやがったな!」
 それを見た冬氷は驚き、誰かの名前を責めるように叫んだ。
「これなんだろ……きれいだな〜。」
「な! まて、紀也! それに触るな!!」
 冬氷の叫びもむなしく紀也がその小石に触った時――――
 ――――――――光が、爆発した。


「マヤ様! マヤ巫女様!」
「どうしたの? マドカ。私はこれから大事な……はじめての役目めがあるの。あなたにかまっている暇はないわ。」
 ここはセルムクルドという国の宮殿。その国では王様のそばに常に二人の巫女が仕えている。
 一人は神託の巫女。神のお告げを聞き王様に助言をする。
 もう一人は召喚の巫女。国が危機に陥ったとき勇者を召喚する役目をもっている。
「この国は今危機に陥っているの。魔王エフェドラ=シニカが現れてからこの国は傾きかけてるの。私の力が必要なのよ。」
「私とて巫女にお仕えする者。その程度承知しております。しかし、マヤ様は今とても緊張していらっしゃるので……」
 マドカは幼いころからマヤにつかえている官吏である。幼いころから仕えているためマヤのことは大体分かる。
「私はそんなことではうろたえないわ。私にはこれがあるもの。」
「その首飾りは……?」
 いつもマヤがつけているものではない。
「これは姉様がくれたの。これがあれば大丈夫よ。」
「サヤさまが……しかし、いつものあの首飾りは……神様の祝福を受けたあの首飾りは……」
「神様の祝福よりも姉様の祈りのほうが私にとっては素晴らしいものなのよ! 時間がないわ。もう行きます。」
「あ! マヤ様!」
 マヤはマドカの言うことに耳を傾けず、そのまますたすたと行ってしまう。
「何か……なにかとても嫌な予感がする……」
 マドカのつぶやきを聞いているものは誰もいなかった。

「ミツルギ七世様とヤリノサヤ巫女様がいらっしゃいました!」
「それではこれより勇者召喚の儀を執り行う! 召喚の巫女、ヤリノマヤ巫女前へ!」
 祭事場の門番の王と神託の巫女の来場を告げる声を聞き、祭事長が恭しく宣言する。
 祭事長の宣言を聞き、マヤは一歩一歩祭事場の中心へと進む。
 ――うう、緊張してきた。……でも大丈夫。私にはもって生まれた膨大な魔法力がある……それに今は……
 マヤはそっと首に掛けてある頸飾りに手をかざす。
 ――姉様から頂いたこの首飾りもある。大丈夫。私にはできる。この国を救える。
「我、願うは……」
 マヤは昔から言い伝えられている勇者召喚の祝詞を滔々と読み始める。
「天性の勇者、宣誓の賢者、永世の信者、我の声届きたれば今ここに!!」
 祝詞を読み終わったマヤの体から強い光が放たれる。と同時に首飾りからも光が洩れる。
 光が爆発し、そこでマヤの意識は途絶えた。
「あぁ! マヤ巫女様が!」
「どうなったんだ!? 勇者は、勇者は現われたのか?」
 様子を見ていた司祭たちが一斉にざわめきだす。しかし……
「……だめだったみたいだな。勇者の影も形も見えない。」
「そんな!? じゃあこの国はどうなってしまうんだ?」
 彼らが期待した結果はそこには現れていなかった。
「失敗してしまったか……。仕方ない。今はゆっくり休養を取り後日もう一度やってもらうとマヤ巫女に伝えてくれ。」
 そういったのはこの国セルムクルドを収める王、ミツルギ七世。しかし……
「いけません。このような大事な儀式で失敗などあの子のひいては我が家、ヤリノ巫女一族の恥。術者の命をもって贖罪を……」
 答えたのは国と王を支える神託の巫女ことサヤ。
「だが、あの子はお前の実の妹ではないか。」
「だからこそです。だからこそこんな重大な失敗を犯した妹にこれ以上生き恥をさらさせたくないのです。弓兵!」
 最後の言葉は王に向けた言葉ではなかった。

「ん……ううう……」
 紀也は奇妙な感覚の中意識を取り戻した。
 ――いったい何が起こったのだろう? 覚えている最後は奇麗な石に触ろうとした瞬間に冬氷が叫んでいたことだけだ。
「あぁ! マヤ巫女様が!」
「どうなったんだ!? 勇者は、勇者は現われたのか?」
 ――勇者? なんだろう? 面白そうな本の話かな?
「……だめだったみたいだな。勇者の影も形も見えない。」
「そんな!? じゃあこの国はどうなってしまうんだ?」
「神託の巫女様のご命令が下された! 召喚は失敗だ。これは死に値する。召喚の巫女を射れ!」
 ――何の話なんだろう? あ、何か見えてきた。
 ようやくものすごい量の光の奔流を受け一旦無くなっていた紀也の視力が回復してきた。
 そして紀也が見たものは……
「矢ぁ!?」
 自らをめがけて降り注ぐ幾つもの矢の群れだった。
「うわ〜!」
 がきぃぃん!
「大丈夫ですか?マヤ巫女様?」
 大量に降り注ぐ矢の中またも気絶した紀也がその意識が落ちる寸前に見たものは長い黒髪をなびかせ剣でことごとく矢を撃ち落とす女性の姿だった。 

「…ヤ様……マ…こ様……」
 誰かを呼ぶ声が聞こえる。
 でもそれは自分の名前ではない。
 だから一旦眼をさましかけたけどもう一回寝ようとした紀也を誰かがゆすった。
「な? わ〜!」
 まどろんでいた意識が一気に引き戻された。
「マヤ様! おめざめになられましたか!」
 目の前にはなんかものすごいきれいな人がいる。しかも半裸で。
「わ! 目覚めた! 目覚めたから何か服着て!」
「え? ですがしかし……私の服はあなたにお貸ししているので……」
 その言葉を聞いて紀也は自分の恰好を見た。
 するとたしかに着ていた学校の制服ではない。
「わ! すいません! 今おかえししま……」
 あわてて脱ごうとするが……
「……え゛!?」
 その服の下はさらし一枚しかなかった。
 しかし、そのことよりももっと驚いたのは、
「む……胸? え? なんで僕に?」
 ――ぼ、僕は確実に男だよな……でも、何で……
「マヤ様! どうしたのですか? 何か問題がありましたか?」
 女の人、マドカが心配そうに尋ねる。
「え? マヤ? 僕の名前は小宮山紀也で……。」
「な、何をおっしゃっているのですか?」
「だから、僕はマヤとかいう女の子じゃなくて、紀也っていうれっきとした男だって。」
 何が起こったのか自分でもわかっていない紀也はあわてて話をする。
「え、……でもそんな……でも確かに先ほどから様子がおかしいようですが……」
「信じてくれるんですか? マドカさん!」
「え、ええ。……あれ?」
 その時、マドカは何かに気がついたようだ。
「私、名前言いましたっけ?」
「え?」
 今度は紀也がハテナを浮かべるほうだった。
 確かに名前は聞いていない。
「あ、あのこれは……」
 確かに聞いてないがなぜか自然に出てきた。
「ということはやはり先程の話は嘘だったのですか?」
「あ、あのちが……本当のことで……」
「しかし……」
「そいつの言っていることは本当だ。」
 その時いきなり横から声をかけられた。
「な? お前は誰だ!? この場所は私しか知らないはずだぞ!」
 いきなりかけられた声に驚くマドカ。
 そこには銀色の髪を一つにまとめた、少女というしかない年の女の子がいた。
 銀の少女はマドカの言葉を無視して淡々と続ける。
「その巫女の中にはお前達が言うところの勇者が入っている。」
「勇者!? ではマヤ様の儀式は成功していたということか?」
「ああ。しかしこの世界のではない、異界の勇者だがな。」
「異界!?」
 銀の少女の言うことを茫然と繰り返してしまうマドカ。
「……しかしマヤ様は!?」
「首の飾りだな。あの中に封印されている。」
 そう言って銀の少女は紀也の首にある飾りを指した。
「封印!?」
「安心しろ。封印を解く方法はある。」
「それはいったい……」
 その時、置いてきぼりを食らっていた紀也が口をはさんだ。
「ちょっと待ってよ!巫女とか異界の勇者とか封印とか一体何なんだ!?」
「紀也、お前は分かっているはずだ。その体は召喚の巫女マヤのものだし、お前はこの《世界》を読んだことがあるはずだ。」
 ――世界を読んだ?って何だ?……ちょっと待てよ……マヤ、マドカ、巫女、勇者……あ!
「もしかして……でもマドカってたしか……」
「思い当ったようだな。じゃあ、次に向かうところもわかるな。」
 何かを悩みながらも無言でうなずく紀也。
「何の話をしてるんだ?」
 今度はマドカが不満を唱える番だった。
「というより、お前はどうしてここにいる?」
 うっかり流してしまったが、なぜ自分しか知らないこの場所に知らない人間がいるのかが気になっていた。
「そんなことよりいいのか?追手がここを嗅ぎつけるぞ?」
「何!?本当か?」
「ああ。早く行ったほうがいい。行先は紀也がわかるだろう。」
「マドカさん。行きましょう。」
 いろいろ悟ったらしい紀也がマドカを引っ張って外に飛び出す。
「あ、ちょっと、いろんなことを知っているあいつはいったい……」
「急ぎますよ!」

「ふぅ。行ったか。全く、お前の能力が便利だと思ったのこれが初めてだぞ。」
 二人が行ったあと、銀の少女は一人で何かつぶやいた。
「なんだと? この俺の能力が使えねぇっていうのか?」
 しかし、そこには少女しかいないのに確かな声で返事があった。
「だいたい、もとはと言えばお前が《ゲート》を落とさなきゃこんなことには……」

「さぁ、仕事仕事。ブレイカーはどこだ〜。」
「おまえなぁ……まぁ、紀也がどうにかしてくれるだろう。」
「なんだ? 人任せかよ。」
 答える何かの声は不満そうだ。
「ブレイカーを倒しても始まった物語を終わらせることはできないからな。」
「異界の勇者様にお任せってやつか。」
「もっとも勇者というほど勇敢でも聡明でもないようだがな。俺たちは追手を迎え撃つ。」
「そうこなくちゃ。よっしゃ、打ちまくるぜ!」
「打つのは俺だろうが。」
 そういうと銀の少女は懐から銀の銃を取り出した。

「わ、ちょっと、マヤ様!? どこに行くんですか?」
 引っ張られていたマドカがそういいながら足を止める。
「僕はマヤじゃないって。僕は紀也だ! これから隣の国、ハイクロードサンベルクを目指す。」
 そういうと紀也はまたマドカを引っ張って走り出す。
「と、隣の国って、では紀也、隣の国にいって何をするんですか?」
「勇者ライズを……この世界の勇者を訪ねる。」
「……なるほど。隣国の勇者ライズですか。理にかなっていますね。しかし……」
 マドカはそこで言いよどむ。
「しかし?」
「どうやって隣の国に行くつもりなんですか?」
「あ゛……」
 やはり勇者にしては今一歩足りない紀也であった。
「え〜と、あの魔法で何とかならないですか? マドカさんなら相当美人だから魔力強いでしょ?」
 この世界では魔法をつかえるのは女性だけで、強さはその美しさに比例する。
「え? いや、私は……それよりも紀也のほうが適していると思いますよ。」
「僕?」
「正確にはマヤ様のほうが、ですけどね。」
「でも僕は魔法なんて……」
「その体はマヤ様のものです。つまりマヤ様にできたことは理論上できると思います。」
「わかった。何かできないか考えてみるよ。
 そういうと紀也は精神を集中するように目を閉じた。そして……
「く〜。」
 パターンどうり眠り込んだ。
「あの、紀也、いったいいつの時代のギャグやってるんですか?」
 マドカが紀也をゆすり起こす。
「あ、ごめんごめん。でも、方法は思いついた。というか見えた。」
「なるほど。夢見の力ですか。」
 夢見の力は巫女のスキルの一つである。
「で、どうするのですか?」
「うん。召喚の巫女だし、召喚獣ってやつを使ってみようと思う。」

「こんにちわ。リタ。」
「あれ? サラ、呼んでないのに何で?」
 ここはハイクロードサンベルク国のある村。
 リタと呼ばれた小学生ぐらいの少女は突然の来客に驚いたようだ。
「実はね、ほかの契約者がハイクロードサンベルクに来たいっていうから契約の道を使わせてもらったの。」
 サラと呼ばれたリタと同じくらいの少女は笑いながらそういった。
 実はサラは召喚獣、火龍サラマンダーの化身である。
 そしてリタは召喚獣と契約をした召喚士だ。
 契約の道とは召喚獣が契約者のもとに行く時に使う道のことだ。
「へ〜。あたしのほかに契約できた人がいたんだ。」
「うん。セルムクルドの召喚の巫女なんだよ。」
 そう言ってサラはリタに二人を紹介する。
「こんにちわ。僕は紀……じゃなくて、私はマヤと言います。」
 召喚獣の手前、自己紹介をこのようにした。
「私はマヤ様のおつきのものでマドカという。」
 二人はそれぞれ自己紹介をした。
「それじゃ、私は帰るね。また何かあったら餡蜜で働いてあげる。じゃあね、異界の勇者さんと孤高の王様さん。」
 そういうとサラは姿を消した。紀也のことはばれていたらしい。とすると孤高の王様とはマドカのことか。
「で、何の用でこんなところまで来たの?」
「この国の勇者に会いに来たのだが、どこにいるか分かるか?」
 リタの質問にマドカが答え、質問で返す。
「勇者? ああ、ライズのことね。ちょうど良かったね。これから冒険に出るから迎えに行くって言われてたの。そろそろ来るころよ。」
 リタの言葉のすぐあとに家のドアがばたんと開いた。
「リタ! 準備はできたかい?」
「ええ。でも、オフィーリアはエキドナと一緒に温泉旅行だって。アスランは右手骨折中らしいよ。」
「……どうしよう、困ったな。」
「あ、そういえばライズにお客さんだよ。マヤさんとマドカさん」
 リタに紹介された二人だが、ふと疑問が浮かぶ。
「あれ? ええと、ライズさんですよね。勇者の。」
 その疑問を口に出したのは紀也だった。
「うん。そうだけど?」
「ええと、魔法を使える男性が勇者とよばれるんでしたよね?」
「うん。少なくてもこの国ではそうだよ。」
 紀也の質問に淡々と答えるライズ。
「じゃあなんで、あなたは女性なんですか?」
 そうなのだ。先ほどからライズと呼ばれているのはどこからどう見ても若い女性なのだ。
「ああ、これはね、なんていうか、魔王の呪いっていうか、今回の旅の目的っていうか……」
 ライズは微妙に何かを口ごもっている。
「なんですと? この国にも魔王がいるのですか?」
「え? まぁ、うん。」
 今度はマドカがその話に食いついた。
「では、勇者様はその魔王を倒しに?」
「え、うん、まぁ、結果的にそうなるのかな?」
「では、その旅をお手伝いいたしますので私どもを助けてください。」
 マドカはライズにこれまでのこと、首飾りに封じられた本物のマヤのこと、魔王エフェドラ=シニカのことなどを話した。
「ライズ、助けてあげようよ。アリエルのお姉ちゃんならなんとかできるんじゃないの?」
「そうか……うん。わかった。そういうことなら、アリエル……こっちの魔王の力添えを期待できる。」
「魔王、の力添えですか?」
「……まぁ、魔王の拠点に行ってみればわかるさ。」
 何となく歯切れの悪いまま四人は魔王の居城へ向かった。

 勇者ライズたちを仲間に加えた紀也達は魔王が居るという場所までモンスターを倒しながら急いだ。そして……
「ここが……魔王の拠点?」
 紀也は茫然とつぶやいた。
「うん。そうだよ。以外?」
 ライズがあっさりそういう。
「以外もなにもこれって……」
 紀也達がそこで見たものは……
「いらっしゃい! うちはどこよりも安いよ!」
「焼き鳥はいりませんか?」
「あなたの運勢占います。」
 という感じのかなり賑やかな町並みだったからだ。
「これってどう見ても魔王の拠点っていうより首都レベルの町だと思うんだけど……」
「まぁ、実際ここは首都で、あそこに見えるのがハイクロードサンベルクの王城なんだけどね。」
 リタがなぜか楽しそうに驚愕の事実を教えてくれた。
「そのほかには、何か気がつかない?」
 ライズの質問に紀也とマドカは周りの様子をもう一度見た。 
「あ!」
 声を上げたのはマドカだった。
 その時、屋台で焼き鳥を焼いていた若い女性が声をかけてきた。
「おお! もしかしてライズ君じゃないかい! やっと来てくれたんだ。」
「あ! もしかしておやっさん?」
「そうそう。こんなんなっちまったよ。って君も人のこと言えんじゃないか。」
 そう言ってその女性は笑う。えらくおっさんじみた笑い方で。
「その原因のアリエルは?」
「家で引きこもってるよ。行ってやんな。」
 女性にお礼を言って紀也たちはその場を離れた。
「さっきの人は知り合いですか?」
「うん。そうだよ。焼鳥屋のおやっさん。」
 へ〜、と思った紀也だったがひとつあれ?と思ったことがあった。
「おやっさん?」
「ああ。それがさっきの答え。」
「さっきの?」
 紀也の質問に答えたのはマドカだった。
「この町のおかしいところはですね、男性がいないところですよ。」
「ああ!」
 そういえばさっきあんなに賑やかな町だったのに店の人も客もみんな女性だった。
 紀也は今更になってそれを思い出した。
「で、この町というか今はこの国全体をそんなのにしたのが魔王アリエルなんだ。」
「なんでそんなことを?」
「私も知りたいです。」
 紀也の質問はマドカがしたかったのと同じ質問だった。
「実はね……」
 ライズはこんなことになった原因を話し始めた。

「ラ〜イズ!! すっごいのよ! 私やっちゃったのよ!」
 ここはとある村、ライズの家に彼の彼女がやってきた。
「なんだよ、アリエル。また新しい魔法?」
 アリエルがまた変なことを始めた。
 その時のライズの感想はそれだけだった。
「それがね。私ついにやったのよ!」
「やったって何を?」
「ついに男の人でも魔法を使えるようにする方法を見つけたのよ!」
 この世界では基本的に男性は魔法を使えない。
 アリエルの言うことが本当なら世紀の大発見だ。
「それって本当? 間違いない?」
 さすがにそれが本当なら大発見なため、ライズは目を見開いた。
「本当なのよ! ただ……」
「ただ?」
 ライズはその言葉に恐怖を覚えた。
 なぜならアリエルは前に一度術を暴走させこの国の姫をボディービルダー並のムキムキ男にしたことがあるからだ。
 そのせいで魔王という有り難くない称号を受けていたりする。
「まさか……術が暴走したとか言わないよね?」
「ごめん。そのまさか」
「わ〜〜!!! 胸が! 胸がぁぁぁぁ!」
「てへ♪……うわ〜ん、どうしよう!!」
 アリエルはそれだけ言い残して消えてしまった。

「……って感じで、僕はその魔法を解除しに来たってこと。」
「…………」
「…………」
 あまりのあほさ加減に紀也とマドカは無言だった。

「ここが、魔王の居城だ。」
 ライズがそう言って刺したのはおどろおどろしい城…テンではなく、割と豪華な宿屋だった。
「居城って……」
 紀也とマドカはかなり呆れている。
 そんなことは気にせずにライズはその中に入っていく。そして宿屋のカウンターにいた人と
「おじゃましま〜す。こんにちわ。マルタさん。今日もきれいですね。」
「あらありがとう。ライズ君。でも私のことは義姉さんって言ってもいいのよ?」
「さすがにそれは言えませんよ。お義父さん。」
 そんなほのぼの(?)とした会話を繰り広げている。
「ところでアリエルは……」
「あの子なら部屋にいるわよ。そうか、魔法を解きに来てくれたのね。いつものことだけどありがとうね。」
「いえいえ、そんなところも好きですから。」
「あらあら、見せつけてくれちゃって。」
 なぜか勇者が魔王とののろけ話をはじめたので
「……う〜ん、なんか疲れたよ。」
「安心してください。私は初めから疲れてます。」
 紀也とマドカはもう完全に疲れきっていた。

「ふふふ。よく来たな! 勇者よ。しかし……」
 部屋に入るなりいきなりRPGのラストっぽいBGMといかにもラスボスが現れました的なエフェクトと共に明らかにラスボスっぽい魔王みたいなものが現れた。
「……アリエル、別にそんなに魔王にこだわらなくてもいいんだよ?」
 さすがのライズもこの演出には疲れが出たらしく、乗る気はないようだった。
「……ごめんなさい。調子に乗りすぎました。」
 素直に謝った魔王っぽいものは姿を変え、真の姿である女性、アリエルになった。
「まったく。今の君が一番素敵なんだからわざわざ偽りの姿を作らなくてもいいんだよ?」
「そんな……。でもライズがそう言ってくれるならとっても嬉しい!」
 目の前でいちゃつき始めた二人を見てギャラリーはもう何かとてもいたたまれない気分になった。
 ――傍目には女どうしだし
「で、ライズ? あたしらは何しにここまで来たのか覚えてる?」
 見るに見かねたリタがライズに本来の目的を思い出させる。
「あああ! うっかりしてた。アリエル、今回の魔法陣はどこ?」
「そこの七芒星のやつよ。」
「あ! これか。 では……解呪!」
 ライズが呪文を唱えると魔法陣が消え虹色の光がそこから広がり国中を元の姿に戻していく。
「ふう。これでいいか。」
 そういったライズの姿もいかにも勇者な青年の姿になった。
「ありがとう! ライズ。」
「そんな、君のためならどこへだって……」
 また二人の世界を作り始める二人。このままではらちが明かないので紀也は勇気を出して声をかける。
「あの……」
「あ! ごめんごめん。わすれてたこの人たちは……」
 ライズが思い出したように説明しようそしたが、
「知ってるわ。私は魔王とまで言われた魔術師よ。」
 どうやらライズたちの様子は魔法で見ていたらしい。
「ちょっと待ってね。今その頸飾りから解放してあげるから……」
 ブツブツと何かを唱えだしたアリエル。
「……今ここに、その鎖を打ち砕かん。封印解除!」
 パキっと音がして紀也がしていた首飾りについていた宝石にひびが入った。
「うくっ!」
 紀也は苦しそうにうずくまった。
「紀也!」
 マドカがあわてて紀也に近づく。
「マドカ? あれ? 私はどうしたの?」
 うずくまったまま紀也(?)が声を出す。
「え? 紀也……じゃない……?」
「何言ってるの? 私はマヤよ。決まってるじゃない。」
 さも当たり前のような声を出す。
「では紀也は……紀也はどうなったんですか?」
 マドカはあわてて尋ねる。
「ノリ…ヤ? なにそr……」
「僕はここにいるよ。」
 マヤが答える途中同じ声が遮った。
「「え?」」
 マドカとマヤの声がかぶさった。
 マヤの体が立ち上がる。
「な、なに? なんなの?っていうかさっきの誰?」
 マヤがあわてた声を出す。しかし……
「首飾りから!?」
 マドカが驚いて声を出す。
 実はマヤの声は首飾りから聞こえていたのだ。
「どうやら、封印は解けたみたいだけど体には戻らなかったみたいね。失敗しちゃった。」
 アリエルがその様子を見て舌を出している。
「あはははは。まったくいつもこうなんだからだめだよ。」
「うふふふふ。ごめ〜ん。」
 またもやライズとアリエルは二人の世界を展開している。
「あたしにはもう何が何だかわからないよ。」
 リタはもうまるなげのようだ。
 その世界を止められるほど元気がある人間はそこにはいなかった。


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